タイトル:正体確認済浮遊物体マスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/09 23:52

●オープニング本文


●空の圧力
 雑然と散らばってテーブルを占拠していた物が、無造作に脇へと押しやられた。
 久しぶりに姿を見せた天板の上に、どんと黒くて捻じ曲がった鉄枠のようなモノが置かれる。
「これは‥‥ガス充填タイプの、飛行船の骨組みだな。焼け焦げはバルーンが燃えた跡か」
 金属製の骨組みを手に取ったチェザーレが、まじまじとそれを観察した。捻じ曲がっているソレには、ところどころ黒いビニールのようなモノがこびりついている。
「発見した能力者さんの話では、周囲の雪が解けていたそうです。充填ガスは不燃性ですから、何らかの理由でバルーンの方が燃えて、骨組みごと地上へ落ちた‥‥という事でしょうか」
 横から覗き込んでいたアイネイアスが、意見を求めるようにプロジェクトの中心的人物へ振り返る。
 残骸を前にティラン・フリーデンは腕組みをして唸るが、そのまま動かない。
「あ〜あ‥‥またやられた。これじゃあ、全部の中継局が壊されるよ」
 気の抜けた声を上げ、ディスプレイをチェックしていたドナートが椅子の背もたれに勢いよく背中を預けた。成層圏プラットフォームの要である無線中継局は、少しずつ確実に数が減らされている。
「どーする? 空で飛び回ってる相手なんだから、こっちからじゃ手も足も出ないよ」
「‥‥仕方あるまいか。危険は排除せねばならんからなぁ」
 盛大な溜め息と共に、のそのそとティランはパソコンへと椅子ごと移動した。
「あの‥‥何かあったんですか? 元気、ないみたいですけど」
 彼の様子にアイネイアスが尋ねれば、チェザーレは顎のヒゲを撫でる。
「スポンサーの一部から、キメラを引き寄せるようなモノは、リスクが高過ぎるとクレームがついてな。なにせ、やたらバカでかいキメラだったって話だからな」
「それは‥‥困りましたね。それなりに成果を出しても、キメラ付では‥‥」
 心配そうに、アイネイアスもほぅと嘆息した。

 能力者による調査で確認されたキメラは、直径が300mを越える巨大なモノで、白っぽい色をした円形のクラゲ、表現を変えればアダムスキー型UFOのような形をしている。
 丸い身体の外縁をヒレの様に細かく動かして、どういう原理か成層圏近くまでを浮上し、移動スピードはナイトフォーゲルよりも遅い。また正面と思しき部分には巨大な口があり、横長はナイトフォーゲルよりも大きいという。
 巨大キメラ自体が何らかの直接攻撃を行う事は確認されていないが、周囲には全長1.5mほどのトンボ型キメラが群れを作っている。これらもまた、火や電撃を吐くような特殊な行動は確認されていないが、ナイトフォーゲルの通常飛行に近い速度で体当たりをしてくる。またトンボ型キメラが巨大キメラの口から吐き出されるという情報もあり、周辺空域では警戒が呼びかけられている。

「キメラを退治しなければならないのは確かだが、問題はドコでどうやるか、であるなぁ」
 UPCに依頼を出すべく判明しているデータをまとめたティランは、珍しく頭を抱えて呻いた。
 何せ、相手はやたらとデカい。
 それが地上に落ちてきた時の事を考えれば、関わりのある者としては頭が痛い話だ。
「いっそ、クラゲだけに海へ帰ってくれれば、有難いのだがががががあぎゃーっ」
 そんな奇怪な叫びを上げながら、彼はデータをUPCへと送った。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
黒江 開裡(ga8341
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

●空の下に集う
「ぅひょ〜ほおぉぉぉぉ〜おをぅ?」
 前回よりも怪しさを増した奇声と動きで、ナイトフォーゲルの周囲をティラン・フリーデンがぐるぐる回る。
 相手が空を移動するキメラの群れとあって、七人の能力者の誰もが各々の愛機を駆って現れていた。ディアブロが三機、そしてS−01とバイパー、ワイバーン、ナイチンゲールの四機が、揃い踏みとなっている。
「噂に違わぬ‥‥というか、面白い人ですよね」
 騒々しい反応を眺める流 星之丞(ga1928)に、きょとんとして愛紗・ブランネル(ga1001)が小首を傾げた。
「面白いって言うか‥‥変な人?」
「変、なのか。まさか、アレの電波をキメラが感知してる訳じゃあないよな」
 真面目な顔で呟いてから、冗談めかすように黒江 開裡(ga8341)が口角を上げてニッと笑う。
「アレ‥‥扱いですか」
 感慨も疑念もなく、淡々とアグレアーブル(ga0095)がわきわきとナイトフォーゲルに夢中な背中を見やる。
「ところで、研究の責任者の人は? 中で待ってるのかしら」
 愉快な挙動中の人物を視野の外において、改めて緋室 神音(ga3576)が『研究所』へ足を向けた。だが見上げる愛紗が青い髪を横に振り、まっすぐ神音の後ろを指差した。
「ううん、アレ」
「‥‥あの人が?」
 疑わしげな表情で、後ろを振り返る神音。
「えーっと、成層圏プラットフォームの代表で、キメラに困って連絡してきた人ーっ?」
 口に手を当てて三島玲奈(ga3848)が呼びかければ、ナイトフォーゲルを見上げていたティランがぴたりと動きを止める。
「呼んだか?」
「本当に、この人なのか‥‥」
 どこか楽しそうに歩いてくる青年に、ちょっとだけ南雲 莞爾(ga4272)が頭痛を覚えた。
「ナイトフォーゲル、好きなんですか?」
 先ほどの挙動に星之丞が尋ねれば、再度ティランは後ろのナイトフォーゲルを振り仰ぐ。
「変形玩具なぞ作るのも、楽しそうではないかとな。もっとも実際に商品化となると、製造各社との交渉も必要であろうがな」
「変形玩具か‥‥そういえば小さかった頃に、合体するロボットの玩具を母に買って貰った記憶があります。なんだか、懐かしいな」
 思い出して星之丞が表情を緩めると、何故か嬉しそうにティランが「うむ」と何度も頷いた。
「幼少において、玩具は子供にとって良き友であるモノだからな。良き記憶と共にあるならば、玩具冥利に尽きるでぎょあへぁぁぁぁ〜!?」
 突然、妙な声を上げて仰け反った相手に、思わず星之丞が身を引き。
「ティランお兄ちゃんって、どうしていつも奇妙な叫び声をあげるの? やっぱり変な人っ」
「わ、脇を不意に突付かれれば、誰でも叫ぶであろうがーっ」
 尋ねる愛紗へ脇をガードしながらティランがおののき、見物していた開裡はからから笑う。
「と、ともあれだな。キメラに抗する方策おをぅ!?」
 逃げるように建物へ戻ろうとするティランだったが、ぐんっと服が引っ張られた。
「な、ななななな、何を‥‥」
 引っ張られた状態で固まったティランを、じーっと上目遣いで愛紗が見上げる。
「‥‥お菓子、隠してるでしょ?」
「ポケットになぞ、隠しておらぬ」
「じゃあ、中にあるんだねっ」
「ちょあぁぁぁ〜っ」
 喜んで扉へ駆けて行く愛紗の後姿に、がっくりとティランは脱力し。
 何事もなかったかのようにアグレアーブルは愛紗の後へ続き、何気なく目が合った神音と莞爾は二人とも、呆れた風に頭を振った。

●作戦交渉
「無線の中継システムを、ナイトフォーゲルに乗っけたいんですけど」
 話を切り出す玲奈を怪訝な表情でドナートが見やり、それから窓の外の機体へ目を向けた。
「あれに搭載させるって?」
「無理かな。中継局の大きさ自体は、そう大きくないよね」
「でも変形するんだろ、あれ。計算されてるだろうから、下手な場所に取り付けられないと思うけど」
「それなら、変形に関係ない部分にくっつければ、問題ない?」
 悩みながら答えるドナートだが、提案する玲奈に引く様子はない。
「仮に、中継局を積めるとして‥‥何する訳? まさか、足らない中継局の代わりをするとかじゃないよね」
「囮‥‥というか、キメラを誘導する為だそうです」
「誘導?」
 付け加えた神音に、ドナートはプロジェクトの中心人物の反応を窺う。きょとんとして二度、三度と目を瞬かせたティランは、眉根を寄せてぽしぽしと髪を掻いた。
「中継システムを使えば、キメラを誘導できるのであるか?」
「まず、現在稼動中の中継局を止めるか、電波を減らして、中継局を捕捉されにくいようにする。同時に、誘導先の湖に囮の中継局を設置し、そちらへクラゲのキメラを向かわせる。
 次に非物理抵抗の高いナイトフォーゲルに電波を反射させ、フェージング現象‥‥微妙にずれた2つの電波を混信させて発生する『うなり』を利用し、中継局に対するクラゲの『距離感』喪失、もしくは混乱を狙う。
 そして、ナイトフォーゲルで撃破。こちらの作戦としては、こんな感じね。落とす場所は‥‥」
「スイスとフランス国境にある、レマン湖で。ここからざっと、南西に250kmくらい離れてる」
 指折り数えて説明した神音に、玲奈が付け加える。
 その間、黙って注意深く耳を傾けていたプロジェクトのメンバー達は、半信半疑の表情で互いに顔を見合わせた。
「それで、上手くいくんでしょうか?」
「いってもらわないと、困るがな」
 アイネイアスの不安にチェザーレが唸って腕を組み、改めて七人の顔ぶれを見やる。中継する無線の電波での誘導作戦を説明する中、何か気がかりがあるのか、開裡は思案を巡らせていた。
「まぁ、キメラに関してはソッチの方が『本職』だし、こちらとしても手の出しようがないのは確かだが。化物へ無駄に機材を喰わせるほど、こっちの懐も暖かくないからな」
 あごひげを撫でながら、溜め息混じりにチェザーレがぼやく。
「ティランお兄ちゃんの机は、お菓子でいっぱいだけど?」
 分捕った『戦利品』で口をもごもごさせる愛紗に、思わず星之丞はくすりと微笑み。
「脳細胞を活動する為には、糖分などが不可欠なのだーっ」
「それで結局、中継システムは取り付け可能でしょうか」
 胸を張って主張するティランを放置して、アグレアーブルが本題に話を戻した。後ろでめそめそ凹む気配がするが、あえてそれは気にしない。
「非常時だしね。ただ衝撃や高速飛行での耐久性は考慮してないから、注意してよ」
「戦闘となれば、破損は致し方ないか。もっとも、キメラを安全な場所まで誘導した後の交戦となるだろうから、問題はないだろうが」
 念を押すドナートに莞爾が呟き、こっくりとアグレアーブルも首肯する。
「トンボの特攻が面倒だからな。そっちは、よろしく頼んだ」
 莞爾がひらりと片手を振れば、真っ直ぐ星之丞は視線を返した。
「はい、掃除は任せて下さい。お互いに頑張りましょう。成層圏プラットフォーム、僕も楽しみにしていますから」

「一つ質問なんだが。飛行船に付いている所在ポイントの発信機をナイトフォーゲルへ取り付けるのは、簡単か?」
 忙しく研究スタッフが準備をする合間を見て、ティランを掴まえた開裡が質問を投げた。尋ねられた側は、「ふむ?」と不思議そうに首を傾げる。
「ポータブルではないため、いささか時間を要する事となるな。だが、中継装置を付けるのではなかったのか? 変更となるなら、作業を中断してやり直さねばならぬが」
「いや、そうなんだけどな‥‥時間、かかるのか」
「うむ。ナイトフォーゲルに関しては我々は素人であるし、あまりに手を加えて不具合を出す訳にはいかぬしな」
「そりゃあ、確かに。にしても、『恐怖、飛行船を襲う空飛ぶ巨大クラゲ』‥‥何と言うか、稀に見るコメントし辛い組み合わせだな」
 面倒そうに髪を掻いて、開裡は機体を見やった。

「前回同様‥‥といっても、皆は前回きた人じゃないからアレだけど、無線中継局の位置データはこっちとリンクして受け取れるようになってるから。でも、こっちは各機体の位置が判らないから、管制塔にはなんないよ。中継局の回避とかは、自分達でヨロシク」
 ドナートが注意する間に、アイネイアスが出力した紙を手にやってくる。
「周辺地域の、気象予測です。レマン湖周辺の天候状態は、多少の雲があるものの、全般安定しています。ただし山間部では急に天候が変わる場合もありますので、注意して下さい」
「それから手元のデータでは、レマン湖の水深は約150〜200m、最大で300mとなっておる。くれぐれも湖畔の被害が少なくすむよう願いたい‥‥難しくはあるだろうがな」
「できるだけ、気をつけるます」
 手を振って声をかけるティランに、コクピットで身体を固定しながら星之丞が答えた。
「お空にクラゲ‥‥ふにゃふにゃしてるのかな?」
「どうだろう。だがさっさと倒して、夕飯はクラゲの和え物にするかな」
 素朴な愛紗の疑問に、笑いながら開裡がキャノピーを閉める。
「随分と、食べ応えがありそうなクラゲだな」
 苦笑しながら莞爾もまた、出撃の態勢に入った。

●予測の結果
『Iris、目標を確認。あれが、問題のキメラね』
 目指す『標的』を目視でも捕捉した神音は、ディアブロの操縦桿を握り直した。
 最新の中継局消失ポイントへと飛んだ者達が目にしたのは、空に浮かぶ直径300mを越える巨体を持ったクラゲ型キメラだった。白っぽいキメラはほぼ円形で、中心へいくほど身体の厚みが増す。逆に薄い外縁にあるヒレの様な部分は、水をかく様にうねうねと動いている。
 距離を取りながらナイトフォーゲルで追い越せば、周囲に数匹のトンボ型キメラを確認できた。
『周りにトンボが群がっていて‥‥まるで、空中母艦みたいだ』
『ああ。雑魚にしては、でかい図体だ』
 驚きのニュアンスを含む星之丞の言葉に答え、不気味に浮遊するキメラへ莞爾は僅かに冷笑を浮かべる。
『のんびり眺めていたい姿形の敵でもないし、な。さっさと片付けるとしようか。飛行船を燃やした攻撃が正体不明だから、気をつけてな』
『了解、距離を取って誘導ポイントへ向かうよ』
 作戦の開始を開裡に促され、予定のポイントへと玲奈は機首を向けた。
『中継局の機能停止、お願いします』
『了解なのだよ』
 星之丞が呼びかければ、地上からの返事が返ってきた。
 これで、周辺にてやり取りされる中継局は、囮である玲奈のみとなる‥‥が、クラゲはそのまま進路を変えることなく、真っ直ぐに別の方向へと進む。
『中継機能は、停止しているの?』
『もう、実行済みだよ』
 再度アグレアーブルが確認すれば、即座にドナートから返事が来た。
『でも、進路は変わってないよ?』
 戸惑うように、愛紗がワイバーンをキメラの群れの後方につける。
『電波が遠いとか弱いとかじゃ、ないよね?』
『まさか、中継システムそのものが壊れたとかではないですよね』
 眉を寄せた神音は一つの可能性を口にするが、『いいや』と彼女の疑問をドナートは否定した。
『こちらの数値では、正常に試験電波が送られているけど』
『もーぉっ、私の電波を見ろーっ!』
 声を張り上げて訴えながら、業を煮やした玲奈が相手の前に回り、何とか注意を引こうとする。
 だが、クラゲ型キメラは彼女の存在に全く反応せず。
『玲奈さん、近付き過ぎ‥‥』
 注意を引こうとするあまり、後からゆっくり進む巨体に自身との距離感を失った機体へ、星之丞が呼びかけ。
 直後、トンボ型キメラが動いた。
『回避して!』
 アグレアーブルが鋭い警告を発し、クラゲとバイパーの間へレーザーとミサイルが次々と飛んだ。
 同時に、突き上げるような衝撃がバイパーを襲う。
 高度を下げていく機体を、なおもトンボの群れが追い。
 それを遮るように、急旋回したナイチンゲールがレーザーを放った。
『ダメージは?』
『頑丈だから、大丈夫』
 短く神音が問えば、眼下のバイパーはクラゲとの距離を取りながら体勢を立て直す。
 ある程度ナイトフォーゲルが離れると、トンボ型キメラは再びクラゲ型キメラの周囲へ戻っていった。
『ん〜‥‥どうやら中継局の飛行船、近くにあるな』
 クラゲの動向を観察していた開裡が、飛行船の信号から自機との距離を計る。
『Garm、確認。あれがそうみたいだな』
 先行した莞爾は、位置に戻る玲奈をフォローしながら、肉眼でソレを見つけていた。
 飛行船は二つのプロペラで位置と高度を制御し、青い空に浮かんでいる。
 接近したクラゲ型キメラは、巨大な口を開き。
『熱線か何かを吐く可能性もあるから、距離に注意しろ』
 莞爾が注意を促す中、口を開いたキメラは次の瞬間、飛行船をすっぽり丸呑みした。
『一口で‥‥食べちゃった』
 呆然と、愛紗が呟くのが聞こえる。
 閉じられた口の隙間から、ぼふっと炎が覗き。
 炎の勢いと共に破片が飛び散って、ぱらぱらと地上へ落ちていく。
『ああやって、中継局を壊しているのね。ふわりと浮かんだ空の船は、格好の獲物といったところなのでしょう』
 じっと一部始終を見つめていたアグレアーブルが、S−01の機首を上げて機体を反転させる。
『キメラが、進路を変えるわ』
 アグレアーブルの言葉どおり、周囲をどれだけナイトフォーゲルが飛び交っても進み続けたキメラは、ゆらゆらヒレを動かしながらその向きを変更した。
『やっと、こっちを追ってくる気になったとか?』
『違うな』
 玲奈の予想を、周囲の信号を検索した開裡がすぐに否定する。
『別の‥‥中継局だ。やっぱり、無線の中継電波じゃなく、飛行船の発信機を追っかけてるみたいだな』
『う〜っ。こうなったら何が何でも、力尽くで方向を変えるからっ! トンボ、追っ払ってよ!』
 スナイパーライフルでクラゲの口を狙いながら、バイパーが正面から突っ込んだ。
 それに反応して、再びトンボの群れの一部がバイパーへ群がる。
『仕方ないわね』
 ぽつんと呟いた神音は、ディアブロをクラゲの後方へつけて照準を合わせる。
『作戦予定空域ではありませんし、無理しないで下さい!』
 呼びかけながら、星之丞はアグレアーブル機S−01と愛紗機ワイバーンと共に、ナイチンゲールでトンボの群れに攻撃を始めた。

 モニタから、無線中継局の位置を示す光点が、次々と消えていく。
 当初は期待して見守っていたプロジェクトのメンバーだが、やがて表情を強張らせて固唾を飲み。
 間もなく最後の光点も消えて、モニタは何も映さなくなった。
「能力者諸氏の善戦には、感謝する。だが、これ以上の作戦遂行は困難であろう。一時、帰投してくれたまえ」
 作戦終了を伝えたティランは、通信を切ると大きく溜め息を一つ吐く。
 そして力尽きたように、ばったりと前のめりに机へ突っ伏した。