タイトル:Short−lived Peaceマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/03 23:51

●オープニング本文


●小さな願い
 すっかり夏の、空の下。
 水面に陽光を反射させながら、今日もオード川はゆるゆると流れる。
 その流れへ、何本かの糸が垂れ下がっていた。
 たまに流れより糸を引き上げては再び投じる事を、何度か繰り返し。
「おぅ。釣れるか、坊主」
 とおりがかった中年の男に聞かれ、三人の少年は顔を上げた。
「ぜっんぜん!」
「ホントにここって、魚がいるのかよ?」
 三人のうち二人が口を尖らせれば、「ああ」と男は頷く。
「俺が若い頃も、よく友達と釣りにきたものだぞ」
「えーっ」
「それって、すごく前だろ」
「今もいるさ、きっと。釣りのコツは、気長に頑張る事だからな」
 肩にかけた銃の位置を直し、笑って手を振りながら男は背を向けて、歩いていった。
 見送った少年達は、竿を振って糸をたぐり寄せる。
 ピンをU字に曲げて作った針の先にはパンの切れ端が引っかかっているが、水を含んでしょぼしょぼになっている。
「そろそろ、帰るか」
「うん」
 最年長の少年の言葉に、残りの二人が答えた。
 糸をまとめて持ち直し、ぐるりと首を巡らせれば、オード川の向こうにカルカッソンヌの街と丘のシテが見える。
 ようやく見慣れてきた風景を眺めてから、少年達は『仮の家路』を辿った。

 スペインを抜けてから、はや一ヶ月。
 年配者は空いているアパートメントや、街から離れた村で暮らし始め。教会の孤児達は教会の紹介で、より安全な場所にある修道院や、施設へと引き取られる段取りになっていた。
 いずれも情勢が安全になり、本人の希望があれば、いつか再びスペインで暮らす事も選択に入れながら、国境を越えて避難した者達はようやく新しい環境へ踏み出そうとしている。
 そして、修理をしていた五人の子供達のうち三人は、ブラッスリ『アルシェ』へ一時的に身を寄せていた。

「ただいまー!」
 賑やかな声がして、ばたばたと階段を駆け登る音が続く。
 壁から天井へと音を辿ったコール・ウォーロックは、テーブルへ視線を戻して苦笑した。
「いつから、ここは下宿屋になったんだか」
「細かい事言わない。今は開店休業状態なんだし、問題ないだろ?」
 紫煙を吐きながら、リヌ・カナートがグラスからカウンターに溜まった水の雫を指で伸ばす。
 そこへ、再びうるさく足音が駆け下りてきて。
「見た車があると思ったら、オッサン来てたんだっ!」
 呼ぶ声にリヌは渋い顔をし、くつくつとコールが声を殺して忍び笑う。
「あー、ちっと用事があってね。見た限り元気そうで、何よりだよ」
 リヌの返事に、三人の少年は顔を見合せ。それからおもむろに、リーダー格の少年が口を開いた。
「あいつら、まだ戻ってこないのか?」
「急に、どうかしたのか?」
 逆にリヌから聞き返され、少年達は顔を見合せる。
「教会に身を寄せていた奴ら、もうすぐもっと北の施設へ引き取られるんだって」
 五人のうち最年少の少年がズボンに手を擦りつけながら、俯いて答えた。
「迎えに‥‥行けないかな」
 ゆっくりと天井へ煙を吐いて、リヌは考え込み。
 話を見守るコールが、地図を広げたテーブルへ移動した。
「今はキメラの報告も少なく比較的安全だ。だが混乱を避ける為に、主要な道路は通行が規制されている」
 三人の子供達も、テーブルを囲んだ。彼らがいるカルカッソンヌから、二人の少年が収容されている病院のあるトゥールーズ。二つの街を繋ぐ自動車道A61と一般道を、コールは指でなぞってみせる。
「この近辺では、この大きな道が通行制限中だな」
「じゃあ、通れない?」
「方法は、幾つかある。一番確実なのは、特別な許可を持っている、特別な連中に頼む事だな」
「‥‥コール、もしかして『職権乱用』とか考えてないよな」
 馴染みの口ぶりに、眉をひそめてリヌが唸る。
「ああ、機会があればって話をしてるし、顔見知りがじきに遠くの施設へ行くんだろ? それなら、こいつらの友達も一緒に見送りたいだろうと思ってな」
「UPCに文句言われても、知らんからな。私は」
 やれやれと首を振るリヌへ、少年達とよく似た笑みをコールが返した。

 数時間後、UPCの本部に緊急でない案件が告知された。
 それはスペインからの住民脱出と、カルカッソンヌの防衛協力を感謝すると同時に、トゥールーズからカルカッソンヌへ、二名の要人負傷者の移送を頼みたいという、コール・ウォーロックからの依頼だった。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
タリア・エフティング(gb0834
16歳・♀・EP

●リプレイ本文

●護衛到着
 大空から舞い降りた機体が、眼下の滑走路へ着陸を開始した。
 輸送機が無事にトゥールーズ空港に降り立ったのを見届け、同行した二機のナイトフォーゲルは旋回してアプローチに入る。
 格納した脚部が伸び、主翼がスライドし、コクピット部の後ろから機体の胴体が地面に対して垂直に立ち上がった。
 歩行形態へと変形した岩龍とナイチンゲールは、空気抵抗を受けて急速に高度を下げ。
 膝を曲げて着地衝撃を和らげ、装輪走行で更に減速し、滑走路を数百mを進んで完全に停止する。
 その間に輸送機は貨物扉を開き、遠く『ラスト・ホープ』より運ばれた二台の車両が地上へ姿を現した。
 略式ながら敬礼する作業者達へ、輸送機を降りた能力者四人が礼を返す。
「要人移送か‥‥責任重大、心してかからないと、ね」
 シャロン・エイヴァリー(ga1843)が額に手をかざし、二機のナイトフォーゲルを見上げた。
「で、件の『要人』ってのは、どんな奴なんだ?」
 ファミラーゼへ乗り込みながらアンドレアス・ラーセン(ga6523)が問えば、ジーザリオのドアを開いた鏑木 硯(ga0280)は一瞬言葉に迷う。
「えーっと‥‥要人ですから、要人です」
「なんか、様子が変だな」
 硯の答えに当然アンドレアスは怪訝な表情を返し、「行けば判るわよ」と笑いながらシャロンがジーザリオの助手席へ座った。
『行き先は、鏑木が知っているんだな?』
 頭上からの声に硯はナイチンゲールを仰ぎ、操縦席の鯨井起太(ga0984)へ大きく肯定のサインを送る。
「こちらは、その後に続けばいいわね」
 長い髪を手で押さえ、ロジー・ビィ(ga1031)は細身の身体をファミラーゼの助手席へ滑り込ませた。
『にしても、負傷した要人の警護だというのに、みんな服装がカジュアル過ぎないか』
 通信機越しに呆れた風の起太に、岩龍のコクピットでタリア・エフティング(gb0834)は目を瞬かせ、自分の服装を確認する。リボンやフリルがあしらわれたゴシック・ロリータ風ワンピースに、ライダースジャケットを羽織った服装は、ブランド『Steishia』で統一されていた。
「大丈夫、ですよね」
 ちょっと考えてからタリアは小さく呟き、操縦桿を握り直す。
 地上では、二台の車が空港の敷地内から出る門へと走り出していた。

●邂逅は衝撃と共に
 二台の車と二機のナイトフォーゲルが止まった病院は、物珍しげな人々でやや騒然とした状況だった。
 間近で見るナイトフォーゲルは勿論、機体を降りた起太はUPC軍服の上に、どこぞの(以下略)な伯爵が愛用する品を模した赤いマントを着用し、その姿もまたひときわ目を引いている。
「鯨井‥‥気合い、入れ過ぎじゃない?」
 友人の出で立ちに硯は軽い目眩を覚え、声を落として突っ込んだ。が、逆に起太は顎を上げて、彼を見下ろし。
「何を言う。『要人負傷者の移送』という依頼、これは明らかに普通じゃないだろう‥‥ボクの勘がささやくんだよ。この要人はまず軍人、しかも相当の地位にいる者だってね」
 得意げな起太の鼻が、何だかシャロンにはにょきにょきと伸びて見える。だがそんな彼女の胸中に構わず、起太の鼻はまだ伸び続けた。
「なればこそ、こちらも相応の態度と配慮をもって、しかるべきじゃないか? だというのに、誰も礼装どころか略礼装ですらないとはね」
「鯨井ってさ‥‥」
「うん?」
 今更という表情の起太へ、半ば茫然と話を聞く硯がにっこり笑んだ。
「ホント、兄妹似てるよね」
「ぬぬっ!?」
「お待たせしました」
 起太が言葉に詰まったその時、看護士が彼らの待つ会議室へ姿を見せる。
 緊張気味にロジーが居住まいを正し、ハンドルを握る間もずっと欠かさなかった煙草をアンドレアスは灰皿へ押し付けた。軽くミニハットに手をやってから、タリアも指をスカートの前で組む。
 一瞬流れる、緊張した空気。
 だが、看護士の後ろから現れた人影に、緊張した者達の表情が固まった。
「あ、シャロンと硯だ」
「ホントだ!」
 10代半ばの少年二人――頭や手足に包帯を巻いた少年と、彼が座る車椅子を押す少年が、嬉しそうに手を振る。
「あの‥‥! 要人さん‥‥この方々で、間違いありませんのよ、ね?」
 現れた相手に、思わずロジーはシャロンのサマージャケットの袖を小さく引っ張り、どきどきしながら小声で尋ねた。
「故郷の為に、緊張状態のピレネーを越えた若き英雄さん達、かな」
 小声でシャロンはロジーへ答え、車椅子のリックの前へ硯が膝をつく。
「他の人は友達? もしかして、皆も来てるとか」
 目を輝かせて聞く少年に、彼は顔を上げて頷いた。
「うん、友達と一緒に迎えにきた。他の皆はカルカッソンヌで待ってるよ。それから‥‥もっと早く見つけてやれなくて、ごめん」
「でもカメラマンのおっちゃんが助けてくれたし、硯だって探してくれてたんだろ?」
 謝る硯に、屈託のない笑顔でリックは後ろのニコラを見やる。
「そうだよ。二人とも、約束守ってくれたし」
「話がよく見えませんが‥‥そちらの方々が要人で。えーと、どう見ても子供ですよね?」
 まだ表情に疑問符を飛ばしながら、タリアは小首を傾げ。
「事情を知ってるようだし、説明してもらえるか?」
 唸るような背後の声に硯が振り返れば、前髪をかき上げたアンドレアスと目が合った。

「スペインから避難する為の助けを求めて、二人で歩いてピレネーを‥‥なるほど、そんな事があったんですか」
 椅子に腰掛けたタリアは、揃えた爪先の片方で軽く床をこつんと打つ。
 一部メンバーの疑問を解消する為に、少年達の素性を知るシャロンと硯が事の次第を手短に説明していた。
「まー、そんなら本物の要人つっても問題ないんじゃねぇの?」
「はい、納得ですね」
 椅子の背にもたれ、天井へ紫煙を吐くアンドレアスに、タリアも同意する。
「どんな裏技で、『機体の使用許可が出せる程の要人』って事にしたかは、知りませんけどね」
 短く息を吐き、説明を終えた硯は冷えたオレンジジュースのグラスを傾けた。
「元より、コール氏からの依頼‥‥請けない訳がありませんわ。可愛らしい要人さん、全力で護衛にあたりますので、どうぞ宜しくお願い致しますね」
 頬杖を付いたロジーが、銀髪を揺らして二人へ微笑む。二人の少年は互いに顔を見合わせ、照れたように軽く会釈した。
「ただ、お二人を安全かつ迅速にお送りするなら、そろそろ行動した方がいいと思うのだけどね。情勢は刻々と変わるし、ここが前線に近いなら尚更さ」
 ちらと硯を見やってから、直立不動の起太が進言する。
「そうね。待ってる皆の首が、長くなりそう」
 立ち上がるシャロンに、少年達も頷いた。
 部屋を出る『要人』の為に素早く起太が扉を開き、まず彼らを先にと仲間へ目で促す。その一挙一動たるや、それなりに堂の入ったもので。
「もしかして鯨井、説明を信じてない‥‥とか?」
「合わせてるだけかも知れないけど、どうかな」
 赤いマントを翻し、背筋を伸ばして少年達へ続く後ろ姿に、硯とシャロンは顔を見合わせた。

●厳戒線
 車の窓から見えるA61沿いの風景には、ある程度の間隔を開けて仏軍の部隊が混ざっている。それだけでなく、高速道路のオートルートにも所々に検問が設置されていた。
「ULTだ。後から、二機のナイトフォーゲルとジーザリオが通る。子ど‥‥げふん、要人負傷者の移送中なんで、通してくれ」
 窓から車内を窺う軍服の男を相手に交渉するアンドレアスは、軽く咳払いをしてから言い直す。同時に傭兵である事を示せば、男は最敬礼し、他の者へ問題ないと身振りで示した。
「現状では、この付近でのキメラ目撃情報はありません。お気をつけて」
「ええ、ありがとう」
 声をかける男に助手席からロジーが微笑み、ファミラーゼが再び動き出す。
「こちら先行偵察班、検問を通過。前方は何もナシっと」
 無線機を手に取り、後方の仲間へ用件を伝えたアンドレアスは、指に挟んだ煙草を口へ運んだ。
「煙かったら、窓開けてくれよ」
「大丈夫ですわ。ところでアンドレアス、貴重な助手席‥‥頂いて宜しかったんですの?」
 双眼鏡で前方や周囲を確認するロジーが、レンズから目を離して悪戯っぽく尋ねる。
「ああ。周りを眺めるのに飽きたら、いつでも運転を変わるからな」
 二人乗りのファミラーゼでの助手席に対し、特に何らかの意識はないのか。しれっと冗談めかしたアンドレアスの答えにころころと笑い、彼女は無線機へ手を伸ばす。
「お二人の容態に合わせますので、予定外の休憩が必要な場合は遠慮なくお願いしますね。彼らの安全が第一ですもの‥‥絶対に無事送り届けましてよ」
 懸念を告げたロジーは運転手の横顔を見てから、再び双眼鏡を覗き込んだ。

「もっと元気なら、ナイトフォーゲルに乗せてやりたかったんだけどね」
 残念そうに苦笑しながら、硯は前方のナイチンゲールと、その先を見つめていた。
「アレ、俺らでも乗れるの?」
「うん。簡易の補助席が付いてるから、乗るだけならできるよ。戦闘中の高加速や戦闘マニューバみたいなのは、普通の人にはちょっと無理だけど」
「へ〜ぇ。ジャンク拾っても、操縦席は見た事ないから」
「やっぱ、近くで見るとカッコいいよな」
 助手席で感心するリックに、後ろの席からニコラが付け加える。そしてニコラの隣には、シャロンが座っていた。リックが足にギプスを付けている事もあって、窮屈な思いをしないよう配慮した結果だ。
「車椅子を病院へ返したけど、松葉杖で大丈夫?」
 前のナイチンゲールと後ろの岩龍を嬉しそうに何度も見比べるリックへ、シャロンが声をかける。
「歩く練習、してるから」
「成長期だし、すぐ骨もくっつくよ」
 自身も成長期真っ只中な硯が、僅かに年下の少年達をフォローした。

 やがて近付く検問では、既に待機する者達が遠目で、二機の人型ナイトフォーゲルを確認していたのだろう。
 軍服姿の数人の男が接近するナイチンゲールへバトン型の赤い誘導灯を振り、減速の必要のない事と、速やかな通過を身振りで指示した。
「さすが、判っているようだね」
 敬礼する男達の姿に、満足げな起太がうんうんと何度も頷く。
 その後をジーザリオが問題なく通り過ぎ、岩龍もまた止められる事なく、スルーパスで検問を抜けた。
「お二人にはよけいな気を遣わせず、カルカッソンヌまで行けそうですね」
 まだ気を緩めるわけにはいかないが、ほっと短くタリアが安堵の息を吐く。
 時おりカーブを描きながら東へ続くA61上には、おそらく戦闘の余波で一般道の陸橋が落ち、残骸が散乱する場所もあった。その度に先行したアンドレアスやロジーの知らせで、ナイトフォーゲルで障害物の撤去などを行い、安全と進路を確保する。
 やがて城砦を遠く望むと一行はA61を降り、車の往来も少ない一般道を北へ向かった。

「来た!」
 目を凝らしていた子供の一人が、地平を指差して大声を上げる。
「ホントだっ」
「来たよー!」
 近付いてくる影に子供達は手を振り、大人へ知らせに駆けていく。
 トゥールーズからの一行がブラッスリに到着すると、二台の車と二機のナイトフォーゲルはあっという間に十数人の少年少女に囲まれた。その様子をやや離れたリヌが、面白そうに眺めている。
「無事、到着しましたわ」
 子供達の騒ぎに外へ出迎えたコールへ、運転席から降りたロジーが笑顔で告げ。
 コールの後ろから、少年の友達三人が飛び出してきた。

●思い出を刻んで
「Tomorrow is another day,今日ぐらい、嫌な事は忘れましょ♪」
 ウィンクと共に、シャロンがグラスを掲げる。
 それが、ささやかなパーティの始まりの合図だった。
 ご馳走が並んだテーブルを、孤児の子供達と五人の少年、そして六人の能力者が囲む。
「送り届けた後に、できるなら子供達と楽しく晩餐会でもできないかな」
「そうですね。折角の機会、皆さんの思い出作りにも協力させて下さいませ」
「それに私達、『職権乱用』をUPCに黙ってなくちゃいけない側、ですよね?」
 きっかけは硯の呟きとロジーの申し出、それからシャロンが企む口調で持ちかけた『交渉』だ。
 コールからリヌとイブン達、そして孤児の子供達へ話はすぐ広がり。能力者達が戻った時には、率先する子供達とコールの手によって、宴席の準備が整えられていた。
 その為、『ご馳走』といっても子供達の舌が馴染んだ味と気取らない家庭風料理だったが、誰もが美味しそうに料理を頬張る。
 賑やかな食事がひと段落すると、おもむろに硯が花火セットを取り出す。
「いっぱいあるんです。皆で、やりません?」
「いいな、受けて立つぜ。起太もどうだ?」
 何をどう受けて立つのか謎だが、アンドレアスが愛車からロッタ特製ロケット花火を持ってくる。
「勝負をするというなら、聞き捨てならないな」
 まだ賓客対応モードな起太が、肩で風を切りながら颯爽と答え。
「起太、花火もいいけど、ちゃんと見てないとナイチンゲールのアクセサリ、丸ごと持っていかれるわよー」
 興味深げに機体を見上げる少年達を横目に、シャロンがくすくす笑って忠告した。
「よし。お前ら、よーく見とけ! 花火っつーのはこうやんのよ!」
 声を張り上げると、アンドレアスは手にした特製ロケット花火に火をつけ。
 素早く、先端を起太や硯の方へ向ける!(←危険ですので、真似しないで下さい)
 ぴゅ〜〜〜ぅ〜〜〜‥‥と、間延びした笛のような高い音が響き。
「ちょ、アンドレアスさん早‥‥っ」
 ドンッ!
 硯の言葉を遮って、低い振動が身体を震わせた。
 思わず、子供達と一緒に硯は耳を押さえ。
「くっ‥‥やりましたねっ」
 周囲の音が遠いまま、すかさず『反撃』に出る‥‥が。
「ふっ。主役を忘れてもらっては困るな」
 不敵な起太の笑顔と共に、発射される第二のロケット花火。
「‥‥勢い余って、店を燃やさないようにして下さい」
 子供達に岩龍を見せるタリアが、ぽつんと釘を刺す。
 が、その釘が彼らの耳に届いているかどうかは不明だ。
「私も参戦するわよー!」
 袖をまくってシャロンが劣勢の硯へ駆け寄り、花火を選びながらぽつりと呟く。
「硯、あの時、捜索を選んで良かったわね」
「‥‥はい」
 嬉しそうにはにかんで、硯は頷き。
「隙ありっ!」
 炸裂するアンドレアスの花火で、また耳が遠くなった。

「賑やかだな」
 すっかり観戦モードなコールに、「ええ」とロジーも同意する。
「ゆっくり楽しめる超線香花火も持ってきましたから、後で出しますね。お料理も花火も、ご一緒の思い出も‥‥沢山、心に刻みましょう♪ そして、素晴らしい経験‥‥また一つ、コール氏を知れましたわ」
「こちらこそ、無理を聞いてもらって有難い限りだ」
 微笑むロジーに、コールはグラスを掲げて礼を告げ。
 また、賑やかに花火が炸裂した。