タイトル:【AW】大西洋の群狼マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2008/11/25 17:15

●オープニング本文


●エミタ・スチムソン捜索
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 エミタ・スチムソンが北米にやってきたというニュースはUPC北中央軍にとってはまさに寝耳に水の危機であった。
 突然のエミタ・スチムソン来訪に、UPC中央軍はシェイドの詳細位置補足を現在まで行えていない。
 直前までの追尾と、独自の情報調査により、フロリダ南端の旧メトロポリタンX北部、バグア基地に存在するものと思われる。
 大西洋から旧基地上空まで赴き、撮影、すぐさまきびすを返して撤退する危険な任務であるが、今後の新鋭機阻止網構築のため、諸君の活躍を期待したい。
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●【AW】大西洋の群狼
 フロリダへの偵察部隊を送り出したUPC大西洋軍第2艦隊は、一路東へ進路を取ると『尻に帆かけて』一目散にその海域からの離脱を開始した。
 アフリカ大陸、そして、北米および南米の東海岸を押さえられた今、大西洋はバグアの海と言ってもいい。敵に見つからず、偵察隊を発進予定ポイントへと送り届ける──艦隊に与えられた任務は、鏡の様に静かな水面にそろそろと釣り針を下ろす‥‥言ってみればそのようなものだった。
 だが、それもこれからが本番だ。
 静かだった水面には石が投げ込まれた。発進した偵察隊に気付けば、バグアはこちらへの索敵も開始するだろう。見つかれば幾重もの波状攻撃にさらされる。釣果は偵察隊次第であるが‥‥さっさと竿を上げないと垂らした釣り針ごと持っていかれかねない。
「ようやく戦列に復帰したかと思えば、再びこの様な危険な任務に投入されるとは‥‥大作戦の艦隊旗艦とは名誉な事だが、貧乏くじを引く巡り合わせなのかね、この艦は」
 第2艦隊旗艦・SES熱融合炉搭載型空母『エンタープライズIII』(CVS−101)の艦橋で、初老の艦長は軍帽を被り直しながらそんな事を考えた。
 以前の輸送任務の際には、艦内に大量の蟻型キメラを送り込まれた。重要区画に被害は無かったものの、艦内を『喰い破られて』穴だらけにされた挙句、その掃討にも何か不可解な理由で時間が掛かったとあっては、長期のドック入りも止むを得なかった。
 艦長として唯一の幸運は、艦の被害の割りに人的被害が著しく少なかった事だ。だが、その幸運も、修理後の訓練航海が短縮されての──練度の回復に時間が掛からなかったのだ──今回の作戦投入となれば、そう喜んでばかりもいられない。
「艦隊司令より全艦隊。我が艦隊は当初予定通り、0500時をもって進路を0−6−0に変更、偵察隊の回収予定ポイントへ向かう──」
 艦橋の通信士官より、エンタープライズIIIのCDC──戦闘指揮センターに籠もった艦隊司令の指示が報告された。警戒態勢にある戦闘艦の艦長に、のんびりと物思いに浸る時間は無い。
「艦長より全艦。これより敵との接触が予想される。対空・対潜監視を厳にせよ」
 艦内の緊張感が一段と高まる。それを目耳に拠らず肌で感じて、艦長はその表情をより引き締めた。
 上空で旋回していた早期警戒機が西へと散っていく。レーダーはバグアの妨害により役には立たないが、それぞれがジャミングを受ける『時差』である程度は敵の接近を感知できる。敵の数などの情報は掴めなくとも、今はそれが何よりも大事だった。

「ソナーに感。バグア水中用ワーム1個小隊と思しき水中推進音、艦隊前方に展開しつつあり──」
 対潜哨戒機がもたらしたその情報に、CDCに置かれた艦隊司令部は音もなくざわついた。目の前のモニターに、全艦隊でリンクし共用された情報が映し出されている。前方から対向してきた4機の水中用ワームが、艦隊の前方で縦列から横列へとその隊形を変えつつあった。
「接触を回避できそうか?」
「無理ですね。連中、こちらの頭を押さえるつもりです」
 たった4機で? モニターの光点を睨みつけながら、艦隊司令は不機嫌そうに口を歪めた。水中用KVの無かった1年前ならいざ知らず、僅か4機で空母戦闘群をどうこうできるわけはない。
 と、その目の前で。モニターに新たに4つ、光点が映し出された。
「新たに出現した水中ワーム1個小隊、先の小隊と合流しつつあり」
 なるほど。そういうことか。艦隊司令は敵の目的を察した愉悦の、自分たちの運の無さに自嘲の笑みを浮かべた。いや、運は良かったのか? 少なくとも往路で見つかる事はなかったのだから。
「全艦隊、艦隊進路0−3−0。対空・対潜戦闘準備。水中用KV部隊を出せ」
 艦隊中に鳴り響く警報のブザー。各砲門が開かれ、直衛機が高度を上げ始める。
 そんな中、水中用KVが運用出来るように改装された強襲揚陸艦『ホーネット』の飛行甲板には、格納甲板からエレベーターせり上がる、能力者たちの水中用KVがその雄姿を見せ始めていた。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
美海(ga7630
13歳・♀・HD
M2(ga8024
20歳・♂・AA
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
月影・白夜(gb1971
13歳・♂・HD

●リプレイ本文

 因縁の相手を探しに、憧れのあの人が敵地の空を往く。
 強襲揚陸艦『ホーネット』の飛行甲板に立つテンタクルスから遥かフロリダへと続く西の空を眺めやりながら、月影・白夜(gb1971)は手にした鉄菱勲章を握り締めた。
「みんな‥‥どうか無事で‥‥帰る場所はきっと護って見せますから」
 祈るようにして呟く。感情の昂ぶりが知らず覚醒を促し、想いを表すように銀狼の尻尾が静かに揺れる。
 それをすぐ横から見ていた綾嶺・桜(ga3143)は、友人・響愛華の犬耳尻尾を思い出していた。
「絶対に、無事に帰って来るんだよ‥‥!」
 心配そうに桜の頭を撫でた友人‥‥いや、『家族』の様な存在を想いながら、桜は胸元に忍ばせた御守りの存在を確認する。
「ふん‥‥言われずとも帰ってくるのじゃ」
 綻びかけた口元を締めなおし、誰にともなく呟いた。空には直衛に上がったKV編隊。愛華の岩龍もあの中にいるのだろうか。
「『ホーネット』より全機。発進許可。幸運を祈る」
 通信機のレシーバーが出撃の時を伝える。いよいよですね、と白夜が呟いた。
「では、行くとするかの‥‥綾嶺桜、ビーストソウル、出る!」
 甲板から伸びたエントリー用の張り出しから、能力者たちは次々と機体を海に飛びこませた。

 艦隊前衛として海中を行く2隻の攻撃型潜水艦。その黒い巨体はまるで鯨のようだった。
 その横を、アグレアーブル(ga0095)と鯨井昼寝(ga0488)のKF−14改が並ぶようにして通り過ぎる。前方の敵、最初に現れた4機のマンタワームは、針路を変えたこちらに合わせ、艦体の前方へと横列を移動しつつあった。
 やらせるわけにはいかない。センサーに映る敵影を淡々と目で追いながら、アグレアーブルは心中に呟いた。敵地への偵察は自分にも経験がある。生きた心地もしない中、情報を持ち帰る事のみをただひたすらにその身に課して‥‥。なればこそ、そんな彼等の働きに報いる為にも、必ず迎えに行かなくては。
「艦隊との相対位置固定。この辺りで敵を迎え撃つぞ、アグレアーブル」
「はい、隊長」
「優先すべきは敵壊滅ではなく、艦隊の進路の確保。いいな?」
「はい、隊長。‥‥でも、隊長はそれで我慢できますか?」
 しれっとした顔でそんな事を付け加えるアグレアーブル。無表情で、ただ純粋な疑問として訊ねるその言葉に、昼寝は苦笑混じりに苦り切った。覚醒の度に沸き上がる、全てを叩き潰したい破壊衝動‥‥だが、あんな弱敵、それだけの価値もありはしない。そう自分に言い聞かせる。
 そんな2人のKF−14の前に、桜と桐生 水面(gb0679)のRB−196が進み出た。計4機。積極的に前に出て敵集団を攻撃する遊撃班だ。
「さぁ、お仕事開始や。艦隊はきっちり守って見せるで」
「まずは前面の敵からじゃ。あれをどうにかせねば先へは進めぬ」
 後衛2機の援護が受けられる範囲で出来うる限り前へ出る桜機と水面機。前方から横列で艦隊へと迫る敵は‥‥しかし、戦闘の直前でその進路を変えた。
「逃げる、じゃと!?」
 針路を反転した敵は、KVを迂回するように大きく弧を描く。その旋回半径の内側に回り込む桜と水面。しかし、敵は再び一目散に距離を取り‥‥弱敵たるマンタワームだが、その移動能力はKF−14にも引けをとらない。
「なんや? やる気あるんか!?」
 こちらの隙を窺う敵に併走しながら、水面がセンサーを確認する。合流する動きを見せていた残りの4機は、斜め前方から艦隊に向けて突進を始めていた。
「1時から2時方向、4機、来るで!」
 警告の叫び。瞬間、跳ねる様にフェイントをかける目の前の敵に、水面は慌てて機体を追随させる。
 突入してくる新たな敵には、既に昼寝とアグレアーブルが対応していた。
「下種が。小賢しい」
 アグレアーブルと共に昼寝が防御線をシフトして敵を抑える。だが、その4機も同様に、射程に入る手前でその針路を大きく変えた。

「陽動なのですっ!」
 艦隊直下、ビーストソウルの操縦席で美海(ga7630)が叫んだ。艦隊を守る為に残った直衛班4機、その1機だ。
「M2さんと眩さんは索敵と支援に徹して欲しいでありますよ。恐らく敵の主攻は他から来ますです」
「同感。りょーかいだよ。‥‥混戦時の対処はそちらに任せるけど、M2、いーかい?」
 陸(おか)と変わらず飄々とした調子で、斑鳩・眩(ga1433)はひらひらと手を振った。正直、水中戦には慣れていないが‥‥ま、やるしかないならやるまでだ。
「了解した。全員で帰れるよう、頑張ろう」
 水中用キット装備の2機、眩のR−01改の反対側に位置するES−008ウーフーの中で、M2(ga8024)は早速ジャミング中和装置を起動した。続けて、艦隊とリンクした索敵情報をモニターに映し出す。
「白夜さんは美海とバディを組むですよ」
「はい‥‥よろしくお願いします」
 輪形陣の下を進む美海機と白夜機。自分について来るテンタクルスをちらと見て、美海は涙目で拳を握り締めた。
(ああ、さらばかつての我が愛機テンタクルス‥‥っ! でも、これもインフレ気味な時代の流れ。この悲しみを怒りに変えて、ビーストソウルでバグアを討つですよ!)
 艦隊の東方に投下されたソノブイの一つが、高速で接近する敵影を捉えたのはその時だった。
「敵発見っ! 3時方向より接近する機影2つ。この速さは‥‥メガロワームか!」
 M2の報告に、眩は即座に機体を東へ向けた。機を敵と正対させ、海の向こうを睨み据える。
 敵影は‥‥まだ見えない。熱源センサーの感度を最大にして敵を待つ。眩は、敵が射程に入り次第、水中用ミサイルを放つつもりだった。長距離の攻撃は当たりづらいが、回避行動を強いて射点への移動を妨害できれば‥‥
 だが、敵はこちらの射程に入る手前で、水雷艇よろしく大きく舵を横へ切る。
 直前に放たれた魚雷だけが、こちらに向けて直進していた。
「こんな距離から!?」
「KVに当たる訳がない。奴らの狙いは水上艦さぁね」
 飄々とした口調を維持しつつ、眩は小さく舌を打った。連中、アウトレンジからの攻撃に徹するつもりだ。
「通しません‥‥っ!」
 美海と白夜がガウスガンで魚雷の迎撃を開始する。1発‥‥2発‥‥命中弾を受けた魚雷が爆発して巨大な水柱と化す。だが、魚雷は高速で的も小さく‥‥弾幕をすり抜けた魚雷が2発、明るい海面を背に走る黒い影となって水面下を通過した。


 輪形陣最外縁に位置するフリゲートの横腹に、轟音と共に巨大な水柱が立ち昇った。
 それが巨大な滝となって崩れ落ちる時にはもう、2つにひしゃげた船体はあっという間に沈んでいく。
「全艦隊、速度、進路そのまま」
 艦隊司令が冷静に指示を飛ばす。戦闘中だ。今は生存者の救助は出来ない。失われた艦の穴を埋めるように、周囲の艦艇が位置を変えた。
「敵は、前衛でこちらの針路を押さえて時間を稼ぎつつ、周囲の味方が集まるのを待つつもりのようですな」
「しかし、我が艦隊はその針路を維持しております」
 幕僚たちの言葉に司令は力強く頷いた。だが、楽観は出来ない。今後ますます敵の数は増すはずだ。それに‥‥
「早期警戒線のレーダーが乱れ始めました。恐らく‥‥」
 米本土からバグアの航空部隊がやって来るのは、そう先の事ではないはずだった。


 新たな爆音が海中に轟いた。
 魚雷の直撃を受けたミサイル駆逐艦は急激にその行き足を止めるとそのまま転覆。まるで魔物に引き込まれたかのように海中へと『沈んできた』。
 無数の気泡と共に巨大な船体がまっさかさまに海底へと『堕ちていく』‥‥その光景をM2は目を見開いて見送った。悪魔に心臓を握られる心地とは、この様なものに違いない。
 警報。沈没の『雑音』を衝いて、マンタワームが2機、輪形陣の内側に入り込んだ。湧き上がる敵影にM2は銃口を向け‥‥直後、ワームの『牙』が機体に喰らいつく。M2はライフルでそれを受けると、ハープンを直接、敵の腹へと突き込んだ。射出。吹き飛ぶ敵へガウスガンを連射する。敵は穴だらけになって沈んでいった。
 背後で爆発音。空母へと突進したもう1匹を、眩が『蛍雪』で一閃したのだ。すれ違いざまに『顎』から『腹』まで切り裂かれた敵は、まるで下ろされたかのように二つに別れ爆発。刃こぼれ一つしない蛍雪の刀身が海中の陽に光る。
「これ以上‥‥行かせませんっ!」
 弾幕を抜けてきた魚雷の正面に回り込み、白夜はその横腹にレーザークローを振り下ろした。真っ二つに折れ、爆発する魚雷。ミサイル巡洋艦の遥か手前で爆発したそれは、白夜のテンタクルスを爆圧で吹き飛ばす。
「後ろが押され気味だが‥‥防衛ラインを引き下げるか?」
 後退と接近を繰り返す敵を追い散らしながら、昼寝が遊撃班の皆に問いかけた。
 前衛の敵は相変わらずこちらとの戦闘を避けていた。未だに5機が健在であり、こちらをいい様に引っ張りまわしてくれている。
「とっとと沈みなさいッ!」
 ブーストを使って距離を縮め、不意打ち気味にニードルガンを撃ち放つ。直撃を受けた敵は機体を回転させながら爆発した。
「駄目や。前方のこいつらを片付けとかんと、艦隊の針路と速度が維持できひん!」
「じゃが、このままでは‥‥!」
 水面機が追い込んできた敵を桜がハープンで貫き通す。これであと3機。だが、敵はますます及び腰になり‥‥
 既に主戦場は輪形陣周辺に移りつつある。激戦により艦隊近辺の索敵精度は著しく落ちており‥‥こちらで周辺情報を把握しているとはいえ、このままでは側面攻撃の『やすりがけ』で戦力を削り取られてしまう。
「‥‥傭兵アグレアーブルより攻撃型潜水艦『デトロイト』。支援を要請します。‥‥止めはこちらで。あの3機を片付けます」
 その言葉だけで『デトロイト』の艦長はその意図を察したようだった。僚艦と共に有線誘導魚雷を2本ずつ放つとそれで敵ワームを追い立てる。
「なるほど」
 無言で意気を感じた能力者たちが機位を変える。回避を続け、或いはフォースフィールドで受け止める敵の側面から能力者たちが一気に襲い掛かる。
 それから20秒とせぬ内に、前方海中に爆発音が3つ、響き渡った。


 敵前衛を撃滅した遊撃班は、遠距離の索敵情報を確認しつつ、集結しつつある敵を蹴散らして回った。
 反対側から突入する敵は直衛班が対応し、艦隊針路に立ち塞がるワームは最短距離を移動して遊撃班が排除する。
 海中からの攻撃による被害が収まった頃、遠くの海上で何かの沈降音がセンサーに映るようになった。
 バグアの航空戦力と迎撃するKV‥‥それらが墜落して沈む音だった。

 艦隊は、空襲に晒されつつあった。
 結果から言えば、能力者たちは『間に合った』。


 誰かに呼ばれたような気がして、桜は機体を振り返らせた。
 もう周辺に敵はいなかった。逃げていくメガロワームは既に魚雷を撃ち尽くしており、近づいて来なければどうという事はない。
 巨大な何かが海中に突っ込んできたのは、その直後だった。

 長駆、米本土から飛来した輸送ワーム『ビッグフィッシュ』は、要撃機に撃墜される直前、その機体をざんぶと海中へ突っ込ませた。
 無数の気泡に包まれながらその扉を開放する。沈みゆくそれから姿を現す水中用ゴーレムと水中用タートルワーム‥‥2×2、計4機の敵は自らを起動させると、艦隊へ向かって前進を開始した。

「あ奴らを抜かせる訳にはいかんのじゃ!」
 真っ先に反応した桜を先頭に、遊撃班は真正面からゴーレムたちへ突っ込んだ。
 その後を、眩とM2、二人を残した美海と白夜が続く。空戦が直上にまで迫り、対潜哨戒の『視界』は狭くなっている。万一の事態には備えなければならない。
 まず真っ先に『亀』の水中用プロトン砲が近づくKVたちを迎え撃った。淡い7色の怪光線が海中を照らし出し、KVの装甲を炙り泡立たせる。能力者たちはその斉射をやり過ごすと、ブーストで一気に距離を詰めた。
「牽制攻撃、放て!」
 叫ぶと同時に、昼寝はミサイルを一斉に撃ち放った。水中を切り裂き進む誘導弾の気泡の軌跡、それを敵機が回避に入る。
 そこへ桜機の横に並んだ水面機が近距離から魚雷を2本撃ち放った。ゴーレムと亀、それぞれに直撃して体勢を崩すその隙に、桜と水面、美海の3機は人型形態へと変形する。立ち塞がるべく前へ出る敵ゴーレム。それを、ブースト機動で躍り出たアグレアーブル機が槍でもって押し返す。
「速攻っ、なのです!」
 その隙に、後方の亀へと3機が踊りかかった。桜機のニードルガンによる援護を受けつつ、美海機が両手のレーザークローを振り下ろす。
「奥の手、いくで! 『サーベイジ』!」
 両腕にドリルを展開した水面機が得物を甲羅へ突き立てる。水中に激しく散る火花。さらに美海と桜の光の刃が機体を切り裂き‥‥ガクン、と水面のドリルが捩り込まれると、亀は爆発を繰り返しながら沈んでいった。
 繰り出された剣の一撃を、アグレアーブルは槍の柄で弾き返した。距離を取り穂先で突く。それで装甲を削りながらもゴーレムは剣の間合いへと踏み入れて‥‥そこへ高機動を活かして捻り込んだ昼寝機がレーザークローで敵の背部を──推進器があると思しき場所を切り裂いた。
「‥‥違うかっ!?」
 背部へと剣を突き出すゴーレム。それを距離を取ってかわしながら、直後、体勢を立て直した亀に魚雷の一斉射を浴びせられる。回避行動。爆圧が機体を乱打する。
 そこへ横合いから突っ込んできた白夜機が、亀にレーザークローを突き込んだ。その隙に機体を立て直し、やってくれるじゃないか、と一人、満足の叫びを上げて。昼寝は自らに痛撃を与えた亀へ光の爪を振り下ろした。回転の勢いそのままに、背後のゴーレムにも一撃をくれる。そこへアグレアーブル機が槍を喉元へ突きたてて‥‥ゴーレムと亀は、殆ど同時に爆砕した。

 最後のゴーレムがタコ殴りにあって沈むのを見届けて、M2は構えていた狙撃砲を肩へと担がせた。
 センサーモニターをチェックする。敵影なし。とりあえず、敵の第1波は凌げたらしい。
「最後、俺たち出番がなかったッスね」
「それでいーのよ。そんな事になってたら、いったい何隻に被害が出ていた事やら」
 眩は覚醒を解くと、シートにその身を沈ませた。
 自分たちの役目はしっかり果たした。海上を行く空母に被害がない事が、彼等の仕事ぶりを表していた。


 水中用KVの回収は、偵察隊との合流ポイントに達するまで行われなかった。
 敵編隊の第1波が去り、漂流者救助のヘリが飛ばせるようになってようやく、クレーンによって『ホーネット』へと引き上げられる。
 水中戦の結果に限れば、フリゲートと駆逐艦が1隻ずつ攻撃を受け沈没した。それでも何とか、艦隊は予定通りに目標海域に到達する事ができた。
「約束は、守りましたよ」
 潮風に吹かれながら、白夜は西の空をただじっと眺めていた。
 甲板を歩く桜の頭上を、1機の岩龍が翼を振って通り過ぎていった。