タイトル:北中央軍 機種転換訓練マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/14 11:51

●オープニング本文


 F−201C『フェニックス』──
 C型と呼ばれるこのフェニックスのバリエーションは、UPC北中央軍が次期主力KVとして制式採用を決定した改良機である。
 軍からの要求、特に生産性と整備性の向上を追及した型であり、基本となる機体フレームは弄る事無く、各種パーツの見直しが徹底的に行われている。例えば、初期生産型のA型は元々が技術試験機という事もあって、新式の機体安定化装置や気流制御補助力場など「オーバースペック」とも言える新機材を搭載していたが、このC型はそれらを必要最低限の性能を発揮する──即ち、201の機動に最適化された──量産用の機材に変更がなされている。
 中でも一番の変更点は、エンジンを現行の高出力エンジン『SES−200』から信頼性の高い『SES−190改』エンジンに換装した事で、これによりエンジンに関する生産性・整備性は大幅に改善された。出力は大きく下がったものの、コンフォーマルタンクの廃止による軽量化により機体の推力重量比は維持されており、機体の戦闘能力を下げずに低コスト化を達成する事に成功している。
 これらの改良によりC型は空中変形能力を実質的に失う事となったが、その高い戦闘能力と生存性はバイパーの後継機として軍から高い期待を寄せられている──


 2010年5月某日──
 北米大陸カナダの内陸部に存在するその空軍基地は、開戦以来、北中央軍のKVパイロットの訓練施設として使用されていた。
 雨上がりの早朝──森と湖に囲まれた訓練基地という性格故か、前線の基地と比べて纏う空気が柔らかい。どこかのんびりと行く燃料補給車、森から聞こえてくる小鳥の囀り──大雑把な擬装の施された格納庫の中には、初頭訓練に用いられているのであろう、複座に改造されたS−01とR−01が並んでその翼を休めている。
 基地司令の許可を得て、ついでに愛犬の世話も頼まれて。朝食前の散歩に出たモリス・グレーは、ブルリとその身を震わせた。春も過ぎた頃ではあったが、湖から吹く早朝の風はまだ肌寒かったのだ。
「上着を持ってくれば良かったな」
 足を止め、鼻をかむモリス。七歩先を歩いていた司令の飼い犬が振り返り、催促するように2回吠えた。

 もっとも、そんな穏やかな雰囲気は、訓練が始まると跡形もなくどこかへと吹っ飛んだ。
 ピーカンに晴れた蒼天、煌く陽光。KVのエンジンがその咆哮を轟かせ、次々と大空へと離陸していく。回るレーダー、忙しそうに指示を出す管制官たち。発進準備にもたつく訓練生に、教官の怒声が容赦なく浴びせられる。
 そんな様子を横目に見ながら、モリスは駐機場へ向け歩いていた。雨上がりの森の匂いに混じる、航空用燃料の刺激臭──駐機場には格納庫から引き出されたF−201『フェニックス』がズラリとその翼を並べていた。その全てが初期生産型のA型ではなく新型であり‥‥これこそがドローム社KV企画開発部に属するモリスがここにいる理由であった。
「おー、すげぇ、これ全部201かよ!」
 背後から聞こえた若い声に、モリスは後ろを振り返った。初頭訓練上がりと思しき若いパイロットスーツの集団が、今後、自らが乗る機種の実機──それも、ピカピカの新鋭機を見て感極まった様に歓声を上げた。恐らく彼等はこう思っているのだろう。命を預ける相棒として、これ以上自分たちに相応しい機体はない、と。
 モリスは微笑を浮かべた。今はそれでいい。戦場の現実を知るのはそう遠い先の事ではない。
「俺たちはついてるぜ! 入隊して‥‥能力者になって早々、こんな新鋭機に乗れるなんて! 見てろよ、バグアめ。俺たちがこいつで真っ二つにしてやるぜ!」
 訓練生たちの話題が空中変形に移るのを耳に留めて、モリスはハッと我に返った。どうやら一人の訓練生がそれを話題に出し、他の皆がこの新型機に空中人型格闘能力はない、と伝えているようだった。
「そんなバカな! ちょっと、そこのドロームの人! こいつじゃ『ヒーロー』は出来ないのか!?」
 目が合った。モリスは内心苦笑しながら、ゆっくりと振り返った。
「‥‥そうですね。このC型には、A型のような空中で人型格闘戦が出来るような能力は付与してません」
「ちっ。量産型かよ」
 舌打つ若造。モリスの額に青筋が浮かぶ。
「‥‥まぁ、あの奥のD型なら可能ですけどね。軍では、A型に乗り慣れたエースが移行する事になるでしょう。実績のある、パイロットが、ね」
 D型。201の軍向けの仕様をC型にシフトする事を決定したドロームではあったが、空中変形技術を実用レベルから完全に除く事は得策ではないと判断していた。A型に乗り慣れた正規軍パイロットもいる事から、正規軍向けのD型及び傭兵向けのE型(A型改造)が設計、生産される運びとなっている。これにはメルス・メス社の強化変形機構の技術が流用されており、空中人型変形時の行動消費を抑える事により、空中格闘時の攻撃回数を僅かながら増加させている。

「メルス・メスに『技術供与』した『SES−191』エンジンとPM−J8のフレーム‥‥その見返りとして我が社が技術提供を受けたものだ。第3KV開発室はこの強化変形技術を空中変形技術に応用し、以ってその性能向上を計る事。以上、社命だ」
「供与って‥‥あれは発熱に問題を抱えていた欠陥品を押し付けただけだろう? 現に、C型のエンジンは191でなく190の改良型だ。そんな強引な、追剥紛いのやり方で、ようやく開発した技術を『奪われた』なんて‥‥同じ技術者としてこの上なく遺憾に思う」

 201の生みの親、3室長のヘンリーとのやり取りを思い出して嘆息するモリス。だが、こうして得た技術は確実に201の血肉になっている。‥‥後の事は上の連中が考える事だ。そして、上の失点は、上昇志向の強いモリスにとって決して忌避すべき事態ではない‥‥
「なぁ、おっさん。そのD型に俺は乗れないのか?!」
「‥‥ぴーちくぱーちく、ヒヨッコが喧しい事だ」
 答えたのはモリスではなかった。新たに現れた別の集団‥‥F−104『バイパー』からの機種変換訓練組のベテランが訓練生たちを揶揄したのだ。
「そんな事より、おい、ドロームの。こいつはちゃんとまとな兵器なんだろうな? 子供好きする『おもちゃ』じゃ困る」
 それは空中変形を揶揄しての言葉だった。モリスは笑った。
「ご心配なく。バイパーと同様、スタビライザー技術を用いた大型機。皆さんならすぐに適応できますよ。‥‥もっとも、人によるとは思いますが」
 敢えて挑発的な台詞をモリスは付け加えた。
「なに、我が社としてはより上手く使って下さる方がパイロットである方が喜ばしい訳でして。‥‥大丈夫ですか? 今回のアグレッサー(仮想敵)はラストホープの傭兵ですよ?」

●参加者一覧

伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

 まるで一騎打ちをする騎士の様に、互いに正面から突っ込んだ2機のF−201Dは、衝突の寸前、互いに腹を見せるようにロールを打って至近距離をすれ違った。
 その様はまさに剣戟に飛ぶ刹那の火花──地上からそれを見上げていた若い訓練生たちから驚嘆のどよめきが湧き起こる。
「‥‥打ち合わせよりちょっと近かったかな?」
 機上では、パイロットの伊藤 毅(ga2610)が心中、ホッと胸を撫で下ろしていた。どうやら『最初の見せ場』は予想以上に『スリリング』なものとなったらしい。相手役の須磨井 礼二(gb2034)も苦笑している事だろう。
 毅はスロットルを全開にして上昇へと転じると、最小半径でループを決めて、そのまま相手の旋回の内側へと喰らいついた。風防の向こうには、水蒸気の雲を引いて飛ぶ礼二の201‥‥と、その礼二機が大きく炎の尾を引き、推力偏向ノズルを振り回して跳ねる様に空を駆ける。オーバーブースト──D型のエンジンパワーはA型とさして変わらないという話だったが、ブースト自体の機動性向上に合わせてその性能も向上している。
 宙を跳ぶ様に背後へ回る礼二機。毅もオーバーブーストを使用して、尋常でない速さのバレルロール2連続でその背後へ回る。左右へのフェイントを入れつつ跳ねる様に上昇する礼二機。目まぐるしく機位を入れ替えながら巴戦を繰り広げた2機は‥‥最初の交差と同じく正面からの衝突コースに入った。
 ほぼ同時にスタビライザーを起動して、空中で人型へと変形する。息を呑む若い訓練生たち。まるでバネ仕掛けの人形の様に瞬時に人型へと変形した2機の201は互いに盾を前面に構えて突っ込むと、振り被った模擬刀を交差させて戦闘機形態へと通常変形。そのまま大きく離れていく‥‥
「今、諸君に見て貰ったのは、201Dに可能な動きを一通り盛り込んだデモンストレーションだ。本来のフェニックスが持つ100%を感じ取って貰えたと思う」
 地上に置いた無線機が、上空の毅の声を伝えてくる。新人たちは興奮した様子で大きな歓声を上げ、拳を天に突き上げた。
 一方、機種転換組のベテランは、落ち着いた様子で201の性能を分析していた。だが、空中変形への言及はやはりない。
 そんな訓練生たちを鋭い視線で見据えながら、守原有希(ga8582)は彼等の態度に危惧を覚えていた。
(「双方共に、自分や戦友が命を預ける機体に対する軽視の感情が見て取れる‥‥ まずかね‥‥ 認識や心一つで習熟や戦果に影響すってゆうとに‥‥」)

「へぇ‥‥あの子たち(注:訓練生たち。熟練兵含む)、そんな事を? そいつは怖いもの知らずな事だわね。じゃ、叩きのめすのに必要なデータやらは‥‥」
「勿論‥‥既にこちらに用意してある」
 基礎習熟訓練に費やした初日を終えて。訓練基地の一角に設けられた『お客さん』用の宿舎の『ロビー』で、阿野次 のもじ(ga5480)とモリス・グレーは人の悪い笑みを浮かべてその視線を交し合った。
 やがてアルファベットな哄笑を響かせる二人。それを(遠目に)見ていたクリア・サーレク(ga4864)は、腕を組んでうんうんと頷いた。やっぱり、お久しぶりのモリスさんには悪巧みが良く似合う。
「あの男‥‥JASDF時代に見た事がある」
 毅がそう言ったのは、機種転換組のリーダーらしき男の事だった。資料を捲って男の経歴を探す有希。毅はむぅと唸りを上げた。
「米空軍からそのまま北中央軍へ‥‥F−15からS−01、そしてバイパー。ずっと空戦畑を歩いてきたベテランだ‥‥空中変形をバカにするのも無理ないか」
 毅の嘆息に有希は奥歯を噛み締めた。
 あの訓練生たちは、第3KV開発室のヘンリーたちが心血を注いで作り上げた201を莫迦にした。それは開発に関わったスタッフへの侮辱に他ならない。何より‥‥
「有希さんは何より、愛するクリアさんが協力者として関わった201が『子供のおもちゃ』扱いされた事が許せないんですよね?」
 二人の友人、ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)がそう言ってにっこり笑う。顔を真っ赤にする二人。クリアが慌てて立ち上がった。
「そう言うばるたんだって、ヘンリーさんが居なくてめちゃくちゃ寂しそうにしていた癖にー!」
「わー! わー! 知りません、何のことですかーっ!?」
 瞬間沸騰して騒ぎ立てるヴェロニク。仲の良いことだ、と苦笑しながら見ていた龍深城・我斬(ga8283)は、隣で溜め息をつく明星 那由他(ga4081)に気付いて声を掛けた。
「ん? どうした、少年?」
「いえ‥‥僕と僕のKVの事も、子供の使う子供好きのおもちゃ、って映っているのかな、って‥‥」
 改めて溜め息をつく那由他。聞けば、無口で大柄な熟練兵から飴玉を差し出されたという。断ろうとしたらとっても寂しそうな顔をしたので慌てて受け取ると、頭の上にポンと手を置いて去っていったらしい。
「これって‥‥完全に、子供扱い‥‥されてますよね?」
「いやまぁ、その、なんだ」
 言葉に詰まる我斬。その背後でクリアがだんとテーブルの上に立ち上がる。高笑いをしていたのもじは出遅れた。
「ともかくっ! 新兵さんはヒーローとか甘い考えを叩き直す。ベテランさんは空中変形に対する認識のブレイクスルーを目指す。そんな方向性でコテンパンという事で!」


 実機訓練二日目。人型習熟訓練。
 本格的な訓練に入るこの日、ヴェロニクは熟練兵の面々に、バイパーとC型のスペックの差をデータに纏めて手渡した。
「人型形態における各部の駆動を、時間的数値にして纏めてあります。‥‥もっとも、感覚を掴むには実際に動かした方が早いかもしれませんが」
「いや、イメージを掴んでおく事は無駄にはならない。感謝する」
「いえ。皆さん、201と一緒に生き残って欲しいですから‥‥最後まで、ずっと」
 一方、我斬と那由他の二人は、朝食もそこそこにC型の格納庫へと乗り込んでいた。
 嬉しそうに整備中のエンジンルームを覗き込む那由他。全ての準備を終えて機を起動させた我斬は、C型の各部の駆動を確認する。
「うん‥‥操作性の素直な良い機体だ。こういう洗練された機体、俺は好きだけどな」
 肝心の正規軍の乗り手の方に不満や不審があるのは残念極まりない。我斬はコクピットから身を乗り出すと、下のモリスに問いかけた。
「無駄を省いて信頼性を上げたって事だろ? いいじゃん。安くして傭兵に売り出してもいけるんじゃないか?」
「ありがとう。でも、現状、北中央軍へ納入する分で手一杯だからなぁ‥‥」

 この日用意された訓練メニューは、人型形態でのバイアスロン形式の訓練だった。
 重い狙撃砲を担ぎ、でこぼこだらけの不整地を射撃地点まで移動、射撃後、開始地点まで戻って来る‥‥これを何往復か繰り返し、そのタイムと射撃の正確さを競うものだ。単純ではあるが装輪走行は出来ないし、照準プログラムも入れないので自ら試行錯誤して調整していく事になる。
「ゲームといっても‥‥ダラダラやらずに、ちゃんと機体の癖を掴んで‥‥下さいね」
 地響きを鳴らして走るKVの列に向けて、那由多が淡々と声をかける。移動も射撃も機体のセンサーと自らのAIだけが頼り。基礎訓練の蓄積はあるだろうが、慣れない機体という事もあり転倒する機体が続出する。
「なぜ‥‥こんな訓練を‥‥っ!?」
「走れもしないで‥‥戦闘訓練も何も、ないでしょう? ‥‥早く機体に慣れるには、『経験』を積む事が‥‥一番の、早道です」

 翌日。模擬空戦訓練。
 空戦エリアへと到達した新兵たちの編隊は、前方を飛ぶアグレッサー(仮想敵)機を発見した。
 それはHW──ヘルメットワームを模したのもじ機だった。訓練生たちに気付いていないのか、前方をのんびりと横切るように雲間を飛んでいる。
 新兵たちのリーダーは熱血青年ではなく、冷静な面持ちの女性准尉だった。彼女は隊を二つに分けると2段階の攻撃態勢を整え、背後から襲撃させる。模擬戦用のプログラムはのもじ機の撃墜を宣言した。
「やーらーれーたー」
 フラフラとのもじ機が高度を下げる。歓声は一瞬。気付いた時には、後方の支援班ごと纏めて背後を取られていた。新兵たちは礼二が組んだワゴン・ホイール──大きな輪状陣の一角に攻撃をしかけてしまったのだ。
「『空中変形』云々以前に、基本的な空戦技術を身につけるべきですね」
 呟く礼二。クリア機とヴェロニク機が内側から回り込む様に突っ込んでゆく。
 まずリーダー機が集中砲火を浴びて真っ先に落とされた。混乱した新兵たちは態勢を立て直す間もなく、瞬く間に叩き落される‥‥
 第2戦。
 先程と同じ様に孤立して飛ぶのもじ機を発見した訓練生たちは、伏撃を警戒しながら慎重に攻撃態勢を整えた。だが、のもじ機は突然その機種を翻すと、稲妻の様な鋭い動きで正面から先頭集団を撃滅してしまった。
「さっきのは囮の無人機の動き‥‥今のは有人エース機の動き。見極めが出来ないとアウトよ!」

 さらに翌日。模擬地上戦。
 支援射撃を受けつつ突っ込んで来る熱血青年機に向け、我斬は逆に突っ込んだ。驚く青年機は、だが、たたらを踏む事無く突撃継続を決心する。我斬はニヤリと笑った。‥‥判断の早さは良し。だが、敵を至近に得た事によって、後方の支援射撃が止まってしまったぞ?
「動きが直線的過ぎる! そして支援班! 戦闘中に動きを止める奴があるか!」
 我斬がそう叫んだ直後、支援班に向け、両手に模擬機刀を構えた有希機が突っ込んだ。方向転換にもたつく間に懐へと飛び込んだ有希機は、振り被った左の機刀をフェイントにして回転、右の機刀による横からの斬撃を浴びせて払い抜ける。
 驚愕した熱血青年は、しかし、後ろを振り返る暇はなかった。目の前でブーストを噴かした我斬機が直上へと跳び上がり、スタビライザーを起動して空中を一回転。そのまま背後に着地して模擬刀を突きつける。
「どうだ? 使い方が分かってくれば、お前の言う『量産機』でもこんな面白い事も出来るんだぜ?」

 さらにその翌日。人型空挺強襲訓練。その終了後。
 これまでの訓練において、傭兵たちは若い訓練生たちを悉く打ち負かし、全滅させてきた。「習うより慣れろ。墜ちたら考えろ」。とにかく、負けを繰り返す中から何かを得て貰えばいい。
 問題は機種転換組の熟練兵たちの方だった。バイパーを駆って五大湖戦線を支え続けてきたベテランたちは、これまでの訓練で傭兵たちと五分に近い戦いを見せていた。
「空戦はどう?」
「バイパー乗りらしく、高空からの徹底した一撃離脱。一の矢で崩して、二の矢でとどめ。かわせても降下で加速のついたあっちに追いつけない‥‥陸戦は?」
「がっちりと陣を組んで火力の壁を築いてくる。突っ込むと列をずらして十字砲火‥‥バイパーっぽい戦い方のままだけど」
 さて、どうしたものか、と頭を抱える傭兵たち。そんな中、のもじと那由他の二人がこそこそと宿舎の外へと出ようとする。
「ん? どうしたの? そういえば、いつもこの時間にいなくなるけど」
「んんっ!? ちょ、ちょっとね。乙女のヒミツ?」
 慌てた様子ののもじ。オドオドと口を開こうとする那由他の手を引っ掴んで走り出る。

 最終日。模擬空戦──アグレッサーvs若手転換組混成部隊。
 高空へと上昇した若手と転換組、二つの編隊は、互いにロッテを組んで索敵行動に入っていた。
 一方、傭兵たちも同高度、正面から接近する。二つの編隊は互いに円を描く様に旋回すると、互いの尾に喰らいつこうと徐々に半径を小さくしていく‥‥
 と、突然、新兵たちが編隊から離れると、降下して別の所に新たな編隊を築き始めた。傭兵たちの中からも、のもじと那由他の2機が離れてそちらに合流する。当初の作戦行動にない動きにあわてる両者。新兵たちに二人を加えた第3の集団は、再び高度を上げると二つの編隊に向け襲い掛かった。
「いくぜ野郎ども! まさかの裏切り&宣戦布告DEイッツフリーダム。卒業ぱーてぃーだ!」
 先頭に立つのもじが叫ぶ。彼女と那由他の二人は、新兵たちが訓練後に自主的に始めた特訓に付き合い、導いてきたのだ。
 なるほど、そういうことか。と、有希とクリア、ヴェロニクの3人が新兵側につく。或いはアグレッサーに意識改革を促す最後の機会となるかもしれない。
 残った我斬と毅、礼二の3人は、必然的にベテラン組につく形になった。動け、動け、と叫ぶ我斬。201は大型機だがバイパーより機動性が高い。どっしりと構えた戦い方だけじゃ、その速さは活かせない。
「KV乗りは皆の希望であるべきだ。だから、俺はヒーローを目指す。言っていたよな? 『玩具と呼ぶなら玩具でいい。玩具には子供たちの、未来への希望(ゆめ)が詰まっている』って」
「うっ‥‥!?」
 転換組エースへ突っ込んでゆく熱血青年とクリア。エースの支援に向かおうとした大柄のベテランは、しかし、目の前に現れた那由他機に阻まれた。交戦を避け、スタビライザーの機動力で振り切ろうとする熟練兵。那由他も同様に喰らいついて離れない。
「フェニにはフェニにしか‥‥出来ない事もあるんだから!」
 エースに背後を取られたクリア機が人型へと空中変形する。推進軸は動かす事無く、背面飛行の姿勢を取って『後上方』の敵へと模擬弾を撃ち捲る。
 これには流石の敵エースも驚き、慌てて回避行動に入る。そこへ機槍を構えて横合いから突っ込んで来るヴェロニク機。エースはそれも急制動で回避する。
 だが、それは本命の攻撃ではなかった。機首を振り下ろすように降下してきた熱血青年の201。それが空中変形して剣を振りかざす。それはモリスが青年に貸し出したD型だった。クリアとヴェロニクはモリスの腰に悪魔の尻尾を幻視する。
 有希機の援護射撃を受け突っ込んだ青年の人型変形による斬撃が、エース機へと振り下ろされる。あわや接触というその攻撃は、エースの見事な回避運動によって事なきを得──判定がエース機の撃墜を宣言した。


「俺、やっぱりD型乗りを目指すよ。いつになるか分からないけど‥‥いつかきっと」
 訓練終了後、基地を離れる傭兵たちを見送る訓練生たちの中から、熱血青年が進み出てそう言った。クリアとヴェロニクは苦笑しながら、健闘を祈ってヘリへと乗り込む。
 飴玉を舐める那由他の横には、簀巻きにされたのもじの姿。最後の座学、参考にと見せたシェイド戦の映像に、ばるたん×ヘンリー&クリア×有希のラブMAD映像を紛れ込ませていたのだ。
「多くの量産機が戦線を支えんばエースも動けん。量産型への侮蔑はそれに乗る戦友への侮蔑です」
 ヘリに乗り込む寸前、有希が青年を振り返る。謝罪し、右手を差し出す青年。不機嫌な表情のまま有希がそれを握り返す‥‥
「正規軍の皆さん、約束です。また全員揃って再戦しましょう。‥‥必ずですよ?」
 飛び立つヘリの荷室から、そう笑顔で手を振る礼二。整列した正規軍のパイロットたちが、敬礼で以ってそれに応えた。