タイトル:Uta小隊 冬季制圧戦2マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/13 02:51

●オープニング本文


 2010年、3月──
 ユタ州プロボ─オレム間の『緩衝地帯』における『僕』らの大隊の攻勢は、この時点でも継続されていた。
 戦車もなく、航空支援もなく。戦力は砲撃支援と重火器装備の歩兵のみという前時代的な攻勢ではあったが、プロボの攻防で損耗し、山間の地上補給路を雪に閉ざされたバグアに新規兵力を展開する余裕はなく、大隊は疲労し切った敵の予備兵力を駆逐しつつ、その『奪還』地域を広げていった。

「小隊横列。構え、狙え、撃て!」
 バートン少尉の号令に従って、道一杯に広がって各分隊ごとに膝射と立射、二段の横列を組み上げた『僕』らは、突撃してくるキメラの群れに向けて一斉射撃を開始した。
 黒い狼型キメラに跨り、槍を構えて突っ込んで来る小鬼型キメラ『狼騎兵』。この速度と俊敏性に優れた敵の只中に擲弾が打ち込まれ、自動小銃、分隊支援火器、12.7mm弾が火力の壁となってぶち当たる。キメラのフォースフィールドは非常に高い防御力を発揮するが、弾着の衝撃までは殺しきれない。数の少ない敵はその悉くが打ち倒されて転倒し‥‥『僕』らは動きが止まった敵に次々と無反動砲や使い捨てのロケットランチャーを撃ち込んでいった。
「前方の敵集団、退却を開始!」
 前衛部が文字通り大火力に押し潰されていくのを見て、『落馬』した敵の後衛部は取るものも取り合えず這々の体で逃げ散り始めた。『僕』らはその背に砲火を浴びせながら、並列前進で追撃を開始しようとする。と‥‥
「軍曹!」
 後方の警戒に当たらせていた部下が鋭い声音で『僕』を呼んだ。
 きょとんとした新兵の横で、熟練兵が蒼い顔をして盛んに空を指差している。その先には、蜂と蜘蛛を足して割った様な形状をした、こぶし大の大きさの昆虫型キメラが1匹、どこか呑気な調子でふわふわと宙を漂っていた。
 醜悪な外見を除けば儚げとも言えそうな小さな敵──力場を持っていてなお、『豆鉄砲』(5.56mmの自動小銃)でも倒せる弱敵1匹を前にして‥‥しかし、『僕』は冷静さを保つのに相当の努力をしなければならなかった。
「バートン少尉!」
 緊張した固い声音で少尉を呼ぶ。常に剛毅・沈着なこの下士官上がりの少尉が、空を舞う『蜘蛛蜂』に気付いて珍しくその表情を強ばらせた。
「ジェシー、すぐに隊を纏めろ。追撃は中止する。ウィル! トマス! 後退だ! 貴様らの分隊で先頭を行け! APCまで走るんだ。全員、速やかにこのエリアから離脱しろ!」
 マジかよ、と呻いたウィルが部下に全力での移動を命じる。最低限の隊列でもって移動を開始した小隊の殿に立って走る『僕』の耳に、まるで耳鳴りの様に唸る無数の羽音が聞こえ始めた。
「振り返るな! 走れ、走れ、走れ!」
 自分の発した命令通り『僕』は背後を振り返らなかった。
 灰色の曇天に廃墟のコンクリ──無彩色に染まった廃墟の市街地に、まさに雲霞の如く集まって来た『蜘蛛蜂』が巨大な『蚊柱』を形成し始めていた。


 冬の到来と共に攻勢の限界点に達した敵は、前進を中止してプロボに陣を構え根を下ろした。
 オレムに後退した大隊とプロボの間には『緩衝地帯』とでも言うべき武力の空白エリアが出現したが、バグアはそこに警戒用のワームやキメラを放ってこちらの接近を牽制していた。
 『ライトニングニードラー』──『僕』たちが『蜘蛛蜂』と通称で呼ぶこの小型の昆虫型キメラもまた、敵がこの地域に配置した警戒用キメラの一種だった。
 これまでに得られた情報からは、警戒地域に配置されて一定範囲の哨戒を担っているものと想定されていた。なりこそ小さいが、強靭な顎と強力な電撃を纏った針とを攻撃手段に持ち、脅威には常に集団で対処する。同様にこの地域に配されているワーム『センチネル』が対車両・KV用の警報装置だとすれば、『蜘蛛蜂』は対人用の排除装置と言えるかもしれない。
「『蜘蛛蜂』には『活動拠点』となる『巣』が存在する事がこれまでの偵察で確認されている。『蜘蛛蜂』には斥候役がおり、通常の哨戒行動を担うと共に、エリア内での戦闘を感知して飛来する。そして、どのような基準か分からんが、それが脅威と判断された場合、連絡役が『巣』に戻って待機している大集団を呼び寄せる。‥‥こうなるともう手がつけられない。巨像を1体倒すよりシロアリを殺し尽くす方が難しいのは道理だ。これなら『トロル』(巨躯を誇る人型キメラ)の1個中隊を相手にする方がまだマシだ」
 そう冗談を言ったバートン少尉は、しかし、すぐにその顔をしかめた。やはり、どちらを想像してもあまり楽しい予想絵図にはならなかったらしい。
 あの後、何とか無事に『蜘蛛蜂』の集団から逃げおおせる事に成功した『僕』らは、大隊本部に能力者の支援を要請した。とてもじゃないが、非能力者である『僕』たちだけであれをどうこうする事など出来なかった。
 前線へと移動するAPC(装甲兵員輸送車)の中で、能力者たちに状況を説明する。『僕』らの属する中隊はあの『蜘蛛蜂』の群れにより進攻の停滞を余儀なくされていた。
「能力者の諸君には、我々の前方地域のどこかに存在する『蜘蛛蜂』の巣を探索し、破壊して貰いたい。捜索方法、および破壊方法はそちらに一任する。我々はAPCで後続し、万一の場合には我々が車内へと運び込む。‥‥我々は君らだけを戦わせはしないし、決して見捨てる事などしない。決してだ」
 君たちが敗れた時は、我々が命に代えても助け出す──少尉の言葉に、『僕』は力強く頷いた。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
九頭龍 剛蔵(gb6650
14歳・♂・GD

●リプレイ本文

 目標地点に到達したAPC、その後部扉が勢いよく開かれた。
 薄暗い兵員室に、まるでスポットライトの様に光が飛び込んでくる。龍深城・我斬(ga8283)はスッと息を吸い込むと、勢いよく兵員室を飛び出し、崩れた廃屋の壁際へと一気にその身を取り付かせた。
 そのまま建物の角まで進み、取り出したシグナルミラーで三叉路の先を確認する。4車線の広い道──鏡の向こうに映る世界も、やはり廃墟と曇天が広がる無彩色の世界だった。
(「人世の名残か残骸か‥‥バグア共め。状況が許すなら、何も考えずに吶喊して片っ端から叩き潰してやりてぇ気分だぜ」)
 鏡で敵影がない事を確認した我斬は、悪態を呑みつつ手信号で味方を呼んだ。周辺警戒の態勢を取った兵隊たち。その裏を、両手に突撃銃を構えた九頭龍 剛蔵(gb6650)が低い姿勢で走り抜ける。
「やれやれ。やっぱ寒いねぇ。まだまだ」
 我斬の背後に滑り込んだ剛蔵は、ずれたヘルムを直しながらポン、と我斬の背を叩いた。それを合図に飛び出す我斬。膝射姿勢で銃を構えた剛蔵の援護の下、一気に通りを横断して行く。
 剛蔵に続こうとした綾嶺・桜(ga3143)は、ふと思い立ってジェシーたちを振り返った。『君たちが敗れた時は、我々が命に代えても助け出す』‥‥もし、そうなったら、いったいどれ程の被害が出るだろうか。
「‥‥。ジェシー。今日はもうお主らの出番はないのじゃ。兵員室で昼寝でも‥‥いや、愛華の腹ペコ対策でもしておるがよい」
 敢えて冗談っぽく言いながら、桜は余裕の笑みを浮かべて見せる。話題に上がった響 愛華(ga4681)がおどけた様に振り返った。
「そうだね。ご飯用意しておいてくれないと、私たちが飢え死にしちゃうからね!」
「こやつは3倍の量が必要じゃから大変じゃぞ? って、飯抜きで飢え死にするのはお主だけじゃろうが!」
 油断なく周囲に目を配りながらニヤリと笑う熟練兵たち。不味い戦闘糧食でよければ山盛り用意しておくよ、と嘯くジェシーに、桜は頷いて走り出す。
「‥‥桜さん、大丈夫?」
 兵たちに背を向けた桜と愛華は、もう笑ってはいなかった。蜘蛛蜂の集団には、以前、こっぴどい目に遭わされた事がある。
「‥‥わしらがやらねばならんからの」
 頷く愛華。『地獄の春』──キメラの大群が再進攻を始める日は、もう間近に迫っていた。

「作戦を確認するぞ? 2班に分かれた俺たちはそれぞれに陽動を仕掛け、斥候役の動きを探って『巣』を探す。‥‥問題はないな?」
 瓦礫を伝うように這い進み、上手く敵をやり過ごしつつ──敵警戒エリア深くまで侵入した第2班の面々(桜、愛華、剛蔵)は、我斬の最終確認に意も強く頷いた。
 それぞれに陽動の準備に入る。
 適度に背の高い廃墟に目をつけた剛蔵は、内部の安全を確認すると、銃を背に回して瓦礫や梁を伝って階上へとよじ登り始めた。そのまま危なげなく屋上へと上がり、広い視界を確保する。剛蔵は周囲を見回して頷くと、眼下の仲間たちに口笛で合図した。
 瓦礫の横を這い進んでいた桜は、護衛役について来た我斬と、後方でエネルギーキャノンを構えて援護態勢に入った愛華と頷き合い、身を起こして弾頭矢を番えた弓を大きく引き絞って撃ち放った。
 狙いの先には、瓦礫の間に転がる自律式機雷『子目玉』一つ。盛大、と言っても良い規模の爆発が湧き起こり、爆風が周囲の瓦礫を薙ぎ払う。
「我ながら派手な音を立てたものじゃ。これで蜂共が巣から出てくれば良いのじゃが」
 攻撃後、愛華の横に滑り込んだ桜が嘯く。偶々爆発に巻き込まれたもう一つが爆発し、ド派手な爆音が鳴り響いた。起動し、瓦礫の陰からコロコロと転がり出てくる子目玉たち。『狼騎兵』たちも集まって来る。
 屋根の上で慎重に身を隠した剛蔵は、外套の中からその様子を観察していた。
 目標は小さい。双眼鏡の狭い視野を振って、独特の動きで空を舞うそれを見逃すまいと──
「‥‥いた」
 斥候役と思しき2匹の蜘蛛蜂──恐らく追尾役と連絡役だろう。剛蔵は素早く来た方向と時間を見定めると、崩れた柱を滑り降りる様にして階下へと下り立った。鳥真似の口笛。そのまま『巣』があると思われるエリアへ向け隠密行動を開始する。隠れていた3人が瓦礫の陰を這う様に剛蔵の後へ続いた。


 一方、別行動を取っていた第1班の面々もまた、斥候役の蜘蛛蜂を誘き寄せる事に成功していた。
「蜂さん蜂さん、こっちの水は甘いぞーう、なのでありますよ」
 AU−KVに身を包んだ美空(gb1906)が、力強く保持したガトリング砲を廃屋に向け撃ち放つ。唸りを上げて回転し始める多銃砲身。物凄い勢いで吐き出された砲弾が壁面をあっという間に突き崩す。
 かろうじて原形を保持していたその建物は、柱を砕かれすぐに崩落を開始した。轟音と粉塵とが派手に空へと舞い上がる。即座にAU−KVの装着を解いた美空は、敵に見つからぬようすぐにバイク形態で離脱した。
「‥‥さて。『巣』とやらの位置把握をさせて貰おうか」
 集まってくるキメラたちを双眼鏡で確認していた鳳覚羅(gb3095)は、2匹の蜘蛛蜂を視認して素早く時計に目を落とした。
 ペンのキャップを咥えて外す。現在位置、来た方向、出現までの時間、おおよその速度‥‥手にした地図上に想定した蜘蛛蜂の移動ルートを線で引き、予想エリアに円を描く。
「位置予測完了。これより移動を開始します」
 集まりだした敵との接触を回避して、廃墟の中を回り込む様に移動する1班の4人。想定エリアに到着して探索を開始したが‥‥それらしきものは発見できなかった。
「静かすぎますね‥‥『ハズレ』でしょうか」
 周囲に視線を走らせながら呟くアグレアーブル(ga0095)。その後ろの小さなビルの上には、周辺警戒に当たる阿野次 のもじ(ga5480)の姿が見える。
 覚羅は無線機を借り受けると、報告がてら1班に状況を確認した。剛蔵が伝えてきた状況はこちらと似たようなものだった。どうやら双方共に最初の探索は失敗したようだった。
「こうなったら、斥候役が来た方向を虱潰しにするしかない‥‥でしょうか?」
 地図上に指を走らせながら、美空がちょっと自信なさそうにそう言った。普段の美空は「美空たちに任せておけばオールオッケなのでありますっ!」と自信に満ち溢れているのだが、自慢の『あほ毛』が半分になった影響か、少し弱気なようだった。‥‥もし全部なくなったら、いったいどうなってしまうのだろう?
 アグレアーブルは少し考える様な素振りをして‥‥無線機を手にのもじを見上げた。ビルの上ののもじは、怪しげなポーズでうねうねとしていた。
「8のじ、パチのじ、はちのじのもじ〜♪」
 見晴らしの良いビル上、効果音も高々にポージングを決めるのもじ。‥‥反応はない。ユタの冷たい風が吹く。のもじは決めポーズのまま袖で額の汗を拭くと、劇画っぽい表情で呟いた。
「‥‥こいつは‥‥ギリギリの戦いになりそうね(ゴクリ)」
 ああ、第5キャンプの子供たちの声援が懐かしい。あの時の純粋な声援を受け、のもじは『操縦値が10上がった!』のだ。応援してくれる皆ありがとう。ユタではKV使えないけどね。
 黄昏るのもじの無線機が鳴り、淡々とした声が周囲の状況を尋ねてきた。蜂さんは寄って来せんよ〜、と答えるのもじに、しかし、アグレアーブルは首を振った。
「そこから狼騎兵は見えますか?」
 丁度、1個分隊ほどの数が移動しているのが見えた。回避するのか、との問いかけに、アグレアーブルは「迎え撃ちます」と言い切った。
「もう1度です。狼騎兵と積極的に交戦し、蜘蛛蜂にこちらを脅威と認識させます」

 廃墟に銃声が立て続けに鳴り響き、横列で突撃してきた狼騎兵たちは、端から順に『騎馬』たる狼を撃ち抜かれて次々と落馬していった。
 アグレアーブルの速射を逃れ、突撃を継続する残りの狼騎兵。撃ち尽くした銃に無駄のない動きで再装填、突っ込んで来る敵めがけて銃撃を再開し、狼を狙い撃ちして足を止める。『落馬』して起き上がろうとした『騎手』たる『小鬼』は、その態勢を整える前に、突っ込んで来た覚羅の鎌に薙ぎ払われた。移動と斬撃。クルリと優雅に円を描く刃の軌跡に血飛沫が舞い上がる。
 側方から突っ込んで来た1隊は美空が撃ち放った弾幕によって阻止された。撃ち漏らしにのもじが矢を放ち、こちらも瞬く間に追い散らされる。
 飛来した蜘蛛蜂の斥候2匹は、『キメラを駆逐し得る戦力』、『覚醒した能力者』がいる事を確認すると、追尾役を残して連絡役の1匹が離脱した。
 それを見た覚羅は首を傾げた。連絡役の1匹は、来た方向とはまた別の方向へと飛んで行ったのだ。
 すぐ2班に連絡が飛び、覚羅は嫌な予感と共に今来た斥候役の発起点を割り出しにかかった。その予測地点は‥‥先程、廃墟を崩して蜘蛛蜂を誘引した場所を指していた。
「──しまった。そういう事か」
 すぐに2班を呼び戻すよう声を上げる覚羅。遅かった。2班は既に複数の小集団と接触しており、その数は急速に増えつつあった。


 蜘蛛蜂は地区哨戒を担当するキメラである。設置された『巣』に駐在し、担当エリアを哨戒、侵入して来た脅威を集団で攻撃、排除する。
 能力者たちの予測通りエリアには複数の『巣』が存在したが、その間隔は予想より密ではなかった。補給のやせ細った敵にそれだけの余力がなかったからだ。故に、『巣』から離れた場所の哨戒任務も斥候役が担っている。
「『蜘蛛蜂』には斥候役がおり、『通常の哨戒行動を担うと共に』、エリア内での戦闘を感知して飛来する」
 つまり、誘引した斥候役が『巣』から直接飛来したものとは限らない。そして、運の悪い事に、今回、能力者たちが誘引した斥候は(3回)全て、哨戒中の個体であった。

「斥候の来た方向ではなく、連絡役が向かった先‥‥例えば──」
 呟きながらジェシーが地図にペンを走らせる。二つの班から連絡役が飛んでいった方向に直線を引き──その2本が交わる場所に丸をした。
「では、能力者たちに連絡して‥‥」
 部下の言葉にジェシーは頭を振った。蜘蛛蜂の大きさを考えれば『巣』の大きさもかなりのもののはずだ。それがこれまで見つかってないとなれば、恐らく屋内かどこかに隠蔽されている。‥‥そして、探索中も敵の数は増え続けるのだ。
「ここまでだな」
 軍曹の言葉にジェシーは頷いた。
 戦場では既に、能力者たちが倒す蜘蛛蜂の数よりも来援する数の方が上回りつつある。幸い、能力者たちは完全に敗北していない。今ならまだ間に合うはずだった。


 蜘蛛蜂集団との戦闘に入った2班を迎え入れるべく、1班の4人は退路に繋がる交差点を保持しつつ、戦闘準備を整えた。2班は狼騎兵の追撃も受けており、大集団を形成しつつある大量の蜘蛛蜂と合わせて苦戦を強いられていた。
「迎撃しますよ、美空さん」
「うぅ‥‥なんかどこに撃っても外しようがないくらい的がでかいのでありますよ」
 ガトリング砲を構えたアグレアーブルと美空は、敵を射程に捉えるや相互に攻撃を開始した。
 砲口から伸びる炎の舌、振り落ちる無数の空薬莢──砲口に追随して火線が大空をうねる群体に吸い込まれ、砲弾に裂かれ砕かれた死骸がポロポロと群れから零れ落ちる。
 のもじは、弾頭矢の入った矢筒をアスファルトの隙間に突っ込むと、敵中央部が薄くなった瞬間を狙って、ありったけの弾頭矢を叩き込んだ。次々と群れの中で炸裂する弾頭矢。爆風と破片で空いた穴は、しかし、すぐに別の個体によって埋められた。着弾の衝撃も、群体である蜘蛛蜂(大集団)の足を止めてはくれない。
「ならば、覇王・真音獣斬を使わざるを得まい!」
 まるで巨大な津波の様に迫る群れ。矢を継ぐ間に接近されたのもじは、気合いと共に衝撃波を放ってその『鼻面』を打ち据えた。衝撃にたわむ群れ。その隙に最後の弾頭矢を放ち『瞬速縮地』で距離を取る。
「クッ! ガッツ(弾頭矢)が足りない!」
「こいつを使え!」
 前方から後退してきた我斬が、小脇に抱えた来た剛蔵(『ロウ・ヒール』で回復中)ごと、弾頭矢をのもじに放ってやった。ジャンプ一番、飛び上がって弾頭矢を引っ掴むのもじ。その横を器用に前転で転がった剛蔵がクルリと膝をついて身を起こす。
 下がる我斬たちの背後には、大鎌を構えた覚羅が立ち塞がっていた。大鎌の柄を脇に挟んで内蔵銃を撃ち放つ。だが、その激しい銃撃も打ち寄せる波濤を砕くが如く。遂にその集団の端が覚羅を捉えた。
 瞬間、まるで日が陰ったかの様に視界が暗くなる。文字通り敵に包まれた覚羅を突く蜘蛛蜂。その余りの数の多さ(=高命中)に、流石の覚羅も『受け』も『避け』も為し得ない。黒鎧はその針の悉くを防ぎ通したが、そこから放たれた電撃は抵抗を突破した。
「難儀やなぁっ! 数が多すぎんねん、畜生!」
 撃ち尽くした弾倉を投げ捨て、再装填。素早い動きで突撃銃を膝射する剛蔵。そのすぐ横では、ツインブレイドを構えた我斬が群れから逸れ飛んできた個体を流れるような動きで右へ左へと打ち払う。焼け石に水だよねぇ、と呟くのもじ。渡された弾頭矢もあっという間に撃ち尽くしてしまった。
「雲霞の如く湧いて出るよなぁ、実際‥‥」
 呆れた様に呟きながら、我斬は片手に持った剣を振るいつつ、取り出した巻物型超機械を縛った紐を口に咥え引っ張った。翻る超機械。真っ赤なオーラがそれを包み、放たれた電磁波が敵の先頭集団を焼き払う。
「わぉん! 追いかけてこなくていいんだよ〜!」
 多数の敵に追いかけられた愛華がエネルギーキャノンを抱えて後退して来る。その背後を守って走る桜は追いついて来た狼騎兵に気付くと、薙刀を両手に靴を滑らせ足を止めた。繰り出される槍の穂先。石突を地に衝いてそれを跳び避けた桜は、そのまま騎乗する小鬼を蹴り落としつつ、身体ごと振り回した薙刀の刀身で眼下の狼を斬り飛ばす。
「覚羅さん、下がって!」
 アグレアーブルと美空の所まで後退した愛華は、息を弾ませながらその身を砲身ごと振り返らせた。放たれる光線砲。エネルギーの奔流が振られた射角に応じて敵の群れ(大集団)を薙ぎ払う。その隙に覚羅は地を蹴って敵中から逃れ出た。味方の後退さえ完了すれば、元より敵中に残るつもりはない。
「合流終了‥‥では、弾幕を張りつつ後退します」
 無線で退却用のAPCが向かっている事を知ったアグレアーブルが、左右の愛華と美空にそう告げた。無念であります、と唇を噛む美空。だが、事ここに至っては致し方ない。
「じゃあ、なるべく距離を取って迎撃しつつ、全員が脱出圏内に入ったら一気に離脱、って事でどうかな?」
 愛華の提案に能力者たちは頷いた。

 我斬の投擲した閃光手榴弾が炸裂する中、能力者たちはAPCに飛び乗って戦場を退いた。
 『巣』の破壊は失敗に終わった。後日、改めて『巣』の破壊が達成されるまで、大隊はその足を止める事となる。