タイトル:【FF】アトランタへの道マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/06/14 01:15

●オープニング本文


 【AS】America Strikes Back以降、北米東海岸では、人類・バグア両軍ともにオタワでのエアマーニェ騒動を意識しながらも、戦闘を継続していた。有力な指揮官を多く失った北米バグア軍は、前線を維持する事が出来ず、防戦に徹したまま徐々に後退。そして、オタワの情勢が落ち着き、UPC北中央軍が勢いを増し、更に、ゼオン・ジハイドのエドガー・マコーミック率いる軍が撤退に追い遣られると、前線の南下が一気に加速したのである。

 しかし、サウスカロライナ州のコロンビア、グリーンヴィルまで進攻したUPC軍は、そこで快進撃に終止符を打たれた。
 メトロポリタンXへの途上、アトランタで彼らを待ち構えていたのは、亡きリリア・ベルナールの名と北米バグア軍の再興を声高に叫ぶ歴戦の猛将達、そして士気溢れる兵団。更に、非常に統制の取れた動きで彼らを支援する無人ワーム群にも苦戦を強いられていた。広域での戦力分布やバランス、戦況の変化を敏感に感じ取って配置と陣形を変えていく様は、徹底した中央集中管制による効果だと推測出来るが、その性能は他に類を見ないほど高い。
 進撃の足を止められたUPC軍は、アトランタ東の20号線・85号線上にて敵軍と衝突。同時に、同市を守る都市防衛システムの全容を暴くべく、調査を開始した。

●【FF】アトランタへの道

 州間高速道路85号線を西進していたUPC北中央軍第3師団の先鋒部隊は、アトランタまであと100kmに迫った所で、有力なバグア部隊と遭遇。足止めを強いられた。
 85号線を中心とした両翼に無人機を配し、巧緻な連携により伏撃をしかけるバグア軍。先鋒部隊前衛は速やかに中央のキルゾーンから離脱しつつ、後方からの増援を待って、突出した敵右翼に対して圧力を加え始める。
 敵後方に位置していた精鋭機が飛び出し、こちらの右翼を迂回して逆進し始めたのはその時だった。
 ムカデ状に連結した陸戦用HW、その隊列を糸の様に引きながら、突進を続ける3機の強化型ゴーレム。この時、上空から戦場を俯瞰したならば、T字に展開したUPC軍は『前面に盾をかざす戦士』、その『盾』をかわして中央を直撃せんとするバグア軍は、盾越しに尾を伸ばす蠍の如く見えたであろう。
 その天からの──上空からの視点をUPC軍が持ち得なかったのは、最初の伏撃で偵察ヘリのあらかたを失ってしまったからだ。
 その時、前衛に部隊を出した大隊本部は手薄だった。勿論、すぐに後続する本隊がやってくる手筈であったから、これを大隊指揮官の手落ちと呼ぶのは酷だろう。
 敵は、砂山に埋もれた針の穴に、糸を通すような真似をしたのだ。
「師団司令部、司令部! こちら1混機本部! 現在、敵人型3機を基幹とする敵精鋭による攻撃を受けている! 至急増援を乞う! 畜生、連中、この森だらけの地形で一体どうやって‥‥!」
「1混機本部、こちらは1空機1中隊。既にそっちの上空にいる。これより支援攻撃および空挺強襲を開始する」
 第3師団の対応も早かった。前線の偵察ヘリ喪失を知った時点で、師団司令部は最も足の早い部隊──空中警戒待機中のKV部隊の一部を最前線に送っていたのだ。
 その任務は戦況の伝達と即応。第3師団KV隊隊長、ハンク・カーター少佐は、早速、その命令に応えた。
「ジャクソン。ゲイリー。降下後、貴様等の隊は右翼に回り、張り付いた敵砲列を大隊から引っぺがせ。ブラウン、ハガー、リトルジョンは俺に続け」
 こちらの右翼を迂回した敵は、連結した陸戦HWを随時分離しながら突撃したようだった。分離した敵は全く同じタイミング、動作で転回し、右翼側から大隊に圧力をかけている。いわば、85号線に縦列で並ぶこちらに、敵の横列が張り付いたような格好だ。
 ハンクは部下の多くをその無人機排除に回らせると、自らは大隊本部の後方へと人型降下した。大隊指揮官の搭乗するLM-04(指揮車仕様)の前に出て敵を見る。
 砲撃を浴びせる2機のLM-04Fに肉薄しながら、刀身を振るう3機のゴーレム。腕を切り飛ばされ、転倒する04Fに目もくれずに突進するそれへ向けて、ハンクと部下たちは斜めから突っ込んだ。
「かかれ!」
 号令と同時にブラウンとリトルジョンが放つ狙撃砲と重機関砲が火を吹き、ゴーレムの装甲に火花と弾痕が乱れ飛ぶ。そこへ格闘武器を手に突っ込むハンクとハガー。ウォーハンマーがゴーレムの頭部を粉砕し、機刀が指部を斬り飛ばす。
「まだ行くのか!」
 ボロボロになりながらもまだ前進を止めない敵の姿に感嘆と賞賛の声を上げつつ、ハンクは冷静に銃剣を敵膝部にねじ込んだ。崩れ落ちつつ、だが、最後にプロトン砲を放つ敵。装甲をまともに貫かれた指揮車が火の塊となって爆発する。
 戦闘能力を失った敵機の首から、生身のバグアが飛び出し、その目がハンク機のカメラに映って視線を結ぶ。機体を失ったバグアは、だが、熱狂とも激情とも無縁な態度で味方ゴーレムの肩に乗ると速やかにその場を離脱した。ゴーレムの撤退と共に、HWの横列隊形もまた、収斂するように敵本隊へと戻っていった。続けて、前面に展開していた敵もまた見事な連携で、いつでも逆襲に転じられることを見せ付けながら整然と下がっていく。
「‥‥目的を果たすまで諦めず。目的以上のものには固執せず。‥‥手強いですね。どうにも、これまで戦ってきた敵とは勝手が違う」
「ああ。どうやらここの正面にいるバグアは『我々に近い』考え方をするやつらしい」
 ハガーの言葉に頷き、忌々しげに呟くハンク。一指揮官という立場からすれば、敵は尊敬に値する有能な者より、与し易い愚物の方がありがたいに決まっている。
「それに、あの無人機の部隊運用‥‥ただごとではないぞ?」
 或いは、そちらの方がUPC軍の今後にとって余程危険な兆候かもしれない。今回の戦いにおける一連の展開能力は、言ってしまえば簡単なように見えるが、その実、尋常ならざる指揮・運用能力を必要とする。森が多く視界も悪いこの地形を完璧に把握しつつ、まるで一個の生物であるかの如く操るなど、どんなに有能な指揮官でも一朝一夕にできることではない。
「ともあれ、我々にできることは、ひとまずないがね」
 指揮車を脱出していた大隊長が、ハンクに礼を言いながらそう告げる。
 大隊は前衛のR-01COP隊と本部のLM-04F隊、1個小隊ずつを失っていた。戦車隊の損害も馬鹿にはならない。師団司令部は大隊に対して、前進の停止と再編を命じていた。
「これで師団の前進速度は大幅に鈍る‥‥ してやられたかね、これは?」
 自らの大隊の惨状を師団の未来に照らし合わせて、大隊長は嘆息した。沈痛な面持ちのハガー。どうだろうな、とハンクはうそぶいた。
「なに?」
「いや、『尊敬に値する敵』が大好きな連中もいるな、と思いましてね。大隊はここから動けなくても、傭兵連中はフリーハンドなわけでしょう?」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
入間 来栖(gc8854
13歳・♀・ER

●リプレイ本文

 大隊が再編を済ませるまでフリーハンドを与えられた傭兵たちは、まず前方に展開する敵に対して偵察行動を取ることにした。
 編隊を空と陸、二つの班に分け、低空に電子戦機を2機、高空に2機を制空に置いて、残る4機で地上から森へと入っていく。予定の行動範囲は5kmないし10km。その全てを探索し終えずとも、3時間が経過したら大隊まで撤収。集め得た情報を元に敵情を推測する。
 85号線を滑走路代わりに飛び立ったウーフー2『如龍』のパイロット、威龍(ga3859)は、地上4機の前進速度に合わせて機を低空に旋回させつつ、自機後方を飛ぶ僚機へ目をやった。最新の電子戦機『幻龍』──宇宙にも対応しているその新鋭機は、少女傭兵、入間 来栖(gc8854)が搭乗する『Cya』だった。
「よっ、よろしくお願いしますっ、威龍さん!」
 ペアを組む威龍に対して、機上でも律儀に挨拶をする来栖。操縦席でもペコリと頭を下げてる姿が想像できて、威龍は苦笑混じりに告げた。
「俺たちの役割は低空からの地上の探索、および支援なわけだが‥‥ センサーに頼り切るな。自分の目で周囲を確認しろ。地上ばかりに気を取られてると、いつの間にか背後から喰われるからな」
「ろ、ろじゃー(了解)です! でも、多分、初撃は私には来ない気がします。よく『存在が空気』とか言われますから、私!」
 じゃあ、撃たれるのは俺じゃねぇか。そんなことを心中に呟きながら、威龍は風防越しに空を見上げた。まぁ、今回に限れば不意打ちはないだろう。そうならぬよう高空には、味方が2機、張り付いている。

「敵、いないね、剣一郎さん。見渡す限り、見事なまでに、真っ青なお空ばかりだよ‥‥」
 その高空。クラーケン『紅良狗四式』の操縦席で、響 愛華(ga4681)は何もない空を見渡しながら、ペアを組む僚機にそう言った。
 敵の姿は影も見えない。敵ははなから航空優勢を放棄したということだろうか。だが、あれだけ大規模な部隊を地上に展開しておいて、そのようなことが有り得るのだろうか‥‥?
 愛華機の前方を飛ぶシュテルン・G『流星皇』の操縦席でも、白鐘剣一郎(ga0184)がその小首を傾げていた。
「戦域を見渡す為の『眼』を先んじて奪い、こちらの戦力編成・配置を掌握した上で中枢を強襲‥‥ 手際が良過ぎる。敵もまた、上空に『眼』を張り付かせている可能性が高いと思っていたんだが‥‥」
「2万mまで上がってみる?」
 愛華はそう告げると、自ら機首を上へと向けた。その色を濃くしていく蒼い空── だが、そこまで上がっても敵機動兵器の姿はない。宇宙の眼、という可能性も低いだろう。封鎖衛星『ヘラ』の破壊以降、北米上空のバグア制宙権は著しく後退している。
「では、敵は地上戦力のみであれだけの部隊機動を見せたというのか‥‥?」
 可能性はなくはない。この地に先に布陣したのはバグアが先だ。地形を把握しておくことは──その範囲と速度が尋常でなかったことを別にすれば──可能だったろう。だが、こちらの隊列転換への対応の早さは、それだけではありえない。
「桜さん、大丈夫かな‥‥ 余り無茶してなきゃいいけど‥‥」
 機を傾け、心配そうに地上を見下ろす愛華。高度2万から見下ろす戦場は、あまりにも小さかった。

「天然(略)犬娘は空じゃったか‥‥ あちらは問題ないと良いがのう‥‥」
 愛華の言葉に呼応した訳ではなかろうが。地上、森の中を進むシコンの操縦席で、綾嶺・桜(ga3143)は、森の木々の枝から覗く空を見上げて呟いた。
 その前方、少し離れた所に膝をつく、月影・透夜(ga1806)のディアブロ『影狼』。地面には、大隊本部奇襲に際して、敵陸戦HWが通ったと思しき轍の跡が残っていた。敵はこの木々の中から、高低差の少ない最適なルートを選んで突破していた。空恐ろしいくらい正確に。
「巫女姫、巫女姫。こちらExceed Divider。定時連絡。何か発見できましたか?」
「そのコールサインはなんとかならんかと何度‥‥ あー、『影狼』がムカデワームの車輪の痕を発見したようじゃ」
 顔を赤く染めながら桜が仲間に声を返す。Exceed Divider──スレイヤーを駆る守原有希(ga8582)は、桜の声に動揺を感じて笑みを浮かべた。
「で、そちらはどうなのじゃ。なにか見つかったのかの?」
「何も。敵機の影はおろか、罠も、地雷も、野戦築城の痕跡すら発見できません」
 声に多少の落胆を込めて、有希は桜にそう返した。実のところ、有希は、敵がこの遮蔽物の多い森に、予め移動用の地下道を張り巡らせていたのではないか、という仮説を持っていた。そうであれば、敵の部隊機動が異様に早かったことも、敵が(地下鉄の様に)連結していたことも説明がつく。
 だが、森に入ってから見出した痕跡からは、その事実を裏付けることができなかった。地に突き刺した地殻変化計測器からも反応は微塵もない。
 有希機の背後、ピュアホワイト『ピュアピース・プリンセス』の操縦席では、パイロットの阿野次 のもじ(ga5480)が不機嫌そうな表情で自機のセンサーモニタを睨みつけていた。
 この森に入って以降、彼女の愛機のロータスクイーンは沈黙を保ったままだった。モニタ上、ここより遥か前方に固まってるのは、恐らく稼働中の対空砲──レックスキャノンの群れだろう。だが、その前面に展開しているべき数多の陸戦ワームの反応が『ひとつもない』。
(どういうこと? 敵は動力炉を切っている?)
 たしかに、バグア機なら暖気運転も必要とせずすぐに戦闘行動が取れるのかもしれない。センサー系の電源も別だろう。だが、部隊としての反応はどうしても鈍くなるはず。敵前で全機の主動力を落とすなど、そんな思い切った真似ができるいうのか。
「出来るんでしょうね、多分。ここの敵はそういう敵」
 これを全てあの有人機が指揮しているのか? 正規軍機が捉えた敵指揮官の姿は、自らの知るバグアではなかったけれど‥‥
「‥‥待て。透夜が斥候機の残骸を発見したのじゃ。これより接近する」
 通信回路を開いたまま、透夜機と桜機が周囲を警戒しつつ、慎重に残骸へと接近した。残骸は軍の装甲偵察車4両。そのどれもにフェザー砲と思しき巨大な破孔が開いている。おそらく、包囲された上で一斉に攻撃を受けたのだろう。周囲の地面や木々には偵察車が反撃した痕跡は残っていない。
 残骸を挟むようにして周囲を警戒する透夜機と桜機。彼等をグルリと取り囲む木々の陰には、しかし、何者の姿も見られない──
「どういうことじゃ。この偵察者が来た時、敵はいた。じゃが、今は存在しない」
「敵は大隊の前面から後退してる、ということか?」
 透夜の呟きに答えるものはいなかった。KVの姿を見かけ、この地に放たれたと思しきキメラが数匹、ただ一目散に逃げていく‥‥


 敵は制空権を放棄したのか。その疑問を抱いた剣一郎は、愛華と別れて単騎、高空をアトランタへ向け移動を開始した。
 ピケット機を、CAP(戦闘空中哨戒)機を蹴散らしつつ、アトランタへと進んでいく。その進撃は、だが、アトランタから50kmの所で阻まれた。
 現れた敵編隊は中隊規模。有人機と思しき姿はない。
 その敵編隊は、空中で素早く、一分の隙もない隊形を整えると、これまた精密極まりない一斉射を剣一郎機とその周辺に撃ち放った。それは剣一郎機だけでなく回避範囲まで薙ぎ払う一撃だった。剣一郎がどうにか回避し得たのは、彼の機の機動性が敵の予測を上回っていたからだろう。
 機の翼端を焼かれた剣一郎は戦闘に拘泥せず、そのまま機首を翻すと追撃を振り切り離脱した。
 帰還すると、そのまま傭兵たちの集まった広場へと移動する。傭兵たちは先の偵察で得た情報を元に今後の指針を話し合っていた。

「わぅん。高空には猫の子一匹いなかったんだよ。敵は空から戦場を監視してないよ」(愛華)
「地上でも監視装置の類は発見できませんでした。防御陣地の類もありません」(有希)
「私、低空からキメラの動きを観察していたんですけど‥‥精緻な動きを見せるワームと違って、統率された様子はありませんでした。‥‥もしかしたら、『野良』に近いのかも」(来栖)
「軍の斥候は全滅じゃ。じゃが、それを成した敵の姿は既にその場にはなかった」(桜)
「て言うか、偵察中、センサーには何も映らなかったんだけど」(のもじ)
 皆の報告を聞いて、威龍は「もう敵はいないんじゃないか?」と冗談めかして口にした。有り得ない話ではない。敵は消耗戦を選択しなかった。敵の目的が大隊の撃破でなく時間稼ぎであるなら、それは既に達成されている。
「敵はこの地に執着してはおらぬようじゃ。少なくとも後退はしておるじゃろうな。‥‥或いは次の伏撃地点へ」
 桜の言葉に、透夜は唸った。どうやら今度の敵はかなり厄介な相手のようだ。覚悟や信念、そういった想いが通っているのかもしれない。
「大隊の進攻路である85号線上に対して、威力偵察を行うべきでしょうね」
 有希の言葉に能力者たちは頷いた。

 能力者たちは補給と休憩に1時間をかけると、再び前方の森へと移動を開始した。
 配置および方針には変更なし。ただし、その探索範囲は、先の偵察の『大隊前面の広範囲』から『85号線近辺を奥深く』へと変わっている。
 2段の高度で空を飛ぶ4機の傘の下、透夜機と有希機を先頭に高速道路上を行く4機の人型。周囲を警戒する桜機の傍らで、のもじ機のサードアイが大隊へ提供する地形データを撮影していく‥‥
 十分に待ち伏せを警戒しながら半時ほど奥へ進んだ頃だろうか。センサーが一斉に反応を示し、4機は足を止めてそちらに砲を向けた。木陰から姿を現したのは、敵の斥候と思しき1機の陸戦用HWだった。HWは4機に気づくとクルリと身を翻し、一目散に森の中へと逃げていった。
「罠じゃな」
「罠ですね」
「罠だろうな。だが‥‥」
 ここで退いては威力偵察にならない。敢えて虎穴に入って相手の出方を見なければ。
 とはいえ、無闇に飛び込むほど自惚れてもいない。能力者たちは森の遮蔽を巧みに利用しながら、一定の距離を保って後を追い‥‥ 直後、突然発生した頭痛にその身を仰け反らせた。
「CW(キューブワーム)だ! ECCM起動、帯域Bを中和開始。入間!」
「ロジャーです! 帯域Cを中和。逆探知、打ちます!」
 上空の威龍と来栖は即座に反応した。中和装置と『蓮華の結界輪』を起動してバグアのジャミングに対抗しつつ、逆探知して発生源──CWの位置を割り出す。
 配置されたCWは少数でも広範囲に妨害波を放つよう、何らかの細工がされているようだった。数は5。85号線脇の森の奥、道路に沿うように一列に配置されている。
 威龍と来栖はそのラインをなぞる針路へその機首を巡らせると、撃ち上げられる対空砲をものともせずに対地攻撃を開始した。威龍機の放つロケット弾が、来栖機の放つ高速ミサイルが、次々と森の中へと着弾、爆発する。木々の間に湧き上がる炎の華。その内の幾つかはCWを砕いて咲いたものだ。
「サンキュー! 威龍ちゃんに来栖ちゃん! リンク回復。重力波センサーも‥‥っ!?」
 低空の二人に礼を言いかけたのもじは、回復したセンサーモニタを見て絶句した。まるで、何もない砂浜から小蟹が一斉に湧き出すように── 無人ワームが起動する重力波の反応が、そこらじゅうに現れたのだ。
「やはり罠か!」
 予測していた能力者たちは火砲で応戦しつつ、包囲されぬよう後退を開始した。それに対する敵の反応の早さがまた異常だった。即座に両翼を伸ばし、かつ、その背後でも前進をかける敵。こちらへ砲門を向けたまま、まるでCGのように正確に側面を駆け上がる敵を見て、桜の背を冷たい汗が伝う。
「後ろに逃げたら呑みこまれる‥‥! 一翼を破って背後に出ます!」
 有希機がスラスターライフルを撃ち捲くりながら左の敵へと吶喊する。それを柔らかく受け止めながら十字砲火を浴びせようとする敵。有希はオーバーブーストを焚いてさらに加速し、退いた中央部分に火力を集中してそこを強引に突破する。
 桜もまたそれに続いた。森の中故にハンマーの使用を諦め、種子島を前へと穿つ。光線に貫かれて爆発するHW。そこをアクセラレータを起動した桜機が88を撃ち放ちながら駆け抜ける。
「なんじゃ。先程とは打って変わってやる気じゃの、敵は。これで指揮官クラスが出てきてくれればよいのじゃが」
 操縦席で不敵にうそぶく桜。その瞬間、こちらに高速で接近する3つの反応をセンサーが捉えてのもじの警告の声を上げた。森を抜けて道路へ戻る。強化型タロスと強化型ゴーレム2機が突っ込んできたのはその時だった。
「傭兵か! リリア様を倒したという『力ある者たち』‥‥! お前たちはここで潰しておく!」
 叫び、その大剣を振り被って突っ込むタロス。それを装輪で走りこんできた透夜機が機刀で受け止める。刀身を滑らせ、そのまま右の機槍を突き込む透夜。それを右のゴーレムが盾大剣で跳ね上げる間に、左のゴーレムが高速で機剣を突き出し、それを透夜機が慌てて後退する。そこへ牽制のスラスターライフルをものともせず突っ込んでくる敵タロス。左右のゴーレムがフェザー砲でそれを支援する。
(流石にこの3機相手はキツいか‥‥?)
 振り上げられた大剣を仰ぎ見て透夜が舌を打った瞬間、横合いから突っ込んできたKVがタロスごとその大剣を跳ね飛ばした。高空から降りてきた剣一郎が低空から人型降下し、地上へと降り立ったのだ。銃を放つ有希機と桜機の眼前で森から湧き出してくる陸戦HW。それを低空へ降りてきた愛華機が上空をフライパスしながら、幾筋もの電撃でもって焼き払う。
「来たか、愛華!」
「お待たせ、桜さん!」
 再び旋回して戻って来て、威龍、来栖と共に対地攻撃を仕掛ける愛華。その支援を受け、のもじの指示の下、有希と桜も無人機群を押し返す。信じがたいことに、敵無人機群はその損害の大きさに一瞬、怯んだようだった。接近戦を回避し、遠くから数を活かしての砲戦へと切り替える。
 そして、大規模な戦闘の発生を察した後方の大隊が、戦場へ増援部隊を派遣してくると、無人機は戦闘を中止して一斉に戦場を離脱し始めた。
「退くのか、アルヴィト!」
(アルヴィト‥‥?)
 虚空を仰ぎ、そう叫ぶタロスの敵指揮官。なお傭兵との戦いに名残を残すタロスの肩を1機のゴーレムがガッと掴み‥‥ 敵有人機群は煙幕と閃光弾を撒き散らしながらその場を撤退していった。
 最後に、ゴーレムの1機がチラとのもじの機体へ──エンブレムと特徴的なKVマントに視線を向ける。それを見たのもじは、操縦席でニヤリと笑った。
「ふっ、そっちだったとは。しかし、やるわね。お姫様ポジで違う機体の私の正体を一発で見破るとわ」
 佇むのもじ機の横を通過していく正規軍のLM−04F。天上の空は既に暗く、日はまさに落ちようとしていた。