タイトル:Corsica−希望の墓場マスター:風華弓弦

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/23 04:37

●オープニング本文


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●Citadel Buster
 成層圏プラットフォーム・プロジェクトの研究施設には、ナイトフォーゲルが上空から撮影した写真が施設内のあちこちに広げられていた。
「偵察の段階では、コルシカ北部において大規模な町の破壊や住民への虐殺行為などは起きていないと推測されるそうだ。もっとも、大作戦の際に生じた思われる被害もまた、そのまま放置されているのであるがな」
 回転式の椅子を逆さまに座り、背もたれに顎をのせたティラン・フリーデンが足で床を蹴ってぐりんぐりん回る。
「て事は、どういう事?」
 一枚の写真を上下逆にしたりひっくり返したりしていたドナートが、とりあえず『責任者』へ聞いてみた。
「ごく自然に考えるならば、連中はそういう方面への関心が薄い。という事に、なるであろうな。もっとも、相手側の中の人は人ではない故に、人と同じ裁量で図ってよいものかどうかは謎であるが」
「中の人‥‥って表現は、ちょっとイヤかも」
 某SFの異星生物の如く、頭がパックリ割れてモンスターが「シギャー!」と飛び出してくるモノを連想して、ドナートはややげんなりと肩を落とす。
「それで、UPCの方は何か言っていたのか?」
 散らばった写真を集め、向きを整えながらチェザーレがティランへ尋ねた。
「軍需産業でもなく、民間の、しかも個人の酔狂みたいなもんで進めているプロジェクトとしては、正直これ以上の『手出し』は難しいだろう」
「そうなのであるよ」
 大きく溜め息を吐いて、ティランはぽしぽしと癖のある髪を掻く。
「戦術家でも、戦略家でもない身としては、正直いかなる手を打つべきか判らんのがなぁ」
「確かに、私達で出来る事には限界がありますしね。『本業』の方々に任せた方がいいとは、思いますけれど」
 チェザーレが作ったスペースへ、アイネイアスは紅茶のカップを置いた。
「それでUPCの見解は、何だって?」
 カップへ手を伸ばしながら、ドナートがティランへ尋ねる。

 コルシカ島より回収された無線局の残骸を調べた結果、精度の高いデジタルカメラが発見されていた。
 記憶媒体から抜き出した無事な画像データを彼らはUPCへ提出し、あわせて今後のコルシカ島に対する方策について仰いだのだが。

「前回の無線局回収時よりワームの出現が早まっている事から、これ以上のナイトフォーゲル運用はリスクがある‥‥という話が、出ているのであるよ。
 ただ個人としては『なるほど、そうであるか』と退く事は、非常に不本意である。そして今はロシアで大作戦が起きている最中である為、相手側の戦力がそちらへ回されている可能性も高い。
 もっとも、それはこちらも同じであるがな」
 椅子を鳴らしてティランは急に立ち上がると、広げた写真をかき分けてコルシカの地図を引っ張り出した。
「ともあれ、何らかの足がかりを作るならば、おそらく守りが手薄となるこの時期に手を打たねばなるまい‥‥という結論に至ったのであるよ」
「だけど、こないだの写真だとカルヴィの空港は破壊されるよね? バグアの基地とか兵力とか判ってないし、島の人達も反抗する意思表明はしてないみたいだし。外から中の動きは判らないし、どこからどうアプローチして、どうすれば‥‥現状の打開に繋げられるんだろう」
 地図を覗き込むドナートが、紅茶をすすりながら眉をひそめる。
「こちらから楔(くさび)を打つのであれば、イタリアに近い北東の半島カップ・コルス。もしくは、住民が『篭城』しやすい中部のコルテ。どちらかが、好ましくあると思えるのだが」
 地図の二箇所へ、ティランはマーカーの代わりに手回し式のオルゴールを置いた。
 コルシカ島の北東、島から突き出た細長い半島部分をカップ・コルスと呼ぶ。半島の付け根の東側にパスティア、西側にサンフロランが位置する。
「攻撃、してもらうのか?」
 やや怪訝そうなチェザーレが、腕組みをして唸った。
「必要とあらば‥‥我々がコルシカを見捨てた訳ではないというパフォーマンスを兼ねて、可能な限り被害の出ぬ形でな。住民が動かぬのか動けぬのか、この先に為にも見定めねばなるまいて。
 特にカップ・コルスならば、リグリア海の上空に成層圏プラットフォームを誘導し、連絡をつける事も不可能ではなかろう。先方のジャミングによっては、通信不可の確率も高くはあるが」
「海上の気象データを送ってもらうよう、イタリアへ手配しておきますね」
 カップを持ったまま、心得た風のアイネイアスは自分の椅子へ戻る。
「使うかどうかは判らないが、アレも用意しておくか? 打上式の中継局」
 チェザーレの問いにティランはぐるりと目を動かした末、頷いた。
「よかろう。運用テストの一環となるかどうかは、不明であるがな」

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN

●リプレイ本文

●三度の飛翔
 ジェノバに近い空港は、緊迫した空気に満ちていた。
「そろそろ、時間ですが‥‥遅いですね」
 待機するKVの傍らで、フォル=アヴィン(ga6258)が腕時計を確認する。
 早朝を狙った先の『作戦』と違い、今回は昼間に作戦を開始し、短い時間内で終わらせねばならない。
「もしかして、道に迷ってるとか?」
 心配そうな潮彩 ろまん(ga3425)が伸び上がる様に辺りを見回せば、足早にやってくる男の姿が目に入る。
「チェザーレさん、こっち!」
「遅くなって申し訳ない」
 手を振るろまんに、成層圏プラットフォーム・プロジェクトに関わるスペイン人が謝罪した。
「大丈夫です、まだ時間はありますから。で、そちらが例の?」
「ああ。ティランから預かってきた」
 台車を押すチェザーレへ飯島 修司(ga7951)が尋ねれば、相手は台車に詰んだ段ボール箱を開ける。
「これが、打上式の無線中継局でありますか」
 発射装置と打ち上げられる中継局が一体となったソレを、珍しそうに稲葉 徹二(ga0163)が取り上げた。使い捨て簡易中継局は、プロジェクトの一環で出来た産物だという。
「必ず、島の人へ届けましょう。先日は大変ご迷惑をおかけしましたので、自分も汚名挽回しなければ」
「汚名は挽回しちゃダメだよ〜っ。はい、リラックスして深呼吸!」
 徹二の緊張を和らげるように、笑顔でろまんが背中をぺしぺし叩き。
「そうでありました。名誉挽回、汚名返上‥‥であります」
 同世代の少女の気遣いに苦笑し、気合いを入れる様に徹二は帽子を被り直した。
「あと、頼まれたコピーだ」
 鞄を探ったチェザーレは白い封筒を取り出し、脇から箱を覗くアグレアーブル(ga0095)へ差し出す。封緘されていない封筒の中身を読まなくても、その内容を彼女は知っているが、一枚の紙をそっと開いた。
「それが、発端となった手紙のコピーか」
 彼女の様子を見ていた霧島 亜夜(ga3511)の質問に、文面から目を離さずアグレアーブルは小さく頷く。確かめるように文字を指でなぞる彼女は、ふと思い出した様に顔を上げた。
「例のマニュアルは‥‥」
「それなら、これだ。フランス語版だったな」
 薄い数枚の紙を渡すチェザーレに、随分と伸びた髪をアグレアーブルが揺らす。中継局は誰でも使える事を前提に設計されたらしく、打上げ手順や使い方もシンプルだ。
「ひとつ、持ち帰れなくても?」
「構わない。元々、使い捨てを前提とした物だからな。多めに用意したから、自由に使ってくれ」
「ありがとうございます。助かります」
 礼を告げて、フォルも小型の中継局を手にしてみた。
 思ったよりずしりと重いが、能力者なら持ち歩ける重量だ。
「こちらの準備は完了だ、お嬢さん達。魅惑のコルシカ島への旅と、いこうか」
 アグレアーブル、ろまんと共にコルテへ向かうUNKNOWN(ga4276)が、同行者へ声をかける。愛機の傍らでコンテナの装着作業を見守っていたソード(ga6675)もまた、仲間へ駆け寄ってきた。
「コンテナへの物資の積み込みも、ほぼ終わったそうです」
「ありがとう、ソードさん。では念の為、今回の『フライトプラン』の最終確認をしますか」
『依頼』の関係者であるチェザーレへの説明を兼ねて、修司が地図を広げる。
「ここジェノバを発った後、まずはコルテへ直行します。
 コルテ潜入班のアグレアーブルさんとろまんさん、UNKNOWNさんは地上へ降下。
 残る五人のうち、物資のコンテナを搭載した者は投下し、迎撃に出てくるであろうHWと交戦しながらアジャクシオへ移動。戦闘の合間に周辺の偵察を行い、残っているコンテナはここで投下ですな。
 その後は西へ離脱して海上でHWを振り切り、反転してアジャクシオの北にあるガレリアへ。そこから潜入班と合流する為に、再び島の上空へ侵入します。無事に合流できれば北西へ転進し、カルヴィ方面からマルセイユかトゥーロンへ帰還。
 潜入班のコルテ滞在は二時間を目安とし、偵察とコンテナを投下する組はそれを基準に行動。
 以上で、よろしいですかな?」
 一同を見回す修司に、仲間達は緊張した表情で首肯した。
「では、ここで君達の帰還を待っているよ。ティラン達も、結果が気になるだろうしな」
「うん。島の人とちゃんと話をして、帰ってくるから!」
 チェザーレにろまんが握り拳で気合いを入れ、地上へ降りる者達にフォルは申し訳なさそうな顔をする。
「前回といい、自分で言い出しておいて、人に危険な事をさせまくりですね‥‥二人とも気をつけて。二人を頼みます、UNKNOWNさん」
「勿論だ」
 UNKNOWNが帽子に軽く手をやり、アグレアーブルも首を横に振ってフォルに答えた。
 そして彼女は感慨深げに、南の空を仰ぐ。
「――やっと、コルシカの人に会えますから‥‥」
「コルシカに飛ぶのも通しで三回目って事で、敵も警戒して少し大変かもしれないが。気負わずに、俺達ができる事をしっかりやろうぜ!」
 緊張をまとう仲間へ、亜夜が鼓舞する言葉をかけ。
 人々が見守る中、七機のKVはジェノバを後にした。

●再びの空
『新たに敵影を捕捉、接近中だ』
 レーダーが接近する機体を捉え、ウーフーのコクピットから亜夜が仲間へ警告を発した。
『まだ来るのか』
『現在位置は、攻撃を仕掛けてくる距離ではないけどな』
 小さな徹二の舌打ちを聞きながら、亜夜は『増援』の動きを監視する。
『にしても、少し奇妙な感じがしますね』
 微妙な違和感を感じ、雷電のコクピットでフォルが眉根を寄せた。
『前の時は領空から追い払うどころか、撃墜する気満々といった感じでしたけど』
『発見してもすぐに仕掛ける気配がないという事は、こちらの様子を窺っているのでしょうか』
 フォルと飛ぶ徹二は、警戒しながら僚機との位置に気を払う。
 ろまんが同乗するアグレアーブル機ウーフーとUNKNOWN機K−111改は、情報を得る為に既に地上へ降下した。ロッテを組むソード機シュテルンと修司機ディアブロも高度を下げて、幾つかの候補から物資を投下するポイントを探る。
 コンテナ投下候補のピックアップを含め、司令塔的に彼らのフォローをする亜夜は、先の任務で負った傷をおしての出撃となった。フォル機雷電と徹二機ナイチンゲールが亜夜機ウーフーのカバーにあたりながら、HWを退ける算段だ。
『警戒しているのか、波状攻撃でこちらの消耗を狙っているか。いずれにせよ、向こうの意図がわからない以上、警戒を続けるしかありませんね』
『そういう事だな‥‥くるぞ。数は2』
 敵の動きが変化すれば、すぐさま亜夜が伝える。
『判りました。こちらはこれより、コンテナを切り離します。邪魔が入らない様、援護をよろしく』
 様々な物資を積んだコンテナの投下位置に、目星がついたのか。
 低空で旋回していたシュテルンから、ソードが行動に移る旨を知らせた。
『了解。無事に届けてくれ』
 仲間に所作は見えないが、頷いて亜夜は後を託す。
 フォルのコンテナはコルテへ飛ぶ途中、サンフロラン上空で切り落とした。
 ここコルテでソードと修司がコンテナを投下すれば、残りは二つ。
『お前達に、邪魔をさせるかっ』
 目視でも捉えたHWに、徹二はナイチンゲールの操縦桿を傾ける。
 戦闘は、可能な限り町の上空を避けつつ。
 だが願わくば、彼らを助けようとする者の存在に、島民達が気付くよう。
 8.8cm高分子レーザーライフルが、一条の光を放った。

 大きな白いパラシュートが四つ、青い空に開く。
 コンテナの両端に付けられた傘が無事な事を確認すると、ソードは短く安堵の息を吐いた。
『安心するのは早いですな。まだ、アジャクシオが残っています』
 届いた修司の声に、微かな苦笑を浮かべるソード。
『そうですね。無事に物資が住民の方々へ渡って、生活が少しでも楽になるといいのですが‥‥』
 彼は『希望』を詰めた二つのコンテナから視線を外し、シュテルンの機首を上げた。
 降下しなかった三機のKVが空域からHWを排除し、安全を確保しながら彼らの離脱を待っている。
『支援をこちらのメッセージと読み取ってくれる事を、願うのみでありますな。そういえば、ワームの動きが以前と違うような事を、亜夜さんとフォルさんが話していましたが』
『はい。ここはまだバグアの影響が強い場所ですから、用心に越した事はありませんけど‥‥気になりますね。潜入班の人達と無事に合流出来る事を、祈るのみですが』
 修司の懸念にソードはちらと地上へ目をやるが、眼下の風景は既に遠く。
 仲間と合流したKVは進路を遮るHWを駆逐しながら、速やかにコルテ上空を離れた。

   ○

 アジャクシオはコルシカ島最大の街であり、コルス地域圏の首府だ。
 海へ向けて港が開かれ、高台には幾つかの高層ビルが立ち並ぶが、過去の戦闘で幾つか破壊されたのか、今も残骸を晒している。
 港も数える程度の船が波に漂っているだけで、コルシカの『玄関口』は閑散としていた。
 その上空を、二機編隊で飛ぶKVと変則的に移動するHWが交錯する。
『さすがに、「抵抗」が激しいですな』
 ワームが放つ光線を回避しながら、喉の奥で修司は呻いた。
 亜夜と協力して高度を下げる機会を探っているが、飛び交うHWがその隙を与えず。
『仮にも首府だ。バグアが要所にしているのかもしれない』
『霧島さん、写真はどうです?』
 情況から推論を立てる亜夜へ、徹二が尋ねた。
 一定の高度をとるウーフーを中心に、雷電とナイチンゲールが互いをカバーしながら飛ぶ。
『撮影はしているが、この高度とスピードだからな』
『一気に蹴散らして、時間を作りますか』
 芳しくない亜夜の返事にソードが提案すれば、誰もが最善を思案しているのか通信に幾らかのブランクが生じた。
『そうだな。更に増援がくる可能性もあるし、コルテも気になる』
『長丁場になっていますから、練力と燃料の残量に気をつけて下さい』
 判断を下した亜夜に続く修司からの助言に、『了解』とソードは短く返す。
『俺もK−02の一斉射撃に合わせますね。地上へのメッセージとなるよう、派手にアピールしましょう』
『勿論です、フォルさん。PRMシステム、起動確認』
 シュテルン特有の十二翼と推力可変ノズルがスライドして、作戦に最も有効な位置を取り。
『「レギオンバスター」、発射します!』
 ソードの宣言と共に、K−02小型ホーミングミサイルを一斉に射出する。
 標的を目指し、ミサイルは競うように乱れ飛び。
 直後、更に新たなる群れが先陣の後を追う。
 容赦なくHWへ叩きつけられる、総数1000のミサイルの雨。
 恐るべき弾幕の嵐が過ぎ去ったと、思いきや。
 幸運にも間隙をぬって残ったHWへ向け、雷電が次なるK−02、250発を解き放った。
 青空の随所で爆煙が広がり、その狭間でミサイルが白煙を描く様は、地上から見ても空から見ても壮絶かつ圧巻で。
 煙が薄れた後は五機のKVのみが悠然と空を舞い、高度を下げ始めた。
 減速しながらKVはアジャクシオ上空を何度か旋回し、郊外に残るコンテナを投下する。
 正常にパラシュートが開くのを見届けた彼らは、西へと進路を変え。
 バグアの増援が到着する前に、青空の彼方へ飛び去った。

●短い邂逅
 ジェノバで借りた擬装用ネットを張り、木々の影で停止したK−111改のコクピットで、UNKNOWNは懐中時計の針を確かめた。
 周囲を見れば、同じ様にネットで擬装したウーフーが目に入る。
 静寂に包まれた山間の町は、まだ冬の気配が濃く。
 双眼鏡を手に、冷たい空気へUNKNOWNは紫煙を吐いた。

 テーブルには紅茶や緑茶のカップとコピーした手紙、そして無線中継局が並んでいる。
「じゃあ、大学もずっとお休みなんだ」
 ちんまりと椅子に座ったろまんの質問に、大学の講師だという中年男が頷いた。
「今は誰も、何かを学ぶ余裕すらないからな。自分と家族の生活だけで、精一杯だ」
 どこか疲れた風な講師に、椅子を鳴らしてアグレアーブルは立ち上がり。
「何が、コルシカの救いになるのか‥‥共に、考えて頂けますか?」
 テーブルの向こうの相手に身を乗り出して、いつになく真剣な瞳で訴える。
 手紙の傍らへ置いた手は、微かに震えていた。
「アグさん」
 心配顔のろまんに上着の裾を引かれ、物言いたげな彼女は腰を降ろす。
「そういえば前に来た時、武装した人が列車に沢山乗ってたのを、ボクの友達が見たんだけど」
「ああ、北部の人達だな。彼らは君達を探しに来たんだ。君達がいた痕跡を見つけられず、手ぶらで引き上げたようだが」
「北部の‥‥」
 浮かない表情をしたアグレアーブルに、講師が一つ頷いた。
「彼らが駆り出されたという事は、どうやら北部沿岸は中部や南部より人が残っているらしい」
「その人達って、宇宙人の手先?」
「そうとも言えるが、好きでなった訳ではない。制圧された側に出来る選択は、いつも限られていてね」
「そこに、立ち上がるという選択は?」
 問いを重ねる少女達へ、困った顔の中年男は頭を掻く。
「正直に言えば、中部では難しいだろう。ジェノバに抗ったコルシカ革命とは、全く状況が違うからな。仮に立ち上がっても、キメラやワームを送り込めば終わり。今も中部が放置されているのは、相手が脅威を感じていない証拠じゃないか?」
「じゃあ、どうしたらいいんだろ」
 表情を曇らせるろまんに講師が考え込み、壁に貼ったコルシカの地図へ目をやる。
「戦略的に考えるなら、君達が支援しやすい場所。人類側の勢力に近く、連中の警戒が薄い‥‥」
『二人とも、聞こえるか?』
 男の言葉を、通信機からの呼びかけが遮った。
「UNKNOWNさん、まだ時間じゃないよ?」
『だが、邪魔が入りそうだ。武装した者が十数名、駅から真っ直ぐこちらへ向かっている』
 UNKNOWNの知らせに、少女二人だけでなく男の表情も強張る。
「裏手から行きなさい。木々の陰を行けば、おそらくやり過ごせる‥‥君達を探す彼らも、コルシなんだ」
 促す様に男がキッチンの扉を開き、少女達は顔を見合わせた。

 身を隠しながら二人はKVへ戻ると、すぐさま脱出の準備にかかる。
 離陸し、旋回した一瞬、彼女らがいた小屋を取り囲む複数の人物と、連行される講師の姿が見えた。
『待ち伏せか。女性なら歓迎なんだが』
 UNKNOWNの声に視線を移せば、離陸を待っていた様に次々とHWが姿を現し、二機のKVを包囲する。
「強行突破、する? 出来るかな」
「‥‥いえ」
 後ろの簡易席からろまんが心配そうに聞くと、アグレアーブルは僅かに首を横に振り。
『皆、無事か!』
 直後、通信機が亜夜の声を伝えた。
「無事ですが、何故‥‥?」
『HWの動きが気になって、警戒も兼ねて早めに来たんだ。どうやら、正解だったようだな』
『では、突破します』
 修司機ディアブロからK−02がばら撒かれ、爆発と共にワームの包囲網が破られる。
 五機のKVと合流したウーフーとK−111改は、速度を上げ。
 後ろ髪を引かれながらも、コルテ上空を後にした。