タイトル:五大湖岸防衛マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/22 06:01

●オープニング本文


 オタワを守るUPC北中央軍にとって、五大湖は巨大な『堀』とも言うべき天然の要害だった。
 その長い湖岸線と深い『縦深』は敵の機動を制限し、攻勢の選択肢を限定的なものにする。圧倒的な戦力を誇るバグア北米軍を前にして、これまで北中央軍地上部隊が曲がりなりにも防衛線を維持できたのは、この湖を盾として、オタワ−フォートラインやデトロイトと言った要所に戦力を集中できたから、というのも間違いなく要因の一つであろう。
 バグアの主力機『ヘルメット・ワーム』は空陸選ばぬ万能兵器ではあるが、然りとて、地域を実質的に制圧するにはキメラ等の地上部隊を必要とする。かくして、五大湖周辺の各所において、正面攻撃を余儀なくされた敵との激しい地上戦が展開される事となり、その上空では彼我の航空戦力による一大防空戦が連日、繰り広げられた。
 それはUPC北中央軍にとって、初めてバグアと互角の戦いを為し得た瞬間であったかもしれない。
 矢玉も尽きよとばかりに投射された大火力は敵地上部隊に強かに損害を与えて出血を強い、人類側の航空戦力は多大な犠牲を払いながらも、五大湖を『渡渉』しようと進攻して来る敵編隊を跳ね除け続けた。湖には撃墜された両軍の機体が数多く墜落し、『アイアンボトムレイク』(鉄底湖)なる呼称を一部に残す事となった。
 この五大湖と防御拠点に拠った戦いは大規模作戦時も継続され、第2次五大湖戦において結実する。幾つかの周辺都市を解放し、僅かではあるが敵の戦線を押し返すことに成功したのだ。まさに我等が母なる湖。これで敵の攻勢が中断したわけではないが、五大湖周辺の北中央軍は敵の圧迫から逃れて文字通り一息吐けたのだった。


 五大湖の中でも特に、敵の前面に位置するエリー湖とオンタリオ湖は戦略的に重要な位置を占めていた。
 最も敵の特殊戦力──迂回や浸透を目的とした水陸両用ワームやキメラが進入しやすい湖であり、しかも、その内懐にはオタワとデトロイト等の各拠点とを結ぶ補給線を抱えている。この補給路の重要性は敵の戦線が下がった今となっても何ら変わるものではないが、その全てに戦力を貼り付ける余力は勿論ない。軍は定点観測用のソナーを設置して、敵が湖から侵入しようとする度に緊急発進した部隊に即応させていたが、そのタイミングはいつもギリギリといった所だった。定点観測用のソナーは決して精度の低いものではなかったが、バグアの妨害の下では大まかな距離と数しか探知できない。湖の上空にはCAP(戦闘空中哨戒)任務についたKVが常に滞空しているのだが、皮肉な事に、我等が母なる湖は、深深度を少数で潜行してくる敵に関しては、その発見をひどくしづらいものにしてしまっていた。

「司令部、こちらイーグル1。ロチェスター方面へ進攻中のバグア地上部隊から一部が分離、オンタリオ湖方面へと向かっている。至急、迎撃の要ありと認む」
 進発した攻撃隊がもたらしたその情報は、すぐにオペレーターの手によって目の前の端末に入力された。卓上のモニターに表示される確認画面と情報とを見比べて、間違いがない事を確認してから確定情報として送信する。直後、正面の大画面に赤い矢印として表示される敵の動向。新たなファクターの登場に、指揮卓の周辺で忙しそうにしていた参謀たちは不快そうに眉を潜めた。
 それはどちらかと言えば、虚をつかれた驚愕と怒りによるものと言うよりも、作業中に顔の近くを飛ぶ羽虫を払う表情に似ていた。接敵し、事務的な喧騒に包まれた司令部の指揮所を、参謀の一人が泳ぐようにオペレーターの所まで歩いていった。
「イーグル1、こちらHQ。分離した敵部隊に対する攻撃は可能か?」
 返事の代わりに返って来たのは、カチカチ、と無線機を2回鳴らす音だけだった。空戦、もしくは回避行動に入り、そのGによって声が出せない状態にあるという事だった。既に部隊は敵編隊との制空戦に突入している。
「HQ、こちらホーク1。敵別働隊の湖への進入を確認した」
「ソナーに感。敵水陸両用ワーム、5ないし10、オンタリオ湖西部を進攻中」
 直後、破壊され失われる定点ソナー。やれやれ、また配備し直さなければならない、と参謀たちは頭を振った。
「‥‥さて、どこに上陸して来るのか。味方の後背に回り込むのか‥‥そのまま直進すればトロントだが‥‥」
「少数による上陸、市街戦による撹乱か。考え難いが、最悪の事態には備えねばならん。湖岸防衛用の水中用KV部隊は?」
「湖東部での戦闘に全機出撃中です」
 海上部隊への配備が最優先という事もあり、五大湖に配置された水中用KVの数は常に不足気味ではあった。もっとも、ないものねだりは軍の常なので、手持ちの兵力で何とかやりくりしなければならないのは士官も兵も変わらない。
「対潜・対地装備のKVを緊急発進。予備部隊はトロント市外にて集結させろ」
「制空隊第1陣、彼我共に後退を開始。続けて第2陣」
「敵地上部隊、正面より突撃を開始!」
 皿の上の料理をナイフで切り分ける様に戦力を配置していく参謀たち。主戦場たる地上戦が開始され、途端にその動きが慌しくなる。
 やがて、湖岸のソナーが敵水陸両用部隊の動向を探知する。その針路は味方後背でもトロントでもなかった。
「敵水陸両用ワーム、オンタリオ湖北岸に接近中!」
 なるほどな、と参謀たちは頷いた。主戦場から遠く離れた場所ではあるが、湖岸を走る補給路は主戦場へも通じている。そして、当然の如く、配備された戦力は前線に比べ遥かに少ない。
 だが‥‥
「驚くには値しない作戦行動だ、バグア」
 それは参謀たちの予想の範囲内の出来事だった。
「最も近くにいる部隊は‥‥傭兵か? よし、連中を湖岸の防衛に当たらせろ。ただの1機も逃さぬよう厳命するんだ」

●参加者一覧

叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
不破 梓(ga3236
28歳・♀・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
ジュリエット・リーゲン(ga8384
16歳・♀・EL
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA

●リプレイ本文

「補給路の寸断とは‥‥また分かり易い作戦ですね」
 広大な北米の大地と大空。眼下に海原の様に広がるオンタリオ湖の長い湖岸と補給線を見下ろしながら──夕凪 春花(ga3152)はエンジンのスロットルを絞ると、緩やかにバンクを打って目標地点への降下を開始した。視界の下辺から競り上がってくる大地。4つのブースターで注意深くバランスを取りながら、人型に変形したシュテルンを浜の上へと舞い降ろす。
「だーーーっ!? こっ、こら、落ち着け、このポンコツ!」
 その春花機の背後を、まるで『骸骨』の様な外見をした継ぎ接ぎだらけのF−201A──湊 獅子鷹(gc0233)の『屑鉄』が、地を蹴立てる様に着陸しながら高速で通り過ぎていった。
 蒼空を仰ぎ見る。次々と降下してくる味方のKV。その向こうを、目新しい新鋭機──DH−201A『グリフォン』が2機、翼に陽光を煌かせて飛んでいた。
「HQ、HQ、こちら『ハングリードッグ』。湖岸ソナーの情報を送られたし」
「ハングリードッグ、こちらHQ。敵は依然オンタリオ湖北岸を目指して進攻中。なお、上陸予測地点は東に200m修正されます」
 ‥‥やはり、あくまでも敵の接近を探知する事を目的とした警戒用の湖岸ソナーでは、バグアの妨害下、攻撃を目的とした精緻な情報は手に入れ難いらしい。グリフォンを駆る響 愛華(ga4681)は、僚機の綾嶺・桜(ga3143)に翼を振ると機を湖の上空へと進入させた。
 真紅と深青。姉妹機の様に塗り分けられた2機のグリフォンが湖原へと高度を下げる。2機はHQが伝えてきた大まかな敵座標の裏へと回り込むと4脚形態へと変形し、ステップエアで滑るように水上へと着水した。直後、水中へと放たれるアクティブソナー。敵機に跳ね返った探信音波が水中に木霊し、数や位置情報を詳らかにする。
「敵数10、前方、単位距離20にて隊列変換中!」
「よし! では、早速さくっとかますのじゃ!」
 そのまま流れる様な動きで各部を閉鎖したグリフォンは、水鳥が水面に飛び込む様に水中へと飛び込んだ。或いは水行くペンギンか。スルリと水中に分け入った2機はそのまま敵の後尾へ向け多連装魚雷を撃ち放った。
 大量にばら撒かれた小魚雷の群れが一斉に敵へと襲い掛かる。ドラムロールの様に鳴り響く水中爆発音。それが水中を伝播する間に、2機のグリフォンは水上へと飛び出し、再び水上を滑り出していた。
「よし、小型8、中型2を確認! 情報は得た。後は‥‥尻尾を巻いて仲間の元まで後退じゃ!」
「三十六計逃げるに如かず、ってやつだね!」
 ブースト点火し、飛ぶ様に水上を奔る2機に追い撃ちがかけられる。放たれる螺旋弾頭誘導弾。次々と水中から飛び出してくるそれらを横滑りに奔ってかわし‥‥再び鎌首をもたげて降りかかる敵弾の中を疾駆する。
 着水攻撃に関する一連の様子を浜から見ていた明星 那由他(ga4081)は、一瞬、我を忘れて息を呑んだ。ビーストソウルにダイバーフレーム、そして、グリフォン。MSIの水中機の技術は、凄い勢いで進んでいるのかもしれない‥‥
 無線機越しに呼ぶ声に、那由他はハッと我に返った。空には不破 梓(ga3236)と叢雲(ga2494)の二人が残り、桜と愛華が入手した情報を元に、上空から味方の配置を修正していたのだ。
「よし、そのまま湖へ向け前進してくれ。補給線から300mは距離を取るんだ」
「各機、行動は2機1組を基本として下さい。各班の間隔は100〜150とします」
 那由他は指示通り、上陸しようとする敵の正面へイビルアイズを移動させると、そこで迎撃態勢を整え始めた。傍らには地殻変化計測器。両腕に構えたシールドキャノンを地上に固定しつつ、47mm機関砲を海岸線へと指向する。
「ついに手に入れた念願のシュテルン‥‥さぁ、『ヴァイス』。まだ完全ではないけれど、その姿、無粋なバグア共に見せてやりましょう」
 近づいてくる爆音を真新しいコクピットで感じながら、ジュリエット・リーゲン(ga8384)は愛機にそう語りかけると、唇に当てた手をそっとコンソールに押し当てた。
 防衛線の西端に位置した彼女の純白のシュテルンは、膝射姿勢で狙撃砲を構えたまま身動ぎもせず、黙って戦いを待ち受けている。その頼もしさにジュリエットは満足そうに頷くと、改めて操縦桿を握り直す。
「不意を突かれぬよう、あらかじめ広く展開していますが‥‥どうしても出来てしまう穴は射程とブーストでカバーです。油断せずいきましょう」
「はいよ。先輩たちの足だけは引っ張らねーように頑張らんとな‥‥頼むぞ、『屑鉄』」
 東端。準備を整えた春花と獅子鷹が武装の安全装置を解除する。戦闘はもう近い。獅子鷹の様な少年は春花の近しい友人にはいないタイプであったが、流石に人見知りをしている暇はなかった。
 遠く離れた那由他機と2機との間に空いた空間‥‥そこを目指して、桜機と愛華機がホバーで一気に湖岸線を踏み越える。
「来たっ!」
 叫ぶ那由他の声と同時に、湖面を割って姿を表す水陸両用HWたち。桜機と愛華機を追い撃ちつつ、多脚をがしゃがしゃと動かしながら次々と上陸して来る。
「爆撃、宜しくだよ! 心配ないからやっちゃって!」
「了解した。これよりアプローチに入る。敵の注意をしっかり前に引きつけておいてくれよ」
 愛華の報告を受け、上空で旋回待機していた梓は機の針路を湖岸線に沿って定針させた。後方についた叢雲機を確認し、翼を翻して急降下を開始する。切り込むように高度を下げつつ、木の葉が舞う様に機位を戻す。機首の先には、フェザー砲を撃ち放ちながら前進するHWたち。気付いた何機かがこちらに砲口を向け、上陸を続けながら拡散フェザー砲を撃ち放つ。
 と、その内の1機のHWの脚が弾かれ、つんのめる様に態勢を崩した。ジュリエットが放った砲弾が、かの機の脚を払ったのだ。
「先手必勝、少しでも削らせて貰いますわよ!」
「少し離れているから当たり難いけど‥‥移動や狙撃の阻害くらいは‥‥」
 ジュリエットの放った第2撃がHWの砲塔を掠め飛び、別の機体には那由他機が機関砲を撃ち捲る。巻き上がる砂塵と弾着。47mm砲弾が敵機の装甲に弾けて炸裂し、敵の注意を引きつける。
 直後、上空を通過した梓機と叢雲機は、既にフレア弾を残してはいなかった。
 操縦桿を思いっきり引いて上昇へと転じる。振り返った梓の視界、慣性に従って中空を落下する無誘導弾は、グリフォン2機を追って突出していた敵の只中へと突っ込んだ。
 ブーストとエアで一気に湖岸から離脱する桜機と愛華機。閃光と共に巨大な火球が膨れ上がり、敵の先頭集団を炎に包む。煌くフォースフィールド、燃え盛る炎と爆風。土が硝子状に溶け固まった円形の爆発痕には湖水が怒涛に流れ込み、新たに大地に刻まれた灼熱の湖底は夥しい量の白煙を立ち昇らせた。


 フレア弾による爆撃は、横列から突出して固まっていた4機を煉獄の底に呑みこんだ。
 総戦力の4割に損害を被った敵は直ちに作戦と隊列を組み直す。数の揃った東の『戦線』を諦め、叢雲、梓のいない西側に残った戦力を叩きつけたのだ。

 上空に弧を描く様に、一斉に撃ち放たれた螺旋弾頭誘導弾。危険な豪雨と化して振り落ちてくるそれらを、ジュリエットは12枚の機翼と4つのスラスターを細かく噴かして回避した。大地を穿ち爆発する螺旋弾頭。その間に、機に練力を叩き込んで『一時強化』した敵は、東に展開していた戦力を西へスライドさせつつ──元からジュリエットと那由他の正面に位置していた機には吶喊を開始させた。
「まるで『居飛車』と『振り飛車』だ‥‥待ってろ、すぐに後詰めに入る!」
 戦線の後方に降り立とうとする梓と叢雲。だが、そこすらもプロトン砲にとっては射程内だった。隊列の底に位置する『8本脚』から放たれる怪光線。命中の期待出来る距離ではないが、無防備な降下状態のKVを牽制するには充分過ぎる。降下のやり直しを強いられた2機はさらに後方へと下がる事となり‥‥結果として、戦場に到達する時間を遅くする。
「桜さん!」
「おう! 抜かさせるわけにはいかぬのじゃ!」
 援護に向かおうとした桜機と愛華機は、しかし、8本脚から放たれたマイクロミサイルの雨霰にその出鼻を挫かれた。意図的に進路上に放たれた着弾に動きを封じられた僅かな一瞬。続けて後続の2機も突っ込み、限定的ではあるが戦場の片隅に敵が数的優位を作り出す。
「くっ‥‥これは‥‥っ!」
 近接戦用のクローを展開して肉薄する敵に盾砲を撃ち放った那由他機は、直後、その砲煙も消えぬうちにそれを投げ捨て飛び退さった。迫った敵が砲煙を切り裂き、地を抉る。そのままフェザー砲を追い撃つHWの一撃をロックオンキャンセラーで逸らしかわし、距離を取りながら47mm砲を連射する。地を撃ち伸びる着弾の火線。一時強化で能力の上がった敵は盾砲の防盾に身を潜め‥‥次の瞬間、西へ──別の敵と交戦中のジュリエットへと突っ込んだ。
「ジュリさん!」
「羽にして堅固なこの刃! 容易く折れるとは思わな‥‥っ!?」
 緊急事態に省略して呼ばれた名に反応して、ジュリエットは死角から振るわれた刃を小太刀で以って受け凌いだ。
 舞い散る火花。連携するように正面の敵が突っ込んで来るのを機鎌を振るって牽制する。
「この‥‥っ! 月の白刃の切れ味、その身を以って‥‥!」
 言いかけたジュリエットは、しかし、言葉を呑み込んで。PRMシステムを発動させつつ機を後ろへ跳躍させた。後続の2機目が突っ込んできて、計3機が取り囲んだのだ。
 発動する最後のPRM。弾き落とされる機鎌。瞬間的にR−P1マシンガンを抜き放って敵の鼻面に撃ち放ち、直後、側面に回りこんだ敵の振るった刃を風防越しに見出して。目も閉じる間もないその一瞬に、だが、後方から放たれた一条の光線が、クローの根元を撃ち貫いて叩き折る。
「済みません、遅れました!」
「叢雲さん!?」
 それは、プロトン砲が掠め飛ぶのも構わずに、垂直離着陸装置で近場に降下した叢雲が放った88mm光線砲による一撃だった。
 瞬間、機槍を抜き放ち、ブーストを焚いて吶喊する叢雲機。呼応したジュリエットが機を敵中から引き離し‥‥直後、受け凌ごうとしたクローごと貫いた叢雲機の機槍が、その後ろの脚部をも貫いて本体の装甲へと突き抜ける。
「レイブン!」
「『ignition』」
 穂先から噴出した液体炸薬が敵機内部で炸裂し、その横腹を吹き飛ばす。瞬く間に崩れ落ちる1機に他の2機は距離を取ろうとして‥‥その内の1機の直上に、ジュリエット機の機鎌が振り下ろされた。
「さっきの続き! その切れ味、その身を以って味わいなさい!」
 一方、残りの1機と砲戦を繰り広げていた那由他の所にも、強引な着陸で戦場に舞い戻った梓が辿り着いていた。
「遅参した‥‥申し訳ない。まだ見せ場は残っているか」
「丁度僕の前面に‥‥1機残っていますけど」
 数的劣勢に後退を開始するHW。その前面に、ユラリとヒートディフェンダーを抜刀した梓機が進み出る。反撃の砲火を乱射する敵。左に揺れると思った瞬間、アクチュエーターを起動して瞬間的に加速した梓機が反対側へと一気に突っ込む。振られる砲口。さらに機を回してフェイントひとつ。敵の懐に飛び込んで振るう刃にカートリッジが点火され‥‥瞬間的に高熱を発した刀身が敵の装甲を深く焼き切り、内部に誘爆を引き起こす。
「お見事‥‥です」
 爆散するHWを他所に、盾砲を拾い上げる那由他機。無造作に放たれた砲弾は、叢雲、ジュリエットの正面から離脱するHWに当たってその脚部を一本、吹き飛ばした。


 叢雲と梓が到着して大勢が決するその少し前。
 戦いの主軸が西へと移動し、戦場の東端に追いやられていた春花と獅子鷹は、遊兵と化すのを避けるべく戦場を移動しようとしていた。
「‥‥ここからでは完全に射程外です。援護の為、移動しましょう」
「おいおい、ここの持ち場はいいのかよ?」
 獅子鷹の言葉に少し考える風にして‥‥春花はそうですね、と頷いた。
「では、射程ギリギリから。そこまで近づいて援護しましょう」
「やれやれ。射撃は苦手なんだが‥‥ごちゃごちゃ言ってはられねぇわな」
 移動を開始する春花と獅子鷹。弾幕に捕らわれた愛華と桜の裏を抜けようとして、目敏く放たれた誘導弾が飛来する。機刀を抜きPRMで回避運動に入る春花。素早く脚部を回して走り避けた獅子鷹機はその内の1発を引っ掛けて、螺旋弾頭に装甲を1枚削り飛ばされた。
「畜生、また継ぎ接ぎしねぇと!」
 悪態を付きながら、西の2機へと突っ込む敵にスラスターライフルで応射する獅子鷹。有効射程外へと逃れた敵を追おうとするのを春花が止めて‥‥次の瞬間、フレア弾で出来た『入り江』の中から、なんと焼け焦げた4機のHWが飛び出して来た。フレア弾の攻撃に耐えた4機はそのまま湖底に潜伏し、戦力の薄くなるこの機をひたすらに待っていたのだ。
「やはり。やたらと戦力を西へ振るな、と思ってはいたのです。爆撃で止めを刺せたのかいまいち分からなかったので‥‥」
 素早く機の踵を返し、ブーストを焚く春花。あっけにとられていた獅子鷹はハッ、と息を吐いて笑みを作り、その後を追って行く。
「そら、そら、そら! オンボロ機体のお通りだ!」
 装輪走行で地を駆けながら両腕で構えたライフルを敵先頭に撃ち放つ獅子鷹機。被弾したその敵機は驚く程あっけなくつんのめって擱坐し、内部から激しく炎を噴き上げた。黒煙を上げて燃えるその横を構わず突進する敵『伏兵』。なるほど、無人機の癖にその『根性』は大したもんだ。
 機刀を手に突進する春花機が、その光線砲の光の刃で以って敵機の足元を薙ぎ払う。焼け焦げていた脚部は面白いほど簡単に千切れ飛び‥‥擱坐して地を滑る敵の横腹に突進の勢いもそのままに刀身を突き入れる。吹き上げる炎を血の様に引きながら、刀身を引き抜く春花機。クルリと背を向け迫る新手に47mm砲を撃ち放ち‥‥獅子鷹機のレーザーとファランクスとの十字砲火で穴だらけにして地に沈める。
 それらの味方の犠牲の元、『ペネトレイト』を仕掛ける最後の1機。だが、それも、横合いから飛び出して来たグリフォンによって、ゴールの遥か手前で捕捉された。
「その有様でよく動く! じゃが、甘い。逃しはせぬのじゃ!」
 後肢で立ち上がった桜機が振るったハンマーボールが敵機の横っ腹を殴り飛ばす。装甲を大きく砕き、凹ませ、スパークを放ちながら転がる敵‥‥そこにくわーっと放たれた銃機関砲の弾幕が、その機体を乱打して粉々に吹き飛ばした。
「‥‥大事な補給路を君たちに壊させる訳には‥‥いかないんだよ」
 燃え盛る炎と黒煙を見遣りながら、愛華がポツリと呟いた。

 突撃した8機のHW『6本脚』を全て失って、隊列の底にいた『8本脚』は湖へと撤退した。
 生残機は僅かに2。全滅には失敗したが、補給線の脅威たり続けるには流石に少なすぎる数だろう。
 補給線は守られた。