タイトル:緑野を走るはマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/24 23:12

●オープニング本文


●Fair field
 収穫が終わった麦畑に、賑やかな声が響く。
 生えかかった草を踏み、子供達が無邪気に追いかけるのは、五角形と六角形の革で構成された切頂二十面体のボール。
 仲間へ蹴り飛ばし、胸で受け止め、器用に足の間をすり抜けさせて、緑の中を駆け抜ける。
 転がってくるボールに、ラインの端で待ち構えていた子供が腰を落として身構えた。
 横合いからボールを奪おうとする足をかわし、巧みにボールの動きを操ってきた少年が、狙いをつけ。
 ひときわ勢いをつけて蹴られたボールは、待ち構えていた子供が思わず伸ばした手に当たり、空へと上がる。
 ボールを追って見上げれば、大空には太陽と赤い星。
 だが10歳前後の子供達は、太陽の眩さに目を細めただけで、すぐに落下してきたボールを追う。
 子供達が肩をぶつけるように争った末、シュートをはじかれた少年が再びボールを取り戻し。
 次に放たれたボールはキーパーの脇を抜け、勢いよく畑の向こうへ飛んで行った。

「あーっ、もう飛ばし過ぎ! イヴァンが蹴ったんだから、拾ってこいよっ」
 ぶーっと頬を膨らませた友達に笑いながら、シュートをした少年が飛んでいったボールを探しに行く。
 その間に、ボールを追いかけていた子供達は、草の上へ腰を下ろした。
「もー、疲れたーっ!」
「なんか最近、いっつもイヴァンがボール取るんだもん。俺ら、追いかけてばっかりだよ」
「仕方ないだろ。イヴァンよりサッカー上手いヤツ、いなくなっちゃったし」
 その場で伸び上がり、ボールを取りに行った友達を待つ少年の傍らで、キーパー役の少年がばたんと寝転がった。
「なんかもう、つまらなーい。人数いないから、試合とか出来ないしさー」
「みんな、引っ越しちゃったからなぁ」
 困った顔で、一人がぽしぽしと頭を掻く。
 友達も、以前はもっと数がいた。だが初夏の頃から『引っ越し』が急に増えて、一緒にサッカーをして遊ぶメンバーの数も、両手じゃ足らなくなっている。
「ところでイヴァン、遅くない?」
 まだ立ったままの少年が、心配そうに友達へ振り返った。
「どこまでボール蹴ったんだよ、あいつ」
「なぁ、見てこないか? 最近この辺にもキメラ出るとかって、隣のおばちゃん達が話してたの聞いたし‥‥」
 気弱そうな少年が友達の顔を窺いながら提案すると、他の少年達もさすがに不安になってくる。
「でももしかすると、ボールを川に落としたとか‥‥そんなんだったり?」
「穴に落っことしたりしててな」
 不安を隠すように冗談を言いながら、子供達は土を払って立ち上がり。
 そこへ、慌ててイヴァンが走って戻ってきた。
「イヴァン、お前ボールは?」
 手ぶらの友人に少年の一人が顔をしかめるが、イヴァンは払うように大きく手を振る。
「逃げろ! みんな、逃げろ!」
 何の事か判らず、呆気に取られる子供達だが、友人の後ろから現れた『影』を見て、一斉に悲鳴を上げた。
「うわぁぁぁぁーっ!」
「逃げろーっ!」
 日頃、ボールを追い掛け回していた少年達は身を屈め、追われる様に逃げ出す。
 その上を、十数羽の鳥の群れが飛び回った。
 鳥に追いかけられた子供達は、必死になって村へ戻ると家へ飛び込み。
 鳥の群れは子供達が逃げて静かになった畑へ次々と舞い降りると、鋭いクチバシや鉤爪のある足で畑の土を掘り返し、荒らし始める。
 騒ぐ鳥達の真ん中では、周囲の鳥よりも一回り大きな鳥が、首を伸ばして辺りを窺っていた。

 その日から、子供達はサッカーが出来なくなった。
 それだけではない。
 あの鳥の群れによって畑は荒らされ、また家の外に出されていた家畜も次々と襲われて、突き殺された。
 いつ鳥が窓を破ってくるか、あるいは水や食料が尽きるのが先かと、人々は家の中で怯えてすごす。
 そして連絡手段が奪われない間に、UPCへキメラによる襲撃を受けている旨を訴えた――。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
伊河 凛(ga3175
24歳・♂・FT
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

●逃げ場なき村
 暗い空から、光の帯が地上を照らす。
 安全を確認して着陸した高速移動艇は、能力者全員を降ろすとすぐに離脱した。
「鳥型のキメラだけあって、夜の活動率は低いのだろうか」
 遠ざかる移動艇の音を聞きながら、煉条トヲイ(ga0236)は周辺へ注意を払う。隣を歩くアズメリア・カンス(ga8233)もまた、全身に適度な緊張を行き渡らせていた。
「もしかすると、そうかも。油断は禁物だけどね」
「降下の隙を襲われず、何よりです。しかし、鳥キメラとは何故か縁がありますねぇ‥‥」
 短く嘆息し、遠くを見渡すように斑鳩・八雲(ga8672)は額へ手をかざす。
 スペインでも北西の端に近いという地理のせいで、灯火管制は行っていないのか。あるいは、少しでも不安を和らげたいのか。行く手には、暖色の光が夜の闇に瞬いていた。

「今の様子は、そんな感じです。参考になるかどうか‥‥」
 村の代表者から説明された状況は、先に聞いていた内容とほぼ変わらない。それでも、丁寧に鏑木 硯(ga0280)は頭を下げた。
「いえ、助かります。ありがとうございました。キメラ退治の時は、ちょっと騒がしくなりますけど、安心しておいて下さい」
「あの‥‥」
 遠慮がちな声がして、場にいた者が戸口を振り返る。その気配に、子供連れの中年女性が身じろぎした。
「彼が、キメラを一番最初に見つけたのね。私はシャロン、よろしくね」
 片目を瞑ったシャロン・エイヴァリー(ga1843)は笑顔で手を伸ばし、少年へ握手を求める。10歳ほどの少年は、驚いた目で能力者達の顔を見回した。呆けた様子に母親が肘で小突き、慌てて少年は手の平をTシャツで拭ってから、おずおずと握手に応じる。
「よければ、キメラを見つけた時の話を詳しく聞かせてくれないか?」
 母子の姿に僅かに目を細めてから、さっそく伊河 凛(ga3175)が『本題』を切り出した。
「あのキメラの群れを退治するのに、なにか手がかりがあるかもしれない」
 尋ねる凛の黒い瞳をじっと見つめてから、こっくりとイヴァンは頷く。
「えっと、畑で友達とサッカーをしてたら、ボールが飛んでいって‥‥」
 慎重に言葉を選びながら、少年は見たものを話し始めた。
 ボールを追った先で、奇妙な鳥の集団を見つけた事。最初は野鳥と思い、群れの傍らにあったボールを拾おうと近付いた事。すると群れの中で一番大きな鳥が鋭い声を発し、それを合図に他の鳥達が一斉に飛び立ち、向かって来た事。後は友達に危険を知らせ、ただ一目散に逃げた事。
「やはり‥‥体格の大きな固体は群れのリーダーと考えるのが、妥当かもしれないな」
「ええ。僕も、そう思います」
 話を聞いたトヲイの見解に八雲が同意し、凛は暗い窓の外へと目をやった。
「もし派手に飛び回っているなら、少し目を凝らせば判りそうだな」
「ああ、それから。あんま、俺達には身構えなくていいからな」
 腕を組んでイヴァンを見下ろすアンドレアス・ラーセン(ga6523)に、それまで黙って話を聞いていた霞澄 セラフィエル(ga0495)がくすりと小さく笑う。
「あぁ? 何か面白いコトでも言ったか?」
「いいえ、すみません。ただ‥‥それでは逆に、緊張してしまうのではありません?」
 む。とアンドレアスは口をへの字に曲げ、セラフィエルから少年へ視線を移した。
「今の話だと、取りに行ったサッカーボールはそのままなんだよな」
「うん‥‥あ、はい」
 急いで言い直す少年の頭へ、腕組みを解いた手をぽんと置き。
「じゃあ、そいつも取り返さないとな」
 親指を立ててみせるアンドレアスに、少年は何度か瞬きをしてから、本来の表情で力いっぱい頷いた。

●違和感
 普通なら鳥のさえずりや家畜の鳴き声が聞こえるべき村の朝は、キメラの脅威に晒され、しんと静まり返っていた。
「不気味、だね」
 静寂に割り込まぬよう、自然と声をひそめるアズメリアへ八雲が愛想のいい様相を崩さず、飛ぶ鳥の影一つない空を見上げる。
「景色は牧歌的で、良いですね‥‥キメラがいなければ、ではありますが。この様子では家畜だけでなく、野生の小動物や野鳥の類まで駆逐したのかもしれません」
「生存競争のライバルとなりうる存在を、完全に排除したのか。奴らも、生きる為に必死という事かもしれないな」
 違和感に満ちた光景に、砂利の道を踏む凛は腰に帯びた月詠を無意識に確かめた。
「だが人類の、この地で生きるもの達の敵である限り生かす訳にはいかない。速やかに見つけ出して殲滅するのみ、だ」
「うん。これ以上の被害を出さない為にも、確実に退治しないとね」
 ぐっと拳を握り、改めてアズメリアが気合いを入れる。
「つまり、目的は鳥型キメラの殲滅‥‥と、サッカーボールの保護。これで、OK?」
 人差し指と親指でシャロンが丸を作ってみせれば、黙って凛は首肯した。
 目の前の風景とは別種の違和感を思い出し、アンドレアスはがしがしと髪を掻きつつ、喉の奥で唸る。
「だが見た感じ、サッカーやれるほど子供は見当たらなかったよな」
「そう言われると、灯りの付いていない家が多かった気がするな。集まっていた村人の数も‥‥危険を冒してまで外へ出たくないとしても、少なかったような」
 気付いた事柄をトヲイが積み重ね、硯はスペインの各所で起きた混乱を思い返した。
「戦線が拡大したのもあって、ここも安全な場所へ避難した人が多いのかもしれません」
「そうですね‥‥子供達の為にも、早くボールと遊び場所を取り返してあげたいですね」
 長い銀髪を揺らす緩やかな風を受け、双眼鏡を手にしたセラフィエルは目を伏せる。
 襲撃を警戒しながら進む者達は、じきに開けた場所へと辿り着いた。

 時おり翼をばたつかせながら、鋭いクチバシで地面を突き、足の爪でえぐる。
 雑草や作物の苗を問わず、数十羽の鳥型キメラは地面から次々と生える植物全てを引き抜いていた。その中で一匹だけ他の鳥型キメラより一回り体躯の大きいキメラが、仲間の『仕事ぶり』を見守るように、首をもたげて悠然と歩く。
 だが、何か異変に気付いたように、突然その歩みを止めた。
 様子を窺うように右へ左へと首を振った後、鋭い声を発して翼を広げる。
 それを合図に、他の鳥達も土をえぐるのを止め。
 大きなキメラの後を追って、一斉に空へ飛び立った。

「きました」
 双眼鏡越しに迫る一群を見つけ、セラフィエルが警告する。
「数は十羽以上、真っ直ぐこちらへ飛んできます」
「キメラの巣を探すつもりだったが‥‥向こうから、出向いてきたか」
 自分の双眼鏡でトヲイがセラフィエルの言葉を確認し、凛は仲間へ振り返った。
「どうやら、随分と歓迎されているようだな」
「こっちの予定とは少し違うが、向こうさんにも期待されてる以上、盛大に応えてやらなきゃな」
「どっちが根負けするか、勝負ね」
 超機械αを手に冗談めかすアンドレアスへ、シャロンがちらと舌を出し。
 他の者達も、各々の武器を手に取る。
 やがて、肉眼でも空の一角に確認できた点の群れは、見る間に大きくなった。

●空覆う羽音
 ばたばたと空を打つ羽ばたきとは対照的に、音もなく大きな白い翼が広がる。
 実体のない三対六枚の翼の中心で、細い指が洋弓「アルファル」を引き絞った。
「本当は、鳥よりも的を撃ちたいのですけど‥‥」
 小さく呟きながら、セラフィエルは銀の瞳で正面から鳥型キメラの群れを見据え。
 白銀の弓から、矢を放たれる。
 矢は群れ飛ぶキメラの翼を貫き、切り裂くが、致命傷には到らない。
 だが、一時的にでも飛行能力を奪うには、十分。
 羽根をばたつかせ、落ちたキメラが体勢を立て直すよりも先に、白刃が閃いた。
「散られると厄介だ。リーダーは、まだ墜とさないようにな」
 シュナイザーの爪を引き抜きながら、トヲイが注意を促し。
 承知した旨を身振りで示した八雲は、真デヴァステイターの狙いを群れの外側につける。
「こんな事もあろうかと、ってな。全部撃ち落しちまえ!」
 射撃武器を順番に練成強化したアンドレアスを中心として、八人は十字に陣を組んでいた。
 銃を手にした硯と八雲、弓を引くセラフィエルが彼の左右と前を固め。更にその外側をトヲイ、凛、アズメリア、シャロンの四人が前後左右に囲んで、キメラの接近を阻み、同時に撃ち落されたキメラへ止めを刺す。
「思ったより数が多い、後ろを取られないようにするぞ」
「判ったわ」
 呼びかける凛に、アンドレアスの後ろを守るアズメリアが親指を立てて見せた。
 周囲の野鳥より一回り大きい鳥型キメラは、ムクドリの様に群れて飛び回り。
 二羽三羽と数が減るにつれ、ギャアギャアとうるさく鳴きわめく。
「一羽一羽は、それほど強くないのかな」
 小銃S−01を構える硯に、傍らのシャロンが鳥の群れを見上げた。
「でもいっぺんに襲いかかられると、強さ以上に戦い辛いわね‥‥くるわよ!」
 一塊になった群れは空から隙を窺うように旋回し、そして揃って突っ込む。
 その様は、まるで群れ全体が一個の生き物のように思わせた。
 迫るクチバシと爪へ、バックラーをかざしてシャロンが攻撃を遮る。
 肌を露出せぬよう装備で全身を覆っていても、ぶつかる羽根や体当たりの衝撃で、鈍い痛みが走った。
 嵐のような羽ばたきを凌ぐと、セラフィエルと八雲、硯が塊を外側から削っていく。
「練力は、まだ温存して下さい」
 トリガーを引きながら、八雲は群れの中で一番大きい飛影を目で追う。
 群れを率いるリーダー的存在と思しきキメラは、常にキメラ達のほぼ中心にいた。
「一気に仕掛けるなら、群れの数を半分くらいに削いでからでしょうか」
「そうだな。手当ては後でまとめてしてやるから、痛くても泣くんじゃねぇぞ」
「こんなかすり傷、ツバでも付けとけばすぐ治るわよ。それより、あなたは一番目立つんだから、突っつかれないようにしてよ」
 クルメタルP−38で援護するアズメリアが、冗談とも本気とも判別つかない表情で切り返せば、長身のサイエンティストは小さく肩を竦める。
 ただ標的になりやすい事は否めず、群れが急降下する時は身を屈めねばならない。
「くそ‥‥後でまとめて、ローストにしてやるッ!」
 アンドレアスが睨み上げれば、キメラの群れは散開し、今度は四方から襲い掛かってきた。

「傭兵の人達、大丈夫かな」
 数人の子供達が、ガラス窓に張り付いて外の様子を窺う。
「ボール取り返して、また遊べるようにしてくれるって、言ったんだよね」
「うん」
 外を見つめたまま、こくりとイヴァンは首を縦に振った。
 彼らが集まった家の二階からは、キメラの影も能力者の姿も見えない。
 それでも、子供達は窓から目を離さなかった。
 傭兵達が、必ずボールを携えて戻ると信じ――。

 何度目かわからない急降下が、八人を襲う。
「そろそろ、頃合か」
 襲撃が通り過ぎた後、射落とされたキメラに月詠を突き立てた凛が、群れを仰いだ。
 ある意味で執拗かつ単純な攻防を繰り返した末、十数羽いた鳥型キメラの数も、既に三分の一を越えて半数近くまで減っている。
「不利と悟れば、逃亡に転じるでしょう。散り散りに逃げられては、後が面倒です」
「そうだね」
 距離があるうちに八雲は銃を収め、刀を抜き、キメラの動きから目を離さず、アズメリアもまた月詠へ武器を持ち変えた。
「そろそろ、好き勝手やってきた報いを受けてもらうわないと」
「じゃあ、次の降下で一気に叩くわよ」
 挑むような表情のシャロンに、硯も蛍火を手にする。
 セラフィエルは放ってきた矢を仕舞い、新たに扱いの難しい弾頭矢を番えた。
「こちらは、いつでも大丈夫です」
 背後のセラフィエルへ、振り返ったトヲイが一つ頷き。
「リーダーっぽいのを中心にして、一気に痺れさせてやる。逃がすなよ」
 上空で群れが反転するのを見て、アンドレアスは自身へ電波増幅を発動する。
 そして、キメラの群れは最後の急降下を開始した。

 可能な限りの強化能力を施して、慎重にセラフィエルは狙いを付け。
「これで‥‥決めます!」
 引き絞った弓より、弾頭矢を射る。
 鏃に仕込まれた火薬で全体の比重が不安定な矢は、それでも大きく軌道をそれる事なく。
 群れの真ん中で、小爆発が起きた。
 一瞬だが、大気が振動し。
 爆発の中心へ、アンドレアスが超機械αで強い電磁波を発生させる。
 更にそこへ、武器を振るった四人から、波状にソニックブームが迸った。
 鳴声を上げる事も出来ず、鳥の羽根が舞い散り。
 薄く漂う爆煙と羽根を裂いて、硯が落ちる鳥の群れへ飛び込む。
 逃れようとする一番大きな鳥の、翼を蛍火で打って封じると、即座に硯は群れから離脱し。
「散れっ!」
 火炎の如きオーラをまとった一撃を、トヲイが叩き込んだ。

 リーダーを失ったキメラは羽根を引きずり、地面を掻いて、次々に逃亡を試みる。
 だが飛ぶ事の出来ない鳥型キメラに、優位はなく。
 排除を確かめた八雲は、刀を軽く振って血を拭った。
 SES機関が空気を吐き出し、鞘へ収める手から覚醒の淡い紫光が失われていく。
「あとは巣や残ったキメラがいないか確認し、あれば殲滅ですか。それから‥‥」
「「「サッカーボール探し」」」
 揃った声に、八人は顔を見合せ。
 八様の笑みを浮かべて、続く田園風景の先へと向かった。

●蒼穹の下、緑野を走る
 切頂二十面体の球体が、宙を舞う。
「やるからには、負けませんからね♪ シャロンさん!」
 ロングパスを胸で受けた硯は、名を呼んでボールを仲間の前へ送った。
「ナイスパス、硯! 行くわよ、本場仕込みのシューっとぉぉ!?」
 タイミングを合わせて振った足は、ボールではなく空を蹴り。
 勢い余って、そのまま転倒するシャロン。
「やりっ!」
 転がるボールを、少年の一人がドリブルで奪い。
 ボールの進路へ、今度は八雲が立ちはだかった。
「こう見えて、サッカーは多少覚えがあるのです‥‥本当に、多少ですが」
 八雲の脇を抜けるか否か、少年は一瞬迷い。
「イヴァン!」
 相手の隙のなさに、一番頼りになる相手へパスを送った。
 ボールを受けたイヴァンは、ゴールを守るキーパーへフェイントをかけ。
 動きに合わせてアンドレアスが伸ばした手とは逆の方向へ、ボールは飛んでいった。

「お前、すげーな! 絶対将来プロになれるって!」
 がしがしと頭を撫でるアンドレアスに、イヴァンは笑顔で首を竦める。
「こういった空気‥‥落ち着きますね。よければ、アズメリアさんもいかが? 皆さんには、後でリンゴジュースを差し入れますし」
「ありがと。ちょうど喉、渇いてたんだよね」
 観戦しながら紅茶を勧めるセラフィエルに、村人の作業を手伝うアズメリアがコップを受け取る。
「じゃあ、今度は混合戦でっ!」
「相手がお前達なら、手加減しないからな」
「こっちこそ、受けて立ってやる」
 視線を交わした凛とトヲイが、静かに火花を散らし。
 青空の下、再び無邪気な歓声が響いた。