タイトル:【崩月】『4月』攻略マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/31 22:28

●オープニング本文


 月の裏側に存在したバグアの拠点。同心円状に配置されたそれが何物であるかはわからないが、L2艦隊全滅の経緯などからみても、バグアにとって知られたくない施設だったのは明らかだった。
「だからといって、一隻で喧嘩を売るってのはしんどいなぁ」
 誰かがぼやく。崑崙には、駐留アジア艦隊をはじめ少数の戦力しかいない。本来なら6箇所もの攻撃はできるはずもなかった。手持ちの戦力で可能な限り、というと多くても3ヶ所といったところだろうか。攻撃手段はKVによる強襲と、巡洋艦のG5弾頭による長距離攻撃だ。相手が回避しないならば、G5弾頭ミサイルの有効射程は60kmに及ぶ。とはいえ、迎撃されれば破壊されるし、なにより崑崙にあるG5弾頭は決して多くは無く、艦艇に配備できるのは3基までらしい。
「施設の護衛がいないとは思えん。G5は目くらましに使うか、本命に使うかは自由だが、無駄撃ちはさせないようにな」


●【崩月】『4月』攻略

 バグア低軌道ステーション戦で受けた損傷の修理を終え、カンパネラを発した中央艦隊所属のEx級巡洋艦『ソード・オブ・ミカエル』(以下、SoM)は、月軌道に展開中の本隊と合流すべく移動中に新たな命令を受領した。
 その内容を確認した艦長、ロディ・マリガン中佐は、渋い顔をしたまま、命令が記された紙片を背後の副長、アーク・オーデン少佐に手渡した。
 アークは表情を変える事なく、丁寧な所作でその命令を確認する。曰く──
「『SoMは本隊との合流予定を変更。単艦で崑崙基地へと赴き、現地部隊と共に『月面裏側のバグア施設』に対する攻撃作戦に参加せよ』──ですか」
「また貧乏くじだな。本隊はバグア本星艦隊との華々しい決戦を迎えるというのに‥‥」
 やれやれと嘆息しながら愚痴を零すロディ。アークもまた苦笑した。初期設計の艦ゆえに他の同型艦と主砲塔の配置が異なるSoMは、その運用方法も僚艦とは異なるため、これまでも度々、単艦での任務をあてがわれてきた。まぁ、今回の場合は、低軌道ステーション戦で受けたダメージの修理の為、僚艦に出遅れたのが主な原因なわけだが、それでも、主力艦の艦長として、敵艦隊との決戦に参加することができないロディの無念は、察するに余りある。
「崑崙はいまだ、その防衛に傭兵戦力をあてにしているような状況ですから。戦力は勿論、G5弾頭ミサイルもあまり数がないのでしょう」
「ふん。我々は運び屋というわけだ。‥‥ああ、わかっている。攻撃目標は、敵がL2艦隊を全滅させてまで隠そうとしたものだ。‥‥そして、その情報はL2艦隊が全滅と引き換えに届けてくれたものだ。たとえ暗殺者みたいな任務であろうと、ないがしろにする気はないさ」

 崑崙に到着したSoMは、VLSに搭載したG5弾頭弾を攻撃に参加する他艦に分与。自らも3発のG5弾頭弾と傭兵機を抱いて、『4月』とコードネームを与えられた『何か』へ向け出発した。
 ある程度まで近づいてから艦を停止し、偵察の為にKVを地上から先行させる。
 センサーモニター上、『4月』が存在すると思しきエリアへ近づいていく、偵察機を示す光点。だが、偵察機から送られてくる正面映像にはただ月面の光景が広がるばかりで、人工物等、なんら変わったものは見られない。
 或いは、L2艦隊が命がけで手に入れた情報は無駄だったのか──? SoMのCIC(戦闘指揮所)の面々がそんな暗澹たる推測に囚われ始めた時。偵察機が送ってくる映像にノイズが走り、まるでパズルが欠け落ちるように、突如、『それ』がその姿を現した。
「光学迷彩!? やはり、ここには何かが‥‥っ???!」
 CICにいる誰もがその光景に絶句した。
 月面から見上げるほどに大きな、巨大な『何か』── 明らかな人工物が地面からそびえ立っている。
 その高さは小高いビルにも匹敵する。円形を描いていると思しきその横幅は、どれほどの広さになるのか想像もできない。
「‥‥あれは何だ、副長?」
「‥‥さぁ、私には‥‥ 強いてあげるなら、エンジンノズルか何かのように見えますが‥‥」
 副長のその言葉に、ロディは思わず笑みを浮かべた。あんな巨大なエンジンノズルなんてあるものか。あるとすれば、いったい何を動かすというんだ。
 思いながら、ロディは、L2艦隊がもたらしたバグア施設の配置予想図を思い返した。巨大な月の裏面を中心に、同心円状に配された何か── ロディの笑みが引きつり、固まる。
「連中、まさか──」
 ロディが腰を浮かしかけた時、崑崙基地から新たに情報が入った。
 敵はこの月を地球へ落下させようとしている。展開中の各艦においては、つつがなく作戦を遂行されたし──
「なんてこった。裏方仕事のはずが、一挙に地球の運命を担わされてしまった‥‥」
 思わず漏れた愚痴に、CICの面々が不安そうにこちらを見返す。ロディは心中で舌を打った。指揮官は部下を不安にさせてはならない。
「大丈夫だ。少なくとも、それが判明してから慌ててここまで来るよりは、少なくとも一日分のアドバンテージが僕らにはある。それに最大限漬け込むとしよう」
 ロディは悠然と席から立つと、パイロットたちをブリーフィングルームに集めるよう、部下たちに指示を出した。

「状況は聞いての通りだ。我々は目の前の『4月』基地を攻撃。敵がこちらに気づく前にその基部を破壊する」
 ブリーフィングルームで告げる飛行長の表情は、精悍以外には表現できない厳しいものになっていた。以前はよく冗談を口にする『好々爺』だったのだが‥‥ 低軌道ステーションの戦いで、彼は、艦載補給装置の一つと──そこにつめていた整備士たちを、若い部下たちを失った。それはSoM艦内で生じた初めての戦死者だった。
「先程、敵は守備隊と思しき機動戦力を多数、発進させた。恐らく、UK1に対抗する為の戦力移動と思われる。代わりに、敵は多数の宇宙地上戦用キメラを出撃させ、4月基地の周りにグルリと円を描くように配置した。輪形陣──即ち、高空からの進入を警戒した対空監視網だ。恐らく、新たに戦力が充実するまで、持ちこたえる腹だろう。‥‥だが、既にこんな近場にまで俺たちが接近していることを、連中はまだ知らない」
 飛行長はバシリ、とホワイトボードに指揮棒を叩きつけた。
「敵は輪形陣を取った。早期警戒の為かその円の半径は大きく、基地中央部からの距離は遠い。これは即ち、敵が戦力を分散させたことを意味する。我々はそこにつけこむ。
 当艦、および4機の艦載S-02、ラインガーダー隊は高空より敵『4月』基地へ接近。囮となって敵に残された機動戦力を誘引する。その間に、主力たる傭兵機は、地上から敵対空キメラ群を一点突破。一撃離脱により中枢を直撃し、直衛部隊と施設を撃破。一点突破で脱出せよ。いいか、時間との勝負だぞ。敵戦力に飲み込まれる前に仕事を終えて脱出するんだ」

●参加者一覧

漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

 Ex級宇宙巡洋艦SoM内、ブリーフィングルーム──
 作戦の詳細を説明し終えた飛行長が解散を命じた瞬間、クルーたちは慌しく艦内を動き始めた。
 勿論、傭兵たちもまた例外ではない。装備のチェック、機体の確認。出撃までに済ませておかねばならないことは山ほどある。
「しかし、月落としなんて、御大でも考えないような事を、よくもまぁ‥‥」
「‥‥にわかには信じがたいが、連中なら可能なのだろうな。おそらく」
 ヘルメットを小脇に抱え、退室すべく床を蹴るドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)と水円・一(gb0495)。その声を聞きながら、赤宮 リア(ga9958)は椅子から立ち上がることも忘れ、膝の上で拳を握り締めていた。
(まさか、月を地球に落とそうなんて‥‥ なんて恐ろしいことを‥‥)
 そんなことになったら、間違いなく地球はお仕舞いだ。なにがなんでも阻止しなければ。だが‥‥
 ふと間近に人の気配を感じて、リアはハッと顔を上げた。傍らに立っていたのは、夫の漸 王零(ga2930)だった。
「あ、零さん、わたくし‥‥んっ!?」
 立ち上がる前に、リアは王零に引き寄せられてその唇を奪われていた。慌しく動き回る人影を背景に、暫し微動だにせず口付けを続ける二人。ようやく解放されたリアが潤んだ瞳で夫を見上げる。
「零さん‥‥」
「よけいなことは考えるな。我等は生きて帰ってくる。いつも通りにな」
 王零のその言葉に改めて頬を染めたリアは、強烈な視線を感じて横を見た。そこには、顔面を真っ赤に染めて口をぱくぱくさせる綾嶺・桜(ga3143)と、によによとした顔で微笑を浮かべる阿野次 のもじ(ga5480)の姿があった。
「こ‥‥い‥‥な‥‥を‥‥っ!?」
「こんなところでいったいなにを、と桜ちゃんは申しております」
 指を突きつけた姿勢のまま硬直する桜の言葉を、のもじが横で通訳する。
 王零は涼しい顔でそれに応じた。
「夫婦が交わす出撃前の『おまじない』だ。お子様には刺激が強すぎたか?」
「おこ‥‥!?」
 顔を真っ赤にしたままわたわたと床を蹴り、巫女服型の宇宙服をひらひらとさせながら移動する桜。その後をのもじがふわふわとついていく。
「ねー、桜っち? 私たちも『おまじない』するー? あー、でも、桜っちは赤毛の方が好みかねー」
「い、いい加減、からかうのは止めるのじゃー!」
 ハリセンを手にクルクルとツッコむ桜と、それを高笑いと共にかわし続けるのもじ。その光景を傍らから見ていた守原有希(ga8582)は「あはは‥‥」とひきつった笑いを浮かべ‥‥ ふと先程のおまじないと婚約者の顔を思い返してしまい、ボンッ、とその顔を赤くした。


「‥‥いつまでも母艦に囮の負担をかけ続けるわけにはいかねぇしな。時間との勝負だぜ?」
 地球から月を見上げるように── 上昇するSoMを操縦席から仰ぎ見ながら、威龍(ga3859)はその場にいる皆に向かってそんなことを呟いた。
 確かに、時間との勝負だった。速やかに離脱が果たせなければ、SoMも損害を出すだろうし、最悪、包囲網を縮めて密度を増した敵外縁部隊を突破できなくなるかもしれない。
「SoMの搭載する3発のG5弾頭弾は全て、我々の離脱時に使用してもらうことで話がついています。離脱時であれば敵もこちらに注意を向けている公算が高く、それでなくともウチらと交戦した後でしょうから、敵の迎撃能力は落ちている公算が高い。施設を直撃する機会を得るにも、我々の離脱を支援するにも、このタイミングがベストと思われます」
 有希がそう言う間も、のもじはロータスクイーンを用いて周辺地形の地図化を進めている。クレーターの稜線から額部のカメラのみを出し、移動しながらの危険な作業。幸い、敵には気づかれなかった。その時には既に敵の目は、地平線上に現れたSoMに向いていたからだ。
 周囲に正規軍機を展開しつつ、突進するSoM。そこへ向け、施設外縁に配された対空キメラ部隊から対空砲火が放たれ、SoMは不承不承といった態で回頭しながら、対宙レーザーをに撃ち下ろす‥‥
 のもじは、完成した簡易3Dマップに探知した敵影を重ね合わせると、進むべき針路を矢印で示して僚機へと転送した。
「まじかるノモディより各機。我々は直衛班を先頭に錐形陣形を取り、敵外縁部隊を突破、施設へと突入する。カウントダウン開始。‥‥3、2、1、全機突入! YAT! HAT!」
 のもじ機の合図と共に、傭兵たちのKVは一斉に稜線から飛び出し、一路、斜面を下って敵対空キメラの輪形陣目掛けて突撃を開始した。SoMを狙って砲口を上に向けた──『横腹を晒した』敵群に突っ込み、眼前の敵に砲火を集中する。
「月面、戦闘、か‥‥フヒヒ。さぁ、プレゼントを届けに行こう」
 永遠の夜の下、眼前に迫る白い月面と対空キメラ── ドゥは装輪で月面を駆けながらブーストの擬似慣性制御で跳ね上がる機体を押さえ込むと、9式自動歩槍を機に構えて随時、敵へと発砲した。その直撃を受けた『対空砲を背負った蚤の様な姿の中型キメラ』が、その砲口を空に指向したまま砕け散る。
「邪魔するなら遠慮なく喰い破らせて貰う!」
「邪魔ですっ! 道を開けて戴きますよ!」
 王零機の散弾が、リア機の機杖が、それぞれSoMに照準していた4脚の大型重砲キメラを打ち貫いて擱坐させる。
 設置班の面々もまた突進を優先しながら、針路上の邪魔なキメラを打ち払った。有希機の制圧射撃の下、両腕に機銃を構えた威龍機が、ガトリングとハンマーを振り回した桜機がそれぞれ蚤型を針路上から排除する。
「ええい、わしら邪魔をするでない。横に退いておれ!」
 砕け散った敵を横目に見ながら、桜が操縦席で叫ぶ。瞬間、正面に展開していた敵キメラの姿が消え、すべからく視界を後ろへ流れていった。外縁に展開していたキメラの輪形陣を突破したのだ。
「突破してからが本命だ。いくぞ」
「おう。時間との勝負だ。一気に決めてやろうぜ!」
 冷静な一の言葉に、威龍が機の速度を緩めず答える。その時、センサーが警報を発した。前方から迫る新手を捉えたのだ。
 敵は陸上輸送用のムカデ型ワームだった。4両を連結し、背にそれぞれワーム用の兵装を背負っている。おそらく、輸送用のワームに急遽、武装を施して自走砲にしたのだろう。その後ろにも同様の敵。こちらのコンテナは開いていない。
「直衛班! 右手側のムカデを殲滅して! 自走砲の方は無視していいわ!」
 のもじが叫び、王零機とリア機、ドゥ機の3機は、隊列から離れたムカデに向かってその砲火を浴びせかける。
 本隊に反航してきた自走砲がすれ違い様に砲を撃ち、それを桜機と威龍機が超伝導RAで受け凌ぎながら足を止めずにやり過ごす。回頭し、追撃に入る自走砲。だが、その間にも距離は開いていく。
 直衛班の直撃を受けたムカデたちは、為す術もなく全滅した。コンテナの中には、起動前のキューブワームが入っていた。


 敵はSoMとの戦闘に支障が出る一部の戦力を残し、他全てのキメラを中央の施設に向かわせつつあった。
 急速に狭まり、収束していく包囲陣。また、中央の兵器庫と思しき施設からも、タロスやゴーレムといったなけなしの戦力が投入される。
 ここにきて、敵はこちらの意図を完全に了解したようだった。だが、全ては後手に遅れている。
 傭兵たちの機体は『4月』の中央施設──『エンジンノズル』にまで到達していた。

「設置班各機、爆弾準備。一気に施設まで突っ走るわよ! 直衛班。施設の近辺に人型がいるわ。施設を中心に北に3機、東と西に1機ずつ‥‥視覚データ確認。北の1機がタロス、それ以外はゴーレムよ!」
 タロス──指揮官機か。のもじから送られてきた情報に一つ頷き、王零は施設北側の敵へ目をやった。
 あれが指揮官機であるならば、速攻で沈黙させることができれば敵の指揮系統を破壊することができるだろう。だが、いまだ敵との距離は遠い。設置班をフォローできる距離から外れてしまう。
「リア。我は北面にて敵指揮官機を待ち受ける。汝は‥‥」
「ええ。東を撃破後に合流します。ドゥさんは‥‥」
「了解。じゃあ、僕は西だね」
 それぞれに展開する直衛班。その間にも設置班は中央へと突進する。
 爆弾は、持ってきたその数を活かして、中央施設の基部、東西南北の4箇所に設置する事にした。最も早く到達できる南面には、情報支援機たるのもじと有希。東に桜、西に威龍、北面には一が回る。
「フッ、設置中の背中の守り‥‥任せたわよ! 爆弾は、私が必ず解体してみせる! ‥‥あれ?」
「解体しちゃダメです。とにかく、後ろは任されました」
 自らも爆弾を背負ったまま、施設に向かうのもじ機の後方を警戒する有希機。赤と青のコード、選びたかったな、などと呟きながら、のもじ機が施設内部へ通じる大型扉、その入り口の前に設置してタイマーをセットする。
 入れ替わり、少し離れた場所に爆弾を設置する有希。センサーが鳴り、南から迫っていたムカデの自走砲が4両に別れて北上してくることを告げる。

「爆弾の設置を完了‥‥ おい、坊主、まだ生きてるか?!」
 西面。誰の妨害を受ける事なく爆弾の設置を終えた威龍は、背後を守るドゥを振り返ってそう叫んだ。
 西面にやって来たゴーレムは強化型だった。ドゥは爆弾設置中の威龍機の背を狙ったフェザーライフルによる一撃を超伝導RAで受け凌ぐと、歩槍を撃ち放ちながら一気に前に出た。一撃ごとに距離を変えつつ、装輪で敵機を周回する。それを無視し得ず、盾をかざしながら砲を撃つ敵ゴーレム。光線が人口筋肉のコーティングを剥がして金色の光を周囲へ振りまき、ドゥ機を激しく振動させる。
 と、そこへ爆弾設置を終えた威龍機が、銀の拳を振り上げながらゴーレムに打ちかかった。砕け落ちるフェザー砲。距離を取り剣を抜くゴーレムに、威龍がさらにラッシュをかける。互いの剣戟が火花を散らす中、威龍機が裏拳で放った拳が敵機の盾を大きく弾く。
 その開いた部分へ向け、ドゥは左腕のレーザーガンを撃ち放った。瞬間、ガクリと左腕を落とす敵へ向け、そのまま歩槍を2発、3発と叩き込んで撃ち倒す‥‥

「設置はここでよいかの、と。‥‥赤宮! こっちは終わったのじゃ! 直衛はわしが変わるから、おぬしも設置するがよい!」
 東面。爆弾を設置させ終わった桜は、予備の爆弾を持つリアを振り返ってそう叫んだ。
 だが、当のリア機は既に戦闘に入っており、その場を離脱する余裕がなかった。機に練力を叩き込んで性能を底上げしたゴーレムと切り結ぶリア機。その背後に、南からやって来た自走砲が背面より6連フェザー砲を撃ち放つ。
「す、すいません、今、手が放せなくて‥‥!」
「む、箱持ちか!」
 桜は機にブーストを焚かせると、ハンマーをじゃらりと手に振りながら、リア機背後の自走砲に牽制のガトリング砲を撃ち放った。
 慌てて退避運動に入る自走砲。桜は構わず機をそこへと突っ込ませ、敵機の多脚を力場越しに踏み押さえつつ、ハンマーで6連装砲を叩き潰す。
 その隙にリア機が剣を受け弾いて右へと回った。残像を曳く赤い燐光。振るわれた練剣「雪村」の一閃が、ゴーレムを肩口から切り捨てる。
「綾嶺さん、ここは任せます」
「おお、任された‥‥って、おい、爆弾はっ!?」
 行動の自由を得たリアは、機を一目散に北へ、夫の元へと走らせた。止めようとした桜は、しかし、踏まれた脚部を自らパージして離れた自走砲に虚をつかれた。生き残った一門で反撃する敵。桜は舌を打ちながら機を横に滑らせつつ、ガトリング砲の一連射で止めを差す‥‥

 タロスを中心に連携して距離を詰めて来る敵人型3機。王零は慎重に距離を測りながら、構えた突撃砲で牽制射を浴びせかける。バゴン、とその盾ごと左腕部を吹き飛ばされる左翼のゴーレム。敵はその被弾したゴーレムを突っ込ませながら、王零ではなくその背後、爆弾設置中の一を狙わせた。気づき、その背後から敵膝裏を狙撃する王零。その王零機にタロスとゴーレムが激しい砲火を浴びせかける。
 一方、最初の爆弾を北面に設置し終えた一は、その眉をひそめていた。同様の他施設の参考になれば、と外観から分かる限りのデータを纏めていたのだが、敵施設の構造に疑問を抱いたのだ。
(バグアに修復の時間と手間を掛けさせる程度には破壊できれば、と思っていたが‥‥ この造り、上部構造に比べて基部が小さすぎる。まさか、基幹部分は地の中か?)
 一はもう一つの爆弾を抱えたまま機を跳躍させると、エンジンノズルの中へと入った。すり鉢状になったノズルの底には、噴出孔と思しき穴と蓋。一はその蓋に向かって突撃砲を発砲するも、単騎での破壊を諦め、爆弾を設置し、離脱した。

「全ての爆弾を設置完了。集マレ、集マレ!」
 のもじ機から全機にそう通信が入った時、各所で行われていた戦闘は既に収束しようとしていた。
 のもじ機のレーザーを受け炎上する自走砲を背景に、1機、そして、跳ねるようにまた1機、と有希機が自走砲を破壊する。そこへ東からハンマーを担いでやって来る桜機。さらに西からは連携してゴーレムを破壊した威龍とドゥのタマモ2機。上空からは一の機体がフワリと地上へ降りてくる。
 一方、戦闘中であった王零の目の前で、右後方からレーザーによる一撃が放たれた。胸部を撃ち貫かれ、炎を吹き上げながら月面へと崩れ落ちる敵ゴーレム。驚愕し、一瞬、動きを止めるタロスに、瞬間、機にジャイレイトフィアーを抜き放たせた王零が、その高速回転する刀身でもって、タロスの股関節へと突き下ろし── 激しい火花と共に脚部1本を分断すると、そのままリア機と共に仲間の待つ南面へと離脱する。
 合流後、その王零機が上げた照明弾を合図にして、SoMは戦場離脱の為に艦を回頭させつつ、G5弾頭弾を続けて2発、発射する。KVへの追撃態勢から、慌てて迎撃態勢に移る対空キメラ群。その火線の網に捉われ、爆発する2発の弾頭。だが、その瞬間、傭兵たちのKVが一丸となってそこに突っ込み、対空射撃隊形のキメラたちを蹴散らしながら突破する。再び慌てて追撃を仕掛けようとした敵キメラの目の前で、リア機がタイマーを最短に合わせた爆弾をパージして‥‥ 思わず脚を止めたキメラ群の眼前で巨大な爆発の華が咲く。
「走れ! 走れ! 一部とは言え、月を動かそうというエネルギーだ。どれ程大きな爆発になるか想像もつかないぞ!」
 艦への収容を後回しにして、とにかく全力で距離を取るKVたちとSoL。その背後でタイマーが同期してゼロになった爆弾が次々と爆発し、爆弾を解体しようとしていたタロスやゴーレムを巻き込んでその基部を完全に破壊する。
 巨大な爆発に巻き込まれ、崩れ落ちていく『エンジンノズル』。それを振り返って見やったのもじはその瞬間、人類の逆襲を確信した。
「来たねぇ‥‥ 門出の花火だ。‥‥でも、思っていたより爆発の規模が小さいような‥‥?」