タイトル:A−1ロングボウ改良計画マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/17 12:27

●オープニング本文


 F−201A『フェニックス』の開発により、ドローム社内における第3KV開発室の名望は一躍高まった。
 『場末の部署』という侮り・嘲笑の視線が減少し、嫉視と敵視がとって代わった。ドロームの社風は現実主義と実績主義。結果を残せば次に回せる予算も多くなる。勿論、これまでと同様に超然・孤高を保つ開発者も多いが、ギリギリの予算でやっている多くの開発室にとって3室の『成り上がり』は歓迎できるものではない。
 まぁ、だからといって、3室の仕事内容がすぐに劇的に変化する、というわけでもなかった。3室長ヘンリー・キンベルが長期出張中という事もあり、フェニックス開発を終えた3室に企画部から回された仕事は、「A−1『ロングボウ』の傭兵向け仕様変更」であった。
 3室は、新人のアルフレッド・ノーマン、ハインリヒ・ベルナー、リリアーヌ・スーリエの3人をプロジェクトの中心に据える事にした。この新人たちにここいらで経験と実績を積ませておきたい、という考えと、この程度の仕事であれば自分たちでフォローできる、という余裕もあった。ちなみに、実力主義のドロームにあっても1年目で独立した仕事を任せるのは極めて稀だ。そんな事からも3室が彼らにかける期待と実力が窺える。
 既存機に対する簡単なマイナーチェンジ。だが、当の3人はそれだけで終わらせるつもりなどなかった。
「いっそ、がっつりと改良しちゃいませんか?」
 開口一番、アルフレッドが告げた言葉に、ハインリヒは至極当然といった風に頷いた。リリアーヌは微笑した。或いは苦笑だったかもしれない。
 アルフレッドとハインリヒ。この同期の天才と秀才、二人がこう言い出したからには、絶対にやり遂げてしまうに決まっているのだ。
 現時点では社内の誰も──恐らく、室長のヘンリーですら気付いていないだろうが。常に側で見続けて来たリリアーヌにとって、それは至極当たり前の‥‥羨望混じりの事実であった。


 そも、A−1『ロングボウ』の不幸は、開発段階にまで遡る。
 防御力を犠牲にして得た搭載能力。それを補う為の防御系能力が予定の性能に達しなかったのだ。その為、護衛機の必須なミサイル運用機として社内コンペに掛けられ、結果、正規軍向けの機体として開発が継続される運びとなった。
 そこで最初の転機が訪れる。企画部の人間が、このロングボウをミサイル浪漫機としてカプロイア伯爵に再設計してもらい、傭兵向けの機体として少数量産、それをカジノの景品としてはどうか、と社の上層部に提案したのだ。この案はミユ社長の強力なプッシュを受けて実現。早速、試作機がヨーロッパに送られる事となった。再設計機の運用試験結果は良好。それを受けて正規軍向けに開発されていたドローム製ロングボウも、ミサイル同時発射能力を持つ機体として傭兵向けに一般販売される事が決まった。
 そして、仕様決定の最終会議。生産を直前に控えたこの時期に事件は起こる。
「ウォレム・ハーターという男を知っているか?」
「どこかの開発室の室長だった気が‥‥確かKV用電子機器、特に照準系に強かった覚えがあるよ」
 社内の人事にとことん興味がない呑気なアルに、ハインリヒは顔をしかめた。その癖、KV関係の事はしっかり覚えてやがる。「研究バカが、出世できんぞ」と忠告しかけて、慌てて首を横に振る。蹴落とすライバルは少ない方が良い。少なくとも俺は、このドロームで一研究者で終わる気はないのだ。
「元は中堅の電子機器開発の社長でな。自ら社を売り込んでドローム傘下に収まった男だ。その男が最終会議の場において、ロングボウの特殊能力をそれまでの『同時多発型』から、自らが開発した『長距離狙撃型』に変更したんだ」
 既に根回しは行われた後であり、急転直下、生産開始の二日前にロングボウの仕様は変更された。その後、ウォレムは上層部の許可を得て、カプロイア社まで出向いてフェイルノートの開発にも関わっている。
「‥‥確かに、現在搭載しているこの能力はずば抜けて優秀なものではあるね。「射程を倍に」なんて、とても他の開発室に真似できるとは思えない」
「だが、『A−1』という機体に載せるべきものであったかは疑問が残る。専用の機体を開発した方が良かったはずだ」
 勿論、それが出来ない理由も焦る理由もウォレムにはあったのだろうが、若い二人にそこまで推し量る事は出来なかった。
「これまでの経緯は経緯として‥‥じゃあ、二人は、どうすれば良いと思う?」
「「浪漫だ!」」
 リリアーヌの質問に、男二人が揃って答えた。
「大量のミサイルを積み込んで、それを一斉にばら撒くのがミサイル浪漫だと思うのです。元々、搭載が予定されていた能力故に換装は十分可能。ちょっと弄れば現用に堪え得るものになる‥‥いえ、してみせます!」
「珍しく意見が合うじゃないか、アルフレッド」
「え? え? それって、K−02とかじゃいけないの?」
「「ノン!」」
 何故にフランス語!? 声を合わせて叫ぶ野郎二人にリリーはビクゥっ、と身を震わせた。女性にはちょっと理解し難い世界かもしれない。
「ああ、勿論、現状から大きく変更されても困る、という層もいるだろうからな。同時発射は涙を呑んでアルフレッドに譲ってやる。ふふっ、血尿が出る位弄ってやるぞ。まずは現行の使い難さを機能を分化する事でだな‥‥」
「ちょ、ちょっと待って。各論は後にしましょうよ。まずは、何で傭兵向けに売れないか、そこを検証する所から始めましょ?」
「「理由も何も‥‥装甲が脆すぎるからだろう?」」
 うわ、また意見が合ったよ、この二人。普段からアルを(一方的に)ライバル視しておきながら、こういう時に息ぴったりってのはどういうわけよ?
「で、でもね、正規軍の運用データを見ると、ロングボウって、ディアブロやワイバーンに比べて、特に被撃墜率が大きいってわけじゃないのよ?」
 へぇ、と素直に嘆息する野郎二人。この二人と仕事をしている内に、リリーは二人とは違った視点から物事を見る癖がついていた。
「空中ではHWの主武装は非物理だし、陸上では射程の長さがアドバンテージになってるみたい」
 どうよ、とちょっぴり胸を張るリリー。この二人に勝てる場面は貴重なのだ。
「でも、その2機種ももう新鋭機とは言えないしなぁ」
「それに、正規軍は集団での運用が基本だろう?」
 だが、即座に返されたツッコミに、リリーは少し涙目になった。
「うぅ‥‥じゃあ、その装甲を増やして防御力を上げれば売れると思いますかー? せめて岩龍並みにー?」
「どうだろう。攻撃力‥‥特にミサイルのそれを上げた方が良い、っていう人もいるかも」
「実際に使う立場の能力者たちに聞いてみたらどうだ?」
 机に突っ伏したリリーが成る程、と身を起こす。そんな彼女が見たものは、「じゃあ、手続きはよろしく」と手を上げてミサイル浪漫に向かう同期2人の姿だった。

●参加者一覧

井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
憐(gb0172
12歳・♀・DF
白岩 椛(gb3059
13歳・♀・EP
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
美虎(gb4284
10歳・♀・ST
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN

●リプレイ本文

 ドローム・ラストホープ島支社、第4会議室。
 第3KV開発室御用達になった感もあるこの小さな白い会議室に、今回、『A−1ロングボウ改良計画』に対する参考意見を伺うべく集められた能力者たちがやって来た。
 それを自らの目で確認して、ハインリヒは一人、ホッとしたように息を吐いた。売れ行きの悪いロングボウ。或いは席が埋まらないのではないか、とギリギリまで心配だったのだ。
 恒例となった感のある激しくも静かなペットボトル争奪戦を経て(薬品臭くて評判の悪い『ドロームコーラ』を手にする事になったのは、イニシアチブを取り負けたノーマ・ビブリオ(gb4948)だった。それでも興味津々な瞳でキャップを開け‥‥一口飲んで眉を潜める。隣りに座る砕牙 九郎(ga7366)が難しい顔のまま気の毒そうな視線を湛え、無言で自分のペットボトルをそっと差し出した)、会議はすぐに始められた。
 アルがのんびりとした口調で今回の会議の主旨を改めて語り始めると、白岩 椛(gb3059)は自らのメモ帳を取り出して机に広げ、日付とお題を冒頭に会議のメモを取り始めた。極々私的な議事録だ。隣りでレコーダーを手にしたリリーが「私が筆記しましょうか?」と尋ねるも、椛はふるふると首を振る。
 これまで色々なKV開発を見てきた椛だったが、各社ごとにそれぞれカラーがあって面白い。例えばこのドロームは軍との繋がりが大きいからか、傭兵向けより軍向けの機体が多い気がする。バイパー然り、リッジウェイ然り、今回のロングボウについても然り。コンペで敗れたグライドルにもその傾向はあったと思う。例外はアンジェリカくらいだろうか。フェニックスは‥‥どうだろう?
「では、早速、ロングボウに関して皆さんのご意見を伺いたいのですが‥‥」
 アルが能力者たちに水を向けると、円座の最前列(?)に座った美虎(gb4284)が誰よりも早くシュピッ! と手を上げた。ちっちゃな身体を椅子に立たせ、精一杯にアピールする。「自分はロングボウ乗りの美空に代わって参加した美虎なのであります。よろしくなのでありますよ?」
 いきなり小首を傾げられてしまった。困惑するハインリヒを他所に、アルが美虎に発言を促す。
「代理ではありますが、美虎もいろいろと検証してきたのでありますよ‥‥あれ、えーと‥‥あ、あった。‥‥コホン。えー、ロングボウの弱点は、『防御面がおそまつ』な点と『メインのミサイル兵装が地上戦では役立たず』‥‥つまる所使えるミサイルキャリアーになり切れていない所がネタ機と化している所以であります。まさに『こんなダメダメなロングボウの明日はどっちだ!?』とまあ、こんな感じで」
「うちの『アジュール』は使えないネタ機じゃないよう」
 いきなり辛辣な意見が出たな、とハインリヒが苦笑していると、参加者の鷲羽・栗花落(gb4249)が思わずといった感じでそう声を上げていた。半分涙目なのはその愛ゆえか。栗花落は戦闘用旗袍と愛機『アジュール』をこよなく愛する(?)娘さんで、今回の改良計画も心待ちにしていたロングボウ乗りの一人である。
「そりゃ、一般的には、生存性の向上は急務かなー、とは思うけど‥‥」
 SD糸目状態でしょんぼり呟く栗花落。隣りの席でそれを聞いた『大きな紅いリボンをつけた黒衣の少女』──憐(gb0172)は、栗花落からツイとSD状態の顔を背けた。かつて一度ロングボウを購入したものの、その使い難さから3ヶ月で売ってしまった身としては‥‥うん、色々と反省会。代わりにと言ってはなんだが、両手で抱えた、というか抱えられた状態の、巨大な『ろんぐぼうのぬいぐるみ』を栗花落の方へとそっと押し出す。猫耳尻尾のつけられたその『ろんぐぼうかい』の腕をふにふにと動かさせて‥‥瞬間、栗花落の表情がパァァ、と明るくなる。
「確かに、私も生存性の向上は必須であると考える」
 続けて挙手をして発言したのは、元軍人の能力者・井筒 珠美(ga0090)だった。
「打撃力については充分な数値を叩き出している。だが、その防御性能には難があると言わざるを得ない。それも大いに難がある、というレベルでだ。仮にも攻撃機(Attacker)の『A』を冠する機体だ。打撃力は勿論の事、被弾しても中々落ちない堅牢性こそが必要だろう。‥‥どんなにたくさんのミサイルを抱えていても、投弾前に墜とされては意味が無いからな」
 ロングボウの被撃墜率が低い、というのは、周りの機体が壁役になっているからではないのか? そう訊ねる珠美にリリーは明確に首を振った。ディアブロやワイバーンとロングボウの性能緒元、その中の『抵抗値』と『生命値』とを指し示しす。正規軍機の中には、真正面からの撃ち合いでHWを粉砕した剛の者もいるくらいだ。‥‥もっとも、ミサイルの装弾数にはやはり難があるし、データもあくまでディアブロとワイバーンとの比較である。両機とも古い(!?)機体であり、傭兵たちの現状には確かにそぐわないかもしれない。
 実際、珠美の意見はある意味当然とも言えるものだった。だが、A−1の発売時、既に雷電やウーフーがその座を占めており(直後にはロジーナが加わる)‥‥防御系特殊能力の開発が頓挫し、元々正規軍向けという事でその『隙間』を縫って販売されたロングボウに、ハナからその『目』は存在していなかった。勿論、そのような『大人の事情』は実際に使用する現場の人間からすれば、関係の無いはた迷惑な話ではあるのだが‥‥それもまた現実なのだ。
 だが、一つの意見があれば、また、異なる意見も存在する。続けて挙手をしたツィレル・トネリカリフ(ga0217)の見解は、珠美や新人3人のそれとはまた違っていた。
「まず、3室の兄さんたちに言っておく。A−1が売れないのは装甲が薄いからではない。傭兵の使い方を見れば分かると思うが、傭兵が機体の選択で重視するのは『短所』ではなく『長所』──つまり、その機に『何が出来るか』だ。短所に関しては『だから買わない』ではなく『どうやって補うか』を考える。‥‥改めて言うぞ。A−1が売れないのは装甲が薄いからではない。特殊能力がショボいからだ」
 声を低めてそう宣告するツィレルに、アルとハインリヒの二人は顔を見合わせた。その理由は、しかし、ツィレルの言葉によるものではなかった。
 会議室の椅子に座って語るツィレルは、その身を『A−0アーマー』──フェイルノートを模した全身甲冑で包んでいたからだ。
「羨ましいかい? フフン、異性からの誕生日プレゼントだったりするんだぜ? ‥‥いやいや、マジで。冗談半分のものだけど嘘じゃない」
「それって押──」
 言いかけたアルの足をハインリヒが踏みつける。そんな二人に気付かぬリリーが素でもって瞳を輝かせ、「素敵なプレゼントですね。恋人さんですか?」とほんわかと訊ねると、そんなんじゃない、とツィレルは慌てて手を振った。
「‥‥つまり、ツィレルさんは、僕たちのミサイル浪漫に賛同して下さる、という訳ですね‥‥?」
 真面目な顔で訊ねるアルとハインリヒに、ツィレルがその表情のチャンネルを切り替え、答えた。
「ああ。案の1、ミサイル同時多発発射修正復活案には大いに賛成だ」
 そのツィレルの意見は、集まった能力者たちも共通するものだったらしい。周囲から次々と賛意を示す意見が発せられた。
「そうだな。どちらかと言えば案1の方がいいかな」
「案1の方を推すぜ。折角のミサイル機体だし」
 珠美が頷いてみせると、九郎がその後に続いた。一斉発射は浪漫である。それに、有人機相手に各種ミサイルをばら撒ければ、相手の集中力を削ぐ事も出来るかもしれない。
「憐も‥‥そっちに賛成します。『戦いは数だよ、アニキ!』‥‥なのです‥‥」
 憐は、ぬいぐるみを示しながらミサイル浪漫について静々と語った。現状のロングボウの特殊能力は練力の関係上、浪漫機体なのに1兵装4発のミサイルを積めばお役御免という何とも寂しい状況だった。ここは以前のコンセプトに戻し、ミサイル山積みのかちかち山、瞬間火力の高さを売りにした方が良い。
 椛が筆を休め、スッと小さく手を挙げた。
「同感です。『元々予定されていた能力ではなくなっていたので購入を見送った』という人がどれだけいるのか。私には分かりませんが、0じゃない事だけは確かです」
「そうだよね、待ってました! って感じかな? これがあってこそのロングボウだろうし、これが無くなって落胆してた人も少なからずいたと思う!」
 その隣りでうんうんと頷く栗花落。その半身がぬいぐるみに埋もれているいるのには‥‥うん、何も言うまい。
「はい。そういった人たちを呼び戻す事も考えると、案1以外の選択肢はありません」
 淡々と頷く椛。続けて栗花落がK系ミサイルを使わずにマルチロックオンを(まがりなりにも)実現できるメリットについて強調すると、ノーマがその意見に積極的な賛意を示した。‥‥栗花落と憐の方を見てどこかウズウズとしているのは‥‥まさか、ぬいぐるみが羨ましいからか?
「K−02は品薄ですから、機体の販促にもこちらですわ! 浪漫を考えれば案1一択ですの☆」
 高らかに告げるノーマ。そこに栗花落の声が唱和する。
「「何より、ミサイル浪漫を謳うなら、これ位はできないと!」」
 おおー、と湧き上がる歓声と拍手。その勢いに押されて物怖じした美虎がどことなくしょんぼりする。気付いた九郎が気遣わしげな表情を小さく眉間に浮かべていた。


 大部分の能力者が案1の同時多発発射修正復活案を推し、機体特殊能力に関する大勢はすんなりと決した。
 だが、『バージョンアップによる能力向上』に関する意見は、能力者によって大きく異なっていた。
「機体のコンセプトから‥‥副兵装に+1、とか‥‥できませんか? 駄目なら‥‥防御・抵抗の穴埋めを」
「ああ、兵装スロットが最優先だな。だが、優先すべきは攻撃だ。防御はフレーム等で補える」
 スロットの増加という点で意見の一致する憐とツィレル。だが、攻撃面を重視するか防御面を穴埋めするかについては意見が割れた。そして、その議論は「スロットは現状が最大値」という答えが出た後も、結論を出せずに継続する。
「私は先程も言った通り生存性の向上を要望する。機動性や装甲が上げれないなら、せめて生命だけでも」(珠美)
「継戦能力を上げる為に、生命・命中・練力をメインで上げるのが良いと思う」(九郎)
「‥‥弱点を補う方向より長所を伸ばす方が良いと思います。被撃墜率を下げる生命、確実に当てる為の命中、特殊能力やブーストに必須な練力、敵を討つ為の攻撃、といった感じに」(椛)
「装甲増加、ひいては生存率の上昇が急務かなぁ‥‥依頼だと単騎に近い運用も多いし、被弾率もバカにならないから。それに、ピーキー過ぎる機体って手を出しづらいイメージがあるし、ある程度の安心感とマルチロックオンが揃えばそれだけ魅力も上がると思う」(栗花落)
「もともと低い防御を上げようとするよりも、大型機ならではのタフさ(生命)を集中的に上げて欲しいですわね」(ノーマ)
 ‥‥これは容易に結論が出ないな。侃々諤々の議論を目の当たりにして、ハインリヒはそう覚悟した。命中と生命・練力を重視する者が多いようだからそれを中心に据えるとして‥‥攻撃と防御、あとはどちらに割り振るべきだろうか‥‥
 白熱する議論の最中、九郎がスッとその手を上げた。チラと美虎に顔を向ける。
「おまえも、さっきから何か言いたい事があるのだろう?」
 ぶっきらぼうにそう告げる。その言葉を聞いた美虎は、ぴしぃっ、とその背筋を伸ばした。
「は、はいっなのであります。ふわふわもこもこ‥‥じゃない、美虎は、案2の機能分離案に追加して、ロングボウに対地対潜能力を付与する案を推すのであります」
 なるほど、とアルが感心したように手を打った。どことなく艦攻・艦爆・陸攻っぽいイメージのあるロングボウとの親和性は高いかもしれない。
 だが、現状では対地・対空攻撃が殆ど当たらないという『状況』が明確に存在している。この『状況』をどうにかしようという動きもあったのだが‥‥フェニックスの旋回行動消費同様、それがどうなるのかはっきりするまで、この手の話はどうしても保留という形になってしまう。
「‥‥分かりますよね? そういうことなんです」
 告げながら、アルは溜め息をついて天井を見上げた。室長も、他の開発室の人たちも、あるいは他社の人間たちも。皆、同じ様な悩みを抱えているんだろうなぁ‥‥

●会議終盤。フェイルノートに関する意見・要望──(題字:椛)
「ロングボウとは逆に回避を上げれば趣味的にももっと尖るのではなかろうか。誰の趣味って、そりゃ勿論伯爵のに決まって(以下略)」(珠美)
「陸戦性能の強化‥‥例えば遠距離ミサイル兵装を地上で常時使えるようにするとか」(ツィレル)
 すみません。それは大人の諸事情直撃です。それが出来たらリッジウェイも4輪形態で格闘させら(以下略)
「機能分離案をフェイルノートに適用する事はいかがかしら? ブースト→弾頭用SES増幅装置(練力追加消費)→新型複合式ミサイル誘導装置(練力追加消費)と能力を増していく‥‥そう、『トライブースト』ですわ!」
 そう瞳を輝かすノーマ。いつの間にかぬいぐるみの横に来ているような気がするのは、うん、きっと気のせいだ。
「分かりました。これら要望はカプロイア社の方に伝えておきます。機能分離案については‥‥社の上層部からULTにお伺い、という形になると思います」
「はいっ! ファームライドの光学迷彩を載せれないでありますか!?」
 ぴょんぴょんと飛ぶ美虎。‥‥君もか、ぬいぐるみ。
「そちらもULT伺いですね。フェイルノートに似合う気はします(なんとなくカプロイア繋がり(イメージ映像)で)」

 併せて、能力者たちからはロングボウが使用するミサイル兵装に関する各種要望も提出された。
 これはかなり強い要望であった。特に地上でも使える銃器属性のミサイルを求める声が大きく、ロングボウの普及にはそれらの充実が不可欠、という意見も多かった。
 3室は兵装関連の開発室ではないため、これらの要望は関係各所に通達される事になるだろう。或いは、アル辺りが何とかしてしまうのかもしれないが。ハインリヒは複雑そうに眉を潜める。

 会議の終了後、ぬいぐるみに集まる娘さんたち。孤高を保っていたノーマがついに陥落してもこもこに埋まり、残る娘さん(?)は珠美ただ一人となっていた。
「行かんのか?」
「‥‥私は」
 苦渋の表情で答えようとする珠美を手で制するツィレル。どうやら茶化せる話題ではないようだ。そう察する。
 九郎はふと、残る最後の娘さん、3室のリリーにぬいぐるみに埋まりに行かないのか聞いてみた。
「私はKVが一番可愛いですから」
 それがリリーの答えだった。