タイトル:【決戦】本星艦隊、追撃マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/31 21:30

●オープニング本文


 水上艦と宇宙艦の別なく、戦闘艦の艦長はすべからく『一国一城の主』である。
 艦が艦隊単位で動いている時にはその個性を発揮する余地はあまりない。だが、乱戦下等、ひとたびその『掣肘』から離れた時には、艦の行動には艦長の性格が如実に現れる。
 ある者は鎖から解き放たれた猛犬のように敵に噛み付くべく突進し、ある者は冷静に戦場全体の状況を見定めようとする。例えば、中央艦隊に属する巡洋艦『ハルパー』の艦長、ジョージ・テイラー少佐や『メギドフレイム』のシャリース・タカハシ少佐は後者で、月面会戦で沈んだ『フラガラッハ』のダヴィ・ヂ・モラエス中佐とそのクルーたちは前者に近い。
 敵への損害を重視する者、味方の損害を減らすべく気を配るもの── 中には、自艦の生残のみを最優先にする艦もある。艦長の性格と行動目的が組み合わさった時、艦はまるで一個の生物であるかの如き『個性』を主張しだすのだ。
(『カドゥケウス』のカルロス・ロメオ中佐はマニュアル嫌い、『アスカロン』のハリー・デイビス少佐はクレバーだった。『アガナベレア』のソヨン・E・キム少佐は生真面目一本、『ネイリング』のフアン・カレーラ中佐は地味だが義理と人情に厚い。『ティソーナ』と『コラーダ』のイグレシア兄妹は性格も戦術もまったく異なるが、連携すると不思議と馬が合う)
 そう呟く巡洋艦『ソード・オブ・ミカエル』(以下、SoM)艦長、ロディ・マリガン中佐はと言えば、周囲からは、まず一線級の優秀な艦長であると評価されていた。
 主砲塔の配置が異なる癖の強い艦を率いて、既に3隻のバグア巡洋艦を単独で撃沈している。これは単独のスコアとしては、中央艦隊でもトップクラスの戦果だった。
「あと2隻で『エース』ですね」
 空軍出身の副長、アーク・オーデン少佐などはそんなことを言って笑うが、当のロディなどはもう苦笑いしか返せない。
(虚像だ)
 自身に対する周囲の評価を、ロディはそう断じて嘆息する。艦が上げた戦果は虚実ではないが、それは部下やKVパイロットとして乗り込んだ傭兵たちが共同で上げたものであって、自身のみで上げたものではない。それは即ち、宇宙軍立ち上げの最初期に編成された優秀なクルーに恵まれたからであって、それを自覚せずに調子に乗れば、その時は艦と自身の命でもってしっぺ返しを喰らうことになるだろう。
(しかも、そのクルーたちから僕は全くもって嫌われている。ああ、わかっているさ。僕には名艦長と呼ばれるに最も必要な素質の一つ、『人望』が欠けている)
 挙句、艦隊司令部からは、単艦任務にうってつけの『優秀な艦』だから、と厄介な任務を押し付けられる。‥‥部下たちを無事生きて返す為に、そして、出世街道から外れぬ為に。ロディは今日も自身の責務を果たさねばならない。‥‥胃薬と睡眠薬を友として。
「艦長」
 傍らの副長から呼びかけられて、ロディはふと我に返った。
 SoM、CIC(戦闘指揮所)── 正面のメインモニタには、発見したバグア巡洋艦4隻の姿が映っていた。

 これに先立つ4時間前──
 中央艦隊本隊による敵本部ステーション攻略が進められている間、外縁暗礁宙域で敵巡洋艦2隻との交戦を終えたSoMは、到着した輸送艦から補給を受けていた。
 本来であれば、補給を終え次第、SoMもまた決戦に加わるべきであったが、先の戦闘で受けた損傷もあり、艦隊司令部はSoMに現地での待機を命じていた。
 やがて、中央艦隊から、敵本部ステーションの制圧と敵本星艦隊撃退の報せが届き、艦内には歓喜の声が満ち溢れた。だが、ロディは制帽を目深に被って慎重にその表情を隠した。
 また決戦の場にいられなかった── そう心中で独り言つ。月面会戦の時も、SoMはぎりぎりまで他部隊の支援に回されていた。艦隊決戦に参加できず、端役をあてがわれる星回りというのは、艦長として忸怩たるものがある。
 とは言え、ロディが表情を隠したのはそれだけが理由ではなかった。報告に、また厄介な命令が付帯していることを予測していたからだった。
「我々に本部ステーションを制圧された敵本星第一艦隊の残存艦は、現在、各個に戦場を離脱してバグア本星方面へと逃走を続けています。‥‥これを見逃すわけにはいきません。バグア本星での決戦を前に、敵の機動戦力は出来うる限り削り取っておく必要があります。
 貴艦の位置している暗礁宙域は、決戦場から逃げ出した敵艦が逃走路として利用するのに好適です。貴艦はその宙域に留まり、敵艦が現れた場合は報告──可能ならば、追撃隊が到着するまでの遅滞戦闘をお願いします」
 まことに申し訳ない話ですが、と中央艦隊旗艦『ヴァルトラウテ』艦長、ビビアン・O・リデル(gz0432)中佐は済まなそうにロディに告げた。
 敵巡洋艦2隻という優勢な敵との戦闘を終えた後、部下たちを休ませる間もなく、来るとも知れぬ敵艦を暗礁宙域で待ち受ける── だが、そんな過酷な命令も、ロディは無言で受け入れた。内心はどうであれ、休みがないのは本隊も同様だ。それに、自分よりずっと若い娘が──階級は同格だが──気張っているのに、いい大人が詮無き不平を漏らすのも野暮である。
「お気になさらず、司令官。‥‥自分も、この宙域に敵が来る公算は大きい──そう踏んでいますから」

 かくして現れた敵巡洋艦4隻は、暗礁宙域に入ったところでその行き足を止めた。
 すわ発見されたかと艦内に緊張が走ったが、そうでないことはすぐに分かった。敵は、岩塊に『座礁』して足を止めたバグア巡洋艦──先の決戦により、おそらく機関に深刻な障害が発生したのだろう──から、生き残りの人員と戦力を回収しようとしているようだった。
 座礁した艦に横付けし、回収用のパイプや重力コンベアを伸ばすバグア艦。残る2隻の内1隻は、我関せずといった態で無造作に宙に浮かんだまま、まるで昼寝でもしているように見える。もう1隻は回収作業中の2隻の周りを神経質そうに周回しながら、周囲に対して鋭い警戒の視線を投げかけている‥‥
「4隻ですか。予想より多いですね」
 副長の言葉に、ロディは沈思した。戦力を損耗しているとは言え、バグア巡洋艦の性能はこちらのEX(エクスカリバー)級巡洋艦の性能を上回る。しかも、間の悪いことに、傍受した味方の通信波によれば、こちらに向かっているEX級3隻の追撃隊は、どうやらここの敵を見失っているようだった。
「さて、どうします? このままでは、知らずにやって来た追撃隊が奇襲を受ける可能性があります。かと言って、敵艦の位置を報せれば、その瞬間、我が艦の位置が敵に知れる。優勢な敵の至近距離で、です」
 副長の状況分析は完全に正しい。悩むロディは、ふと、こんなことを考えた。
(あのバグア艦を指揮する連中は、いったいどんな性格をしてるんだろうな‥‥?)

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
黒木 霧香(gc8759
17歳・♀・HA

●リプレイ本文

「今回、キーを握る重要なファクターとして、軸となる二つのタイムシートが存在するわ」
 戦闘開始前、艦長ロディが設けた意見聴取の場において、傭兵・阿野次 のもじ(ga5480)は皆の顔を見回し、そう告げた。
 二つの軸。即ち、『敵の救助の進行状況』と『味方艦が到着する時間』である。この二つの時間を軸にどこで攻撃をしかけるか── それによって戦場の様相は大きく変わるのだが、傭兵たちは迷わなかった。
「勿論、即時攻撃あるのみだよ! 味方の危機にはかえられないんだよ!」
 味方が奇襲されるような事態は避けねばならない。響 愛華(ga4681)が力説すると、月影・透夜(ga1806)と綾嶺・桜(ga3143)もそれに同意した。
 単艦での奇襲── まず慣性でそっと敵に近づきつつ、射出したミサイルをKVの護衛つきで別ルートで突入。敵がそちらに気を取られている隙に主力たるSoMが突撃する── それが透夜たちの作戦案だった。
「最初に発射しておくG5弾頭ミサイルは囮ではあるが、同時に初撃の本命でもある。救助艦はすぐには動けず、座礁艦も出来てせいぜい固定砲台といったところだろう。まずは周囲の2隻──我関せずとばかりに無造作に浮いている艦から確実に沈めていく。警戒の甘い艦ならば、搭載機の発艦も対空防御も遅れるだろうからな」
 透夜の言葉に、愛華と桜が賛意を示した。自身より多数の敵を相手にするには最初に奇襲で数を減らすしかない。
 のもじはむぅ、と首を捻った。
「‥‥ぶっちゃけ、『敵の感知範囲外へ一度離脱して、味方艦に連絡。完全に連携がとれた状態で包囲殲滅』ってのがベストなんだけど、そんな悠長な状況でもないしねぇ‥‥ でも、奇襲に失敗した時はどうする? 撃沈に失敗した場合、救助艦と座礁艦を除いても2対1。その上、4艦から発したキメラに殺到されたら、とてもじゃないけど抑え切れない」
 故に、のもじは奇襲による一撃離脱を進言した。
「封鎖衛星を撃破した時の様に、最大速度で突き抜けながら攻撃する。即ち『当て逃げアタック』。そうして離脱、分断しておいて改めて味方艦と敵を殲滅すればいい」
「ふむ、なるほど‥‥ だが、それでは初撃後、討ち漏らした敵に逃げられてしまう可能性があるな。‥‥奴等を殲滅する機会をみすみす逸してしまう」
 のもじの案を聞いて、ドクター・ウェスト(ga0241)が声を一段低くした。隣に立つ威龍(ga3859)がチラと目をやり‥‥ カリカリと爪を噛むウェストを見て、視線を作戦卓へと戻す。
 それを聞き、黒木 霧香(gc8759)が挙手をして発言を求めた。
「ならば、そちらは私が手当てをしましょう。逃げるにしても1隻ぐらい沈めておかないと、見逃しては貰えないでしょうしね」
 霧香の機は吼天だ。単騎でも敵艦に損害を与えうる。水雷艇の如く側方から内懐へと入り込み、味方の攻撃に合わせて別方向から攻撃すれば敵はさらに混乱するだろう。
「危険じゃないか?」
「はい。ですので、護衛にこの艦のS−02を半小隊ほどつけていただきたいのですが」
 ロディは視線を振ってS−02のパイロットたちに意見を求め、了承を得た後、それを認めた。
「では、作戦はこうしよう。透夜案に従い奇襲を敢行。敵艦撃沈に成功した場合は戦闘を継続。失敗した場合はのもじ案に従い一撃離脱する。‥‥以上、なにか質問は?」
 質問がなかったので、ロディは解散を命じた。各人が手早く退室し、担当部署へと散っていく。
 愛華は駐機場へ向かう廊下を流れる様に移動しながら、友人の桜の横に並んだ。
「ロディ艦長、疲れているのかな‥‥? 色々と大変そうだけど‥‥」
「そうかの? アヤツの場合、信頼されているという自信がないだけのような気もするがの‥‥」
 のもじと桜が並んで廊下を流れていると、背後からぴゅーん、とのもじがすっ飛んできた。
「個人的には『過ぎない』辺り、いい悲観ぶりだと思うけどね」
 実は人望は築きつつある。決断力もある。ないのは楽観論。素晴らしきかな。
 ロディをそう評しながら、ぴゅーん、とすっ飛んでいくのもじ。それを苦笑と共に見送りながら、威龍は肩を竦めて見せた。
「まぁ、あの艦長がいつも貧乏くじを引かされているのは、確かな気がするけどな。とりあえず、今は俺たちに出来うる事で艦長の手助けをすることにしようぜ」


●誘導弾点火より30秒後まで

 敗走中のバグア巡洋艦4隻に対する単艦奇襲攻撃を決断したSoMは、敵艦が座礁した宙域へ向け、そろりと移動を開始した。
 甲板を蹴り、慣性で艦から離れるKVたち。同様にVLSから放たれた2発のG5弾頭ミサイルが別方向へと流れ行く。透夜のディアブロ、威龍のタマモが誘導弾の護衛に付く為、人型で岩塊を蹴り、随伴。その反対方向へは、霧香の吼天が正規軍のS−02二機を従え、飛んでいく。
「はぁ〜、我輩も吼天を使ってみたかったのだがね〜‥‥」
 その霧香機の背を見送りながら、操縦席で嘆息するウェスト。彼は吼天がまだ開発中だった時分に間近でその威力を目の当たりにしており、以来、礼讃にも似た念を抱いている。
 そのウェストの天と愛華のクラーケン、2機が直衛としてSoMの至近に張り付き。さらには桜の吼天が対艦攻撃を補助する為に同速度で進行中。KV隊の情報支援を担当するのもじのピュアホワイトは、現在、無線封止中の為、センサー類もパッシブなものに限定されている。
 静かな──焦れるような時間が過ぎた後。十分にSoMから離れた所でミサイルが加速を開始。事前に入力された航路に従って猛然と敵に突進し始めた。人型から戦闘機形態に変形し、ブーストを焚いて追随する透夜機と威龍機。迎撃機が上がってくる様子はない。敵は事前に警戒機を配置していなかった。
 接近してくるミサイルに最初に気づいたのは、やはり警戒艦だった。他の艦に警告を発しつつ、自らは激しく対空砲火を撃ち上げ、ミサイルを迎撃しようとする。
 だが、ミサイルは警戒艦を迂回するように軌道を取り、他の3艦方面へと突っ込んだ。警戒艦以外の3艦は不意を打たれており、うまく攻撃に対応できない。
 透夜と威龍の直衛を受けた2発の誘導弾がそれぞれに異なる軌跡を描いて、無警戒艦の側面に直撃する。フライパスする透夜機と威龍機の背後で艦上に湧き上がる2つの巨大な閃光── それは瞬く間に艦体を飲み込んで一つとなり、巨大な光球と化して爆発する。‥‥生残していれば最も獰猛であったはずの艦は、初撃であっけなく暗礁宙域の闇へと沈んだ。
「たっ、探針重力波感知! 敵にこちらの存在を看破されました!」
「機関、最大戦速! 全主砲塔、装填始め。予定通りこのまま突っ込むぞ!」
 ロディは直ちに突撃を命じた。主砲射程に達する前に発見されることは想定内だ。主砲の有効射程400m── 艦は全長200mある。
「突進だよ! 今日は最初から全力全開でいくよ!」
 加速・突撃するSoMと同じく機速を上げる愛華機と桜機、ウェスト機。無線封止が解かれたことで、のもじは僚機とのデータリンクを確立。情報支援を開始する。
 SoMの発見を受け、座礁艦は対空砲火を撃ち上げながら、搭載する全てのキメラとワームを順次、発艦させ始めた。救助艦への移送の為、起動済みの個体が多かったのだ。
 救出艦は重力コンベアを引き千切るように座礁艦から離れながら、急遽起動した主砲塔をSoMに向け発砲した。牽制の為に放たれたその砲撃に、SoMと護衛機たちは怯まなかった。離れた空間を灼いて飛び過ぎる怪光線の光条に照らされながら、その主砲を旋回させる。狙うは警戒艦だ。
「全艦、右砲戦用意! 砲雷長。全砲塔、照準。自動追尾開始せよ。コニー、目標の動きは?」
「間もなく射程内に入りま‥‥ あっ!?」
 オペレーターの声にロディはメインモニタに視線を移す。
 警戒艦は、脱兎の如く、この戦場から逃げ出そうとしていた。味方も何もかも見捨てて、いっそ潔いと言えるほど見事な逃げっぷりだった。
(最初から逃げるつもりでいたか!)
 思えば敵は一度も警戒機を発していなかった。艦載機の回収には手間がかかる。或いは最初からそのつもりであったのかもしれない。
 だが、そんな警戒艦の側方には霧香の吼天がいた。
「『天鏡』射出、展開開始。測敵誤差修正。アップトリム5度‥‥」
 岩陰に隠れた霧香機から砲撃誘導装置『天鏡』が打ち出され、岩塊の上方でその位置を固定する。照準──のもじ機から送られてくる周辺のデータを基にその誤差を修正し、目標に狙い定めて慎重にトリガーを引き絞る。
 岩陰から放たれた光条は、天鏡の粒子偏向装置に屈折し、鋭い曲線を描いて虚空を切り裂いた。敵艦上を光刃が走り、艦外に剥き出しにされていた主砲が一文字に切り裂かれ、更なる砲撃によって半壊した主砲が吹き飛ばされる。反撃の対空砲火は、厚い岩塊に阻まれて霧香機まで届かなかった。さらに砲撃。ワームの射出口と思しきハッチがその一撃に焼き炙られる。
 霧香機の攻撃を受けた警戒艦は、さらにその速度を上げつつ、同時に、多数のキメラを一斉に艦外へとばら撒いていった。ワームの姿はひとつもない。完全な使い捨てだ。
「っ! 移動します。陣地転換を‥‥」
 その場を離脱するより早く、キメラが周囲に殺到する。霧香機の両脇を固め、砲火を発するS−02。だが、敵の数が多すぎて流石に手が回らない。
 真後ろに回り込んだ大型キメラが霧香機の背面からプロトンビームを撃ち放つ。十字砲火に晒され傷ついていた霧香機は、その一撃に装甲を貫かれた。


●戦闘開始後、30秒〜

「別働隊、全滅! 全搭乗員の脱出を確認!」
「救助艇を向かわせろ。護衛は残り2機のS−02。威龍機も向かわせろ。‥‥警戒艦の方は? 追いつけるか?」
「敵の方が優速です。このまま暗礁空域の外に出られたらとても‥‥」
「全主砲、エネルギー臨界に達します!」
「ちっ! 砲雷長! 警戒艦にG5弾頭弾を追い放て! 主砲は左舷の救助艦に目標を変更する」
 慌てて砲塔を旋回させるSoM。だが、急な目標変更により、照準はぶれにぶれた。直撃弾1、至近弾4。夾叉こそしているものの撃沈には至らない。

「ちっ、敵の数が多すぎるぞ!?」
 救助艇に先立って現場宙域の制空にやって来た威龍は、破壊された機の残骸に群がるキメラどもに向け、まず一撃離脱でGP−9ミサイルをばら撒いた。
 放出されるプラズマ。薙ぎ払われるキメラたち。威龍はさらにロケット弾をばら撒いて敵を追い散らすと人型へと変形。脱出ポッドを守るように突撃砲を撃ち捲くりながら、機拳で敵を殴り飛ばす。
 一方、逃げる警戒艦を追い討ちしたG5弾頭ミサイルの護衛についた透夜機は、その類まれなる戦闘力で迫るキメラを払い除け続けた。
「ミサイルは落とさせん」
 弾頭針路上のキメラを貫き、艦の対空砲群にミサイルを降り注がせる。直後、突入した弾頭弾は、見事、敵艦の後部に着弾したが、1弾では止めを刺すには至らなかった。
 透夜は逃げる敵艦を悔しげに見送りながら、奮闘する威龍の元へとその機首を翻す‥‥

「みんな! 座礁艦から発した敵が来るわよ! パーティの準備はいい?!」
 右方より迫る多数の敵を感知して── のもじがその情報を味方に送りながら、自らも機に狙撃砲を構えさせつつ前に出る。
 真っ先に迎撃に出たのは、ウェストの天だった。迫る前衛の中型キメラに機体の各所から小型ミサイルを撃ち捲くりながら、両腕部に構えた荷電粒子砲『レミエル』で大型キメラを撃ち貫く。
「けひゃひゃひゃひゃっ、バグアは全て滅んでもらおうか〜!」
 哄笑と共に、ギラついた憎悪の視線を迫る敵へと向けるウェスト。その背後で狙撃砲を放っていたのもじ機がその兵装を背に回し、近づく敵に引き抜いたプラズマリボルバーを連射する。
「ぐるるるるっ! 来るよ、桜さん!」
「分かっておる。背中は任せるぞ!」
 艦を挟んで反対側では、愛華と桜が対キメラ戦闘に突入していた。こちらは通常の防空戦闘ではなかった。桜の吼天がその目標を救出艦へと変更し、砲撃を敢行しようとしていたからだ。
「こちらならしっかり射程内じゃ! まずは機動力を奪わせてもらうのじゃ!」
 砲撃の為、救出艦へと回頭する桜の吼天。そこへ群がらんとするキメラたちは、桜機後上方にぴったりとはりついた愛華機によって阻まれた。まるで桜機の回転機銃のように、テンタクルブラスターを全周囲にグルグルと振り回し、煌く光刃で敵を追い散らす。被弾の衝撃に揺れる機体。愛華はその振動に揺さぶられながら頭を振り、今度はSoMに近づくキメラをレーザーで仰ぎ撃つ。
 一方、愛華の防戦により砲撃に集中することができた桜は、展開した電磁砲身に3発分のエネルギーを注ぎ込んでいた。
「喰らうがいい!」
 桜が引き金を引くと同時に、莫大なエネルギーの奔流が桜機の砲口から放たれた。圧倒的な光量が宙を灼き、瞬間的に救助艦の艦尾に突き刺さる。湧き上がった爆発は、敵艦のスラスターノズルの幾つかを引き千切り、ゆっくりと回転させつつ脱落させた。よしっ、と拳を固める桜。これであの艦は逃げに転じてもすぐに逃げられることはない。
「アレだ! 我輩はアノように全てのバグアを焼き尽くす力が欲しいのだ〜!」
 吼天の砲撃を目の当たりにしたウェストは、その光条に照らされながら、神を仰ぐように両手を捧げ上げた。迫る敵の眼前で機の増加装甲を排除し、軽快な動きで背後に回り、「シンジェ〜ン〜!」と叫びながら重練機剣で叩き切る。
 それを「うわーお」と見送ったのもじは、文字通り一息つきながら周囲の情報支援を再開した。傭兵たちの奮戦により、SoMは敵機に煩わせられずに対艦攻撃に集中している。
「止めを刺す。攻撃準備」
「救護艦にですか? しかし、主砲は再装填はまだ‥‥」
「違う。G5弾頭弾だ。座礁艦に直接叩き込め」
 ロディの指示により眼下の岩塊に対してG5弾頭が撃ち下ろされた。座礁しながらも主砲を放とうとしていた損傷艦が、G5弾頭の業火に焼き払われる。
 残るもう1隻の救護艦は、主砲を再装填する前に座礁艦と同様、ミサイルにより沈められた。反撃の誘導弾は、傭兵たちがきっちり片付けた。
「全ての敵の沈黙を確認」
 オペレーターが信じられないといった表情で艦長を振り返る。
 ロディはホッと息を吐くと、きりきりと痛む胃にそっと右手をあてがった。


 遅れてきた追撃隊の艦長たちは、文字通り絶句した。
 1隻には逃げられたものの、単艦による3隻撃沈── SoMとロディのスコアはこれで6。文句なしのトップスコアである。
「幸運な状況と優秀な部下、そして傭兵たちの奮闘の賜物です」
 そう答えながら、ロディは「これでまた同僚たちにも嫌われるな」と胃を抑える。
「これでロディはエースの仲間入りかのぉ」
 笑う桜に透夜は答えた。
「艦長は十分、クルーに認められてると思うけどな。でなければ、こんな過酷な連戦をああもこなせはしないだろうさ」