タイトル:鷹司KV模擬訓練 地上編マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/19 06:18

●オープニング本文


 なるほど。確かに慣れてしまえば、KVの『AIによる機体制御』というものは効率の良いものらしい。
 機体を飛行させる事自体に伴う諸々の煩雑さはAIが全て担当し、パイロットは目の前の戦闘だけに集中できるのだから。
「なるほど。つまり、自分の技術でなく、機械に飛ばさせて貰えばいいのだろう?」
 老傭兵・鷹司英二郎が苦笑する。元戦闘機パイロットとしての矜持やこだわりがないわけではないが、技術の進歩とはそういうものだ。新しきものを得ようとするのなら‥‥一度失った翼を再び得ようとするのなら、やはり代償は必要だろう。──たとえそれが、『ファントムライダー』として空を舞った半生の、己の技術と経験を無にする事だとしても。

 鷹司英二郎。56歳、傭兵。
 パイロットあがりの元UPC軍大佐で、現役時代は凄腕の『ファントムライダー』として知られていた。真偽の分からぬ噂話(当事者たちが決して口外しないからだ)ではあるが、米国に渡って行われた模擬空戦において、仮想敵のF−15をF−4で『撃墜』した、との伝説があるとかないとか。
 『現役』を退いた後も訓練教官として後進を指導し、大佐昇進後は日本UPC山陰軍岩国飛行場の基地司令としてバグアと戦い続けてきた──根っからの『空の男』である。
 だが、再び空を飛ぶ為に能力者となった鷹司は、岩国とデトロイトで立て続けに二度、撃墜された。これまでのパイロットとしての知識と経験が邪魔をして、AIによる制御を活かし切れていなかったからだ。
 再び新人時代のように訓練を受ける事となった鷹司は、周囲の能力者たちの助けを借りつつ、ようやく『本来の』KV操縦技術を習得しつつあった。

「凄いですね、鷹司さん。飛ぶだけならもう一人前のKV乗りですよ! AIに制御させる事にも完全に慣れました?」
 ラストホープ島内、某訓練施設。KV用シミュレーターの受付にて。
 すっかり顔なじみになった窓口のオペレーターが、鷹司の訓練結果を見て我が事の様に喜んだ。
 おそらく、初めて補助輪無しで自転車に乗れた子供を見るような気持ちなのかもしれない。実際、自らの操縦技術だけでKVを動かしていた鷹司は、彼女から見たら同じ様なものに違いなく‥‥しかし、56にもなって、孫みたいな年齢の娘から『もう一人前』などと声を掛けられるようになろうとは。鷹司はそう苦笑した。
「特に空中戦に関しては、同期の新人さんたちの中でも飛び抜けましたね!」
「あー‥‥それは、まぁ、KVだろうがAIだろうが、空中戦におけるエネルギー管理や戦闘機動のセオリーに従来機と違いがあるわけでもないし」
 その点に関しては鷹司の知識と経験は無駄にはならない。操縦技術に差がなくなれば‥‥鷹司に一日の長がある。
「でも、KVの戦闘の半分は地上戦ですからね。まだ半分、まだまだこれから、ですよ!」
 オペレーターの娘がそう人の悪い笑みを浮かべてみせる。悲鳴を上げたり、げんなりした顔を見せる鷹司を期待していた娘は、しかし、意外なほど落ち着いている鷹司の姿を見ることになった。
「‥‥あれ? 鷹司さん?」
「‥‥いや。考え方に癖、というか思考が硬直していた戦闘機形態に比べたら、人型で動かすの、あんまり苦じゃなかったからな」
 とにかく、余計な先入観が無かった分、人型の時は素直にAIによる制御が受け入れ易かったのかもしれない。飄々とする鷹司に、オペレーターはシミュレーターの結果を改めて見直して‥‥
「‥‥そうですね。これならもう人型での戦闘訓練に移っちゃってもいいかもしれませんね‥‥鷹司さん、何か武道とかは?」
「‥‥遥か昔に基礎訓練を受けた記憶があるが‥‥後は、在米時代の喧嘩くらいか」
「そうですか。火器管制や格闘動作制御もAIや制御プログラムがある程度オートでやってくれますけど、やっぱり砲戦や格闘戦の地上戦闘訓練は受けておいた方がいいですよ? データの蓄積と最適化‥‥モーションパターンは多いに越したことはないですから!」
 人型形態でもあくなき反復練習ですよ、とオペレーターがグッと拳を握る。思えば、戦闘機形態でもただひたすらに操縦桿を握り続け、無茶な機動を繰り返す事で、機体の限界とAIの特性を無理矢理身体に覚え込ませたのだった‥‥
「ちょうど午後から地上戦シミュレーターを行う人たちがいますね。さっそく訓練に潜り込ませて貰っちゃいましょー!」

●参加者一覧

雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
御影 柳樹(ga3326
27歳・♂・GD
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
夜木・幸(ga6426
20歳・♀・ST
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

 順番待ちの時間を潰した鷹司が受付まで戻ると、共に訓練を行う能力者たちは既に集まっていた。
 その中に幾つか見知った顔を見つけ‥‥と、目の合った瞬間、御影 柳樹(ga3326)が『ダッシュで歩み寄り』、鷹司の両手をがっしと握り締めた。
「鷹司さん、ちょうどいい所‥‥いやゲフンゲフン、こっ、今回も宜しくお願いするさぁ!」
 握った両手をブンブンと振りながら、背後を気にする素振りの柳樹‥‥ああ、なるほど、と鷹司は得心した。そちらには夜木・幸(ga6426)の姿があって‥‥何でかわからないが何となく、柳樹はこの彫り師先生には逆らえないような気がするとかしないとか。
 当の幸の興味は他へと移ったようだった。その視線は既にこちらには無く、幼げな顔を受付の方へと指向しており‥‥鷹司はその視線を追って、そこに、困った様に笑みを浮かべるオペレーターの少女と、その受付嬢に思いっきりメンチを切る森里・氷雨(ga8490)の姿を見出した。
「そも海戦こそKVの特殊戦域転用の要のはず。さあ、今こそ『KV戦の半分は優しさで出来ています』と訂正するのです!」
 右手に何かを握り締め、浮かされた様に熱弁を振るう氷雨。鷹司は大きく溜め息を吐くと、氷雨の背後まで歩いていって、拳をごつんと振り下ろした。
「あ痛」
「『KV戦の半分は地上戦』ってやつか? 空を飛ぶ事にしか興味のない俺に対して言った台詞だ。あまり苛めてやるんじゃない」
 で、その手に握っている物は何だ? との問いに、氷雨は『それ』をピラリと両手で広げて見せた。それはどこからどう見ても『スク水』だった。
「これぞ海を舞台に戦う戦士たちのアームドフェノメノン‥‥」
「よかろう。ならば思う存分、着るがいい」
 そのままズルズルと引きずられていく氷雨。乾いた笑いでそれを見送り、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)は受付の少女に声を掛けた。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん?」
「はい。他の人で慣れてますから!」
 慣れてるんだ‥‥と、乾いた笑いを継続するジュエル。LHって‥‥能力者って、一体‥‥
「‥‥鷹司さんって、伝説的な凄い人って話だけど‥‥響さんや桜ちゃんの話を聞く限り、そう緊張することもないかな?」
 鏑木 硯(ga0280)が苦笑しながら背後の綾嶺・桜(ga3143)と響 愛華(ga4681)を振り返り‥‥驚いてその身をビクリと震わせた。訓練に臨む桜はなんと、体操服にブルマ(紺)姿だった。長い黒髪を頭の後ろで一つに纏め、赤い鉢巻を巻いている。
「さ、桜ちゃん。そ、その格好は‥‥?」
「ん、これがどうかしたのか? 運動といえばこの服ではないのか?」
 困惑する硯をきょとんとした顔で見返す桜。その隣りでは、愛華がガクリと膝と両手をついていた。
「と、止められなかったんだよ‥‥でも、桜さん可愛いし、今回はギリギリセーフじゃないかなー、なんて」
 確かに全く違和感ないですけど、と呆れた様に呟く硯。これがもし愛華だったら、あまりにも生々し‥‥って、いけない、顔が赤くなってきた‥‥
 一方、氷雨を更衣室へと放り込んだ鷹司は、帰りしな、廊下の壁に背を預ける雪野 氷冥(ga0216)に気がついた。『XF−08A』のマニュアルに目を通していた氷冥が、鷹司に気付いて視線を上げる。
「あら、鷹司さん。お久しぶりです。訓練、調子が良いみたいですね。うかうかしていたら追いつかれてしまいそうです」
 にっこりと挨拶をする氷冥に、鷹司は苦笑を返した。かつて、KVとAI、能力者の登場により一気に『追い抜かれた』のは、鷹司を含む従来機のパイロットたちだった。
「中に入らないのか?」
「あの混沌空間にですか? 離れて見ているのが一番ですよ。‥‥それにしても、この訓練に参加するなんて、鷹司さんも運が良いのか悪いのか」
 嫌な予感に顔をしかめる鷹司。すぐにわかりますよ、と氷冥は悪戯っぽく笑って見せた。


 CGで描かれた市街地廃墟を、氷冥が駆るミカガミが装輪走行で疾走していた。
 破壊されたビルの窓枠から、崩れた瓦礫の山の陰から、次々と現れる標的を走りながら狙い撃つ。訓練であるにも関わらず、その表情に気の抜けた所は全く無い。
「本気にもなるわよ、あの犬娘‥‥! 初期改造費くらい簡単に食い潰しかねないんだから!」
 格闘戦、砲撃戦といった基礎訓練の後に行われたのが、このタイムトライアルだった。市街地廃墟を舞台に、点在する標的を撃ち抜きながらゴールまでのタイムを競うものだ。最下位になった者は、罰ゲームとして訓練後の昼食を全員分奢らされる事になっており。愛華の食いっぷりを知る氷冥にどうして手が抜けよう‥‥!
 最後のコーナーを曲がった氷冥が、ゴール近くに配された最後の標的を発見する。それは、トライアルに出ない代わりに動目標として配置されたジュエルのEF−006だった。
「だからっ! 俺を的にするんじゃねえって!」
 鳴り響くロックオンアラートに、ジュエルが瓦礫の陰へと移動して機体を氷冥機から遮蔽する。氷冥は機体の速度を落とす事無く、一気にその瓦礫を飛び越えた。空中でその身を翻し、地上の『四足獣』へと照準する。
「まじかよっ!?」
 慌てて機体を飛び退ささせるジュエル。だが、避けきれず、被弾を表す衝撃が激しくシートを振動させる。
 一方、氷冥の方もその振動に身を晒していた。跳躍回転捻りという難度の高い機動にバランスを崩し、着地に失敗したのだ。何とか姿勢を保ち、背面走行のままゴールを抜ける。脚部と腰部、それに腕部の損傷を示す警告灯。流石に難度が高かったか。実機では気をつけよう‥‥
「さぁ、ここで名誉挽回さぁ! 飛んだり跳ねたりは得意分野さ!」
 そう顔を輝かせる柳樹のLM−01が、スケーターの様に勢い良くスタートを飛び出していく。活き活きと最初のコーナーを曲がり、直線部を自動車形態で走り抜け‥‥走行中でも無駄のない滑らかな変形は、流石、LM−01の面目躍如といったところか。次のコーナーでさらに人型に変形し、機体を滑らせながらガトリングを連射する。そのコーナーにあった標的は3つ、その内1つを外していた。
「むぅ‥‥やっぱり、がとりんぐは難しいさぁ‥‥」
 唸る柳樹。基礎訓練での射撃成績がボロボロだった事を思い出す。
「さて、と‥‥俺はのんびり行くかね‥‥」
 『次走者』の幸が、H−114『岩龍』をスタートラインまで前進させた。
 元々、足の遅い岩龍だ。タイムアタックでは元より勝ち目がない。ならば、出てくる標的を見逃さず、全てをミス無しに狙い撃つしかない。
 そんな決意を固めた幸は、しかし、次番に控える氷雨のPM−J8の姿にギョッとした。女性的なフォルムを持つ『アンジェリカ』。何故か水中用キットを装備させられており‥‥誰が弄ったのか知らないが、そのCG表示はスク水になっていた。
「ふふ‥‥これくらいでは、俺の中にある大事な何かは壊れたりなんかしませんよ‥‥!」
 シミュレーターの中で氷雨が昏く笑う。その格好はグレコローマンっぽい何かで(以下、映像でお見せ出来ません)
 ‥‥かくして、すったもんだがありながらもトライアルは進行し‥‥後は鷹司一人を残すのみ。現在の順位は‥‥

1.硯
2.氷冥(『スク水』解除)、氷雨(ポイント同点)
4.柳樹
5.桜
6.幸

7.愛華 『リタイア』(クラッシュ)

 がくり、と両手と膝をつく愛華。桜がそれを呆れたように見下ろした。
「小回りの利かぬわしの『雷電』はともかく‥‥おぬしは何をやっておるのじゃ!」
「うぅ‥‥あそこで、あそこでブーストボタンさえ押さなければ‥‥」
 崩れ落ちた愛華を余所に、鷹司のトライアルが始まった。鷹司は、移動と命中の高いEF−006に20mmバルカンを2門積み、確実に的を当てにいく。
「チート」
「ポイント稼ぎが見え見え、って面白くないよね」
「うるせー。言ってろ」
 鷹司は無難にトライアルを終え、愛華の最下位が確定する。
 愛華が涙目で『保護者兼被保護者』の桜を見上げ‥‥桜は慌てて視線を逸らした。


 次に行われたのは、実戦形式の模擬訓練だった。
 ヘルメットワームを固定の作戦目標として設定し、襲撃側(氷冥、柳樹、幸、氷雨、鷹司)と護衛側(硯、ジュエル、桜、愛華)に分かれて行う模擬戦だ。
「突破口は私が開くから。後はよろしくね〜」
 飄々とした口調とは裏腹に、鋭い動きで氷冥が先陣を切る。だが、対する防御側は、その場に留まったりしなかった。
「攻勢防御。敵の出足を潰します!」
 積極的に前に出た硯機が対戦車砲を撃ち放つ。それは『攻勢に転ずる為の防御』というより『防御する為の攻勢』という積極的なもので、特にジュエルのワイバーンは、まず襲撃側の電子戦機を潰そうと、その機動力を活かして突進した。
「手は抜かねぇぜ。まずは支援機から頂く!」
 まずは柳樹の『摩天楼』、さらに幸の『岩龍』へ。味方を支援する彼等の重要性は言わずもがな。潰してしまえば敵の勝率はガクンと下がる。
 だが、目標たる柳樹のLM−01も、その場に留まってはいなかった。囮と奇襲を兼ねて前線へと突進していたのだ。
「「なにィっ!?」」
 思わぬ至近距離での遭遇。ジュエル機が飛び上がり、後ろ足にマウントした高分子レーザークローで軍鶏のように蹴りかかる。高い命中率を誇るEF−006の攻撃システムは軽快さが売りのLM−01も逃さない。柳樹機はそれでも姿勢を崩さず‥‥次の瞬間、フッと掻き消えた柳樹機が、ジュエル機の向こう側へと飛び出した。
 『回避オプション』。LM−01の突進を阻めるものなどそうそうありはしない。
「このまま目標まで突っ込むさぁ!」
「やるじゃねぇか!」
 裏を掻かれたはずのジュエルが笑みを零す。もちろん、そのまま譲るつもりもない。マイクロブーストを発動させ、走り去る柳樹機との距離を一気に詰める。
「逃がさねぇぜ!」
「追いついたんさ!?」
 背後を取られかけた柳樹が慌てて機体をクルリと回す。目標間近での二機による舞踏がクルクルと円を描いた。
 一方‥‥
 氷冥機に放たれた硯の135mm砲は、敵手によって回避されていた。すぐさま向けられる反撃の砲口。機体に爆ぜるガトリングの弾幕の中から硯は機体を滑らせる。
「固定目標ならともかく、動目標‥‥それもミカガミ相手だと対戦車砲は厳しいですか」
 激しい砲戦を繰り広げながら呟く硯。‥‥と、弾を撃ちつくした氷冥のガトリングがその咆哮を停止する。すかさず硯は135mm砲を撃ち放ち、直撃して怯んだ氷冥機を目指して文字通り矢の様に突っ込んだ。振るわれるハンマーボール。だが、氷冥機は身を沈めてそれを回避し‥‥その右腕に内臓された雪村を光らせる。
 そこへ立ち塞がる桜のXF−08D『雷電』。ヘビーガトリングに対戦車砲、高火力を撃ち放ちながら接近し、文字通り壁となって、硯機に必殺の一撃を叩き込もうとする氷冥機を圧迫する。その隙に離脱する硯機から、氷冥は桜機へと目標を変更し‥‥放たれた巨大な光の刃が、巨大な『城壁』を断ち割った。
「ぬっ‥‥! ただの一撃で雷電にここまでダメージを与えるとは‥‥!」
 一撃でそのHPの4分の1をもっていったその攻撃に驚愕しつつ、桜機は左手で光剣の遣い手の右腕をガシリと掴んだ。驚愕は氷冥も同様。ディアブロなら返す刀で墜ちている。
「今じゃ、天然貧乏腹ペコ犬娘!」
「わぉ〜んっ!!」
 ほんの一瞬、動きを止めた氷冥機に向かって、愛華の駆るXA−08Bが桜機を駆け上がる。氷冥機の背後に着地する『阿修羅』、その尻尾が鎌首をもたげて氷冥機に突き刺さろうと‥‥
 その直前、後方から放たれた無数のレーザー光が愛華機へと浴びせられる。
「いや、二人が連携するのは分かってたし、ね?」
 幸が呟く。後方に陣取った幸、氷雨、鷹司のレーザーによる砲撃支援。『岩龍』により命中率の上げられた光の雨は容赦なく愛華機に浴びせられ、堪らず回避運動を取る愛華機をそのまま追い立て、桜機から引き離す。
「硯さんに、愛華に、桜‥‥このまま孤立させる感じで、あとは1対複数で当たれば勝てる‥‥かな?」
 まぁ、そう容易い相手じゃないだろうけど。呟く幸の照準の向こうで、愛華機が両手にグレネードランチャーを引き抜いた。
「このままじゃダメだ‥‥攻めなきゃ!」
 両手のランチャーが、固まっている砲撃機たちへと放たれる。地面に着弾した榴弾二つが周囲に破片を撒き散らした。
 爆発と土煙、その中から飛び出す氷室機。愛華の砲撃の直前、氷雨は支援攻撃を止めて離脱していたのだ。飛び出すや否や、氷雨機は戦場のど真ん中に煙幕弾を撃ち放つ。
「うわっ!?」
「なんだっ!?」
 混乱する戦場を迂回して疾く目標のHワームへと回り込み、氷室機は必殺のエンハンサーを起動して砲口を向ける‥‥!
「チェックメイト」
 呟く氷雨。だが、その直前、動かないはずのHワームの目がギンと光り(演出)、目の前の氷雨機にプロトン砲を撃ち放つ。
 慌てて機を後退させる氷雨、それを追撃するフェザー砲の連続射撃。
 やげて、煙の薄くなった戦場で、Hワームは襲撃側、護衛側、無差別に攻撃を開始する。それは、教官である桜と愛華が仕掛けていたサプライズだった。
「わぅっ♪ みんな、引っかかったね♪ 意外な展開は常にそこに。忘れちゃダメだよ♪」
 にっこりと無線で呼びかける愛華機が、プロトン砲に焼き払われる。
「きゅ〜」
「って、これどうするんだよ、三つ巴かっ!?」
 ‥‥飛び交う怒号と光の砲撃。かくして、戦場は無秩序の混沌に呑まれていった‥‥


「タイムトライアルにおいて、鷹司が禁止事項に抵触しておった。反則とみなし、最下位は鷹司とする。‥‥奢りは鷹司じゃ!」
 訓練を終えた施設の食堂で、桜がそう宣言する。鷹司が最後のジュエル機に対して機体特殊能力を使用していた事が判明したのだ。
「まぁ、いいさ、昼食ぐらい‥‥好きなだけ食え」
 憮然として肘をつく鷹司に、氷冥が「後悔しますよ?」と嘯いて‥‥
「いただきますっ、遠慮なくっ!」
「せっかくじゃ、腹一杯食べるのじゃ!」
「肉もってこい、肉!」
「‥‥俺は肉はいいや。魚、食いたいな‥‥あと、野菜‥‥」
 ただ一人、隣のテーブルで緑茶を啜る氷雨を除き、餓鬼道へと堕ちる能力者集団。折り目正しく食事をしながら、硯は訓練を振り返る。
「‥‥装備選択は相手次第、という事ですか。ソニックブレードとガトリングだったら、模擬戦の結果も変わったかもしれない」
 折り目正しく、ただし、遠慮なく食べる硯。頭を抱えた鷹司を氷冥が見て苦笑する。
 いや、氷雨以外に、もう一人、食事に手をつけない者がいた。最下位のはずだった愛華だった。
「鷹司さん‥‥もしかして、わざと特殊能力を使った?」
「‥‥訓練につき合わさせる身で、奢らせるなんて出来んだろう」
 照れたようにそっぽを向く鷹司。へんな遠慮せずに食え、という鷹司に、愛華は表情を曇らせたまま頷いて‥‥普段の3倍ではなく、2倍だけ食べる事にした。