タイトル:【決戦】鷹司の空マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/23 07:13

●オープニング本文


 鷹司家代々之墓──
 眼前の墓碑に刻まれたその文字を見て、青年はそこが自家の墓であることを改めて思い返していた。
 霧雨に煙る山中の共同墓地には、自分たちの他には誰も居ない。露に塗れる黒御影石の墓石。その花立てには、換えたばかりの手向け花がたおやかに咲いている。青年は──UPC軍の礼服に身を包んだその青年は、暫し、墓前に佇んだ後‥‥ 花を自らが持参したものと換え、雨に濡れるのも構わず、ただ無言で墓石を拭き始めた。
 青年がこの墓所を訪れるのは、10年ぶりのことだった。幼少期は両親に連れられて何度も墓参りにやってきたものだが、成長するに従ってその頻度は年々減っていき‥‥航空学生となって実家を出て以降は、忙しさにかまけて全く足を運ばなくなっていた。‥‥この墓の主、つまり、青年の親の一人が鬼籍に入ったのは一週間前のことだ。死に目には会えなかった。最終決戦に際してのバグアの反撃が最も激しかった時期であり、戦闘機パイロットである彼は前線から離れられなかった。
「‥‥ありがとう。感謝している」
 青年は、嫌っていたはずの父親にそれだけを告げると、戦友が待つ戦場に復帰するべく、名残も見せずに墓前から離れた。
 途中、傘を差した妙齢の女性──同じ軍の礼服を着た、青年と同い年の『叔母』と目礼してすれ違う。
 その女性──藤森若葉中尉は無言で青年の背を見送って‥‥ その姿が完全に見えなくなってから、嘆息一つを残して墓前へと進んだ。
「まだ上手くいないみたいですね、彼とは」
 香炉に線香を焚いて置き、墓前に手を合わせてから口を開く。
 そのまま女性が──若葉が、ちらと傍らに視線を落とす。視線の先には、雨のなか傘も差さず、黒服を着込んだまましゃがみこんだ初老の男──壮年傭兵・鷹司英二郎の姿があった。
「‥‥どうかな。とりあえず、最後までアレに──結奈に付き添っていた礼らしきものは言われたよ。まぁ、だからといって、俺のしたことが許されたと思うのは虫が良すぎるだろうな」
 苦みばしった表情で、笑みを形作る鷹司。それを複雑な表情で見下ろした若葉は、ためらいつつもそっとその肩に右手を置いた。
 鷹司の妻、結奈が亡くなってから、もう一週間が経っていた。七人姉妹の長女である彼女が鷹司と結婚したのは末っ子の若葉が生まれるよりも前のことで、幼い若葉は鷹司家に入り浸り、鷹司家の長男、勇樹と姉弟同様に育てられた。幼い勇樹少年は軍人である父を尊敬し、自らも同じ道を歩んだが、能力者適正の見つかった父が傭兵となったことでその関係は断絶した。
「あの男は母をあの広い家に一人、置き去りにした。再び空を飛ぶ為だけに──」
 吐き捨てるように言った勇樹の言葉を、若葉は今でも覚えている。その時には既に勇樹はパイロットとして前線に出るようになっていた。母を一人残し、いつ死ぬとも知れぬ戦場へ、それも正規軍人のままであればわざわざ出なくても良い最前線へ向かう父を、勇樹は許せなかったのだろう。
 実際、鷹司が北米ユタ州の孤立地域に墜落した時には、1ヶ月以上も帰って来れなかった。元々、身体の弱かった結奈が入退院を繰り返すようになったのもこの頃だ。人前では気丈に振舞っていたものの、やはり心労が祟ったのだろう。
 ユタから無事に帰還することができた鷹司は、以降、前線に出る事なく、日本で妻と共に在る日々を選んだ。皮肉なことに、傭兵と言う自由な立場がそれを可能にした。軍人──それも貴重な戦闘機パイロット──である勇樹は死に目に会うことも出来なかった。
「ごめんなさいね、あなた。あなたから空を奪うようなことになって‥‥」
「気にするな。俺のパイロットとしての人生はもう十何年も前に終わっている。今の能力者としての俺は、いわば余禄みたいなものだ。元々、老後の人生は全てお前と共に生きると決めていた」
 ──長らく病床にあった結奈は、謝罪と感謝を鷹司に伝えた後、この世を去った。彼女が最後に聞いたのは、夫からのラブコールだった。照れた様な、ちょっと困ったような笑みが印象に残っている。
「結局、俺はアレになんら夫らしいことをしてやれなかった。ギリギリまであいつに甘えっぱなしで、あいつが俺より先に逝くなんて、これっぽっちも考えなかった」
「‥‥姉さんは幸せだったと思いますよ。だって、私が共に過ごした鷹司家は、いつだって笑顔に溢れていましたから」
 鷹司が泣いているのか、若葉には分からなかった。ただ、暫し微動だにせず、その頬を雨に濡らしていた。
 若葉は傘を差し出さなかった。鷹司が自ら立ち上がって後、その傘の下に彼を置いた。
「‥‥ありがとう、中尉。状況はどうなっている?」
「はい。宇宙では決戦が開始され、バグア本星に対する攻撃が行われています。概ね人類側が優勢に攻略を進めていますが、ブライトン=佐渡京太郎は、本星を地上にぶつけるつもりのようです。また、人類側が本星を破壊した場合にも、地上への破片の落下が予想されます。これに対し、軍は地上の全域において避難命令を発令しました」
 若葉の話によれば、現在、郊外の市民の多くが大都市圏内への移動を開始しているという。これは、地球全土を標的とした敵の大規模質量攻撃や大量の破片の落下に対する軍の対処能力に限界がある為で、限られた戦力を集中し、限定されたエリアを確実に守り切ろうという軍上層部の意図によるものだ。
 それに頷きつつ、鷹司は暗い曇天を見上げた。これまでずっと地上を睥睨し続けた忌々しいバグア本星は見えない。だが、今もあの場所では、地球最大の危機を回避すべく、若者たちが戦い続けているはずだ。
「‥‥後半はすっかり若者たちに任せきりになってしまったからな。最後くらいは、この老体、役立たせてもらおう」
「助かります。能力者は貴重な戦力です。ひとりでも多くの方にお手伝いいただければ‥‥」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

 都市部へ続く幹線道路には、避難する人々の車が延々と列を成していた。
 軍が手配したバスやトラック、避難スケジュールに従い地域ごとに移動する自家用車の群れ── それらの車列は、だが、今現在、動きを止めており。人々は不安そうな顔を道行く先に向けている。
 そんな土塁の上の高速道を傍らの農道から見下ろしながら、龍深城・我斬(ga8283)はシラヌイを装輪でゆるりと前進させた。
 可能な限り速度は抑える。人々を不安にさせない為だ。KVに気づき、車内から興味の視線を向ける避難民たち。機の手を振ってそれに応えながら、我斬は改めて強い憤りを感じていた。
(バグアめ。戦い方そのものまで迷惑な。こんなパンピーたちの恐怖を煽るような真似を‥‥)
 佐渡=ブライトンに対する罵声を心中で羅列していく我斬。それはレシーバーから守原有希(ga8582)の怪訝そうな声が聞こえてくるまで続いた。
「‥‥しかし、どういうことでしょうね。さっきから車が全然、動いていません。避難する順番、経路、スケジュールは、軍が綿密に計画を立てていたはずですが‥‥」
 我斬は機の首を振り、カメラの視界に有希を捉えた。生身の有希は、今、我斬機の右肩に便乗している。
「あーーーっ!!!???」
 レシーバー越しに轟く耳をつんざくような大声。我斬(と有希)は耳を押さえながら、カメラを反対の左へ振った。我斬機の左肩には大声の主──響 愛華(ga4681)が乗っていた。弾帯を幾重にも身体に巻きつけ彼女は、身を乗り出すようにして盛んに前方に指を指し示している。
「あれ! あれ! 有希さん、我斬さん! あそこに、どっかで見たよーなスクールバスが!」
 ファンシーなキャラクターが描かれたマイクロバス──それは彼等がよく知る『なかよし幼稚園』のバスだった。「おーい!」とそちらに手を振る愛華。その聞き覚えのある声に、園児たちや園長、そして香奈が顔を出す。
「香奈先生!? いや、こんな所で香奈先生に会えるとか。これでこんな状況でなければ言う事なしなんだが!」
 我斬は機のハッチを開けると、操縦席から身を乗り出して香奈たちに手を振った。
「おっ、チビどもも乗っているのか。親御さんたちは一緒じゃないのか?」
「乗っています。避難は地域ごとなので、希望されたご家族はご一緒に。それに‥‥」
 言い淀む香奈。我斬は察した。バグアとの長い戦争状態──親を亡くしたり、疎開で親戚に預けられている園児もいる。
「そっ、そー言えば、私たち、宇宙で美咲センセと一緒になったよ!」
 空気を察し、愛華が話題を変える。美咲の話が出た瞬間、香奈と園児たちの表情が輝いた。
「ほんとー、がざんー?」
「呼び捨てすんな。‥‥ああ、本当だよ。元気にやってるみたいだから心配すんな」
「わーい!」
 子供たちの様子に微笑を浮かべる有希。機の肩の上で周囲を警戒していたその視線が、農道を逆送してくる1台の戦闘指揮車を捉えて止まる。
 その指揮車からと思しき通信。おや、と愛華は首を傾げた。この聞き覚えのある声、若葉さんではないだろーか。
「敵小型HWの自爆攻撃により、予定避難路であった橋梁が破壊されました。現在、施設部隊が上流にて架橋作業中。軍、県警の各員は、プランB2に従って誘導を開始してください」


 UPC正規軍の戦闘空中哨戒部隊が、敵の先遣隊と思しき飛行キメラ群と接触した──
 その報を受けた阿野次 のもじ(ga5480)は、ピュアホワイトの操縦席で「いよいよね」と呟いた。
 唇をペロリと舐め、僚機に移動の指示を飛ばす。センサーモニター上、味方を現す光点に記されたTagは『603−A1』──鷹司の息子が所属するF−15改の隊だった。名古屋以来の歴戦の隊らしく、その戦いぶりは危なげ無い。小型HW相手にも、1機の凄腕を囮に3機が背後から襲い掛かる戦法で五分以上に渡り合っている。
「‥‥これが若葉ちゃん(28歳)が言ってた若い方の鷹司ね。‥‥なるほど、鷹の子はやっぱり鷹ってわけだ」
 とは言え、敵の攻勢は大規模だった。まぁ、自分たちのボスが自分たちごと地球を壊そうとしているのだから、自棄になりたくなる気持ちは理解できなくもない。
 敵の増援はすぐに来る。HWの数が揃えば、いかに凄腕と言えどF−15改では分が悪い。
「その為にわしらを手配しておったのじゃろう? しかし、まさかここで鷹司の息子とは! こういう縁もあるということかのぉ!」
 乱戦の空に迫る増援のHW。そこへ綾嶺・桜(ga3143)のシコンと榊 兵衛(ga0388)の雷電が突っ込んだ。高度を速度に変換しつつ、斜め上方から突き崩しにかかる。
「かかれ!」
 翼下から次々と放たれていく誘導弾。直撃を受けたHWが散華し、生き残りが機銃に追われて周囲へ散る。第一波を蹴散らした桜と兵衛は、そのまま正規軍機の頭上を守るよう上空に占位した。迫る新たな敵の第二波── 兵衛が中隊長・勇樹に通信を入れる。
「あのHWは俺たち傭兵に任せてくれ。KVは元々アレに対抗する為の機体だし、適材適所というやつだ」
 職業軍人のプライドに配慮しつつ、兵衛がそう申し入れる。歴戦の勇樹は弁えていた。実際、F−15改ではHW相手は手に余るし、逆に、少数精鋭の傭兵だけでは大量の飛行キメラに対処しきれない。
「すまない。強敵はよろしく頼む」
「なに、後で酒の一杯でも酌み交わしてくれればそれでいいさ!」

 大規模な攻勢を受け、軍司令部もまた、待機させていた航空戦力を速やかに前線へと送り始めた。
 鷹司英二郎のシラヌイも特殊作戦軍に対する出撃要請を受け、基地を発して空を往く。
 その後ろに機位をつけながら、白鐘剣一郎(ga0184)はちらと鷹司機に目をやった。報告書や噂で鷹司の名を見聞きしたことはあったが、こうして共に飛ぶのは初めてだった。
「ご勇名はかねがね。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。若い現役連中相手じゃ、追いつくのも大変だがな」
 やがて戦場の一つへと到達した鷹司と剣一郎は、現場の空を仕切るのもじの指示に従い、その場で空中待機に入った。眼下には、避難する人々の車列がまるで川の様に連なっているのが見える。
「この正面に展開する正規軍の主力はF−15改‥‥ とは言え、制空権を奪われるわけにはいかない。地上の避難が終わるまでは、なんとしても‥‥」
 剣一郎の言葉に頷く鷹司。その視界が上空にキラリと光る反射光を捉えた。
 センサーの識別は友軍機。見上げて直に確認する。‥‥翼に陽光を煌かせつつ、踊るように空を舞うそのKVはロビンだった。パイロットはソーニャ(gb5824)。口元に歌を口ずさみながら、操縦桿を傾げて風に乗る。その様はまるで花に遊ぶ蝶のようだ。
「上空のロビン。どういうつもり? 通信回線も開きっぱなしよ?」
「ごめんなさい。でも、必要なことなんだよ。この一瞬の安らぎが、生きる全てとなる子もいる」
 空を見上げる若葉の声に、軽やかに返すソーニャ。その操縦席のカメラモニタには『なかよし幼稚園』のスクールバス。渋滞に飽きた子供たちが窓からソーニャ機に手を振る静止画が映っている。
「ねぇ、どうする? あの中に君の子供がいたら? 手を引き、抱きしめ、共に生きる? 彼等の未来を切り開く為、置き去りにして戦場に出る? ‥‥君には戦う力がある。どっちでも選べるよ?」
 謳う様なソーニャの声。身体が二つあればいいのにね、と謳うようにソーニャは言った。二つの身体に一つの想い‥‥ 半身の想いを叶えるために自分がいて、心残りを半身が叶える。それはとても幸せな想いに違いない。
 鷹司は嘆息した。‥‥だが、人にはそれはできない。故に、選択し続けるしかない。
「結奈の夫は俺一人。だから俺は結奈と共にいることを選んだ。それが戦争を人に押し付ける形になっても、だ。世界の全てを引き換えにしてもいい── そう思える存在は確かにある」
 無線機越しに聞こえる会話。我斬がちらと香奈を見やる。
「それにな、俺の身体は一つしかないが、志を同じくする者は大勢いる。どうしようもない時には頼るのも恥とは思わんよ。代わりに、俺を必要な時には全力で支えるさ」
 鷹司の言葉に、ソーニャは、あぁ、そうか‥‥ と頷いた。
 世界は想いで出来ている。人の世界は、人の想いで。命を繋げない命であろうと、それも決して無駄じゃない。「今、この瞬間を生きている」。その連なりで世界が成り立っているのなら。ボクは新しい命を生み出せないけれど、せめて想いはこの世界につなげたい。
「‥‥鷹司大佐。今日は一杯、奢って欲しいでアリマス」
 通信に割り込んだのはのもじだった。
「どうした? 敵か?」
「Yes。敵本隊が正面より接近中。待機中の全機には後詰に入って欲しかったり」
 ひらりと舞を止めるソーニャ。剣一郎がブーストを焚き、皆の先頭に立って前へと進む。
「剣一郎にソーニャ‥‥ それに英二郎か! 久しぶりの再会じゃが、今日は撃墜されるでないぞ!」
 桜の言葉に苦笑する鷹司。剣一郎は操縦桿を傾けると、一気に戦場へと踊り込んだ。
「こちらペガサス。これより貴隊の援護に入る! ‥‥ゆくぞ、バグア。このペガサスと鷹の翼、容易く抜けるとは思わないで貰おうか!」


 低空を飛行してきた輸送機仕様と爆撃機仕様の中型HWに、兵衛は上方から逆落としに突っ込んだ。
 すれ違い様、爆撃機型に誘導弾を叩き込みつつ、擬似慣性制御で激突コースから機首を上げ、機銃で輸送機型を撃ち捲くる。爆散する爆撃型。火を噴いた輸送機型はバラバラになりつつも、搭載した地上キメラを空に撒く。
 その様子を双眼鏡で確認した有希は機を蹴って我斬に報せた。応じ、膝をついていた我斬機が立ち上がり始め、肩上の有希と愛華がぴょんぴょんと地面へ飛び降りる。
「近いとは思っていたけど‥‥大分、押し込まれましたね」
 双刀を抜く有希の頭上で対空砲を撃ち始める我斬機。愛華は『瞬速縮地』で地を駆けると、若葉が乗る指揮車の上に陣取った。
「わぅわぅ。若葉さん、お久しぶり! 私が直衛につくんだよ。若葉さんも、香奈さんたちも、誰にも傷一つ付けさせないんだよ」
 ガトリング砲を構える愛華。輸送機型からばら撒かれた空挺型のキメラが翼を広げ、舞い降りてくる。引き金を引き、制圧射撃。その上空、爆撃機型の護衛を引きつけていた桜のシコンが、HWの斉射を受けて爆発して砕け散る。
 愛華は砲を撃つのも忘れて呆然とそれを見上げ‥‥ 開いたパラシュートを見つけて目端に涙を噴き出した。
「ち。英二郎にああ言っておいて、自分が撃墜されるとはのぅ」
 キメラと共に舞い降りながら、近づく敵に足爪を振り回す桜。その身が地上に着くより早く、駆けつけた愛華が桜の身を抱きしめる。
「ちょ、待て、待つのじゃ、犬娘! パラシュートが‥‥」
 桜の言葉が終わらぬ内に、地上のガトリング砲を蹴飛ばし発砲。パラシュートごとその向こうのキメラを吹き飛ばす。
「行ったぞ、有希!」
 傍らを駆け抜ける敵を見やって外部出力で叫ぶ我斬。自身で追い撃つ余裕はない。センサーに感。同時に操縦席に鳴り響く警報。地中から飛び出してきたアースクエイクの口の端を受け止め。
「抜かせねぇよ!」
 高速回転する牙に機の腕部を削られながらも、叫び、我斬が敵口中にグレネードを突っ込み、撃ち放つ。
 我斬機を抜けたキメラは、だが、避難民の車列に到達するより早く、横合いから突進して来た有希の二刀に切り払われた。歓声と声援。守るべき者を守る充足が今の有希の中にある。
「Last Hope── それは『最後』ではなく『最新』の希望── 皆さんの存在こそがうちらをそう在らしめる‥‥ 二刀の勇者で双刀の疾風、守刃・守原有希‥‥ 参る!」
 血刀を払い、新手へ向け走り出す有希。その頭上では、鷹司、ソーニャ、そして剣一郎たちの増援機体が、敵HW主力の只中へ突入を開始した。
「撃破した敵の残骸で避難中の一般人に損害を出す訳にはいかない‥‥押し戻すぞ!」
 剣一郎機を先頭に敵を蹴散らしにかかる増援主力。高速で機動するソーニャ機が囮になり、誘引された敵を他の味方が撃ち落していく。
 総崩れになる敵と追撃態勢に移る味方。乱戦の中、撤退を良しとせず突撃に転じた敵の一部が、前線を破り勇樹の隊へと突出した。反応が遅れる正規軍機。彼等を庇おうとする中隊長機。それに気づいた鷹司機が息子を庇うように覆い被さり‥‥
「白鐘ッチ!」
「了解! 噂通り無茶をする人だ!」
 それを照準に収めたHWがフェザー砲を発砲するより早く、PRMを防御と抵抗に突っ込んだ剣一郎機が機の腹を敵機にぶつけた。鷹司親子から離れた空間を貫いていく怪光線。ぶつけられた敵が慌てて対応するより早く、素早く機を回転させた剣一郎機が剣翼でHWをなます切りにする。
「やらせはしないっ! 流星皇を舐めるな!」
 爆散する敵小隊長機。それを見た残余のHWが思わずその足を止めて‥‥ 味方機と共に反転攻勢に出たのもじ機がK−02でその一群を追い散らす。
「鷹司大佐。今日は晩飯奢って欲しいでアリマス」
 戦況は、既にのもじの管制が必要ない位にこちらの優位になっていた。
 敵が残存戦力のほぼ全てを投入して行った大攻勢は頓挫した。


「乾杯! 栄光ある603飛行隊と、4打数6安打は当たり前! 数々の伝説に彩られた鷹司『大佐』とその息子に!」
 追撃を交代し、基地へ帰還した能力者たちは、基地近くのバーの一つを借り切って酒宴を開いていた。何杯飲んでも顔色を変えず、正規軍パイロットと豪快に酒を酌み交わす兵衛。テーブルの上に片足を乗っけたのもじは鷹司に関するあることないことを新たな『伝説』として盛っていく。
 ちなみに、愛華と桜、我斬、有希の4人は香奈たちの避難所へ差し入れに行って不参加だ。剣一郎はバーのどこかにいるかもしれない。ソーニャは宿舎に帰っただろうか。
「そうそうサム・ゴードン!。ユタで旅客機での救出劇あれは凄かったわねー。‥‥あ、デトロイトで大佐が落とされたっていうバグアのパイロット、覚えてる? ‥‥逝ったわ。フロリダで。私が見届けた」
 宴会終盤。鷹司の背中にしなだれかかったのもじが、声のトーンを落として言う。
「バグアって、なんだろうね。存在理由の壁があってお互い理解できない存在だって判ってるけど‥‥ 私は彼らのこと、嫌いじゃなかったわ」
 そのまま押し黙ったのもじは、暫くして鷹司の背から跳ね起きた。なんか自身が慰めて貰いたい気分だったが、今日は今日とてやることがある。
 のもじは兵衛とアイコンタクトをかわすと、口実をつけて鷹司を勇樹の隣にもっていった。場の空気を壊せず、隣り合う二人。そのまま無言で酒を注ぎあい、ポツポツと話し始める親子を見て、のもじは満足そうに頷いた。
「よし、今日は呑むわよ! 美味い酒も、悲しい酒も!」
「お前、実年齢何歳なんだ?」
 はしゃぎ始めたのもじを見据えて、兵衛が一つ肩を竦めた。