●リプレイ本文
やはり、こういった残党との戦いは避けられないか──
SoMの繋留装置に繋がれたシュテルンの操縦席で、発進準備を進めつつリヴァル・クロウ(
gb2337)は呟いた。
厳しい戦いだ。‥‥戦争中とはまた別の意味で。
背後より追ってくる巡洋艦── これはいい。強敵ではあるが交戦自体に問題はない。
問題なのは前方より迫るBFだ。あれは交渉により穏便に地球から離脱してきた船。それを地球の艦が沈めたとなれば、軍の信用は地に落ちる。そうなれば、『交渉による宇宙への退去』という選択肢をなくした地上のバグアは死に物狂いで戦うだろう。結果、軍にも多大な──余分な犠牲を出すことになる。
「先制攻撃はできない、か‥‥ 後手後手の戦いを強いられるな」
「いつもなら手近な奴から沈める、くらいの感覚でいくんだが‥‥ 政治的な問題ともなると、一介の傭兵には責任は取れんしな」
アンジェリカの操縦席で、リヴァルに答える時枝・悠(
ga8810)。黒羽 拓海(
gc7335)は苦笑した。やれやれ、良くも悪くも『英雄』というものは人気者だ。人に限らず、艦までも。
「BFの意図は読めんが、わざわざこちらに転進してきたんだ。何も無くはないだろう」
問題は、それが敵か、味方か。もし、敵ならSoMは、G兵器がない状態で2艦に挟撃されることになる。
「『恐らく』BFにこちらへ敵対する意思はない── ジャミングも出して無いし。個人的には、これはただの『遭遇戦』── 互いに人命を削るのもバカらしいんで、逃げれるなら逃げるのがベストじゃない?」
発艦したピュアホワイトを艦の横につけながら、阿野次 のもじ(
ga5480)が意見を伝える。響 愛華(
ga4681)が言葉を続けた。
「ここで下手を打てば責任問題にもなりかねないんだよ。‥‥あのBFはその能力を発揮していない。巡洋艦はともかく、少なくともあっちは『話が分かる』んじゃないかな?」
ロディは沈思した。実を言えば、ロディも傭兵たちと同じ様なことを考えていた。‥‥ジャミングを出していないのは、こちらへの明確なメッセージではないのか。だが、こちらからの呼びかけにBFは応じる気配がない。
確証がなかった。判断材料が足りなかった。多くの乗組員の命を預かっている以上、安易な賭けには出られない。
結局、ロディは胃を抑えながら、左方への針路変更を指示した。BFからもバグア艦からも遠ざかるルートだ。ただし、まっすぐ逃げるよりも後方のバグア艦には追いつかれ易くなる。
「KV隊」
「了解している」
傭兵たちは、SoMより優速のバグア巡洋艦を足止めすべく、榊 兵衛(
ga0388)の雷電、月影・透夜(
ga1806)のディアブロ、綾嶺・桜(
ga3143)の吼天、悠機の4機を派遣した。残る愛華のクラーケン、リヴァル機、拓海のタマモは、情報支援機たるのもじ機と共にSoMに直衛。BFが敵対した場合に備えて待機する。
「こちらには歴戦の猛者たちが仲間にいる。なんとか切り抜けてみせるさ」
「まあ、これくらいのアクシデントはよくあることだ。気張らずにいこうか。それに、艦内で通常業務を撮るだけより、よっぽど盛り上がるだろ?」
全ての発進準備を整えて。顔を蒼くする撮影クルーに、拓海と悠が安心させるように(或いは皮肉気に)声をかける。
かくして、3艦による奇妙な交戦は始まった。
BFは、敵か、味方か── 現状では、それは、BFの対艦砲がSoMを射程に捉えるまで分からない。
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「‥‥前門の虎、後門の狼、か。『虎』の方がまだ話が通じる可能性がある以上、『狼』の方を全力で怯ませて脱出を図るのが賢明なのだろうな」
バグア艦を風防越しに見据えながら、兵衛は淡々と気合を入れた。
バグア艦に向かった足止め班は、側方に回り込もうとする桜の吼天を後置しつつ、ブーストで前進。敵との距離が20に達した時点で散開し、それぞれが搭載する遠隔操縦装置を分離した。
透夜のシェルクーンチクが、兵衛の岩龍型遠隔攻撃機が、悠のロトゲシュペンスト3機が、パイロットの意思に従って激しく機位を入れ替えながら宙を飛び‥‥ バグア艦に直衛していた大型キメラ2匹を砲撃によって瞬く間に粉砕する。残る小型HW1機は慌てて艦の直上に占位して。直後、直上から降り落ちて来た透夜の遠隔機に撃ち抜かれる。
「可能なら、艦の火砲全部潰して丸裸にしたいところだけど‥‥ SoMが追いつかれるまでの時間を考えると現実的ではなさそうか。優先順位を決めて、脅威度の高いものから排除していくかね」
いつでもSoMに戻れる位置に機を留めて悠が言う。その言葉に応じて、透夜が主砲を潰すべく突っ込んだ。
「戦いは終わったって言うのに‥‥ それでも仕掛けてくるってことは、当然、覚悟はできてるってことだよな!」
被弾し、墜落してくるHWをバグア艦の対空砲が迎撃し‥‥ その爆発をブラインドに接近した透夜機が、バグア艦の主砲に上方から集積砲を叩き込む。砲塔上で一際大きく湧き起こる爆発。それを見た兵衛は、機の針路を擬似慣性で鋭角的に変えると、撃ち上げられる対空砲火を雷電らしからぬ身軽さでひらりひらりとかわしながら、狙撃砲と誘導弾で追撃した。ひしゃげた装甲を貫通し、爆発する狙撃砲弾。そこへリリースされた誘導弾が次々に降り注ぐ。透夜は敵艦への『降下』を続けながら、砲塔基部へ突撃砲弾を叩き込みつつその傍らを飛び抜けた。直後、空いた空間にスルリと入り込み、水平射撃を加える悠の3基の遠隔攻撃機。原型を留めぬ程に破壊されながらも再生を始める主砲塔を見やって、悠はふむ、と呟いた。──まぁ、このくらいでいいか。完全に破壊できなくとも、母艦が逃げ切るまで使えなくできれば良いのだし。
「見たか! KV乗りの中でもエースクラスのパイロットたちだ! 巡洋艦相手でも引けは取らない!」
SoM、CIC(戦闘指揮所)── ひらりひらり、と対空砲火をかわすKV隊をモニタ越しに見やりながら、指揮シートから立ち上がったロディが格好をつけつつ、チラとテレビカメラを横目に見る。
そんな艦長の姿に、オペレーターたちはそれぞれの表情で互いに顔を見合わせた。‥‥うん。少なくとも尻に帆かけて逃げてる艦長が威張って言う台詞じゃないよねぇ。
「ロディ艦長‥‥ 結構、お茶目なところがあったんだね‥‥」
「なんというか‥‥ なかなかにユーモラスな人なんだな。もっと硬く厳つい人物を想像していただけに、意外だ」
SoMに直衛しつつ、苦笑する愛華と拓海。英雄に祭り上げられて舞い上がっているのか、或いは、好感度を少しでも上げようという(間違った)試みか。ともあれ、BFは不気味な沈黙を守りながらSoMへの接近を続けている‥‥
「こちら、桜。射撃位置についた。透夜、護衛を頼むのじゃ!」
敵艦『右舷』側に回り込んだ桜機が、周囲に『天鏡』を切り離しながら、対艦荷電粒子砲の砲口を敵艦の尻へと向ける。
まったくこの時期に吼天を使うことになろうとは。天鏡の位置を『天龍』へと誘導しながら、桜が呟く。──撃沈する、とは言えぬまでも、SoMの為、せめてその『足』は奪わせてもらおう。
砲口前に展開した天龍の間に滞留していくエネルギー。敵は動けぬ桜機を高角砲──ポジトロン砲で狙い撃ったが、護衛に戻ってきた透夜機が左腕部の装甲を犠牲に受け凌いだ。単騎、敵艦の近くに残った兵衛機が、擬似慣性機動で対空砲火をかわしながら敵艦の周囲に纏わりつきつつ、その突撃砲で高角砲を一つ一つ潰していく。
「‥‥さしずめ、巨象に集るハエ、といったところか? だが、こちらもただのハエに終わるつもりはない。母艦の退却が完了するまで、付き合ってもらうぞ」
操縦桿とフットペダルを巧みに操りながら、兵衛がチラと風防を見上げる。そちらには虚空に留まる1機の吼天。その砲の充填が完了する‥‥
「全弾フルチャージ‥‥! 叩きこむのじゃ!」
叫びと共に引き金が引かれ、滞留したエネルギーが虚空へと解き放たれる。放たれた光弾は光の槍と化して一直線に宙を奔り。敵艦側面後方、機関部付近に突き刺さって、巨大な光の華をそこに咲かせた。
「機関部被弾! 推力、25%の低下!」
「破壊された主砲の修復、間に合いません!」
KVからの思わぬ打撃に、狼狽するバグア艦艦橋。艦長は内心の動揺を隠しつつ、指示を出す。
「うろたえるな! 奴等にこの艦は沈められん。敵は素早い。狙わず、弾幕を張れ。それにまだ副砲が、プロトン砲がある。まだ出すなよ。敵艦への攻撃直前まで温存するんだ。攻撃はミサイルで行う。前部発射管、斉射!」
警告の電子音が鳴り響き、のもじはセンサーモニタに視線を落とした。
ミサイルだ。敵巡洋艦を示す光点から複数の光の点が分かたれ、こちらへ──SoMに向かって突っ込んで来る。
「苦し紛れね」
のもじはそう断じると、前方で迎撃に入った悠機をモニタに見ながら、護衛の愛華機、リヴァル機、拓海機を、迎撃に最適な防衛ラインに誘導した。
「行け、ガンナー!」
拓海の叫びと共に機を離れ、一気に加速していくフォビドゥンガンナー。のもじの、そして愛華の同型遠隔機も同様に宙を奔って行き‥‥ センサー上、遠隔機に取り囲まれたミサイル群が、瞬く間にその数を減らしていく。
その包囲網を突破した僅かな誘導弾たちも、悠とリヴァルが前後から放つ『マジックヒューズ』に絡め取られた。発砲する迎撃の機関砲── 光を曳き、宙を飛翔した機関砲弾が攻撃圏内にミサイルを捕捉し、作動した近接信管が炸裂、ばら撒かれた破片が敵弾を乱打し、爆発させる。
「センサーに感なし。全弾の迎撃を確認」
淡々と仕事の成果を報告するのもじ。
バグア艦より発射されたミサイルは、ただの1発もSoMに届かず、護衛機たちによって全て撃破された。
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バグア艦の艦長は僚艦の行動に疑念を抱いた。
事態の表面だけを見れば、挟撃の形になっている。だが、あのクソッたれ艦の迎撃は全てこちらに集中しており、BFとは互いに砲火も交えず、艦載機すら飛ばしていない。
だからこそ── 地球艦を対艦砲の射程に収めたBFが発砲しなかった時も、彼は罵声よりも早く命令を発することができた。
「BFに照準済みのミサイルを全弾発射! 全副砲、砲門開け。裏切り者どもを許すな!」
2種の遠隔攻撃機を切り離しつつ、後方へと下がる桜機の視界の中、ミサイルを斉射するバグア艦。その甲板上にせり上がってきた副砲が全門、BFに発砲する。砲撃を受け、小爆発を起こすBF。そこに襲い掛かろうとしたミサイルの群れは、だが、SoMから離れて進撃してきたKVによって防がれた。
歓声を上げるSoMクルー。ロディが艦の反転と、バグア巡洋艦に対する総攻撃の指示を出す。
「わふぅ〜、狼さんと虎さんに追われなくて良かったんだよ〜!」
最早、直衛も必要なく、桜の所まで飛んでいった愛華機が遠隔機を切り離す。愛華と桜、そしてのもじの3人は、後方から遠隔機を誘導し、対艦攻撃を行う味方と異なる角度からバグア艦へと突っ込ませた。誘導弾をばら撒きながら飛ぶ兵衛機を砲口で追う対空砲を、その側面、至近距離から粒子砲で破壊する。
さらに、ブーストを焚いて突っ込んできたリヴァル機が正面から一気に敵艦直上まで駆け上がり。逆落としに降下しながら、K−02に対空砲火群を照準固定させる。ロックオンシーカーの反転と共に斉射。機体各所から放たれたマイクロミサイルの群れが敵艦へと降り注ぎ、甲板上に爆発が乱舞する。
その爆発を横目で見やりながら、敵艦側方を飛び抜ける悠機と拓海機。2機は兵装に練力を叩き込みつつ敵艦後方に回り込むと、吼天が空けた破孔に向けて、周囲に浮遊させた遠隔機と共にレーザーとロケット弾を撃ち放った。拓海機が投射した爆発の乱打が再生しつつある装甲板を押し返し。悠機の振るう『光の刃』が焼け爛れた敵艦を切り裂き、連鎖する小爆発と共に噴射口の1つを脱落させる。
拓海機は更にブーストを焚いて敵艦上方へと飛び抜けると、人型へと変形して甲板上へ降り立った。そこへ直上から人型で舞い降りてくるリヴァル機。2機は擬似慣性制御で機体を甲板に押し付けながら、ブースト装輪で敵艦前部へと疾走。BFへ砲撃を続ける副砲群に殴りかかる。
空になったミサイルポッドをパージしつつ、リヴァル機が腕部脚部に輝くエッジでもって砲を断ち切り。右拳に機拳を展開した拓海機が副砲塔基部を全力でぶん殴る。貫き、空いた穴へ突撃砲と機関砲を撃ち放ち、離脱する拓海機とリヴァル機。2機が離れた直後、副砲塔が吹き飛び、爆散する。
「うわ、ホントに丸裸だ」
呆れたように悠が呟いた通り、敵艦は急速にその武装を『解体』されつつあった。バグア艦艦長が残された最後のミサイルを使って断末魔の攻撃を、護衛のいなくなったSoMへと放とうとする。
だが、それは、(なぜか)人型で腕を組んで宇宙に佇立するのもじ機によって捕捉されていた。連絡を受け、敵艦前方に回り込む透夜機と兵衛機。放たれる弾幕を物ともせずに突き進む兵衛機の陰から飛び出した透夜機が、開いたミサイル発射管に集積砲を叩き込む。
「遣り様はある、ってことだ。使えるも物は全て使ってやるさ」
ミサイルが艦内で誘爆し、大きな爆発が艦前方へと噴出する。それは最早とどめであった。大きく前部を損じたバグア艦に、BFが放った対艦砲が突き刺さる。
艦長やクルーの無念の叫びと共に、バグア艦は巨大な光球と貸して爆発し。宇宙の塵と消えていった。
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戦闘を終え、併走するSoMとBFに映像が繋がった。
BFの船長は地球人をヨリシロとしたバグアだった。海軍出身のヨリシロなのか、敬礼でロディに対する。
「UPC宇宙軍中央艦隊所属、SoM艦長、マリガン中佐です。貴艦の支援に感謝します」
「お気になさらず。約定破りの愚か者を処理しただけのことです」
返礼するロディに船長が言った。‥‥もし、ここでバグア艦が、帰還船を監視している地球の巡洋艦を撃沈してしまったら、地球人は態度を硬化させるかもしれない。そうなれば、地上に残されたバグアは宇宙へ帰還する術を失い、全滅しかねない──
互いに政治的な決断を下して共闘した2人の艦長が敬礼で分かれる。お疲れ様、と声をかける愛華。そんなロディを見ながら、のもじは肩を竦めた。
「ロディ艦長ってばホントついてるんだかついてないんだか。これ、上手くすれば将官コースだろうけど‥‥ 性格的に艦隊司令とか向いてなさそうだしなぁ」
宇宙軍において功績を挙げ続けたロディは翌年、艦を離れて『陸』へと上がった。カンパネラ要塞・艦隊司令部付── それは宇宙軍における将来の栄達を約するものであると同時に、海軍への復帰が絶望的になったことも意味していた。
将来、彼は将官にまで昇進し、『常に厳つい顔をしたオヤジ』として知られることになるのだが‥‥
それが胃痛によるものだと知るのは、SoMのクルーと、共に戦った傭兵たちだけである。