タイトル:美咲センセと芋堀り遠足マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/07 11:59

●オープニング本文


 美咲センセは、ジャージだった。
 それも、全身エンジ色のまごうことなき『芋ジャージ』姿であった。
 胸元には何かのエンブレム‥‥植物の図案と、漢数字に、中の文字。‥‥恐らく、中学時代の物を引っ張り出してきたのだろう。少なくとも年頃の娘さん──まぁ、20代半ばは妙齢と称して間違いはないはずだ。‥‥娘さん、という表現が適切かどうかは別にして──が好んでする格好ではない。
 だが、肝心の美咲本人は特に気にした様子もなく。両の拳を思いっきり伸ばしながら、秋晴れの高い空を気持ち良さ気に仰いでいた。
「う〜〜〜ん♪ 爽やかないいお天気。ホント、晴れて良かった〜」
 思い切り深呼吸をしてから、傍らに静かに佇むジーザリオの扉を閉める。
 雲一つない蒼い空。紅葉の始まりかけた山林を見遣りながら、広がる畑と静かな道路を目の前にして駐車場の砂利を踏み締める。やがて辿り着いた貸し切りバスがハンドルを切って駐車場へと進入して来るのを見て、美咲は誘導の為に小走りに駆けて行き‥‥
 2009年10月某日──
 この日は、なかよし幼稚園の芋掘り遠足──何かとネタキメラが現れがちな、イベントの、日であった。

「は〜い、ちゃんと背の高い順にならびましたか〜? それでは、いよいよこれからおイモの畑に向かいます♪ 逸れないように、年長さんは年少さんの手をちゃんと繋いで〜。‥‥繋いだ? うん、じゃあ、列になって、走らないで、先生について来てくださいね〜。道路を渡る時はちゃんと、右見て、左見て、また右を見てから渡るんだよ〜」
 バスを降り、わらわらと集まってくる運動着姿の園児たちを纏めて、美咲の同僚、柊香奈が先導して芋畑への移動を開始する。
 同僚であり、かつ、中学からの親友でもある香奈もまた、美咲と同じく『芋ジャージ』姿であった。地味で野暮ったい服装が却って香奈のステータス『D』の魅力を強調してやまないがそれはまぁ置いといて。泥塗れ必至の芋掘り遠足という事で、二人で『汚れの目立たない格好』としてこれを選んだのだ。他の同僚の先生たちには白やら水色やらピンクやらのすたいりっしゅ(美咲談)なジャージを着て来た者たちもいるが、遠足が終わった時、彼女等は真の勝利者が誰であるのかを知る事になるだろう。
 園児たちと先生たちは、車の通る気配もない二車線道路を手を上げて渡ると、駐車場の向かいにある芋畑へ足を踏み入れた。畝ごとに列を作って前へと進む。畝には1mごとに白線が引かれており、つまりはそれが一人分ということだ。
「お〜し、みんな、シャベルは持ったか〜? 白い線と線の間を掘るんだぞー。掘ったお芋は蔓を切ってビニール袋に入れとくよーに。切った蔓を辿って掘っていけば、他のお芋も『芋づる式』に見つかるからねー」
 合図と共に一斉に、園児たちが楽しそうに畝を掘り返し始めると、美咲は皆の間を歩いて見回り始めた。砂場遊びとはまた違った感触の土いじり。いつも食べてるお芋が土の中からぽっこりと出てくるその様子が宝探しにも似て面白いのだろう。あちこちからきゃっきゃっと歓声が上がる。
「美咲センセー。これ引っ張っても取れなーい」
「おっ、どーした、マー君(弟)。男の子だろー、もっと腰入れて引っ張れー」
 言いながらしゃがみこみ、美咲は思いっ切り引っ張るマー君を手伝って蔦回りの土を掘り返してやる。
「おー、これは大きい! もう少しだぞ。ガンバレ、マー君」
 土の中から姿を見せ始めたさつまいもにマー君が表情を綻ばせる。美咲はそれ以上掘るのをやめて、集まってきた他の園児と共に笑顔でマー君に声援を送り‥‥
 すぽんっ! と抜けて飛び出した芋に上がる歓声。だが、成し遂げた喜びに顔を輝かせながら尻餅から身を起こしたマー君が見たものは‥‥畝の上でピチピチと跳ねるさつま芋の姿だった。
 皆から笑顔がスゥと消え、冷めた目で『それ』を見下ろす。何人かの年少組の園児だけが、びっくりした顔で「さつまいもっておさかなだったんだ!」と信じかけていた。
「美咲センセー。これって‥‥」
「うん。いつものアレだろうね」
 避難開始。各員、マニュアルにしたがって行動するように。美咲がスッと立ち上がると、年長組の園児たちが、何が起こったのか分かっていない年少組の手を引いてバスの方へと慌てず急ぎ戻り始めた。今回の芋掘り遠足に際して美咲たちが考えた『バディシステム』。ある意味ネタキメラの襲撃に慣れた年長組と慣れていない年少組をペアにする事で、避難行動の効率化を図ったものだ。
 その時にはもう、芋畑のあちらこちらで悲鳴が上がり始めていた。やはり複数箇所で同じ様な事が起きているらしい。余りの怖さにペアごと泣いて動けなくなった園児の組に香奈が駆け寄り、両手で引いて避難させる。
「これは何だ! どういう事だ! あんた、我々に恨みでもあるのか!?」
「昨日まではちゃんとした畑だったさ! これもあんたたちのせいじゃないのか!」
 後ろでは園長先生と畑のオーナーとの言い争いが始まっていたが、美咲はそれを意識の外に置いていた。畑の一番奥、畝から外れた土の部分から、手足の生えた巨大な芋がせり上がって来ていたからだ。手には何故かバグア版『芋焼酎の瓶』(兵装)。表面には何故か、耽美系漫画家が描いた様な人面が刻まれている。
「‥‥これはまた、妙なヤツが‥‥」
 呆れた様に呟く美咲。その背後で、蔓につながれてピチピチと宙を跳ねていた『小芋』が、その蔓をぶった切って美咲へと飛びかかる。振り返り様にそれを素手で掴み取った美咲がそのまま地面へ叩きつける様にして膝で地面に押さえつける。しぎゃー、とその口(?)を開き、鮫やピラニアもかくやという2重に生えた鋭い牙を剥き出しにする小芋。美咲は周辺に子供たちがいない事を素早く確認すると、内足首に隠していたナイフの刀身をその小芋に突き立てた。断末魔を上げる芋。ガクリと動かなくなり、芋らしからぬ量のドロリとした赤い液体があふれ出す。
 美咲は立ち上がると刃を振ってその血糊? だか芋糊? だかを振り払う。ボス芋(?)はこちらを見返しながらも、近づいて来る気配を見せなかった。
「あー、待機中の能力者各位。やっぱり今回も出ましたんで、ネタキメラの駆除を願います」
 無線機でそう呼びかける美咲。最早、吐くべき溜め息も出はしなかった。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
ロボロフスキー・公星(ga8944
34歳・♂・ER
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
加賀 環(gb8938
24歳・♀・FT

●リプレイ本文

「友達に『働くのに適した衣装』を聞いたら、これをお勧めされたんだけど‥‥何か変かな?」
 あっけにとられた皆の表情にちょっぴり不安になりながら、メイド服に身を包んだクリア・サーレク(ga4864)はその場でクルリと回って見せた。風を孕んでふわりと浮かぶロングスカート。友人のヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)は、勧めたのは誰だ、と幾人かの知人の顔を思い浮かべる。
「‥‥変ではないけど、スカートは避けた方が良かったんじゃ」
 動き易さを考えての発言。だが、クリアは別の意味にとっていた。
「ん? やんちゃな園児のスカート捲り? 大丈夫! 下にはレオタードを着てるから。パンツじゃないから恥ずかしくないもん」
 メイド服の下にレオタード。鏑木 硯(ga0280)とロボロフスキー・公星(ga8944)が顔を見合わせ、互いにあらぬ方へと視線を流す。
「なっ、なぜじゃ! ジャージなぞイヤなのじゃー!」
 クリアの背後──着替え場代わりのマイクロバスの車中からは、綾嶺・桜(ga3143)の魂の叫びが聞こえていた。どたばたと揺れるマイクロバス。やがて、ピンク色のジャージに着替えさせられた桜と、こちらはオレンジ色のジャージに身を包んだ響 愛華(ga4681)が降りて来た。
「わふぅ〜♪ やっぱり芋掘りならこの格好だよね〜」
「ぐぅ、何故こんな‥‥可愛い胸のワンポイントが余計に虚しいのじゃ‥‥」
 二人は色違いのお揃いジャージで、胸元には可愛らしい仔犬のワンポイントが拵えてあった。だが、サイズが合わなかったのか愛華の方はぱっつんぱっつんで、『中』からの『圧力』に負けたファスナーがずり下がり、その間から覗く白いシャツの下、量感豊かなふくらみがその存在感を主張していた。
 ヴェロニクは微かにたじろぎながら視線を逸らし‥‥クリア、加賀 環(gb8938)、そしてMAKOTO(ga4693)、バン、バン、ババンッ、とただただ圧倒的な包囲網に気がついて。カンパネラ学園ジャージに身を包んだ自らの胸部に視線を落とし、「‥‥むぅ」、と一言つぶやいた。
「大丈夫だよ、桜さん! とっても似合っているんだよ!」
 ニコニコと、本心からジャージ姿の桜を褒める愛華。だが、当の桜は不機嫌な顔で愛華を一瞥すると、ムスッとしたまま芋畑へと歩いていった。
 あれ? と一言呟いて、愛華がわたわたと桜を追いかけていく。桜は一度も振り返らなかった。


 芋掘りが始まった。
 能力者たちの多くは園児たちに交じって芋堀に興じていたが、環は『荷物番』を名目に駐車場に残っていた。
「そんな柄でもないしねぇ‥‥」
 助手席のダッシュボードに足を投げ出し、咥えた煙草に火を点ける。‥‥立ち上る紫煙、流れ行く雲。ま、これでおまんまが喰えるのだから楽な仕事には違いないが、多少退屈の感はしないでもない。
 少し離れた所では、折りたたみ式の小さな椅子にその巨体を乗っけたロボロフスキーが、優雅に脚を組みながらスケッチブックに筆を走らせせていた。環は暫しゆらゆらと足を揺らして‥‥やがて車を降りると、咥え煙草でそちらへと歩いて行った。
「何してんの?」
「子供たちの様子をね、スケッチしているのよ。‥‥こう見えても画家だったんだから」
 ふーん、と生返事を返した環が再び退屈し始めた頃、子供たちの歓声に沸く芋畑から、絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。振り返ると、畑の奥にボス芋キメラが佇立していた。
「‥‥ちっ。キメラが出なかったら単なる引率で済んだのに面倒な。しかも、初の実戦がネタキメラって‥‥」
 舌を打ち、火を点けたばかりの煙草を踵で揉み潰す環。パタン、とスケッチブックを閉じたロボロフスキーが、ポケットからキーを取り出し歩き出す。それはヴェロニクが預けていったAU−KVのキーだった。
「あなた達、ちゃんとバスの中でおとなしくしているのよ」
 逃げてきた園児たちをバスに誘導しながらウィンクひとつ。ロボロフスキーは颯爽とAU−KVに跨ると、アクセルを吹かして畑脇の農道へと走り出した。

「あー‥‥やっぱり出ちゃいましたか、キメラ」
 ボス芋がにょきにょきと生えてくるのを確認して。なんか何もかも諦めた様な表情を浮かべ、硯は天秤棒(棍棒)の端にぶら下がった芋の束と子供たちとを地に下ろした。
「『帰るまでが遠足です』ならぬ『キメラ退治も遠足です』って感じになってきてるな〜」
 顎に手を添え、何かしら考え込むように空を見上げるMAKOTO。硯は苦笑した。この異常事態に平気で慣れてしまっている自分たちは、もう色んな意味で末期症状に違いない。
 ケースを開き、MAKOTOはギター型超機械『ST−505』を取り出した。おー、という歓声を上げる園児たち。『ギターの虎耳お姉さん』は子供たちに笑みを返すと、アップテンポながら落ち着いた旋律を爪弾き始める。硯は、子供たちを不安にさせない様、笑顔で駐車場への誘導を開始した。

「まったく! こんな服を着せられて機嫌が悪い所へ、更にキメラじゃと!?」
「楽しい楽しい芋掘り遠足‥‥邪魔するなんて、絶対に許さないんだよー!」
 一方、避難誘導を皆に任せて、桜と愛華の二人はボス芋目掛けて突っ込んでいた。
 畝の間を、薙刀の様に熊手を構えた桜と、ボクシンググローブ(犬印)を嵌めた愛華とが疾駆する。畝から飛び出す小芋に構わず、蹴散らし、或いは噛み投げ(!?)ながら、諸悪の根源と思しき巨大な芋へとひた走る。
 いつもの様に横へと並んだ愛華に、桜はムッとしてさらに前に出た。ジャージの件を引きずっていたのだ。
「わしは機嫌が悪いのじゃ! 手加減は出来ぬものと‥‥っ!?」
 ボス芋に迫ろうとした桜の姿が、突然、愛華の眼前から掻き消えた。
「落とし穴!?」
 寸前で足を止めた愛華が覗く。深さは2m程。染み出す地下水で泥地と化したその底に、桜は尻餅をついていた。
「いつつ‥‥ええい、ぱんつまでびしょびしょじゃ」
「女の子がそんな事言っちゃダメなんだよ!?」
 言い終える間もなく、蔦を千切った小芋たちが桜目掛けてわらわらと振ってくる。熊手で打ち払う桜。背後の土壁から蔦つきの小芋が飛び出し、その腕へと絡みつく。
「くっ、こやつら‥‥!」
「桜さん!」
 次々と纏わりついて来る小芋の群れ。飛び込んできた愛華が小芋を両の拳で叩き落しつつ、その身をぐりんと半回転させて土壁へと叩き付ける。挟み打たれた小芋がグシャリと潰れて飛び散った。
「馬鹿もん! お主まで落っこちて何とするか!」
「桜さんは、私が守るんだよ!」
 立ちはだかる愛華。穴の淵と土の壁からは、新たな小芋がその姿を見せ始めていた。

 畝から飛び出し、園児の列に襲い掛かろうとする茎付き小芋。寸前、双剣を構えた環が間に割り込み、手にした直刀で打ち払う。地に落ちた瞬間には跳ね上がってくる2匹(?)の小芋を右に左に打ち凌ぎながら、環は忌々しげに舌を打った。
「ったく。まるで地雷原だ」
 響き渡る金属音。刀身と小芋の牙が打ち合う音だ。土の中から突然襲い来る敵は厄介この上ない。いったいどこまで攻撃範囲を広げているのか。
「はい、みんな、今のうちにゆっくり逃げるよ〜。足元に気をつけて、おさない、はしらない、しゃべらない、だよー!」
 びっくりして半泣きの園児たちを呼び集めて、クリアが指揮棒型超機械『ラミエル』をふりふり回して誘導する。環は左の刀身に喰らいついた敵を右の一刀で切り捨てると、もう一匹を無視して園児たちの後を追う。

 ロボロフスキーの到着は、避難よりも早かった。
「お届けのサインは省略しましょ」
 エンジンをかけたままウィンクするロボロフスキー。ヴェロニクは水路を跳び越え農道へと渡ると、園児の避難をロボロフスキーに引き継いでAU−KVへと跨った。
 金髪を纏めてヘルメットを被る。バイクなマシンの登場に瞳を輝かせる子供たちに、ヴェロニクは悪戯っぽく笑って見せた。
「待っててね。お姉ちゃん、今から『変身』するから」
 言いながらハンドルに手をかけ、人型へと変形する。その間、僅か0.05秒(←嘘)。瞬時に現れた装甲騎兵の姿に子供たちは顔を輝かせ、或いは口をOの字にして驚愕する。
(「ドラグーンの変身は初めてだったのね‥‥変身ポーズでも考えとけば良かったかしら」)
 なんかもう癖になりそうな快感を感じつつ、ヴェロニクは子供たちに手を振りながら農道をボス芋目掛けて移動する。

「子供たちは皆揃ってますか!?」
 クリアの問いかけに、是と答える先生たち。クリアは大きく頷くと、皆に「反撃の時は来た!」と宣言した。ラミエルを片手に、スカートの中の太股部分に仕込んでいた大型拳銃を引っ張り出す。
 一斉に前進を開始する能力者たち。手前半分の畑は小芋を避けての移動が出来たが、奥側は桜と愛華が通ったルートしか判明していない。
「うわっとぉ!」
 畝と畝との間に突如張り渡される茎のトラップに、クリアが思いっきり足を引っ掛けた。それでも飛び込み前転の要領で受身を取りつつ、流れるように立ち上がる。その横を一気に走り去る硯。小芋が飛び出す度に次々と畝を跳び越え、跳ねる様に先へと進む。
 一番最初にボス芋へと到達したのは、硯だった。
 落とし穴の淵を通って一気にボス芋へと肉薄する。めりめりっ、と地面の下から引き出された地下茎がまるで鞭の様に振り下ろされる。1本、2本‥‥地を砕く重い一撃をステップでかわしつつ、硯は突進の勢いもそのままに棒を地に突き立て、棒高跳びの要領で大きく跳躍。そのまま鉄の棒を叩き付けるべく大きく背中へ振り被る。
 ボス芋がそれを驚いた様に『仰ぎ見る』。表面に刻まれた耽美な顔が硯を見上げて‥‥
(「なぜ、耽美‥‥?」)
 思った瞬間、ばちん、とウィンクしたボス芋の顔面から光弾が撃ち放たれていた。
 ハート型の光の弾丸が硯をまともに捉える。移動せぬ‥‥或いは出来ぬボス芋の、それが遠距離攻撃の手段らしかった。地に落ちた硯を茎鞭が横殴りに弾き飛ばす。
「‥‥ふざけた姿をして、こいつは‥‥!」
 地面を転がって衝撃を殺し、両手で飛び起きる硯。小芋を突破してきた仲間たちが、ようやく追い付こうとしていた。


「ぬおぉぉぉ‥‥っ!」
 自分の身体にグルリと巻きついた地下茎を、ロボロフスキーは力任せに引き千切った。タネは『両断剣』煙管刀。だが、直後、受けたダメージの大きさにロボロフスキーはガクリと膝をつき‥‥庇い立った硯の棍棒に伸ばされた触手が絡みつく。
「まじかるビーぃぃぃムっ!」
 銃の空薬莢をパラパラと地に落としながら、右手でラミエルを振るうメイドクリア。指揮棒を咥えて弾込めしながら、子供たちから上がる「『まじかる2号さん』だー」の声に「2号さんはやめてー」と心に叫ぶ。
「震えるぞ心臓! 燃え尽きるほど律動! 刻むぞ戦慄の32beat!」
 放たれた衝撃波が、空気を、大地を、触手を打ち震わせてボス芋へと叩き付けられる。遠慮なくかき鳴らされるMAKOTO本来のハードビート。放たれる反撃のハートヒート(光弾?)。怯まずMAKOTOはしっかりとした歩調で前進を続け、衝撃波を撃ち放ちながらプレッシャーをかけていく。
 その後ろを、装甲服に身を包んだヴェロニクが装輪で疾走する。落とし穴の淵へと辿り着いた彼女はスケーターの様に足を止め、ホルスターから銃を取り出すと‥‥
「真デヴァステイター!」
 なぜか武器の名前を叫びながら、穴の中の小芋目掛けて撃ち放った。3人がかりで掃討を終え、「レーザーブレード!」(超機械β)で切った茎をロープ代わりに投げてやる。『獣の皮膚』で耐え続けてきた愛華がガクリと膝を付き‥‥駆け寄った桜がその耳元に声をかけた。
「‥‥背中を借りるぞ、愛華」
 こくり、と頷く愛華の背を蹴り、地上へと飛び出す桜。それはボス芋の不意を打つ形となって‥‥じゃりっ、と背後に回り込んだ桜が振り被った熊手を思いっきり振り下ろす。
「喰らえ! 愛華の仇じゃ!」
 『背中』を切り裂く熊手の一閃。ボス芋が身を捻って顔面を背中へ回らし、膝をついた桜に光弾を撃ち放とうと‥‥
 瞬間、その顔面に何か瓶の様な物が投げ付けられ、砕けたその中身がボス芋へと降り注いだ。
「その酒樽体型‥‥イケる口と見たわ! こっちのお酒の方がおいしいわよ。芋焼酎よりキツいんだから!」
 それはロボロフスキーが投げ付けたスブロフの瓶だった。口中へと呷ったそれを一気に吹き出し、環から借りたライターでもって火を点ける。
 燃え上がる炎。煌くフォースフィールド。だが、それはボス芋の視界を一時的に眩ませた。
「今です!」
 叫び、再び宙へと舞った硯がその棒を思いっきり叩き付ける。ぐしゃり、とボス芋の頭頂部分。熊手を杖代わりに立ち上がった桜が体重をかけて得物を突っ込み、クリアが銃弾を叩き込む。
 そして、ボス芋の正面には、どんっ、とMAKOTOが立ちはだかっていた。その手にはなぜか超機械でなく、バトルスコップが握られている。
「‥‥芋掘りの度に力加減を間違え、悉く芋をダメにしてきた存在、それが私だ!」
 スコップで芋を破壊するのには慣れている。真っ赤に燃えたオーラを纏い、その切っ先を突き下ろす。ぐしゃり、と言う音と共に、緩やかに下りていく蔦の鞭。ヴェロニクにより引き上げられた愛華が呟いた。
「それは子供たちの‥‥農家さんの‥‥美咲先生たちの、私たちの、そして‥‥お芋たちの怒りだよ〜」


「愛華! 無事か!」
 ボス芋に止めを差すや否や、桜は愛華に向かって駆け出していた。地面にうずくまった愛華はピクリとも動かず‥‥小芋をもぐもぐ喰っていた。
「なっ‥‥なっ‥‥」
「響さん、それ、食べるの?」
 言葉を無くした桜に代わってヴェロニクが尋ねる。愛華はころころと転がりながら「おいしいんだよ〜」と呟いた。
「うん。いけるね」
 何の躊躇いもなく口にするMAKOTO。どうやらドロリとした体液は蜜の様に甘く、まるで大学芋の様らしい。なんだろう、凄いぞ獣の人たち。
「焼けば案外、どうにでもなる‥‥のかなぁ?」
 呟くヴェロニク。沈黙。暗転。場面転換。ごー、と炎を放った櫓の中でボス芋がこんがりと焼かれていく。
「はいはいー。おさつチップス作るよー。並んで並んでー」
 SES中華鍋にスライスした小芋を入れていくクリア。そこに畑中から小芋を掘り起こしたロボロフスキーと環とがやってくる。
「ジャージ、黒でも良かったんじゃないですか?」
 そんな様子を端から眺めていた美咲に、硯はそんな事を聞いてみた。
「園児たちの前で悪者色はまずいでしょ」
「最近のヒーローは黒もいますよ」
 まぁ、そうなんだけど、と言葉を濁す美咲。知らないはずがない。幼稚園の先生だ。
「‥‥血の痕をね。子供たちに見せたくなかったんだ。芋ジャージなのは、香奈が私に付き合ってくれたから」
 『ダサい』格好を一人でさせないという親友の心遣い‥‥本当に仲が良いんですね、との硯の言葉に、美咲は黙って頷いた。