タイトル:Formant volマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/10 23:56

●オープニング本文


●ブランク
 フランス南部に位置する、城砦都市カルカッソンヌ。
 その郊外にあるブラッスリ『アルシュ』は、競合地域下での反バグアのレジスタンス活動を支援する民間組織『ブクリエ』の拠点も兼ね、情勢が不安定な現在は開店休業となっている。
 開店休業ではあるが、店主で『ブクリエ』のリーダーでもあるコール・ウォーロックの顔見知りや『ブクリエ』のメンバーは、関係なく足を運んでいた。
「それで、ミュレの復興作業は進んでるのか?」
 カウンターでワインのグラスを傾ける中年の男に、コールが料理の皿を置きながら尋ねる。
「それが、なかなかな‥‥キメラが踏んで行った道路の修復は終わったが、町の中心部は損壊が酷くて手が付けられない状態だ」
「むしろ手を回す余裕もないってのが、正確なところだろう」
「まぁな。上の方では、ULTに傭兵の派遣を要請するか検討中だ。ナイトフォーゲルなら瓦礫の撤去も重機と比べて難しくないし、過去に事例もあるからな。見返りとして、何らかの非公式な『演習』を行う事も認める方向だそうだ。現状ではミュレは無人になっているから、多少暴れても問題ないというか‥‥むしろ、ある程度ぶっ壊してくれた方が、後の作業が楽というか」
「そんなに酷いのか」
「町自体は高層建築物も少ない為に、当初の見込みでは作業が早いと思われていたが‥‥聞いた話では、倒壊した家が熱と酸でぐちゃぐちゃらしい」
 そんな話をしながらも、UPC軍の制服を着た男はナイフとフォークを休まず動かしていた。
「話が正式なものになったら、お前も参加したらどうだ? どうせコッチ側の作業監督者は必要だし、お前なら浅くない縁がある。それにお前だって、早くブランクを埋めてナイトフォーゲルが手足になる程度にはならんと。それにS−01はいい機体だが、選択と戦略の幅も広げるべきじゃないか」
「整備の方は、向こうのスタッフのお陰で万全なんだが‥‥どうも、ああいう機械は」
 苦笑しながら、コールは空になった皿を下げる。
「下手に死なれると、コッチも困るからな。ミディ=ピレネーからラングドック=ルシヨンにかけての緊張は、徐々に高まっている。即座に動ける能力者が一人でもいれば、心強い」
「モノは言い様だな」
「ナンとでも言え」
 さらりと流して食事を続ける男に、コールは嘆息してデザートを出した。

「じゃあ、またな。ご馳走様」
「次に来る時は、もう少しいい話を持ってきてくれ」
 食事を終えた男は、からからと笑いながら店を出る。
 すぐにエンジン音がして、ヘッドランプの光が窓から差し込んだ。
「リハビリに、選択と戦略か‥‥」
 遠ざかる車の音を聞きながらコールは煙草に火を点け、天井へ向けて煙を吐く。
 UPC本部へミュレ復興作業への傭兵派遣要請が届いたのは、それからほどなくしての事だった。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
アーサー・L・ミスリル(gb4072
25歳・♂・FT

●リプレイ本文

●昨日の友は
 傾いた壁を背にして、その陰に機体を潜ませた。
 緊張に少し汗がにじむ手で、操縦桿を握り直す。
『初めての陸上戦闘‥‥どきどきしますね』
 自分を落ち着かせるように、里見・さやか(ga0153)は小さく呟いた。
『数の上では若干不利ですが、上手く連携をとってフォローして行きましょう』
『珍しくないものね』
 声をかける水上・未早(ga0049)へ、アズメリア・カンス(ga8233)が同意する。
『頼もしいお嬢さん揃いだな』
 冗談混じりで、風羽・シン(ga8190)は廃墟の影に沿って機体を移動させた。
 そのまま、キャノピーから目視で周囲を観察する。
 先方も用心しているのか、迂闊に動き回る事はせず。
 互いの出方を探る緊張が、壊れた町を支配していた。

『手の内の予測がつく相手だと、仕掛け辛いですね。こういうのも初めてですし、足を引っ張らないようにしないと‥‥』
 緊張気味のリゼット・ランドルフ(ga5171)が、深呼吸をする。
 気軽に突っ込んでひと暴れもアリだが、賭けるモノがあるだけにそれで終わるのも口惜しい。
『足を引っ張る可能性はコッチの方が高いから、安心していいぞ』
『そこは頑張って慣れて下さい、コールさん』
 軽口めかすコール・ウォーロックへ、鏑木 硯(ga0280)が笑った。
『こういうのも、面白いね。ちょっとぐらい無茶な事をやっても、大丈夫そうだ』
 どこか楽しげなアーサー・L・ミスリル(gb4072)は、確かめるようにシュテルンへ搭載した兵装を一通り持ち替え。
『この後にまだ大事な「仕事」があるんですから、無理はしないで下さいね』
 計器をチェックしながら、レーゲン・シュナイダー(ga4458)は相手の出方を探る。
 レーダーでは相手を確実に捕捉する事は出来ず、互いにジャミングをかけながら索敵を続けている状態だ。
『けど、このまま睨めっこもな‥‥ここは、一気に接近戦に持ち込むかな』
 少しづつ機体を進めるアーサーに続き、建物の影からコールが機体をやや前進させた。
『それなら、古典的正攻法で支援するが。いいか?』
『了解』
 返事を待って、S−01改が一発の砲弾を撃つ。

 キャノピーから見える視界が、急速に悪くなった。
 影の境界が微妙にぼやけ、白く煙る。
 白煙は、瞬く間に広がり。
『くるぞっ!』
 シンが警告し、崩れた壁に次々と弾丸が激突した。
 脚部の車輪が回転し、砂埃を巻き上げてシン機シュテルンはその場を離れ。
 移動しながら、相手がいると思しき方向へガドリング砲で応戦する。
 ぼんやり目視できる影が、白い煙を裂き。
 建物の上から襲撃してきたのもまた、シュテルンだった。
 急接近したアーサー機シュテルンが薙ぎ払う刀を、シンは急後進で避ける。
『あれ、かわされたか』
『仮にも、皆伝の身でな。そう簡単に、斬らせる訳にはいかん』
 意外そうなアーサーへ返しながら、シンの機体が白い煙と壁の影へ消え。
『いいぞ、面白い♪ それならこっちは、「限界」に挑戦する身だ』
 にっとアーサーは口角を上げ、壁を挟んでシュテルンはシュテルンを追撃した。

 煙幕装置が発生した煙の効果は、長くない。
 広がる煙へ硯機ディアブロはバルカンを連射し、すぐ移動した。
 彼が警戒するのは、最も機動力のある相手だ。
 やや薄くなった煙の向こうで、青い影が過ぎる。
 見定めようと減速した直後、雨の如く弾丸が降り注いだ。
 ガトリングの奇襲に、ディアブロは瓦礫を跳ね飛ばしながら建物の影へ退避する。
 回転式砲身が停止し、屋上からアズメリア機シュテルンは様子を窺った。
『このまま、挟撃に出る?』
『単機ではないかもしれません。見えたのは‥‥』
 確認しようとした未早機ワイバーンのコクピットに、アラートが響く。
『後ろっ!』
 アズメリアは警告を発した時には、ほぼ消えた煙を散らしてリゼット機シュテルンが迫っていた。
『隙ありーって、えぇーっ!?』
 芯にウレタン材を何重にも巻いた、にわか作りの模擬刀が空を切る。
 その機動力で回避行動を取ったワイバーンが、襲撃者へ砲身を向けた。
 かわされたシュテルンも、スピードを殺さず障害物の陰へ滑り。
 パンッ! と、塗料が弾ける。
 白いペイントが、ワイバーンの青いボディへ飛び散っていた。
 と同時に、ワイバーンを撃った赤い機体も、アズメリアから白い塗料の洗礼を浴びる。
『硯さん、大丈夫ですか!』
 気遣うリゼットに、ディアブロのコクピットで硯が苦笑した。
『いえ。残念ですけど、後は任せました』
『頑張りますっ』
 短く返事をしながら、リゼットはアズメリアのシュテルンを迎え撃つ。

『こちらを、マークしていたんですね』
 通信を開いた未早へ、正直に『はい』と硯は明かした。
『シュテルンも手強いですけど、ワイバーンの機動力は侮れませんから』
 思いがけない『愛機の評価』に、未早は小さく笑む。
『でも、撃たれてしまいましたけどね』
『俺も、です。囮役のつもりだったんですけど、撃てるチャンスと思ったら油断しました。まだまだです』
 自戒しながらディアブロは戦列を離れ、未早もまた仲間の邪魔にならぬよう、ペイントを落としに向かった。

『わわっ、危な‥‥っ』
 建物を盾にし、回り込むよう『標的』へ接近すれば、突然近くの壁が破砕される。
 急襲を仕掛けてきた相手は近接攻撃を主とするのか、砲撃はなく。
 退いて攻撃を凌いださやか機ウーフーは、構えていたステンガンを撃つ。
 広がった粘性の高い液体が、キャノピーを覆った。
『見ましたか、これが水道管改造マシンガンの威力ですっ』
 停止したS−01改に、コクピットでさやかが小さくガッツポーズをする。
 が、次の瞬間、ウーフーの機体にも次々とペイント弾が着弾し、視界が真っ白に塗りつぶされた。
『あ‥‥ウソっ!?』
『「戦場」で油断は大敵。そして時に攻撃は最大の防御、なのです』
 ショックを隠せないさやかに、長射程のマシンガンで狙い撃ったレーゲン機ウーフーが壁の影から姿を見せる。
『でも、コールさん。撃たれるのを承知で仕掛けるのも、ちょっと‥‥機体が可哀想ですよ』
『確かに実戦では愚策だな。以後は注意するよ、レーゲン。さて、そろそろ‥‥』
 言い含められたコールが、苦笑混じりで時間を確かめ。
 ドゥンッ‥‥という音と鈍い振動が、言葉を遮った。
 音の方向を見やれば、土煙が上がっている。
『随分と派手にやってるようだが、そろそろ仕事の時間だ。皆に、オフサイドだと伝えてくれるか?』
『判りました。それから、どうぞお気軽にレグと呼んで下さいね』
 自身の愛称を伝えたレーゲンは、仲間へ『試合終了』を伝えた。

●今日の本題
「シュテルンの初運転が、こういうのでよかったというか‥‥楽しいな」
 模擬戦を終えて昼食休憩を挟んだ後、アーサーは指を組んで背を伸ばす。
「ええ。お陰で私もシュテルンの動きや市街戦での戦い方を、色々と試せたわ」
 リゼットと競いつつ『生存』したアズメリアは、十二枚の可変翼を持つ最新鋭機を見上げた。
 いつもは雷電へ搭乗している彼女にとって、シュテルンはまだまだ未知数の存在だ。バグアとの戦いの中で生き残っていく為にも、機体の性能を把握することは大事だった。
「でも、平和なお仕事ですよね‥‥初めての陸上形態には、ピッタリかも」
 陽だまりに腰を降ろしたさやかは、水溶性の白いペイントを落としてスッキリしたウーフーを、頼もしそうに見やり。それから、よく晴れた冬の青空へ目を細めた。
「今までは、空戦ばかりでしたので‥‥」
「ん〜‥‥そういう事も、あるかもしれないね。じゃあ今回は参加できて、良かった?」
 空を見るさやかにアズメリアが聞けば、年下に見える少女は悪戯っぽい笑みを返す。
「新鮮というか、楽しかったというか。そのせいか、うっかり被弾してしまいましたけど」
 実戦では気を付けないとですねと反省するさやかへ、アズメリアも笑顔で頷いた。
「さて、模擬戦をさせてもらった分、働くか。他の乗り物だと出来ない仕事が、KVだから出来る。こういう時、KVに乗ってよかったって感じるよな」
「好き勝手ぶっ壊して構わんというのも、そうそう無い機会だ。思いっきり、やらせてもらうか」
 競っていたアーサーと肩を並べ、シンも再びシュテルンへ向かう。

 今回ミュレに赴いた本当の目的は、キメラに破壊された中心部での復興作業だ。
 残骸が山積してトラックや重機が入ってこれない街中で、後の作業が進みやすくなるよう、運搬路も切り開き。
 一方では斜めに傾いだ危険な壁をドリルで完全に突き崩し、瓦礫へと変える。
 ある程度のサイズにまで砕かれた瓦礫が溜まってくると、八機のKVはそれを手で運搬した。
 あいにく『手』がない未早のワイバーンは、足場の悪い場所の作業を率先して担当し、破砕作業に専念する。その隣では――埃を抑えようというアーサーの提案で――ポンプで引いた川の水を、アズメリアが解体中の建物へと撒いていた。
『まずは一度綺麗にしてからでないと、余計に手間がかかるものね』
『補強して使うには、酷い状態ですし。それにしても、あの時の傷跡がまだこんなに残っていたんですね‥‥自分の街に戻って来たい人も、少なくないでしょうに』
 岩のような塊の煉瓦と漆喰を砕きながら、秋に起きた襲撃を思い起こして未早は表情を曇らせた。
『九月の戦いは、私も参戦してましたけど‥‥地上の被害はこんなに酷かったんですね。早くミュレが元通りになるよう、頑張らないと』
 明るく気合いを入れたリゼットは、ブンブンとモーター音を立てる『金曜日の悪夢』を振るい、生身では扱い辛い長い鉄管などを切断している。
 そして、未早やリゼットと共にトゥールーズでのキメラ迎撃に当たった硯は、ディアブロのアグレッシブ・フォースを起動し、メトロニウムシャベルで瓦礫を存分に駆逐していた。
『悪魔』の二つ名を持つシャープなフォルムの機体が、シャベルを手に全力でガシガシと作業を進める様は、どこかアンバランスで微笑ましい。
『精が出ますね』
『一度、やってみたかったんですよ』
 手を止めてディアブロの様子を眺めてレーゲンが声をかければ、やや照れた風に硯が答える。
『せっかくのシャベルなのに、本来の用途で活用する機会は余りなくて』
『そういえば、そうかもしれません』
 彼の返事にレーゲンは納得し、操縦桿をそっと握った。
『戦闘以外でこうしてKVが役立つって、何だかとても嬉しいですね。壊すだけの兵器じゃないんだって感じがして‥‥いい機会をいただいた分、一緒に頑張りましょうね。ジークムント』
 表情を緩め、頼もしげにレーゲンはウーフーへ語りかける。
『こうして、土木作業も出来る。ホント、KV様様だ』
 感慨深げにアーサーはシュテルンの両腕を変形させ、ツインドリルを唸らせた。

●誰かの明日の為に
『あ、その瓦礫はこちらへお願い致します。そちらの方は、あちらにお置き下さい』
 解体して撤去された瓦礫はさやかが区分し、幹線道路に近い邪魔にならない場所へ運ばれた。
 建物全ての解体には時間が足りないが、到着時と比べれば傷跡は確実に減っている。
『作業も順調だし、一息入れるか』
 ある意味で楽しみながら仕事に勤しむ者達へ、コールが休憩を告げた。

 缶の珈琲や紅茶が回される中、さやかは持参したクッキーを一同へ差し出した。
「こんな事もあろうかと、クッキーを持って参りました。よろしければ皆さんで、お召し上がり下さいませ」
「ありがとうございます」
「遠慮なく、戴きますね」
 笑顔でリゼットがクッキーを受け取り、続いてレーゲンも手を伸ばす。
「ん、美味しいです。これ」
 さっそく一口かじった硯の反応に、さやかがほっとした表情を浮かべた。
「にしても、例え住む場所を破壊されても、逃げ出す事なく復興させようとする。この辺の人間の図太さとバイタリティーは、ほんと感心するぜ‥‥と言うか、これこそが『人間の強さ』なんだろうな」
 珈琲を飲みながら、シンは改めて破壊の痕跡へ目を向ける。
 いずれ人々は再びここで町を作り、生活を始めるだろう。
「そういえば模擬戦、どうでした?」
 未早が感想を問えば、風下で煙草に火を点けたコールが紫煙を吐いた。
「操縦者としてのキャリアはお前さん達の方が上だからアレだが、急な訓練にしてはよく動いてたんじゃないか?」
「結果は、負けたけれどね」
 苦笑して、アズメリアが小さく肩を竦める。
 Aチームはシンとアズメリアが生存し、未早とさやかが脱落。
 Bチームはレーゲンとリゼット、アーサーが生存し、硯とコールが脱落。
 生存者数でBチームの勝利となったが、人数差を考えれば結果は五分だ。
「負けた方は、勝った方に飯を奢るんだったな」
「はい、潔く奢りましょう」
 口惜しげなシンに、さやかはこくんと首を縦に振った。
「しかし生身とKVじゃあ、似て非なる部分が多くて難しいな。今回の件は、新しい機体を選ぶ参考にさせてもらうよ」
「新しい機体、ですか」
 紅茶を飲んでいた硯が、コールの言葉に顔を上げる。
「事情があってな。現在検討中だ」
「難しいですね。自分のいいと思ったものに乗るのが、一番かと思いますが」
 クッキーを食べつつ、リゼットが考え込んだ。
「操縦技術に自信がないなら、防御能力や耐久力の高い機体がお勧めね。命中が高ければモアベター、って所かしら」
 思案しながら言葉を選ぶアズメリアに、未早が頷く。
「汎用性と生存性を考えれば、バイパーあたりが無難かもしれません。欲を言えば雷電やシュテルンですが、価格が‥‥ね?」
 苦笑いで語尾を濁す未早だが、真剣な顔で硯が唸った。
「確かにシュテルンは高級機だけど‥‥コールさんって顔が広そうだし、移動を考えると滑走路なしに飛べる垂直離着陸能力なんか、いいんじゃないかな。個人の好みが大きく左右するとは思うし、俺視点での意見だけど」
「そうですね。私がアドバイスするとしたら、一つだけでしょうか」
 指を振りつつ進言するレーゲンは、真っ直ぐウーフーとS−01改を見上げる。
「この子になら命を預けられる! と感じた子を選ぶだけです。だって、どの子もみんな魅力的で選べませんから。直感も大事なのですよ、運命なのです」
「なるほど。参考にさせてもらうよ、ありがとう」
 最前線に立つ者達のアドバイスに、コールが礼を述べた。

「さて、もうひと頑張りだ。次は、像作りにチャレンジするかな」
「像、ですか?」
 休憩を終え、立ち上がったアーサーにさやかが小首を傾げる。
「ああ、ちょっといいか」
 KVへ向かう未早と硯、そしてリゼットを不意にコールが呼び止め。
 三人の手に、銀色のバッジを乗せた。
「これは‥‥?」
 不思議そうな顔をする硯に、大柄な男はひらと手を振り。
「色々と、力を貸してもらっているからな。勲章でも何でもない、仲間意識の形みたいなモンだが」
 盾を模った小さな徽章は、手の平の上で鈍く陽光を反射していた。