タイトル:補給艦、救援マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/22 00:47

●オープニング本文


「Happy New Year」
 一言二言交わされた新年の挨拶は、艦が発する諸々の雑音と、すぐ近海で空を舞うKVたちの輪舞曲に溶けて紛れた。
 敵襲の報せに浅い眠りから呼び起こされた艦長は、制帽を被りながら薄ら暗い艦橋を渡ると窓辺に拠った。双眼鏡で戦場を見遣る副長と同様の挨拶を交わし、自らも状況を確認する。日の出を控え赤く染まりつつある東の空──未だ闇を孕んで暗い濃紺の海原を、輪形陣を組んだ各艦が白い波を蹴立てて奔るその向こうに、KVとHWが発する光の軌跡がまるで蛍の如く夜空を舞い、切り裂いた。
「朝駆けか?」
「はい。HW編隊、中隊規模。大丈夫です。CAPとDLIで撃退できます」
 その副長の発言自体には同感であったものの、艦長はその立場上、副長の軽口を嗜めた。いつ如何なる時でも油断はするべきではない。ただ1機のHWに突破されただけでも、そのプロトン砲はただの一撃でこの艦橋を吹き溶かしてしまうだろう。
 ‥‥とはいえ、今回の戦闘に限れば、その心配は杞憂に終わりそうだった。
 跳ねる様に後進しながら撃ち捲るHWのフェザー砲を紙一重で躱しながら、鷹印の201Aが肉薄して20mmを撃ち放つ。HW前面に展開された光の壁はまるで花弁を散らす様に吹き破られ‥‥その装甲を凹まされ、貫かれ、後方へと抜けて穴だらけにされたHWは炎を噴き上げながら海面へ激突。遠目に判るほど巨大な水柱を高々と立ち昇らせた。
 
 SES熱融合炉搭載型空母『エンタープライズIII』(CVS−101)と水中用KV母艦(改強襲揚陸艦)『ホーネット』(KVD−1)を基幹とする一個空母戦闘群は、ロス復興作戦支援からサンフランシスコに帰還後、補給と整備、再編成を終えた後、再び中南米沖の太平洋で作戦中であった。
 その任務は主に、沿岸部のバグア軍施設への強行偵察、ロス方面へ侵攻する敵の補給線及び攻撃拠点の襲撃等々、KV戦力による奇襲的な擾乱攻撃‥‥というか、ゲリラ的・山賊的ないやがらせに近いだろうか。とはいえ、『エンタープライズIII』の航空戦力はその殆ど全てがKVで編成されており、その戦力・打撃力は馬鹿にできない。
「纏まった戦力でもなければ、いかにHWと言えども我が艦隊の防空網はそう易々と突破できるものではありません」
 副長の言葉は、誇るでもなく、驕るでもなく、ただ淡々と事実を告げたものだった。現に、随分と明るくなった戦場の空には、KV隊の描くシュプールが一際大きな花を咲かせていた。戦力に差がつき始めた為、敵を包囲する様に戦場外縁を移動しているのだ。無理に戦場へは飛び込まずに乱戦を避け、逸れ逃れて来る敵を掃討する為に高度を稼いでいる。
「‥‥しかし、この様な沖合いに出てから攻撃に来るとは」
 やがて、全ての敵機の撃墜を確認して‥‥双眼鏡を下ろしながら艦長はそう呟いた。
 現在、艦隊は補給艦と合流する為、さらに沖合いへと移動している最中だった。攻撃をしてくるならこれまでに幾らでも機会はあった。わざわざ距離が開いてから、この様な散発的な攻撃を仕掛けて来る意味が分からない。
「そうですね。これでは戦力の逐次投入にも等しい」
 未だに我々を舐めているのでしょうか? 怪訝な顔をする副長の言葉にどうだろうな、と呟きを返しながら、艦長は風防から空を見続けた。
 すっかりと白ばんだ空に、戦いを終えた要撃機隊が各個に編隊を組み始める。弾薬を使い果たした彼等は空母に帰投を始め、代わりに、対空装備を満載して直掩に上がっていた隊が随時、警戒線まで前進を開始する事になる。
 高空を行くKVに続くように、パイロット救出の為のヘリが発艦して低空を進み始める。それを暫し無言で見送って‥‥「副長」と一言、艦長が呼びかけた。
「格納甲板に待機中のKV、いつでも発艦作業が行えるよう準備をさせてくれ」
 案の定と言うべきか、それから2分としない内にCDC(戦闘指揮所)の艦隊司令と航空団司令から、針路変更と戦闘準備、そして、攻撃機発艦の命令が発せられた。
「ランデブー地点へ航行中の補給船団に向け、敵マンタワームの2個編隊が進攻中。『エンタープライズIII』及び『ホーネット』は直ちに救援隊を発進せよ‥‥」
 命令を受け、全艦に着艦作業の中止と針路変更、そして、発艦準備を命じながら‥‥艦長は昇る朝日に目を細めた。
「気張れよ。補給船がやられたら、燃料武器弾薬だけでなくコーラもアイスも底をつくぞ」
 赤道直下の新年には季節感も何もあったものじゃない。
 どうやら今日も暑くなりそうだった。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
ルンバ・ルンバ(ga9442
18歳・♂・FT
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

「水中からの攻撃が心配です。急ぎましょう」
 補給船団救援の指示を受けて最初に移動を開始したのは、艦隊外縁で対潜警戒に当たっていた水中用KV部隊だった。新鋭機RN/SS−001『リヴァイアサン』を駆る鏑木 硯(ga0280)はその巡航速度の速さを活かすべく、仲間たちに先行して機を加速する。
 その後姿を羨ましそうに眺めながら‥‥ルンバ・ルンバ(ga9442)は慌てて頭を振った。彼のアルバトロスは‥‥いや、今はそんな事を言ってもしょうがない。
「補給艦を守り切れたら、アイス、たくさん食べれるかな?」
「って、お主はいきなり食い物の心配か!?」
 ルンバ機の後方、2機並んだビーストソウルの操縦席では、響 愛華(ga4681)と綾嶺・桜(ga3143)が普段通りの掛け合いを繰り広げていた。或いはそれは、水に圧迫感を感じる愛華の精一杯と、それを知る桜の気遣いであるかもしれない。
「コーラにアイスか、さすがはアメリカ人(汗)。‥‥補給物資には家族や大切な人からの手紙も入っているだろうし、その想いを守る為にも、船団は沈めさせないぜ!」
 硯機に後続しながら、同じくリヴァイアサン乗りの夏目 リョウ(gb2267)がそう気合いを新たにする。それに「お〜!」と元気良く応じながら‥‥愛華は震える拳を握り締めた。
 アイスも手紙もそうだけど。失敗したら、何より大勢の人が死んでしまう。
「‥‥うん、頑張るよ!」
 今度こそ、誰も掌から零したくないから、と。呟く愛華に、桜が大きく頷いた。

 一方、空母から緊急発進した迎撃機のパイロットにも、愛華と同じ心積もりの者がいた。
 カタパルトで射出されたクリア・サーレク(ga4864)はそのGから解放されると、愛機フェニックスの高度を上げながらポケットの財布を握り締める。
「補給されたら、アイスを大型カップで買うぞー!」
 そのクリアの叫び声に、同じくフェニックスに乗る武藤 煉(gb1042)は我に返った。先発していたはずなのに、いつの間にかクリア機に並ばれている‥‥煉は頭を振りながら、集中しろ、と自らに言い聞かせた。久方ぶりの戦場‥‥またここに戻る事に迷いがなかったと言えば嘘になる。
 そんな2機の201Aの後方のロビンには、ソーニャ(gb5824)が乗っていた。自らの愛機に「エルシアン、急いで‥‥」と祈る様に語りかけながら、ブーストを交ぜつつ先行する2機の後を追う‥‥
 数分もしない内に、3機は敵との予想接触ポイントまで進出した。索敵された敵の針路と速度から割り出した最速の接敵ポイントだ。ここで敵を迎え撃てれば、船団から可能な限り遠い位置で戦端を開ける事になる。
「‥‥見つけた!」
 低空を飛ぶその一個小隊4機を発見したクリアが、真っ先にその翼を翻して降下した。
「1stリミッター開放‥‥吼えろ、スルト!」
 クリアの叫びに応える様に、SES−200『スルト』エンジンがブーストの咆哮を上げる。機を赤く染め、赤色の弾丸と化して突っ込む2機の201。気付いた敵が散開するより早く、クリアが放ったK−02のミサイル群がそれぞれに複雑な軌跡を描きながら降り注いだ。
 爆炎と、爆煙と、水柱の華が乱れ咲く。ダメージを受けながら逃れ出てくる敵へ、2機の201が続けざまに誘導弾を撃ち放つ。
 煉は照準器の向こうに映る1機のマンタにロケット弾を撃ちまくりながら、ロックオンしたD−01ミサイルを投射した。翼下から離れ、ロケットモーターに点火した誘導弾が白煙の尾を曳き敵へと向かう。反撃の砲火、その寸前に操縦桿とフットペダルを踏み込んだ煉は‥‥跳ねる様に飛ぶ機体、引っくり返った海と空、そして、風防越しの至近に走るフェザー砲とを見遣りながら、その口元を笑みに歪めた。
(「結局、俺の生きる場所も死ぬ場所も、こんな所にしかねぇらしい‥‥なら、悔いがねぇくれぇ、大暴れしてから死んでやろーじゃねぇか‥‥!」)
 爆煙と放電を空に残して、海面を前にした2機のKVが上昇に転じる。攻撃を受けた4機のマンタは、空中で爆発し、或いは粉々に砕けながら海上に突っ込んで四散していた。
「残る4機は?!」
 哨戒機が発見したマンタは2個小隊8機。戦果を振り返る事無く、空と海とへ視線を飛ばす。
 ‥‥‥‥いた。少し離れた所を、高度を下げつつ飛行している。空水両用のマンタワーム、やはり水中へと逃れるつもりか。
 間に合うか? 降下の勢いもそのままに機首を向けるクリアと煉。上空には到着したソーニャのロビンが降下を開始。敵の尻へと喰らいつく。
 見る間に接近したソーニャ機が最大射程で放ったG放電は、最後尾のマンタに纏わり付いて機体表面を嘗め回した。内部の機構を焼かれた敵機が白煙を吹いて小爆発を引き起こす。落後したそれにレーザーで止めを刺しながら、ソーニャは続く敵にミサイルを撃ち放った。
「貫け、エルシアン」
 自らが放った誘導弾を追う様に敵中へと突っ込むソーニャ。AAEMをまともに喰らった1機に照準を合わせ‥‥だが、目の前に迫った海面に、慌てて操縦桿を引き起こす。追い縋る様に放たれた201のミサイルは‥‥海中へと没したマンタを捉え切れずに海面へと突っ込み四散した。
「『ブル26』より迎撃機。敵が突っ込んで来る。足を止める事は出来ないか?」
 護衛艦より通信。各機共に爆雷を一基ずつ装備していたが、水中の敵の諸元が分からなければ攻撃できない。着水直後という最も位置と深度が分かり易い攻撃機会は、既に失われている。
「了解した。では、こちらで誘導する。爆雷の深度は20にセット。進入コースは‥‥」
 無線機の声に「敵、接近!」の叫びが重なった。短魚雷の投射を始める護衛艦。立ち昇る水柱が徐々に船団へと近づいていき‥‥海中を幾条もの光が走った次の瞬間、その舷側に幾本もの水柱が噴き上がった。


 先行した2機のリヴァイアサンが戦場に到着したのは、丁度2隻目のフリゲートが沈められた時だった。
 無数の気泡を吐き出しながら、大穴の開いた船体が沈降していく‥‥硯とリョウは、ギリと奥歯を噛み締めながら、海中を縦横無尽に暴れ回る3機のマンタを睨み据えた。
「‥‥これ以上、好きにはさせませんよ‥‥!」
 硯はブーストを焚いて一気に戦場外縁から接近すると、射程に入るや否や重魚雷を投射した。元より命中の期待できる距離では無い。が、牽制と、何より、新手が登場した事を敵に知らしめる事は出来る。
「行くぞ『蒼炎』、お前の速さを見せてやれっ!」
 魚雷を放つ硯機の横を、リョウ機が凄まじい勢いで突進する。フェザー砲の集中砲火。その光条を残置するように回避しながら、リョウは端の敵機に向け一気に機を肉薄させた。
 瞬く間に人型へと変形し、抜き放った『氷雨』を敵機の腹へと突き貫く。脚で蹴る様にしてそれを引き抜き‥‥そこへ硯機の放った誘導弾が敵機を直撃、爆散する。その時にはもう変形を済ませていたリョウは新たな敵へと接近し、手にした太刀を大上段に斬りつける。
 残りの1機は再び飛行しようとして、予想していたクリアによって、海面から飛び出した所を10秒と掛からずに撃ち落とされた。護衛艦の仇たる3機のマンタは、その全てが駆逐された。
 補給船団の皆が上げた歓声は、しかし、長くは続かなかった。哨戒機が、続けて接近中の水中用ワームの大部隊を報告してきたからだ。
「水中用HW8に、鮫型(メガロワーム)が4、かよ‥‥」
「新鋭機とはいえ、2機で守るには厳しい数ですねぇ」
 呆れた様に嘆息するリョウと硯。船団から距離を取るべく前へ出る2機の正面に、ぶ厚く広い布陣を敷いた敵が威圧的に接近する。相互に支援ができる距離を保ちながら、十字砲火の構えを見せる敵。嫌な位置を取る、と舌を打つリョウに硯は頷いた。先程のマンタにはない組織立った動き‥‥恐らく指揮官機が近くにいる。
 リョウと硯と、8機のHWが接敵した瞬間、後方に控えていた鮫型がまるで騎兵の様に側方を迂回しつつ、船団へと突進し始めた。まるで自身が魚雷と化したかの様に、フォースフィールドを煌かせながら船へと迫り‥‥
 直後、側方から放たれた砲撃と後着した魚雷とが。突進を続ける鮫型の横っ腹を引っ叩いて爆砕した。
 後続の水中班3機が遂に戦場に到着したのだ。
「わぉーんっ! 追いついたよ、皆無事なのかな!?」
「やはり増援がいたようじゃな。しかし、この数は‥‥おい、天然(略)犬娘、無事に帰れたら今日の夕飯は特盛りにしてやるのじゃ」
 愛華と桜、2人のビーストソウルがブーストを起動、構わず突撃を継続する鮫型の前に強引に割って入る。力場を展開しつつ迫る敵。愛華は機体各所に装備した遠距離兵装を一斉に撃ち放った。
「団体さんはお引き取り願うんだよ〜!!」
 放たれた無数の小型魚雷が鮫型の針路上にばら撒かれる。立て続けに命中弾を受けた先頭の鮫型が堪らず誘爆し‥‥即座に水圧に押し潰される爆発の向こう側から、衝撃波をものともせず2機目の鮫型が突っ込んで来た。
 驚愕に目を見開きながらも誘導弾を叩き込む愛華。倒し切れぬその鮫型の牙と力場とが愛華機を打たんとするその直前。側方からスルリと回り込んだ桜機が、その敵機の横腹を光の刃で切り裂いた。
「ふん。ここから先は通行止めなのじゃ」
 嘯く桜の機影の後ろで、横腹から爆発を噴いた敵が中央で折れ曲がって爆散する。‥‥ここから先は通行止め。船団にも愛華にも触らせぬ。流石に小っ恥ずかしくて口ごもる桜に、どうしたの、ときょとんとした愛華の問い。何でも無いのじゃ、と赤く照れながら、桜は愛華の援護の下、3機目の鮫型へと突撃する。
 一方、ルンバのアルバトロスは、2機のリヴァイアサンを包囲しつつある敵の背後から攻撃を開始していた。
「もう沈ませたりはしない!」
 M−25で1機を穴だらけにしつつ、もう1機をキングフィッシャーで貫き抉る。すかさず呼応した硯とリョウが、途中の2機を蹴散らしながら包囲網を脱出、合流する。助かりました、と素直に告げる硯の言葉に、アルバトロス乗りのルンバは少し、救われた様な気がした。

 合流を果たした3機に対して、まるで魚の群れの様に柔軟に隊形を変える敵。再び包囲しようとする敵の横っ面を、鮫型を殲滅した桜機と愛華機が引っ叩き、十字砲火で薙ぎ始める。
 どうやら勝った、と思ったのは、半数程までHWを撃ち減らした時だろうか。後退し、距離を取ろうとする敵を追い散らしながら‥‥しかし、哨戒機がもたらした警告はそんな気分を一蹴した。
 敵の増援。或いは本命か。
 敵後方より迫る巨大な影は、水中用大型アースクエイクとでも呼ぶべき巨大な機械化キメラだった。


 その巨体は上空からでも確認できた。
 水中に映る巨大な影を目で追いながら、まるで潜水艦だ、と煉が呟く。攻撃を誘おうと低空ギリギリを飛んで見せるが、空中の敵には興味が無いのか反応する様子を見せない。
「なら、嫌でもこちらに注意を向けさせましょう」
 ソーニャが呟き、護衛艦に爆雷投下の誘導を要請する。クリア機と共にアプローチを開始したソーニャ機は、煉機の援護の下、機を定針させた。
「位置確認、起爆深度設定‥‥3、2、1、」
 投弾の瞬間、軽くなった機がふわりと浮かぶ。着水した爆雷は沈降を続け、規定深度に達した瞬間に弾けて爆発した。小山の様に盛り上がった水柱の下‥‥しかし、巨大キメラはただひたすらに船団への突進を継続する。
「こんなバカでかいものまで用意しおって‥‥やる気だけは本気のようじゃな!」
「‥‥流石の私も、磯蚯蚓は食べられないんだよ」
 水中では、桜と愛華が呆れた様に嘆息していた。苦笑が割と深刻なのは、遠距離兵装を使い果たしてしまった故か。
 一方で、硯はキメラよりも気になるものが存在した。それは、巨大キメラに随伴していた2機の水中用ゴーレムだった。
「硯、あれ‥‥」
「‥‥ええ。ココス諸島で見たゴーレムと同じ装備ですね。‥‥それと、北太平洋と」
 ルンバの言葉に頷く硯。2機のゴーレムは前に出ず、射程の長いプロトン砲でキメラに近づくKVを狙撃する構えのようだった。
 因縁のある無銘の敵。だが、今はかかずらってる暇はない。まずはあのデカブツの足を止めなければ。
「効いてない‥‥?」
「‥‥はずはないのじゃが!」
 KVの攻撃をものともせず突き進む敵。うねる巨体をかわしながら、リョウと桜は大きく舌打ちした。斬撃は確実に皮膚を裂き、その肉を切り裂いているのだが、巨体故か効いているように感じられない。船団に接近したキメラは、補給艦を庇う様に前に出た護衛艦の横腹に喰らい付き‥‥あっけなく、その艦底を竜骨ごと食い破った。
「3隻目‥‥っ!」
 真っ二つに折れ沈む護衛艦。補給艦に狙いを定めたキメラの針路上に、ブーストで回り込んだ硯機が盾になるべく立ち塞がる。大きく口を開いた敵はそれに喰らいついた。
 かかった、と思いつつも、だが、キメラは止まらない。その質量差故、1機ではその突撃を止められないのだ。硯機を噛み砕こうとする牙を盾とアクティブアーマーとで押し返す。機の関節部が悲鳴を上げ、操縦席の警告灯が次々と赤く染まる。いつか見た光景だな、と硯が諦めかけた瞬間。
 衝撃は、背後から来た。
「アクティブアーマー展開! これ以上は‥‥」
「‥‥やらせないんだよ、絶対に!」
 ブースト全開で突進してきたリョウ機と愛華機が、全力でキメラの頭にぶつかったのだ。その速度とKV3機分の質量とを叩きつけられたキメラの身体が水上へと跳ね上がる。空中のクリアと煉は驚きつつも、ブーストを焚いて人型へと空中変形した。
「やらせない! 白の護り手の名にかけて!」
「吼えろ、ヴィルトシュヴァインッ! 限界ギリギリまで、ぶち込めぇッ!」
 空を奔る練剣白雪の光刃が胴の半ばまでを切り裂き、機杭「エグツ・タルディ」が音高く、その骨肉を打ち砕く。戦闘機形態に戻る間を惜しんで攻撃を放った煉の機体が、そのまま巨体と共に海へと落ちた。
「全く! 無茶をしおってからに!」
 愛華に怒声を浴びせながら、桜はキメラの胴体に思いっきりレーザークローを突きたてると、そのまま輪切りにする様に機をぐりんと巡らせた。その背後、ブーストで突進してきたルンバが敵の頭部(?)に機体ごと槍を突き立てる。
 さらに口元の3機が隙間から砲口を突っ込み、口中の力場ごと撃ちまくる。流石の巨大キメラも遂に力尽き、その巨体をのた打ち回らせる様にしながら海中へと沈んでいった。


 キメラの死亡に合わせる様に、2機のゴーレムは残存兵力を引き連れて後退していった。
「やれやれ。また死に損なったか‥‥にひひっ」
 ゴムボートに浮かんだ煉が、救助のヘリを見上げながらそう笑う。
 艦隊の輪形陣に迎え入れられ、ようやく安全を確保した補給船団の指揮官は、艦隊旗艦エンタープライズIIIに向けてこう打電した。
「救援に感謝する。助けてくれた能力者たちによろしく伝えてくれ。後で山ほどアイスクリームを送ってやる」