タイトル:英雄たち─3 「英雄」マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/20 07:24

●オープニング本文


 モニタ越しに映る世界は二つの闇に閉ざされていた。
 一つは夜の闇。そして、もう一つは吹き荒ぶブリザードの白い闇である。
 吹雪の中、息を潜めるように膝をつくKVにとっては、特に二つ目の闇が最悪だった。機が備えるパッシブセンサー類──多機能型の複合式光学カメラも高性能な集音機も、この自然の猛威を前にしたら何ら役には立たなかった。冬季迷彩のF-204── 寒冷地戦用のオプションを装備したこの新鋭機ですら、厳冬期の中央アジアでは鉄の棺桶に思えてくる。
 敵に発見されぬよう、待機モードに移行してから既に2時間。エンジンはモード変更から僅か5分で冷え切った。暖房は生命維持に必要な最低限度を辛うじて維持している。引っ張り出した防寒具に膝ごと包まり。吐き出した白い吐息に、計器類の微かな明かりが色をつける‥‥
 最初に痺れを切らしたのは敵の方だった。二つの闇の中、ゴーレムが放つ探針重力波── 見つかった。だが、同時に、敵も発信源を──自らの位置をさらけ出す。
 瞬間、204のパイロット──セシル・ハルゼイは操縦桿を引っ掴み、機を操作した。覚醒したエンジンの咆哮── 降り積もった雪を落としながら、砲を構えつつ機が立ち上がる。
 彼我の位置は彼等が思っていたより近かった。驚愕し、頭部センサを左へ──こちらへ向ける雪中迷彩の白いゴーレム。その姿をセシルは正面に捉えていた。冷静に、手早く砲を照準し、必中の間合いで引き金を引き──


 セシル・ハルゼイ── 19歳、男性。UPC北中央軍中尉。KVパイロット。
 ロスのダウンタウン出身。母一人、子一人の家庭環境。「一度きりしかない人生、どうせなら歴史に名を残すようなビッグな男におなり」と言われて育つ。
 母の死を契機に、ハイスクールを中退して軍に志願。動機は「ヒーローになって皆を救う」為。入隊後の検査で能力者適正が判明。ストライクフェアリーという特性を活かすべくパイロット候補生に。訓練終了後、当時としては最新鋭のF-201Cのパイロットとして、サンフランシスコ基地KV隊に配属となる。
 当該基地における任務は、西海岸へ進攻してくるバグア航空部隊に対する邀撃。激戦区ということもあって、配属半年で出撃回数は150回を超えている。誰よりも先に敵陣へと突入する彼の戦い方はひどく危なげなものであったが、小隊長代理のワイル中尉や僚機のイルタ・ユスティネン少尉らのフォローもあり、順当に戦歴を重ねていく。
 転機はユタにおける救出作戦中。避難民を満載した軍の車列が攻撃を受けた際、我が身の危険も顧みず敵前降下し、自機を破壊されつつも、見事、避難民たちを守り切ったのだ。彼の行動は命令違反であったが、西海岸に脱出してきた避難民たちがユタ奪還運動を展開していく中で注目が集まり、やがてテレビ局の取材を受けるまでになった。
 そこに軍の広報部が着目し、戦費調達と志願兵募集の旗印として『英雄』に祭り上げた。軍の『広告塔』となった彼は、他の数多の『英雄』たちと共に全米を回り、演壇から市民に祖国奪還への協力を訴え続けた。これら一連のキャンペーンは、バグアへの世界的な攻勢の気運もあって成功した。軍は北米奪還作戦を前に、膨大な戦費と予備兵力を獲得することとなったのである。
 北米奪還作戦が始まった後、多くの『英雄』たちは原隊へと復帰したが、能力者であり、KVパイロットでもあるセシルは『英雄』としての戦いを継続させられていた。星条旗カラーに塗装された最新鋭機、F-204エース部隊の『隊長』として、毎日の様に東海岸各地の解放戦に従事。その戦果を戦意高揚に利用され続けた。
 2012年、夏。残る攻略目標をフロリダ・メトロポリタンXのみとした北中央軍は、一連の戦意高揚キャンペーンを、その目的を達したとして終了した。その時には、軍は既に個人の英雄を必要としていなかった。東海岸の奪還を果たした北中央軍自体が『英雄』と化していたからだ。

「セシル・ハルゼイ‥‥ って、そうか。『英雄』セシルって、あの『ユタの英雄』セシルなのね」
 北米、サンフランシスコ。某TV局──
 戦中の知られざる英雄たちを取り上げるドキュメンタリー番組『英雄たち』の製作スタッフが、番組で次に取り上げる『英雄』を探して資料を収集している時。D(ディレクター)の一人が改めてその事実に気がついた。
 彼女は、まだセシルが『西海岸の英雄』であった時に番組で取り上げ、出演を依頼したことがある。Dは改めて資料を見直し‥‥ あの等身大の『英雄』が軍に虚構を背負わされていく過程を認識し、絶句した。
「セシル・ハルゼイ。彼は有名だ。我々の番組で取り上げるべき『知られざる英雄』ではない」
「違います。皆が知る『英雄』セシルは虚像です。軍の宣伝です。彼の本来の姿こそ、『知られざる英雄の姿』として我々が伝えねばならぬものなんです」
 P(プロデューサー)の前でDは力説した。Pはその熱意に折れた。なるほど。『作られた英雄』の実像に迫るというのも悪くは無い。
「いいだろう。で、セシルは今、どこにいるんだ? 原隊に復帰してロシアに行っているのか?」
 セシルの原隊はサンフランシスコのKV隊。その隊は今、中央アジアで行われている掃討作戦【RR】にロシアへの増援として派遣されている。
「調べました。セシルはキャンペーンの終了後も原隊には復帰せず、フロリダでいちパイロットとして戦い続けています。終戦後に除隊。特殊作戦軍に入隊し直し、傭兵伍長として中央アジアでの戦いに参加しています」
「伍長として? なぜだ? 軍から移籍すれば中尉のままでいられたはずだ」
「さぁ‥‥ 何か思うところがあったのでしょうか? 私は一ジャーナリストとしてそれを知りたいのです」
 Pは頷いた。なんとか予算をつけてやり、中央アジア・後方基地への渡航の手筈を整えててやる。
「セシル・ハルゼイがいるのは最前線だ。そこまでの取材は許可できない。ULTの傭兵たちに撮影の依頼を出す。彼等の集めた映像資料と軍の広報映像とで番組を構成してみせろ」


 それは必中の一撃となるはずだった。だが、セシルが眼前のゴーレム目掛けて引き金を引いた瞬間、愛機が手にしていた砲は爆発して砕け散った。
 初歩的なミスだった。砲身の中に入り込んで凍結していた雪が、砲を暴発させたのだ。
 突然の事態に狼狽しながらも、セシルは半ばを失った右腕ではなく、残された機の左腕で高分子振動ナイフを引き抜く。だが、セシル機が飛びかかるより早く、体勢を立て直した敵がプロトン砲を撃ち放った。吐き出されたエネルギーの奔流に左腕部と左脚部を吹き飛ばされるセシル機。誘爆はコクピットの一部にまで達し‥‥ 倒れ伏す愛機の中で、セシルは血と共に息を吐いた。
「これも‥‥ 罰か」
 シートベルトで縛り付けられたシートから落ちることもできず‥‥ セシルは、ゴーレムという形をした死が迫り来るのを眺めていた。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文

 ユーラシア大陸、ロシア。【RR】作戦、最前線──
 『彼』のことなど誰も知らない最前線のKV基地に、『英雄』セシル・ハルゼイはいた。
 北米の解放が成った今もなお、彼はこの異郷の地で一傭兵として戦い続けていた。
「【NS】作戦以来だな。もっとも、あの時は直接顔を合わせてないが‥‥ 白鐘剣一郎(ga0184)だ。今日から暫くこちらで世話になる」
「私、夢守 ルキア(gb9436)。覚えてないかもしれないけど、ユタの制空戦で同じ空にいた」
 応じるセシルの表情は年相応に素直だった。だが、その戦友たちの口から『英雄』という単語が滑り出た時、その表情ははっきり強張った。
「‥‥悪い。面倒なこととは思うんだが、そういう取材の話が来てな‥‥」
 心底済まなそうに、守原有希(ga8582)が頭を下げる。
「だが、単なる反戦や戦争肯定‥‥ 英雄崇拝の番組にするつもりはない。視聴者が、戦争と言うものを自ら考える材料にする‥‥ そんな番組にしたいんだ」
「簡単ではないと思うが‥‥ 周囲の思惑は置いておいて、君自身の想いを聞かせて貰えるとありがたい」
 有希と剣一郎の言葉にセシルは嘆息した。ルキアは思った。或いは彼は、このまま静かに消えたいと思っているのかもしれない。
「悪いけど‥‥ 話せることは何もないよ」
 空になったトレイを持って、セシルがその場を去っていく‥‥

 映像。軍の当時の宣伝映像── 星条旗カラーのF−204が勇ましく空を飛ぶ姿が様々なカットで映し出される。
 大仰なファンファーレとBGM。204が目を瞠るような空戦機動でHWを撃墜するたび、撃墜数がカウントされていき。ナレーションが『祖国解放の為、侵略者バグアの尖兵と戦う英雄セシルの本日の戦果』として人々に知らしめる。
 そして、東海岸で『破竹の進撃』を続ける北中央軍の『優勢』がニュース風に宣伝され‥‥
 最後に「君も明日のセシル・ハルゼイに──」の文字と共に、志願兵募集と戦時国債の窓口が表示されて、映像は終わる。

 場面転換。先程の映像とは異なり、ただひたすらに泥臭い雪原での地上戦。銃声と、砲声と、装甲を削る擦過音── 冬季迷彩を泥まみれにした204が、白刃を提げて突撃していく。
 そこにセシルの音声が重なる。
「‥‥映像資料? あんなものはただのサーカスだよ。派手なばかりの空戦機動‥‥ 剣一郎なら分かるだろ? 戦場であんな無駄な動きをしている余裕はない。あれは「さぁどうぞ」と差し出された最後の1機を『いたぶった』だけの映像さ」
 更に言えば、当時、星条旗カラーの204は4機いた。その戦果は全てセシル一人のものとして宣伝されたという。
 なぜそのようなことをしたのか?
「僕は軍人で、命令されれば従う他なかった。一度、ユタで命令違反をしてるしね。‥‥そして、何より、北米からバグアを追い出すために必要なことだと言われた。前線で銃火を交えるだけが戦争ではないのだと」

 暗転。字幕:北米ユタ州── セシルが『英雄』となる転機となった一件──
 映像。多くの避難民を乗せ、州間高速道路を走る軍の車列。そこへ、右方の丘の上から、砲戦型キメラの砲列が矢継ぎ早に礫弾を撃ち下ろしてくる‥‥
「(ナレーション:綾嶺・桜(ga3143))当時、ユタ州には多くの市民が敵中に取り残されており、彼等を救出する為の作戦が西方司令部により発令された。セシルも制空隊の一員としてこの作戦に参加した。当時は避難民を巻き込んでの大規模な地上戦を避ける為、KVの地上戦投入は禁止されていたのじゃが、眼下で市民がキメラに襲われているのを見たセシルは、その命令を無視して地上に降下した」
 映像。砲戦型キメラが並ぶ丘に人型降下していく1機のF−201C。乱れる敵の砲列。歓声を上げる避難民たち。だが、直後、降下してきたHWにその201Cは撃破される‥‥
 場面転換。墜落現場から助け出され、担架でティルトローター機に運ばれるセシル。阿野次 のもじ(ga5480)が無線機を差し出し、セシルに助けられた避難民たちの感謝の声を直接伝える。
「ちゃんとヒーローできてんじゃない」
 のもじの言葉にはにかむセシル。扉が閉まり、彼を乗せたV−22が土煙を上げつつ舞い上がっていく‥‥
 暗転。音声のみ──
「私のお母さんが言ってたよ。英雄になろうと思っちゃダメだって。それは私たちが勝った後、遠い未来で、誰かがそう語り継いでくれる筈のものだから、って」
「うちのマムも言ってたぜ。男たるもの、どうせ生きるなら歴史に名を刻むようなビッグな男になりやがれ、ってさ。‥‥もういねぇけどな」
 ‥‥この会話は、セシルがユタ上空の制空戦に参加した際、響 愛華(ga4681)と交わしたものだ。
 映像。インタビュー画面に映る愛華──
「‥‥当時のセシル君は誰よりも早く敵陣に突入するようなパイロットだったよ。勇気と無謀を勘違いしてる、というより、考えるより先に身体が動くタイプだったんじゃないかな? フォローするイルタさんとかは大変そうだったけど(笑)」
 画面外。桜の「まさにダン(英雄たち1参照)2世じゃな」との呟き。画面内の愛華が本当だよね、と苦笑する。
 愛華の苦笑が止まった。哀しげな表情で俯き、小さく一つ、嘆息する。
「なぜ無茶をするのか? ‥‥セシル君はただ、死んだお母さんの言いつけ通りにしようと、一生懸命だっただけなんだよ。それは本来、とても純粋なものだったのに」

「──母親、って‥‥ どんなの?」
 前線の廃屋、仮の兵舎── 暖炉の炎に薪をくべるセシルの背に向かって、ルキアはふとそんなことを訊ねた。
「どんなの、って‥‥」
「いや、私は母親ってものを『知らない』から」
 怪訝な顔をするセシルに、ルキアは言った。
 ルキアはロシアに来る前にロスでセシルの母親について調べたのだが、『英雄の母』としてのステレオタイプしか聞けなかった。ルキアはそんなものに興味はなかった。ヒトを── そのヒトの持つセカイを知りたかった。
「‥‥マムは俺にとって神であり、女神だった」
 ルキアが借りてきたイヤーブックの写真を見ながら、セシルは懐かしそうに語り始めた。
「叱られる時は容赦なくぶっ飛ばされたけどね‥‥ ギュッと抱きしめられた時の温もりはお日様みたいで嬉しかった。普段はどんなに忙しくても一緒に食事をし、勉強し、ヒーローもののテレビを見、歌を歌った。マムは朝が早かったが、俺も一緒に叩き起こされてね。お祈りと朝食をいつも一緒にさせられたもんさ」
 母は遊ぶことを禁じなかったが、勉強だけはしっかりさせられた。学問こそが貧困から抜け出す道だと信じているようだった。
「俺を高校までやって、マムは過労が元で死んだ。事故だった。‥‥学費が払えなくなり、俺は高校を中退した。そして、食う為に軍に志願した。‥‥母の言葉もあったしね。俺は皆を救う『ヒーロー』になりたかった。‥‥でも、祭り上げられたのは『英雄』だった」

「『英雄』かぁ。ボクは英雄をいっぱい知ってるよ」
 ソーニャ(gb5824)の台詞と共に場面転換。前線の野戦飛行場。即席のハンガーの中で能力者たちが待機している。
「例えば、エルシアン──ああ、ほら、そこにあるボクの愛機だよ──を好きだと言ってくれた新兵の少女。彼女は一発も撃つことなく空に散った」
 この世界には多くの英雄がいる── 名も無き英雄たちが、それこそ星の数ほどに。ある星は大きく光り輝き、ある星ははかなく流れて消えた。
「愛する者、或いは大切な何かを守る為。戦いに臨んで震える足は、しかし、立ち止まる事なく。恐怖に涙を浮かべた瞳は、それでも前を見据えていた。‥‥君は英雄でなければならない。真の英雄たちの存在を皆に語り継ぐ為に。彼等の声を届ける為に。君は既に個人としての英雄ではなく、彼女のような名も無き英雄の投影でもあるのだから‥‥」
「やめてくれ」
 ソーニャの言葉を振り払うように、セシルは立ち上がった。
「『英雄』たる俺の言葉を聞いて、軍に志願した者がいる。共に戦えることが光栄だ、と言って、死んでいった若者たちがいる。‥‥そうさ。彼等を死地に誘ったのはこの『英雄』セシル・ハルゼイなんだ。そんなの‥‥ いったい何が『英雄』だって言うんだ!」
 そのままその場を走り去るセシル。整備兵たちが何事かとこちらを振り返る。
 黙って話を聞いていたクローカ・ルイシコフ(gc7747)は、無言で『火鉢』を一回掻いた。
「‥‥目指していた『英雄』の実像に絶望した、ってとこかな。背負わされたものの重みに耐えられなかった── それがここまで彼を追い詰めたものだろう」
 戦意高揚の為に背負わされた虚像。その虚像を信じて軍に身を投じた若者たち‥‥ 彼等と同じ一兵士として戦える場を求めて、セシルはこの地に来たのだろう。或いは、死に場所を求めて。
「そういうつもりで、言ったんじゃないのに‥‥」
 クローカの言葉にソーニャは頭を振った。志願兵たちは別にセシルに志願を強制されたわけではない。それぞれ守りたいものがあったからこそ、戦うことを選択したはずだ。
「『英雄』なんてのはどこにも存在しない。いるのはごく普通の‥‥ どこにでもいる一人の人間だ」
 クローカの言葉と共に画面が暗転する。

 そして、冒頭(OP)のシーンへ戻る。
 大破した操縦席で、「これも罰か」と呟くセシル。それを上空のピュアホワイトの操縦席で聞いたのもじは‥‥ 怒りに拳を震わせた。
「‥‥あんの馬鹿弟子がぁ‥‥ 皆! 馬鹿の居場所が分かったわよ! 点在する敵の位置もね!」
 ゴーレムが発した索敵重力波を感知して、その情報を僚機へ送るのもじ。瞬間、ソーニャはロビン『エルシアン』のブーストを全て焚いて一気に加速。吹雪の空を突進した。
「助かる命なら助かる方がいい。‥‥主役に死なれると、ボクが空を飛ぶシーンが減るかもしれないし」
 マイクロブーストも併用して一気に戦場上空へと達するソーニャ機。‥‥いた。と認識した瞬間、機を逆落としに降下させる。二重の闇の中で機位を見失う危険── それを無視しつつ、敵ゴーレムの眼前にレーザーの矢を降り下ろす。
 更に突っ込んで来た有希の204が、空からGP−02Sミサイルを全弾投射し、セシル機付近の敵に対して制圧射撃を実施する。
 地上から戦場に接近していたクローカのラスヴィエートは、それを受けて射撃体勢を整えた。動き出した敵機の熱源をパッシブセンサで確認し。放電に照らされ、闇の中に浮かび上がった敵影に向けてリニア砲を照準し‥‥
「うちのこになにさらすんじゃあー!!!」
 そのまま引き金を引こうとしたクローカは、空から剣翼煌かせて突っ込んできたのもじ機の無茶っぷりに、慌てて引き金から指を離した。
 そのまま人型へと変形しつつ雪の中に突っ込むのもじ機。半分雪だるまになりながらゴーレムまで駆け戻り、横殴りに機杖を振るってぶん殴る。
「む、無茶をする‥‥」
「ふっ。4年前のジェノバ風よりは上手くなってるわよ? ‥‥何事も慣れって大事よね」
 直角に首の曲がった機体で格好つけて(つけてない)語るのもじ。そこへさらに愛華のパピルサグが無理やり雪を蹴立てて突っ込んで来て、のもじ機を雪塗れにしながらゴーレムに突っ込み、吹っ飛ばす。
「セシル君、死んじゃダメだよ! お母さんとの約束があるよね!? まだ君はそれを達成できたと胸を張って言えないはずだよ! だから、まず生きて、笑って! お母さんに胸を張れるように!」
 吹雪の中、機のハッチを開けて、セシルに叫ぶ愛華。近くに停まった骸龍からルキアが飛び出し、治療の為に204の操縦席へと駆け上がる。
「血行が良くなると、出血も酷くなる。――寒かったのが幸いかも」
 『練成治療』で応急処置し、ベルトを外してセシルを受け止める。そのままセシルを肩に担ぐルキアの後ろを、駆けつけた剣一郎のシュテルンと桜のシコンが雪を巻き上げならブーストで跳躍。ゴーレムとの間に割って入る。
「彼の搬送は任せる。頼むぞ。‥‥ここで彼を死なせるつもりは無い。バグアにはお引取り願おう」
「おのれ、セシル機に続いて愛華機までもっ!(←違います) おぬし等はここから吹き飛ぶが良いわ!」
 ハンマーボールをグルングルンと振り回し、迫り来る敵へ突進していく桜のシコン。機剣と練剣を抜き放った剣一郎機はチェーンガンを撃ち捲くりながら、別方向のワーム群へ突進していく。
 起き上がろうとしていたゴーレムは、のもじ機に蹴られて再び倒れた。その胸部をクローカ機が踏み蹴り、そのままリニア砲を叩き込む。
 ルキアに助け出されたセシルは、そのまま1機の正規軍機の補助シートに乗せられた。薄目を開けて部隊章を確認したセシルは、懐かしさに微笑を浮かべた。
「まったく、相変わらず無茶をして」
 聞きなれた戦友の愚痴。苦笑するイルタの顔を見やりながら、セシルは意識を喪失した。

 場面転換。後方基地、病棟。セシルのいる病室──
「まったく、間に合ったから良いものを! ちゃんと生き抜け、このばかちんがー! ‥‥お前が希望を灯した人たちはたくさんいるんだ。恩人が死んだら哀しい。生きていて欲しいと思う。それが人ってもんじゃないか」
 有希はそう言うと、セシルに映像端末を渡した。そこには、あのユタで助けられた人たちがセシルに激励のメッセージを送る姿が映っていた。
「あー、もう。こんな当たり前のことを、今更‥‥」
 バリバリと頭を掻きながら呻くのもじ。いや、そんな当たり前のことを誰も伝えていなかったから、こんなことになったのだろうか。
「ほい、セシル、こっち向き」
 のもじがセシルの頭をその胸に抱きかかえる。
「ユタのみんなを守ってくれてありがとう。お前は自慢の教え子だ。私は貴方のお母さんが貴方を生んでくれたことに感謝する。‥‥誰にだって胸を張って言えるよ。貴女の自慢の息子だ、って」
 その一言に、セシルは泣いた。病室に、嗚咽だけが暫し、響いた。

「たとえ戦争が愚かな行為でも、愛する者、大切な者を守る為に、恐れ、涙を流しながら戦った彼等は美しかった‥‥ そんな彼等の話を、皆に伝えて。‥‥キミの素顔は、ボクたちが見ていてあげるから」
 見舞いの最後に、ソーニャがそう告げて去っていく。クローカはポンとセシルの肩を叩いた。英雄などと言ったって、ただの人間。気負ったって仕方が無い。
 ルキアは思った。これがセシルの、彼のセカイ。母が誇れる自分であろうとヒーローを目指し、英雄の重さに押し潰された若者の顛末。それは見るものにいったい何を残すだろうか。

 病室を去る能力者たちと入れ替わりに、桜と愛華が正規軍の二人──イルタとワイルを連れてきた。
 慌てて涙の跡を消そうとするセシル。桜と愛華が顔を見合わせ、笑う。

 映像はここで終わる。
 判断は視聴者に委ねられている。