タイトル:歩兵戦闘車型KV運用実験マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/31 00:27

●オープニング本文


 先の名古屋防衛戦において登場したバグアの新型機『シェイド』。既存のKVを遥かに凌駕するその戦闘能力は、UPCやKV開発を手がける関係者たちに大きな衝撃をもたらした。
 UPCは、直ちに各メガコーポレーションに対してシェイドに対抗し得る次期主力機の開発案を早急に提出するよう求め、各社は様々な最新鋭機の開発を検討することになるのだが‥‥

「ま、場末の部署にいる俺たちには関係のない話だけど、ね」
 赤茶けた荒野に立つ白衣の男──ドローム社第3KV開発室長、ヘンリー・キンベルは呟いた。

 ドローム社第3KV開発室は、KVの企画・研究・開発を行う各部署の中にあっても『場末』といってもよい部署だった。
 戦闘機型KVの企画・開発にあたって、社内でのコンベンションにことごとく負け続けた第3開発室は、S−01の改修案やら再設計案やら‥‥地味で報われる事の少ない仕事を黙々とこなしてきた。
 だが、企画・開発を志す者にとって、他人が設計した物を弄繰り回すだけの仕事が面白かろうはずもない。各開発室や研究室が新技術を盛り込んだ花形の戦闘機型KVの設計に心血を注ぐ中、ヘンリーを筆頭とする第3開発室の面々は、違った方面から社とUPCにアプローチを試みた。

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機体名:M−114『リッジウェイ』
 地上における能力者たちの展開を早める目的で企画された歩兵戦闘車型のKV。
 乗組員の他に8名程度の人員を乗せることができ、兵の降車後は自ら支援戦闘を行う事が可能。
 固定武装は20mm機関砲×1と多目的誘導弾×4。右腕部マウントにKV用兵装を装備可能。
 オプション装備:『ヘッジロー』(前面下部に付ける瓦礫除去用の鍬状爪。変形時にはスパイクシールド)
 現在、機体固有能力は未搭載。光学迷彩系の装置が研究されているらしいが、実用化できるかは不透明。
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 SES搭載の陸上兵器。
 花形の戦闘機型ではなく、空も飛ばず、ただ大地を疾走するだけの陸上用KV──それが第3開発室が提案した新たなKVの形だった。
「激しい制空権争いが繰り広げられているこの北米戦線。広大な大陸を舞台とした地上戦において、いかに能力者たちを必要とされる戦場へ素早く輸送するか。その点に主眼を置いて設計された機体です。目新しい技術は何も使っていません。全て既存の技術の応用です。地上戦に特化する事で大胆な重量増加が可能となり、大幅な防御力と耐久力の向上が図られています。無論、コストも戦闘機型よりも割安です」
 ドローム本社。社の上層部を前にプレゼンをしたヘンリーは、あっけないほど簡単に下りた試作製作の許可に驚きを隠せなかった。意外なほど前向きな返答が返ってきた時には白昼夢なのではないかと本気で心配したほどだ。
 陸上兵器故にシェイドに対抗する術は持たず‥‥しかも、軍人ではなく、能力者の運用と展開を前提とした兵器にUPCが高い関心を示す可能性が高い‥‥
(「それほどまでに焦っているのだろうか‥‥軍は‥‥」)
 自分たちの企画が試作段階まで通った嬉しさよりも、そんな事を心配するヘンリーだった。


 うっすらと白みがかった青空と、赤茶けた大地を背景に、白衣を着た一人の男が立っていた。
 その横にはカーキ色に塗装された1台の歩兵戦闘車。既存のものよりもかなり大きく、ゴツゴツと不恰好だった。
「これが歩兵戦闘車型KV、M−114『リッジウェイ』、その試作機だ。今日、諸君にはこいつの実用試験をやって貰いたい」
 開発責任者のヘンリー・キンベルだった。油やら何やらですっかりと薄汚れた白衣は、ここに来て赤い砂にさらされてすっかり埃っぽくなっていた。コンピューターによるシミュレーションから本社実験場での各種テストまで‥‥ヘンリーは試作機に付きっ切りで今日まできた。後は、実際に能力者に戦場で運用して貰うだけだ。そうして試作機で集めてきたデータを元に、さらに改良と再設計が行われる事になる。
「この北米大陸北西競合地域では、無人の地方都市群を主戦場に防衛線を展開していたUPC北中央軍の部隊が、その戦線を放棄して数十キロに亘って後退し、戦力を立て直している最中だ。廃墟と化した都市にはキメラが溢れ、軍の前線との間に広がる荒野にもキメラが進出し始めている。‥‥こう言っては悪いが、実験には理想的な環境だ。
 機体の運用は、全て能力者の諸君に任せる。‥‥この点に関しては、僕は素人だからね。口は出さない。ただ、なるべく多くの状況で、なるべく多くの運用情報を収集したい。協力をお願いする」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM
レア・デュラン(ga6212
12歳・♀・SN

●リプレイ本文

 ちらほらと雪が降り始めた。
 曇天の下、土煙を上げて赤茶けた荒野を走るM−114装軌型試作機。その視察窓から外を覗きながら、寿 源次(ga3427)は、「また寒くなるな」と呟いた。
 分厚い硬化ガラスをはめ込んだ視察窓は意外と視界が広かった。赤茶けた大地と、そこにちらほらと点在するキメラの姿が目に入る。虫や獣の姿をしたキメラたちがジッとこちらを窺いながら‥‥だが、近づいてくるものはいなかった。その様はまるでサファリパークだ。競合地域に進入して数十キロ。ここまで進入出来るだけでも大したものかもしれない。
 源次の声がインカムのマイクに入ってしまったのだろう。砲塔内に仮設された『銃座』に座るMAKOTO(ga4693)が何か見つけたのか尋ねてきた。
「‥‥いや、何でもない。雪が降ってきただけだ」
「そう? ならいいんだけどさ。ほら、戦車が死角から歩兵に弄られてアボーンって良く在る話じゃない?」
 そう返事をしながら、MAKOTOは銃座で窮屈そうに身を捩らせた。仮設の為か、銃座は狭く、照準装置以外には視界がなかった。MAKOTOは砲塔をグルリと旋回させて周囲を確認し‥‥操縦席のエルガ・グラハム(ga4953)に確認の連絡を入れた。操縦席は密閉型で、複数のモニターで視界を確保している。
「エルガ、そっちで何か確認できない?」
「ん? ウチは今、隣のメガネセンセに『漢の浪漫』ってもんを語るのに忙しいんだけど?」
「うわ、羨ましい。私もそっちにいってキャタピラの魅力について語りたい所だけど‥‥とりあえず、異常なし?」
「そうさね。目標の街が大分近づいてきた、ってことくらいさね」
 操縦席にどっかと座ったジャージ姿のエルガが答えた。聞こえたかい? と後ろの兵員室を振り返る。涼しげな男の声が返ってきた。
「了解した。市街地に入ったら報せてくれ。降車戦闘を開始する」
 『月詠』と『蛍火』、二振りの日本刀を腰に提げ、戦闘準備を終えた白鐘剣一郎(ga0184)が後部扉付近の席に移動する。超機械を膝の上に抱えた源次がその向かいに座り、小さく剣一郎に会釈した。
「今回もよろしく頼む。背中は任せろ、と胸を張っては言えないが‥‥前方に集中できるよう尽力しよう」
「分かりました。こちらも一匹たりともキメラを後ろには通しません」
 ‥‥暫しの沈黙。戦闘を直前に控えた張りつめるような緊張感。エンジンの駆動音と無限軌道が立てる金属音だけが、静かに時の経過を報せている‥‥
 車が止まる。剣一郎はスッと立ち上がると、後部扉を開放して降り立った。源次もその後に続く。廃墟のビル群の只中に降り立って。源次は仰ぐようにリッジウェイを眺めやった。
「‥‥華のない無骨な機体だ。だが、頼り甲斐のある無骨さだ」
 それをまたマイクが拾っていた。すぐにエルガの声が耳を打つ。
「ダンディだろ? 陸戦型は漢の浪漫。そして、女は強い奴に惚れるのさ。‥‥まぁ、可愛くぷりち〜なのもウチは大好物だけどな♪ こっちはゴッツイのばっかりで」
「ええっ!? 私そんなゴッツクないでしょ!?」
「いやいやいや、アンタに寝技かけようものなら、ウチ、その胸のデカブツで窒息してしまうもん」
 やいのやいのと続くエルガとMAKOTOのやり取りに苦笑しながら‥‥剣一郎と源次は周囲に視線を走らせた。ぽつりぽつりと姿を現し出すキメラたち。前方には、全長3mを超える巨人型のキメラも見える。
「‥‥白鐘より各員。状況を開始。これより正面へ斬り込む。114には支援射撃を要請。タイミングは一任する」
 黄金色の闘気を纏い、前進する剣一郎。その後を追いながら、源次は人型へと変形を始めた114を振り返った。
「‥‥生まれたばかりのその力、見せて貰うぞ、リッジウェイ」

「「ひゃあっ!?」」
 廃墟を走る装輪型試作機の車内。
 いきなり無線機に飛び込んできた艶かしい悲鳴に、御影 柳樹(ga3326)はビクリと身体を震わせた。
「なんさ!? 何が起きたさ!?」
 慌てる柳樹。思わず頭をぶつけてしまった。助手席のリン=アスターナ(ga4615)がバツが悪そうに返事をする。
「いや‥‥何か、誰かに横四方固めを掛けられる様な悪寒がしたものだから‥‥」
 随分、具体的な悪寒さぁ、と柳樹が笑う。だが、銃座のレア・デュラン(ga6212)まで同じ事を言い出した。
「ボ、ボクも感じました、そんな気配。‥‥うぅ、一体、なんでしょう‥‥?」
 沈黙。
 何故か脳裏にジャージが浮かび‥‥操縦席の鈴葉・シロウ(ga4772)は、それを咳払いと共に振り払った。
「‥‥柳樹さん。廃墟に入って暫く走りましたが、乗り心地はどうですか?」
「え? ああ、殆ど振動がないさぁ。精密機器や負傷兵を運ぶ事も考えて複合式のサスを導入したって聞いたけど」
「なるほど。路面の状態にかかわらず車体を平行に保って走行できるんですね。もっとも、車高が高くなるのはいただけませんが」
 ‥‥彼等の駆る装輪型試作機は、仮想目標を挟撃する為に廃墟を移動していた。一街区を回り込み、街路を大きく右折して‥‥その彼等の目の前に、倒壊したビルの柱か何かだろう、巨大な瓦礫が立ち塞がった。
「参りましたね。迂回しないと‥‥」
「待って‥‥『ヘッジロー』を使いましょう」
 リンの言葉に「なるほど」と頷いて、シロウは複合式サスをoffにする。視界がどんどん下がっていき‥‥やがて通常の車高に戻ると、シロウは『ヘッジロー』の電源を入れた。何かの作動音。シロウはゆっくりと車体を前へと進ませて‥‥『ヘッジロー』のクローが触れた瞬間、コンクリがボロボロと崩れだす。
「おおっ!?」
 感嘆の声をあげるシロウとリン。その声に、兵員室にいた柳樹まで前へとやって来た。
 高速振動する爪が、まるでケーキにナイフを入れるように瓦礫へと突き刺さっていく。その端からコンクリは面白いように崩れていき、鉄骨も火花を上げて千切れていく。やがて、車体が通過した後には、リッジウェイ1両分の通路が開拓されていた。
「これは‥‥思っていたより凄かったわね‥‥」
 息を呑んで佇む大人三人。銃座からひょっこりと顔を出したレアが、罪のない笑顔でこう言った。
「でも、人型で跨いじゃえば一瞬でしたよね!」
 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
「い、いや、あれは進路を開拓したんさ! 後続の車両も通れるようになったんさ!?」
 必死に何かをフォローする柳樹。シロウとリンは無言で視線を交差した。

 剣一郎が手近の『ビートル』に突っ込んでいく。源次は剣一郎と114の間に位置するように移動しつつ、その突撃をフォローした。
 二太刀で『ビートル』を沈黙させ、すぐに次の目標へと移動する剣一郎。側面のキメラを強力な電磁波で焼きながら‥‥源次はこめかみに汗を滴らせた。
 視界の中のキメラがどんどん増えていく。廃墟は既にキメラの巣窟と化していた。
 その二人の後ろをガキョンガキョンと歩きながら、114は砲塔の20mm機銃を前方へと指向させた。
 能力者といえど20mmは流石に危険だ。照準器を覗くMAKOTOは直近の援護を避け、前方、進路上に進入するキメラを片っ端から掃射した。
「この世で狩りに優る楽しみなど無い〜♪」。
 歌劇『魔弾の射手』の一節を口ずさみながら、目に付いた側から薙ぎ払っていくMAKOTO。
 物凄い勢いで20mm弾がばら撒かれていく。飛び散る鮮血と砕ける瓦礫。巨人型のキメラが踊る様に倒れ付す。回復能力を持つキメラといえど堪らない。あっという間にミンチにされて沈黙する‥‥
 そんな114を眼下に見据え、飛行キメラ『ワイバーン』が急降下を開始する。
 翼を畳んでの逆落としから、滑空してのアプローチ。それに気付いたエルガは回避せず、むしろ真正面へと向き直った。咆哮と共に『飛竜』が口を大きく開き‥‥だが、その炎が吐き出されるより早く、砲塔横のランチャーから誘導弾が撃ち放たれた。
 白煙を棚引かせて飛ぶその軌跡を眺めつつ‥‥これがK01だったらどれ程美しかったかとエルガとMAKOTOが嘆息する。誘導弾は『飛竜』に直撃して炸裂し、弾き飛ばされたキメラは蚊の様に頼りなく大地へと落ちていった。

 人型へと変形した装輪型が、立ち塞がった地上型ワームへドリル片手に突っ込んだ。
 激しく火花を散らすドリル。シロウはそのまま重装歩兵のように歩を進め、その甲虫のようなワームをスパイクシールドでぶん殴る。地面に叩きつけられ、小爆発を起こすワーム。悲鳴は後ろから聞こえてきた。
「ちょ‥‥兵員室に人乗っけたままの格闘機動は止めて欲しいさ!」
 顔を蒼くして柳樹が叫ぶ。シロウは小さくフム、と呟いた。
「やはり無理ですか」
「やはり!?」
 そんな柳樹の悲鳴はスルーして、運用試験は先へ進む。次は、シロウと柳樹を随伴歩兵にしての運用方法確認だ。
「‥‥変形時の視界は思ったよりも良好。まるで城壁の上に立ったみたい。でも、歩兵を守るには、ね‥‥」
 パイロットを交代したリンは、すぐに機体を車両型へと変形した。兵の盾になるのならこちらの形態の方が良かった。
 アクセルを踏み、前進を始める装輪型。通常の戦車と同じ様に、前に出た114の後ろをシロウと柳樹がついて行く‥‥
「右側方、キメラの小集団。気付いているさ?」
 気付いていた。人型の格闘戦を前提に設計された114は、モニターで広い視界を確保している。リンは即座にそれをレアに伝え、ガトリングを持った右腕を照準にリンクさせた。
「撃ちまぁす!」
 銃身が回転し、夥しい数の銃弾を吐き出し始める。軽く弧を描いて飛んだ銃弾は着弾点に土煙の花を咲かせ‥‥それが晴れた時には、キメラは一匹残らず逃げ散っていた。
「‥‥っ!」
 その威力に、レアは恐怖の表情を浮かべて引鉄から手を離す。
「‥‥KVに『歩兵の護衛』は要らないわね」
「でも、キメラがKVに打撃を与えうる能力を持っていたら? 懐に飛び込まれたら弱いのは戦車もKVも同じです」
 沈黙と共に日が暮れる。曇天の下、すぐ近く。廃墟の上に、ポウッ、と撤収を促す信号弾が上がった。


 雪は30cm程積もって止んだ。青い空。投げかけられた日差しが雪の上で煌いている。
 そんな雪の原の上で、人型に変形した装輪型が雅な演舞を舞っていた。
「ん‥‥やっぱり動きが重いんさ。重量級の宿命だけど」
 最後に空手の型を演じて締める。少し離れた足元で、レアが柳樹を呼びに来た。
「柳樹さぁ〜ん。お食事ですよ〜」
「おう。今行くさ〜」
 機体を戻し、停止させる。案内された先には、雪上に敷かれた防寒シートと‥‥その上に並べられたバスケットの山だった。
「その〜、いつも『あの』お弁当では、と思ったので、サンドウィッチを作ってきたんですけど‥‥」
 おずおずと切り出すレア。柳樹は「でかしたさぁ〜!」とレアの頭を高速で撫でてやる。
 ドローム社からでる食事は、系列会社製の『栄養満点で保存性ばっちりの、世界一不味いと噂の戦闘糧食』だったからだ。
 レアの用意した食事は(ドローム社の人間を含め)全員に歓迎された。この日は雪に覆われ砂煙も無く、「ハイキングみたいですね〜」な日和だった。

「支援機といえども、ワームや大型キメラに対しては主力であるべきです。『主砲』を高分子レーザーに変更できませんか?」
 剣一郎の言葉にヘンリー首を横に振った。固定装備とすると、コストと生産性、野外整備性に影響が出る。特に、戦場に留まる事の多い地上型には野外整備性は重要だ。
「ん〜、じゃあ、対空用や近接支援用にCIWSを載せるのもダメ?」
 エルガ案も同様だった。将来的には、対空戦車(現状では防空戦車か)や偵察車、戦闘指揮車などのバリエーションが出る事があるかもしれないが‥‥それらは全て前提として、リッジウェイが生産ラインに乗って、しかもUPCに採用される事があれば、の話だ。
「せっかく開発に携わったのだもの。正式採用されるといいわね」
「全くです。私たちの子供です、と胸を張って言える機体になって欲しいですね」
 リンの言葉にシロウが頷く。浅黄のスーツに紅のシャツ、落雷のような模様のネクタイ‥‥今日のシロウのファッションは、ネイティブのサンダーバードをイメージしたらしい。リンは特に突っ込まずに話を続ける。
「ちょっと思ったんだけど、オプション装備って増やせない? 反応装甲とか、『ヘッジロー』と交換できる排土板とかバケットとか」
 増加装甲は重量の関係で難しい。だが、土木関係のアタッチメントは汎用性を高める上でもいいかもしれない。社に持ち帰っても前向きに検討できるかもしれない。
「格闘戦を想定して色んな姿勢が取れたら嬉しいさ。あと、殴る際の急加速性能とか?」
 サンドウィッチをパクパクと食べる柳樹にヘンリーが目を見張る。確か『肉まん』なる食べ物を先程豪快に食べていたはずだが‥‥
「あ、加速用のブースターは自分も欲しいですね。突入時には勿論、変形時にも色々使えそうですから」
 シロウが柳樹に同調する。ヘンリーは難しい顔をして唸った。戦闘機型のKVと違って114はジェットエンジンを積んでいない。ブースターは新規に載せねばならず、コストと積載量をどっかから引っ張ってこなければならない。だが確かに、ブースターは段差を越える等、色々と便利ではある‥‥
 ブツブツと呟きながら思考に沈むヘンリー。食事を終えたMAKOTOが、それまで一言も発していないレアをチラと見た。
「レアは何か意見はないのかい?」
「えっ!? い、意見ですか!?」
 自分に話が振られるとは思っていなかったのだろう。レアがビックリして目を見開いた。
「うぅ‥‥その‥‥個人的な意見なんですが‥‥戦闘能力よりも速度と積載量と走破性を強化する方が重要だと思うのです。川を越え、山を越え、森を越え‥‥そういう所を走れません〜では‥‥その、こ、困ると思うんですが‥‥」
 言い終えて、周囲の視線にちっちゃくなるレア。立派な意見じゃないか、とMAKOTOが髪をわしゃわしゃする。
「ヘンリーさんも悩んでないで動こうよ。その為の私たちなんだし。さっ、高価な車でピクニックと洒落込みましょう!」


 そんなこんなで三日が過ぎた。
 運用実験はその苛烈さを増し‥‥装軌型の右腕のフレームがイカレたり、装輪型の装甲が一枚キメラの酸に溶かされたり、誘導弾の切れた所を『飛竜』に追っかけまわされたり、モニターが全部ダメになってペリスコープだけで操縦したり、荒野に倒れた兵の遺体を回収したり‥‥と、波乱に満ちた日々を過ごして終わりを告げた。
 ヘンリーのノートは修正案やアイデアで真っ赤に染まり‥‥能力者たちは114の採用を祈って乾杯をして依頼の締めとした。
「この機体は決戦機にはなりえない。が、現場の戦士達にとって実に頼りになる相棒となる。とそう思う」
 運用実験班の解散の時。源次はそう言ってヘンリーに右手を差し出した。
「室長、自分は待っている。この機体と共に戦場を駆ける事ができるその日を」