タイトル:Peaceful timeマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/27 23:36

●オープニング本文


●発散は運動で?
 二月の『ラスト・ホープ』は、戦場だった。
 といっても、バグアからの襲撃を受けた訳ではなく、戦うのは能力者同士。
 銃弾と鋼鉄の刃の代わりに、ハリセンのいい音や玩具のハンマーで相手を殴るピコピコ音が飛び交う。
「じーさん、あれ何やってるんだ?」
「こぉら、お前ら。じーさんじゃなく、ちゃんとチーフとか呼ぶっすよ」
 口さがない少年を、若い整備スタッフの一人がたしなめた。
 もっとも、注意したところで素直に聞き入れる相手ではなく。
 普段は仕事に厳しい彼らのチーフも、特に気にしていないらしい。
「能力者の、息抜きみたいなモンだ。たまには、発散もせんとな」
「ふ〜ん?」
 騒ぎを見物すらしない老チーフの説明に、少年は珍しそうに窓の外を見物する。

 バイトと称する五人の少年達が、格納庫にちょくちょく出入りするようになったのは最近の事だ。
 何でも能力者の身内で、『ラスト・ホープ』の学校に通っているという。といっても、ドラグーン達が通うカンパネラ学園ではなく、島に住む子供達が入学する普通の学校だ。
 ナイトフォーゲルに興味があるのか、元から機械いじりが好きなのか。彼らの保護者がチーフへ頼み込んで、整備部でバイトをする事になった‥‥らしい。もちろん、専門的な知識もない者に仕事を任せる事は出来ない為、バイトの内容も工具の整理や掃除といった雑用係だ。
 小遣いぐらいは自分達で稼ぎたいからという、少年達の殊勝な心がけには感心するが、如何せん態度がなっていない。
 折りを見て注意しようとしても、逆に彼の方がチーフに注意力散漫と怒鳴られるのがオチだった。
 どうやら老チーフにとって少年達の存在は、孫のようなモノらしい。
 ‥‥それはさて置き。

「アレだけ騒いで走り回る余裕があるなら、別の方面で発散すればいいと思うっすけど」
「そう思うなら、そう言ってやれ。息抜きも構わんが、たまには相棒を労わってやれってな」
「いいっすか!?」
 思わぬチーフの言葉に、若いスタッフ達は目を丸くする。
「女の子とか、来ないかな」
「義理でも、チョコとかもらえるといいなぁ」
 ひそひそと事務所の片隅で盛り上がる彼らもやはり、健全な一般男子であった。

「そういえば、コールから近いうちに来るって連絡があったよ」
 仕事の合間。イブンからの報告に、老チーフは「そうか」と一つ頷く。
「ひと月ぶりになるな」
「リヌは来ないのかなぁ」
「オッサン、相変わらず走り回ってるんじゃないか?」
 ちょっと寂しそうなエリコに、松葉杖を突きながらリックが笑った。
「来たくても、来れねぇだろ。普通の奴だと、ここに入れないんだから」
「そうだよな。俺らも、島から勝手に出れないし。島の中で不自由はないけど、不便な感じ」
 ぶっきらぼうに現実的な要因を答えるミシェルに、リックの鞄を持つニコラがぽしぽし髪を掻く。
「それよりお前達、バイトは構わんが勉強も怠るなよ。学校じゃあ、試験もあるんだろうが」
「うん、頑張るよ。それじゃあ」
 老チーフが釘を刺せば少年達は素直に答え、手を振って彼らの部屋へ帰っていった。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
イリス(gb1877
14歳・♀・DG

●リプレイ本文

●戦場の鋼と花
 広い空間は、独特の油と金属の匂いに満ちている。
 整備スタッフが忙しく立ち動き、エミタと並んで能力者の『相棒』とも言えるKVは、静かに出撃の時を待っていた。
「こうして見ると、KVもいろんな機体が増えましたね」
 ハンガーに並ぶ機体を眺める里見・さやか(ga0153)に、レーゲン・シュナイダー(ga4458)は大きく頷く。
「ええ。どの子も、とても魅力的です」
 そんな言葉を交わしながら、彼女らは事務所の扉へ手をかけた。
「こんにちは、初めまして!」
「皆さん、お疲れさまでーす」
 ぴょこんと不知火真琴(ga7201)が頭を下げ、シャロン・エイヴァリー(ga1843)が手を振れば、事務所にいたスタッフ達が慌てて会釈をする。
「ども」
「お疲れ様ですー」
 口々に返す整備スタッフ達に混ざり、少年達が一斉に声を上げた。
「あ、シャロンだ! それと‥‥」
「ロジーだよ、病院に迎えに来てくれた」
「あら、珍しい場所で会ったわね」
 予期せぬ顔ぶれにシャロンは驚き、自分の名を覚えていた少年達にロジー・ビィ(ga1031)が微笑む。
「本当に‥‥噂には聞いてましたけれど、皆も『ラスト・ホープ』に? 如何でして、此方は」
「ん〜と、もの凄く都会って感じ?」
「何だか、全然別の世界に来たみたいだよね」
 ニコラとエリコの感想にロジーはころころと笑い、それから一本の松葉杖をつくリックを見つめた。
「リック、足の具合は? 大丈夫ですの?」
「うん。もうすぐ骨の固定金具を取る手術をするって、医者が言ってた」
「そうでしたの。完全に治るまで、もう少しですわね」
「順調に良くなってるみたいね。よかった」
 元気に答えるリックにロジーがほっとし、シャロンもまた安堵の息をつく。
「そうそう、少し前にリヌさんと会ったわ。相変わらず元気そうよ」
「ホント?」
「オッサン、相変わらず煙草吸い過ぎてない?」
 シャロンの『報告』に、少年達は次々と質問を重ねる。
「こんな所で立ち話をせず、話すなら中に入れ。それから先に来たお仲間は、もう機体を見とるぞ」
 背後からのしわがれた声に振り返れば、最年長らしきスタッフが入り口に近くに立つ者達へ嘆息した。
「チーフさん、お久し振りです」
「今日は、お世話になるわ。これは手土産代わりに‥‥今回集まった、女性メンバー一同から」
 挨拶をするシャロンに続き、鯨井昼寝(ga0488)が一抱えもある大きな白い紙袋を近くのテーブルへ置く。
「もしかすると、アレ?」
「やばい、チーフが睨んでるっす」
 若いスタッフ達は色めき立つが、上司の視線に口を閉じた。
「ちょうどバレンタインだから、日頃のお礼も兼ねてね」
「気遣い、すまんのう。若い連中は、外の騒動が気になるようでな」
 渋い口調の老チーフに、レーゲンはくすりと笑い。
「疲れた時には、甘い物が欲しくなりますしね」
「そっちなんです?」
 反射的に、真琴がレーゲンへ突っ込む。
「よければ、休憩時間にお茶にするわね」
 提案するシャロンへ、責任者は「好きにするがいい」と頷いた。
「気を取られて下手な仕事をされては、あんたらに迷惑がかかるからな」

●狂想曲の内と外
「あ、来た来た。皆、遅いよ〜! 何してたの?」
 格納庫を横切ってくる仲間達を見つけて、イリス(gb1877)が大きく手を振る。
「人間関係を円滑に動かすには、多少の潤滑油も必要なのよ」
 腰に手を当てて胸を張り、ふふりと昼寝はイリスへ意味深に笑った。
「協力し合う部署同士、お付き合いは大切ですよね」
「ふ〜ん?」
 それなりに社会経験を積んでいそうなさやかの言葉に、イリスが小首を傾げる。
 六人がイリスより遅れた理由は、協力して差し入れのチョコレートケーキを作っていた為だ。
 シャロンが発案し、真琴が話を膨らませたプランは、レーゲンが現場の指揮を取り。さやかと昼寝も協力して五人で作り上げたケーキへ、ロジーが最終的なデコレーションを施すという、ある種の壮大な『共同作品』となった。
 そして、最も安全に運べそうな昼寝がケーキを持つ事になったという、些細な裏話。
「じゃあ、私は食べる係だね」
 役割分担を聞き、ほんのり呟くイリス。
 そんな彼女の傍らに止められたバイクを、シャロンは興味津々で覗き込む。
「これが、ミカエルかぁ‥‥私、初めて見るわ」
 アーマー形態では騎士の甲冑のようなフォルムを持つAU−KVは、かのカプロイア社が開発したものだ。
「こうして見ると、バイクとしても素敵よね。イリスが大事にしてるの、凄く判るわ」
「うん。一緒に戦ってる、『相棒』だしね」
 得意げに、イリスは座席シートをぽんと軽く叩き。
「準備、出来ましたよーっ」
「ありがとうございます!」
 整備スタッフの呼びかけに、さやかが答える。
「また後で、変形した姿とか見せてもらっていいかしら」
「もちろん!」
 遠慮がちにシャロンが尋ねれば、嬉しそうにイリスは大きく首を縦に振った。

「騒がしいな‥‥何か、あったのか?」
 格納庫の微妙な空気の変化に気付いた武藤 煉(gb1042)は手を止め、近くを通りがかった整備スタッフへ声をかけた。
「ええ。いま残りの能力者の方が来て、何でも差し入れを持ってきてくれたとかで。休憩時間に振舞ってくれるそうです。それで皆、張り切ってるんですよ」
「あ〜‥‥なるほど。俺はまた、中止だのナンだのの連中でも乱入して来たのかと思ったぜ。ありがとな、邪魔した」
 呼び止めた事を詫びればスタッフは軽く頭を下げ、自分の仕事へ向かう。
 残った煉は、やれやれと左右に首を振った。
 彼自身は、大々的にやっている『バレンタイン騒動』にあまり興味がない。
 単に面倒だからか、それともある種の『余裕』なのかはさて置いて。彼にとってはお祭り騒ぎ以上の大きな課題を抱えているのが、その最たる理由だ。
「小隊長、か‥‥」
 何となく呟き、シュテルンを見上げる。
 自然と目に、機体へ描かれた小隊エンブレムが飛び込んできた。
 白と黒、二頭の獣の足元には、Arc−Turusと綴られている。
 それが、彼の率いる小隊の名。
「‥‥よし、やるか」
 ぱんと軽く両頬を手で叩き、煉は自分に気合を入れた。

●翼の休息
「ロジーのと真琴のと、三機並ぶと壮観ねー♪」
「こんな機会、あまりないですしね」
「ナイチンゲール三機‥‥ふふッ、なかなか無い光景ですわね☆」
 シャロンと真琴、そしてロジーの三人は、仲良く肩を並べて満足そうだった。
 三人の前には、搭乗者達と同じ様に三機のナイチンゲールが並んでいる。
 奇しくも、同じ機体に乗る三人が揃ったこのチャンスに、ちょっとした『野望』を達成したのだ
「ナイチンゲール乗りって、何気に見かけないですけど‥‥ナイチンゲール、可愛いし、バランスも良くて、いい機体だと思うんですけどねぇ」
 青い瞳をくるくると動かし、真琴は嬉しそうに様々な角度から三機のナイチンゲールを眺めて回り。
「あ、多少、装備スペースが少ないという『か弱い点』については、愛でカバーです」
 振り返ってウィンクする真琴に、シャロンはくすりと微笑む。
「では、頑張って‥‥私達のナイチンゲールを、磨きましょうか」
「負けませんわよ。ピッカピカにしましょうね、エトワール!」
 ロジーもまた愛機へ呼びかけ、三人は自分の機体の整備に取り掛かった。

「ふんふふ〜ん♪」
 長い黒髪を後ろで束ねたさやかは、歌を口ずさみながら熱心にウーフーをクロスで磨いていた。
「世界でも類を見ないほど綺麗好きな海軍、海上自衛隊の元隊員として、ぴっかぴかに磨き上げちゃいますよ」
「そうなの?」
 ふつふつと楽しそうなさやかに、昼寝が素朴な疑問を投げる。
「はい。でも‥‥その前に、金属磨き用の液が欲しいところですね。あれ使うと、ホントぴっかぴかになるんですよ、金属が。海上自衛官の必需品です」
「それはさすがに、どうかしらね。日本のUPCになら、あるかもしれないけど」
「ですよね。さすがに取りに行く事はできませんし」
 少し残念そうにさやかは笑って肩を竦め、昼寝の機体へ目を向けた。
「その機体は、KF−14でしたっけ? 水中機、ですよね」
「ええ。バージョンアップして、改になってるけど」
 青と白のカラーリングがされた特徴ある機体は、幸運な者が手にできた非量産機だ。
「空陸用のKVは、まだ良いわ。水中用は油やなんやらで、すぐに汚くなるのが難点なのよね」
 昼寝は機体磨きに専念する気らしく、ヘルメットにジャージというやる気まんまんのスタイルで臨んでいた。
「そうですね。整備の人達は、万全を尽くしてくれますけど」
「その辺りは、本当に有難いわ。リスクがあって手間がかかるけど、その分こういう機会になると、手をかける意欲も湧くのよね」
 専用のワックスやコーティング剤を手に、昼寝は不敵に腕まくりをする。
「ウーフーは電子戦機だからソフトの面でも大変そうだけど、お互い頑張りましょう」
「はい。特にジャミング装置の整備は、電子戦機たるウーフーの要ですしね。調整にはスタッフの手が必要ですけど、磨きでは負けませんよ」
 昼寝の意気込みへ対抗意識を燃やすかの如く、さやかもまた機体を磨く作業に再び意識を集中した。

「AU−KVはその形状からバイクと同等と考えがちですが、技術的にはKVと変わりません。それを忘れると、面倒な事になります」
「つまり、どゆ事?」
 愛機の隣で話を聞いていたイリスが、きょとんとして紫の瞳を瞬かせる。
「あのKVが圧縮されたモノと言えば、判りますかね? 大きく複雑な機械を小型化するには、物凄い精密さと技術が必要な事は?」
「何も知らずに分解したりすると、後が大変って事?」
「簡単に言えば、そういう事になります」
「ふ〜ん‥‥じゃあ私でも出来るメンテナンス、詳しく教えてくれる?」
 単刀直入に聞くイリスに、若いスタッフは一も二もなく頷く。
「もちろん。状況によっては、専門家がいない場合もありますからね」
「ありがと! じゃあ、何から始める?」
 ドライバーやオイルを手に、わきわきしながらイリスが尋ねた。

「何か、足らないものとかねぇか? 作業用の、手袋とか」
 ぶっきらぼうな問いに、レーゲンは手を止める。
 ディアブロから落ちないように下を覗けば、口の悪い年長の少年が作業用の資材を積んだワゴンを止めて、機体を見上げていた。
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「‥‥指、怪我しても知らねぇから」
 言われて、自分の手にレーゲンは視線を移す。
 コクピット内を掃除する時も、機体を磨く時も、彼女はあえて手袋などせず素手で作業に勤しんでいた。
「大丈夫です。気合と、愛を込めてますので」
「じゃあ、いいけどさ」
「ミシェル! あっちはオイルとか、足りてるって!」
 レーゲンへ少年が答えていると、最年少の少年が友人へ走ってくる。
「あっ。もし手が空いていたらライヒアルトの点検のお手伝い、頼んでもいいですかっ?」
「ライ、ヒ‥‥?」
「ライヒアルト、この子の名前です☆ これから関節稼動部などのデリケートな箇所を、整備の方と点検するんですよ。私も整備士の資格が欲しいので、勉強も兼ねて」
「どうしよう、ミシェル?」
「俺達だと、大した手伝いにならねぇけど」
「そんな事ないですわ。ぜひ、お願いします。機械弄りがお好きなら」
 レーゲンの誘いにミシェルは不承不承に頷き、エリコはスタッフを呼びに走っていった。

「随分ピーキーな調整になってるっすけど、いいっすか?」
「ああ。これでいいぜ」
 煉の返答に整備スタッフは強く否定も肯定もせず、要望通りの調整を施す。
 能力者にも各々の得意とする戦闘のスタイルがあり、整備はそれに合わせる形で行われた。度を越えて無謀でない限り、彼らから方針の強要は特になく。
 煉の注文は、特攻と一撃の威力に重点を置いた攻撃手法だった。
「特攻っつっても、ホントに特攻しないで下さいっすよ」
 苦笑して、調整を終えた整備スタッフはシュテルンから離れる。それを見送った煉は、興味深そうにKVを見る二人の少年と目があった。
「ん? どした。KVに興味があるなら、ちょっと乗ってみっか?」
 突然の誘いに、松葉杖の少年ともう一人の少年は、戸惑ったように顔を見合せる。
「にひひ、遠慮するなって。こんな機会、あんまりねぇだろ。いいよな?」
 声を張り上げて問いかければ、スタッフは「単に変形くらいなら」と返した。

「うわぁぁ‥‥」
 高くなる視界に、補助座席でリックが歓声を上げる。
 歩行形態でのコクピットの高さは人型の腰部に当たるが、未体験の者には新鮮な高さだ。
「どうだ?」
「うん、凄いなぁ‥‥あ、コールだ!」
 感想を聞く煉にリックは興奮気味に答え、次いで保護者を見つけて声をあげた。

●甘い交流
「コール、お久し振りですわ!」
「もしかして、今日は機体整備に?」
 再開を喜ぶロジーに続いて、シャロンが用向きを尋ねる。
「いや、今日は機体貸与の手続きだ。先日の『模擬戦』の結果も鑑みてな」
 答えるコール・ウォーロックに、「ああ」とさやかが手を打った。
「ミュレの時の、アレですか」
「アレって、何です?」
「えぇとですね」
 フォークを咥えて首を傾げる真琴に、彼女の隣でケーキを食べながらレーゲンは手短にミュレでの模擬戦を話す。
「参考になったなら、よかったです。可愛がって下さい」
「常にベストを維持しておくから、何かあったら声かけてね」
 にっこりと笑むレーゲンに続いて、シャロンもまた片目を瞑ってみせた。

 能力者と整備スタッフが囲む机には、昼寝とロジーが持参したピンクと赤いバラが飾られ、文字通り花を添えていた。
 シャロンは煉と少年達もお茶に誘い、前衛芸術的なデコレーションの大きなケーキを切り分ける。
「美味いっすよ、コレ」
「うんうん」
「お口に合って、良かったです」
 口々に喜ぶスタッフ達に、ほっとレーゲンは胸を撫で下ろした。
「そう、皆は試験が近いんだ。じゃあ、私から問題。いい?」
 少年達と話をしていた昼寝からのいきなりなフリに、少年のみならず煉まで息を飲んで続きを待つ。
「ロケットは、何故飛ぶのか? ロケットを作る勉強をしているんだから、これくらい判るよね」
「そりゃあ、ロケットエンジンを積んでるからじゃね?」
「えっと、推進剤を燃やして、そのエネルギーで‥‥」
「違う、全っ然ちがーう!」
 煉や少年達の答えを遮って、彼女は大きく首を横に振った。
「答えは、気合が入っているから。コレに尽きるわ」
「えーっ!」
 回答者と聞いていた者達は呆気にとられ、イリスは笑いをかみ殺す。
「ちょっと待て、それは理不尽じゃね?」
「宇宙まで届くパワーの源は、『俺は飛んでやるぜ』という意志の力に他ならないわ。つまり気合さえあれば、何でも出来るのよっ!」
 煉の反論を一蹴して、昼寝は持論を展開し。
 少年達のような悪戯っぽい笑みと共に、得意げにチョコレートケーキを頬張った。