タイトル:【弐番艦】輸送路開拓マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/26 06:27

●オープニング本文


 ――ラスト・ホープにあるドローム社。
 緑溢れる敷地には、ナイトフォーゲルの整備工場を兼ねた社屋を挟むように、ハの字に滑走路が延びている。
 ハの字の右側の長い滑走路に、武装巨大輸送機ガリーニンとS−01Hが停められていた。
「ブラッド准将のお力添えには感謝の言葉もありませんわ」
 青いビジネススーツに身を包んだミユ・ベルナール(gz0022)は、整備工場からガリーニンへ運ばれるメトロニウム製のコンテナを、感慨深く見つめていた。
「主力であるUPC北中央軍の戦力が大幅に増強されるのであれば、本部も協力は惜しみません」
「ようやく未来研から届いた重力制御エンジン。これをオタワまで運ぶのは、高速移動艇では心許ないですからね」
 メトロニウム製のコンテナの中身は、未来科学研究所より提供された一機の重力制御エンジンだ。これをハインリッヒ・ブラット(gz0100)がチャーターしたガリーニンでUPC北中央軍の本部オタワまで運ぶのだ。
「流石に3機のガリーニンをこちらへ回すのは容易ではありませんでしたが」
 彼の口振りから、UPC北中央軍のヴァレッタ・オリム中将もUPC本部へ何らかの圧力を掛けたと思われた。
「指示通りに、1機のガリーニンはサンフランシスコ・ベイエリアへ回しましたが、重力制御エンジンの他のパーツも、同時にオタワへ運ばれるのですね」
「ええ。サンフランシスコ・ベイエリアで開発した艦首ドリルと、製造プラントで完成させた副砲、これにオタワで復元を終えたSoLCを搭載すれば、『ユニヴァースナイト弐番艦』は完成します」
 これらのパーツは、オタワでバグア側に秘密裏に建造されているユニヴァースナイト弐番艦の主武装だ。
 ユニヴァースナイト壱番艦は各メガコーポレーションの共同開発だが、弐番艦はドローム社とUPC北中央軍とで開発している。その為、大きさは壱番艦の4分の1程度であり、重力制御エンジンも一機のみの搭載だ。
 オリム中将からすれば、UPC北中央軍の戦力を増強する事が最優先であり、だからこそドローム社がユニヴァースナイト弐番艦の建造を打診した時、二つ返事で承諾したのだろう。

 ラスト・ホープより重力制御エンジンがオタワへ運ばれると同時に、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲もオタワへ向けて輸送される。
 ドローム社はこれらの輸送隊に能力者の護衛を付ける事とした。


 ユニバースナイト弐番艦の主機および副武装の輸送作戦に合わせ、デトロイトのUPC北中央軍は付近の競合地域に点在するバグア軍部隊への攻勢を開始した。
 攻勢といっても大規模なものではない。輸送作戦の終了までの間、輸送路として使われる予定の幾つかのルート上から敵を駆逐し、トレーラーが通過するまで維持する事が目的だ。同時に、この攻勢自体がバグアの目を輸送作戦から逸らす為の陽動でもあり‥‥あわよくばシカゴに籠もる敵主力を誘引してこれを撃滅せんとする野心的なものでもあった。
 故に、主力部隊はデトロイトに温存される。攻勢は、正規軍のKV部隊及び能力者の傭兵たちが駆る機動戦力をもって行われた。

 事前の航空偵察において、敵地上ワーム部隊の位置は確認されている。
 デトロイト−インディアナポリス間のルート上に存在する敵の駆逐を任務とする傭兵・正規軍混在のKV1個中隊は、払暁の薄闇の中、州間高速道路上を南へとひた走っていた。
 派手に空挺強襲を仕掛けるKV部隊は陽動だ。敵の目と支援がそちらに向いているうちに、自分達は地上から接近して敵を駆逐、輸送路の一つを確保する。
「目標まで4マイル」
 隊長機の翼端灯が点滅し、正規軍の2個小隊が翼を翻して高速から跳び下りていく。同時に始まるカウントダウン。この付近に存在する敵は2つ。急襲は同時に行われなければならない。通信機は既に、恐らくキューブワームが発したと思しき強力なジャミングによって、雑音をがなるだけの只の箱と化していた。
 キラリ、と。赤く染まった地平線に陽光が煌いた。顔を出した太陽が地上から闇を払拭していく。一面に広がる穀倉地帯が、その荒れ果てた姿を朝焼けに晒されて──
「見えた」
 その中に、キラキラと光る何かを見つけて、能力者はKVによるハンドサインでそれを味方に知らしめた。
 ゴーレム4、タートルワーム3、旧式陸戦ワーム3‥‥後方にふよふよ浮いているのはキューブワームの群れか? 付近の小都市に駐留していたはずの敵地上部隊は、既に起動して他の戦場へ移動を始めていたようだ。既にこちらに気付いて展開を始めている。
「殲滅する。一機も逃すな」
 能力者たちのKVが、高速下を走る一般道へと駆け下りる。キューブワームの発する怪電波が、ズキリと頭の中を突き刺した。

●参加者一覧

相沢 仁奈(ga0099
18歳・♀・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER

●リプレイ本文

「全機、2列縦隊へ移行。カメの砲撃に注意を」
 そうハンドサインで示しながら、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)は、機体を斜面へ滑らせた。
 滑り降りながらも、能力者たちは事前の打ち合わせに従って機位を整えていく。下りるまでに大まかな隊列変更を済ませてしまったのは流石と言えた。
「突入する。目の前の敵に囚われず、全体を見てお互いをフォローして!」
 ラウラ・ブレイク(gb1395)のアンジェリカがシンを追い越して前に出る。その隣りには飯島 修司(ga7951)のディアブロ。周囲は畑で動き難い。防御力の高い2機を先頭に押し立て、道路で一気に距離を稼ぐ──
 途端、甲高い──いや、ノイズのような? ともかく名状し難い不快な何かが、怪音波となって能力者たちを直撃した。
「クッ‥‥何度受けても慣れはせぬの」
「もぉ〜〜〜! あの子たちは余り好きじゃないんだよぉー!」
 綾嶺・桜(ga3143)と響 愛華(ga4681)が頭を押さえる。余りの不快さに、愛華が髪の毛をわしゃわしゃと掻きたてた。
「やめんか! 後のブラッシングが大変じゃろーが! 終わったら特製弁当が待っておる。それで気張るのじゃ!」
「わふ? ホント? じゃあ、晩御飯は鍋にしようね!」
 パアァァァ‥‥と顔を輝かせる愛華。赤崎羽矢子(gb2140)は思わず笑みを漏らした。
(「まったく、何をやってるんだろーね」)
 この酷い頭痛の中で、無理をして場の空気を変えようとしたのかもしれない。‥‥地である可能性も大いにあるが。
 羽矢子は、雑音塗れの近距離無線の音量を下げると、音楽プレイヤーの電源を入れてボリュームを最大にした。軽快な16Beatがコックピットに木霊する。怪音波をどうこうできるわけではないが、まぁ、気分は盛り上がる。
「輸送隊の為に、進路上の『ゴミ』を片付ける‥‥盛り上げていくよ」
 縦列前衛がエンジン出力を上げるのが後ろから見て分かった。十分に機体間隔を開け、力を溜める様にKVの『腰』を落とす。羽矢子はカウントダウンと曲の開始を合わせていた。
「‥‥3、2、1、行くよ、Rock’n’Roll!」
 前奏が終わり、先頭の2機がブーストを噴かして飛び出していく。曲頭の激しい32beatが打ち鳴らされる中、羽矢子はスタビライザーを起動してブーストボタンを押し込んだ。


 敵は4機のゴーレムを横列展開し、後衛のTW(タートルワーム)やCW(キューブワーム)を護る構えを見せていた。
 文字通り矢の様に道路上を突進するKVの縦列突撃。3機のTWがそこへプロトン砲を撃ち放つ。砲撃は先頭の修司機とラウラ機に集中した。2機の強化装甲をエネルギーの奔流が削り取る。
 敵陣へと肉薄した能力者たちは隊列を横へと展開した。相沢 仁奈(ga0099)のミカガミ、龍深城・我斬(ga8283)の雷電がそれぞれ北側のゴーレムへ、ラウラとシンのアンジェリカが南のそれへと突っ込んでいく。4機がそれぞれのゴーレムを一騎打ちで拘束する間、修司機は『壁』の間を抜けて後衛へ──TWと『6本脚』の元へと突っ込み、桜の雷電、愛華の阿修羅、羽矢子のバイパーが回り込んでCWの群れを直撃する手筈だった。

 だが、それは──ゴーレムを拘束すると同時に、味方機もゴーレムに拘束される事を意味していた。

「うわっ!? このっ、調子に乗んなボケー!」
 激しく機を揺さぶる衝撃に悪態を付きながら、仁奈機は肩口に振り下ろされた剣をディフェンダーで打ち返した。
 受け切れなかった。止まぬ頭痛に舌を打ちながら機の体勢を整える。この状況下での殴り合いは分が悪い‥‥というか一方的に殴られるだけで意味が無い。仁奈は、畑に足を取られぬように、機を右後方へと跳躍させた。ディフェンダーを構えながらバルカンを牽制に撃ち放つ。だが、それはまるであさっての方に飛んでいき‥‥逆に、ゴーレムが撃ち放ったガトリング砲が仁奈機の装甲を乱打した。
 ゴーレムを相手にする他の場所でも、似たような光景が繰り広げられていた。
 ガトリング砲の一連射をまともに浴びて、シンは機を射程外へと移動させた。機盾レグルスすらまともに扱えないのには正直参った。シンは盾をコックピット前に位置固定すると、機の損傷をチェックした。
「大丈夫‥‥まだやれるはずですよ、アンジェリカ」
 重要部分に損害がない事を確認したシンが再び覚醒する。薄暗くなったコックピット内、肌の露出した部分に蒼く幾何学模様が浮かぶ。
 盾の表面を砲弾が叩く。シンは可能な限りの回避運動を取りながら、盾の陰からゴーレムを睨めつけた。後で存分に相手をしてやる。それまでは‥‥
 そのシン機の奥の戦場で、ラウラ機はビームコーティングアクスを手に果敢にゴーレムに攻め掛けた。速度と質量を計算して流れるように振り下ろす。だが、その知覚攻撃による一撃を、ゴーレムは盾で『受け止め』た。
「‥‥何っ!?」
 ビームの発振が常より弱い。怪音波はKVの知覚攻撃にまで影響を与えていた。反撃が、ラウラ機を大きく弾き飛ばす。
「ゴーレムとの戦闘経験はあるんだが‥‥この妨害はきついな」
 雷電のコックピットの中で、我斬は焦れる様に呟いた。敵の砲口が閃光を放ち、着弾の衝撃が機体を揺らす。お返しにと撃ち返したレーザーはかすりもしない。我斬は呻くように舌を打ちながら‥‥その攻撃を自機へ引き付ける様に機動した。レッグドリルを補助輪に、荒れた畑を踏みしめるように。機体を円を描くように横へ横へと動かし、悉く命中する敵弾を引き受ける。
 その背後には、敵の側背へ回る味方がいた。

 CWを直撃する為に迂回した桜、愛華、羽矢子の3機は、ようやく敵の側面へと回り込む事に成功した。
 だが、荒れた畑の所為で装輪移動が出来ず、歩行での移動を余儀なくされた彼女等は、未だCWをその射程に捉えてはいない。CWは半分が怪音波を発して能力者を妨害しつつ‥‥残る半数は後方へと移動していたからだ。そして交互にその役割を変えながら、ジリジリと主戦場から距離を置きつつある。
 羽矢子は何とか敵をスナイパーライフルの射程に収めると、機を停止させて狙撃砲を撃ち放った。
 砲弾はCWの遥か上を通過した。やはり、遠距離からの精密射撃は分が悪い。
「なら!」
 その様子を見た愛華が、愛機の両肩にマウントされたH−112バルカン砲を一斉に撃ち放つ。点ではなく、面を制圧する弾幕掃射。だが、それでも宙を舞うCWには足りなかった。
「駄目だ。もっと近づかないと」
 射撃を継続し、照準を修正しながら、愛華が愛機を前に出す。シンの警告がレシーバーを打ったのはその時だった。
「各機注意! 『カメ』が撃ってくるぞ!」
 各員が視線を『カメ』へと向ける。TWは側方への旋回を終えていた。
 羽矢子は狙撃砲をリロードせず、すぐに側方移動を開始した。放たれたプロトン砲が先程まで占位していた空間を貫き通す。その泡沫は羽矢子機にまで達し、装甲表面を焼いていった。
 愛華は機体を地面に埋まれとばかりに伏せさせた。直上を虹色の怪光線が掠め飛び、装甲を炙って泡立たせる。小爆発。激しい振動が愛華の身体を揺さぶった。
「愛華ぁーっ!」
 追いついた桜機がその射線の前に立ちはだかる。続けて放たれた一撃は、桜機の1次装甲をグズグズにしていった。
「くそっ。よくも」
 修司が珍しく悪態を吐いた。ゴーレムの『壁』を突破した修司のディアブロは、その瞬間、待ち構えていた『6本脚』3機に三方から拡散フェザー砲を雨霰と浴びせ掛けられた。
 強化装甲はよくそれに耐えたが、その隙に近づいた1機がディアブロの脚の関節部を、バグアの特殊金属製の巨大鋏で挟み込んだ。ミシリ、と装甲が悲鳴を上げる。修司は、機槍ロンゴミニアトの切っ先をその『6本脚』へと押し込んだ。
 槍の先から散布された液体炸薬が虫型ワームを吹き飛ばす。TWが砲撃を開始したのはその時だった。
 残骸を振り払い、横腹を見せたTWへと槍を構えて突き進む。突き出した機槍は、しかし、TWの甲羅を貫けず、逸らされて表面を削り取る。駄目だ。やはり手元が狂う。修司は現時点で槍を使うことを諦め、機体をぶつけてその射線を逸らしにかかった。
 その恩恵を受けた桜が愛華機を振り返る。阿修羅はようやくその身を起こした所だった。
「無理をするでないわ! お主の機体はわしの機体より脆いのじゃぞ!?」
「‥‥いつもと逆になっちゃたね」
 愛華に怪我は無いようで、桜はホッと息を吐く。いつもこんな思いをさせていたのか、と冷静に振り返るのは後の話だ。
「‥‥ったく。わしが盾になる。一刻も早くCWへ突っ込むのじゃ!」
 結局の所、あの呑気に宙を舞うCW共を何とかしなければ、この戦いはどうにもならなかった。


 撃ち放たれた機関砲弾は、情け容赦なく装甲を削り取っていった。
 その内の一発がミカガミの風防の一部を砕く。コックピット内を破片が跳ね回り、切れた傷から血が伝う。仁奈はキュッと唇を噛み締めると、正面の敵から機を後退させた。今、ここでこれ以上のダメージを受ければ、来るべき反撃の時に何も出来なくなる。その代わり、今にも墜ちそうなこの機体を囮にゴーレムを引き回す──!

 ゴーレムを相手にした4機は、それぞれに大きなダメージを受けていた。
 一方的に殴られる絶望的な継戦──
 そうして遂に、彼等の献身が報われる時がやってきた。

 CW隊のど真ん中へと突入した桜、愛華、羽矢子の3人は、まず怪音波を発している3体に向かって一斉にガトリング砲を撃ち放った。
 ほぼゼロ距離からの、アクチュエータやスタビライザーを使用しての連続射撃。青くなりゆく空を背景に、曳光弾混じりの弾幕がCWを粉々に打ち砕く。能力者たちを苦しめていた頭痛が嘘の様にサッと引いた。3機は互いに背を向け合うと、周囲に浮かぶCWに向けて片っ端から狙い撃つ。
 すぐに他のCWが怪音波を出そうとする。だが、その前に、先手を取った修司、我斬、シンの3機が、目前の敵の隙を突いて──妨害がなければ、拍子抜けするほどに容易かった──銃撃を加えて撃破する。CW担当の3機が残りを掃討し‥‥能力者にあれだけの苦労を強いたCWは、わずか20秒で殲滅された。
「待たせたな。ダンスの時間だ」
「よっしゃ! 反撃開始やー!」
 ゴーレムに一方的に嬲られるばかりであった4人は、それまでの鬱憤を晴らすように猛然と反撃を開始した。
 シンはビームコーティングアクスと機盾レグルスを構えると、素早く敵側方へと回り込んだ。ゴーレムがその動きに追随する。フェイント。足を切り返して敵の懐へと潜り込む。咄嗟に振り払われた敵の剣を盾で弾いて‥‥シンはエンハンサーを起動すると、がら空きになった胴体部に光の斧を振り下ろした。
 自らを囮に敵を引き付けていた仁奈のミカガミも、消極的に距離を取った(と見せかけていた)守勢から、猛然と攻勢に転じていた。ウェイフアクスの効果が薄いとみるや、すぐにディフェンダーを引っ張り出す。超高速で回避運動を取る敵に喰らいつき、あと2撃──下手をすればあと1撃で撃破される状況で、接近仕様マニューバをフルに起動して積極的に接近戦を仕掛けていく。
 ダラララララ‥‥!
 後方から撃ち掛けられたバルカン砲が、ゴーレムの横面を引っ叩いた。CWを殲滅した羽矢子機が、後方からの支援攻撃で敵を挟撃したのだ。
 一瞬、その動きを止めるゴーレム。仁奈は一気に距離を詰め、ディフェンダーの、そして、内臓雪村の連撃で敵を切り裂いた。
 最も劇的に守勢と攻勢を入れ替えたのがラウラだった。
 ブゥンと大上段に振るわれた剣がラウラ機を打ち据える。続けて放たれる剣戟。しかし、それが振り下ろされるより早く、ラウラ機は懐に飛び込んでいた。
 エンハンサーを起動して放たれた練剣雪村が、ゴーレムの右腕をあっけなく切り飛ばす。光の粒子が消えるより早く、再び握られた光の斧が、その取り戻した刃でもって盾ごと敵の左腕を砕き──
 僅か3撃。10秒足らずの間にゴーレムは地に倒れ付して爆砕した。
「ほら見ろ。みんな活き活きと‥‥まるで息を吹き返したようじゃないか」
 どこか呆れた様に、我斬は目の前のゴーレムにそんな言葉を投げてみた。無論、答えはなく、剣撃だけが返ってくる。我斬はアクチュエータを起動すると、振り下ろされた剣を盾で下へと打ち払った。大地を抉った刃の峰をそのまま足で踏み潰す。一瞬、動きを止めたゴーレム、その膝関節を、我斬はレッグドリルのローキックで刈り取った。
 ドリルが食い込み火花を散らす。ゴーレムがガクリと膝を崩し、だが、特殊能力で跳び退さる。アクチュエータを起動した我斬の雷電は、しかし、それにも追随し‥‥側面に回り込んだ我斬機の135mm砲が、文字通り半壊した敵の脚部を吹き飛ばした。

 脚部に纏わり付く『6本脚』を文字通り蹴散らすと、修司は機槍の切っ先をTWへと向け直した。最後の『6本脚』は、ゴーレムを撃破したシン機と仁奈機の機銃を喰らい半壊しつつある。横から邪魔が入る事はない。
 修司はアグレッシブ・フォースを起動すると、一気に敵へと肉薄した。横から振るわれた尾の一撃を鞘走らせた剣で受け止め、そのまま一気に両断する。跳ね回る尾とTWの雄叫び。その顔面へと修司は機槍を突き込んだ。爆砕する頭部。一瞬の間を置いて、TWの巨体が大地に沈む。
「桜さぁん、今だよ!」
「ナイスじゃ、天然(略)犬娘!」
 2機目のTWには桜と愛華が襲い掛かっていた。
 プロトン砲による迎撃を受けながらも愛華の阿修羅が喰らいつく。生き物の様に跳ねたその尾がTWの首元に突き刺さり、電撃が巨体を焼いていく。TWも尾を振りかざして愛華機を打ち据えようとしたが、それより先に桜の雷電の振るうハンマーボールがグシャリと甲羅に振り下ろされた。
 2回、3回‥‥円を描くように振り回された鉄塊がTWを打ち据える。電撃を浴びせていた愛華機がその尾を抜くと、潰れたTWはプスプスと白煙を上げながら崩れ落ちた。
 最後に残ったTWは、ゴーレムと同様にラウラ機が至極あっさりと斬り捨てた。
「‥‥亀の蒸焼きって美味しいのかしら?」
 頭部のあった所にポッカリと穴を開けたTWを見下ろしながら、ラウラがボソリと呟いた。


 敵が全滅しても、通信は回復しなかった。
 それを正規軍苦戦の兆候と受け取った傭兵たちは、直ちに援護に向かった。
 それは賭けだった。正規軍がもし全滅していれば──つまり、こちらの戦闘に時間がかかっていたら──所在不明となった敵を探し回る羽目になったかもしれない。だが、幸い正規軍は被害甚大ながらも戦闘を継続しており‥‥傭兵たちは敵後方から挟撃、これを殲滅した。
 弐番艦のパーツを載せた輸送隊は無事にデトロイト方面へと抜けていった。弐番艦完成の暁には、この地もバグアにとって安全な場所とはならないはずだ。
 シカゴの敵主力は動きを見せなかった。
 決戦は、後日に持ち越された。