タイトル:戦禍の中で生きる者達マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/27 19:49

●オープニング本文


●キメラの出現
 UPC本部の斡旋所にあるモニターには、今日も世界で起きる数々の『事件』内容が表示される。
 そのモニターの一つに、新着の『事件』が表示された。
『スペイン北東部にて、複数体のキメラットの出現を確認。至急に現地へ向かい、これらの排除を乞う。
 目標は、前述地域にある町の郊外に現れた模様。現在これらの群れは北上を続けており、ピレネー山脈を越えてフランスに入れば、穀倉地帯へのダメージが発生すると考えられる。可能な限り早急に、殲滅を願う−−』

●戦禍の中で生きる者達
 空の上で、爆音が轟いた。
 煙を吐いた飛行物は大空の中で、あるいは地上付近まで落ちる間に、一瞬閃光に包まれて。
 爆発による煙が、四散していく。
 その様を、崩れた建物の影から幾つかの瞳がじっと見つめていた。
 やがて空は静けさを取り戻し、鳥達の姿が戻ってくる。
 襲撃の警報解除がアナウンスされる中、人影は潜んでいた建物から飛び出した。
 一つ、二つと別の影がそれに続き‥‥合計で、五つの人影が駆けて行く。
 真っ直ぐに、爆発のあった方向へ向かって。

 ボスンと黒煙を上げ、木製の荷車を引いてきたトラクターが町外れの『ガラクタ』置き場で止まった。
「オッサーン! ガラクタ、持って来たよー!」
 運転席から、明るい声が『ガラクタ』に囲まれた主を呼ぶ。
「お前ら、何度も言ってんだろ。「オッサン」呼ばわりすんじゃないよ」
「けど、「オッサン」じゃん」
「だよねーっ」
 トラクターや荷車に座って無邪気に笑う五人は、みな10代中盤の少年達だ。一方、咥え煙草で彼らの相手をするのは、油やススのような汚れに塗れた中年の女性。その足元には、用途を果たせなくなった大小様々な機械のジャンクが、無造作に転がっていた。彼女、リヌ・カナートはれっきとした女性なのだが、短く刈った髪や風体、乱暴な言葉遣いや仕草から、少年達には「オッサン」扱いされている。
「で、今日の『獲物』はナンだい?」
 手に付いた油をズボンに擦りながら歩み寄る相手に、少年達は荷車から飛び降り、すぐさま『交渉』に移った。
「昼間の戦闘で撃墜された、敵の戦闘機。あと、落っこちてたナイトフォーゲルの部品とか、いろいろ」
「こりゃあまた、随分と『大物』を拾ってきたな」
「だろ? だから、奮発してよ」
 目を輝かせたリーダー格の少年を、リヌはじっと見下ろして。
 指を三本、立てた。
「え〜、少ない〜っ!」
「もうちょっと、お願い!」
 口々に抗議する者達を前に、しばし考え込み。
 今度は、片手を手を開いてみせる。
「そこを、もう一息!」
「ガス代だって、かかってるんだからさぁ」
 粘る少年達に大きく溜め息をついた後、しかたなさそうに彼女はひらりと開いた手を振った。
「6。それ以上は、無理だね」
 相手が折れると五人は互いに顔を見合わせ、嬉しそうに親指を立て、あるいは手を打ち合わせる。
 リヌがポケットからしわくちゃの紙幣の束を引っ張り出し、何枚かを数えてリーダー格の少年の手に握らせると、相手はにっと笑った。同時に、残りの四人が荷車のジャンクを降ろし始める。
「毎度あり」
「ジャンク拾いに精を出すのもいいが、あんまり無理すんじゃないよ」
「はいはい」
 適当に返事をしながら、少年は紙幣を数え直してから自分のポケットへと突っ込んだ。
「じゃあ、オッサン。またー!」
「だから、オッサン言うなっつってんだろっ」
 大声で怒鳴れば、元気な笑い声が返ってくる。
 五つの笑顔を乗せたトラクターは、ガタゴトと荷車を引き摺りながら舗装されていない道を走っていった。

「カナートさん。まだ子供達に、こんな危ないマネをさせているんですか」
 咎める声に転がるジャンクをより分けていたリヌが顔を上げれば、一人の神父が険しい表情で立っていた。
「戦闘で破壊された残骸を、集めさせるなんて‥‥」
「強要してないんだがね。この状況では、あいつらが稼ぐ手段も限られてるだろ」
「ですが、あの子達は教会が‥‥」
「ソッチだって、もっとちっこいガキどもを抱えてるだろ。アレでもあんたらに迷惑をかけず、『弟分』達を助けようって考えてんだよ、エルナンド神父」
 紫煙を吐く「ジャンク屋」に、まだ若い神父は口唇を噛む。
 彼らが住む小さな町は、スペイン北東部に位置していた。
 イベリア半島の主導権を巡り、『バグア』との激しい戦闘が行われている前線に近い場所だ。加えて、最近は南部や中部からの難民が流れ込み、比例して戦災孤児の数も増えている。
 だが、積極的に孤児達を保護してきた地元の教会も、その支援は無限ではない。かといって保護施設はというと、状況が混乱している現状では期待もできず。教会が面倒を見ていた子供達の中でも『年長組』数人が、その保護の下から自ら飛び出していった。
 今では、ジャンク屋を営むリヌを相手に、拾い集めたジャンクを売りに来る。儲けは自分達の食い扶持と、ジャンクを運ぶトラクターのガソリン代に回し、幾らかの余裕が出来ると無記名の寄付として教会のポストへ突っ込んだ。
 無論、それに神父が気付いていない訳はないだろう‥‥と、リヌが苦笑する。
「とにかく、出来るだけ‥‥危険な事はしないよう、近づかないよう、あなたからも言い含めて置いて下さい」
「ああ、善処するよ」
 煙草をふかしながら答えるリヌに、エルナンド神父は渋い表情をし‥‥だが、それ以上は何も言わずに、町へ戻っていった。

 その日、少年達はいつも通りに、ジャンクを拾いに郊外まで赴いた。
 とはいえ、ジャンクも常にゴロゴロと、道端に落ちている訳ではない。町の付近でジャンクが見つからなければ、激戦区に近い南へと足を伸ばす。
 その途上、彼らは奇妙な現象を目にした。
 ‥‥ネズミ、である。
 それも一匹や二匹ではなく、数十匹があちこちで草を分け、北を目指して移動していた。
「ナンだろう、アレ?」
「あのまま真っ直ぐ進んだら、俺らの町だよな」
 言い知れぬ不安が、その胸に去来し。
 五人は顔を見合わせると、『仕事』もそこそこに来た道を戻った。

「不味いな、そりゃ」
 煙草を灰皿で潰すリヌが、相談しに来た少年達の話に顔を曇らせる。
「マズいって?」
「お前らは見た事ないだろうけど、そういうネズミみたいなキメラも『バグア』の『手駒』の一つにいるからな。UPCに連絡した方が、よさそうだ」
 受話器を取り上げたリヌに、少年達が顔を輝かせた。
「あのネズミ、やっつけんるんだ!」
「言っとくが、アレはただのネズミじゃないからな。お前らは、手出しせずに大人しく‥‥って、おい!?」
 UPCへ電話するリヌを尻目に、少年達は積まれたジャンクの中から『武器』になりそうな物を探し始める。
「だって、あいつらをやっつけるんだろ?」
 真摯に答えたリーダー格の少年に、リヌは頭を抱え。
 受話器では、UPCの受付嬢が『もしもし?』と怪訝そうに呼びかけを繰り返していた。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
ギーゼラ・エアハルト(ga0336
20歳・♀・GP
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
高木・ヴィオラ(ga0755
24歳・♀・GP
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
サイフリート(ga2562
23歳・♂・SN

●リプレイ本文

●『ヒーロー』登場?
 建物の幾らかが破壊された小さな町は、おそらく競合地域となる以前には少し古めかしい時代の面影を残した、のどかな町だったのだろう。
 無事な町並みや教会などは、そんな面影を窺わせる。
 そんなあちこちの窓から、好奇や畏怖など様々な感情の入り混じった視線が、町へ入ってきた車を迎えた。
「ナンかこう‥‥首筋辺りがチクチクするな」
 広場に降り立った九条・命(ga0148)は居心地が悪そうに、尻尾に結んだ髪の下へ手をやる。
「土地柄、本来なら陽気で賑やか好きなんだろうが、南から逃げてきた者達が多数流れ込んでいるという話だからな」
 ぐるりと町を眺めてホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が答えれば、時おり強く風に黒髪を遊ばせる鏑木 硯(ga0280)は哀しげに瞳を伏せた。
「せめて、ささやかな生活を守りたいんですね‥‥きっと」
「‥‥ちょっと、判るかも‥‥その気持ち‥‥」
 ごくごく小さく、幡多野 克(ga0444)が呟く。自分も人見知りをする方だと自覚するが故に、戦いから逃げてきた見知らぬ人々に戸惑う住人の思いも判る気がした。
「とにかく、連絡をくれたジャンク屋さんへ急ぎましょう。話によると、十代半ばの子供達が数名、戦闘に対する意欲をみせているとの事でありますし」
 その子供達とあまり歳の変わらない稲葉 徹二(ga0163)が、緊張した面持ちで帽子を深く被り直し、車へ戻る。
「たぶんそれ、来る途中に見えた廃材置き場みたいな場所やと思う。確か、あっちの方向や」
 記憶を辿るギーゼラ・エアハルト(ga0336)が町の外を示せば、高木・ヴィオラ(ga0755)は二つに分けて束ねた金色の房を揺らした。
「じゃあ、サクッと行きましょうか。誰かに道を聞ける様子でもなさそうだし、ここで見世物になっているのも、あまりいい気分じゃないわ」
 七人は車へ分乗すると、ひとまず町の中心から離れた。

「はーなーせーっ」
「放せよ、オッサン!」
「だから、オッサン言うなーっ!」
 ギーゼラの記憶と地図を照らし合わせた場所では、いささか愉快な状況が展開されていた。
 片方の手で一人の頭を抱え、もう片方の手で別の一人の腕を捻り上げ、一人は服を踏まれて身動きが取れず、一人は足元で目を回し、最後の一人は遠巻きに僅かなボキャブラリを駆使して罵詈雑言を投げている。
「やあ、UPCのお偉いさん達! 遠いところを、すまないねー!」
 声を張り上げるリヌ・カナートに、車からおりた者達は面食らった‥‥あるいは呆れた風に、彼女と五人の少年達を眺めた。
「あの、その子達は‥‥」
 どう質問するか言葉に困りながらも、硯が口を開く。
「件の、キメラットを見たっていう子供達、ですか?」
「そうそう。あんた達が来るのを待てって言ってるのに、聞きやしねぇ‥‥ほら。UPCから助けが来てくれたんだから、シャンとして見たモンを説明しな」
 リヌから開放された少年達は、首をさすり、土を払いながら、バツが悪そうに上着を引っ張り、髪をおさえて体裁を整える。
「UPCからって事は、この人達『能力者』?」
 物珍しそうな声を上げた一人に、一つギーゼラが咳払いをした。
「そや。でも『能力者』いうても、うちらはあんたらと変わらん人間や。取って喰ったりせんから、おっかながる事も、遠慮する必要もあらへんで」
「じゃあ、ナイトフォーゲルにも乗ったりするんだ」
「すっげー」
「今日は、乗ってきてないのー?」
「こら、和んでる場合じゃないぞ。こうしてる間にも、ネズミどもは町へ向かってんだ」
 一人の頭を小突くリヌに、少年は口を尖らせる。
「さっき、俺らがそう言ったら怒ったくせにぃ」
「ネズミ退治に行こうとするからだ。とにかく、ここじゃナンだし中に入ってくれ」
 二人ほど少年を引き摺りながら、リヌはガラクタに囲まれた小屋へと足を向けた。

●作戦会議
「それで、君達が見たネズミについて、詳しく説明してもらいたいのでありますが」
 尋ねる徹二に、五人の子供達が‥‥一斉に口を開いて、またリヌにどやされるという一幕もあったが‥‥説明し、それを元に克が地図でおおよその場所の見当をつける。
「どうやら‥‥キメラットはネズミサイズの、少し大きいのだと思えば‥‥よさそうだね‥‥」
 少年達の話に寄れば、ネズミ達の体長は目測で20〜30cmあたりだという。
「キメラって、大きいものばかりだと思ってた‥‥けど、そうでもないんだな‥‥」
「そうですね。聞くところによれば、キメラといえど普通のネズミと同じようにお腹が減ったり、餌を漁ったりするそうです。そこで、俺たちで検討した結果、何らかの餌で迎撃ポイントまで誘導する作戦を取る事になったのですが‥‥」
 言葉を切って、硯は言い辛そうにリヌを見た。ガラクタ置き場の主は怪訝な表情を返し、硯の説明をホアキンが継ぐ。
「迎撃ポイントは、ここを使います」
「‥‥はぁ?」
「ここのジャンクはUPCへ売ってるそうですが、現状で先に引き取り手続きを行い、然るべき値段で精算します。引き取った後、部品に更に傷が付いても、あなたの損にはなりません」
「で、おびき寄せる餌はどうするんだ?」
「香りの印象の強いものを、何か用立てる。そこは、町の人達の協力を仰がないとならないだろうが‥‥」
 腕組みをしながら質問するリヌへ答えた命は、後の説明を求めるようにヴィオラを見やった。
「そうね。ありきたりだけど、チーズ‥‥とかどう? 食いついてくれるかしら」
「キメラの好みなんぞ知りゃしないが、町の者に協力を仰ぐなら教会の神父に頼むといい。エルナンドって若い神父だが、人柄は保障する」
「判ったわ。時間もないし、さっそく行ってくるわね。油臭いの、私はあまり好きじゃないし」
 機械油の匂いが気になるのか、すぐさま行動に移るヴィオラにギーゼラが苦笑する。
「じゃあ、うちが送るわ」
 小屋を出る女性二人を見送った少年達の表情は、どこか不安のような暗い影がさしていた。
「どうか、したのかな‥‥?」
 そんな少年達に気付いた克が気遣うように声をかければ、彼らは互いに顔を見合わせる。
「ん〜、みんな食料を分けてくれるのかなって」
「そういえば‥‥バグアとの競合地域から、そう遠くないんでしたっけ」
 資料を思い出して、硯は心配そうに眉根を寄せた。『ラスト・ホープ』で暮らすが故に普段は意識しないが、戦闘が多い区域では食糧問題は深刻だ。
「ま、エルナンド神父が口添えすりゃあ、大丈夫だろうよ。放っておいたら、町自体も危ないんだからな‥‥で、値段はこんなトコだな」
 電卓を叩いていたリヌがホアキンへそれを向ければ、表示された数字に彼は渋い表情を浮かべる。
「これは‥‥高くないか?」
「当然。こっちも、生活かかってんだからな。シブってる時間なんぞ、ないだろ」
「それで、ここで戦うんだ?」
 話が『本題』へ近づいたところで、少年達は目を輝かせた。今度は『能力者』達が顔を見合わせると、命は徹二へ肩を竦めてみせる。『説得役』を任された徹二は、自分とあまり変わらない少年達へと向き直った。
「自分らはアレの駆除で飯を喰っている物でありまして‥‥この場は、任せていただけませんか? 例えばほら、あなた方も横からジャンクを浚われたのでは、商売上がったりでしょう」
「だけどさぁ!」
「‥‥自分の仕事には、君らの生存も勘定に入っておりまして。無茶はさせられんであります」
 納得のいかなそうな少年達を前に、「ただ」と徹二は話を続ける。
「町を守りたい気持ちは理解出来るでありますし、迎え撃つ準備は此方からお願いしたいくらいでありますから」
「あなた達の行動力は、とても凄いと思うんです。俺が小さかった頃なんて、わりと泣き虫でしたから‥‥だからこそ、今回は自分達に任せて下さい。あなた達の大事な町は、俺達が必ず守りますから」
 徹二に続いて、硯もまた少年達一人一人の目を見ながら、ゆっくりと言葉を伝えた。
「それに、普通の武器って‥‥キメラに効かないから‥‥」
「それ言うと、自分で『確認』しかねないから。あいつらは」
 呟く克に、短い煙草を咥えてリヌが苦笑する。
「ところでリヌさん、バイクはありますか? あとキメラを見た場所まで、彼らの一人に道案内をお願いしたいんですが」
 ようやく納得した様子をみせる少年達を前に、硯が尋ねた。

●ネズミ退治
 見晴らしの良い丘陵地を、トラクターが走っていく。
 いつもはジャンクを積む荷車には、代わりに粥のようなモノが入った大きな鍋が並んでいた。
 あらかじめ決めた地点まで来ると、運転席に座る命はハンドルを切り、トラクターを反転させる。荷台で双眼鏡で草原を観察するギーゼラが、その間で動く灰色の群れを捕らえた。
「‥‥あれやな。方向的に、やっぱり最短コースできよるわ」
「後ろに回って、追い込む? それとも、このまま『囮』に?」
 ギーゼラと並んで荷台で待機するヴィオラが、二人の顔を交互に見やる。
「あ〜‥‥後ろに回ろうとして下手に囲まれても不味いし、とりあえずこのまま戻るか」
 少し考えを巡らせた末に、命が答えを出した。
 事態にあたる七人は、命とギーゼラ、ヴィオラの三人による『索敵班』と、残る四名で構成する『迎撃班』に分かれた。ただ『索敵班』は索敵というよりも、事実上は囮に近い。作戦の大枠では、索敵班がジャンク屋までキメラを引っ張り、そこで待ち構えていた迎撃班が攻撃を行う‥‥という段取りだった。罠に誘い込めなかった『取りこぼし』は、身軽なグラップラー達が対応する事となる。
「こっちに気ぃついたな‥‥動き出したわ。こちら『索敵班』、作戦開始やで」
 動きを観察していたギーゼラが、待機する仲間達へ無線で連絡を入れた。

「『索敵班』より、誘導を開始したとの事であります」
 無線機でやり取りをしていた徹二が告げれば、煙草をふかしていたホアキンは最後に大きく煙を吸い込んでから、地面にそれを落として踏み消す。
「‥‥ポイ捨て、禁止でありますよ」
 冗談めかして見咎める徹二に、彼は両手を広げて肩を竦めた。
「後で拾うさ。しかし、ナイトフォーゲルの装甲を敷き詰める事が出来ればよかったんだが」
「‥‥メトロニウム合金が、加工しやすいといっても‥‥ここは工場じゃないから‥‥」
 答える克は、きょろきょろと周囲を見回す。四人がいるのは、ジャンクの一部で作られた四角形の柵の中心だ。一箇所だけ入り口が作られていて、そこから『策敵班』がキメラットを連れて入ってくる手筈となっている。
「あの子達、無事に‥‥大人しくしているかな?」
「彼らなら、大丈夫です。判ってくれましたから」
 少年達を気にかける克へ、硯は笑顔で頷いてみせた。

「見える?」
「う〜ん、よく判んない」
 教会の鐘楼に登った少年達は、一つしかない双眼鏡を使い回しながら戦いの様子を知ろうとしていた。彼らが無謀を起こさぬよう念を入れて、リヌも同行していた。
 その彼らから見えるのは、短く刈られた一面の草原とジャンク屋の位置に出来た要塞のように四角形のバリケード、それに地平線から戻ってくる一台のトラクターのみ。
 少年やリヌ以外にも、それを見る事ができる窓や高台には町の住人達が集まり、固唾を飲んで状況を見守っていた。

 餌を求めてか、それとも逃げる者達を追っているのか。
 入り口を抜けたトラクターの後を追って、キメラの群れは『罠』へと飛び込んできた。
 そこで待ち構える者達は、既にエミタを活性化している。
「よし、今だ」
「判った!」
 灰色の群れが切れたのを、見計らい。
 タイミングを合わせた徹二と克が、入り口の板金をスライドさせて閉じる。
「スペインに、ネズミは要らん。昼寝と闘牛があればいい」
 文字通りの袋のネズミとなったキメラットを前に、ホアキンはソードを構えた。

「はあ‥‥っ!」
 気合と共に、硯が『疾風脚』で強化した脚力でキメラットを蹴り上げ、ナックルを叩き込む。
 黒から銀へと変化した髪を揺らし、克は『豪力発現』によって筋力を増した腕で、群れた塊へと刀を振るい、蹴散らし。
 分散した個体へは、徹二が小銃の引き金を引く。
 閉じ込められ、逃げ場を失ったキメラットは牙を剥き、あるいは鋭い爪で『能力者』達へ反撃する。
「ここは任せた」
 短く仲間へ言い放つとギーゼラはジャンクを足場に跳躍し、『柵』の外へと降り立った。
 続いて、ヴィオラと命も彼女を追ってくる。
『柵』に入らなかったキメラットの排除に動こうとしたその時、無線へ声が割り込んだ。
『そこから真っ直ぐ、だいたい100m先にいるよ!』
 考えるより先に、ヴィオラは地面を蹴った。
 ものの数歩のうちに、駆ける灰色の影を見出して追い付き。
「小さくて当て難いから、よく狙って‥‥破っ!」
 気合を入れて突き出されたファングの爪が、シールドごとキメラを切り裂いた。
『それから、右の方にも! あとは‥‥』
 次々と飛んでくる情報に命は辺りを見回し、教会の高い塔で光を反射する何かに気付く。
「あいつら‥‥」
 命が苦笑する間にも、リーダー格の少年の声は次々と情報を伝えてきた。

●任務完了
 ジャンク屋があった場所には数台のトラックが並び、『ガラクタ』の搬出を行っている。
 ジャンクを引き取りにきた大人達に混ざって少年達も作業を手伝い、更に命も彼らと一緒にパーツを運んでいた。
「一つ‥‥聞いてもええかな? 集めてた、ジャンクについてなんやけど」
「ん?」
 作業を眺めていたリヌは、声をかけたギーゼラへ首を傾げる。
「バグアの機械にパイロットがいないとすれば、機械をコントロールする波長がありそうかという事やけど」
「残念だが、ヘルメットワームが有人操作か無人操作かまでは、ジャンクから判別はまず無理だな。機密保持だかナンだか知らないが、連中はことごとくキレイサッパリ自爆してくれる。もうちょい爆発に手を抜いてくれると、高く売れるんだがな」
「そっか。キメラのように、完全自律型かどうかと思ったんやけど」
「あいつらは、生体兵器だからな」
「‥‥詳しいんやな」
 どこか感心した風なギーゼラへ、リヌは微妙な笑みを返した。
「皆さん、お昼が出来ましたから、少し休憩しませんか〜?」
 明るい声で、硯が作業する者達を呼ぶ。せっかくの機会と、ジャンクの輸送班に頼み込んで食材を持ってきてもらい、その料理の腕を振るったのだ。硯を手伝って、ヴィオラもまたちょっとした軽食と飲み物を皆へ配る。
「相手は普通の生き物じゃ‥‥ない。今後、キメラを見たら‥‥すぐUPCへ連絡‥‥約束だ」
 昼食を取りつつ、克がジャンク拾いの少年達や教会の子供達へ言い含めている。
「それより、もし戦闘があったら拾いやすいところへワームを撃墜してよ」
 無茶な注文をつける少年達を、徹二は目を細めて眺め。
 ホアキンは青空へ、ぷかりと紫煙を吐いた。