タイトル:リッジウェイ改良計画案マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/14 00:49

●オープニング本文


 養子に出した我が子と久方ぶりに再開する親の気分というのは、こういったものなのだろうか。
 紆余曲折を経てようやく実戦投入が開始されたLM−4『リッジウェイ』を見上げながら、ドローム社第3KV開発室長ヘンリー・キンベルはそんな事を呟いた。
 まだ結婚もしていないのにな、と苦笑する。リッジウェイは元々、ヘンリーたち第3KV開発室が発案・試作していたKVだ。社の方針により開発が他に移され、実機は当初のコンセプトとは異なる機体になったが‥‥確かに、ヘンリーにとって我が子のようなものに違いない。
「装軌型車両ではなく、装輪4脚半人型を選択したのか‥‥巡航速度と不整地走破能力のバランスは試作機よりも優れているな」
 渡された資料を捲りながら実機の下へ潜り込む。‥‥新機軸を取り入れつつも整備性に配慮された機体構造。同じ技術者の視線から見ても、優れた設計が成されているのはすぐに分かった。
「だが、正規軍の評価は高いものの、傭兵たちの評判はよろしくない」
 企画部のモリス・グレーが、整備用のキャットウォークに背を預けながら欠伸混じりの声を出す。
 そりゃそうだろう、とヘンリーは言ってやった。
「1.戦闘時、他のKVに追随できない。
 2.『ライトニングクロー』を前衛で活用するには行動と移動が足りない。
 3.『試作型高性能照準装置』を以って砲撃支援機とするには命中率が不十分。
 4.防御特化機として壁役にするには抵抗が致命的に低すぎる。
 5.何より、飛べないのに価格が高すぎる。
 ‥‥元々、汎用性を二の次にした特化機ではあるが、これではあまりにも使い辛い。産みの親としては『一体、どんな育て方をしてくれたんだ』と文句の一つもつけたくはなる」
 機体の下から身を出して、ヘンリーはモリスを軽く睨んでやった。この同期の出世頭は、ヘンリーからリッジウェイを『取り上げた』張本人でもある。
 当のモリスは涼しい顔でその視線を受け流した。話が早い、と笑ってみせる。
「この機体の改良を3室に任せたい。上の了解は取ってある」
 モリスの言葉に、ヘンリーは目を見開いた。幾許かの葛藤に揺れながら、装甲の表面を手でなぞる。
「‥‥‥‥無理だ。今は新型機の開発で手一杯だ」
 知っているだろう? と無精ひげの生えた顔で問い返す。勿論、とモリスは答えた。
「研修を終えた今期入社の新人‥‥たしか3室には3人が配属されたよな?」
 そういうことか、とヘンリーは理解した。
 リッジウェイを『教材』に、新人たちにKV設計の『シミュレーション』をさせようというのだろう。
「結局、最後は俺が面倒を見なきゃならなくなるじゃないか」
 本望だろう? とモリスが笑った。

 結果として。彼等の『予想』は、良い意味で完全に裏切られる事になる。


「リッジウェイが使い難い最大の理由は、一部の極端に低すぎる能力です。行動能力と命中性能、非物理防御力をある程度高めてあげれば、随分と使い易くなると思います」
 新人技術者、リリアーヌ・スーリエが幾許かの緊張と共に自案を発表する様を、ヘンリーは微笑ましく思いながら見守った。
 自らの新人時代を思い出す。モリスと自分、そして、ルーシー。大学時代の同期3人が揃ってドロームに入社して‥‥いや、ルーシーは途中入社だったか。そうだ、ルーシーは実家の、たしか‥‥
「志が低すぎる」
 涼やかに響く怜悧な声が、リリアーヌの提案とヘンリーの思考とを断ち切った。
 同じく新人のハインリヒ・ベルナーだ。こちらを見るその視線に呆けていた事を咎められたような気がして、ヘンリーは咳払いを一つした。
「幸いリッジウェイは拡張性が高い。自分ならば、設計を大幅に変更した総合的な能力向上をしてみせます。照準装置をS−01Hから流用する等、これまでに開発された新たな技術を積極的に導入。さらに、機体特殊能力として兵員室のパージを可能に‥‥」
「それは無理だ」
 ハインリヒの言葉を、今度はヘンリーが遮った。
「無理? 自分にはその技術がないと?」
「ああ、そういう意味じゃない。ただ、当たり前の話だが、KVの開発には(勿論、改良や生産もだが)予算が必要になる。未だ実用化されてない技術も然り。そういった予算や技術の壁を超えて、何もかもを手に入れる事はできない」
 ヘンリーの言葉に、ハインリヒはむ、と唸った。自案を記した書類をジッと見つめて‥‥素直な目つきでこちらを見る。
「‥‥つまり、ある程度は改良の方針を絞り込む必要がある、と?」
 その通り、と頷きながら、ヘンリーは意外な思いでハインリヒを見やった。秀才型の人間には自論へ拘泥する者が多いが、この若者はそういった悪癖と無縁らしい。
「それと、機体特殊能力は、SESエンジンといった機体の設計段階から関わっている、機体の機構そのものに依存している能力だ。端的にいうと『リッジウェイに関しては、特殊能力の追加や交換はもう出来ない』」
「‥‥となると、まずは(行動力3)を目指すべきか。行動能力の低さが諸悪の根源だから」
「‥‥そうかなぁ」
 どこか間延びした呑気な声が、ハインリヒの言葉をやんわりと否定した。それまで一言も発していなかった最後の新人、アルフレッド・ノーマンだった。
 ハインリヒがそれと分かるように明快に舌を打った。また少し意外な思いで、ヘンリーはそれを見た。
「行動力は移動と攻撃の基本だ。明白だろう!」
「普通の機体なら確かに。でも、リッジウェイには高性能照準装置があるから。例えば(移動力5)が確保できるなら(行動力2)でもいいかな、って」
 そう言ってはにかみながら、アルフレッドは一枚の紙をテーブルの中央に差し出した。
「研修中にチラッと見た資料の中にありました。60mm長砲身リニアキャノン。消費電力の余りの大ささに試作段階で開発が中止されたKV用の磁力砲です。でも、リッジウェイが使う分には使用に耐え得るかな、と」
「‥‥こんなもの、よく覚えていたな」
「開発陣は他の仕事に移ったそうなので、マッチングと改良は僕がやります」
「‥‥!?」
 アルフレッドの言葉に、その場にいた全員が──3室の人間全てがその身を凍らせた。
 3室はKVの開発室だ。配属される人間もKV本体の開発畑を歩いてきた人間となる。そして、KVの武装開発は畑違いの分野であり‥‥しかも、自らが開発に参加してもいない武装を『改良』するなど、余程の天才かバカでなければ口には出来ない。
 そして、そのようなバカは、決してドローム社の開発室に配属されはしないのだ。
「あ、そうだ。特殊能力ももう少し使い易く弄りましょう。内臓特殊爪、あれ、もう少し展開を早く出来ますね。高性能照準装置は‥‥地上専用機ですし(距離修正半減)でも目指しましょうか?」
 かつて自らも天才と称され、30代という若さで開発室を任されたヘンリーだが。
 その彼をしても、この若き才能には戦慄を禁じえなかった。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
三田 好子(ga4192
24歳・♀・ST
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
ロレンタ(gb3412
20歳・♀・ST

●リプレイ本文

 ドローム・ラストホープ島支社、第4会議室。
 『リッジウェイ』の改良を担当する第3KV開発室の若き新人3人は、幾分か落ち着かぬ様子で、現場の声を聞く為に集められた能力者たちを待っていた。
 無理もない、とヘンリーは苦笑した。彼等にとっては初の仕事であり、恐らく実際に能力者と会うのも初めてのはずだ。
 ピッ、と電子音がして部屋のロックが解除される。緊張に身を硬くする新人たちの前に、モリスに案内された能力者たちが室内へと入ってきた。
「おぉっ!? 新しい顔がいっぱいさぁ!」
 新人たちに気付いた御影 柳樹(ga3326)が真っ先に3人に小走りに駆け寄った。巨漢の柳樹に迫られて顔を青くする新人たち。柳樹はそれに構わず、人好きのする笑みを浮かべて手を取ると、ぶんぶんと振りながら挨拶した。
「いやー、みな有望そうな顔してるさ。これなら3室も安泰さぁ」
 嬉しそうに言いながら、鞄の中から各種飲料(検査済証付)を取り出してテーブルの上に並べていく柳樹。その言葉に顔を曇らせるハインリヒの姿を横目で見ながら、寿 源次(ga3427)とリン=アスターナ(ga4615)はヘンリーへと歩み寄った。
「お招き頂き光栄だ。こんなに早くリッジウェイの改良案が出るとは思わなかったぞ?」
「間違った方向に進みかけた息子を正しい道に戻すのも親の役割‥‥かしら?」
 苦笑混じりに差し出された二人の手をヘンリーも同じ表情で握り返す。源次は、小脇に抱えた箱から1/24リッジウェイモデルを取り出すと、それをテーブルの上へドン、と置いた。もうそんなモデルが出てたのか、と感心するヘンリーに、「フルスクラッチだ」と源次がニヤリと笑う。
「‥‥リッジの運用実験に参加してもう1年近く。随分と待たされたけど、無事発売されて、今では地味だけど戦場に欠かせない機体になってる。開発に関わった身としては感慨深いわね」
 咥えた煙草をスーツの胸元に戻しながら、リンが口元を小さく綻ばせる。もっとも、色々と使い難い部分があるのも確かだけど、と冗談交じりに付け加えられた言葉に源次とヘンリーは顔を見合わせ苦笑した。まったく、返す言葉も無い。
 そんなヘンリーを遠目に見やりながら、三田 好子(ga4192)は呟いた。
「あの人がリッジウェイの、私の愛機の生みの親‥‥そして、この支社こそが、あの子の育った『子宮』というわけですか」
 感慨深く息を吐く。『リッジウェイがあれば必ず生きて帰れる』。そう思われる子に育って欲しいと改めて思った。
 リッジウェイという機体の為にも、そして、現場の兵士の為にも。


 全体の方向性は、話し合いを始めて2分もしない内に纏まった。
 ロレンタ(gb3412)が、リッジウェイの運用実績を纏めた資料を配り終えるよりも早かった。
「予算に限りがある以上、用途を絞った方が使いやすい機体になると思います。もともと兵員輸送の為に開発されたのですから、支援機としての性能を高めるべきではないでしょうか?」
 以前と同じ席に座ったクラリッサ・メディスン(ga0853)がそう呼びかけると、皆、積極的に賛同した。
「戦闘能力より、生存性を優先させた方がいいわ」
「実際に使っている立場としては、兵員輸送という本来の使用目的に沿った使い勝手の向上を望みます」
 ラウラ・ブレイク(gb1395)と須磨井 礼二(gb2034)が自らの意見を述べる。源次も頷いた。
「自分は移動と密林での人員救助でリッジウェイを実際に運用したが‥‥兵員室の使い勝手はダントツだな。医療室や緊急避難所として大活躍だった」
「そうね。大規模作戦等でも、最近は救急車代わりに使う人たちが増えてきているみたいだし」
 源次とリンの言葉にヘンリーは苦笑した。元々は歩兵戦闘車型として企画したんだよなぁ、とぼんやりと考える。兵の安全の確保には、輸送中の安全は勿論、歩兵が展開した区域にワームが存在した場合、それに対抗し得る能力が必要になる、とヘンリーは考えていた。でも、まぁ、能力者にKVの使用許可が出る状況でそのような事態はめったに起こり得ぬだろうし‥‥それに、兵器の歴史を紐解けば、予定とは異なる使い方が主として定着するのもよくある事だ。
「他社で戦車型も開発しているそうですし。戦う事よりも確実な輸送をする事が、この子のあるべき姿だと思います」
 源次のモデルを撫でながら好子が言った。どことなく寂しそうなヘンリーに気がついて、勿論、高い戦闘能力があるに越したことはないですよ、と付け加える。
 気にしないでいいよ、とヘンリーは片手を振った。予算が潤沢でない事はヘンリーが一番よく分かっている。
「戦闘能力を削ってでも、足回りと防御面‥‥特に『抵抗値』の強化を優先して欲しいわね」
 激戦地に駆けつけ、負傷者の盾となり、安全に後方へと移送する、歩兵にとって頼れる相棒。リッジウェイにはそういう存在であって欲しい。
「同感だ。装甲や駆動系をより高性能な物へ換装し、他は安価な部品に変えるのが現実的かな」
「そうね。移動系の能力と『抵抗』は最優先にすべきと思う。『知覚』と『回避』を削って‥‥なんなら『ライトニングクロー』をオミットしてでも」
 リンの言葉に、ラウラとクラリッサも同調した。その内容にヘンリーは「ん?」と首を傾げる。
 礼二は一人、首を捻った。
「『回避・知覚』は確かに中途半端ですね。ただ、『抵抗』は‥‥常時必要でもないと思うんですよね。歩兵の展開と収容、敵陣への突撃等、どうしても隙を見せざるを得ないない時だけどうにかできれば‥‥アル君、使用制限つきでいいから『翔幻の幻夢+一時的に抵抗アップ』みたいな装備、作れないかな?」
 ちょっと待ってくれ、とヘンリーが声をかけるその前に。ハインリヒが能力者たちの話し合いを止めていた。
「申し訳ありませんが、今回の改良はあくまで既存機の設計を前提とした改良です。能力値の『改良』は出来ても『修正』はできません」
 それがヘンリーに与えられた権限の限界だった。設計の見直しはヘンリーも考えたが無理だった。リッジウェイに関して、3室は常に後手を強いられる。
「特殊能力の付与・交換は勿論、オミットも出来ません。そして、礼二さんの提案された装備案は、特殊能力の範疇に入ります」
 小憎らしい程に毅然とした態度を示すハインリヒ。その後ろでアルフレッドが済まなそうに、礼二に頷いた。
「そうなんですか‥‥」
 好子がしょんぼりとうなだれた。テンタクルス改のホバーを装着する案や、他室の『試作型装備実験』に出てたピンポイントフィールドを乗っける案や、水中対応案などを提案するつもりだったのだが。ばしゃばしゃー、と水面を駆けるリッジウェイはとても可愛いに違いないのに。
「では、機体の方で『抵抗』を上げるしかないですね」
 苦笑しながら礼二が折れる。ありがとうございます、とハインリヒが頭を下げた。

 方向性は素早く纏まったものの、各論での方針は意見が分かれた。
 もっとも大きな齟齬は、『移動・行動』に関するものだった。
「ノーマン氏の案に大筋で賛同します。移動力を重視し、行動力にはこの際、目を瞑りましょう」
「私も、アルフレッド君の『行動2・移動5』案を支持するわ」
 クラリッサとリンの言葉にラウラも頷いた。様々な攻撃に耐え、逃げられる機体が望ましい。
 逆に、礼二とロレンタの2人は『行動力3』の優先を主張した。
「『行動3』は欲しいですね。2では少なすぎます。便利なリロード兵装の使用すら躊躇してしまいますし」
「華より実、先鋭化よりも汎用性。KVは戦場を選ばない万能性に注力すべきと思います。使い勝手を考えれば、『行動3』の方がいいかもしれませんね」
 各人の意見をPCに打ち込みながら、ロレンタが礼二の案をフォローする。
 できれば他の能力を押さえ気味にしても『行動3・移動4』が欲しい所です。そう語る礼二に、ハインリヒは難しい顔をした。確かに、他の全てをかなぐり捨てれば『行動3・移動4』も可能かもしれないが、既に抵抗を上げる事は決まっている。
 結局、『行動』を2とするか3とするか、最後まで結論は出なかった。どちらの意見も過半数を占めるまでには至らなかったからだ。
 最終的に、能力値でもっとも優先すべき、とされた『移動・行動』に関する話は、ヘンリー預かりで持ち越された。結果を社の上層部に報告し、何らかの結論を仰ぐ事になるだろう。
 同様に、『命中』に関しても若干、意見の相違が見られた。
「支援機と割り切るならば、高性能照準装置の改良は十分に役に立つと思いますわ。そして、それを活かす為にも『命中』の底上げは必須です」
 命中も重視して強化しようと主張するクラリッサの言葉に、ロレンタも頷いた。砲撃支援を視野に入れるなら、多少の先鋭化もやむを得ない。
「でも、素の『命中』を上げれば照準器って要らなくないですか?」
「予算に対する上昇係数が違う。逆に私は『命中』は照準装置の強化で実現すべきと思う。機体のFCSはアクセサリで補助も可能だし、特殊能力の距離修正半減を用いた特徴的な命中率向上が望ましいわね」
「僕も、距離修正半減が実現出来るなら『命中』は据え置きでもいいです」
 ラウラの言葉に礼二も頷く。でもなぁ、と源次は腕を組んで唸りを上げた。でも素の命中が低いと、盾による受けもやり難くなるんだよなぁ。
「ともかく、命中もある程度は必要という事では概ね一致してますね? では、機体能力関係は、上層部預かりの移動・行動、抵抗、命中を上げるという方向でよろしいですね?」
 機体能力担当のハインリヒが話を纏める。まだ若いくせに、溜め息のつき方が堂に入っていて生意気だった。

 続けて、特殊能力・機体装備担当のアルフレッドが前面に出た。
「えーと、照準装置は改良を進めるという事で‥‥ライトニングクローについては何か?」
 訊ねた瞬間に文句が山ほど出た。
「使い辛い。あれなら普通に攻撃した方が有意義に思えた」
「人型へ変形もしなくちゃいけないから、起動に要する時間は短縮されると嬉しいです」
「現状ではこの能力を使う事はないわね。コンデンサ容量を拡張して『『行動』消費でエネルギーをチャージして威力を上げれる』位はしないと」
 源次、礼二、ラウラが続けざまに不満点を洗い出す。アルは何となく泣きたくなりながらも、即座に脳内で方向性を決定した。
「起動時間は短縮します。ラウラさんの方式にまで変更してしまうと『別能力』扱いになってしまうので難しいです。コンデンサ容量の拡張は、何とか形にしてみます。‥‥他には?」
「『60mm長砲身リニアキャノン』は支援機なら必須となるでしょう。可能ならば、私も自分の機体で使ってみたいと思いますし」
 クラリッサの言葉にロレンタも頷く。その期待にアルは乾いた笑みを浮かべた。元々は開発が中止された兵装だ。一応、他の機種でも使えるが、リッジ以外の機種で使い易いと言えるかどうか‥‥
「元々、この機体に攻撃兵装は重要じゃないと思うのよね。多連装の煙幕とか閃光弾とか、支援兵器を充実させた方が戦術の幅が広がると思う」
 ラウラの案。アルは頷いた。現状の煙幕弾は遠距離兵装‥‥地上でも使える物を考案しないと。
「以前、リッジには補給物資や予備燃料、弾薬が積めるって聞いたんだけど、機体アクセサリには出来ないかしら」
「キャビン外装に兵装輸送用のハードポイントを付けれない?」
 リンさん、了解です。考えておきます。ラウラさん、それは兵装数に関する案件となってしまいそうです。移動力を上げる為に諦めなければならない部分です。
「装備、といえば、リッジには構造上扱えない武器とかあったりするさ?」
 柳樹の問いに、アルは首を横に振った。基本的に他のKVと同じだ。地上で遠距離兵装は使用できず、人型でしか白兵武器は使えない。‥‥まぁ、背中は他機種よりごちゃごちゃしそうではあるけれど。
 ロレンタがプリントアウトした資料を早速受け取り、何かを書き込み始めるアル。もう回りは何も見えないようで、仕方なく、各種能力以外の部分を担当するリリアーヌが後を継いだ。
「試作機の『ヘッジロー』は無理かもしれないけど、マニピュレーターを強化して、重い瓦礫の除去や土木作業を出来るようにして欲しいさ。出来れば4脚でも武器が振り回して敵をぶん殴られれば嬉しいさぁ」
「え〜と、柳樹さん、でしたね。4脚時の腕はパワー重視の作業用、車で言えば1速ですね。土木作業はドンと来い、です。ただ、その為に格闘戦は不得手だそうです。これは機体構造上、あと大人の事情で変更できないそうです。ごめんなさい」
「じゃあ、大破したKVの牽引とかできる?」
「はい、リンさん。抱え上げた腕部を固定して引っ張れば、KV1機の牽引(輸送に非ず)位は出来るそうです。何せリッジは重いですから」
「一般人を乗せてのブーストは?」
「ラウラさん。能力者ならともかく、現状、一般人ではブースト機動には耐えられません」
「一部、装輪では厳しい地域もあった。正規軍相手の商売なら、キャタピラに換装できてもいいかもしれん」
「えーっと、源次さん。それは3室では判断できませんので、後ほど社の上層部に掛け合ってみますです」

 ‥‥‥‥‥‥。
 ‥‥‥‥。
 ‥‥。


「さて、話し合いも終わって、そろそろご飯の時間さ? この後、新人さんの歓迎会も兼ねて、外で鍋の用意をしているんさぁ。腹ペコわんぱく盛りだろうから、今日はちりとり鍋にしてみたさ。牛肉に豚ホルモン、ミミガー‥‥お肌の美容と健康に嬉しいコラーゲンもたっぷりさぁ!」
 夕方まで続いた会議が終わり、柳樹が打ち上げの食事会を提案した。
 美容とかコラーゲンとかの言葉に女性陣の目が光ったり光らなかったり、いつの間にか紛れ込んでたルーシーがリリーを積極的に誘い出す。アルフレッドは鍋というものに興味を持ったようだった。
 自分は遠慮する、とハインリヒは一人、断った。
「自分にも、3室にも、そんな時間はないはずです。そんな事をしてるから‥‥!」
 言いかけて言葉を呑みこむハインリヒ。その肩を源次はポンと叩いてやった。
「場末の開発室というが、そんな場所だからこそ最高の技術が集まることもある。少なくとも、俺はここでヘンリー・キンベルという男と出会い、リッジウェイという相棒に得る事もできた‥‥状況をどう活かすかは、君たち次第だ」
 気合いを入れるように背を叩く。咳払いをするハインリヒの横に、いつの間にかアルとリリーが横に立っていた。
「じゃ、行こうか、相棒」
 両脇から腕を取られる。そのままハインリヒは引きずられる様に鍋会へと連れられて行った。
 それを温かい目で眺めながら、ヘンリーは傍らのモリスを振り返った。
「俺たちも行こうか、『相棒』?」
 ニヤリと笑ってみせるヘンリーに、モリスはフンと鼻を鳴らした。