タイトル:沈黙の空に潜むマスター:風華弓弦

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/23 23:26

●オープニング本文


●音信不通で行方不明
 成層圏プラットフォーム。
 それは地上から20km付近に無線局を積んだ飛行船を飛ばし、それを使って中継する事で、長距離の通信を可能にする技術だ。
 カバーできる範囲は半径数十kmに及び、電波の送受信も簡易な装置で行える。衛星が使えない現在では数少ない、一般人でも使える遠距離通信手段だ。
 もっとも、それでも相応の知識があれば‥‥の話だが。

「中継局との連絡が、切れたとぉぉぉぉぁぁぁぁ〜っ!?」
 突然の奇声に、水面で羽根を休めていた鳥が一斉に飛び立った。
 ドイツ南部、ボーデン湖に浮かぶリンダウという小さな街。その隅っこ、ボーデン湖の湖畔に、成層圏プラットフォームの実用化に向けて研究を行っているプロジェクト・チームが研究施設を構えている。
 奇声の発生源は、そこの一室だった。
 あらかじめ予期していたのか、ヘッドフォンの上から手で耳を塞いだドナートが、そのまま肩を竦める。
「所在確認用の発信機もね。まるっと、存在そのものが消えた感じ」
「乱気流なんかに巻き込まれて、壊れた可能性はないのか?」
 あごひげに手をやりながら、チェザーレは確認するようにデータを見る女性へ視線を投げた。だが顔を上げた気象観測担当のアイネイアスは、憂鬱そうに首を横に振る。
「連絡が途絶えた日の気象データには、トラブルが起きるような悪天候はみられませんけど‥‥機器系統のトラブルで、墜落したんでしょうか」
「でもさ、綺麗に消えてるのが変じゃない? それに、連絡が途絶えたのは一機だけじゃないんだ」
 最年少の小柄な青年がキーボードを叩くと、ディスプレイには地図と中継局の所在が表示された。研究者達が腰を上げ、肩を寄せ合ってそれを覗き込む。
「これが、ここ数日の中継局の動き」
 ドナートがキーボードのエンターキーを押すと、所在を示す光点が地図の上で明滅した。
 気流などで流される事もあるが、独自の推進装置を持った小型飛行船は多少ならば地上からの指示で位置を保持する。だが間もなく、光点は一つ、また一つと消え始めた。
 ちょうどイタリアとスイスの境界でもあるアルプス山脈の周辺に位置し、イタリアからの情報を中継していた局ばかりだ。
「一気に消えた訳ではないか。打ち上げて間もないから、機器類の寿命とも考えにくいな」
「飛行船のタイプも、プロペラ型やガス型のどちらも消えていますから、故障や設計の問題でもなさそうですか」
 意見を交し合う者達の後ろから画面を見ていたティラン・フリーデンは、電話へ手を伸ばした。それから電話の相手と何事かを交渉し、慌しくメモにペンを走らせる。
「これを、データに重ねてくれんか?」
 長電話を終えたティランが、書き取った数枚のメモをまとめて、ドナートへ突き出した。
「なにこれ?」
「座標であるよ」
 ふぅんと鼻を鳴らしてから、青年はメモの数字を元にキーを叩き。
 新しいデータが画面に加わると、奇妙な表情で三人が振り返った。
「これって‥‥」
「今のは、何のデータなんだ?」
「先ほどUPCに確認した、ここ数日でキメラが目撃された、もしくは被害のあった場所なのだ」
 プロジェクトの中心人物の言葉を聞きながら、三度画面へ視線を移す。
 キメラ情報の一部は、重なっているといっても問題ないごく近い距離で、無線中継局の消失ポイント全てと重複していた。
「しかも、どうやら特定のキメラと合致するようであるな。いずれもトンボに似た昆虫型のキメラが、そこでは確認されているそうだ」
「つまり、キメラが無線中継局も壊して回っているという事ですか?」
 アイネイアスの言葉に、ティランは大きな溜め息と共に肩を落とす。
「それを確かめる事が出来るのは、残念ながら我々ではないがな」

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
藤川 翔(ga0937
18歳・♀・ST
比留間・トナリノ(ga1355
17歳・♀・SN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
鞠絵・エイデル(ga8236
18歳・♀・DF

●リプレイ本文

●未知との邂逅
「おっ。お、お、おぉを〜〜?」
 奇妙な声を発しながら、ティラン・フリーデンが四機のナイトフォーゲルの周りをぐるぐる回っている。
 研究所前に現れたのは、三機のF−104『バイパー』とF−108『ディアブロ』だった。
 成層圏プラットフォームの要である、無線中継局を積んだ飛行船。成層圏に点在する飛行船が襲われたなら、当然ながら襲撃者は空を飛ぶ『ナニカ』だ。それに備え、そして落ちた飛行船を探す為に、能力者達は戦力の半数を空に割いた。
「はいはい、触るんじゃないの」
 興味津々のティランを、無情にも鯨井昼寝(ga0488)がメリメリと引き剥がす。
「見世物じゃないんだから」
「む。減るモノでもなかろう。それに実物は滅多に見れぬものだからな」
「見る機会がないのは、いい事でしょうけど。でも減ったら困りますし、ティラン様相手では何だか減りそうな気がしてきます」
 腕力に負けてじたじたもがくティランに笑いつつ、藤川 翔(ga0937)は割と容赦のない事を言う。
「け、削ったりせんよ?」
「削れるもの‥‥なんですか?」
 てへりと笑顔でティランが訴えれば、稲葉 徹二(ga0163)を見上げる比留間・トナリノ(ga1355)が素朴な疑問を投げた。
「自分に聞かれても、困るのでありますが」
 まだ小首を傾げたままのトナリノに、帽子へ手をやって徹二は頭を掻く。
「どういう駆動で、どういう変形プロセスなのかという点については、興味が尽きないがな」
「そこはやっぱり、研究者として‥‥とか」
 仮にも相手がソレなりの立場である事を鑑みて、遠石 一千風(ga3970)が軌道修正っぽく話を振った。が、ティランは何故か胸を張り。
「いや。ナイトフォーゲル完全変形再現モデルの玩具など、燃えるであろうっ!」
「‥‥判ったから」
 謎っぽく力説する相手へ、脱力気味の一千風がひらひら手を振った。
「あの人って‥‥どういう人です?」
 距離を取り、愛機ディアブロの陰から会話を窺う鞠絵・エイデル(ga8236)へ、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)は両手を広げてる。
「UPCのデータだとプロジェクトの中心的人物で、玩具職人‥‥だっけか?」
「おもちゃ‥‥の?」
 一瞬、頭の中で繋がらず、鞠絵の表情には更に疑問符が飛び交っていた。
「ま、無線を飛行船で中継ってな、なかなか面白い事をやってるみたいだからな。このご時世、そーゆー気概は大好きだぜ。俺は」
 からからと明るくジュエルが笑う一方で、苦笑する一千風は小さく肩を竦める。
「面白いのと変わってるのは、紙一重というか。それとも、変わってるから面白いというべきか‥‥意義ある研究とは思うけど」
「俺は、馬鹿言う人は好きであります。しかし出来ることなら成層圏と言わず、もうちと飛ばしたい所でありますなぁ」
 手をかざし、徹二が青い空へ目を細めた。今は叶わないが、彼が目指すしているのは成層圏の向こう側だ。
「うむ。ぜひとも何とかして、『穴』を開けたいところであるな」
 両手を腰に当て、背中をのけぞらせてティランが天を仰ぎ。
 他の者達もつられるように、空へ目を向けた。

「データの同期、終わったよ。飛行船の信号が受信されるか、試して」
「判りました」
 施設の窓から顔を出したドナートに翔が返事をし、自分のバイパーへ向かった。
「ところでプラットフォームの飛行船って、どの程度の大きさなんですか? 飛行中のナイトフォーゲルが、うっかり誤射して落としちゃった‥‥なーんて事は、ないと思いますけど」
 窓越しに智久 百合歌(ga4980)が聞けば、「ああ」と若い青年は部屋の中を指差す。ごっちゃりとした机の上には、全長1m程の流線型の飛行船が置かれていた。
「あんなモンだよ。ガス充填型のもあれば、太陽電池で動く飛行型もある。タイプごとの性能と、耐久試験も兼ねてさ」
 窓から中を見る百合歌の後ろで、コクピットから翔が大きく手を振る。
「データリンク、OKですー!」
「了解。こっちは機体の位置把握が出来ないから、中継局を撃墜しないようにね」
 悪戯っぽく舌を出したドナートは、ひょいと窓から顔を引っ込めた。

●手がかりを求めて
「中継局の消失原因追求と、出来ればそれの排除、確かに任されたぜ。じゃあ、先に行っとくからな」
 運転席のジュエルはティランに親指を立てて見せると、次いで翔へも軽く指を振る。助手席では地図を広げた百合歌が、中継局の消失地点へのルートを熱心にチェックしていた。
「空からのサポートはよろしくね、昼寝」
「こっちこそ。場所が場所だから、遭難しないでよ」
 後部座席の一千風は、昼寝と冗談めかしたやり取りを交わし。
「戻る頃には、暖かい風呂と食事は用意しておくぞ」
「期待しているであります、ティランさん。お二人も、気をつけて」
 反対側に座る徹二が、トナリノと鞠絵、そしてプロジェクトのメンバーへ敬礼する。丁寧にトナリノが頭を下げ、彼女の後ろから鞠絵は小さく手を振った。

「うっうー、久々に空戦の予感です! こちらも頑張って、行きましょう」
 仲間を見送ったトナリノがぎゅっと拳を握って気合を入れれば、鞠絵もこくんと頷いた。
「出かける前に一つ、確認しておきたいんですが‥‥」
 ドナート達が研究所へ戻るのを確認してから、翔はティランを呼び止める。
「例の『内通者』の件は、あれからどうなったんです?」
 かねてからの懸念を小声で尋ねる翔に、足を止めたティランは髪を掻きながら唸った。
「ベルナール君なら雲隠れしたままで、彼の部屋ももぬけの殻。念のために施設の調査を行ってみたが、爆発物や盗聴器、カメラのたぐいは発見されず、だ。何を思ってコトに及んだかは、彼のみぞ知るというヤツであるな」
「では今回の中継局ロストは、内通者の仕業ではない。という事でしょうか?」
「犯人は、プロジェクトチームの中にいる!」
 険しい表情の昼寝が、二人へビシッと人差し指を突きつけ‥‥ニッと白い歯をみせる。
「これがミステリなら、そうなるでしょうけどね。でもトンボ型のキメラが目撃されてるし、十中八九はソレの仕業だと思うけど」
 肩にかかった三つ編みを背中へ払い、じろりと昼寝がティランをねめつけた。
「にしても、なんだかいつも問題起こってるわよね。ここって」
「いっ、言っておくが、俺のせいではないからな!?」
 睨まれてうろたえながらも訴える相手へ、弾かれたように昼寝が笑い出す。彼女の反応に呆気に取られるティランの袖を、くぃくぃと遠慮がちに鞠絵が引いた。
「戻ってきたら、お風呂とご飯‥‥私のも、あります‥‥?」
 やや涙目の鞠絵の訴えに続いて、腹の虫がくぅぅと控え目に自己主張する。
「‥‥飛び立つ前に、キャンディバーでも食うかね?」
 ポケットから菓子を取り出すティランに、鞠絵はこくこくと首を縦に振った。

 変形した四機のナイトフォーゲルは、舗装道路まで出ると背面の推進装置で加速し、次々と離陸する。
『念を入れて、作戦のオーダーを変更したいのでおじゃるが』
 ある程度の高度を維持したところで、覚醒して口調の変わった翔が切り出した。
『でも、無事な飛行船を確認するのは変わりませんよね?』
 饒舌になった鞠絵が、本来の目的を再確認する。
『そこはそのままで、回るルートを変更するでおじゃるよ』
『それで気が済むなら、構わないけど。何が出るかは、調査してからのお楽しみ‥‥ってね!』
 面倒そうながらも、昼寝は不敵さを含んだ返事を寄越した。おそらく思考はトンボ型キメラとの戦闘や、起こりうるかもしれない別の可能性へと飛んでいるのだろう。
 気持ちを落ち着かせるようにトナリノは一つ深呼吸をすると、レーダーや機器をチェックし、目視で視界を確認した。忙しく動く右眼には、照準器のようなラインが浮かび上がる。
「転送データ確認。晴天により、視界は良好。もし破損した飛行船がいれば、ダメージの程度も確認できるかもしれませんね。もちろん無事なのが一番ですが、うっうー!」
 急いで言葉を付け加えつつ、彼女は翔の送ってきたルートと飛行船のポイントを、再度確認した。

「持ち去って破壊したなら、信号の移動記録が残るはずですよね? つまり、信号が消失した地点で攻撃されて、完全に破壊されたって事でしょうか」
 ナビをしながら推測する百合歌に、口元に手を当てた一千風が思案を巡らせた。
「そうなるけど‥‥キメラはどうやって中継局の場所を知ったのか、気になるなぁ」
「この時期にイタリアとの通信が出来なくなったってのも、ちょっと由々しき問題だよな。タイミングが悪いというか、良すぎるというか」
 連なるアルプスの山々へちらと視線を投げ、ジュエルはハンドルをとんとん指で叩く。
「何にしても、上空班の連絡待ちでありますか。明瞭な手がかりを得ていれば、いいのでありますが」
 窓から外を見る徹二の期待に、百合歌は微妙な表情を浮かべた。
「まず、20kmも上空から落ちるんですもの。残骸は真下ではなく、広範囲に渡って四散しますよね。中継局自体も小さいし、上空から痕跡が見つかるかしら」
「例え発見できなくても問題のキメラが確認できるか、最悪の場合は次の『襲撃』を防ぐ事で何らかの糸口が掴めるかもしれない」
 何気なく髪に指を絡ませる一千風が手を止めれば、赤い髪はするりと指の間を零れ落ちる。
「もっとも、やるからには『最良』を目指すのが、スジだけどね」
 そこへ、車載の通信機が仲間達の知らせを伝えた。

●落ちたモノと落とすモノ
 冷たい風が積もった雪を巻い上げながら、身体へ吹き付ける。
「ぬあっ、さびぃ〜っ!」
 露出箇所から食い込む冷気に、ジュエルは身体を震わせた。テントを担いだ背を丸め、雪に足を取られないよう注意して進む。
「大丈夫?」
 後ろから気遣う一千風の声に、彼は振り返らず脇から親指を立てた拳を覗かせた。
「でっかいのは、こういう時の風除けにならねぇとな」
 強がる背中へ、小さく笑みを作り。それから彼女は、もう二人の仲間へ視線を向ける。
 少し離れた場所では、念のためにロープで互いを結んだ徹二と百合歌が、同じ方向へと進んでいた。
「ひどい風でありますな。このままでは、せっかく見つけた問題の場所が、雪に埋もれて消えてしまうであります」
「まだ、降らないだけマシですけどね」
 上空を飛ぶナイトフォーゲルが見つけたのは、雪に覆われた山肌の中で何故か円形に剥き出しになった、茶色い地面だ。見つけた時は晴天だったが、山の天候は変わりやすく。地上の四人が着いた時には、吹き降ろす風で地吹雪が起きていた。
「他に、手がかりが見つかってないんだ。ナンとしても、これだけは調べないとな」
 半ば意地でジュエルは白い雪を踏みしめ、一千風は彼の踏んだ足跡へ正確に歩を合わせる。
 やがて、明らかに雪の厚みが違う問題の場所へ辿り着くと、四人は安全のために風が止むのを待った。

「アイネイアスさんからの気象データでは、20分ほどで天候が回復するそうです」
『うっうー! 後は、何とかなりそうですね!』
 翔からの連絡を受け、トナリノの声に安堵の色が混じった。
 研究所とのやり取りは軍用回線を使わず、周囲の無線中継局を利用している。理由は簡単で、ティラン達が軍用の設備を持っていないからだ。故に研究所との連絡役は、もっぱら翔が担っていた。
『これで、何かが判ればいいですね。せっかく苦労して作った物を、もったいない‥‥』
 会話を聞いていた鞠絵の言葉が、一瞬途切れ。
『中継局の信号が一つ、消えましたっ』
 慌てた言葉に、残る三人が一斉に自分のレーダーを確認する。
『すぐに向かうわ』
 中継局の警戒に当たっていた昼寝が即答し、翔は地上の仲間達の上を共に旋回するもう一機のバイパーを見やった。
「どうします、トナリノ様」
『でも、単機ではこちらにトンボ型のキメラが出た時、心配なのですよ。敵が複数いないとは、限らないですし‥‥』
『こっちは、鞠絵と私に任せて。盛大なパーティなら、声をかけるから』
『ご馳走のないパーティ‥‥残念です』
 威勢のいい昼寝に続いて、がっかり気味の鞠絵が力のない声で呟き、翔はくすりと笑う。
「夢中になって、呼ぶのを忘れないで‥‥」
『あ‥‥待って下さいっ』
 言いかけた翔の言葉を、トナリノが遮った。
『消えた中継局の位置からこちらへ、何かが接近してきます。ワームほど速くないですけど』
『了解しました』
『そっちへ向かうわ』
 離れた二人から、短い答えが返ってきた。

「これ、ナンだ?」
 見つけ出したモノを前に、ジュエルが眉根を寄せる。
 風がおさまったのをみて、地上の者達は手早く『作業』に取り掛かった。うっすらと雪をかぶっただけの状態から、ソレを見つ出すのは困難ではなかったが。
「焦げた、何かの骨組みのようであります」
 転がっていた黒っぽい骨組みの一部へ徹二が手を伸ばし、拾い上げる。
 ソレは思ったより重量はなく、片手で持ち上げられる程に軽い。
「ひとまず、持ち帰らないとね。プロジェクトの人なら、何か判るでしょう」
「うん。何かの手がかりになれば、いいけど‥‥」
 百合歌へ頷く一千風の上に、黒い影が落ちた。
 雲が光を遮ったのかと、何気なく空を仰げば。
 彼女らの直上で、円い巨大なクラゲが浮かんでいる。
 周囲では例のトンボのような影と、四機のナイトフォーゲルが飛び交っていた。
「なに、あれ‥‥」
 あまりの巨大さに、一千風だけでなく百合歌も呆気に取られ。
「急いで離れよう。俺達がいたら上が交戦できないし、雪崩が起きるかもしれないっ」
 ジュエルが一千風の腕を引き、徹二は急いで荷物に黒い残骸を突っ込む。
 そして四人は巨大な影から逃れるように、雪の斜面を下り始めた。

『何よ、これ!』
 舌打ちしながら昼寝が操縦桿を引き、直進するトンボ型キメラを回避する。
 トンボ型キメラはナイトフォーゲルと比較すれば大きくはなく、見た感じ全長は人の身長と大差ないだろう。
 問題は、数だ。
 十匹近い群れで、機体へ突っ込んでくる。
 高速で飛行するソレがフォースフィールド込みで直撃すれば、タダでは済まない。
 ビームを掃射して落とす事は出来るが、巨大キメラを囲む群れの総量は減った感じがなく。むしろ‥‥。
『あの大きいのが、吐き出しているでおじゃる』
 機体を丸呑みできそうな巨大なキメラの口から、次々とトンボ達が這い出していた。
 巨体の正面に回った翔からの知らせに、鞠絵が腕をさする。
「気持ち悪ぅい‥‥」
『とにかく下の皆が安全圏へ移動するまで、援護するのです』
 トナリノが、きゅっと唇を噛んだ。
 火力が足りない訳ではないが、相手のサイズがサイズだけに、落とす場所は選ばなければならない。一方で巨大クラゲな大型キメラは彼女らの攻撃にも興味を示さず、完全に空域を離れる。

 やがて巨大キメラが向かった方角で、中継局の光点が一つレーダーから消えた。