●リプレイ本文
月面へと激突し、巨大な炎の華を咲かせる高速小型BF。その周囲を、墜落直前に放たれたワームやキメラたちが、まるで蒲公英の綿毛の様に緩やかに舞い降りていく──
そんな光景を上空から見下ろして、ピュアホワイトを駆る阿野次 のもじ(
ga5480)は改めて機のセンサーモニターを注視した。
観測用カメラが捉えた周辺地形。その上に表示された敵影は実に28にも上る。その全てが宇宙陸戦機。ゴーレム2機と砲戦仕様と思しき大型キメラ2匹を中核に、バッタ脚の陸戦HWが8機と16匹の中型キメラを擁している。
「‥‥降下した敵の総数は28。かなりの大部隊だけど、崑崙を攻撃するには、少なすぎるわね」
狙いは宇宙船用ドックのみ? と言葉を続けて、自分で肩を竦めるのもじ。守原有希(
ga8582)は苦笑しながら、敵戦力を分析した。
「‥‥敵の中核はやはりゴーレムと砲戦大型になるでしょう。これを先陣に押し立てて一点突破を図ってくるか、中型の数を活かして浸透攻撃をかけてくるか‥‥それによって、こちらも戦い方を変える必要があると思います」
故に、基本となるフォーメーションは2−3−2。戦闘能力の高い榊 兵衛(
ga0388)の雷電と月影・透夜(
ga1806)のディアブロとを前面に押し立てつつ、軸となる中衛を防衛線として横に長く展開。左翼に綾嶺・桜(
ga3143)のシコン、中央に水円・一(
gb0495)のラスヴィエート、右翼にヴェロニク・ヴァルタン(
gb2488)のスレイヤーを配置し、その後方に、情報支援機たるのもじのピュアホワイトと、固定砲台と化す響 愛華(
ga4681)のクラーケンとで最終防衛ラインを形成する。有希のスレイヤーは中央遊撃。敵が一転突破を図った時は前衛と合流して敵の鋭鋒を押し止め、浸透攻撃で来た時は中央で防衛線の一翼を担う。
「有希っちの案でいい? ‥‥OK、じゃあ、早速、愛華っちから降下を開始して。他の皆は愛華機を基点に展開。間隔はとりあえず100mで。これは各機に対して2機以上が支援射撃を行える距離よ」
のもじの指示が各機に飛ぶ中、基点となるべき愛華は操縦桿を傾け、月への降下を開始した。
簡易ブーストで機体を制御しつつ、戦闘機形態のまま予定地点へとランディング。その様子を上から見ていた桜は、無事、着陸した愛華機を見てホッと息を吐きながら‥‥ 一言、『‥‥スルメ』と呟いてみたりする。
「なんか、ふわふわして変な感じ。まるで風船を背負っているみたい‥‥」
「これが低重力か‥‥ なるほど、これはまたはるばる遠くへ来たものだ」
愛華に続いて低軌道から人型で降下したヴェロニクと一は、抑え目にスラスターを噴射させながら、降下体勢を取った機の脚部を月面へと接地させた。
続けて降下する武者鎧姿の雷電──兵衛機。その隣に透夜機が並んで降下する。さらに有希機と桜機が左翼に降下し、最後にのもじ機が後衛へと舞い降りる‥‥
一方、墜落する母船から緊急脱出した敵には、隊列というものがなかった。元々が擾乱攻撃の為の捨て駒。無人機ばかりで指揮官もいない。
だが、それだけに、先手を取ったのは敵だった。至近に敵の存在を感知したワームとキメラたちが、汎用プログラムに従って無秩序に突進を開始する。
それを真っ先に迎えたのは、前衛の兵衛と透夜だった。着陸直後、未だ体勢の整わぬ2機に向けて、敵群中央の中型多数がフェザー砲を乱れ撃つ。だが‥‥
「来たか。基地に敵を辿り着かせるわけにはいかぬからな。速やかな撃破を目指すとしようか」
「ああ。ようやく形になってきた崑崙だ。ここで簡単に破壊させるわけにはいかない」
嵐の様な乱射の中でも、兵衛と透夜の二人は落ち着き払っていた。連携も取れていない烏合の衆。数ばかり多くとも、その様な輩は動じるに値しない。
二人はブーストを起動すると、乱れ飛ぶ火線の濃淡、その隙間を縫うように機を駆けさせた。2人の突撃砲による応射は、実に7匹もの中型キメラを沈黙せしめた。
敵もまた初手の不味さを理解した。汎用プログラムに従ってゴーレムからキメラに対して『命令』が飛び、近場の3機で連携。濃密な火線を形成する。
「‥‥む?」
先程までとは明らかに異なる統制の取れた射撃。敵がその両翼を伸ばして、前衛の兵衛と透夜を半包囲しようとする。
だが、その動きは、のもじ機のロータス・クイーンによって捉えられていた。今、この戦場において、バグアには対抗できる情報戦機が存在しない。のもじは誰に邪魔されることなく、戦場を俯瞰で把握している。
「桜っち?」
「ああ。こちらからも見えておる」
「バルたん?」
「了解してます。のもじちゃん、指示を」
「‥‥イカすぜ、ブラザー。では、前進し、正面に見える敵をやっちゃって!」
兵衛機、透夜機の側面へと回り込んだ中型キメラたちは、その砲を放つ寸前、それぞれヴェロニクと桜による横撃を受けることになった。
両腕にSEM−1とレーザー、二門のガトリング砲を構えた桜機が、横腹を晒した敵に嵐の如き弾幕を叩き込む。吹き飛び、舞い上がる土煙。その弾着に紛れて直撃を受けたキメラがその甲殻を飛び散らせながら、見えざるハンマーに殴られた如く砕け散る。
一方のヴェロニクは、アサルトライフルによる一連射を浴びせた直後、ディフェンダーを抜刀しながら正面へと突っ込んだ。
損壊した1匹に機剣を突き入れ止めを差し。返す刀で隣の中型に切りつけ、ガトリング砲を撃ちながら距離を取る。その敵の沈黙を確認してからガトリングを背に回し、その勢いもそのままに装輪で旋回、最後の1匹にロンゴミニアトを突き入れる。ボコリと膨れる間もなく砕け散る中型キメラ。残された水素カートリッジの数はあと13。それを脳裏に刻みつつ、ヴェロニクは次の敵を周囲に探す。
両翼の脅威の排除を受けて、兵衛と透夜は改めて正面の敵に向き直った。残る3匹の中型。その後ろに、横列に展開しつつある8機のバッタ脚と、ゴーレム・砲戦大型が各2機ずつ見える。
「まずはあのゴーレムを排除する。月影、行けるか?」
兵衛の言葉に、透夜は行くのか? と独り言ちた。まだ数は敵の方が優勢だ。突出すればまた敵に包囲される恐れもある。
透夜は改めてセンサーモニターに視線を落とした。中型キメラを多く失った敵は、HWが前に出るようだった。その突進は前がかり。続くゴーレムと砲戦大型キメラと距離が開く。
「月さん、影さん、こらしめてやりなさい」
のもじがそんな事を言ってる気がする。透夜は苦笑すると、通信回線を開いて宣言した。
「敵が動いた。これより前衛は敵ゴーレムに対処する。他の敵への対処は中衛以降でよろしく頼む」
中衛中央に位置する有希は、傍らの一へ声をかけた。
「水円さん! 前衛が吶喊します! うちはこれより、突撃支援の為、正面の敵に対して支援射撃を開始しますので、防衛線の方は‥‥!」
「了解している。桜! ヴェロニク! 以後は、俺たち中衛が防衛の最前線だ。敵両翼の広がりに注意。後ろに抜かれる前に可能な限りこちらで対処する。取り付かせるなよ」
一がそう言う間にも、迫り来る小型HW『バッタ脚』の横列。土煙を蹴立てて迫るそれらは、思っていたより速度が速い。
「制圧射撃!」
有希の声と同時に、一もまた正面の敵へと火線を撃ち放つ。二人が放った銃弾は、兵衛機と透夜機の針路上の中型3匹を狙い過たずに撃ち貫いた。レーザー、および突撃砲による正確無比な射撃が敵本体に突き刺さり、射撃体勢を取った敵が立て続けに爆散、擱坐する。
横列中央のバッタ脚たちは、兵衛と透夜の吶喊を避け、その針路上から退避した。
激突するゴーレムと前衛2機。激しい砲火を応酬しながら迫り来たバッタ脚は、互いが接触するその寸前、その名前に相応しく上方へと跳躍した。
●
後衛、固定砲台と化したクラーケンのコクピットで、愛華はその全神経をセンサーに集中していた。
激突するゴーレムたち。横列を組んで押し寄せてくるバッタ脚と、迎え撃つ中衛機──
と、そこへ、戦線後方の砲戦大型キメラから、戦線の各所に対してプロトンビームが放たれた。
あれは誰かが引きつけないと。だが、味方は誰もまだそこまで到達し得ない。
愛華はギュッと操縦桿のグリップを握り締めた。それは前の愛機から受け継がれたものだった。‥‥まったく、あの子にも、この子にも、私は無茶をさせてばかりいる。
「ごめんね、紅良狗。機体使いが荒くて。でも‥‥」
誰かがやらねばならない。だが、他の誰にも出来ないのなら‥‥その手段を持つ自分がやるしかない。
愛華は多目的誘導弾に敵大型の証言を入力すると、それを敵最後衛へと発射した。長距離から放たれたその誘導弾を、だが、敵は悠々と回避する。
放たれたプロトン砲の反撃は、固定目標と化した愛華機を擦過。その装甲を炙り焼いた。
「無茶をするな、愛華! イカ焼きになるぞ! 食べるのは好きでも、食べられたくはなかろうが!?」
「わぅ! 乗り換えて早々、それは嫌だけど〜!」
言いながら、再び誘導弾を放つ愛華機。その様子を、桜は最後まで見ることはできなかった。格闘距離まで迫っていたバッタ脚が、突如、その眼前で跳躍したのだ。
だが。
「甘いわっ!」
振り下ろされるハンマーボール。抜き打ちに振るわれた鉄球が、跳躍姿勢を取った跳躍直前のバッタ脚を直上から打ち壊した。ある種の虫の様にその装甲をひしゃげさせ、潰れて爆発するバッタ脚。頭上を飛び越えることくらい予想してないと思うてか。見得を切り、跳躍済みの別の1機へ向け、クルリとハンマーを回す桜。宙を舞う敵にその一撃を回避する術はないはずだったが‥‥ 敵は機に練力を叩き込んで空中を脚で『跳躍』。慣性制御によりその落下針路を強引に捻じ曲げた。
「クッ‥‥! すまぬ、1機抜かれたのじゃ!」
追撃はできなかった。跳躍せずに地上から突っ込んできたもう1匹が桜機に近接戦闘を仕掛けてきたからだ。組み付き、レーザー牙を突き入れてくるバッタ脚。その口先をガトリングで防ぎながら、桜機が敵を振り払う‥‥
一方の中衛右翼と中央。
跳躍したバッタ脚に対して、204を駆る有希とヴェロニクの二人は自らも跳躍してその後を追った。
先行して跳躍したバッタ脚は、しかし、ブーストによって追いつかれた。空中で機を反転し、慣性で前へと進みながら砲口を後ろへと向ける敵。だが、その時には、有希機とヴェロニク機は既に敵の背後へと回り込んでいた。オーバーブーストおよびエアロサーカスによる鋭角機動。Gに耐えながら捻りこんだ自機の正面に、無防備に佇む敵の背が見える。
「唸れ、新月! Exceed Dividerの晴れ舞台だ!」
機剣と機刀、二つの格闘武器を構えた有希機が、十文字に振るった刀身により目の前の敵を切り捨てる。
「落とす! この新しい愛機の為に、失われたあの子の為に!」
突き出されるロンゴの鋭鋒。ヴェロニクはその敵内部へ向け、穂先から液体炸薬を2回、送り込んだ。ぼこり、と立て続けに2度、内部から膨れ上がる敵。直後に湧き起こった爆発が敵機を粉々に吹き飛ばす。
だが、そのヴェロニク機の下を、跳躍しなかったもう1匹のバッタ脚がすり抜けた。急いで機を下ろしながら、ヴェロニクが後衛に警告を発する。
同様に有希機の下をすり抜けようとした別のバッタ脚には、一のラスヴィエートがその進路上に立ち塞がった。
速度を落とさず、レーザー牙を突き入れに来るバッタ脚。体当たりによる衝撃を、一は簡易ブーストを使って月面へと押さえ込む。装甲を削るレーザー牙。幻想的に舞い散る火花。一は左腕を盾代わりにそのレーザー牙を押し返すと、右腕部に展開した機剣をズブリと『腹』に突き入れた。
ガシリ、とその右腕を抱え込む敵。その横を、もう1機のバッタ脚がすり抜けていく。一は構わず眼前の敵に刀身を突き入れながら、複数のスイッチを叩いてトリガーを押し込んだ。横を抜けた敵を追って2発、3発と放たれる誘導弾。地を蹴ってそれを回避しようとした敵は、だが、追い縋る弾頭に喰らいつかれて、壊れた人形の様に地を転がる。
後衛に抜けた敵は両翼より1機ずつ。愛華は2本の触腕──ブラストテンタクルを展開すると、それをうにょりと動かし、宙を舞う敵へレーザーを撃ち捲くった。
戦闘機形態故、他の触腕はロックされていて使えない。だが、この2本であれば地上でも問題なく使用できる。
直進を続ける敵に、回転機銃よろしく光線を放つ愛華機。その弾幕が遂に敵を捉え、火を噴いたそれが地面へと激突する。
「あと1機!」
視線を反対側へと振り向けた愛華は、そちらへ駆けつけたのもじ機が、某凄腕スナイパーっぽい横っ飛びでズキューンと最後の1機を破壊するのを見た。
チャ、とレーザーを構えて振り返るのもじ機。「イ○ローもびっくり」と呟くのもじに、愛華が苦笑いで応対する。
ブーストによる高速移動で雷光の如くゴーレムに肉薄した透夜機は、機拳による殴打で敵頭部のセンサー類を殴り砕くと、そのまま機拳と機の追加ブースターでもって高速回転。左の裏拳でもって敵の上体をよろめかせた。慣性制御で無理やり転倒を押さえつける敵。そこへさらに加速を増した右の拳を振り被る。
一方、透夜機と戦うゴーレムの援護に向かおうとする別の1機には、牽制の突撃砲を撃ち捲くりながら突撃した兵衛機が突っ込んだ。展開した機棍をクルリと回して、そのまま前へと突き入れる。その一撃を間合いを見切ってかわすゴーレムは、しかし、その眼前で『伸びた』棍によりその顔面を砕かれた。たたらを踏んで後方へ跳び避ける敵。その片足を兵衛の棍が横殴りに打ち払う。慣性制御で機位を立て直した敵は、だが、兵衛機が下段から跳ね上げるように突き込んできた石突によって再び後ろへ追いやられた。そのまま流れるようにクルリと回って敵頭部を横に払う兵衛機。さらに振り下ろされた棍が敵の肩口を打ち据える。
変幻自在な棍に翻弄された敵は、だが、一気に兵衛機から距離を取り、背後の透夜機へと突っ込んだ。透夜機は両面に敵を抱えるリスクを咲け‥‥直上へと跳躍していた。
「軽いのはそっちだけじゃない。こういう事だってできるんだ!」
機槍を抱えて、下方へ突撃する透夜機。先手を取られた敵はその場を離脱する機会を失った。ゴーレムの胸部装甲を槍の穂先が上から押し潰し、貫いて爆発する。隙だらけの透夜機に打ちかかろうとしたもう1機のゴーレムは、だが、兵衛機の死角からの攻撃によって装甲の隙間を突かれ、力なく崩れ落ちた。
前衛を失い、崩れ落ちる2匹の砲戦大型キメラ。
その様子を見届けた一は、改めて戦場に敵の残存戦力が残っていないことを確認。のもじへと報告した。
のもじはそれを指揮所に報告。労いと感謝の言葉を受ける。
「それじゃあ、基地へ帰りましょ。シャワーは無理でも、ご飯を食べる時間くらいはあるでしょう?」