タイトル:『英雄たち──』1.MATマスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/30 00:59

●オープニング本文


 医療支援団隊『ダンデライオン財団』の車両班『MAT』の機関員、レナ・アンベールが意識を取り戻したとき、その身は既に地獄のユタ州、アンテロープ島から運び出された後だった。
 場所は大塩湖西岸。島に取り残されたユタの後衛戦闘大隊を救出する為、仮設した拠点である。レナはその野戦病院代わりのテントの中に、他の負傷兵たちと共に運び込まれていた。忙しく離発着を繰り返すヘリに煽られ、激しくはためく天幕の壁── 開け放ちにされたままのテントの入り口からは、引っ切り無しに新たな負傷兵が運び込まれてくる。
 その光景をぼんやりと見やりながら、レナは現状の把握に努めた。
 自分がここにいるという事は、軍による救出作戦が始まったということだろう。私や負傷兵たちはまず最初に運び出されたはずだから。
 だが、次々と運ばれてくる新たな負傷兵の存在は、島の大隊か救出部隊に大きな損害が出ていることを意味していた。いったい、救出作戦はどうなったのだろう。成功したのか。それとも、失敗したのか‥‥?
「軍は重篤な負傷者から先に西海岸へと搬送しています! レナさんたち、重傷者はその後だそうです!」
 ヘリの爆音に負けじと、MATの後輩、サム・ワイズナーが傍らでそう声を張り上げる。その袖を掴み、レナは訊ねた。
「救出作戦はどうなってるの? ダンは? まだあの島に残っているの?」
 サムの身体がビクリと震え‥‥ 今にも泣きそうな顔で振り返る。
 麻酔が効いてきたのだろうか、レナはその答えを聞く前に再び意識を喪失する‥‥

 再び目を覚ました時、レナは、財団が所有する西海岸の大病院の一室に入院していた。
 元相棒のダン・メイソンが、味方を逃がす為に、燃料を満載した高機動車で超大型キメラに体当たり攻撃を仕掛けたと知らされたのは、それから二日後のことだった。


 大富豪ロイド・クルースが設立した『ダンデライオン財団』は民間・非営利の医療支援団隊である。
 軍や政府の手が回らぬ──有り体に言えば『見捨てられた』地域に対して、医師の派遣や医薬品の配布、重篤患者の搬送など、積極的な医療支援活動を行っている。
 その中でも車両班は、特に危険な役割を担っていることで知られている。キメラの跋扈する危険地帯を突っ切って活動する彼等を、人は『MAT』(Medical assault troopers)──『突撃医療騎兵隊』と呼んだ。

 レナ・アンベールにとってダン・メイソンは、機関員として最初にコンビを組んだ相手だった。最初に受けた印象は『嫌なおっさん』の一言に尽きた。
 MAT隊長、ラスター・リンケの決定により、当時、新人だったレナの『教育係』に任命されたダンは、財団の理念を──つまり、自分たちの活動を『偽善』と断じ、平気で揶揄するような男だった。理想に燃えて入隊してきたレナにとって、それは受け入れ難い言動だった。
 だが、実際の活動において、ダンは誰よりも精力的に任務をこなした。能力者もかくや、と言う運転技術で、どのような状況下でも決して諦めず、医療支援を待つ人々に医師を、医療を、救援物資を搬送し続けた。
「理念で人は救えない」
 それがダンの一貫した考えだった。共に仕事を続けていくうちにレナはようやく理解した。『崇高』な理念に背を向けたこの男こそが、誰よりも財団の理念を体現している──

「当時、私が君とダンを組ませた理由は2つあった。
 一つは、理想を抱いて意気揚々と入隊してきた、情熱過多で危なっかしい新人に、地に足をつけた活動というものをダンから学び取ってもらうため。
 もう一つは、『いつ死んでも構わない』という虚無的な想いで活動を続けていたダンに、『人を助ける為なら死んでもいい』とか思っている若者をぶつけて、今一度『生』について再認識してもらうためだった」
 北米、サンフランシスコ。ダンデライオン財団本部──
 怪我から回復し、任務に復帰するべく訪れたレナに向かって、ラスター隊長はそんな事を口にした。
「その目論見はうまくいった。新人は優れた機関員に成長し、ベテランもまた己の活動と人生にその価値と意義と希望を取り戻した」
「‥‥けど、それも無駄になりましたね。あの人は死んでしまった。私や皆を助ける為に、本人がもっとも嫌っていたやり方で」
 レナの言葉に、ラスターは無言でデスクの引き出しから一通の封書を取り出した。訝しむレナに、ラスターが中を見るよう勧める。レナは小首を傾げながら封筒を手に取った。差出人は西海岸のテレビ局。中には挨拶文を兼ねた要望書と、一冊の企画書が入っていた。
「今回の戦争において、人知れず活躍してきた人物にスポットライトを当てて紹介する番組を制作するそうだ。その対象の一つとして、我々、MAT、そして、ダン・メイソンに白羽の矢が立った。番組名は『英雄たち──』」
 レナは思わず呆気に取られた。確かに、身を捨てて大勢の他者の命を救ったダンの行為が英雄的であることは間違いない。だが、それは財団本来の理念とは反する英雄性であるはずだ。それに‥‥
「見世物にするつもりですか、上は。ダンを、そしてMATを」
「広報活動、と上の連中は言っている。これからも、いや、戦争が終わったこれからこそ、我々の医療支援活動は重要になる。財団が協力する目的は、あくまで世間一般に財団の活動を認知して貰うことにある」
 なるほど、テレビに取り上げて貰えば寄付金も増えるというわけだ。現実的な理想主義者か、理想を抱いた現実主義者か── なんとも財団らしいというかなんというか。
「番組はドキュメンタリーの形式を取るそうだ。構成は財団の広報映像と軍が記録していた映像資料。新規には、隊に密着しての撮影と、ダンを知る関係者へのインタビュー‥‥ そして、最も親しい関係者が『回想』の地を巡りつつ、最後にダンの『遺族』に遺品を届けにいくシーンで終わりたいらしい」
「ちょ、隊長、まさか‥‥」
「その『最も親しい関係者』として、上は元相棒の君に白羽の矢を立てた。‥‥すまん。俺はこのようなやり方には反対したんだが‥‥ 色んな意味で馬鹿げた話だとは思うのだが、どうにか頼む」
 そこまで言うと、ラスターは目を伏せ、指を組んで口元を隠した。その肩が震えている。それを見たレナは何も言えなくなった。
 レナは「少し考えさせてください」と言うと、廊下を出て休憩室に出た。甘すぎる紅茶に口をつけながら、結局、断れないよな、と苛立たしげに頭を掻く。
(それに、遺族に遺品を届けるのなら、それは元相棒の私の仕事だ。テレビカメラがついてくるのは気に食わないけど、他の誰にも任せられない)
 レナは空になった紙コップを屑籠に投げ入れると、再び執務室へと向かった。
 ──辛い旅になるだろう。その外れようのない予感が彼女の肩を落とさせた。

●参加者一覧

月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
鴇神 純一(gb0849
28歳・♂・EP
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA

●リプレイ本文

 あなたは、『ダンデライオン財団』を知っていますか──?
 その車両班、MATを知っていますか──?

 そして、そのMATの機関員として、キメラの跋扈する危険地帯を物ともせずに医療支援を届け続けた──
 ダン・メイソンという名の一人の英雄を──

 貴方は、知っていますか──?


 番組の開始と同時に暗転した画面に、白く、問いかけるような文字が浮かんだ。
 その文章に合わせ、響 愛華(ga4681)が努めて抑えた口調で読み上げる。
 彼女の役目はナレーター──声で番組の進行を担当する役割だ。そこに感情を入れることは許されない。
 だから、愛華は自らの感情を押さえ、静かに視聴者に問いかけた。
 貴方は、ダン・メイソンを知っていますか? と。
 私は知っている。彼の理想を。人柄を。そして、彼の生き様を──

 画面が切り替わる。
 映像は、小型カメラのものと思しきものだった。どこかの海岸──いや、湖岸の道の上に、多数の兵を車上に乗せた装甲車両が並んでいる。
 恐らく車両上の兵の一人が撮影したものだろう。渋滞でもしているのか、車両は全く動かない。
 どこかそう遠くない空に鳴り響く砲声。その近さにざわつく兵たち。不安げに揺れるカメラの視界に、稜線の向こうから数台のIFV(歩兵戦闘車)が機関砲と誘導弾を撃ち捲くりながら後退して来るのが映り──
 直後、その稜線越しに、全長20mにも及ぶ超巨大ヒトデ型キメラが、ゆっくりとその『2本足』で立ち上がる。
 慌てふためいた兵たちが車上から飛び降り、武器も何もかも放り捨てて反対側へと逃げ出しにかかる。同様に逃げるカメラに、湖上に浮かんだ脱出艇(水上機)と空を舞うティルトローター機、そして、鈴なりになった脱出待ちの人の群れが映り。
 と、放たれたささやかな反撃を追ってカメラがヒトデ型を振り返り── 傍らを走り抜けていった一台の高機動車が、ヒトデの巨体の『片足』目掛けて突っ込み、大爆発を起こすシーンを捉える。
 足を取られた巨大ヒトデは踏ん張ろうとしてその自重を支えきれず、巨大な水袋の様に斜面を転がり、湖面に転落して水柱を噴き上げる‥‥

「‥‥2011年、冬。ユタ州アンテロープ島。後衛戦闘大隊、最後の撤収時の様子です。この時、ガソリンを満載して超大型ヒトデキメラに体当たりを仕掛けた高機動車のドライバーがダン・メイソン。彼の自己犠牲により、島に取り残されていた兵の多くが無事、大塩湖西岸の安全地帯まで撤収することに成功しました。
 しかし、彼の英雄的行動の本質は、この一事ではありません。彼本来の英雄的行動とは? それを知るには、まず当時のユタ州の状況と、彼が属した『ダンデライオン財団』、そしてその車両班『MAT』について語らなければなりません‥‥」

(映像、再暗転。テーマ曲と共に大きく題字が表示される)

 英雄たち── 勝利へと至る戦いの裏側で、人知れず働き続けた無名の勇士たちの記録──
 第一回 『不可能を可能にする男』 ダン・メイソン 〜『キメラの海』を駆け抜けたMAT機関員〜

 
(映像:装甲救急車内に取り付けられた定点カメラ。運転席で煙草を燻らせるダン・メイソン。空いた助手席に、開け放ちにされたままのドアから若い女性が飛び乗ってくる)
「患者の収容を完了しました。10代男性、意識レベルE1V1M1で変化無し。早急に搬送・処置する必要があると認めます」
「了解した。本部、本部。こちらAMB6。第4キャンプの患者の収容を完了した。これよりルートN1を通って第1キャンプ本部病院へと搬送する。10分以内だ。医者先生たちに準備をさせておいてくれ」
『AMB6、こちら本部。第6キャンプに向かったAMB7が『キメラの巣』を引っ掛けた。ルートN1には多数のキメラが徘徊しているものと思われる』
「あのぺーぺー‥‥! AMB6より本部、了解。ルートを変更する。‥‥レナ? 他にルートは?」
「‥‥S1とC1。S1であれば野良キメラの活動はまだ伝播してないと思うけど、どんなに急いでも20分以上はかかる。C1は最短ルートだけど、崩壊した建物の瓦礫で道の状態は良くないし、N1の影響でキメラが動き出している可能性も‥‥」
「C1だ。突破する」
「‥‥言うと思った。急がば回れ、って言葉、知らないの?」
「俺の辞書にはないな」
「(肩を竦めて)本部、こちらAMB6。ルートC1で搬送する。覚悟しててよ。うちの相方、5分以内に到着してみせる、って息巻いてるから」

 ナレーション(愛華)「ダンデライオン財団は──」(OP本文中にあるので割愛)「MATは──」(同じく割愛)
「当時、ユタ州は決戦に敗北し、軍は逃げ遅れた市民たちと共に、州都近郊に点在する避難民キャンプをどうにか確保しているだけの状態でした。それはまさに、『キメラの海』に各個に孤立した絶体絶命の状況でした」
 画面:ユタ州の地図に、彼我の勢力図の変遷が記される。人類側勢力を示す青いエリアが次々とバグアを示す赤に侵食されていき、やがて『群島』の如き有様になって動かなくなる。
「戦力の減退した軍に避難民を抱えて脱出するだけの力はなく、また、ロスを主戦場に抱えた西方司令部に彼等を救出するだけの余力は無く。ユタ州の情勢はこの後、数年に亘って膠着することになりました。
 孤立した各キャンプへ食料と武器・弾薬を輸送するだけで手一杯の軍。野良キメラの大群に囲まれ逃げることもできず、避難民たちのストレスは堪ります。そんな中、医療支援団体『ダンデライオン財団』が、各キャンプへの医療支援を開始したのです」

 再び画面が切り替わり。塩の荒野を超え、大塩湖上の堤の上を走る軍用列車の車内。窓枠に肘をつき、ボンヤリと外を眺める女性──先程、ダンと一緒に映っていた女性だ──の姿が映る。軍服姿の兵たちに交じった唯一の民間人。その背には『赤い十字に蒲公英』──ダンデライオン財団の徽章が記されている。
 駅に着き、軍人たちが降車した後、最後にホームへ下りる女性。重機が補給物資の入ったコンテナを引き出すのを眺める彼女に、同じくダンデライオンの徽章の入ったジャケットを着た男、鴇神 純一(gb0849)が苦笑混じりに近づき、告げる。
「そう言やここだったな‥‥ ダンに『貨車を吹き飛ばせ。それもできるだけ派手に!』って言われたのは‥‥」
 どこか懐かしい顔をする純一に微苦笑混じりに肩を竦め、女性が歩哨が立つ『改札』を通って駅前の広場に出る。軍の反撃により破壊された街並みを背に広場を渡り。向かいに立つビル──字幕:ダンデライオン財団 ユタ派遣団本部病院──へ。
 荒れ果てた院内を通ってMAT──車両班の詰所に向かう。かつて活気に溢れていたそこは、今、ただがらんとした空間に成り果てて。女性はそこに立ち竦み、寂しそうにカメラ(月影・透夜(ga1806))を振り返る。
「かつてここには20人以上の車両班隊員が詰めていて、各地のキャンプに医療支援を届けていました。‥‥なんだろう。なつかしいはずなのに、まるで知らない場所みたい。MATに着任した私が最初にあのおっさん──ダンと顔を合わせたのもこの部屋よ」

 ナレーション(愛華)「彼女の名はレナ・アンベール。最も長い間ダン・メイソンとペアを組んだ元相棒。現存する人間では、最も良く彼の事を知る同僚である」
「初対面時の印象? それはもう最悪だったわよ。わたしもいい加減甘ちゃんだったけど、あのオッサンもどうかと思うわ。組んでからもまた最悪で(以下、OPと被るので割愛)」
 クドクドと語りながら詰所から駐車場へと歩みを進めるレナ。かつてのMAT駐車場は、現在、軍の物資集積場と化していた。

(暗転)

「ダン・メイソン? あぁ、知っている。彼について? 自分の知る限りで、だがいいか?」
 画面が変わる。どこか小さなスタジオと思しき空間。薄暗い室内照明の中、スポットライトに照らされて一人の男が椅子に座っている。
 だが、カメラが捉えているのは首下までで、顔は画面に映っていない。字幕:『MATの護衛として度々雇われ、メイソン氏と交流のあった傭兵T氏』と記される。が、関係者であればそれが寿 源次(ga3427)であることは明らかだ。
「無口で堅物な職人。初めて会ったダンの印象はそれだった。まぁ、結構な皮肉屋で、バディを組んだ新人は面食らっていたのを覚えてる。それでもベテランの貫禄に溢れていた」
 先程と同じ室内に、今度は巫女服姿の少女、綾嶺・桜(ga3143)の姿が映る。
「最初に出会った時から無茶苦茶ではあったの。多くのキメラがうろつく危険地帯を、無理やり突破していくわけじゃからのぉ」
 再び先の救急車内の映像。激しくバウンドする物と人。激しくハンドルを切るダンの横の窓が破られ、一瞬、狼人型キメラの腕がカメラに見切れる。
(画面:純一)「そういえば、南米では、キメラの襲撃を受けて傭兵たちとダンたちが崖の両側に分断されて‥‥ 一刻も早く薬を村に届ける為に、崖の底を渡った時もあったな。あの時は俺が薬を受け取りに崖の底を走ったんだが‥‥ 薬のケースを抱えたまま、車のウインチで崖に宙ぶらりんになったダンを見た時は何事かと思ったよ」
(画面:源次)「信じられるか? 崖の底には大型キメラ。空には飛行キメラが飛び交う中、能力者でもないダンが薬のケースを抱えて崖の底まで宙ぶらりんで下りていくんだぞ? ‥‥何がそこまで彼を突き動かしていたのか、心の中まで俺は見通せないけどな。‥‥そんなことが出来れば、今頃俺はハラスメントで裁判所さ」
 さらに画面が切り替わり、今度は阿野次 のもじ(ga5480)が現れた。なぜか衣装はコスプレ衣装。時々、『アニメ・キングダンテライオン、企画進行中!』と書かれた紙が画面に入り込む。
「タフじゃないと生き残れない。不器用でも優しくなければ男じゃない。‥‥ってのを地でいってた男だったわね」
 そして再び桜が映る。先程と違い、その姿はどこか寂しそうだ。
「レナに関しては、ダンのやつもなんだかんだ言って信用していたようじゃしの。機関員として育てる意味は勿論あったじゃろうが、後半はもうルートの選定などでダンが文句を言う事はなくなってたし」
 ぷらぷらと足を揺らして嘆息する桜。暫し言葉を止めた後、誰にとも無く言葉を漏らす。
「まぁ、いつもいつも大変な状況じゃったが、妙に居心地の良い場所であったよ。最初の頃からの‥‥」

 再び画面が切り替わる。夜、どこかの宿舎と思しき部屋── 第1キャンプかつての自室に泊まるレナが、この回想行になんの意味があるのか、と愚痴を零す。
 慌てて起動したカメラに、ベッドの上に座るレナと桜の姿が映る。女子部屋なので透夜と純一は隣の部屋だ。カメラを回した愛華は、だが、すぐにカメラを脇へと放ってレナの言葉を受け止める。
「私も、レナさんと同じく、今回の番組には複雑な思いがあるんだよ。でも‥‥」
「そうじゃな。わしも想いは色々あるが‥‥ じゃが、ダンのことを人に知ってもらうこと自体は悪い事ではないと思うのじゃ。多くの避難民を助ける為に、人知れず戦った者たちがいた事実をの」
 桜の言葉を聞いたレナは、静かに頭を振った。誰かに褒められたくてやったことじゃない。ただ自分たちで助けられる人を助けたかっただけなのだ。
「そうだよね。皆、英雄になろうと思って戦っていたわけじゃない。‥‥必死だったから。生きたくて、守りたくて、助けたくて、とにかくただ必死だった。それだけ。ただそれだけだったのに。なんで‥‥」
 愛華がレナに頷きながら、ポロポロと涙を流す。共感の涙を流すレナ。一番年下の桜は目に蓄えた涙を零しながら、二人の背をポンポンと叩く。
「‥‥レナさん。私たちは偽りのないダンさんの生き様を見てもらおうよ。何も知らない人たちに、勝手にダンさんを捏造して欲しくない」
 愛華の言葉に、レナは何度も頷いた。
 結局、行き着くところはそこなのだ。生き残った者たちは、死んだ者たちの分まで、受け取った何かを未来に繋いでいく義務があるのだろう‥‥

 翌朝。準備を終えて先に廊下で女性陣を待ち受けていた透夜と純一は、目を真っ赤に晴らして出てきた彼女等を見て、互いに顔を見合わせた。
 何かを察し、何も訊ねずに予定を告げる。
 今日はこの第1キャンプを発し、このユタの転換点となった第5キャンプまで足を伸ばす予定だった。


(CM開け)
 ナレーション(桜):「オグデン第5キャンプについて語る前に、一つ、紹介しておきたいエピソードがある。それは財団がいかにキャンプの人々に慕われ、頼りにされていたかを改めて気づかせてくれるものだった」

 映像。何かの建物内、廊下。幾つもの扉が並ぶそこはどこかオフィス然とした雰囲気だが、映像に映る人全てが軍服を着用している。
 字幕:北米西海岸、サンフランシスコ。UPC北中央軍西方司令部、広報部──
 彼等と同様に軍服を着た番組スタッフ(外注)、セレスタ・レネンティア(gb1731)と、その背中を映しながら後を追う守原有希(ga8582)が、とある一つの扉を開き、中へと入る。
「特殊作戦軍所属、セレスタ・レネンティアです。先に連絡したドキュメンタリー番組で使用する映像についてですが‥‥」
 セレスタの挨拶に応じて出迎える軍の広報官。彼は部屋を出て地下へとセレスタたちを案内すると、窓のない廊下の先、両開きの扉の中へと入る。
「ここには戦時中、西方司令部管区で軍の広報や現場の兵たちが撮影した記録映像を、収集・保管しているアーカイブです。照会のあったユタ州に関するものはこちらになります」
 示されたテーブルの上には、恐らくまだ整理されていないのだろう、各種記録メディアが乱雑に積まれ、大まかに二つに分けられていた。
 一つは、西方司令部がユタ州の避難民に対する救出作戦発動後の記録映像。こちらはには大量の資料があった。
 もう一つは、作戦発動前──まだ孤立していた頃の記録。前者に比べると圧倒的に量が少ない。
「これしかないんですか‥‥?」
 呆気にとられて有希が尋ねる。広報官は神妙に頷いた。
「救出作戦前の避難民キャンプの記録は、軍には殆ど残されていないんです。そんな余裕なかったんでしょうね‥‥ 特に、オグデン第5キャンプのものはあの『脱出行』時に放棄されたものも多くあったと‥‥」

 ナレーション(桜):「軍により示された記録映像は、質的にも量的にも番組スタッフの満足のいくものではなかった。困ったスタッフは民間に──あのユタにいた人々に映像の提供を呼びかけた。ユタ避難民連絡会を通じてのささやかな募集だったが、多くの人々が『財団の為に』と口コミで情報を広げてくれたらしい。結果、局にはスタッフも驚く程の大量の映像資料が送られてきたのじゃった」

 映像:何かの祭りだろうか。たくさんの屋台が並ぶ屋外。その先に作られたステージでは各種イベント、演奏会、ライブ、飛び込みカラオケなどが行われている。子供たちの弾けるような笑顔。それを見て大人が微笑む。空にキメラの姿はなく、この日ばかりは人々の顔にも険がない‥‥
 ナレーション(桜):「映像はオグデン第5キャンプの在りし日の姿じゃ。財団が避難民たちの協力の元、主催した祭りじゃな‥‥ って、待て、わしの姿(猫耳和装メイド。愛華つき)は映すでない! おい、これの編集をしたのは有希か!? セレスタか!? いや、このやりようはのもじか! 後で文句を言って、って、ぎゃーーー!!!???」
 画面で愛想を振りまく猫耳桜。後、暫し祭り時の映像が続く。
 その途中、ふとカメラが上を向き、病院の屋上で煙草を燻らせるダンの姿を捉える。この祭りを企画したのは、追い詰められたキャンプの人々の精神衛生を心配したダンだった。
 映像に、インタビューを受けたセレスタと透夜の声が重なる。
「ダン・メイソン‥‥ あの人ほど、本人も無自覚に英雄をやっていた方はいないと思いますよ。何しろ、本人はどこまでもリアリストでしたから。この番組が放送されたら彼も一躍有名人ですが‥‥本人が聞いたら失笑しそう」
「『英雄なんて呼び名は、自分から最も縁遠い言葉だ』‥‥ダンならきっとそう言っただろうな」
「ええ、まったく。でも、そんなリアリストにも可愛い所はあって‥‥ キャンプの炊き出しでは、なんでしたっけ、日本の割烹着というユニークな服を着て作業をしていたこともありましたね。あれには思わずほっこりしてしまいました」

 ナレーション(桜):「辛くとも懸命に生きていた彼等の第5キャンプでの生活は、しかし、突然終わりを迎える。きっかけは、近郊の第7キャンプが飛行キメラの大群に襲われ、全滅したこと。そして、有人HWの墜落により、キャンプが戦場になったことじゃった‥‥」
 映像。キメラの巣と化した第7キャンプをフレア弾で空爆するKVのガンカメラ。さらに映像が切り替わり、墜落したHWにプロトン砲を向けられ、『人質』にされた避難民たちの恐怖に満ちた表情が映る‥‥
 ナレーション(桜):「不安が一気に顕在化し、第5キャンプの人々は恐慌に陥り、第5を捨て、第1キャンプへの移動を強行するという流れに一気に傾いた。‥‥それは十分な護衛も無しに全員で『キメラの海』を渡るという無謀極まりないものじゃった」
 映像。第5キャンプを出て第1へと向かう人々の列── その様子が次々と写真で表示されていく。
 当初、このシーンも動画で放映されるはずであったが、「元避難民の方の中には思い出すのも辛いという人も多いはず」という有希の言葉で静止画に差し替えられた。襲い掛かるキメラに軍が反撃をする戦闘場面も、隊列にキメラが飛び込む凄惨な場面も抜かれている。
 源次の声が重なる。
「追い詰められた避難民が少数の護衛だけで安全圏目指して大移動‥‥ 今、思い返しても狂気の沙汰だが、責めるのは酷というものだ。‥‥彼等は極限状態の中にいた。軍の救援はいつ来るとも知れず、死は毎晩の祈りより近しいものだった。彼等は既に限界だった」
 彼等を愚かと笑えるものがいるとしたら、それは恐怖を知らぬ余程の強者か、想像力すら欠如した平和な連中だけだろう。
「常に救いの手の届かぬ場所に、絶望の中にダンの姿はあった。この時、避難民の隊列の中にもダンはいた。第7キャンプで負傷し、第5キャンプの病院に入院していたんだ。‥‥暴徒に襲われた負傷だった。それでも彼は人を救うのをやめなかった」
 ある意味、ダンは人間というものに一定の見切りをつけていたのかもしれない。希望を持たなければ失望することもない。或いはそんな状態を絶望と呼ぶのかもしれないが。
(画面:源次)「避難民の脱出ルートにはMATが開拓した移動ルートが用いられた。最後まで無謀な脱出に反対していたダンが、少しでも犠牲を少なくしようと提供した情報だ。‥‥ダンは縦横無尽に車両を操り、第1キャンプからの来援あるまで戦線を支え続けた。そうして第5キャンプの避難民たちは第1キャンプに到着した。 ‥‥犠牲はやはり大きなものだった」
(画面:愛華)「助けられた命、助けられなかった命。‥‥助けたかった、命。本来はあり得ない命の重さを天秤にかけた旅路の果て‥‥ 第1キャンプに着いた時、『また一人生き残ってしまった』ってダンさんが呟いてたよ‥‥ この人はいったい、今日までどれほどの命を救えなかったと自分を責めてきたんだろう、って‥‥ その気持ちが私には良く分かる。本当なら誰一人、取り零したくなんてなかったのに‥‥!」

 映像。第5キャンプ跡地に立つレナの姿。
 この地はユタの転換点となった地であり‥‥ 同時に、レナがダンに面と向かって初めて褒められた場所でもあった。
「逞しく成長した新人── いや、相棒に対して、ダンは不器用な褒め言葉をかけていたよ。‥‥俺は思ったもんさ。この不器用中年め、ってな」(源次)

 ナレーション(桜):「避難民たちが放棄した第5キャンプは、遠方のキャンプにとってハブの役割を果たしていた。第5キャンプの脱落は他のキャンプの維持にも深刻な影響をもたらす。ことここに至って、西方司令部はユタ州の各キャンプに対する救出作戦を発動。ロスアンゼルス・アーバイン橋頭堡の完成、西方司令部の戦力充実、ユタ・キメラ司令官の行方不明によるキメラ部隊の混乱等、様々な要因が重なってようやく為しえた救出作戦じゃが、第5キャンプの人々の行動が、ユタの状況を動かす引き金となったことは間違いない」

 映像:再びユタの勢力図が映り、西方から伸びた青い矢印が赤い領域を突破し、孤立した青と合流して再び西へと脱出していく様が表示される。
 最後まで残る青は州都とオグデンの第1キャンプ。この内、州都は『ティム・グレン』と記された赤矢印の攻撃を受け、オグデンへと移動する。
 バグア指揮官・ティムによるオグデンへの降伏勧告。恐慌した避難民たちは唯一の脱出口、駅舎へと殺到する。
 その暴動を抑えたのは、またしてもダンだった。
(画面:純一)「大胆な行動を取る奴だったよ‥‥ まさかあの大群衆を前にして、彼等の拠り縋る列車の貨車を吹っ飛ばせ! とか言うんだもんな。その時は気でも狂ったのかと思ったが、今にして思えばあれは示威行動だったんだよな。バグアより怖い能力者──俺のことだが(笑)──がこちらにはいるぞ、安心しろ、或いは反抗するな、っていう」
 軍の言う事を聞かなかった群衆も、財団MAT、ダンの言葉は素直に聞いた。或いは「こいつ何するか分からん」と思われただけかもしれないが、財団の地道な活動が避難民たちの信頼を得ていたのも確かなことである。
「どれもこれも愚直に信念を貫く為‥‥ その為なら、わざと憎まれ役を演じられる男だったよ」

 キャンプ内を纏めた軍は、西方司令部と図って脱出作戦を展開する。
 湖上の堤はティムによって破壊された為、救出は航空機による『一撃離脱』が計画された。囮として出撃した後衛戦闘大隊が敵を誘引している間に、避難民と護衛たちはヒンクリー空港まで前進。西海岸から派遣された救出機で脱出する。囮となった大隊はその戦力をすり減らしつつ、湖上のアンテロープ島に拠って立て篭もる。
(透夜)「俺がダンたちと本格的に関わりだしたのはこの辺りからだな。ダンの印象は、『常に最前線に飛び込みながら、必ず先を見ている男』って感じだった。無謀と思われても、成功手段は必ず確保して行動する──もっとも、その成功確率のラインがかなり低いのも特徴だったがな」
(のもじ)「良い子の皆さんにはオススメできない生き様だわ。なにせ、私が知ってる限りでも、あの男、最低5回は死んでないとおかしいんだから」
(透夜)「失敗こそしたが、能力者によるティム暗殺作戦を発案したのもダンだった。‥‥だが、ダンに虚無的な印象を感じたことはなかったな。変わったとしたら、それだけレナが与えた影響が大きかったということだろう」
 島に入ってからも、ダンは、負傷したレナと軍の負傷兵たちの為に、島を抜け出して医薬品を捜索、回収してくるということまでやっている。
(透夜)「『レナが撃たれたのは自分の不注意が原因だ』ってな。何もかもに絶望しながら、誰よりも最後まで希望を希求することを諦めない。そういう男だった。‥‥だからこそ、あの時、誰も止めれなかった。いや気づけなかった」
 再び、番組冒頭の映像。燃料を満載した高機動車がクラゲ型の足に体当たりを仕掛け、爆発する。
(透夜)「ダンのあの行動のおかげで、俺たちはこうしていられる。‥‥悔いてないわけじゃないが、引きずることもしたくない。それはダンにとって、彼自身が下した決断に対して失礼に当たるだろう」

 再び場面は変わって。
 レナは今、北米の某所を訪れていた。ダンの実家と言われて来た場所──この旅の最終目的地だ。彼女はここでダンの遺族に遺品を渡し、彼がいかにMATで生きたのか、その生き様を語って慰めなければならない。
 レナが庭先に入ろうとして躊躇し、スタッフを振り返る。真摯な顔で頷く桜。嗚咽と共に涙を流しながら、それでも拳を握って見せる愛華。透夜が声をかけて励ます。
「レナ。ダンの死にどう整理をつけるか、それはお前次第だ。だが、ダンから受け継いだものを伝えることは、それだけはお前にしかできないことだ」
 しっかり向き合って来い、との声を受け、覚悟を決めたレナが庭へと入る。カメラを持ってその後についていく純一。扉の前でいったん立ち止まり、大きく息を吸い‥‥ ノックするべく拳を振り下ろしたところで、純一はレナに告げた。
「レナ」
「何?」
「ちょっと言い忘れていたんだが‥‥ ダンは天涯孤独でな。『遺族』ってのはいないらしいぞ」
「は?」
 ノックを受け、開かれるドア。その中から間近に突き出されたダンの──死んだはずの男の顔を見て、レナの身体が硬直する。
 動かなくなったのはダンも同じだった。ここにいるはずもないMATの元相棒が、なぜかテレビカメラを連れて玄関先に立っている。
「ふわ‥‥? びえ‥‥ ちょ、ダ、ダンさぁ〜ん? ダ、ダ、ダンさんが化けて出たぁーっ!???」
 思わず覚醒しながら驚き、叫ぶ犬耳尻尾の愛華。瞬間、映像が切り替わり、軍が撮影したアンテロープ島の映像が画面に映し出される。

 ヒトデに突入する寸前、ハンドルを固定し、坂道の斜面にスピードの乗った高機動車から飛び降りるダン・メイソン。高速で地面に叩きつけられ、さらに爆発の破片と炎がダンの周囲に襲い掛かる。
 撮影をしていた兵が周囲の兵に声をかけ、共にダンを助けに駆けつけ、燃える地面から引きずり出す。
 さらに映像。反撃に出た軍によるユタ再上陸。オグデンに上陸したアヴェンジャー大隊とは別にアンテロープ島に再上陸した大隊の兵が、発炎筒の煙に気づいて走り寄る。向かった先には、脱出時、島に放棄されていた財団所有のLM−04装輪型試作車。その荷室から取り残されていた兵たちと、全身血塗れの包帯・ギプス姿のダンが救出される‥‥

 さらに転換。レナに番組の事を伝えるラスター・リンケ隊長。考えさせてください、と退室したレナを見送り‥‥ 瞑目し、指を組んで口元を隠し、肩を震わせていたラスターが堪えきれないといった風情で笑いを漏らす。
「‥‥しかし、リンケ隊長、あんたも人が悪いね」
「よくこんな仕事受けたわね‥‥ ダンが知ったら、『どんな罰ゲームだっ!』って遁走かますわよ?」
 そこへ姿を現す純一とのもじ。レナの訪問に慌てて隠れたのもじの腕の中には、のもじが進める『キングダンデライオン計画』(企画段階)の実機模型と企画書・資料がてんこ盛り。
 のもじの言葉に、ラスターは無言でそっぽを向いた。
「え? ダン本人にも知らせてないの?」
「‥‥これはダン本人の為でもある、と俺は信じている。大怪我をして復帰をあきらめ、死んだことにしたまま引き篭もり、なんて‥‥ あいつを引っ張り出すにはレナが必要だ」
 顔を見合わせるのもじと純一。ま、そういう悪戯も嫌いじゃないがね、と純一が肩を竦めつつニヤリと笑う。

 信じられない、と首を振るレナ。ばつが悪そうに視線を逸らすダン。何かを言いかけて口ごもったレナが再度口を開く瞬間‥‥
「なに? 嘘だったの? 死んでなかったの? そんな、私たちが、レナさんが、どんな想いでいたと思って‥‥ うわぁ〜〜〜ん! よかった、よかったんだよ〜!」
 物凄い剣幕でダンに迫った愛華は、だが、ダンの顔を見た瞬間に泣き崩れ、レナごとダンを抱きしめる。
 ダンはそれを支えきることができず、玄関先で床へと倒れた。レナと愛華を支えることすら、今のダンには出来なくなっていた。
 なぜ、どうしてこんなことを、と問うレナに、すまん、と謝るダン。彼にとって車の運転技術は、街のチンピラ時代から、マフィアのボス(現財団会長)の運転手時代から、拠って立つべき唯一のものだった。世界に絶望し、その絶望した世界の中でMATとして生きていけたのも、車を転がせるからこそ出来たことだった。
「だが、あの怪我でそれを失った俺には、もう何も残っちゃいない。こんな姿を見せるのも、同情されて泣かれるのも嫌だった。まだ働ける奴等を見て羨望するのも嫌だった。俺はもう死んだも同じだ。ならば誰に知られることなく、ここで腐り果てればいい。そんな風に思っていた」
 それを聞いたレナは、倒れたダンの襟元を掴み上げた。
「甘ったれないで。自分には何もない? ユタを巡ってきた私は知っている。貴方が私や避難民のみんなにどれほどのものを残してきたのかを! 何もかも失った? 失ったなら取り戻せばいい。貴方が彼等にそうしてきたように、今度は私たちが貴方を助けます!」
 レナはそう言うと立ち上がり、倒れたままのダンに向かって手を差し伸べた。
「何を‥‥」
「私たちを誰だと思っているんですか。医療支援団体『ダンデライオン財団』ですよ? リハビリくらいフルメニューで付き合ってあげます。その代わり特別キツいですよ? 覚悟してくださいね」
 
 事の顛末を呆気に取られつつ見守っていた桜と透夜は、苦笑混じりに顔を見合わせた。
「やれやれ、最後の最後でどんでん返しじゃとは‥‥ ま、この方がダンたちらしいかの」
「悪運か、しぶとさか、或いは生存手段を確保していたか‥‥ あの野郎に言いたいことは色々あるが、取りあえず一発殴らせろ。割と本気(マジ)で」

 流れ始めるエンディング曲。画面が暗転し、後、映像でダンに関わった避難民たちからの激励の言葉が流されていく‥‥
 最後に、リハビリを始めたダンの近況が示され、変わらず活動するレナの姿も映し出される。

 ラスト。純一製作のテロップで番組は終わる。

「すべてに奇跡が起きるわけじゃない── だが奇跡を起こしてきた奴らがMAT(ここ)にいる」