タイトル:【Woi】KV狙撃兵中隊マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/09 11:09

●オープニング本文


 2009年8月下旬──
 大規模作戦『War of independence』は、実質的に双方の『痛み分け』で終わろうとしていた。
 主戦場たる西部戦線──ロサンゼルスとその近郊におけるシェイド討伐作戦は、幾つかの戦果を上げると共に、『あの』シェイドに損害を与えて撃退する、という『快挙』を成し遂げた。
 実際には──特に、作戦目標を定めた軍上層部や作戦内容を知る現場の指揮官たち、そして、実際に刃を交えた能力者の傭兵たちにとっては、『取り逃がした』感が色濃く残る結果ではある。北米中の戦力を動員し、展開したのは全て、シェイドただ1機を屠る為だった。
 ただ、そのような事情を知らない一般市民や軍兵士にとっては、やはり快挙であるに違いなかった。これまで悪魔の如き猛威を見せ付けてきたシェイドの攻撃からロスアンゼルスを守り切る事に成功し、あまつさえ撃退したというのだから。
「最早、シェイドは人類にとって決して手の届かぬ存在ではない」
 その事実を戦火に喘ぐ全ての人々に知らしめたという事は、決して小さな事ではないのだろう。

 一方、囮の『主攻』として激戦の繰り広げられた五大湖戦線では戦線が膠着し、大規模戦闘から小康状態へと状況が推移しつつあった。
 距離を取って睨み合いを続けるこの状況は、しかし、北中央軍にとって望ましい状況ではない。いつまでも前線に大規模な兵力を貼り付けておくわけにもいかないからだ。周辺から敵を撤退させ、五大湖方面の情勢を鎮静化させる必要がある。
 だが、それも一度戦線が膠着してしまうと中々に難しい。この状況に前線指揮官たちは頭を抱えているだろう。それはきっとUPC、バグア、共に違いはないに違いない。‥‥そして、共に、先に撤退するのは敵軍であるべきだと考えている。
 かくして、膠着した五大湖方面の戦線では、敵に『足抜け』を決意させる為の小競り合いが繰り広げられる事となった。
 Woiの大勢が決した今、戦略的に大きな意味などないが‥‥万事に面子やら何やらが絡んだりするのは、軍隊も娑婆もそう変わらない。


 五大湖戦線、某都市近郊。
 最前線──

 毎度毎度の事ではあるが、照準器の向こうに映る戦場は妙に現実感に乏しかった。
 爆煙と砂塵に煙る廃墟の市街地、煌く銃火と爆発の華。どちらが優勢であるのかはすぐに分かった。粉塵のカーテンの向こうから転がり出るようにして、味方機が次々と逃げ出してきたからだ。
 無様に、だが必死に逃走する1機のF−104の姿がふと目に付いた。照準器の視界は狭い。偶々そこに飛びこんできた味方機を何とは無しに目で追って──あの部隊章は‥‥404大隊か? 馬鹿が。上の連中、『勝ち戦』だと思って新兵を投入しやがった。
 そんな事を考えている間にも、新兵の乗るF−104はフェザー砲の『光の刃』によって『解体』されつつあった。光線が脚部を貫き、バランスを崩したF−104が瓦礫へと突っ込み転げ回る。立ち上がろうとしてまたバランスを崩し──主兵装のついた右腕部がダラリと垂れ下がっていた──それと脚部を引きずるように歩きながら、再び左腕部を撃ち抜かれ、吹き飛ばされる。
 その衝撃に押し飛ばされるようにして倒れ込んだF−104は、身を返すと砂塵の向こうへ向かって機首脇の20mmを闇雲に撃ち捲り始めた。無論、そのような攻撃が効果を示すわけもなく‥‥直後、新兵の乗るF−104は、フェザー砲による複数の直撃弾をまともに受けて爆発、煉獄の炎に包まれる。
(「まだレベルも低い新兵だ。あれでは助かるまい。‥‥糞っ。調子に乗って油断するから、現場がこんな目に遭う羽目になる」)
 小爆発を繰り返し、やがて大きく爆散するF−104。煙の向こうから現れたのは‥‥6本脚を持つ旧式の陸戦用ワームだった。いくら新兵たちが乗るF−104であっても、そうそう簡単にやられるような相手ではない。だが、目前の戦場では、その弱敵を相手にF−104部隊がただ一方的に蹴散らされ、蹂躙されていく。それは、つまり‥‥
「‥‥いますね。奴等」
 ペアを組むマディ少尉の声に、ロイ大尉はレティクル越しの戦場から目を離して首肯した。
 前面の敵は『奴等』──CW(キューブワーム)の支援を受けている。つまり、自分たちの出番が来たと言う事だ。
「‥‥行くぞ」
 短距離通信で短くそう告げて、ロイ大尉は待機モードにあった機を起動させた。廃屋に遮蔽していたカーキ塗装のA−1ロングボウ──展開式防盾の付いた肩撃ち式の試作型ミサイルランチャーを手にしたそれが身を起こす。
 2機ずつペアを組んだ計4機のロングボウは、装輪走行で戦場を大きく迂回しながら敵側方へと回り込んだ。地上に棚引く煙と砂塵により視界は決して良いとは言えない。それでも脳髄を貫く痛みにその存在を確信して‥‥
 ‥‥いた。風が舞い、視界を覆っていた砂塵のベールを一瞬、吹き散らす。廃墟市街の只中を浮遊する2つのCW。その姿はすぐに新たな砂塵に覆い隠されてしまったが、彼等にはそれで充分だった。
「やるぞ。いつも通り2機ずつ1機で攻撃する。俺とマディは左、リースとマリガンが右をやれ」
 『射線』を確保しつつ、頭痛の消える距離まで後退する。その間にもロングボウの複合式誘導システムは敵の諸元を弾頭の誘導装置へと入力し続け‥‥
「撃て」
 4機のロングボウが構えた肩撃ち式のミサイルランチャーから4発の誘導弾が一斉に撃ち放たれた。
 白煙を棚引かせて飛翔するそれは砂塵のベールを吹き散らしながら一直線に戦場を切り裂き、一瞬の後、狙い過たずにそれぞれの目標へと超高速で命中した。直撃を受けたCWがそれぞれ炎を撒き散らしながら地へ堕ちる。目に見える効果はそれだけ。だが、それは戦場に劇的な変化を引き起こしていた。
 それまでCWの怪音波によって負荷を掛けられていた能力者が息を吹き返し、一斉に反撃へと転じる。新兵たちはそれまでの鬱憤を晴らす様に、目の前の地上用ワームを蹴散らし始めた。
「‥‥移動する。各機、警戒を厳に」
 一仕事終えたロイ大尉が淡々と部下に指示を飛ばす。だが、状況が一変したのは眼前の戦場だけではなかった。
「KV狙撃兵中隊、ロイ大尉。こちら本部。有人機と思われるゴーレムを含む1部隊がそちらへ移動中との報告あり。注意せよ」
 バグアめ、こちらに気付いたな‥‥ ロイ大尉は小さく鼻を鳴らすと戦場を見回した。有人ゴーレム‥‥恐らくは下級指揮官機。反応が早い。目障りなこちらを排除しに来たか? 新兵たちではとても相手にならないだろう。
「離脱の許可は?」
「不可。再びCWが出てくる可能性がある。そちらには傭兵隊のKV2個小隊を急派するから、何とか持ち堪えてくれ」

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN

●リプレイ本文

 最初に戦場に到着したのは、フェニックスを駆るヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)とクリア・サーレク(ga4864)の両名だった。
 廃墟の住宅街に立ち昇る幾筋もの黒煙とくすんで瞬く砲火の煌き。ロングボウ小隊を探して戦場を眼下にしたヴェロニクは、血で血を洗う激戦に首を振って嘆息した。
(「なんてこと‥‥これじゃあ消耗戦じゃないですか」)
 戦略目標を失って尚、続けられる血みどろの殴り合い。今、ここで流される血に一体どれ程の意義があるのだろう?
「‥‥五大湖方面も膠着かな。今回のWoi、『故郷のメトロポリタンXを奪還できるかも。取り返す足がかりにはなるかも』って期待してたんだけどさ‥‥」
「それは‥‥残念でしたね」
「いいんだ。一足飛びに出来ない事は分かったから。‥‥だから、戦うよ。バグア全てを地球から追い出すその日まで。‥‥‥‥あ、見つけた、ロングボウ小隊!」
「‥‥こちらも確認しました。降下して、敵との間に入りましょう」
 2人は一度市街上空を通過すると、機首を翻して対空砲火の薄い後方の大通りを降下地点に定めた。ヴェロニク機が煙幕弾を撃ち下ろしてフライパスしたその後に、煙幕に隠れる様に低速進入したクリア機が変形・降下する。武装と盾を展開し、集まって来る敵ワームを追い散らすクリア機。その援護を受け、旋回してきたヴェロニク機が多少強引に地上へ降下、そのまま移動を開始する。
 その上空を通過する3機のシュテルン。それはブーストを焚いて追いついて来た鷹代 由稀(ga1601)、叢雲(ga2494)、阿野次 のもじ(ga5480)の機体だった。
「KV狙撃兵中隊、ロイ大尉。これより援護に向かう。任務を継続しつつ、少しでも北へ移動して欲しい」
「ザザッ‥‥後退は許可されていない。それに、敵との距離を開けばこちらも任務に支障が出る」
 その答えは予測の範囲内。叢雲はもう少しだけ頑張るよう大尉に告げると、短距離通信の周波数を傭兵向けに切り替えた。
「こんな所で狙撃支援を失うわけにはいきません。彼等と敵の間に降下し、地上のクリアさんたちと防衛線を形成します」
 ロングボウ隊上空を通過する3機のシュテルン。そのまま由稀機は遊撃位置に、叢雲機は地上の2人と同じラインへと垂直離着陸能力を使って降下する。
 そして、のもじはただ1機。彼等と離れて前進を続け、敢えて敵中へと踏み込んだ。
 堂々たる空中変形。翻るレッドマント。両腕を組み、直立姿勢をとったのもじのシュテルンが、4基の推力偏向ノズルを(白鳥の水面下っぽく)忙しく動かしながら、出来うる限りゆっくりと空中を沈んでゆく。
「聞け、バグアよ! 我が名は晴天アイドル阿野次のもじ! このシュテルンと我が勇気、砕けるものなら打ち込‥‥って、ちょ、まだ台詞が」
 無人機聞いちゃいねぇ。
 余りに目立つのもじ機に、周囲のワームがフェザー砲の火線を集中する。だが、それはのもじの目論見通りであった。PRMシステムで抵抗値を上げたのもじが的になる間に、叢雲と由稀の二人は殆ど攻撃を受ける事無く、戦場に降下する事に成功したのだ。
「さ‥‥始めましょうか、アルヒア」
 コクッピット内に設置した『【OR】試作狙撃用ライフル型コントローラー』を手にした由稀が、狙撃砲D−02でもって迫り来る目標を狙い撃つ。彼女のシュテルンはスコープシステムをフル装備した狙撃戦仕様だ。単位距離30〜35、旧式陸戦ワームの射程外から放たれた砲弾が敵の装甲を砕いて弾け‥‥突進してくるワームを不敵に見極めつつ、由稀は機を路地から路地へと後退させながら砲弾を撃ち続ける。
「損害の大きい少数の敵は後ろに任せて構いません。ただし、それ以外の敵は確実に殲滅を」
 一方、正面から北上して来た地上ワームの集団は、叢雲、クリア、ヴェロニクが形成する防衛ラインに遭遇してその前進を阻まれた。
 叢雲はビルの陰から機を躍り出させると、手にしたスラスターライフルで路上の敵を掃射。東西に走る道路を同軸に位置するクリア機とヴェロニク機と共に『火力の壁』を築き上げ、敵の攻勢を払い除ける。
 平原での一斉突撃であれば足止めは難しかったかもしれないが、市街地なら侵攻路の特定もまた容易い。特に、同型の盾の表面に巨大な不死鳥の右翼と左翼の紋様をそれぞれに描いたクリアとヴェロニクのフェニックスは、まるで一枚の防壁のように敵軍の前に立ち塞がる。
 敵の攻勢を完全に粉砕しながら、だが、叢雲は一抹の不安を拭えずにいた。降下の際、空から索敵した時には‥‥視界が悪く、その所在を確認できなかった敵がいるからだ。
「‥‥敵増援には3機のゴーレムもいたはずだ。一体、どこに‥‥?」


「急ぐのじゃ! 連中、新兵部隊という話じゃが、やはりどうにも心許ないのじゃ!」
「頑張ろう、桜さん! 私たちが頑張れば、その分犠牲は減らせるはずだよ!」
 第一陣より遅れて到着した綾嶺・桜(ga3143)と響 愛華(ga4681)は、中央の戦線が優勢である事を見て取ると、苦境にある味方を援護する為、その一翼へと降下を開始した。
 敢えて敵弾の届く味方すぐ後方の広場に変形降下、その勢いのまま戦場へと滑り込む桜の雷電。それを敵は歓迎の花束ならぬフェザー砲の束で迎え撃ち‥‥
「しゃらくさい!」
「‥‥んだよ!」
 続く愛華の阿修羅と共に、計4発のグレネードを敵中へとぶっ放す。巻き込まれた4機の内2機が破片に切り刻まれて爆発し、残る2機も直後の砲撃で逃げる間もなく打ち砕かれる。
 瞬く間に4機を打ち滅ぼした2機を呆然と見守る新兵たち。無線をオープンにした愛華機ががおーと吠えた。
「援軍だよ! とりあえずみんな落ち着いて! 言うこと聞かない悪い子は噛んじゃうからね!」
 何処をっ!? という戦慄はとりあえず置いといて。阿修羅の頭をぽこんと叩いた雷電が新兵に呼びかける。
「わしらが来たからにはもう大丈夫じゃ。ここは任せてお主等は退くがよい」
「ここを守るよう命令を受けているんだ。命令もなしに後退はできない」
 桜は大きく舌を打った。見れば、彼等は新兵の寄せ集めであるらしく、率いる小隊長の姿はない。‥‥バグアめ。ベテランから狙い撃ちにしていったのか。
「桜さん」
 周辺を警戒していた愛華が桜を呼ぶ。見れば、敵の新手が再び侵攻してこようとしていた。
「ふん。数だけはおるようじゃの。行くぞ、天然(略)犬娘。全て吹っ飛ばしてくれるのじゃ!」
「うん! 絶対に、これ以上は墜とさせないよ!」
 止める新兵たちの言葉も聞かず、突撃を開始する桜と愛華。敵の砲火をものともせず、ハンマーを振り回しながら突っ込む雷電に阿修羅とバイパー隊から援護が飛ぶ。その砲火にワームが『怯んだ』その一瞬、飛び込んだ桜機がハンマーボールでもってそれを粉砕する。
「っ!? 桜さんっ!」
 混戦の最中、桜はその呼び声に振り向いた。見れば、姿勢を低く、機を横に跳ねる様にしながら機動砲撃戦を続けていた愛華機が、その砲口を桜機へと向けている。
 何も言わずに機を伏せる。瞬間、愛華機からC−0200ミサイルが一斉に撃ち放たれ‥‥雷電の上を飛び越えたそれらは、桜の背後で狙いを定めていたワームに次々と命中した。爆煙と粉塵が地を舐める中、伏せたままの桜機を踏み台にして阿修羅が敵へと飛びかかる。サンダーテイルが翻り、損壊したワームに突き刺さり‥‥入れ替わるように飛び出した雷電は後ろを振り返る事もなく、先ほどまで愛華と交戦していたワームにガトリング砲を撃ち放つ‥‥
「凄い‥‥」
 瞬く間にワームを蹴散らしていく2機に絶句する新兵たち。敵前衛を殲滅した愛華が振り返った。
「生きて帰る為に死力を尽くす‥‥あくまで生きて帰る為、これが基本。蛮勇や無謀とは違うんだからね? 絶対に覚えておいて欲しいんだよ」


「ゴーレムだ! ゴーレムが出た!」
 無線回路にその叫びが満ちたのは、桜と愛華が戦闘に入った直後の事だった。
 隠れて状況を観察していたのだろう。傭兵たちの壁を避けるように、1本ずらしたルートを突進してくる。
 正面にいた新兵部隊は瞬く間に蹴散らされた。その鮮烈な機動は間違いなく有人機。倒れたバイパーに止めを刺さず、ただひたすらに前進するかの機の目標は、あくまでCWを狙撃するロングボウ隊に違いない。
「‥‥クッ。この距離では当たらないか‥‥!」
 平屋の住宅街、半遮蔽状態で走る敵に砲撃を試みた由稀は、長距離攻撃を諦め、機の兵装を狙撃砲からスラスターライフルへと変更した。それまでの立射姿勢から腰だめに砲を構えて接近の為に疾走する。
 だが、間に合うか‥‥? 奥歯を噛んだ由稀が爆走する敵を睨み据えた瞬間、その視界を一筋の光柱が切り裂いた。
 それは叢雲が撃ち放ったDR−2荷電粒子砲の光であった。その一撃は敵に命中こそしなかったものの、その眼前を通過した夥しい粒子量は敵の足を止める事に成功していた。
「当たらずとも、常に狙われている事を敵の意識にすり込めれば‥‥阿野次さん!」
「任されたっ! 叢っちは砲撃に集中を!」
 ゴーレムの突撃に合わせて攻勢に出たワームをGPSh重機関砲の火線で薙ぎ払うのもじ。その背後で再び光が放たれ‥‥崩壊したビルの壁に砲身を乗せて狙撃する叢雲機のその2射目もかの有人機は回避する。だが、SES増幅装置をフル装備して非物理攻撃に特化した叢雲機の牽制射撃は、ゴーレムに直線的な突進を出来なくさせていた。
 埒が明かない、と判断したのか、プロトンランチャーの砲口を叢雲機へと向けるゴーレム。そこへ由稀機から火線の鞭が放たれ、盾で受けたゴーレムは応射の機会を失って‥‥
 その僅かな隙に、オーバーブーストを焚いたクリア機とヴェロニク機は一気に肉薄した。
 突撃の加速もそのままに突き出されたヴェロニク機のロンゴミニアトを、有人機は辛うじて盾で上方へと受け弾く。空中で爆発的に燃焼する気化燃料。抜剣と反撃、それを機盾で受け凌ぐヴェロニク機の陰からクリア機が躍り出る。フレーム『オセロ』で『肉抜き』を行い、燃費を大きく向上させたフェニックス。そのクリア機が持つ練剣『白雪』を視認した有人機は防御を諦め、機体に練力を叩き込んでその回避性能を大きく引き上げる。
 上段からの斬り落とし、斬り上げ、不意打ち気味の回し斬り。空中に奔る光の刃を残像に残すその三連撃を、有人機は全て回避した。驚愕するクリアと、慌てて距離を開く敵。ヴェロニクは追撃を行わず、ロングボウ隊へ続くルートに立ち塞がった。
「この戦いは最早、双方にとって無益。これ以上、徒に消耗する前に兵をお引きなさい」
 そう呼びかけるヴェロニク。無論、返事はないものと覚悟しての交渉だったが、有人機は返答を寄越してきた。
「ナルホド、戦イニ意味ヲ見出スノハ兵士ノ自由ダ。ダガ、戦イノ意義ヲ決メルノハ兵デハナイ」
「‥‥兵は黙って命令に従い血を流せ、と?」
「サテ、ナ‥‥ダガ、コノ視界不良ノ戦場ノヨウニ、見エナイモノハ数多イ。‥‥例エバ、今モ」
 驚愕の声を上げたのはやや後方にいる由稀だった。
 両側面からロングボウ隊に向け突撃するゴーレム2機。同時に、一斉に能力者たちを襲う激しい頭痛。
 それらは自らを囮にしたこのバグアが、ロングボウ隊に向けて放った必殺の矢であった。

 一直線に突進してくるゴーレムに舌を打ち、由稀は砲を持つ機を旋回させた。
 余りに近すぎる。由稀はレーザーバルカンで周囲の瓦礫を撃ち捲り、その粉塵を煙幕代わりに時間を稼いで距離を取る。向け直す砲口。煙の中から湧き上がるように現れたゴーレムがそれを盾で跳ね上げる。
「っ‥‥! しつっこいのはモテないわよっ!」
 とっさに砲を捨てた由稀機が引き抜いたデルタレイを撃ち放つ。知覚上昇の三連射。その装甲を融解つつも抜剣したゴーレムが前に出る‥‥
 一方、反対側の側面から突っ込んだもう1機のゴーレムには叢雲が気がついた。だが、桜と愛華は他所で戦闘中であり、急行する叢雲とのもじも僅かに届かない。
「リース!」
 ロングボウ隊に突っ込んだゴーレムは、その機剣でリース機の左腕部を一刀の下に切り飛ばした。
 そのまま止めを刺さんと剣を振り上げるゴーレム。それが振り下ろされんとするまさにその時。オリーブグリーンと白に塗装されたロングボウがその横腹に突っ込んだ。
「行くよ、アジュール! キミの仲間を助けるんだ!」
 それは、桜や愛華と共に第二陣として到着した鷲羽・栗花落(gb4249)のロングボウだった。剣翼による連撃に続いて至近距離から47mm砲を叩き込む。ゴーレムは新手の登場に剣を構え直し‥‥直後、駆けつけた叢雲機とのもじ機に背後から切り捨てられる。
「‥‥大尉。傭兵のロングボウっていうのは皆、こんな化け物なんすかね?」
 栗花落の戦いぶりを目にしたマディ少尉が呆れた様に口にする。大尉は答えず、中破したリース以外の部下に移動の準備を始めさせた。『新たに現れたCWを討つ』。それが彼等の任務だ。だが‥‥
「あ、CWへの対応でしたら、私が一手に引き受けますから」
 るんっ♪ と擬音が出そうな勢いでそんな事を言う栗花落。ピシリ、と空気が凍りつく。それは彼等の矜持をひどく傷つけるものだった。
「おい、あんた‥‥!」
 気色ばむマリガンの声を、栗花落は聞いていなかった。
「うわー、ホントにロングボウが一杯だよぉ‥‥今までこんな事一度もなかったし、なにこれ、ここはパラダイス?」
 うっとりとした声音で呟きながら、町外れに浮遊する2機のCWに向かって多目的誘導弾を3発ずつ計6発、ロングボウの最大射程で無造作に撃ち放つ。驚愕に身を固め、その行方を追う大尉たち。同じ機を使うからこそ、その出鱈目振りが良く分かる。放たれたミサイルは狙い過たずに全弾直撃し、吹き上げる炎の中にその2機を沈め墜とした。
「この距離で当てるのか‥‥!」
 愕然として言葉を失くす大尉たち。栗花落が改めて振り向いた。
「ロングボウ部隊、いいなぁ‥‥あ、隊長さん、後でサイン貰ってもいいですか?」
「‥‥サインを貰うのは俺たちの方だろう?」


「今だ、必殺! クロスウィーングっ!」
 剣翼でゴーレムの装甲を切り裂き、そのまま離脱するのもじ機に続いて、ちょっと顔を赤らめた叢雲のシュテルンがのもじ機とX字を描くように反対側の装甲を切り裂いた。
 爆散するゴーレム。由稀が足止めしていた敵もこれで倒れた。
「戦ウ意義ガナクナッタカ」
 クリアやヴェロニクと互いに時間稼ぎの戦闘を繰り広げていた有人機が、残った練力を消費してさっさと戦場を離脱する。
 同時に後退を始める陸戦ワーム。新兵たちの歓呼の声が上がった。
「本当に意味が無いんですよ。こんな戦いは‥‥」
 ポツリと呟くヴェロニク。破壊されたワームとKVの残骸が小さく炎を揺らしていた。