タイトル:Good Luckマスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/12 13:29

●オープニング本文


 大規模作戦Woiの戦線縮小を受けて、動員されていた各部隊は随時、原隊復帰の為の移動を開始した。
 西海岸沖に展開していた各艦隊もそれぞれの母港へと舵を切り、戦い疲れたその身を休ませるべく次々と戦場を後にする。SES熱融合炉搭載型空母『エンタープライズIII』(CVS−101)と水中用KV母艦(改強襲揚陸艦)『ホーネット』(KVD−1)を基幹とする空母戦闘群に属する将兵たちは‥‥そんな、サンフランシスコへ帰港する僚艦たちの後姿を羨望と悪態とで見送った。
 彼等は引き続きロスの地上部隊を支援する為、この戦場に残る事になっていた。艦隊の損害が小さく、十分な戦闘力を保持しているのがその理由。エンタープライズIIIに至っては、激戦の渦中に身を置きながらただの一度も被弾すらしていない。
 武運艦として知られる艦の威名を継いだが故か、この艦はどうやら『ツいている』らしい。
「しかし、こうして貧乏くじを引かされるとなると、強すぎる運も考え物ですね」
 冗談めかして苦笑する副長に、エンタープライズIIIの艦長は至極真面目な表情で振り向いた。
「その程度の代償は受け入れるべきだろう。少なくとも私には、被弾して部下を死なせるよりはよほどマシに思えるよ」
 そう言って艦長は艦橋の風防越しに、大破してサンフランシスコへと曳航されてゆくミサイル駆逐艦へと視線をやった。それは艦隊で唯一、自力航行不能なまでの損害を受けた艦だった。艦橋構造物の過半を失ったその艦は、戦闘で舵をやられた所にプロトン砲の直撃を受けたのだ。ああなる事に比べたら、母港に帰るのが少しばかり遅れたからといってその運命を呪う気分にはなれないだろう。
 艦長の言葉に殊勝な顔つきで頷きながら、傍らに控えた副長は、しかし、心中ではまた別の事を考えていた。
 舵をやられるという不運に見舞われたあの艦は、だが、沈まなかっただけ『運が良い』。少なくとも生き残りの連中は母港に帰れる。‥‥とある一つの幸運がさらなる不幸をもたらす事は珍しい事ではない。無傷で作戦を終え、故に任務の延長を押し付けられた我々の因果は‥‥さて、どうなるものか。
「艦長! 対空レーダーにノイズを確認。バグアのジャミングです!」
「司令、ロスの防空指揮所より当艦隊に通報あり。メキシコ方面より飛来せし敵戦爆連合の一部、海上を北西へと進攻中。警戒されたし」
 空母のCDC(戦闘指揮所)からの報告に、副長はその身をビクリと震わせた。言わんこっちゃない。早速、『不幸』がやって来た。
 一方、艦長は落ち着いたものだった。艦隊司令から全艦隊に戦闘準備と迎撃の指示が出るや否や、全艦にKV発艦作業開始の命令を下す。続けて随時発進許可。鳴り響く警報の下、緊急発進待機中だった2機が続け様にカタパルトで射出され、すぐに後続の2機が後へと続く。アイランドの向こうの空を護衛艦から飛び立った対潜ヘリが飛び行き過ぎ‥‥視線を下ろせば、格納甲板で発進準備を終えた2機がエレベーターで飛行甲板へとせり上がって来る。
 この辺りの作業はすでに熟練の域に達していた。よどみなく作業を続ける兵たちの動きは流れる様に美しく、まるで艦自体が一つの生き物であるかの様だ。
 やがて、上空で素早く編隊を組んだ迎撃機の群れが多方向より進行する敵攻撃隊を要撃する為に東の空へと消えていく。艦隊に残ったのは上空を旋回する直掩機たちと、整備中などで発艦予定のない機体だけだ。
 ‥‥空母戦闘群が持つ戦闘力は、優に小国の軍事力を凌駕する。ましてやエンタープライズIIIの航空戦力はその全てがKVだ。地上部隊から連絡があった程度の敵戦力では、到底、防空網を突破できまい。‥‥CDCへと移動する艦長の後に続きながら、そう考えた副長は幾らか心の平静を取り戻した。
 だが、それも長くは続かなかった。CDCへと入った彼等を待っていたのは、新たな敵編隊の出現を報せる通信だったからだ。
「哨戒3号機より通信! 海面下より浮上せしビッグフィッシュより敵編隊が発艦! 中型爆撃機仕様×2、ガンシップ仕様×2、他小型HW(ヘルメットワーム)多数が発艦ち‥‥っ!?」
 突然耳朶を叩いた大きなノイズに、オペレーターはレシーバーを耳から首に投げ捨てた。哨戒機が撃墜された事は容易に想像できた。
 新たな敵の攻撃隊は、突然、海から湧き上がったのだ。迎撃隊の逆を突く敵のその動きに、制服の下で副長の背中が汗に濡れる。
 ちらりと艦長がこちらを見た様な気がして。我に返った副長は慌てて顔色を整えた。艦長に不適、とでも判断されたら今後の出世に影響しかねない。
「艦長。格納甲板に残る全機の発艦を準備中ですが、上空に上げられるまでにはまだ5分以上かかります」
 それは艦長への報告という形をとった艦隊司令への意見具申だった。参謀の何人かは気がついて副長を睨み据えたが、正直、そんな事は言っていられない。艦隊司令は、特に気にしなかったようだった。
「直掩機を全て新手に向かわせろ。後続の発艦まで時間を稼がせるんだ」
「危険です、閣下。二の矢が放たれた以上、三の矢もある可能性も‥‥」
「発艦を急がせろ。それと、先の迎撃機隊から2個小隊を呼び戻すんだ」

●参加者一覧

月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

 艦隊上空で直衛に当たっていた能力者たちは、新たな迎撃命令を受けて慌しくその翼を翻した。
 現状、艦隊の手札は直掩のKV8機のみ‥‥敵戦力と比べれば明らかに劣位であるが、「発艦準備中の空母が被弾したら、洒落にならない」(byクリア・サーレク(ga4864))以上、前に出して時間を稼ぐしかない。
「『針鼠』に『子持ち』に小型多数とは‥‥これはまた派手なお客さんじゃな」
「ああ。だが、不沈艦の名をここで消させるつもりはない」
 綾嶺・桜(ga3143)と月影・透夜(ga1806)が意気を立てる。不意を衝かれたとて、そう易々と敵の思惑に乗る気などなかった。
「久しぶりの連携じゃ。気合いを入れて行くぞ、天然(略)犬娘!」
 声を弾ませ、相棒に発破を掛ける桜の言葉に、阿修羅のコックピットで響 愛華(ga4681)は頷いた。
 あの『エンタープライズIII』とも結構な付き合いになる。作戦時に便乗するだけの『間借りの巣』ではあるが、やっぱりこんな所で沈めさせたくはない。 
「今回も、必ず守り切ってみせるからね。絶対に、沈ませたりなんかしないから」
 改めてその覚悟を決めて。愛華は胸元の御守りをギュッと握り締める‥‥
「わ、敵機がこんなに!」
 3、4分も飛行した頃だろうか。敵は司令部の予測した通り、最短距離を突っ走ってきたようだった。前方、同高度に敵を発見したソーニャ(gb5824)の声に、能力者たちがセンサーに視線を落とす。そこには大小18個の‥‥こちらの倍以上の敵戦力が輝点として映し出されていた。
「‥‥この数、撃墜し切るには、ちょいと骨ッスかね?」
 六堂源治(ga8154)の問いかけに、阿野次 のもじ(ga5480)は答えなかった。迫り来る敵影に大きく目を見開き、その身をわなわなと震わせる。
「‥‥この感じ‥‥あの時と同じだ‥‥!」
 ゴクリと唾を呑む源治。のもじの脳裏に浮かぶ光景──灼熱の太陽、或いは吹き荒ぶ寒風の下‥‥順番待ちの長い列と、押さないで走らないでと制止する係員さんの声、そして、人、人、人‥‥それは、夏と冬、年に2回行われる某祭典。
「だったらいけるぜ!」
「いけるんスか!?」
「『有明の白い悪魔』と恐れられた我が力見るがいい。みんなっ! 3分で倒す意気込みでいくわよ! ジャストタイムあごー!」
「おおおっ!? 戦闘開始っすね!? おっしゃ、戦うからには出し惜しみなしの全力全開、気合い入れていくッスよ!」
 のもじのシュテルンと、源治の漆黒のバイパーが先頭に立つべく前に出る。その横を、ソーニャのシアン塗装のロビンが機首を跳ね上げ、高度を取るべく上昇していく。
「こんな時って乱戦に持ち込んだ方が安全なんだよね!」
 瞬間的に、彼等は役割を決めていた。最優先目標は中型2機種。小型を蹴散らすのは彼等の役目だ。
 前方にパラパラと見え始める敵影。それを確認したクリアは‥‥昭和のパチンコ屋っぽい鼻歌(マーチ)を止め、その表情を曇らせた。
「『子持ち』と『針鼠』が1機しかいない‥‥?」
「来るぞ!」
 透夜の叫びに、クリアは慌ててフェニックスの機首を翻らせた。戦いの火蓋は、最も射程の長い中型機のプロトン砲により切って下ろされた。散開した能力者たちを各個に撃墜しようと計16機の小型HWが前に出る。
 だが、彼等が相手にする能力者たちは並ではなかった。
「必殺きら★キラっと星になれぇー!」
「吼えろバイパーッ! ブースト空戦スタビライザー‥‥起動ッ!」
 のもじ機と源治機、機体特殊能力をフルに使用した2機から放たれた計1000発のK−02ミサイルは、白煙を引きながら一斉に小型HWの群れに襲い掛かった。それはまるで悪魔の手が掴みかかる様な光景で‥‥バグア版ファランクスでその3割程を撃ち落としたものの、ミサイルは次々と命中、爆発した。
 空中に咲き乱れる爆煙の花の壁の中から、黒煙を噴いて3機のHWが海面へと落ちていく。空中爆発した機体も入れれば、もっと撃墜数は多いかもしれない。
「今だ! 突っ込むよ!」
 クリアの叫びと共に、透夜、桜、明星 那由他(ga4081)、愛華、計5機のKVが矢の様に中型へと突っ込んでいく。それを防ごうと進路上に立ち塞がるHWに、那由他のイビルアイズが奉天製のロケットランチャーを次々と撃ち放った。
「安い分、性能もそれなりだけど、弾数だけは‥‥ある」
 突破を優先する味方に代わって、その進路を抉じ開けていく那由他機。白煙を引いて飛翔する墳進弾は密集した敵に面白い様に命中し、K−02のダメージを受けていた敵は1機、2機と脱落していく。
 敵は進路妨害を諦め、今度は通過する敵に集中砲火を浴びせるべく、拡散してリング状に陣形を再編しようとした。その只中に‥‥
「ソーニャ、吶喊します。行けー! エルシアン!」
 急降下してきたソーニャのロビン『エルシアン』が突っ込んだ。
 撃ち放たれたG放電が舐める様に、立て続けに3機のHWを焼き落とす。敵陣へと踊り込んだソーニャ機はAAEMとレーザーを撃ち放ちながらアリスシステムを起動。雷光の様に宙を駆けながら速度を落とさず一気に敵陣を突破する。
 陣形をズタズタにされた直後、剣翼を煌かせたのもじ機が続けて突っ込んだ。ポロポロと落ちていく敵HW。援護の為に距離をとった源治は、その撃ち漏らしに向けて螺旋弾頭ミサイルを丁寧に撃ち放った。
 もう陣と呼べる程の機数も残さぬ敵を、螺旋弾頭が喰い破っていく。ボン、ボン、ボンッと‥‥戦場の各所に散った4機のHWが爆発、墜落し‥‥戦場には、蒼い空と碧い海、そして、染みの様に棚引く黒煙だけが残された。
 戦闘開始から1分と経たずして。16機の小型HWはその全て駆逐されていた。

 敵小型HWの防衛線を突破した攻撃隊は、ただ一路、中型HWへと向かっていた。
 この時点で『防壁』の内側に突入したのは、透夜、桜、愛華、クリアの4機。そこに立ちはだかる『針鼠』──『子持ち』こと爆撃機型を庇う様に、ガンシップ型が前に出る。
 だが、能力者たちの目標は、まず、邪魔なこの針鼠を落とす事だった。
「全力でいかせてもらう。とっとと落ちろ!」
 透夜の叫びと共に、クリア機のAAEM、愛華機の狙撃砲が次々と撃ち放たれ‥‥続けて、それぞれ威力と命中を上げた透夜機の螺旋弾頭ミサイル、桜機の長距離砲アグニが、ただ1機の針鼠に集中された。次々と直撃する誘導弾が砲塔を吹き飛ばし、砲弾が装甲を砕いて削り取る。
 射程の長いポジトロン砲による反撃は‥‥その悉くが回避された。命中精度を高めた『針鼠』の攻撃がこうも外れるのは、那由他機のロックオンキャンセラーによる効果が大であろう。
「‥‥重装型か。流石に打たれ強いの。じゃが、こちらとて諦める訳にはいかぬ!」
 幾筋もの黒煙を吐きながらも健在な『針鼠』に、砲弾を撃ち尽くした桜は武装をガトリングへと変更した。同じくミサイルを撃ち尽くした透夜機が横に並ぶ。こうなったら近接戦闘で叩き落すしかない。だが、それは針鼠の最も得意とする対空弾幕の只中に突っ込む事を意味していた。
「突入する! 援護を頼むのじゃ!」
 加速する雷電の後姿を心配そうに見送りながら、愛華は唇を噛み締めて狙撃砲による援護を続けた。桜の螺旋弾頭弾、クリアのAAEMが飛翔して行く中、それを追うように透夜と桜が突っ込んでいく。
 風防越しの空が閃光を発した気がした。
 拡散フェザー砲による一斉射撃。空間を埋め尽くさんばかりの怪光線が桜機の装甲を切り裂いていく。桜は機を捻ると、敵にガトリングの一連射を浴びせながら離脱した。
「相変わらず針鼠の様に‥‥っ!」
 射程外で反転しつつ、再び突入体勢に入る桜。そんな彼女が見たものは、突撃を継続する透夜機の姿だった。
「艦隊はやらせない!」
 スラスターライフルを連射しながら、ただ針鼠へと機を突っ込ませる透夜。そのまま彼の最大の攻撃力を誇る剣翼で切り裂こうというのだ。
 だが、それは同時に回避のしようもない攻撃に自らを晒すことを意味していた。接触の瞬間、旧式機であれば蒸発しかねない程の火力を浴びて、透夜機の装甲が灼熱する。焼ける写真の様に捲れ上がる装甲。小爆発が、透夜機を宙に弾き飛ばす。
 仲間の悲鳴が上がる中、何とかその機位を立て直す透夜。追い撃ちの砲火を上げ続ける針鼠の機首がガクリと落ち‥‥横腹から一文字に炎を噴いた敵はゆっくりと海面へと墜ちていった。
「無茶をする!」
「‥‥あと一度はいける気がする」
 唯一生き残った『子持ち』は、その機種を翻して海中への逃走を試みた。だが、護衛機を全て失って逃げ切れるはずもない‥‥


「まだどこかにいるよ! 低空や高高度から進入しようとしてるかも!」
 僅かな時間で文字通り敵を全滅させた能力者たち。しかし、クリアはすぐにその機首を翻した。報告にあった子持ちは2機。恐らく敵は最初から編隊を二つに分けていたのだろう。
 那由他はCDCをコールして、後続の機が直掩に上がったかを尋ねてみた。後続は、また別方向に現れた『三の矢』の迎撃に出たらしい。‥‥つまり、現在、艦隊は丸裸だという事だ。
「いったいどれが本命なのか‥‥ロシアの時は、仕掛けた側だったけど‥‥やられる側だと、また嫌な感じだな‥‥」
 そして、確定している事が一つ。自分たちがもう一機の子持ちを探し出さなければ、艦隊はただですまない。
「そんな手は、絶対に喰わないんだよ‥‥!」
 愛華は機首を巡らし、目を皿の様にしながら海面へと目を凝らした。紺碧の海、白い波頭。陽光を反射してキラキラと瞬く海の原‥‥
 その中に、タイミングの異なる不自然な光に気がついて。確信があったわけでもなく、愛華は機にブーストを焚いていた。
「見つけたっ! もう一つの敵編隊!」
 追い縋る様に降下しながら、武装を狙撃砲から重機関砲へと変更する。もう余り時間に余裕はなかった。
「子持ちは頼む。針鼠は俺が!」
「任せる。じゃが、無茶はするでないぞ! 愛華、お主もじゃ!」
 愛華を追う様に降下する透夜と桜。その突入をクリアがありったけのミサイルで援護する。
 波を被りかねない低空を飛ぶHWが、慣性飛行で前進を続けながらその機首を上方へと向ける。夥しい数の『対空砲火』が一斉に撃ち上げられた。
「K−02はもうないけど‥‥俺らも行くっきゃないッスね」
「‥‥或いはそれも、敵が隊を分けた理由かも」
 眉根を寄せるソーニャと共に、小型を排除すべく降下を開始するのもじと源治。
 ただ一人、敵の数に違和感を感じた那由他だけが、その場に止まり上空をキョロキョロと見上げていた。
 低空‥‥に敵がいるメリットはもうない。いるとしたらあの蒼空‥‥高高度か、雲の中か、或いは‥‥
 ‥‥太陽の中。どんぴしゃだった。ヘルメットのサンバイザー越しに、目を焼く光量の只中に隠れていた4機の小型HWを見つけたのだ。
「小型HW4機発見! 太陽の中! 恐らくは指揮官機!」
 珍しく大声で叫ぶ那由他。伏兵を報せるその報告に、源治とのもじが舌打ちしながら機首を上げる。

 敵小型HWの外輪陣へと突っ込んだソーニャは、あえて低空での水平戦闘を敵に仕掛けていた。さながら浮き沈みする波のように、スライド機動で敵中を分け進む。
「たっぷり混乱しなさい」
 敢えて撃墜は狙わない。一撃を与えては次の敵へと渡り歩く。優先すべきはあくまでも、中型2機が墜ちるまで小型HWの砲火を引きつける事‥‥!
「さっさと落ちるのじゃ、このデカブツめが! 時間をかけてる余裕はないのじゃ!」
「子持ちししゃもは好きだけど、君の中身は要らないんだよ!」
 一方、子持ちに攻撃を仕掛ける桜機と愛華機は、後方から追い縋って機関砲弾を叩き込んでいた。火線が2本、子持ちの機体後部を叩いて穴だらけにし、小爆発を繰り返させる。迫る海面と、側方から放たれる針鼠の対空砲。そちらでは透夜が針鼠上面の砲塔を半分以上叩き潰しており‥‥だが、直後、針鼠が反転してくるりと下面を上へとひっくり返す。
 上空から回り込んだ那由他機はスプリットSで降下、子持ちの真正面、その針路上に立ち塞がる。向かい合う両機。互いに進路を譲る気はない。
 砲口が光り、プロトン砲の閃光が那由他機のすぐ側を掠め飛んだ。水ぶくれのように膨れ上がる装甲。振動にその身を揺るがしながらも、127mmロケット砲を敵の鼻面へとぶちかます。砲火の応酬、被弾、進路を曲げない両機。激突の寸前、子持ちが力場を大きく展開し‥‥那由他は間一髪、機を上昇へと転じて躱わす。
「これだけやっても、墜ちないなんて‥‥」
 敵のタフさ加減にあきれる那由他。上空では、のもじと源治とが敵の伏兵4機と接触するのが見えていた。

「指揮官機を潰せば‥‥いくらか楽になるはず‥‥ッ!」
 下降する敵HWと上昇するのもじと源治。4機と2機。砲火の応酬も僅かの間、刹那に6機が擦れ違う。
 上昇を続ける2機と、爆散して果てる2機。さらに1機が黒煙を上げて落ちていく。初撃の応酬は能力者側の完勝だった。
 残ったただ1機の敵──機に練力を叩き込んで剣翼を回避した、恐らくは指揮官機──は、反転する事なしにそのまま眼下の戦場へと突っ込んだ。
「ソーニャ! 直上!」
 呼ばれ、接近する敵に気付くソーニャ。機を滑らせて回避を試みるも、敵機はそれに追随した。撃ち下ろされるフェザー砲が海面に当たり、水柱が爆発的に膨れ上がる。
 そこへさらに、逆落としに突っ込んで来るのもじ機と源治機。怖いもの知らずのブースト降下で降りて来た二人が背後から指揮官機に機関砲弾を集中する。穴だらけになり、火を噴くHW。墜落する指揮官機を追い越したのもじは‥‥その瞬間、HWのコックピットが開くのを見た。
「聞イタ声ダナ‥‥『有明の白い悪魔』カ‥‥覚エテオクゾ」
「え? あの、ちょっと‥‥」
 のもじが訂正する間もあればこそ。姿を見せたバグアは墜落する機体から遥か下の海面へと飛び込んだ。

 指揮官機を失った事で、敵編隊の動きは画一的なものとなった。
 クリアは高分子レーザーを撃ち放ちながらフェニックスを人型へと変形させると、緩くなった弾幕を抜けて一気に子持ちへと肉薄した。
「エンタープライズIIIだけで数千人、艦隊で考えればもっと多くの人たちがいるんだ。絶対に、やらせるもんか!」
 練剣「白雪」による一閃が子持ちの『背骨』を断ち切った。爆発と共に火を噴き、ガクリとその速度を落とす敵。そこに攻撃が集中され‥‥小爆発を繰り返しながら海面に接触。その機体を跳ね上げた後、海中に突っ込み爆発した。

「訂正します。この艦はやはり運が良い」
 能力者たちが『二の矢』を全滅させた、と聞いたエンタープライズIIIの副長は、艦長にそう告げた。
 それを聞いた艦長は、副長の言葉に首を振った。この結果は運の良し悪しでなく、傭兵たちの実力に拠るものだ、と。
「同感です。ですが、やはりこの艦は運が良い。この多難な時に、そのような者たちをパイロットとして持つ事ができたのですから」