タイトル:【LA】掬われるのは?マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/19 22:31

●オープニング本文


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 急募! KV操縦技能者、野戦築城作業員!

野戦築城現場における重機オペレーターを募集します。
KV(LM−04『リッジウェイ』)を用いた防壁築城作業他、対キメラ用水堀・各種塹壕を掘りまくる簡単なお仕事です(若干の戦闘行動あり)
勤務地は、大都会ロスアンゼルスより車で僅か1時間のアーバイン橋頭堡!
西海岸の平和を一手に担うこの要衝で、貴方のその若い力を人類の為に役立てて見ませんか?
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‥‥‥‥
‥‥


 北米大陸、西海岸。ロス近郊、アーバイン橋頭堡。
 ロス解放作戦によって確保されたこの土地を守る為に築かれたこの拠点は、五大湖のオタワ・フォートラインと並んで、北米戦線で最も重要な要衝の一つである。
 メキシコ方面より来襲するバグアの地上戦力を押し留める防壁としての役目の他、進攻して来るバグア航空部隊に対する警戒線としても機能するこの最前線の防衛線は、しかし、この夏の大規模作戦Woiにおいて少なからぬ損傷を受けていた。UPC軍はロス市内と並ぶ優先順位で以って主防衛線を復旧したが、その前衛陣地の修復までは中々手が回らない。軍はリッジウェイを中心とする工兵部隊を編成し、前線へと派遣したが‥‥バグアの度重なる妨害もあり、作業は遅々として進まなかった。

 2ヵ月後。アーバイン橋頭堡、前衛陣地。野戦築城現場──
 ラストホープ島に張り出された求人広告を見て応募した能力者たちは、通常依頼もかくやという速度で現場へと送り込まれた。
 高速移動艇まで用いて北米へ移動、降り立った空港では食事をする暇もなく。乗せられた高機動車で一路、前線へと運ばれる。‥‥北米の空気の違いを感じる間も有らばこそ。気づいた時には、能力者たちは砂塵舞う作業現場にあっという間に放り出されていた。
 砂煙と共に引き返していく高機動車。照りつける太陽、ピーカンの蒼い空──立ち並ぶプレハブや作業中の重機を遠く全周に見ながら、乾いた大地の上にポツリと取り残された能力者たちに、歩み寄る男の姿があった。
「よく来てくれた。俺がこの『現場』を取り仕切っている、第○○工兵大隊1中隊長、ゲイン大尉だ」
 上半身ランニング姿のその男は、自らを大尉と称した。‥‥なるほど、よく見れば土塗れのズボンはUPC北中央軍の軍服に違いない。ゲインは能力者たち一人一人の手を両手で握ると、人好きのする笑顔とウィンクで顎をしゃくった。
「ついて来い。現場と、お前たちの仕事道具を見せてやる」
 そう言って、自ら先導して歩いていく。音から判断するに作業現場まで距離がありそうだったが、近場へも大抵車で移動するアメリカ人にしては珍しいタイプなのかもしれない。適当な話題を交わしながらついていくと、10分もしない内に作業現場後方の小高い斜面の上に着いていた。
 一面に、赤茶けた作業現場と、ほぼ更地と化したかつての住宅街が広がっていた。
 遠くに見える緑の森。無人の廃墟は、度重なる戦闘により瓦礫どころか原形すら留めていない。そのかつての『住宅街』の脇を走る高速道路が森から陣地の中へと続き‥‥掘り下げた巨大な壕と、盛り上げた長大な土の壁とがまず目に入った。
「ここは橋頭堡の出城みたいなものだ。キメラに対する防衛線であると共に、警戒線の役割も担う。本格的な敵の侵攻が行われた時には、遅延戦闘を行いつつ本隊の援護を待って本陣へと後退する。‥‥俺たちの仕事は、水堀用の壕を掘り、その土を盛って『丘』を作り、それに沿って地殻変化計測器を埋めつつ、地下に堅牢な司令部と弾薬庫と燃料庫とを建設しながら、歩兵用、KV用、移動用、連絡用の各種塹壕を掘りまくる事だ」
 大尉の言葉に、はぁ、と生返事を返す能力者は多かった。大事な仕事ではあるが、流石に心躍るという類のものではない。
「そして、君たちのその仕事のパートナーがあのリッジウェイという訳だ」
 大尉が指を差す先に、人型で、或いは4脚装輪形態で作業を続けるKVの姿があった。LM−04『リッジウェイ』。地上における能力者の展開を早める為に開発された地上用KVで、野戦築城の為の土木作業をも考慮した設計がなされている。進路開拓のためのヘッジローは破砕作業に転用できたし、排土板やドーザに換装すれば並の重機には真似できない作業量を発揮する。この現場の機体の中には、汎用兵員室部分を開放型の荷台に交換(換装に非ず)したものまでいた。
「パワーの4脚、作業の2脚ってな。サイズ的に細やかな作業は専用の重機には一歩譲るが、SESを搭載した重機として考えればその力は桁外れだ」
 だが、その最大の特徴は、やはりKV──戦闘車両であるという事。気付いた能力者の一人が、あっ! と大きな声を上げた。
「武装したまま、作業をしているんですか!?」
 ああ、それは‥‥ 大尉が答えかけたその時。何かが空気を切り裂く音がその声に被さり──急激に大きくなっていくその音が聞き慣れた砲弾の飛翔音だと気づいた時には、土塁の一角に突っ込んだそれは爆発、土砂の山を大空高く打ち上げていた。
 一斉に作業を止め、塹壕へと取り付くKVたち。森の向こうから姿を見せた旧式の地上用HWがパラパラとフェザー砲を撃ち始め、それに対する反撃の砲火が放たれる。散発的な砲撃はさらに続き、逃げ惑う重機から離れた所に着弾しては固めた土を吹き飛ばす。その内の一弾は後方の斜面にまで届いて落ちたが、大尉は立ったまま咥えた煙草の先に火を点けた。
「いつもの擾乱攻撃だよ」
 紫煙を吐きながら、身を伏せた能力者たちに大尉は言った。
「工事の完成を引き延ばす為の時間稼ぎだ。この面制圧も出来ない散発的な砲撃を見ても分かる通り、ここの敵にこの陣地をどうこうするだけの地上戦力は残っていない。散々、邪魔をしてくれたが‥‥だが、それもあと5日程度の事だ」
 不思議そうな顔で見上げる能力者に、大尉は肩を竦めて見せた。
「この妨害を受けているペースでも、この防御陣地はあと5日で完成するんだ。そうなれば連中も手が出せなくなる。万々歳ってわけだ」
 そうこう言っている内に、碌に砲火も交えぬうちに後退を始める『6本足』の地上用HW。塹壕の中のKVは、しかし、警戒の為に砲口をそちらに向け続ける‥‥
「‥‥これまで雇っていた中国系の能力者たちが、ここに来て今度の大規模作戦に参加する為に抜ける事になってな。いや、本当に君たちが来てくれて助かった。あと5日、この調子だがさっさと作業を完成させちまってバグアの奴等を黙らせよう」
 今日は引き継ぎ、作業は明日からだ、と、食堂と宿舎の位置を教えて後ろ手を振って立ち去る大尉。
 警戒態勢解除のサイレンが鳴り響き、リッジウェイと重機の群れがそれぞれ作業へ戻っていった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
九条・葎(gb9396
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

「役割分担が上手くいけば、効率は十分補えるはずだ。頑張ろう」
 白鐘剣一郎(ga0184)が手を二度叩いてブリーフィングをそう締めると、集まった工兵たちはゲイン大尉の指示の下、それぞれに自分たちの担当現場へと散っていった。
 能力者たちもすぐに機体への搭乗を開始する。龍深城・我斬(ga8283)はラダーに足を掛ける寸前、ふと相棒となる機体を見上げた。
「‥‥また、こいつに乗る機会が来るとはな」
 もっとも、今度は鉄柱やら構造材やら山盛りの土木仕様ではあるが。だが、まぁ、これもこの機体の本分だ。作業も戦闘もバッチリこなしてその力を見せ付けてやればいい。
「今日の作業は堀と土塁を集中的にやるんだよ〜。私たちが掘りまくるから、盛り付けはお願いするんだよ〜!」
 工兵たちに向けて、犬肉球印のヘルメットを被った響 愛華(ga4681)が声を張る。その隣りの機の上では、綾嶺・桜(ga3143)が改めてむぅ、と唸っていた。
「しかし、KVで土木工事とはのぉ‥‥愛華もまた変わった依頼を引っ張って来たものじゃ」
 気が乗らぬ、といった態で呟く桜。これではまるで、急に金銭が入用になったバイトの学生‥‥っ。
「‥‥って、天然(略)犬娘! さてはお主、またお金を使い切ったのじゃな?!」
 気付いてガ〜っと吼える桜。地殻変化計測器を担いだ愛華の04がぴゅ〜、と森の方へと逃げていく。
「‥‥凄いや。まさに工事現場、って感じだ‥‥」
 機上から現場を見渡して、明星 那由他(ga4081)が感嘆した様にそう呟く。こうも砂埃が多いとKVの整備も大変だろうな、という那由他の呟きは、上がってきた古参の整備兵に聞かれていた。
「なんだ、坊主。KVの整備に興味あんのか?」
 驚きながらも力強く頷く那由他。人見知りしがちな那由他であるが機械に関しては話が別だ。整備兵は嬉しそうに二度頷いた。
「そうかそうか。04は地上専用機だからな。前線での長期運用を考慮して整備はし易くできてるんだ」
 怪我しないようしっかりやんな。古参兵はそう言って那由他の頭にポンと手を置くと、部下に装備の準備を命じながら機を滑り降りていった。

 発破ぁ! の掛け声と共に、現場に地響きと轟音が響き渡った。
 ズズン、と一瞬盛り上がり、沈み込む大地の一条。全ての爆薬の起爆を確認してから堀の底へと機を下ろし‥‥ヴァイナーショベルを担いだ榊兵衛(ga0388)機は、爆破によってグズグズになった土砂の斜面を見上げた。
「ロス防衛の為にも前衛陣地構築は重要だろうしな‥‥微力を尽くすとしよう」
 槍の様にクルリとスコップを前へと回す。両手で保持したそれを地面へ突き刺し、足で押し込んでから掬い上げる。ちょいやさっ、と土砂を堀の上へと放り投げ、以下、同じ作業を繰り返す。その隣りで、4足形態の剣一郎機がドーザーショベルを車体ごとズズイと土砂の中へと押し込んだ。掬い上げて後退し、保持したまま人型へと変形。両手で抱え上げて堀の外へと空けてやる。
 堀の上では排土版を装備した那由他機が、堀の中から次々と上げられてくる土砂を集積場へと集めていた。そこには愛華と桜が待機していて、集められた土を積み込んでさらに丘の上まで運んでいく。
「わんわんわ〜ん♪ 土運び〜♪」
「にゃんにゃんにゃ〜‥‥って、移ってしまったではないか!」
 土砂を背中に積んで坂を上がっていく人型形態の二機は、幾つものスロープを切り返すトラックよりも到着が早い。おまたせ〜、と土砂を下ろすと、各種重機がそれを使って築城作業を行ってゆく。
「掬え、運べ、貫け突貫〜! 俺のシャベルは1000万(パワー!)♪」
 一方、剣一郎や兵衛とは反対側の削岩現場。ねじり鉢巻を締めた阿野次 のもじ(ga5480)が、口ずさむ即興歌のテンションに相応しいノリで前面の土壁を崩しまくっていた。砕いたその土砂を自ら積み込んでそのまま丘を駆け上がっていく。ロードローラーを曳くその姿はまるでスポ魂の主人公だ。
 のもじ機が削岩作業を続けている間、その後方で静かに作業していた九条・葎(gb9396)の機体が、のもじ機と入れ替わるように前に出る。淡々と人型へと変形し‥‥次の瞬間、のもじもかくやというハイテンションで、ロックンロールに削り始める。
 やがてロードローラーに転がされる様にのもじが戻ると、入れ替わった葎機は再び静かな作業に戻る。堀の上で自前の地殻変化計測器を設置していた我斬は、う〜ん、と不思議そうに小首を傾げた。
「陣地用の計測器は警備に転用できないの?」
「届くのは3日後だってよ。電気や配線が終わってからだとさ」
 我斬の返事にふーん、と生返事をして、のもじが再び丘の上へと走ってゆく。入れ替わって前に出た葎機は再び激しく土を削り‥‥今度は暫くして動かなくなってしまった。
「‥‥すみません。練力の限界です。作業を代わって頂けませんか?」
 葎からの無線に応じて我斬が掘の中へと下りる。機を下げ、ハッチから姿を見せた葎は凛々しい少女といった風で‥‥先程の作業のテンションとは相容れぬその姿に、我斬は再びうーん、と唸った。

 その日の擾乱攻撃は、昼飯時に行われた。
「‥‥練力が切れたから、お手伝いを」
「へぇ‥‥そ、そうなんだ‥‥」
 食堂代わりのテントで配膳を手伝う葎から昼食のトレーを受け取って。我斬は器用に歩きながら食事を済ませると、作業現場へと足を踏み入れた。工兵たちが驚いた顔で出迎える。
「おいおい、休憩時間じゃないのかよ」
「なに、その気になれば20時間は覚醒してられるんだ。余裕余裕」
 そう言って、食べるか? とデザートのチョコパンケーキを出して見せる。あの嬢ちゃんにやってくれ、と苦笑しながら指差す工兵。そこには、オープンテラスと化したテーブルに座って昼食を取る愛華と桜の姿があった。
「わふわふもきゅわふんぐわふわふ‥‥んごっきゅん。おかわり!(3杯目)」
「お主はどれだけ食うつもりじゃ! 工事が完成する前に全部食べつくすつもりか!」
 すぱこーん、と、どこからともなく取り出したハリセンで愛華の頭を叩く桜。工兵たちから笑いが上がる。
 攻撃が始まったのはその時だった。
 遠雷の様なくぐもった砲声。砲弾が空気を切り裂く音。怒号が飛び交い、兵たちが近場の塹壕に飛び込んでゆく。
 着弾は丘の上。爆煙と土砂が舞い上がり、轟音が腹を打ち据える。慌てて避難を始める重機と工兵。だが、落ちてくる砲弾の数はやはり少ない。
 能力者たちは丘を駆け下り、KVへと向かって走る。塹壕に残っていた兵衛は機の精密照準器を、森の端まで前進して来た地上用HW『6本脚』に対して向けた。
「照準よし。撃てぇ!」
 兵衛機の両肩に引き出された砲が火を噴き、ほぼ同時に敵のフェザー砲が一斉に光を放つ。次発装填。再攻撃。殆ど直撃弾など見込めぬ距離ではあるが、04の照準装置は確実に敵を捉えていた。軽く弧を描いて飛ぶ砲弾が1機に命中。装甲をひしゃげさせて森へと後退する。
 その間も曲射砲による砲撃は続けられている。砲撃で開いた穴を埋め戻す手間は勿論だが、何より作業が中断するのは痛い。避難を繰り返すだけでも、結構な時間が取られるのだ。
「‥‥これで時間を無駄にする訳にも行くまい。ケリを着けてくる。援護を頼むぞ」
 剣一郎が吶喊を宣言、我斬がそれに応じて続く。曲射砲装備のタートルワームは見当たらない。恐らくは森の中。
 敵の火線が途切れた一瞬、塹壕から身を出した04が一斉に援護射撃を撃ち放つ。精度よりも弾数を重視したその攻撃が森の際を叩く間に、飛び出した剣一郎と我斬の2機はブースト点火。森までの距離を一気に踏破する。
 だが、応射も一瞬、敵はすぐに後退して森の中へと姿を消した。


「のもじ体操その1♪ 大きく背筋を伸ばしWRRRRRRRYのポーズ!」
 2日目、早朝。
 適当に集まった工兵たちを前にして、のもじはオリジナルの体操をみんなと一緒にやっていた。あれはなんだ、と尋ねる大尉に、部下が「ニッポンでは作業の前にああやって体操をするとか」と噂を語る。
「Unique!」
 呟く大尉の視線の先で、「9秒も(姿勢を)止めていられたぞ!」とのもじがどぎゃ〜んとポーズを変える。

 この日も敵の擾乱攻撃は続いたが、能力者たちの作業は続き、陣地の完成へと近づいていく。
 4日目に至っては、敵は姿すら現さなかった。


 4日目、午前0時頃。女性能力者に割り当てられたプレハブの4人部屋。
 4者4様の寝姿を見せる二段ベッドの上で、葎はその小さな身体を丸めて泥の様に眠り込んでいた。少し前までは朝方までゲームをしている様な生活が続いていた。もしかしたら、こんなにぐっすりと眠ったのは随分と久方ぶりかもしれない。
 その隣室、男部屋では、シャワーに髪を濡らした剣一郎と、顔に機械油をつけた那由他(愛機の整備をしていたのだ)が静かに部屋を抜け出した。塹壕で夜襲警戒にあたる兵衛と我斬、二人と交代する為だ。
「交代だ。しばらく休んでくれ」
「ありがてぇ」
 機体から身を出す二人。我斬は首のタオルで汗を拭きながら夜の寒気に身を震わせた。早く熱い湯を浴びたいものだ。シャワーしかないのは不満だが。
「やはり、橋頭堡近辺の再建はままならないのが現状のようだな」
「ああ。だが、ここまで持ち堪えてくれたのなら、最後まで役目を果たせるようにしてやらないとな」
 温かい缶コーヒーを遣り取りする剣一郎と兵衛。今日一日は静かなものだった。敵が諦めてくれたのなら御の字なのだが。
 勿論、そんな事はなかった。敵はこの最後の機会に、全戦力を挙げての夜襲に打って出た。
 聞き慣れた砲弾の落下音が嚆矢となって月夜に飛ぶ。轟く爆発音。慌てて機体へ搭乗する4人の向こうで、陣地の照明が前方へと照射される。
 光の輪に浮かび上がった敵の姿に、4人は目を丸くした。曲射砲装備のタートルワーム──接近戦に向かないそれが2機、真正面から一直線に突っ込んで来ていたからだ。
「っ! 敵も必死か!」
「側面に回り込みます!」
 マシンガン装備の那由他機が、その機動性を活かして塹壕内を移動していく。作業のない夜間ならば軽装でも問題ない。
 直後、森の中から迸った7色の怪光線が、照明の一つを蒸発させた。驚愕した兵衛が照準器を向けて倍率を上げる。映ったのは旧式の陸戦ワーム──高威力と長射程を誇るプロトン砲を持つ『8本脚』。移動目標は狙わず、照明を次々と消し飛ばしている。兵衛はすぐに応射を叩き込んだが、その時には敵は既に移動していた。舌を打って機を動かす。直後、先程までいた位置にプロトン砲が撃ち込まれる。
「出るぞ。援護を!」
 フィールドを煌かせながら突っ込んで来る2機の亀を迎え撃つべく、剣一郎と我斬が突っ込みをかける。剣一郎は敵の突進を真正面から受け止めながら、右手でピックを打ち込みつつ、左腕部のライトニングクローを突き込んだ。闇夜に閃光が煌き、切っ先が敵の装甲を抜く。防御力に優れる亀も、非物理攻撃には案外脆い。
 さらに、機を滑らすように側面へと回り込んだ我斬機が両手の雷爪に稲光を閃かせる。
「一度使って見たかったのさ。必殺、雷撃爪! ってな!」
 撃ち込まれる両の拳。奔った電光が誘爆を引き起こし、その一撃で最初の亀は火を噴きながら沈黙した。
「あと1機!」
 意気上がる能力者たち。だが、それは左翼で幾つもの閃光が煌くのを見るまでだった。
「敵です! ワーム1小隊、左翼正面から突っ込んで来る!」
 中央から突撃してくる亀の側面へと回りこもうとした那由他機は、左翼から接近していた6本脚4機の真正面に出る形となった。飛び交うフェザー砲の火線に姿勢を下げ、膝射姿勢で短機関砲を撃ち捲る。連続で砲弾を叩き込まれ、つんのめって地に墜ち爆発する敵。反撃は3倍。苛烈な応射に装甲が灼熱し、警告灯が赤く染まる。
 その時、中央から、位置の露呈を恐れずに点灯した剣一郎機の前照灯が闇夜に敵を照らし上げた。直後、放たれる一斉砲火。側面から砲撃を受けて敵隊列が大きく乱れる。
 大丈夫、対応できる。能力者たちが確信を抱くのに時間はかからなかった。だが──
 陣地で警報が鳴り響く。右翼からも突撃していた敵の1個小隊が、陣内になだれ込んだのだ。
 那由他の脳裏に整備士たちの顔が浮かぶ。しかし、正面の敵の火線は離脱を許してはくれなかった。

 塹壕と土塁を突破した4機の6本脚は、目に付いた重機に手当たり次第に攻撃を加えながら、その足を止めずに奥に奥にと進攻していた。
 慌てて駐機場の機体へ乗り込む女性陣。その中で、葎はひとり、プレハブ棟の前の広場で機体を停止させていた。
「‥‥ここはやらせない」
 呟き、蜂の巣突いた宿舎を振り返る。あそこには100人以上の工兵たちがいる。工事を妨害するという意味では最大の攻撃目標なのだ。
 振り返った葎の目の前に案の定、装輪で走る6本脚が2機、飛び出してくる。葎はなぜか笑いながら、両肩の連装機関砲を無照準で撃ち捲った。砕ける大地、跳ぶ火花。だが敵はその弾幕に怯む事無く突撃を継続。葎は先頭の1機に集弾し──穴だらけになったそれはダンスを踊るように揺れながら、火を噴いて爆発した。
 直後、その爆発の陰から躍り出る様にしたもう1機が葎機の脇を一気に突破する。しまった、と叫んで機を振り返らせる葎。疾走を続ける敵の砲口が光を溜めて──
「キラ★っと!」
 闇夜に奔った光の線が、ワームの脚を数本切り飛ばした。バランスを崩した敵がスピンして地を滑る。体勢を立て直して振り返った次の瞬間──轟音と閃光を発して飛翔してきた黒金の拳が装甲ごと敵を叩き潰す。突き刺さり、ひしゃげた機体にスパークが走った直後、敵は火を噴いて粉々に爆散する。その向こうに、のもじと桜、そして愛華の機体が炎に浮かび上がった。
「みんなはやらせないんだよ!」
 愛華もまた葎と同様、工兵たちを守る為に行動していたのだ。前線へ向かう桜とのもじを呼び止め、こちらへと回って間一髪、間に合った。
「こんなこともあろうかと!」
 のもじが装備していた照明銃を打ち上げる。煌く光の落下傘が、陣地に入り込んだ敵ワームを照らし出す。
 硬直する敵に向かって一斉に投げ掛けられる火線の網。離れた敵には愛華の多目的誘導弾が次々と直撃し‥‥続け様に二つの爆発が、花の様に闇に咲いた。


 その夜に行われた戦闘で、敵の小集団はその全てが掃滅された。戦場となった陣内の被害は小さくないが、幸いな事に重機と人員の被害は最小限に抑えられた。
「あと一息だ。ここまで来たら一気にやってしまおう」
 剣一郎の言葉の下、能力者たちは最終日を越えた早朝まで突貫工事を継続し──前衛陣地は1日遅れで完成した。
「ま、まあ、たまにはこういう依頼も良いかもしれぬの」
 自らが構築した陣地を眺めながら‥‥少し、こそばゆそうに呟く桜。能力者や工兵たちの顔は、皆、疲労の色の濃い中に満足の笑みを浮かべていた。