タイトル:【Tr】グライドルマスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/09 07:16

●オープニング本文


 とある町があった。現在は廃墟と化している。
 海と山とに挟まれた、細長い平地にある街だ。かつては人々の営みがそこには存在したのだろう。だが、バグアの地球侵攻とそれに伴う経済的な混乱、他、口にするのも憚られる類の諸々の要因が‥‥この街から人々を遠ざけてから、既に久しい時が流れていた。
 忘れられた街。時の止まった街。──或いは、時に侵食された街。
 だが、今、その戦略的に無価値なはずの辺境の街の片隅に、尋常ならざる数のKVと人員とが続々と集結し始めていた。
 まるで見本市か何かのように溢れかえる駐機場。機種入り交じり、雑然と佇率するKVの群れの間を、バラバラの部隊章をつけたパイロットと整備兵、そして、それに混じって、背広姿の、スーツ姿の、白衣姿の男女が忙しく立ち回る‥‥
 ──相次ぐ新型機の投入は、メガコーポレーション間のKV開発競争に拍車をかけていた。持てる技術とノウハウの全てを投入して凌ぎを削る各社から、次々と持ち込まれる開発案。その採用の優先順位を決める為に──UPC軍は、実際に運用する立場の能力者たちに向けて、コンペティションの開催を決定した。
 エントリーされた機体は5機種。
 GF-M『アルバトロス』、GF-V『マテリアル』、LBR−44『クローラー』(以上、メルス・メス社)、そして、DGR−55『グライドル』(ドローム社)とMBT−012『ゼカリア』(MSI)。
 そして、今。コンペティションに先立ち、それら新型機を実際に使用する模擬戦が、このゴーストタウンと化した街並みで行われようとしているのだ。
 政治的にも戦略的にも無価値なこの街に唯一の価値があるとすれば、『人目につかない』、それこそがまさにそれであったろう。


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DGR−55 『グライドル』
 2008年以降、UPC軍では傭兵を中心にKVのコスト高が深刻な問題とされ、低価格なKVを求める声が大きくなった。
 そこで、考え出されたのはモーターグライダーをベースにした『グライドル』である。
 機体の小型化により積載重量、防御性能は極端に落ちるが、滑空機をベースにしているため巡航距離は長く、静粛性に優れる。コストも低く抑えられた。
 しかし、ナイトフォーゲル全般の性能向上と量産効果による低価格化の中で、性能的に取り残されてしまった感は否めないものであった。
 そこで開発チームは小さな機体、静粛性、長大な巡航距離を生かした偵察機としての特性を強化することでグライドルの再生をはかった。
 イビルアイズで培われた対重力波レーダー技術を用いた新型の対重力波ステルス技術を施したことでバグア支配地域の奥まで潜入可能なステルス偵察機として完成した。

特殊能力:簡易変形機構
 機体構造が非常に簡便になっており、行動力を使用せずに変形することができる。
特殊能力2:対重力波ステルス
 バグアの使用する重力波レーダーに対して有効なステルス機能。
 重力波レーダーに察知されづらくなり、小型機であるグライドルであれば探知距離の大幅な短縮、鳥との誤認などの効果を得られる。
 これによりバグアの支配地域の奥深くまでを潜入することが可能であるが、光学的な観測には効果を及ぼさず、戦闘行為中に有効な効果もない。
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「つまり、正面から敵と殴り合う機体ではないということだな。‥‥というより、敵前に姿を晒す事は何としても避けた方がいい」
 居並ぶ能力者たちを前にして、今回の模擬戦に際して『グライドル』の整備を担当する事になった初老の整備班長は、厳しい顔つきのままでそう鼻を鳴らした。
 彼の背後には、他の機体と比べると随分と『小柄』なKVが佇立している。DGR−55『グライドル』‥‥他の機体と同様、紆余曲折を経てこの場に立つ事になったKVだ。本来ならば、ドロームから機体の特性その他諸々について能力者に説明する人間が来る手筈になっていたのだが、その企画部の人間が、急な電話が入ったとかで席を外してからもう随分と長い時間が経っている。そうこうしている内に模擬戦に参加する能力者たちが集まってきて‥‥いつの間にかこうして、彼が説明役を押し付けられる羽目になっていた。
 結果として。能力者たちは、社の人間からは聞き得ない、歯に衣を着せぬ機体説明を受ける事となった。
「この機での戦闘は避けろ。そうだな、岩龍で格闘戦をやる様を想像してみるといい。あれより酷い事になる。とり回しの軽い機体だが、それだけに装甲は『紙』だ。喰らえばイタリア野郎のパスタ装甲より簡単に千切れるぞ」
 潮が満ちるように広がるざわめき。ええい、知ったことか。徹底的に言ってやる。
「ああ、こいつは他のKVには真似の出来ない能力を持っている。だが、勿論、それとて万能ではない。こいつはヒーロー向きの機体じゃない。『勇敢な臆病者』にこそ似合いの機体だ」
 そこで言葉を切って見回してやる。不安そうな、或いはつまらなそうな顔、顔、顔‥‥その中で幾人か、瞳に生気を、口元に不敵な笑みを浮かべた者たちがいた。整備班長がニヤリと笑みを凄ませる。‥‥そうだ。こいつはお前たちのような人間の為にこそある機体なのさ。
「純粋な戦闘には使い物にならない。その通り。だからこそ、他の機体とは違った使い方が必要となる。でなければ、こいつは今回のコンペに勝ち残れない」
 殆どの者が驚いた顔をした。今の今までこの機体をボロクソに言っていた男が、コンペでの勝利を口にしたからだ。この機体で? 幾人かは冷笑を浮かべていたかもしれない。
 だが、幾許かなりともこの機体に関わった者として、班長は本気でこの機体の勝利を願っていた。
 初老の整備班長は大きくひとつ頷くと、能力者たちの中から幾人かを選んで指名した。‥‥例えそれが他人事の気楽さに属するものであったとしても、彼が、この機体の命運を託すに足ると、少なくともそう思えた者たちだった。

●参加者一覧

流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
烏莉(ga3160
21歳・♂・JG
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
黒羽・ベルナール(gb2862
15歳・♂・DG
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD

●リプレイ本文

 右手には、どこまでも青い海原。
 燦々と降り注ぐ陽光、砂浜に寄せては返す波の音‥‥静かで長閑な風景は、しかし、砂塵を巻き上げて進むKVの『車列』によって破られた。
「模擬戦本部、こちら試作機班。第1目標に到達、周囲に敵影なし。橋頭堡を確保しました」
 どうやら玄関先までは無事に通して貰えたようだ──戦火の跡も生々しい住宅街、かつては学校の校庭だったと思しき開けた空間を確保して──本部に現状を報告するヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)は、しかし、気を緩めたりはしなかった。
 膝をつき、機槍を構えたヴェロニクの翔幻改。その横を、番場論子(gb4628)のロジーナが大地を踏み締め前進していく。機盾を構え、機槌を肩に乗せた態勢で、頭部をグルリと回して周囲と上空とを警戒する。
「グライドルって面白そうな機体だよね! 初の機体依頼でちょっと緊張するけど、すっごいワクワクするよ!」
 地殻変化計測器を抱えた翔幻改のコックピットで、黒羽・ベルナール(gb2862)はニコニコとした笑顔を声に隠さない。論子はそんな黒羽の緊張感の無さを嗜めつつも、その底抜けに明るい声音と仔犬みたいに無邪気な笑顔に苦笑した。気は緩めず、それでも黒羽の話に乗ってみせる。
「そうですね。偵察機として見れば優秀な機体ですし、導入となれば、戦場で貢献するのは間違いないですね。確かに脆弱過ぎて、その面では癖が強いでしょうが‥‥それも運用次第。その例を我々が披露できれば良いですね」
 おおっ、と感心したような声を漏らす黒羽。両の手を握り締めてコクコク頷くその様に、個人的な理由で不機嫌、というより、しょんぼりしていたヴェロニクにも笑みが浮かんだ。
「よーし! 論子さん、黒羽さん。トライアル、勝ちますよー!」
「おー、頑張ろー!」
 気合も新たに気勢を上げる翔幻の二人組。論子はやれやれと苦笑の笑みを大きくする。
 その頃、乗機のウーフーを校庭の隅へと移動させたオルランド・イブラヒム(ga2438)は、そこに2個目の地殻変化計測器を設置していた。起動とデータのリンクを待って、早速周辺を探り始める。が‥‥
「どうだ、何か感知できたか?」
「ダメだな。地上はノイズが酷くてまともにデータを拾えない」
 首尾を尋ねてきた比企岩十郎(ga4886)に、オルランドは肩を竦めながら首を振った。感知できたのは、貴様の岩龍が近づく『足音』位だ。そう答えながらシートに背を預ける。まぁ、元々、地中のEQを捉える為の計測器だ。余程大きな振動でもなければ、地上目標の探知は難しいかもしれない。
「となると、やはりグライドルの情報が頼りか」
 眉根を寄せる岩十郎。ここまで敵影も無く、航空偵察もなく‥‥正直、敵の思惑が分からず、落ち着かないこと甚だしい。
「上手い事やってくれよ‥‥」
 岩十郎は飄々とした口調で呟くと岩龍のカメラを東の山地へと向けた。
 そちらには、敵の後方へと回り込む3機のグライドルがいるはずだった。


 試作機班本隊の動きは、アグレッサーに筒抜けだった。
 彼等の『目』は、空でなく山地にあった。
「KV5機、ルートアルファを単縦列にて南下中。そのまま橋頭堡を確保する構え。機種および兵装は‥‥」
 アグレッサーの識別マークをつけた岩龍改と、その護衛のリッジウェイ改。彼等は山地の高所から、半遮蔽の住宅街を進む敵を発見し、その情報を本隊に報せていたのだ。
 だが、彼等が占位するその山地は、市街地を避けて回り込む3機のグライドルの迂回路でもあった。
「ずっと思っていたんです。この機体を忍者の様に運用出来ないかって‥‥おやっさんの期待に答える為にも、現代に忍を蘇らせて見せますよ」
 山中の木々を分け進む3機の『グライドル』。その1機に乗る流 星之丞(ga1928)の呟きは、勿論、無線に乗せて発せられたものではなかった。だが、それは、他の二人にも多かれ少なかれ共通した想いであった。
 烏莉(ga3160)にとっては、それなりに喜びを感じさせてくれる機体ではあった。喜び。いや、喜びとはまた違うかもしれない。強いて言うならば、手の平にしっくりと納まるナイフを手にした時の感覚に近いだろうか。職人や技術者がその商売道具に拘る様に──烏莉は闇の世界に属する人間だったが‥‥ああ、そういう意味では、確かに彼は職人であるかもしれない。
「慣れぬ機体に乗るのは多少なりとも抵抗があるが‥‥グライドル‥‥この手で感じさせて貰う」
 やや引いた視線でグライドルを見るのは、アンジェリナ(ga6940)だった。彼女は、大会で投票する機体を判断する為にこの機体に乗っていた。既存機にはない軽い取り回しに困惑しつつ、その機動を手に馴染ませながら機を駆けさせる。

 最初に敵影に気付いたのは、そのアンジェリナだった。
 視界の悪い山の中。突然、視界の隅に飛び込んで来た岩龍とリッジウェイ。その頭部がグルリと回り、その視界がこちらを捉える。
「敵機、至近! リッジウェイ1、岩龍1!」
 それは互いにとっての不意打ちとなった。遭遇距離は9。山中に敵がいると予想していなかったグライドルと、予測しつつもここまで懐に入り込まれると思っていなかったアグレッサー。どちらも受けた衝撃は小さくない。
「岩龍!? 仕留めます!」
「‥‥ああ」
 散開し、岩龍を高分子レーザーの射程に収めるべく飛び出す星之丞とアンジェリナ。いち早く機に狙撃砲を構えさせた烏莉は、しかし、リッジの狙撃砲がこちらを向くのを見て素早く機を横へと跳ばす。だが、リッジ改の試作照準器はその動きに追随した。砲口が煌き、途端、烏莉機のコックピットに警告音が鳴り渡る。それは命中弾を受けたというシグナルだ。途端に、命中箇所、損害、障害等、各計器の警告灯が赤く染まる。
 だが、その間に、星之丞とアンジェリナはリッジの両側面にまで達していた。リッジの後方、ようやくこちらへ旋回し終えた岩龍。そこへ3機が発した模擬弾と光線が鈍重な機体を乱打する。
「岩龍、撃破」
 淡々と結果を告げる判定官。10秒と立たぬ内に最初の敵を始末した3人はすぐに次へと向き直る。後退し、装填し、20mmを撃ち捲るリッジ改。だが、三方より攻撃を集中されては長くは保たない。
「リッジウェイ、撃破」
 40秒後。リッジのパイロットは悪態を吐きながらハッチを開放する。それが撃破の証だった。
「姿を晒しての殴り合いとなると、流石にこんなものでしょうか‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
 或いは、自らの装備品をグライドルに貸与できていたら避けられたろうか。小〜中破の判定を受けた機体の警告灯を、3人は黙然と見守った。
「時間を取りました。急ぎましょう」
 星之丞の言葉に無言で頷いて。3機は再び迂回の道を進み始めた。


「前方200に敵影! ロングボウ2機!」
 橋頭堡から市街地への前進を開始した試作機班本隊。その先頭を、廃墟の陰から陰へと渡り歩くように前進していた論子のロジーナが、正面から同じような動きで接近する2機のロングボウを発見した。彼我の発見はほぼ同時。敵は突然の遭遇にうろたえているように見えた。
「周囲に他の敵影は!?」
「反応なし。だが、こうも障害物が多いと‥‥!」
 敵発見の報告に、岩十郎が烏莉を振り返る。狭いセンサーレンジに四苦八苦しながら、それでも何とか、烏莉は周囲に敵影がない事を確認する。
「突出した斥候機? なら、ここで落とします! 黒羽さんは私と前へ。論子さんは援護を!」
「了解! 行っくよー!」
 ヴェロニクの言葉を受けて、黒羽が元気良く返事する。論子は機体を瓦礫の影から出させると、47mm砲による援護射撃を開始した。
 続けざまに放たれる模擬砲弾。それを敵機が瓦礫を盾に回避する。その間にブーストを焚いて一気に肉薄せんとする2機の翔幻。それをロングボウはH12ミサイルで迎え撃った。
「うわあっ!?」
 つんざくような警告音に悲鳴を上げる黒羽。どうやら敵は直線道路を利用しての長距離攻撃を意図していたようだ。だが、その撃ち放たれる模擬弾を、ヴェロニクは全て回避した。
「もっと良いミサイルを積んでいれば、分からなかったですけどね!」
 突進の勢いもそのままに、ウレタンっぽい柔らかな機槍をぐにゃりと敵胸部に突き入れる。勢いを殺しきれず転倒するロングボウ。「やりすぎだろ、こら!」と叫ぶアグレッサーの声を他所に、駆けつけた黒羽機が「でいやっ」と二又槍を突き入れて止めを差す。残った敵は全力で逃げ始めた。
「逃がしません。各個に撃破します!」
「よぉっし、袋叩きだ〜!」
 手持ちの銃火で送り狼の火線を送る翔幻2機。前進して来た論子機が、敵の脚部目掛けて47mmを撃ちまくり、ヴェロニクと黒羽が追跡を開始する‥‥
「なぁ、なんか嫌な予感がする展開じゃないか?」
 前衛に続いて前進しつつ、岩十郎が汗を滲ませた声音で尋ねてくる。オルランドは渋い顔で首肯すると、いっこうに反応のないセンサーを睨み付けた。
 罠か? だが、その懸念も「ウーフー発見!」の声にタイミングを失って‥‥
 結果、広場へと侵入を果たした試作機班は、目の前でうろたえるウーフーに火力を集中し。次の瞬間、広場外周に沸き上がった機体反応に目を丸くした。エンジンを待機状態にして伏せていた敵機が、一斉に瓦礫の陰から身を起こしたのだ。
 退避を叫ぶ暇はなかった。
 2機のアンジェリカを要にして2機ずつのディアブロを配した鶴翼が、キルゾーンに入った試作機班に十字砲火を浴びせ掛ける。僅か10秒の間に真っ赤に染まる各機の警告灯。もしも、翔幻がいなければ、3ターン目は必要なかったに違いない。
「みんな、下がって! 幻霧、出すよっ!」
 黒羽の叫びと同時に、広場入口に幻霧が沸き起こる。乱れた隊列を建て直し、順に後ろから広場を出ようとする能力者たち。ヴェロニクと論子の二人は、殿として敢えてその場に止まった。
「馬鹿の一つ覚えみたいにバカスカと! 撃てばいいってものじゃないです!」
 ラージフレアを射出したヴェロニク機が囮となって、アンジェリカのレーザーを回避する。ディフェンダーを抜剣して突っ込んで来る4機のディアブロ。論子機は振るわれた剣を機盾で受け流すと、態勢を崩した敵の背中をストームブリンガー使用の機槌で叩き伏せる。
 拘束されなかった残りの2機は、そのまま後列へと突っ込んだ。
「なんてこった、向こうの思う壺じゃないか!」
 迫るディアブロを目前に叫ぶ岩十郎。機盾をかざす岩龍に必殺の確信を持って一撃を繰り出した敵は、しかし、「岩龍、小破」という判定官の声に耳を疑った。
 その盾の下から覗く砲口。放たれたレーザーはディアブロを直撃し‥‥そのダメージ値にパイロットは再び驚愕した。
「なに、ただの岩龍改だよ。少々、生き延び易くなってはいるけどな」
 目を丸くしているであろう敵パイロットに、苦笑混じりに岩十郎が呟く。何度こいつで落ちた事やら‥‥その度に改造を重ね続けた岩十郎は、貧弱の代名詞たる岩龍をここまで育て上げたのだ。
 今度こそ油断無く、十分に警戒して身構えるディアブロ。岩十郎は隙無くそれに正対しながら‥‥一気に機を後方へと離脱させた。‥‥ディアブロだってぶん殴ってみせる。だが、アンジェリカのレーザーだけは勘弁だ。
 最後のディアブロは、黒羽機に突っ込んでいた。
 突撃してくる敵に向かって、気合いと共にバイコーン・ホーンを突き出す。それは的確に敵機の胸部を突くはずだったが、皮肉にも、自らが発した幻霧によって外れてしまった。繰り出された反撃を慌てて二又槍で受け止めて‥‥そのまま力任せに押し込む敵に、判定官がダメージの増加を宣告する。
 押し切られる‥‥! 黒羽がそう思った時、横合いからオルランドのウーフーが突っ込んできた。手にしたビームコーティングアクスを振り回し、黒羽機から敵を追い払う。
「オルランドさん!」
「ヴェロニク、幻霧が切れる。もう一度だ。黒羽、敵後衛の目を潰すぞ。煙幕弾、貴様は右だ」
 そのまま黒羽機を庇う様に前に出るオルランドに倣って、黒羽もアンジェリカに向けて煙幕弾を撃ち放る。それは一時的ではあるが、敵の援護を薄くした。
「11対8か。程よく希望がなくて面白いな」
 どこか呆れた様に呟きながら、オルランドが唇の端を吊り上げる。不意打ちからの包囲突撃。なるほど、対した攻撃力だが、スペインでの戦いに比べれば大した事はない。それに‥‥
「貴様たちの手番は、もう終わる」
 オルランドが呟いた直後、敵陣最後衛にいたウーフーが突如動きを止め、膝立ちになって大きくハッチを開放した。何事かと振り返ったアンジェリカが続けざまに無数の命中弾に晒される。
 市街地を迂回した3機のグライドルが、戦場に到着したのだ。

 本来、彼等の目的は挟撃ではなく、偵察だった。
 挟撃であれば、グライドルで行う必要は無い。迂回が遅れ、本隊が誘引と伏撃を受けて先に戦闘に入った為、その背後を突く形になっただけだ。
 ただ、グライドルの隠密性は、本隊への攻撃に集中するアグレッサーに、全くその存在を気付かせなかったが。
「わざわざ近づく必要はない。距離を取り、多方向から砲撃を続ければいい」
「‥‥」
 アンジェリナの言葉通り、分散して配置されたグライドル隊は、初撃の集中砲火でウーフーを破壊すると、背後から散発的な攻撃を繰り返した。
 振り返ったアンジェリカが烏莉機を捉えたが、直後に煙幕弾を撃ち込まれて視界を失う。煙を抜けた時には既に烏莉機の姿は無く‥‥そこへ、側面に現れたグライドルがレーザーを浴びせかけた。
「何だと!?」
 もうそこまで移動したのか? 砲口を向ける間もなく姿を隠すグライドル。直後、彼は背後に現れたグライドルに致命的な一撃を喰らっていた。
 撃破判定を貰いながら、アンジェリカのパイロットは困惑した。タネが分かったのはその直後。次の敵に向かう為に姿を現した3機を見て、自分が複数機による時間差攻撃を喰らっただけと気づいたのだ。
 遮蔽物の多い廃墟と地形が幸いした。無人機であれば、或いは、アグレッサーが背後を取られて混乱していなければ、こうも易々と引っ掛かりはしなかっただろう。
 勝敗は、この時点で決まったと言っていい。

 そのまま敵鶴翼の一翼へと回り込んだグライドルは、端のディアブロから順に襲撃した。
 背後から攻撃され、何事かと振り返った所を本隊に突き崩される。続けざまに2機のディアブロを破壊されて──数の優位を失い、包囲網を崩されたアグレッサーは継戦を断念、撤収を開始した。後退中に1機のディアブロがオルランドに脚部を撃ち抜かれ、減速した所を集中砲火で破壊されたものの、残るディアブロ1、アンジェリカ1、ロングボウ1はそれぞれ離脱に成功した。

●模擬戦結果
1.撃破した敵のショップ価格合計 ○
2.参加機体価格の合計金額 ◎
3.橋頭保の確保 ◎
4.市街地の確保 ○
5.新型機の活躍 ○