タイトル:【DR】Whack a moleマスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/31 00:53

●オープニング本文


 大規模作戦『ダイヤモンドリング』に対する支援要請を受け、北米、UPC北中央軍からも援軍が出される事となった。
 目的地は極東ロシア。本国と分断され、補給が停滞しがちのかの地には、今作戦において、北米から出される援軍は何よりも必要だった。
「まさか、ロシアを助ける為に軍を出す事になるとはな」
 輸送船団護衛の為、太平洋に回された空母『エンタープライズIII』(CVS−101)の艦橋で、北太平洋を極東へ向けて進む大船団を見下ろしながら、艦長はそう感慨深げに苦笑した。
 かつて米ソ冷戦時代には、互いを唯一無二の仮想敵として睨み合っていた相手が、今やなんと宇宙人相手に共闘する間柄とは。このような感慨は、今の若い者には──例えば、この20代の副長などには理解しがたいものだろう。
「艦長。メキシコ方面より飛来した敵編隊が、我が要撃編隊と戦闘に入りました」
 艦長の内心にはもちろん気付かず、副長が報告を上げてくる。この職務に精勤する忠実な副長にひとつ頷くと、艦長は丁寧な手つきで軍帽を被り直した。
 船団がサンフランシスコを出港してから幾度めかの空襲だったが、距離を考えれば北米大陸からの空襲はこれが最後だろう。これで暫くは‥‥そう、オホーツク海に入る辺りまでは、多少、安心が出来るだろう。勿論、空襲に限れば、の話ではあるが。
「油断するな。対潜哨戒は十二分に行うように」
 かくして、その言葉の通り、哨戒行動に当たっていた対潜ヘリのディッピングソナーが、海中を艦隊側方より忍び寄る敵水中ワームの群れを探知した。これあるを警戒して配置されていた水中用KV部隊が迎撃に向かう。
 隔世の感があるな、と艦長は心中に呟いた。
 宇宙人の襲来などと言う事態が現実と化し、その脅威に為す術もなく散っていった戦友たち。それが、今、人型に変形する戦闘機──KVなどというトンデモ兵器を実際に運用する立場になって、その加速度的な性能向上に伴い、今、曲がりなりにも敵ワームと互角に渡り合っている‥‥
 どよ、とCICにどよめきが起こり、副長が鋭い声で艦長を呼んだ。艦長は動じた様子も見せず、再び帽を被り直した。何があった? と慌てる事無く、冷静な口調で報告を求める。その態度はスタッフたちに、幾分か落ち着きを取り戻させたようだった。
「水中KV部隊が接敵する直前、敵マンタ・ワームが海中より飛び出しました。空中より、我が船団へと向かってきます」
 マンタ・ワーム。小型ヘルメット・ワームを扁平にしたような外観のこの敵は、バグア水中部隊のワームの中でも能力値的に一段劣る相手である。唯一といって言い利点は、空中と水中を共に自在に動けることであり‥‥このように、防空線と水中警戒線をすり抜けるような機動が可能な所であろう。
 ふむ、と、艦長は顎を引いた。或いは、その唇の端は笑っていたかもしれない。‥‥誰が相手であろうとも、どんなに武器が進化しても、戦いで大きなウェイトを占めるのはあくまでも人間なのだ。それは、原始時代の原初の闘争から何も変わってはいない。
「進路0−3−0。本艦を護衛艦と共に船団側面へ。縦列でもって盾とする。待機中のKVは全て、人型変形の上、飛行甲板に上げろ。飛来するマンタを撃ち落とさせるのだ」

●参加者一覧

春風霧亥(ga3077
24歳・♂・ER
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

 けたたましく警報が鳴り響き、強襲揚陸艦『ホーネット』の格納甲板は喧騒に包まれた。
 状況を伝えるアナウンス。『水中用KV母艦』として改装された手狭なデッキを、整備士たちや牽引車が怒声と共に走り回る。
 そんな殺気立った空気の中を、ゴールドラッシュ(ga3170)は鼻歌混じりに、小走りで機体に向かっていた。
「お仕事、お仕事♪ 出撃ありで報酬満額確定よ、っと♪」
 湧き上がる笑みを抑えながら、即興でそんな歌詞を口ずさむ。いや、軍の仕事は良い事尽くめだ。金払いは良いし、賞金稼ぎとしての箔も付く。
 もちろん、失敗などしたら意味がない。『仕事』はきっちり。他人からの信用は大切だ。何よりも自分の為に。
「我斬さん、忘れ物!」
 人型形態で横たわる愛機に駆け上がろうとして、龍深城・我斬(ga8283)はその声に振り返った。
 若い整備兵が水筒片手に駆け寄ってくる。それは我斬が長丁場に備えて用意していたお茶だった。
「悪ぃ。サンキュー」
 礼を言って受け取る。その手に、ショートブレッドの携帯食品とチョコの小箱が押し付けられた。
「差し入れです。小腹が空いたら食べて下さい」
「‥‥ありがてぇ」
 改めて礼を述べ、コックピットへと潜り込む。ブザーが鳴り響き、スピーカーが綾嶺・桜(ga3143)機の発進準備が完了した事を伝えてきた。
「久方の海か‥‥あやつ、まさか船から落ちたりはせぬじゃろうな」
 モニター越しにデッキの天井を見つめながら、桜は金槌の友人を思い起こしていた。溺れられても困るのだが、と眉を潜め‥‥ふと、全身ずぶ濡れでぴるぴる震える友人の姿を想像してしまい、その表情を苦笑に変える。
「1番機、発進許可」
「了解。綾嶺桜、ビーストソウル、出るのじゃ」
 振動が伝わり、ロックが外される。ワイヤに吊るされた機体が整備用リフトを滑り降り‥‥桜機は、艦尾の発進口より海へと進入した。

「マンタと海で戯れる‥‥これだけ聞くとバカンスっぽいんだけどなぁ」
 空母『エンタープライズIII』の格納甲板、舷側エレベーター前。せり上がる昇降機の向こうに広がる、陽光煌く南国のビーチとは対極的な、曇天広がる極寒の北太平洋──
 小雪混じりの潮風が風防を叩く現実に、防寒具を重ね着してモコモコになったヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)は苦笑した。
 その昇降機上のKVのコックピットでは、響 愛華(ga4681)が油汗を垂らしながら、ごくりと喉を鳴らしていた。
 せり上がるにつれて視界に広がっていく海原。久しぶりの海の上、やっぱり慣れれそうにない‥‥阿修羅の尻尾がヘタリと垂れる。
 ふと、足元に仕舞ったお弁当箱が目に入った。桜が作ってくれた手作りのお弁当だ。そのシンプルだが可愛らしい包みを見た瞬間、愛華の緊張は嘘の様に解けていた。
「‥‥そうだね。泣き言は言ってられないよ。落っこちちゃっても、桜さんがきっと助けてくれる‥‥‥‥よね?」
 一方、愛華機の隣りに立つシュテルンは、倣岸と腕を組み、背を反らせた姿勢で、遥か水平線を睥睨していた。同様のポーズをとった阿野次 のもじ(ga5480)が爛々と瞳を輝かす。
「ふっふっふっ。来るべきWAM世界大会に向けて、丁度良い肩慣らしになるわね‥‥」
 昇降機が上がり切ると同時に、ぶわさっ、とレッドマントを翻し、じゃきぃ〜ん! と物凄くカッコイイポーズ(本人談)をキメる。横で愛華機がびくぅっ、と身を震わせた。
「『荒ぶる堕天使のポーズ』、Act.1! さあ、どこからでも来るが良い、びっくりひょっこりマンタどもよ!!!」
 どおぉ〜んと響き渡る謎の効果音。直後、足元に来た甲板員の「邪魔だよ、嬢ちゃん」のツッコミに、「あ、すんません」と普通に移動する。
「‥‥いったい、何をしてるんでしょうね」
 先に飛行甲板に上がっていた春風霧亥(ga3077)がきょとんとした顔でそれを見る。隣りの仮染 勇輝(gb1239)が力なく笑い‥‥センサーの電子音にその表情を引き締めた。
「来たっ‥‥! 敵機多数、船団へと接近中!」
 ノイズが走るレンジに光る光点。その勇輝の声を聞きながら、霧亥は一度、東の空を振り返った。


「愛華、母艦にデータ送るぞ。リンク頼むぜ」
「‥‥‥‥データリンク、確立。これで、空中と海中、敵の位置情報を共有できるんだよ!」
 我斬の索敵情報が空母のCDCで統合され、リンクした各機のモニターに映し出される。海中移動で防空線をすり抜け、空中へ飛び出す事で水中KV部隊を突破した敵マンタワーム集団は、部隊ごとに散開して船団へと襲い掛かった。
「左舷より敵ワーム2個小隊、突っ込んで来る!」
「‥‥極東ロシアへ送る大事な援軍と物資です。何としても、沈めさせるわけにはいきません」
 霧亥機が逆手に持ったディフェンダーを甲板に立て、高分子レーザーを海へと向ける。甲板上で膝射姿勢を取るヴェロニクの翔幻と勇輝のR−01は、敵が最大有効射程に入ると同時に狙撃砲による攻撃を開始した。
 砲声と共に飛び出した2発の砲弾を、しかし、敵は余裕をもって回避する。リロード、そして、再攻撃。距離的に命中は期待できないが、それでも全く当たらないわけでもない。
「来た来た来た来た射程内っ! れっつ! しゅーてぃんぐ♪」
 腰だめに構えた120mm対空砲をのもじ機が撃ち放つ。甲高い砲声が連続で鳴り響き、敵機周辺に爆煙の花が咲く。直撃に揺れる敵。だが、3機の砲撃を掻い潜って敵はなおも接近し、フェザー砲による攻撃を開始した。
 放たれた紫色の怪光線が頭上を切り裂く。この距離では敵火力の方が優勢だった。次々と撃ち放たれるそれを甲板上で回避する。隊列が乱れ、敵はその隙に防衛線を突破しようと突進する。
 ゆら、と海面が盛り上がり、海面から3機のビーストソウルがその半身を飛び出させた。非水中用装備を保護していた防水カバーが弾け飛び、各機が保持するガトリングやレーザーが露わになる。
「水空両用ったって、結局はどっちつかずの半端モノ。特化機体の底力、見せてやるぜ!」
 我斬の声に呼応するように、桜機、ゴールドラッシュ機が海上からガトリングとレーザーを雨霰と撃ち上げる。敵の前進に合わせて投げ掛けられる火線の網。それを食い破るように突進してくる敵マンタをヴェロニクはひたすらに狙撃し続けた。直撃を受けた敵がレティクルの向こうで大きく姿勢を崩す。それは態勢を立て直す間もなく火力の網に捉えられ、砲弾に撃ち砕かれて爆散した。
「よし!」
 もこもこの拳をグッと握る。尚も接近する敵を無視し、さらに奥の敵に照準する。自分の得物は長距離砲だ。突破した敵は、きっとみんなが何とかしてくれる‥‥
 膝射姿勢を崩さぬヴェロニク機に、接近した敵機が砲口を向ける。だが、そこは敵にとって死の領域だった。
「やらせはしないと言ったでしょう!」
 霧亥のアンジェリカが放った光線砲が、続けざまにその敵を貫いた。小爆発を起こしつつも、反撃の剣を投げ掛けるマンタ。そのフェザー砲による反撃を甲板上を疾走して回避する。
 追撃を行おうとするマンタワームの『翼』を、反対側から放たれた光の槍が貫いた。レーザーに武装を変更した勇輝機が敵を撃ち据えたのだ。
「吹き飛べ!」
 叫びながらさらに一撃。火を吐く敵に敵に霧亥が砲撃して止めを刺す。
 その間に艦尾方面をすり抜けようとした敵は、甲板上を走り寄った愛華の阿修羅が捉えていた。センサーで敵味方の動きを見ながら、もっとも火力の弱い場所に回り込んでいたのだ。
「この先は通さないんだからねっ!」
 艦尾甲板の端っこから、眼前を通り過ぎようとするマンタに両肩のガトリングを撃ち放つ。未来位置を予測して放ったそれは敵を続けざまに撃ち据えて‥‥敵は破片を撒き散らしながら爆煙を棚引かせ、海上へと落ちていく。
 ドンッ、と腹に響く轟音と水柱。結局、初回の攻撃で敵は5機を失い、3機が損傷を受けて去っていった。
「1stステージクリア、ってとこかな」
 アイキャッチのポーズは何にしようか悩むのもじ。第2波接近を報せる警報が鳴り響いたのは、それからすぐの事だった。


 第2波攻撃は、ミサイル兵装による長距離攻撃をもって行われた。
「ぬぅっ! 射程距離を見切られた!?」
 焦りの声を上げながら、のもじが対空砲で迎撃する。敵は決して単位距離20以内には立ち入ろうとせず、ミサイルを撃ち放つと一斉に回頭して離脱していく。狙いは『回避』できない艦艇群だった。
 白煙を尾に引きながら迫るミサイルの群れ。それを各艦のファランクスが迎え撃つ。この嫌がらせのような攻撃は、輸送船と護衛艦の一部に被害を出したものの、やはり決定的な打撃力に欠けていた。
「初めから纏まった数のミサイル搭載機が来たら、危なかったかもしれんがな」
 エンタープライズIIIのCDCで艦長が呟く。つまり、この攻撃は敵が集結するまでの時間稼ぎに過ぎず‥‥センサーに映る敵はその数を増しながら、防衛線に迫りつつあった。


 第3波攻撃は、飽和攻撃を企図して行われた。即ち、防御側が対応できる以上の戦力を一度に投入して打撃を与えるという、ある意味、分かり易いものだ。
 敵は戦力を集中しての一点突破でそれを図った。敵の配置でそれを察した船団司令部は、最大戦力である空母(その上に乗るKV隊)を防衛線の内側に急派した。

 空中から再突入したマンタの群れが、白く気泡を纏いながら海中へと突っ込んできた。
 そのまま水の中を進行する敵集団。桜はそこへ水中用狙撃砲を撃ち放った。
「まったく、うじゃうじゃと! もぐら叩きはよいが、パーフェクトを出さねばならぬもぐら叩きとはっ!」
「あれがモグラ? 冗談。あれはモグラっていうよりハンマーでしょ!」
 答えながら、ガウスガンを撃ちまくるゴールドラッシュ。直撃した弾体が次々と敵の装甲を貫き通し、激しく気泡を撒き散らす。
「ほら、さっさと逃げなさい!」
 今まではそれで退散していた。だが、今度は一向に退きもせず、フォースフィールドを煌かせて突っ込んで来る。
「水中用武装も無いくせに!」
 その体当たりによる攻撃を、ゴールドラッシュは交差させたツインジャイロで受け凌いだ。そのまま滑らすようにして、反撃のドリルを突き入れる。
「俺が敵なら、空を囮に水中から船に体当たり、位は当然やる。だが、それはさせねぇぜ」
 ガウスガンを連射して頭を抑えた我斬機が、急接近してドリルを突き込む。水中に飛び散る火花。装甲を破られたマンタが激しく気泡を撒き散らしながら沈降する。そのすぐ脇を突っ込んで来る敵ワーム。我斬は舌打ちしながら迎撃の構えを取り‥‥だが、それは急に空へと向かって飛び出した。
 敵は、水中と空中を交互に行き来する事によって、受ける迎撃を最小限に、やりすごしにかかったのだ。
「だが、水から出る瞬間ほど、読み易い機動はない!」
 夥しい水を飛沫に空中へと飛び出したマンタを、勇輝が狙撃砲で狙い打つ。リンクしたセンサーを冷静に見れば、飛び出す瞬間を狙撃する事も可能なのだ。
 火を吹き、ガクリと速度を落とした敵が、再び海中へとダイブする。「行ったぞ!」と水中班に報せる側から浮かび上がってくる別マンタ。そちらへ素早く砲口を向けながら、勇輝は悪態を付いていた。
「ったく! 潜るのか出るのかどっちかにしろよっ!」
 掠め飛ぶ砲弾に機体を傾かせる敵。それを追って『飛び出して来た』桜機が、なんとレーザークローでそのマンタを斬りつけて叩き落とした。激戦の最中、おー、と上がる歓声。応える間もなく、桜機は海中へと沈み込む。

 イルカのような敵の動きは、3機のビーストソウルを水中戦に拘束した。
 その上で、本命の敵が──低空を飛翔するマンタの編隊が高速で突っ込んだ。
 勿論、イルカ機動を繰り返す敵も放置するわけにはいかない。そして、何よりも、落とさねばならぬ敵の数は多かった。

「ある程度、ミサイルは仕方ない。でも、マンタだけは突破させてはいけません!」
 飛来したミサイルをディフェンダーで斬り受けながら、霧亥が叫ぶ。ミサイルならば、被害は一度。だが、ワームに突破されれば損害は1隻に留まらない。
 ミサイルを放った遠距離の敵は無視し、勇輝機と十字砲火を形成するようにレーザーを放つ。光の刃で輪切りにされ、爆散した敵機の破片が甲板に当たって跳ねた。
「ぐるるるるっ! 焼きマンタにしてあげるんだよ! 入れ食い状態で大漁だよ〜!」
 2門のガトリング砲から白煙を上げながら、愛華の阿修羅がC−0200ポッドからミサイルを一斉に撃ち放つ。肉薄していた敵に無数の小ミサイルが襲い掛かり、瞬く間に爆煙で包み込む。その弾幕を突破してくる敵。愛華機はクルリと身を回すと、振り回した尻尾の先端を突き刺して放電で敵を焼く。
「これが、最後!」
 狙撃とミサイルの同時攻撃をするヴェロニクが、最後のミサイルを発射した。直撃を受け、きりもみで墜落するマンタ。その横を、新たな敵が突進する。味方の援護は最早ない。
「今度こそ‥‥今度こそっ、守って見せます、絶対に!」
 超低空、甲板上をフライパスしようとするマンタワーム。その進路上へ、ヴェロニクは機体を突っ込ませた。フォースフィールドが煌き、突進をまともに受けた翔幻の装甲がひしゃげて砕ける。弾け跳ぶ風防。金属音と破砕音は、自らが発した悲鳴を掻き消した。
 だが、同時に、マンタもその突進を阻まれて甲板上に叩き付けられていた。ぴちぴちと機体を揺らしながら浮上しようとする所を霧亥機が蹴り踏み、勇輝機が能力使用のディフェンダーで刺し貫く。
「みゅんみゅんみゅん、とぅっ! 待たせたな、兄貴ぃ!」
 朦朧とする意識の中で、ヴェロニクはその声を聞いた。アニキって誰? とツッコミを入れつつ、上空を舞うシュテルンを曇天に見出す。対空砲の補給を終えたのもじが、エレベーターが上がるのも待たずに垂直離着陸能力を用いて飛び出したのだ。
「受けるがよい。これが究極☆名古屋撃ちDADA‥‥」
 砲弾を撃ち下ろしながら甲板上へと着地したのもじ機が、機を横滑りさせながら、機体各所のバルカンで眼前の敵を撃ちまくる。
「‥‥名古屋? なんで名古屋? ここって北太平洋じゃ‥‥」
 ヴェロニクの、至極真面目な天然ボケに、霧亥と勇輝は、やっぱり頭を打ったのか、と互いに顔を見合わせた。


 水中用KVの本隊が戻って来る事で、ようやく敵の攻勢はストップした。
 護衛艦船、および、ミサイル攻撃を受けた輸送船に被害が出たものの、船団はその大部分の戦力を保持したまま、予定通りオホーツク海へ向かっている。
「ふぃぃ〜、長い戦闘だったぜ。腹減った〜」
「わふぅ〜‥‥私もこの子もお腹ぺっこぺこなんだよ、桜さぁ〜ん」
 食堂への道を急ぐ能力者たち。要撃に出ていた防空隊が、迎撃を終えて戻ってくる。食堂が混み合う前に、食事を済ませておくのが吉だった。