タイトル:CAP 戦闘空中哨戒マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/16 19:18

●オープニング本文


 人類最大の激戦区の一つであるオタワ・フォートラインの上空には、CAP──戦闘空中哨戒を担うKVの編隊が常に複数投入されている。
 武装した状態で上空に待機し、防空管制司令所や早期警戒機、FAC(前線航空統制官)などから指示を受け、即座に要撃や近接航空支援に赴くのがその役割である。
 特に、通常型戦闘機に数倍する瞬間速度と航続距離を誇り、空戦から陸戦までこなせる究極のマルチロール機たるKVは、──操縦者たる能力者のタフさ具合も含めて──この任務にはうってつけだった。
 空に、陸に、昼夜を問わず。激しい防衛戦の繰り広げられるかの地において、彼らの果たす役割は非常に大きい。

「ロメオ1、こちらODC。エリー方面より敵戦爆連合が北上中、迎撃せよ。現着後の指示はホークアイ11が行う」
「ODC、こちらデルタ1。東部より進攻中だった敵HW編隊は退散した。損害は共に1。至急、SARを要請する。墜落地点は‥‥」
 その日、別件の制空任務に雇われた傭兵たちは、当初、予定されていた作戦の中止を受け、急遽、CAP任務へとその役割を振り替えられた。
 正規軍の予備戦力としてCAPのローテーションに入り、いざという時には防空指揮所の指示に従って戦場に赴き、指定の敵を殲滅する‥‥軍のオペレーターの指示に従っていればいい気楽な任務だよ。ULTの担当官はそんな事を言っていたが、実際は、せっかく雇った傭兵をただで帰してなるものか、とかそういう次元の話なのだろう。
 実際、CAPに出たとしても、敵に遭遇せず、交戦なしに帰還する事だってままある話ではあった。軍にすれば少しでも元が取れれば、という程度の心積もりであったのかもしれないが、この日のバグア軍はやたらと仕事熱心なようで、傭兵たちは地上待機の間もなくあれよあれよと空へと上がり、戦場に赴いた正規軍編隊に代わって、いつの間にか最前衛のCAPの輪まで出張る羽目になっていた。
「ギース1、こちらODC。出番だぞ。オンタリオ湖東岸地域でバグア地上部隊と交戦中の友軍が、敵航空戦力により攻撃を受けている。貴隊は直ちに現地に赴き、味方の頭の上からバグアどもを追っ払ってくれ」
 該当の戦場から最も近くに位置するCAPが自分たちだという。傭兵たちは短く了解と伝えると、エンジンの出力を上げて機首を東へと向けた。
「エコー1、こちらODC。ギース隊の後詰めに入れ。っとと。ODCよりギース1へ。当該の戦場にはFAC(前線航空統制官)がいる。到着したら彼の指示に従ってくれ。コールサインは『バードウルフ』だ」
 こちらが傭兵という事もあってか、どうにも気安いオペレーターの「GoodLuck!」に見送られ、傭兵たちは戦場へと蒼空をひた走った。
 やがて、行く手の空に、1機のRF−104Eが見えてきた。特殊電子波長装置を搭載して通信機能を強化し、FAC搭乗用に複座にしたバイパーの前線管制仕様機だ。おそらくあれが『バードウルフ』。こちらを迎えに来たのだろう。
「ギース1、こちらバードウルフ。よく来たな! 地獄の戦場へようこそ! 俺がこの辺りの空を取り仕切っているバードウルフだ。頭とケツにSirは要らねぇ。傭兵の力、見せてもらうぜ」
 酒焼けをした初老の男の声がレシーバー越しに耳朶を叩く。また変なのが出た、と思いながら、傭兵たちは状況の説明を求めた。
「よし、よく聞け。この先の林間地帯で、地上部隊のM1戦車2個大隊がバグアの地上用ワーム共と交戦中だ。モニターのマップは見てるか? このDからCのラインより北に味方が展開している。それより南は敵だ。『6本脚』に『8本脚』といった旧式の地上用ワームの他に、タートルワームやレックスキャノンも少数確認されている。だが、それは別にいい」
 いいわけはないと思うが、とりあえず黙って先を促す。
「問題なのは、低空域で攻撃ヘリよろしく滞空している8機の小型HWだ。奴等、爆弾をばら撒いた後も戦場に留まり、ハンティングよろしく戦車を狙い撃ちにしてやがる。こいつらがいる限り、地上部隊は前進できない。それどころか逆に敗走しかねない。お前さんたちにはこいつをぶっ潰して貰いたい」
 そのまま沈黙するバードウルフ。傭兵たちは風防越しに顔を見合わせて怪訝な顔をした。FACであれば、進入方向や離脱方向、攻撃方法の指定やら、何らかの指示があってしかるべきだった。
「別に今回は対地攻撃じゃない。‥‥それに、傭兵には俺みたいなジジイの指示出しなど一々要らんだろ。最初に言ったはずだぜ? 『傭兵の力を見せてもらう』ってな」
 流石に呆れた。このFACの態度は‥‥どう取るべきなのだろうか。
「ああ、言い忘れていた。戦場には、爆装したA−1Dが近接航空支援に向かっている。連中が到着する前に、HWの殲滅を頼むぜ」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
エルファブラ・A・A(gb3451
17歳・♀・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
レオーネ・スキュータム(gc3244
21歳・♀・GD

●リプレイ本文

 どうやらこの辺りの軍人さんは、何だかとってもノリが軽いらしい。バードウルフとの無線のやりとりを聞いた響 愛華(ga4681)は、コクピットでわふん、と目を丸くした。
 とは言え、役人的な対応をされるよりは、余程、親しみ易くて良いかもしれない。愛華は微笑を浮かべて無線の送信スイッチをonにした。
「傭兵の力が見たい? 勿論! でも、代わりに、前線管制機としての力も見せて欲しいんだよ!」
 明るく弾む様なその声に、今度はバードウルフの方が面食らった。恐らく、この様な反応を返されたのは初めてなのだろう。そこへ綾嶺・桜(ga3143)が「年寄りといえど、使えるものは使わせてもらうのじゃ」と軽口で追い打ちを掛けた。戦力に余裕は無いのだ。1機でも遊ばせておく訳にはいかない。
「それとも、『前線航空統制官殿の力を見せて貰うぜ』と言えば、指示を出して頂けるのでしょうか? まぁ、勝てるのであれば誰がやろうと大差はないのでしょう。恐らくは」
 レオーネ・スキュータム(gc3244)の言葉は、いっそ辛辣と言ってよい。だが、それを聞いたバードウルフは‥‥あろう事か、大声で笑い出した。
「皮肉を効かせてくれるじゃないか、お嬢ちゃん。ジョンブルか? ‥‥だが、まぁ、俺が『管制』を行わないのは現実的な理由があるからさ」
 傭兵は装備がバラバラで、しかも、同じ機種でも性能は大きく異なっている。そんな能力を把握できない状況で、安易に指示を出す事はできない。
 その上、機材も人員も足りない。そして、彼には、地上部隊に代わって近接航空支援に指示を出す役割があるのだ。
「ふぅん‥‥ソッチで出来なきゃコッチでやるケドさ。後でサイダーでも奢ってね」
 何となく楽しくなって、夢守 ルキア(gb9436)はそんな事を口にした。バードウルフを見ている(聞いてる)と、どことなく死んだ養父を思い起こさせた。
「A−1D‥‥近接航空支援の到着予定時刻は?」
「今日は大繁盛らしくてな。滑走路が混雑して出発が遅れた。デリバリーが届くのは4分後だ」
 バードウルフの返答に了解、と短く返すエルファブラ・A・A(gb3451)。白鐘剣一郎(ga0184)は頷いた。
「なるほど。あまりのんびりとはしていられないという訳だな。ならば迅速確実に行くとしよう」


 CAPという任務は、明星 那由他(ga4081)にとってあまり心楽しい任務ではなかった。
 ああ、勿論、任務自体が元々心楽しいか、という前提には目を瞑った場合の話だ。ともかく、この他人の指示に従ってあちこちに行かせられるというのは‥‥親戚中をたらい回しにさせられていた、そう遠くない過去の記憶を弥が上にも思い起こさせる。
 とはいえ、それも、生き死にの渦中にいる人たちと比べれば──例えば、そう、眼下で砲火に晒されている兵から見れば、或いは『幸せ』であるのかもしれない。もっとも、幸福や不幸は相対化して量れるものではないけれど。
「やはりM−1は押されるか‥‥早急に片付けねばならんな‥‥」
「『気楽な任務』ですか‥‥とてもそうは見えませんね」
 眼下の戦場を見下ろしたエルファブラが眉をひそめ、レオーネがやれやれ、といった態で嘆息する。
「地獄上等。天国みたいな戦場なんてイラナイ」
 にこやかな笑みを浮かべるルキアのセンサーに、攻撃態勢を組む仲間の機影が映る。一撃離脱の為、比較的後方、高高度に位置した彼女たち──2機の骸龍(エルファブラ機、ルキア機)とペインブラッド(レオーネ機)の前方で、2機ずつペアを組んだ前衛機が突撃体制を取りつつあった。
「バードウルフより、傭兵各機。目標のHWは編隊を解いて自由戦闘中だ。広域に展開して地上部隊を攻撃している。恐竜(レックスキャノン)と亀(タートルワーム)はそれぞれ4機ずつ、後方2ヵ所に離れて配置されている」
 対空砲火をものともせずに敵陣上空に突っ込んだFAC機が、傭兵が目標とする対象2機種のいる場所へ発煙弾を撃ち込んでいった。敵機がバラけていると聞いた熊谷真帆(ga3826)はムッとした。‥‥なるほど、敵は本当に狩りの気分でいるらしい。
「降下予定地点上空に敵HW1機を確認」
 エルファブラの報告に了解の旨伝えると、真帆は雷電『風雲真帆城』のスロットルを全開にして愛機を前進させた。
「こちら風雲真帆城、超電磁砲でも銃器でも持って只今参上です!」
 応える様に機が加速し、重力が真帆をシートに押し付ける。追随して前に出る愛華のグリフォン。対地攻撃中のHWは彼女らの接近に気付かなかった。
「わぅっ! やりたい放題してくれたお返しだよっ!」
 ロックオンと同時に愛華が最大射程で多目的誘導弾を撃ち放つ。機を離れたミサイルは白い尾を曳きながら、放たれた猟犬の如く敵を追う。
 今更ながらに気付いた敵が慌ててこちらに向き始める。照準器越しにそれを見つめていた真帆は、遅いです、と一言呟き、D−02狙撃砲の引金を引き絞った。ダンッ、という衝撃と共に砲口から飛び出す高初速弾。放たれたそれはHWが転回するよりも早く直撃、その装甲を突き破る。表面の小さな穴から背後へ抜ける爆発と炎。そこへ愛華の放った2発の誘導弾が立て続けに命中、炸裂する。
 巨大な炎の塊となったそれは地面に激突して爆発した。その上を通過する真帆機と愛華機。地上部隊の兵たちが歓声を上げてそれを見送る。
「ペガサスより地上部隊、これより地上に降下する。できれば戦車隊の火力支援があれば助かるな」
 前進する桜の雷電を見遣りながら、剣一郎は友軍に無線を入れた。降下? と兵が首を傾げる間もなく、上空へと進入した剣一郎は、桜と愛華が放った煙幕を盾にシュテルンを人型へと変形させると、スラスターを全開にして速度を殺し、急制動に軋む機体と身体を律しつつ林間の僅かな空地にスルリと機を降下させる。突然、目の前に現れた人型兵器に目を剥く戦車兵。着地した剣一郎機は即座にスラスターライフルの三連射で3機の地上用ワームを撃ち砕くと、そのまま疾風の様に敵中へと飛び込んだ。
 一方、その上空では、制空隊が新たな目標と交戦に入ろうとしていた。
「やぁやぁ、斬り込みます!」
 敵への迂回と突進を告げた真帆に応え、那由他は敵の目を惹き付けるべく、47mm砲を撃ちながら低空への進入を開始した。
 照準器の向こう、2機並んで飛ぶHWに向け飛翔する曳光弾。それを右へ、左へ、と慣性制御で飛び逃げながら、HWが反撃のフェザー砲で空を切り裂く。フットペダルを踏み込むと同時に操縦桿を傾けて、その怪光線をヒラリ、ヒラリとかわす那由他。そのまま回避運動で機首を振りながら前方へロケット弾をばら撒いた。
 引鉄を引く度に放たれる墳進弾が間断なくHWに襲い掛かる。次々と被弾し、爆発に包まれるHW。その爆煙を逃れて砲を向け‥‥と、そこへ側面から突っ込んで来た真帆機が至近距離からブリューナクを撃ち放った。
「どこぞの超電磁砲を食らえです」
 砲口からプラズマ炎を吐き出しながら、超高速で放たれた磁力砲弾が強かにHWの横っ面を引っ叩く。機体の前1/4を撃ち砕かれてクルクルと回る敵。そのすぐ横を飛び過ぎた真帆機とすれ違う様に、反対側へ回り込んで進入して来たレオーネ機がAAEMを発射。白煙を曳いて直撃したそれは高エネルギーを発して爆発、巻き込まれたHWは機体をズタズタに焼かれながら爆炎を上げ、林の中へと落ちていった。
「行くぞ、天然(略)犬娘! 集中攻撃じゃ!」
 そこから少し離れた場所で合流したHW2機を追い、桜機の発した8式、16式螺旋弾頭誘導弾が、愛華機の多目的誘導弾と放電の嵐が逃げるHWを追い立てるように取り囲む。飽和攻撃を受けて千切れ飛ぶ敵。余波に機を揺さぶられながら、もう1機が弾ける様に逃走に入る。
 ダメージを受けつつ逃げるHW2機は、それぞれ合流する針路を取りつつあった。それを那由他と真帆、少し離れてレオーネが。そして、桜と愛華がそれぞれ追撃する。その様子をセンサーのモニターに見て取ったエルファブラは、背後のルキア機を振り返って翼を振った。
「そろそろ私たちも行くぞ」
「了解、だよ!」
 操縦桿を押し倒し、味方機がシュプールを描く戦場へと機首を向ける。高度を速度に変えながら突進する2機の骸龍。向かう先の戦場では、那由他が乱舞する小型ミサイルで敵機を牽制する中、真帆機が敵の合流を阻止すべく回り込み、その間にレオーネ機が攻撃位置を取っていた。エルファブラはそれに追撃する形で突っ込むと、10式機関砲を長距離から浴びせ掛ける。傷つきフラつく敵の装甲表面を砕き、機関砲弾が弾けて穴を穿つ。
 エルファブラ機に追随して突入体制にあったルキアは、ふと、違和感を感じて、照準器からモニタへ視線を移した。
 逃げるだけなら、敵はそれぞれ最大戦速で味方の上空へ逃げ込めばよかったはずだ。なんでわざわざ、こちらが合流する様な方向へ逃げたのか‥‥
「エルファブラ君!」
 ルキアに呼びかけられて、エルファブラも気付いた。敵は、被弾した機体を囮にこちらを一ヶ所に集めようとしている‥‥!
「逃がしませんよ!」
 敵を取り囲むように移動していた真帆の照準の向こうから、突然、HWの姿が掻き消えた。慌てて視線を機外に振る。敵は、急降下して地上の林間に紛れていた。
 直後、低空を3方より迫っていた残りのHWが十字砲火を浴びせ掛けてきた。エルファブラは舌を打つと、機槍「ドミネイター」と機体各所に増設されたブースターを噴かして、跳ねる様にその攻撃を回避した。ブーストを焚いて包囲網から逃れ出るレオーネ機。地上に降りたHWは五角形を作る形で包囲網を完成すべく林間を移動しつつあるのを、那由他機が頭を抑えてロケット弾を撃ち捲る。爆発がHWに迫り、直撃を受けたそれは独楽の様に回って木立に激突。爆発して砕け散る。
「この手際‥‥有人機がいるよ!?」
「動きの良い機がおる‥‥あれじゃ!」
 愛華と桜の二人は、包囲から逃れるよりも、敵指揮官と思しき機体へ2機がかりで突っ込んだ。
 運良く、那由多のキャンセラーの範囲に敵が全部引っ掛かった事もあって、敵砲の命中率は目に見えて低下していた。包囲とはいえそれを形成する敵の数は少ない。慌てる有人機。その統率が僅かに揺らぐ。
「引き受けるよ、体勢、立て直して!」
 半包囲する3機の片翼、端の1機に頭上から突っかけたルキアが、包囲の中にいる味方に叫んだ。ロングレンジライフルを敵の射程外、最大射程で命中させ続け、堪らず敵が飛び出して来た所を旋回して距離を取る。
「引きつけるからー、駆逐宜しくね?」
 敵が諦める程の距離は取らずに敵を誘引するルキア。側方および側後方からエルファブラ機とレオーネ機が続け様に砲を放って離脱、振り返ったところを再びルキアが突っかける‥‥
 その隙に包囲の輪の外に回りこもうとした真帆は、旋回する機外に見えた二つの『狼煙』にハッとした。バードウルフが対空砲の印として放っていったものだった。
 それが二つ見えている。いつの間にか、こんな所まで引きずられていた。
「対空砲!」
 真帆の警告の叫び寄り早く、地上の2ヵ所から亀と恐竜による対空砲火が打ち上げられた。


 砲火飛び交う林の中を、剣一郎は愛機と共に駆けていた。
 右から、左から、後方から──走り抜ける剣一郎機に対して死角から砲火が浴びせられる。剣一郎の愛機『流星皇』は類稀なる性能を誇ってはいたが、その全てを回避する事など到底望むべくもなかった。
「流石にかわし切れないか‥‥だが、これしきで墜とせるとは思わないで貰おう!」
 目標たる恐竜は、想定より随分と後方に位置していた。愛機に声を掛けさらに前進する剣一郎。針路上に立ち塞がる敵のみを打ち崩し、ただひたすらに前へと進む‥‥
「‥‥いた!」
 林間に目標たる恐竜──レックスキャノンを見出して、剣一郎は走りながら武装を銃から近接兵装へと転換させた。吶喊すべく加速する。その脚部を、足元で半壊したワームのクローが掴み止める。
「しまった‥‥っ!?」
 そこへ集中する怪光線の嵐。剣一郎はそれをPRMシステムを全開にして耐え凌ぐ。間に合うか‥‥システムの限界まであと20秒。ワームの爪を断ち切りつつ、砲口をこちらへ向ける恐竜へ真正面から突入する。
 閃光が機のすぐ側を走り抜けた。炙られた装甲が気泡上に焼け膨れる。突進の勢いもそのままに突っ込んだ剣一郎は肩口から突っ込むと、怯んだ敵を練剣「白雪」で切り裂いた。隣の恐竜がその色を赤に変えながら砲口を向ける。そこに突き入れられるロンゴミニアト、その穂先が内部で爆ぜる‥‥

「頭を潰すのじゃ! 指揮系統を潰せば勝ったも同じじゃ!」
 桜の叫びに応える様に、愛華が敵に吶喊した。宙を跳ねる様に空を駆ける敵HW。愛華がその名の通りの『ステップエア』でそれに追随する。放たれる怪光線。クルリとそれを避けた愛華機が機関砲弾を撃ち捲る。その弾の嵐を喰らいながらも急停止したHWが、愛華機をオーバーシュートさせようとする。
「『高麗狗』。君の力、最大限に使わせてもらうよ!」
 煙幕を張ると同時にステップエアを起動する愛華。振られた四肢が前へと伸びて逆噴射、機体に急制動をかける。跳ねる様に機を敵の後ろへ飛ばした愛華は、煙幕を翼で巻き払うようにして払い除ける。敵は‥‥愛華のさらに後ろに跳んでいた。
 絶句する愛華。フェザー砲の砲口が風防越しに愛華を捉える。その切っ先が光を纏ったその瞬間。後方から桜が突っ込んだ。
「させはせん!」
 空を切り裂き迫る桜の雷電が88mm光線砲を続け様に撃ち放つ。直撃を受け、小爆発を起こすHW。桜はそのままぶつかる様にして敵機を愛華から弾き飛ばす。その突進をなんとかかわしたHWが地上へ逃げる。それを追った桜と愛華は上空からの『十字砲火』で穴だらけにしつつ追い縋る。
「RCは片付けた。TWは‥‥すまん、ここからでは間に合わない」
 周囲に群がる地上用ワームに応射しながら、剣一郎は味方に通信を入れた。敵の数が多く、単騎では離陸出来そうにない。そう連絡を受けたルキアがエルファブラと那由他に援護を要請する。
 恐竜の発煙弾を目印に低空侵入した那由他機が小型ミサイルとロケット弾を周囲の敵に撃ちばら撒く。続けて進入するエルファブラが剣一郎機の手前に煙幕弾を撃ち下ろし、発煙に紛れた剣一郎機が垂直離陸して地獄から空へと逃れ出る‥‥


「東の空域で味方が敵HWを追撃中。敵の航空戦力は駆逐されている。北東より進入して西へ離脱。対地ミサイルを全弾使用。D−Cラインより南は全て敵だ。遠慮なくぶちかませ」
 バードウルフの管制を受け、到着したA−1Dは一斉に誘導弾を発射した。林間に立ち昇る炎と爆発。地上部隊が歓声を上げ、前進を開始する。
「危あぶなっかしい場面もあったが‥‥傭兵の力、見せてもらった。約束通り、帰ったら一杯奢らせてもらおう」
 バードウルフはそう笑った。