タイトル:【BV】Go,ahead!マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/28 16:31

●オープニング本文


「露払いだ。攻撃対象は、前方海域に存在する全ての敵水中戦力。その悉くを打ち払え!」
 随分と簡単に言ってくれるものだ、と。正規軍の参謀が言ったその言葉を思い返して、能力者のベテラン傭兵は今更ながらに頭を振った。
 極寒の北極海。その海中を往く水中用KVの操縦席からモニター越しに見る海は、薄く闇に沈みながらどこまでも透き通るように美しく──そして、寒々しかった。生よりも死を想起させる氷の海は、既に人類の勢力圏を越えている。北極に存在するバグアの氷上基地を攻撃する為、北上を続けるユニバースナイト3番艦──その行進を支援するべく、先行し、索敵し、発見した敵を針路上から排除するのが、傭兵たる彼等の役割だった。
「‥‥いったい何が不満なのですか? 人類の希望の象徴たるユニバースナイト。露払いとはいえその先陣を任されるとは名誉な事ではありませんか!」
 新人と思しき能力者が、やる気の感じられないベテランの態度に不服そうにそう言った。ベテランはやれやれといった風に肩を竦めた。無論、短距離水中通信では伝わらない。
「‥‥露払い自体には不満はねぇよ。問題は、俺たちに達せられた攻撃対象だ」
 前方海域に存在する全ての敵水中戦力。つまり、どれほど敵の規模が大きかろうと後退は許されない。勿論、敵の規模に応じた増援はあるだろうが、それまで戦うにしろ、追尾するにしろ、最初に接敵した部隊の負担は馬鹿にならない。なんにせよ、それだけは避けたい事態である。
 事態であったのだが‥‥
 彼等の機のセンサーは、前方をゆっくりと進む巨大な何かの影を捉えていた。
「恐らくはビッグフィッシュ。奴等の水中母艦と思われる。‥‥大物だ。とてもKV1個小隊でどうこうできる相手じゃない」
「どうします? 後退して増援を待ちますか?」
 怯えた声で尋ねる新人。ベテランは「いや‥‥」と頭を振った。
 遭遇の状況から、敵もこちらに気付いている事だろう。となれば、増援が来るよりも敵が搭載機を展開する方が早い。‥‥となれば、大規模な戦闘に発展する可能性が高い。部隊はこの後に大きな作戦を控えている。総力戦は避けたいはずだ。
「‥‥だが、僅か1個小隊では」
 唸るベテランの元に、新たな通信がもたらされた。偶然、近場にいた別の小隊が、敵味方の存在を感知してこちらに向かっているというものだった。到着は2分以内。2個小隊分のKVがあれば、或いは‥‥
「これより突入する。接近中の小隊と協力し、敵水中母艦を叩く。攻撃態勢を整えた敵が発艦して来る前に、奴を叩き潰すんだ!」

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
旭(ga6764
26歳・♂・AA
美海(ga7630
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

 敵水中母艦の南、単位距離50で周辺警戒に当たっていた2機の水中用HWが、南より接近する水中用KV一個小隊を探知した。
 警戒機2機はすぐに機首を南へ向け、その場で迎撃態勢を取る。母艦の東・西・北の距離50に位置していた警戒機はそれぞれ南への移動を開始。直掩の水中用ゴーレム2機は警戒しつつも母艦からは離れない。
「気付かれたか。全機、攻撃開始。ここでしくじれば結構な数の敵を残すことになる。やってやろうじゃないか。水中KV乗りの誇りにかけてな」
「応、であります! 美海の愛する参番艦の邪魔はさせないのですよ!」
 海中を進む4機のRBs−1960ビーストソウル改。その中から威龍(ga3859)の『蛟龍』と美海(ga7630)の『ケモッタマークII』が一気に加速して前に出た。全ての兵装の安全装置を解除し、戦闘速度にまで火を入れる。
「目標、正面の敵警戒機。単位距離50。R3−O、1番、2番‥‥発射!」
 前方の水中用HW2機に向けて、威龍は射程に入ると同時に対潜ミサイルを撃ち放つ。その援護を受けつつ突進した美海機が距離20で多連装魚雷を一斉発射。まるで投網の様に撃ち広がる小魚雷の群れを、機を滑らせる様に回避しながらHWがフェザー砲で反撃する。モニター越し、水の揺らぎを切り裂く様に掠め飛ぶ怪光線──それをかわし、美海機はガウスガンを撃ちつつ前に出る。
 その後方、距離を詰めた威龍機が諸元入力を終えたミサイルを続け様に発射した。放たれた計4発の誘導弾は、しかし、慣性制御で跳ねる様に上昇した敵機の真下を通過していく。斜め上から放たれる反撃の火線。威龍は機を立て、被弾面積を最小にする事でやり過ごす。
 牽制する様に中距離から砲火を交し合いながら、4機はにじる様にその距離を詰めていく。彼我共に未だ有効打はなし。だが、それも思惑通りの展開ではあった。派手にやらかせばそれだけ敵の目をこちらに引きつける事になり‥‥側面を突く後続小隊の仕事がし易くなる。
 フッ、と小さく笑う威龍。斜陣の形になった美海機と共に、並んでガウスガンを速射する。距離15。行き交う弾の一つが遂にHWを直撃し、その装甲を貫通して小爆発を起こせしめる。怯まず放たれる反撃のフェザー砲。幾本かの光条が機を擦過して行き‥‥高熱に炙られた装甲が激しい光と共に泡立った。

 太陽光を透かす氷の天井を背景に、気泡のシュプールを無数に描き繰り広げられる激しい戦闘。それを仰ぎ見るように戦場を掠め過ぎなながら、綾嶺・桜(ga3143)と響 愛華(ga4681)、2人のビーストソウルは、深度200、安全航行深度ギリギリを北へ──敵母艦へ向けて疾走していた。
「わぅ〜‥‥海面があるのに浮上できないって、怖いんだよ〜‥‥」
 鉄鎚の愛華が犬耳をへにゃりと寝かせてピルピルと震わせる。敵は大物、しかも時間制限つきだ。沈めるのに手間取れば、あのお腹から次々に出て来るHWでこの海は埋まるだろう。ああ、どうせ大物なら普通のお魚が良かった。だって、食べられるし、おいしいし!
 テンパった愛華の様子は、家族同然の桜には無線機越しでもすぐに分かった。
「ふん。お主が沈んだらわしが無理矢理にでも引き上げてやるのじゃ。じゃから、無駄な事は考えずにさっさと戦闘に集中せい!」
 その言葉に愛華はハッと顔を上げた。『妹』分の桜に心配させては『保護者』として沽券に関わる。
 愛華は、両の手で頬をパァンと張って気合を入れた。手の震えは止まっていた。
「よ〜しっ。敵水中母艦、間もなく魚雷射程内‥‥あ、桜さん、左右同軸、単位距離50・深度70に敵がいるよ!」
「構うでない! ワシらの相手は敵の母艦じゃ!」
 その敵は、母艦の東西に配されていた警戒機だった。2機ずつ計4機の水中用HW──このまま両翼から挟み込まれれば致命的と言っていい。
 だが、2人はそのまま母艦への攻撃を優先し‥‥敵もそれを無視する様に南進を継続した。その動きは気になるが、既に敵母艦は射程内に入っていた。
「いくぞ、 天然鉄鎚犬娘! 時間差攻撃じゃ!」
「わぅ! 大きな大きな子持ちししゃも、頂くんだよーっ!」
 下から斜めに機首を上げつつ、桜機が対潜ミサイルを発射する。1本、2本‥‥海中を突き上げる様に進む誘導弾を、母艦がゆるりと回避に転じる。その動きを見極めた愛華が敵の回避方向へ向け魚雷『セドナ』を撃ち放つ。水中を文字通り翔ぶ様に突進したそれは‥‥海面近くにまで浮上していた母艦を爆発の衝撃に包み込んだ。
 だが、その一撃は母艦に命中してはいなかった。攻撃は船体の横を抜けて背後の氷を直撃していた。慣性制御を持つビッグフィッシュ。鈍重そうに見えてもある程度の機動性は持っている。
「この距離では当たらん‥‥っ! もっと近づかねば!」
 さらに距離を詰める桜と愛華。だが、それは自らも敵の必中距離に入る事を意味していた。
 虹色の光芒が桜機と愛華機を掠め飛ぶ。母艦の直掩、プロトンランチャーを構えたゴーレムがその威力を2人に浴びせかけ始めたのだ。


 増援に来た後続の1個小隊は、今まさに戦場に到着しようとしていた。
 未だ敵も味方もその姿は見えはしないが、各種センサーはその姿を捉えていた。モニター越しに遠く煌く閃光の応酬は、そこで行われている激しい戦闘を弥が上にも知らしめる。
「はわっ、すごいおっきい‥‥」
 クラウディア・マリウス(ga6559)はソナーに映った敵母艦の影の大きさに息を呑んだ。彼女のアルバトロスに並ぶビーストソウルの操縦席で旭(ga6764)も苦笑する。
「これはまた‥‥護衛のし甲斐があると言うか何と言うか‥‥遭遇しなければそれが一番だったんですけれどねぇ」
 とはいえ、遭遇していなければこの戦力にフリーハンドを与えていたという事で‥‥まぁ、それに比べればまだマシな結果であるかもしれない。‥‥貧乏くじには違いないが。
「この後の大きな作戦の為にも、参番艦の針路は確保しておきたいですね。その為には‥‥」
「敵水中母艦の撃破を最優先。搭載機の発艦を最小限に食い止める」
 先陣に立つ2機の新鋭機──RN/SS−001『リヴァイアサン』のコクピットで鏑木 硯(ga0280)とアグレアーブル(ga0095)が機速を上げる。クラウディアと旭もブーストを焚いて後を追った。
「行くよ、クラウさん。‥‥せっかく一緒なのに、楽しんでる場合じゃなくなったけど」
「んーん。アグちゃんと一緒だからとっても心強いよ。がんばろうねっ!」
 笑顔で一生懸命ついてくるクラウ機を顧みて‥‥アグレアーブルは無表情に、だが、力強く一つ頷いた。

 放たれるフェザー砲をものともせずに、敵の内懐に飛び込んだ美海機がレーザークローを一閃させた。
 装甲を切り裂かれて爆発するHW。そこから距離を取る美海機の背後に近接戦用のクローを展開した敵が迫る。そこへ側面から威龍が銃撃を浴びせかけ‥‥穴だらけになったそれは僚機の後を追う様に砕けて散った。
 これで南に配置されていた警戒機は排除された。だが、南下を終えた東西配置の2機ずつが左右から突進してくる。
「挟撃される!?」
「こんな時は‥‥突っ込むでありますよ!」
 飛び交う火線の中、美海はブーストを焚いて一気にその場を離脱した。‥‥北、つまり、敵母艦の方へ。威龍もあわてて後を追う。
「おい、中央に連中を連れてくのか!?」
「それまでに厄介なゴーレムとあの母艦をやっつけてしまうのですよ!」
 一方、中央。
 桜と愛華の二人は敵母艦に強かにダメージを与え続けた。だが、ゴーレムによる反撃もまた確実に2機の戦闘力を奪いつつあった。
「こいつら‥‥やはり厄介なのじゃ!」
 真っ赤に染まった計器に舌を打つ桜。既に魚雷は撃ち尽くし、後は近接戦しかないのだが‥‥この状態で突っ込んだ所で返り討ちは目に見えている。
 立ち塞がる2機のゴーレムの背後、母艦の艦底から発艦してくる新手のHW2機。それを見ながら奥歯を噛み締め‥‥
 と、唐突に、ゴーレム2機がその機首を東へ向ける。状況はすぐに予測が付いた。
「まだHWと戦う位の力は残っておるわ! 行くぞ、愛華! 新手を潰して母艦を叩く!」
「了解だよ〜。ホールディングミサイル、全弾発射!」
 愛華機から次々に放たれる誘導弾。レーザークローを煌かせた桜機が敵機に突っ込んだ。

 後続小隊の一行は、東から戦場へと突っ込んだ。
 立ち塞がったのは最初に北に配置されていた警戒機2機と、第1次増援として発艦していた2機だった。計4機が水中に横列を組んで、母艦から距離10の位置で待ち構える。
「行くよ、アグちゃん!」
「‥‥(こくり)」
 ブーストを焚いて並んだクラウ機とアグレ機がミサイルを斉射する。前方に並んだ防衛線、そのただ一点に集中した誘導弾の『槍衾』は次々とHWに突き刺さり爆発した。装甲をひしゃげさせ、独楽の様に弾き飛ばされる敵。そのスペースを硯機と3度目のブーストを焚いた旭機とが高速で突進、突破する。
 慌てた様にその機種を翻すHWたち。そこに時間差で突っ込んできた後続2機が人型へと変形し、手にした得物でそれぞれに切りつけた。アグレ機が光の爪で切り裂いた1機は、小爆発を起こしつつ跳ねる様に距離を取る。クラウ機は先程の攻撃で半壊していた敵に向け、両手で保持したディフェンダーの刀身を突き入れた。流れる様な動作で刀身を引き抜き、加速して離脱する。同様に一撃離脱で突破して来るアグレアーブル。クラウ機の一撃を受けた敵がスパークを走らせ、爆発する。

 挟撃を逃れた威龍は、敵母艦から南15の位置で足を留めた。これ以上、主戦場に敵を近づけさせる訳にはいかなかったからだ。
 一歩も退かぬという覚悟を示す様に、人型になった威龍機が迫る4機にありったけの火力を撃ち放つ。残しておいた誘導弾を惜しげもなく撃ち放ち、両手で保持したガウスガンを弾も尽きよとばかりに速射する。
 だが、奮戦もHWを1機落とすまでが限界だった。釣瓶撃ちに放たれた怪光線が次々と機を『解体』してゆく。‥‥元より勝ち目が無い事は分かっていた。だが、それでも威龍は貴重な時間を稼ぎつつ‥‥オートで打ち出された脱出ブロックから四散する愛機を見送った。

 HWを突破して母艦に向かおうとしていたアグレアーブルは、ついて来るはずのクラウ機が針路をずらすのを見て後方を振り返った。
 クラウ機は残った3機全てに後を追われていた。走る閃光。このまま撃たれ続ければ遠からず撃破は必至だ。敢えて戦場を離れる彼女は、このまま敵を引きつけておくつもりなのだろう。
 なんて無茶を、と呟いて。アグレアーブルは人型に変形して機を急停止させると、ガウスガンを持った腕を振ってHWを照準した。放たれた磁力弾が爪跡の1機を直撃して吹き飛ばす。側面を取られている事を知った敵が慌てて離脱し、代わりにアグレ機が寄り添う様に機位をつけた。
「‥‥あの2機、残しておくと煩そうですね」
「はいっ。援護します!」
 じゃこん、とガンを(どことなくほんわかと)構えるクラウ機。回遊魚の様に2機並んで旋回してくる敵に、前後に隊列を組んだ2人が向かっていった。

 敵陣を突破した途端、前方から光の奔流が迸った。
 それはゴーレム2機のプロトンランチャーの砲撃だった。旭は舌を打つと、エアを抜いて浮力を落とし、機の推力で以って押し下げる。直後、掠め飛んだ七色の怪光線は装甲の表面を炙り、焼き潰す。
 硯はエンヴィー・クロックを起動して機に急制動をかけた。ガクリと揺れる機体。Gに振り回されつつフットペダルを踏んで機を滑らせる。息を突く間もなくブースト点火、急加速。飛び出した機の後方を怪光線が飛び過ぎ行く。
「‥‥回避した!?」
 まるで他人事の様に驚愕の叫びを上げる硯。加速した硯機はそのまま一気に敵母艦へと肉薄した。これまでの返礼に一発お見舞いしてやりたい所だが、今は少しでも早く母艦を無力化しなければならない。
 敵はすぐに硯の意図に気付いた。抜剣して母艦表面ギリギリを移動し、その針路上に立ち塞がらんとする。
 そこに横合いから美海が突っ込んだ。ブーストとインベイジョンの併用で一気に距離を詰めた美海機が母艦と挟み込む様にしてゴーレムに膝蹴りをかます。水中に舞う火花。そのままゴーレムの腕部を光の爪で切り飛ばす。
「殺った‥‥っ!」
 のであります、という言葉は続けられなかった。船体の陰から飛び出して来たもう1機のゴーレムが側面至近に砲口を突きつけたからだ。
 艦を蹴り、即座に離脱を計る美海。直後、火を吹いた光線砲が美海機の下半身を吹き飛ばす。ダメージを受けていた機体はそれに耐えれなかった。爆散。脱出ブロックが緊急射出される。
 だが、その僅かな間に、硯は母艦の上面まで回り込んでいた。ビッグフィッシュの艦橋部分。そこにレーザークローを叩き付け、シールドを突き入れ押し広げる。さらに爪をもう1撃。煌くフォースフィールドもその攻撃を防ぎきれない。やがて艦内深くまで達した一撃が、敵母艦の艦橋部分を完全に吹き飛ばした。
 その頃、この日5度目のブーストを焚いた旭もまた、敵艦の懐へと潜り込んでいた。
 敵HWの発進口のある艦底部へと回り込む。桜機と愛華機に切り裂かれ、撃ち抜かれる第2次増援の2機。その横をすり抜け、丁度発艦しようとしていた敵機ごとその艦内に押し入った。
 オートメ化された狭い発進口内、押さえつけたHWの『腹』にレーザークローを突き入れる。そのまま獣が獲物を裂く様に手と爪とで千切り裂き‥‥臓物と血の代わりに炎を吐き散らしたそれが爆発する。
「これで‥‥落ちろォッ!」
 爆圧で吹き飛ぶ左腕部。鳴る警報。構わずペンキをぶちまける様に艦内を爪で裂く。さらなる爆圧が発進口から旭機を『吐き飛ばし』た。
 艦橋と射出口、二つを破壊されて致命傷を受けた艦のあちこちに誘爆が広がっていく。武装を整える間のなかったHWが次々と母艦から緊急射出され‥‥その全てを吐き出す前に、艦は巨大な水柱となってぶ厚い氷を突き破った。


 辛うじて脱出した敵機に戦闘能力は皆無であった。
 氷上基地へ向け一目散に逃げ出す敵。武装機が殿に立ってその撤退を援護する。

 威龍機を屠った3機のHWは北上を続け、途上にいた桜機と愛華機に光線砲を撃ち放った。
 愛華機を庇った桜機が動力部を撃ち抜かれ、目の前で爆発。愛華機が脱出ブロックを掻き抱くようにして爆圧からそれを守る。
「ほれ。わしがいる限りお主は沈まんと言ったじゃろう?」
「ばか! 桜さんがやられちゃ意味なんてないんだよ!」
 逃げる敵の最後尾に立ったのはゴーレムの1機だった。生き残った警戒機を纏めて砲口を向けながらにじり下がる。硯はそれを追わなかった。
「追撃しないのですか?」
 クラウディアとの連携で東の4機を撃墜し、さらに2機の脱出機を墜としたアグレアーブルが尋ねてくる。
 その余裕はないでしょう、と硯は首を横に振った。