タイトル:【Woi】百足の行進マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/11 12:15

●オープニング本文


 2009年7月下旬 北米大規模作戦『War of Independence』──
 ここにきて、バグアも今回の大規模作戦の目的がシェイドの撃墜にあるのではないか、と疑い始めた。
 バグアの北米司令官リリア・ベルナールは、五大湖方面の戦力を抽出、ロスへの移動を開始させる。だが、それはオリム大将とその幕僚団にとって織り込み済みの事態であった。五大湖への合流が遅々として進まなかった西海岸の部隊が、突如、神速の勢いで南下を開始。大陸中央部へと進み出て両戦域の分断にかかったのだ。
 事ここに至っては最早疑うべくも無い。今回の五大湖方面における人類側の攻勢、その意図はシェイドとバグア北米軍主力とを切り離す事にあったのだ。
 リリアは派遣軍に対して、敵遅滞部隊の速やかなる突破を厳命した。リリア個人はエミタ・スチムソンと折り合いは悪いものの、シェイドの名はギガワーム以上にバグア軍の力の象徴として人類に大きな心理的プレッシャーとなっている。こんな所で失うのも具合が悪い。
 ヘルメットワームを中心とした足の早い航空戦力、地上部隊を満載したビッグフィッシュや箱もちワーム、キメラの大集団が天地を駆け、北米中央部の大平原を砂塵を巻き上げ疾走する。
 無論、迎え撃つUPC軍部隊も易々と突破させる気などない。漲る気力と高まる士気。彼等の大規模作戦はこれからが本番だ。
 彼我の距離が縮まるにつれて高まる緊張。今、風雲急を告げる北米に、新たな第3の戦線が出現しようとしていた。


 最初にその敵集団を発見したのは、高高度にて対空警戒中の早期警戒管制機だった。
 第1発見者は操縦席のコーパイロット。針路変更の為に機をバンクさせた際、大地に湧き立つ砂煙に気づいたのだ。
 この高度からでもはっきり判別できる砂煙など尋常ではない。報告を受けた司令部は直ちに確認の為の岩龍が派遣。同時に攻撃隊の発進準備を急がせた。
「コントロール、こちらロックリザード3。1次警戒線ポイントエコーにて、西に向けて地上を移動中の『箱持ちムカデ』の集団を発見した。砂塵で全容が確認できない。物凄い数だ!」
 岩龍のパイロットは声に興奮を隠し切れなかった。荒野を埋め尽くす様に走るバグア輸送用地上ワームの群れ。大物だ。こいつをここで叩いておけば後方の地上部隊本隊も随分と楽になる。その為には俺の情報が必要なのだ。
 パイロットは翼を翻すと、砂塵の舞い上がった低空域へと進入を開始した。空気の渦で砂煙を割りながら上空を通過する。確認しうる限りにおいて、敵は全て『箱持ちムカデ』。その殆どが3機連結で5個のコンテナを背負っている。隊形は‥‥魚鱗? だが、個々の間隔は意外と広い。距離はまちまち。隊列、というよりも、暴走するコンボイの集団、といった風に見える‥‥
 敵情をつぶさに観察して報告を続ける岩龍。その視線が、背負ったコンテナを開き始めたワームの姿を捉える。‥‥『箱持ちムカデ』はバグアの地上輸送用ワームである。そのコンテナには複数の大型キメラや1機のワーム、各種補給物資や大型兵装まで、様々な物を内包している。開くそのコンテナの隙間から見えたものは、積載されたタートルワームの姿だった。
 パイロットは目を見開くと、慌てて操縦桿を引き倒した。ちらほらと開いていくコンテナたち。その法則は随分とマチマチだ。全てのコンテナを開放する個体もいれば、一つとして開かぬ機体もある。
 急上昇へと転じる機体。急激に、だが、緩慢に感じられるその動きに、北米の大地と敵集団が遠ざかる。砂塵の向こうへと消えるその姿に敵の配置を見出して──隊列じゃない、だと? そんなわけはない。適当に配されているように見えて、やはりコンテナの中身には位置と法則性があるじゃないか。
「コントロール、こちらロックリ‥‥」
 瞬間、空に光の壁が現れたかのように、視界が七色の怪光線に包まれた。
 放たれたのは対空用の拡散プロトン砲。コンテナに載せられていたタートルワームが一斉に撃ち放ったものだった。
 火と黒煙を噴き出しながら、まるでおもちゃのように回転する岩龍がぽとりと地に墜ちる。その間も、ワームの群れは何事もなかったかのように、ただひたすらに前進を続けていた。

「コントロール、こちらワイルドホーク。目標を視認した。これより攻撃態勢に入る」
 地を奔る敵集団を眼下に見下ろして、壮年傭兵・鷹司英二郎は、僚機に翼を振ると攻撃目標を明示した。正規軍による第1次攻撃、その第1波。鷹司と共にとぶ傭兵たちがその先駆けだった。
「各機、自由戦闘開始。5分後に同高度にて集合だ。それ以外は、地上に下りて側面から攻撃を掛けるも、敵中に空挺強襲をかけるも、各個に行動するも隊列を組むも自由だ。自分がいけると判断する範囲において、とにかく敵の『荷物』を叩き潰せ。俺たちの仕事で後方の地上部隊を楽にさせてやろう」

●参加者一覧

叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

「全機、注意して下さい。対空砲が来ます!」
 地上を爆走する『箱持ち百足』の進路上へ降下を開始した叢雲(ga2494)は、前方の敵集団がプロトン砲を展開するのを見て僚機にそう警告した。
 3機ずつに分かれて散開する9機のKV。敵中にキラキラと閃光が煌き‥‥直後、七色の光の槍が、蒼空を埋め尽くさんばかりの勢いで一斉に放たれる。能力者たちは隊形を左右に拡散させるようにして敵光弾の密度を薄めつつ、速度と高度をギリギリまで落として地上への降下態勢へと移行した。
「この程度の弾幕なんて、へいきへっちゃら! 今日のおとめ座の運勢は最高なんだかぴゃ‥‥っ!」
 最初に被弾したのは右翼──敵の左翼側へと展開した3機の1、阿野次 のもじ(ga5480)のシュテルンだった。
 思いのほか大きな衝撃に舌を噛む。‥‥おかしいな。朝番組の占いでは『仕事運は快調』って出てたのに。ラッキーアイテムは勿論、爪のお手入れ、タコスの朝食、勝負パンツやその他諸々の験担ぎだってばっちりだ。‥‥まぁ、開始早々の被弾というのも大当たりには違いないが。
「対空砲は威力が大きいようじゃ。鷹司、お主は特に気をつけるのじゃぞ!」
 ガタガタと揺れるコクピットの中で、のもじ機の被弾を目の当たりにした綾嶺・桜(ga3143)が左翼班の鷹司にそう叫んだ。
「‥‥最近は墜ちてないだろう」
 憮然とする鷹司。声がちっちゃいのは、説得力がない事を自覚する故か。
「もし落ちたら、一週間、ご飯奢ってもらうんだよ〜」
 響 愛華(ga4681)の言葉に「俺を破産させる気かっ!」と悲鳴を返し‥‥まったく、これでは若葉が──口煩い姪っ子(正確には義妹だが)が二人も増えたようなものだ。
 一方、中央班の3人──叢雲、フォル=アヴィン(ga6258)、龍深城・我斬(ga8283)が駆る3機のKVは、対空砲火を大きく左右に散らした間隙を縫って敵前への降下を敢行。人型へと変形した機体を大地の上に跳ねさせた。
 脚部に衝撃を吸収させつつ、そのまま装輪で地を駆ける。それぞれに盾を展開するフォルと我斬、2人の雷電が走る間に、4基のスラスターを噴かした叢雲のシュテルンが88mm光線砲を構えた姿勢で接地する。
「これより牽制攻撃を開始します。両翼の各班は時間差で突入して下さい」
 牽制の88mm光線砲を放ちながら、淡々と指示を飛ばす叢雲。敵の最前列機は、除雪車の排雪板の様なシールドを前面へと向け、さらに、目に見えて強力なフォースフィールドを展開し始めている。‥‥減速はなされない。針路変更もなし。ぶ厚い盾を押し出し、突進の勢いもそのままにこちらを吹き飛ばしながら突破する気だ。叢雲は砲撃を続けながら、荷電粒子砲の粒子加速を開始する。
 もっとも、度を越えた落ち着きっぷりはフォルと我斬も負けてはいなかった。
「叢雲さんの粒子砲に続きます。いつでもどうぞ」
 計器板の航空時計に目をやりながら、フォルは仕様兵装を大型ミサイルに変更した。4基の誘導弾を内包したミサイルポッドが水平発射の態勢に入り、雷電がその腰を落とす。
 その横では我斬の雷電がグレネードランチャーの安全装置を解除、射撃体勢を整える。それをオートで進めながら、我斬は手首に巻いた時計のアラームを4分にセットしていた。
「‥‥時間制限付きのミッションか。さて、どうなるかね?」
 呟く我斬のその顔を、叢雲の粒子砲の砲光がモニター越しに照らし出す。射線をずらして放たれる三連射。高い攻撃性能を誇る叢雲機の攻撃は、前面に防御を集中させた箱持ち百足のフィールドをあっけなく突破した。シールドがひしゃげて雨細工の様に融解し、背後のプロトン砲が爆散する。続けざまに放たれたフォルの大型ミサイルが白煙を曳きながら疾駆してそこに飛びこみ、背後のコンテナを中身の回転砲座ごと吹き飛ばす。
 だが、それでも‥‥背部に大火を背負いながらも、箱持ち百足の突進は止まらない。
 2撃目を放つ叢雲機の横で、フォル機が間髪入れずに装備をグレネードへと変更した。すぐ横で待つ我斬機と同様、構えた砲身に俯角を掛ける。
「被弾機より右の2機を貰う」
「了解。では俺は左の2機を」
 眼前に迫る盾の壁。即座に目標の割り振りを済ませ、着弾点をずらして計4発の擲弾を撃ち放つ。標的はワーム本体ではなく、その進路上の地面だった。
 炸裂した敵弾が敵眼前の地面を吹き飛ばす。出来た窪みは微々たるものだ。本来、箱持ち百足の走破性能と慣性制御をもってすれば何ということもない。だが、百足は最大戦速で装輪走行による突撃を継続中であり‥‥
 百足の最前輪がガクリと沈む。対応する暇はなかった。引っ掛かった脚部が吹き飛び、前のめりになった車体が地面へと激突する。急制動の掛かった機体前部が地面にめり込む間も、後部の質量は慣性に従って前進を続け、結果、逃げ場をなくしたその力は、接地部分を支店にしてその身を宙空へと跳ね上げた。蒼い空を背景に、まるで何かの冗談の様に宙を舞う百足の柱。それはすぐに自重と衝撃に耐え切れずにバラバラと大地へと振り落ちる。
 その現実離れした光景の只中へ、3機のKVは突っ込んでいった。轟音。次々と大地に激突するワームとコンテナ。その『流星雨』を縫う様にかわしながら、ただひたすらに前方へと突進する。
 盾の壁には、3つ──1機は慣性制御が間に合った──の大穴が開いていた。
「敵前衛を突破します!」
「突撃の運動エネルギー、丸ごと叩き込んでやる。喰らいやがれぇ!」
 敵の第1陣と刹那に擦れ違う。続けざまに迫る第2陣。その近場の1機に向けて、機槍を腰溜めに構えた我斬の雷電が、盾をかざし、装輪走行の砂塵を撒き散らして突進する。アクチュエーターを使用し、敵の進行軸を直前まで見極めながら‥‥擦れ違いざまに突き出された『黒龍』はその百足の頭部を完全に破砕して。同時に、百足のフィールドアタックが我斬機の左前腕部を破壊した。

「‥‥ロックオンキャンセラー、起動しました。これで、敵の照準能力は20%の低下です‥‥」
 そう呟いたのは、左翼班──敵右翼側へと降下したイビルアイズに乗る明星 那由他(ga4081)だった。
 左翼班は大きく回り込んだ為、対空砲の被害は殆ど無い。無事に人型での『着陸』を済ませた3機は寸分も無駄にせず、大地を疾走する敵集団へ向けて装輪走行を開始する。
「ん〜‥‥『船団攻撃』っていうより、輸送列車を襲撃する馬賊の気分?」
 荒野を駆ける阿修羅のコクピットで、敵集団が巻き上げる砂塵を見遣りながらMAKOTO(ga4693)が猫口で笑みを零す。鷹司はほぅと頷いた。彼自身は爆撃機隊迎撃の気分でいたのだが、成る程、騎兵同士が突撃し合う様にも見えなくもない。

 その頃、右翼班の3機もまた、降下を済ませて突撃へと移行しつつあった。
 機の周囲を飛び交う対空砲の弾幕をようやく抜けて、4足形態の機を大地に下ろすと愛華はホッと息を吐いた。
(「墜とされたロックリザード3も‥‥きっと怖かったよね‥‥うん。君の為にも通さないから。絶対、絶対、通さないから‥‥!」)
 本番はこれからだ。降下する桜の雷電とのもじのシュテルンの影が阿修羅の上を行き過ぎる。愛華は両手で頬を叩いて気合いを入れると、機を2人の後へ追随させた。
「進路上に中央班が降りてもノンブレーキとはっ! 敵ながらお前ら合格。まさにチキチキワーム大陸横断猛レース砲丸風味」
「お主はなにを言っておるのじゃ。ほれ、わしらも突撃するぞ! 速攻、先手必勝じゃ!」
 桜が叫び、のもじ機と並んで敵隊列の側面から突入を開始する。
 側面の百足はシールドを展開していなかった。代わりに積んだ5つのコンテナを一斉に開放する。中身はすべて多連装型のフェザー砲だった。
 突撃する3機に向けてぐりんと向く無数の砲口。その全てが3機を捉えていた。それはまさに丁字戦法を完成させた艦隊の如く。それはまさに『砲の壁』。横撃を仕掛けるはずが、一瞬でキルゾーンを形成されてしまった。
「止まるな! 一気に突破するのじゃ!」
 機動性はこちらが上、この場合はそれが一番被害が少ない。放たれる光弾の雨の中を突進しながら桜が叫ぶ。行過ぎる敵、流れ来る新手。のもじはPRMシステムを起動すると、集中するように息を吐いて目を閉じた。
 心頭滅却すれば敵弾も当たらず‥‥(ズガガッと振動)ごめんなさい、嘘つきました。PRMで命中率を高めて最初の一投に集中集中‥‥射程に入り次第必殺の一撃を‥‥
「かっ!」
 目を見開く。開眼の効果音は口頭だ。
「ライデン、アシュラ! 今よ!」
「わぅ! 百足の丸焼き、トッピング添えにしてあげるんだよ!」
 1オクターブほど高い声で叫ぶのもじ。だからそれはなんなのじゃ! と叫ぶ桜と、意外とノリノリな愛華と、3機が同時にグレネードを撃ち放つ。放物線を描いた擲弾がコンテナの中へと飛び込んで、1機(正確には3機連結だが)の積んだ砲座を5つ、全て粉々に破壊した。
「うふふっ、しぃーど・ラヴ・シャワー!」
 その1点へとただ突っ込む。のもじ機が両腕に構えたガトリングの光弾と拳弾をオラオラァと撃ち放ち、その援護のもと突っ込んだ桜機が新手のコンテナへ向かって跳躍する。
「開かせはせぬのじゃ! コンテナごと吹き飛ぶが良い!」
 ブゥン、と振り下ろされたハンマーボールがコンテナごと中身をひしゃげ、叩き潰す。ぐりんと引っ張り回してもう一撃。爆発して砕けたその上を、愛華の阿修羅が4足機体で飛び越える。
「ぐるるるっ! のもじさん、桜さんっ! いっくよ〜!」
 防衛線を突破した阿修羅が着地、そのまま大地を駆けさせる。新たに見えるは第2陣。その無傷のコンテナに向けて、愛華はC−0200ミサイルを続けざまに撃ち放った。

 遅れる事数十秒。中央班、右翼班に続いて、左翼班もまた突撃を開始していた。
 最外縁の『砲の壁』を激戦の末に突破し、敵砲が内側へと向く前に第2陣へと喰らいつく。敵中に紛れてしまえば、敵もおいそれと長射程・大火力は使えない。
「止まるな、突っ切れ、煽れ煽れ! お宝は全部頂きだヒャッハー!」
 世紀末とか核戦争後とかマッドな何かの2っぽいアレに出てくるモヒカンなイメージで、MAKOTOが百足の横っ腹に突っ込んだ。肩部に装着した機槍で内部ごと串刺し、コンテナを蹴って爆発を背に跳び進む。鷹司機がヘビーガトリング砲を残りのコンテナへ撃ちつつ後続し。その背後を守るように後進状態で続く那由他機は、二人とは別方向──彼等の背後、つまり自機正面へと砲撃する。那由他機の照準の先にあるのは、箱持ちムカデなどではなかった。
「後ろは気にせず、とにかく前へ‥‥! 本当にキリがない‥‥!」
 シールドキャノンの127mm砲弾が陸戦ワームを粉砕する。そのすぐ隣りにいた別の機体がフェザー砲を撃ち放ち、直撃を受けた砲の防盾が赤熱する。那由他は撃ちつくした砲を背に回すと、滑腔砲の連射で敵の足を止めながら、味方に続いて後進──つまりは敵隊列中央への前進を継続する。
 最外縁の『壁』を突破した各機を待っていたのが、この地上用ワームとムカデ(単騎)の護衛機たちだった。あの大きさの百足なら、本当に100本脚がありそう‥‥そうつぶやいたのは那由他だったが、敵の第2陣のムカデたちは3機連結(それぞれがフェザー砲搭載)を解き、連結部コンテナに載せていた陸戦ワームと共に計5機に分離。各個に迎撃を開始したのだ。
「やっぱりな。俺だって連結部なんて弱い所には大事な物は置かないしな」
 連結部から飛び降りようとするワームに向かって47mm砲弾を浴びせながら、我斬は苦笑と共に呟いた。砲撃を加えながらも足は止めない。くるりと機を旋回させると、すぐ横で連結を解き始めた百足を他所に機を装輪で走らせる。後から突っ込んで来る百足のフィールドアタックを機を傾けて受け凌ぎ、オートで放たれたファランクスが走り去る百足最後尾に乗るタートルワームを穴だらけにする。
「次、突進してくる個体を潰しますよ!」
「ワームと単騎百足が接近中。このままだと包囲されます」
「叢雲さんと龍深城さんは攻撃を。護衛は俺が!」
 左翼班が直進する一本の矢印だとすれば、中央班はそれぞれに絡み合う3本の矢であった。敵側面へ流れるように回り込んだ我斬機に砲口を向ける百足上のタートルワーム。それを反対側から突っ込んだフォル機が擦れ違いざまにハンマーで粉砕する。通過する敵の左右から放たれる我斬とフォルの砲撃。2機をフォローするように後に続いた叢雲機が両腕に保持した光線砲を構え持ち、百足の後姿に撃ち放つ。光の剣に切り刻まれた最後尾がボロボロになって、健在な前衛部に引きずられてゆく。
 一方、右翼班の矢印は3又の槍のようだった。
 翼部分に装備した剣翼で切り裂くのもじ機と、振り回したハンマーで次々と叩き潰す桜機。その2機を双頭の角として、討ち漏らした敵に向かって伸びる中央の穂先。コンテナの上に飛び乗った愛華機は足元のコンテナにサンダーテイルを打ち込むと、すぐにそれを蹴り潰して離脱、先行する2機を追う。
 三方よりそれぞれ突入した3本の矢印は、やがて敵集団中央部へと到達した。元よりそうなるように計画したものではある。敵にとって重要な物資はぶ厚い壁と護衛に守られた中央付近に集中している、と。そして、その予想を裏付けるように、中央付近の箱持ち百足はそのコンテナをまったく開放していなかった。
「お宝だ! 行くよ、野郎共!」
「その積荷は全部没収するんだよ〜」
 すっかり馬賊が板についたMAKOTOに鷹司が苦笑する。それに確実に止めを差すべく、那由他が攻撃目標を選定して攻撃を集中させようと‥‥
 異変はその直後に起こった。
 3方から進行する3班が敵中央部を射程に収めようとしたまさにその時。幾つかのコンテナが開放され、中からCW──キューブワームがその姿を現したのだ。
 通り過ぎ、或いは複数の効果が重なり、能力者たちを頭痛の波が打ちのめす。視界の照準がブレ、AIの補助を受けてなお手元の操縦桿が覚束ない。残しておいたグレネード弾すら、あさっての場所に着弾して爆発した。間の悪い事に、全てのKVがこの瞬間、CWの効果範囲におさまってしまっていた。
 やがて後方へと抜けた能力者たちは、その影響下を脱して反撃に移った。ありったけの砲弾と誘導弾を撃ち放って後方から追い縋る。外縁のCWから1機ずつ落としていけば、敵中央部を直撃する事は可能なはずだ。だが、それだけの時間は能力者たちに残されてはいなかった。

 ピー、ピー、と鳴る腕時計のアラームを、我斬はピッと押し止めた。
 前方では、攻撃隊の第2波が降下を開始、対空砲──自分たちの時よりは幾分か弱まったそれが空を煌かせている。
 周囲には破壊され、落後した百足やワームの残骸の数々‥‥
 中央部に痛撃は与えれなかったものの、それは彼等が与える事に成功した、十分以上の成果であった。