タイトル:【福音】アテナ攻略主攻マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/11 04:40

●オープニング本文


 大型封鎖衛星ヘラの破壊に成功したUPC宇宙軍中央艦隊は、次の目標を南米直上のアテナに定めていた。
 現在の南米においてバグア占領下と言える地域は、ベネズエラと、それに追随する親バグア国家が僅かに残るのみ。奪還を図る上で、南米直上に位置するアテナを破壊し、宇宙からの支援路を断つ事は、非常に大きな意味を持つだろう。
 しかし、前回と同じ戦法が通用するとは考え難い。そこで中央艦隊が採った作戦は、宇宙と地上の二方向からアテナを目指す挟撃作戦であった。
 中央艦隊本隊は宇宙から、ヴァルトラウテは地上から、同時にアテナを目指す。敵は二方向に防衛網を敷く必要があるため、全体的な防御は薄くなるだろう。更に、巨大デブリと化したヘラの残骸にロケットエンジンを取り付け、艦隊の壁となるよう先行させた上で、アテナに突進させ、敵主砲の無駄撃ちを誘う。その直後に、艦隊とヴァルトラウテが二方向からアテナに攻撃を加える予定だ。
 懸念すべきは、ヘラ攻略時にも姿を現したバグア宇宙艦隊である。『本星艦隊』と自称した彼らの正体は定かではないが、その呼称から、バグア本星直属の大艦隊の一部ではないかとも考えられている。
 だが、ヘラ攻略時に現れた『本星艦隊』は、僅か2隻の巡洋艦に過ぎなかった。また、少々の戦況の変化で即座に撤退するなど、その行動には不可解な点が付き纏う。
 中央艦隊は、『本星艦隊』への警戒に艦隊後方の巡洋艦3隻を割き、アテナ攻略を実行に移した。


●【福音】『アテナ』攻略・主攻

 2012年2月──
 UPC宇宙群中央艦隊は、南米上空の大型封鎖衛星『アテナ』に対する攻略作戦を開始した。
 衛星の宇宙側のエリア──作戦の便宜上、S(Space)フィールドと呼称される宙域──には多数の補助艦艇と、攻略を担当する3隻の巡洋艦──『ソード・オブ・ミカエル』、『ハルパー』、『カドゥケウス』、そして、今回の作戦で大きな鍵を握る『ヘラ』残骸塊とが、静かに作戦開始の時を待っていた。
 その前方には、蒼く輝く地球の上に醜く鎮座する大型封鎖衛星──その周囲に展開する無数のワームとキメラが発する推進光が、赤く不気味に明滅している。まともにあれだけの数を相手にしたら、こちらはひとたまりもないだろう。
 だが、正面に見えている『赤い雲霞』──その何割かが分派して、衛星正面から後方へとその戦力の一部を回し始めた。
 こちらの前面に展開する敵戦力は、戦う前からその数を大きく減じようとしていた。
「ヴァルトラウテ、ブエノスアイレス航空基地より本宙域を目指して発進。それを受け、Sフィールドに展開中の敵護衛機の半分がE(Earth)フィールドへ移動を開始しました」
 オペレーターの報告を仏頂面で聞きながら。慣性により移動を続ける『ソード・オブ・ミカエル』、そのCIC(戦闘指揮所)で、艦長のロディ・マリガン中佐は、まずは一つ、と息を吐いた。
「どうやら、こちらの思惑通りにいっているようだな。‥‥今のところは」
 なんとなく胃腸薬が欲しそうな表情で、傍らの副長、アーク・オーデン少佐を振り返る。副長は悠然と構えたままそれに答えた。アテナ攻略という『山登り』はまだ始まったばかりだ。その第一歩めで躓いてたら目も当てられない。
「どうかな。山の上で躓いたら、そのまま崖から真っ逆さま、ってことだってありうるぞ? どうせ躓くなら最初の方が怪我が軽くていいかもしれない」
「とはいえ、我々に『山を登らぬ』という選択肢があるわけでもなし‥‥どうせならこのまま一歩も躓く事なくいきたいものです」
 違いない、と苦笑で応じながら、ロディは『ハルパー』艦長ジョージ・テイラー少佐、『カドゥケウス』艦長カルロス・ロメオ中佐に通信を入れた。
 作戦開始時刻である。気分はアルプス越え──とはいえ、故郷の裏山にハイキング、とはいかぬまでも、こちらも高い山を越えるべきそれなりの準備はしている。
「『ヘラ』残骸塊のロケットに火を入れろ。全艦、最大戦速。KV隊は待機。発艦は一次加速終了後だ。いつでも出れるように準備しておけ」
 矢継ぎ早に命令を発するロディの横で。側面モニターに映った『ヘラ』の残骸が火を噴き、『アテナ』への突進を開始。見る見る加速をし始める。
「石を投げて要塞を陥とす、か」
 艦に一次加速を命じながら、ロディはヘラ残骸の後姿を見やってそんなことを呟いた。
 『ヘラ』残骸に搭載した爆薬では、恐らく『アテナ』に致命傷は与えられない。だが、自分と同格の質量に激突されてしまえば、いかな大型封鎖衛星とて損傷は免れ得ない。
 故に、敵はヘラ残骸塊への迎撃を開始する。衝突コース上に位置する敵護衛機が退避を始め、『アテナ』の主砲──超長距離プロトン砲がその砲口を迫る脅威へと指向する。
 間もなく、発砲── 巨大なエネルギーの奔流が闇を照らして迸り、突進する巨大な残骸塊に突き刺さる。
 残骸塊はその中央を貫かれてその巨体を二つに折った後、搭載した爆薬の誘爆を連鎖させ、複数の塊に分裂してグルグルと回りながら──その巨大な破片をぶちまけながら、慣性に従って前方へと突き進んだ。
 その巨大な『散弾』に巻き込まれて混乱する敵防御陣。残骸塊に後続していた巡洋艦3隻が第二次加速を開始する。衝突コースにいた敵の護衛機は残骸を回避する為退避済み──その敵陣の穴目掛けて突入する3隻を防ぐ手立てはない。
「敵一次防衛線、突破! て、敵機が追ってきます! 物凄い数です!」
「構うな。突っ走れ! 敵が主砲のエネルギーを充填し終える前に、『アテナ』に肉薄して全火力を叩き込むんだ!」
 これまでにUPC軍が得た戦訓によれば、敵大型封鎖衛星の主砲発射間隔は30秒。それまでにエクスカリバー級の有効射程400mまで到達しなければならない。こちらの攻撃主力は、前方に火力を最大投射できる『ハルパー』と『カドゥケウス』。他艦と主砲塔の配置が異なる『ソード・オブ・ミカエル』は2艦の後方からG5弾頭弾で援護する。
「敵大型衛星、大型対艦ミサイルを発射! 衛星の敵直衛機、両翼をこちらへ上がってきます。こちらと衛星を結ぶライン上に敵影はありません!」
 衛星の副砲でこちらを迎撃する気だな、とロディは看破した。大型封鎖衛星には主砲の他にも、通常のプロトン砲などが副砲として装備されている。
 だが、まぁ、いい。少なくともこれで衛星までこちらの移動を『物理的に』阻む障害は存在しないことになる。
「ワームおよびミサイルはKV隊に迎撃させろ。艦はこのまま『アテナ』への突進に全力を注ぐ。
 気をつけろ。敵副砲(通常型プロトン砲)の射程はこちらより長いぞ。こちらが敵に一太刀浴びせるまで、沈むわけにはいかんのだからな!」

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
追儺(gc5241
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

 全長3kmにもおよぶ巨大なヘラ残骸塊が、目の前で二つに折れていく──
 巡洋艦『ソード・オブ・ミカエル』の繋留装置に繋がれたフェニックスのコクピットでその光景を目の当たりにしながら、ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)は操縦桿を握る指に痛いほど力を込めていた。
 爆発の連鎖によって砕けていく残骸塊── 巨大な質量の激突と破壊。地上とはまた勝手の違う宇宙での戦いに、久しく忘れていた初陣の緊張、そして、高揚とが、ヴェロニクの身体を震わせる。
「第二次加速開始10秒前。全KV、発艦、発艦!」
 母艦のオペレーターの声が耳朶を叩いているのに気づいたのは、我に返った後だった。ヴェロニクは自らの新兵のような様に赤面すると、機を艦の繋留装置から切り離した。
 そうして自らが担当する戦域──艦隊の左翼側へと機首を向ける。一面の闇の中、母艦と、衛星と、蒼く輝く地球がモニタ越しに横へと流れ‥‥ 計器の数値に従ってヴェロニクは機を定進させる。自らが正しい方向を向いていることは、共に飛ぶ味方機の存在が教えてくれた。右、目の前には、榊 兵衛(ga0388)の雷電『忠勝』の朱漆の機体── 少し離れた左の奥に、赤崎羽矢子(gb2140)のシュテルンと阿野次 のもじ(ga5480)のスフィーダ『スター・プラチナ・ザ・ワールド』、2機の噴進炎が見える‥‥
「いくよ、ピュアちゃん。今回もまた力を貸してね」
 クラウディア・マリウス(ga6559)は愛機・ピュアホワイトの『ピュアちゃん』を艦から離れさせると、そのまま母艦の艦底方向に機位をつけ、ロータスクイーンを起動させてセンサーモニタに彼我の動きを表示させた。
 一際大きな反応を見せる大型封鎖衛星アテナ。そこに向け、3隻の巡洋艦が3本の矢の様に突っ込んでいく。その二つの反応を結ぶ軸線を中心として、その左右を駆け上がってくる敵直衛機群。それに対して、24機のS−02(正規軍機)と12機の傭兵機は、左右中央の3つに分かれて対応する。
「30秒か‥‥今までで一番長い30秒になりそうだな」
「ですね。勿論、負けてなどやりませんが」
 右翼に位置するディアブロ『影狼』、ピュアホワイト『デーモンリッパー』の操縦席で、月影・透夜(ga1806)と追儺(gc5241)が会話を交わす。その通信を聞きながら、中央、艦隊直衛につくパピルサグII『紅良狗参式・改』を駆る響 愛華(ga4681)もまたその想いを強くした。ヘラに続いてこのアテナも攻略できれば、人類はまた勝利に近づける‥‥ 30秒。このたった30秒に、私たちの精一杯を込める‥‥!
「わぉん! いっくよーーーっ!」
 ブーストを焚いて艦の前へと出る愛華機。その親友の姿に、綾嶺・桜(ga3143)は「気合が入っておるのぉ」と頷いた。
「こいつは負けておられぬの。『犬』に『狐』も続くのじゃ!」
「そうね。コールサイン『Dame Angel』。主力足る巡洋艦に随伴し、敵を確実に粉砕する効果を維持せしめるわよ!」
 愛華に続いて前進する桜のタマモとアンジェラ・D.S.(gb3967)のクルーエル『Dame Angel:Dominion』。どちらも機体もこの戦いが初陣となるピカピカの新造機だ。
 そんなKVたちの動きは、CICのセンサーモニターにも映っていた。
 左翼に兵衛、羽矢子、のもじ、ヴァルタン。中央直掩に桜と愛華、アンジェラにクラウディア。そして、右翼には透夜と追儺、守原有希(ga8582)とクリア・サーレク(ga4864)、2人が駆る2機のスレイヤー。3面のそれぞれに正規軍のS−02が8機ずつ割り振られる。
 その様子にロディは頷いた。KV隊は作戦予定通り、素早く、つつがなく展開を終えた。我々の山登りは今のところ順調だ。
 先に動いたのはアテナだった。オペレーターが報告する。
「敵大型衛星、大型対艦ミサイルを発射! 衛星の敵直衛機、両翼をこちらへ上がってきます!」
 その裏返った金切り声に軽く眉を潜めながら、ロディはこの戦場における最先任士官として、艦隊に命令を発した。
「全艦隊、第二次加速開始。ワームおよびミサイルはKV隊に迎撃させろ。各艦はこのまま『アテナ』への突進に全力を注ぐ」

●1st turn
 戦場を俯瞰で眺めることができるとしたら。大型封鎖衛星アテナに向け一丸となって突っ込む人類側艦隊と、その両翼、斜め前方から殺到するキメラが発する赤光の怒涛が見て取れたことだろう。
 それに近い視点を持つ者の一人、ピュアホワイト乗りのクラウディアは、重力波のパターンから大まかに敵を分類。向かってくる敵の中からHWや大型キメラを類推すると、そのルート上に各傭兵機に担当空域を割り振った。
 正面からは、まず、大型対艦ミサイルが4発。その護衛か、1発に2匹ずつ中型キメラの護衛がついている。その護衛は正規軍が対応する手筈であり。クラウディアは傭兵機にミサイルの迎撃を担当させた。
「まずは邪魔なミサイルの迎撃からかの。よし、艦隊に傷はつけさせぬ。愛機・雷電に代わる新型・タマモ‥‥ 今こそその力を見せる時じゃ!」
 艦隊の直近、前方に展開しつつ、誘導弾アルコバレーノを撃ち放つ桜機。その横では愛華機が、その巨体からちょこんと突き出た狙撃砲での射撃を開始する。闇を裂き、7色の尾を曳いて飛ぶアルコバレーノが、回避運動に入った対艦ミサイルの1発を絡め取り。その向こうでは愛華の放った狙撃砲弾が2発、別の対艦ミサイル1発を撃ち貫く。2つ、3つと咲く巨大な爆炎。アンジェラは光量調節されたモニタ越しの光に目を細めると、高分子レーザー『プレスリー』の照準を残された別の1発へ向けた。
「エンハンサー、起動中‥‥ 照準、よし。射っ!」
 狙い澄ましたアンジェラ機から放たれた光の刃が、この日、2発目の対艦ミサイルを真っ二つに切り分ける。分かたれた二つはそのまま慣性にしたがって宙を舞い‥‥ 直後、火花を発したかと思うと巨大な火球と化して炎に片割れを飲み込んだ。
 一方、右翼。
 こちらの戦線の管制は、クラウディア機と同じくピュアホワイトを駆る追儺によって行われた。
 迫り来る敵の光点。その動線を見やりつつ、右翼班に属する各機に攻撃の指示を出す。
「透夜機は予定通りK−02を投射し、前面の敵を排除してください。正規軍機が生き残りの掃討に当たります。守原機とサーレク機はその裏のでかい反応を。突入口は‥‥」
 追儺の指示を受け、まずは透夜機が前に出た。──少しでも数を減らしつつ、こちらへ敵を引きつける。こちらが脅威であることを知れば、無視して艦へは行けないはずだ。
「まずは一掃する。持っていけ!」
 接近する敵の赤い推進光に向けて、機体の各所から立て続けにマイクロミサイルを撃ち放つ。それに続けて放たれる正規軍機の誘導弾。虚空に放たれた無数の猟犬たちは光の尾を曳いて闇中を突進。散開する敵に喰らいついては次々と爆発し、前面に光の華を連結させる。その光量を背景に迫り来る生き残りのワームとキメラ。追儺機は爆発光に照らされながら、その内の1匹に砲口を指向。蒼いレーザー光でもってその敵を狙撃した。半ば身体がもげかけていたその中型キメラが、その一撃に砕けて弾け‥‥ その着弾点に向かって、有希とクリア、2人が駆る2機のスレイヤーが突っ込んだ。
 蒼いレーザー光は、追儺がかざした『指揮棒』だった。その誘導に従って、有希とクリアは敵前衛背後の大物を喰らうべく、敵中へと踊りこむ。
「大物潰しはうちらの本領‥‥ 頭上を塞ぐ天の蓋、そを砕きに推して参る!」
 わらわらと周囲を逃げ散る敵中型には目もくれず、オーバーブーストを焚いて突進する有希のスレイヤー『Exceed Divider』。同様にオーバーブーストを焚いて有希機の斜め後ろに機位をつけたクリアは、物凄い勢いで減っていく燃料系を見やって、操縦席でひとり、苦笑する。
(あはは‥‥なんだかこう、燃料を撒き散らして飛んでる感じ)
 スレイヤーのVer.Upが間に合っていれば‥‥って、いや、そんなに変わらないか。この燃費は残念だけど、でも、その分、能力の底上げはなされている訳で。こういう時間を限った戦闘なら、スレイヤーだって宇宙で十二分に戦える。
「いた! 蛸型! あの触腕は接近されると厄介そうです。遠距離から早々に片付けましょう」
「りょーかい、有希さん! 『破魔の剣』の冴えは宇宙でも褪せないことを、きっと証明してみせようね!」
 見事な編隊機動で前方、蛸型の大型キメラへ迫る2機。8本の触腕をふよふよと揺らしながら、その実、物凄いスピードで突進して来た蛸型は、迫る2機に気づくとその長い『口』から野太い怪光線を放ってきた。宙を切り裂く光の殴打を2機が息の合った動きでクルリとかわし。まず後列のクリア機が最大射程からG放電を撃ち放つ。
 雷光の投網に捉えられた蛸型は、宙を走る稲光に強かに打ち据えられた。その身を焼かれ、水蒸気の白い雲を散らしながらも前進を続ける蛸型キメラ。その進路上に向かって有希機がレーザーを撃ち放つ。偏差射撃──あらかじめ敵の進む先を見越して弾を撒く。光線に貫かれた蛸型が断末魔に宙を踊り、その赤光を消して流れゆく。
 そして、同刻、左翼。
 右翼とほぼ時を同じくして接敵したこちらの戦線では、迫り来る敵に向かって兵衛と羽矢子が立ち塞がった。
 兵衛にヴェロニク、羽矢子にのもじ、と即席でロッテを組み、無造作とも言える足取りで敵集団の正面に立つ。
「短期決戦ならば、純正の宇宙機ではない【忠勝】でも十分に力になるな。ここは全力を持って敵迎撃に当たることとしよう」
「躓けない山登り、か‥‥ どうせ登るなら火星最高峰、オリュンポス山にしない? この際、天辺まで上りきって見せる気概でさ!」
 左翼のあらゆる味方の前に立った兵衛機と羽矢子機が。その機体の各所から一斉にマイクロミサイルを撃ち放つ。兵衛機のK−02に羽矢子機のGP−7。その投射量は約1500。満遍なくばら撒かれたそれらは多数の赤光に揺れる闇に消え‥‥ チカチカ、と光を瞬かせると、前面に巨大な『光の壁』を出現させた。
「これは‥‥凄まじいですね‥‥」
 瞬間、華を咲かせて消えていく爆炎を見やりながら、ヴェロニクが半ば呆気に取られてそう呟く。
「まさに『艦隊左翼はキメラ共の血を以って舗(以下略)』、ね」
 敵前衛の一掃された空っぽの宙域を見やりながら。
 しかし、後続の敵を見つめて「本番はこれからよ」とのもじは言った。

●2nd〜3rd turn
「左翼、敵第一波壊滅! 味方機に損害なし! 中央、対艦ミサイルは全弾迎撃! 右翼は戦闘を継続中。もう間もなく殲滅できます!」
「味方艦に損害なし。3艦ともに突進を継続‥‥ あ、両翼に新たな反応! 敵第二波、戦域に進入。KV隊、迎撃に向かいます!」
 巡洋艦SoM、CIC。次々ともたらされる報告を聞きながら、ロディはこめかみから一筋の汗を流した。‥‥まずは一歩。躓かずに先へと進めた。だが、なんてことだ。まだ10秒も経っていない。攻撃まであと二歩。はたしてそれまで躓かずにいけるかどうか‥‥
「っ!? アテナ、更に対艦ミサイルを発射! 雷数8! 護衛と思しきキメラ16と共に艦隊へ向け進行中!」
 ドクン、とロディの心臓が一つ跳ねた。動揺はない。これも予測の一つに過ぎない。落ち着いた様子を装いながら命令を飛ばす。
「応射する。目標、アテナ副砲群。G5弾頭弾、VLS1番、2番、準備完了次第発射せよ」

 艦のオペレーターが察知した情報は、クラウディアもほぼ時を同じくして掴んでいた。
 正面から対艦ミサイル。数は先ほどの倍。キメラはそれぞれに大中1ずつ、計16。だが、護衛のはずのキメラはミサイルに追いつけていない。誘導弾の迎撃に手を割かせつつ、その後方から艦隊に突っ込むつもりか。
「愛華ちゃん、桜ちゃん、アンジェラさん! 来るよ!」
 その情報を伝えつつ、自らも前に出るクラウディア。その前方に立つ3機は、迫り来る大型ミサイルを見やって立ち塞がる。
「くっ、割り当ては一人頭約3発か‥‥ これは一発も外せんのぉ」
「わぅ‥‥ 紅良狗。毎回無理させて御免ね。でも、頑張ろう!」
 いざとなればこの機を艦の盾にしても。そう覚悟を決める桜と愛華。アレに一発でも抜かれれば、艦に大きな被害が及ぶ。それは即ち、アテナ破壊する為の火力が目減りするということだ。
 アンジェラは前方の敵を見やりながら、無言で機のスタビライザーのスイッチに指をかけた。プレスリーの残弾1。再装填をしている時間はない。迎撃はミサイル。最悪の場合、温存すると決めていたスタビライザーを早めに使う羽目になるかもしれない‥‥
 一方、クラウディアが掴んだ情報は、追儺もまた掴んでいた。
 誘導弾の数が多い‥‥ 追儺は心中に舌を打った。右翼の隊はいざという時、中央の負担を減らす為、誘導弾によるミサイルの迎撃支援を行う手筈になっていた。だが‥‥
「有希さん! 中央に対艦ミサイルが!」
「しかし、こちらを放るわけにも‥‥!」
 パパパッ、と小型ミサイルを放つHW。回避運動に移った有希機の操縦席、モニタ越しに周囲がグルグル回る。そこへクローを振りかざしながら突っ込んでくる別のHW。有希機後方のクリア機がそこへ突進してきて、プレスリーによる連射で粉砕し。直後、回避運動を終えた有希機が奥のHWに照準。機関砲の連射で撃滅する。
「俺が行く」
 対応したのは、右翼でも中央寄りに位置していた透夜だった。ブーストによる擬似慣性で素早く機首を翻し、中央を進む対艦ミサイル群に向けて取っておきのK−02を撃ち放つ。
 8発の敵弾を待ち構える中央の3+1機の前で、右上方から降り注いだマイクロミサイルが8発中、5発の大型ミサイルを吹き飛ばした。
「でかしたっ!」
 叫び、爆発を越えて突進して来る残弾に向け、再び7色の虹をかける桜。残る2発の内、1発をアンジェラがエンハンサー+プレスリーで一撃の下に撃ち貫き。残る一発も愛華がブースト+アサルト使用の狙撃2発で破壊する。
 やった、と歓声を上げるクラウディア。とはいえ、全ての敵が撃滅されたわけではない。ミサイルに後続して迫る16匹の中型キメラ、その存在に警鐘を鳴らす。それを受け、急ぎ再装填を済ませる愛華機とアンジェラ機。2基のファランクスを起動する愛華機の向こうで、桜機が再び誘導弾を撃ち放った。

「『影狼』よりCIC、および作戦参加中の各機。本機はこれよりSoMより発射されたG5弾頭弾の護衛につく。‥‥G5弾頭は落とさせない。各機、支援をよろしく頼む」
 透夜よりもたらされたその通信と。中央前方で湧き起こった8つの巨大な爆発が。敵が発した対艦ミサイルの第二群を迎撃せしめたことをこの上なく皆に知らしめた。
 対艦ミサイルにK−02を放った透夜機は、そのままSoMが発射したG−5弾頭弾と共に中央を前進し始める。
 右翼において、有希機の後ろにピタリと機をつけ、防衛戦に従事していたクリアは、笑顔で有希に呼びかけた。
「有希さん、やったよ! 全弾迎撃に成功だよ! ‥‥有希さん?」
 その表情がすぐに曇る。前を飛ぶ有希機の動きが、その一瞬、直線的なものになっていたのだ。
「有希さん!」
 クリアの叫びに、有希がハッと我に返る。その眼前にはガバとその触腕を広げる蛸型1匹。本物の『口』が牙をたぎらせ有希機のモニタを埋め尽くし。直後、後方から放たれたクリアの誘導弾が蛸を乱打し、吹き飛ばす。
 有希は操縦桿を傾けると、フットペダルを踏み込んだ。人型へと変形して急制動をかけつつ、迫る蛸をグルリとかわし。直上からのステップインでもって、抜き放った機剣を突き入れる。
「どうしたの、有希さん?」
 慌てて寄って来るクリア機をよそに、側面のモニタを拡大する有希。
 そこには大型封鎖衛星、アテナの姿。そこに映るアテナの変化を再確認して、有希はクリア機を振り仰いだ。
「アテナの副砲が‥‥ 大型プロトン砲が、巡洋艦に砲口を指向し始めとっ!」

 それまで砕けたヘラ残骸塊の破壊に専念していた大型プロトン砲が、巡洋艦に向けその砲塔を旋回させ始めた。
 その兆候を確認したとき、SoMのCICにもたらされたのは悲鳴ではなく、息の詰まるような沈黙だった。
 戦慄── これがそうか、と、ロディが顎の下の汗を手の甲で拭き払う。頼みのG5弾頭は‥‥ 途中、すれ違うキメラによって1発が撃墜された。透夜が護衛についた方は無事だ。キメラと刹那に砲火をかわしてすれ違い、衛星に向かって進んでいる。
「KV隊はどうなっている!? 傭兵たちは!? 艦が射程に入る前に敵の副砲を潰せるか!?」
 叫びつつ、ロディは自ら戦術ディスプレイに目をやった。
 ‥‥右翼は駄目だ。透夜がG5弾頭の護衛についたこともあり、情報支援機たる追儺機自らが戦線に立っているような状況だ。中央には中型キメラが迫っている。残る左翼は‥‥ 初手で第1波を全滅させたこともあり、他よりは戦力に余裕がある。
 だが、そのロディが呼びかける前に、左翼の羽矢子は既に動き出していた。
「直接、副砲を破壊する。クラウディア。衛星まで効率よく進めるルートは?」
「ちょっと待ってね‥‥ 追儺くん?」
「了解。私の案を送ります。ああ、細かい修正などはお任せしますね。すみませんが、今、少し手が離せないもので」
 答える追儺の顔を、モニタ越しに至近を擦過していった怪光線の光が照らす。炙られた追儺の装甲の一部が泡立って融解し‥‥ 対する追儺が蒼いレーザーで応射する。
 追儺から送られてきたデータにクラウディアはさっそく目を通した。追儺が提案してきた案は、左翼と中央の間を突破するルートだった。比較的少ないとは言え、まったく敵がいないわけではない。強引に押し通る必要があるが、そこさえ突破できれば確かに最速で衛星に辿り着ける。
 クラウディアは追儺案に僅かに修正を加えると、そのデータを羽矢子に送ってやった。10秒も経たずに返ってきた答えに笑みを浮かべる羽矢子。そのルートに疑問を持つ事なく、羽矢子は衛星に向けて走り出した。
「ハヤい、ハヤ過ぎるよハヤコさん!」
 通信に耳朶を叩かれ、振り返る羽矢子。ブースト全開で走り始めた彼女のシュテルンを追って、のもじのスフィーダが後続していた。
「いっちゃん‥‥?」
「さすがに単騎は無理だって。それに私たち‥‥バディじゃない!」
 羽矢子機に向かってビシィッ、と親指を立ててみせるのもじ(見えないが)。羽矢子はそれに苦笑を返すと、説得することを諦めた。‥‥確かに、単騎で衛星の相手はきつい。それに、戻しているような時間も無い。
 故に、2人が抜ける左翼に対する手当を行わなければならない。羽矢子とのもじが抜ければ、そちらには正規軍機の他は兵衛とヴェロニクしかいなくなる。
「綾嶺、悪いけど左翼のカバー、よろしく」
「行くのか!? ‥‥えぇい、確かに、左翼の護衛をおろそかには出来ぬ! アンジェラ、クラウディア、それに犬娘! 中央は任せるのじゃ!」
 迫るキメラを前にして、左翼へ移動する桜。残された愛華が悲鳴を上げる。
 勿論、その間にも、羽矢子機とのもじ機はアテナへ向け、敵の狭間を突破している。
 桜が左へ回る僅かな時間。左翼は兵衛とヴェロニクが、正規軍機と共にその戦線を支えていた。

 マルチロックミサイルを撃ち尽くした兵衛の雷電は、そのまま迫る敵第2波へと突進し、その正面の敵に対して突撃砲を素早く連射した。
 続け様に砲弾を喰らい、装甲を打ち砕かれ。入射口の反対側から爆発的に火を噴出しながら吹き飛ぶミサイル搭載型HW。そこへフェザー砲を乱射しながらクロー搭載型が迫り。兵衛機は雷電とは思えぬ動きでそちらへ向き直ると、すれ違い様にそのHWをウィンドエッジで切り捨てる。
 爆発。転進。そこへさらに迫る新手を見つけて、更に操縦桿を傾ける兵衛。互いに死角に回り込むように機動しながら、互いに砲火を交し合う。
 その時、ヴェロニクはそのすぐ後ろの戦場で、兵衛の戦場を抜けて来た敵を迎撃していた。
 右へ左へ激しく機を振るHWに喰らいつき、一瞬の隙を見逃さず、スタビライザーとオーバーブースト併用による突撃砲を叩き込む。1連射、2連射‥‥ 砕けた破片が飛び散り、煌く中、HWが火を噴き、爆発する。その時には既に機をクルリと返して次の敵を求めるヴェロニク。その眼前に飛び込んできたのは、兵衛機が戦う戦域を掠め飛んで艦へと向かう蛸型キメラの姿だった。
「これは」
 抜かせるわけにはいかない。行動力を惜しんだヴェロニクは燃料計にチラと目をやると、余力があることを確認してからスタビを起動。素早く人型へと変形した。突然の展開に『目』を剥き、驚く蛸型。瞬間、動きの止まったそれへ、ヴェロニク機がロンゴミニアトを突き入れる。ぐにゃりという感触に続いてつぷり、と皮膚装甲を破る感触が機体越しに手に伝わり。直後、ヴェロニクは液体炸薬を槍先にて炸裂させた。
 ぼこり、と膨らんだ蛸型が。内部から弾けて千切れ飛ぶ。だが、その勝利の向こうから現れたのは、もう1匹の蛸型だった。しゅるり、と伸ばされた蛸足がロンゴを持つ右腕に絡み、そのままがぶり寄ろうとする。警報。蛸から吐き出された酸を、擬似慣性とスラスターで『宙を蹴るように』して跳びよける。繋がれたままの右腕。更にこちらへ迫る触腕。それをキッと睨んだヴェロニクは‥‥ 直後、横合いから突っ込んできた兵衛機に目を丸くした。
「兵衛さん!?」
「すまない。遅れた」
 わざわざ人型へと変形し、ヴェロニク機の右腕を拘束する触腕を引き剥がしながらウィンドエッジの蹴りで切り飛ばす兵衛機。ヴェロニクはロンゴを蛸に突き入れ、再びそれを爆砕させる。
 蛸型を倒した2機は、再びその場を離れて散った。既にロッテを組む余裕はなくなっていた。迫り来る敵の数はまだまだ多く、担当すべき戦域は幅広い。守るべきはあと数秒。だが、ギリギリの状況下ではその数秒が果てなく遠い‥‥
「待たせたのじゃ! 出し惜しみはなしじゃ! FETマニューバ、喰らうが良い!」
 そこへ、ギリギリのタイミングで、中央から桜がやって来た。これで最後とばかりにばら撒いた誘導弾が大型とHWを狙い撃つ。
 戦場の端を突破しかけていた1機のHWが、その内の1発を受け足を止める。ミサイル搭載型であったから、抜けていれば即、誘導弾を艦に向け発射していただろう。

 一方、その少し前。
 中央でもまた、迫り来る大中キメラの混成部隊を愛華とアンジェラの2機が迎え撃っていた。
 敵総数は16匹。G−5弾頭弾を護衛する透夜機とすれ違う際に2匹を失い、残るは14匹。その内の8匹は正規軍機が引き受け、6匹。それを2機でやらねばならない。
 愛華機と並んで迫る敵の前に立ち塞がったアンジェラは、ついにスタビライザーのスイッチに手をかけた。上昇した行動能力。その全てを攻撃へと注ぎ込む。
「スタビライザー、起動! エンハンサー、併用! 目標、敵キメラ群! 全弾発射!」
 マーカーが捉えた目標へ向け、放てる限りの知覚誘導弾を撃ち放つクルーエル。主天使の名を与えられた黒衣の天使が2種のミサイルを撃ち放ち── 宙を疾駆するそれが迫る敵を次々と捉え、命中、炸裂する。
 そのエネルギーの奔流の中を、2匹の蛸型が突破してきた。先頭の1匹に向け、狙撃砲を撃ち放つ愛華のパピルサグ。続けて被弾した蛸型が着弾の衝撃に仰け反り、赤光を消しながらあさっての方向へと流れていく。
 残りの1匹は、愛華が砲を振り向けるより早くその内懐に飛び込んだ。それに反応して放たれる自律機銃。その弾幕に血肉を宙に撒き散らしながらも触腕を広げて張り付いてくる蛸型。絡みつく8本の触腕。染み出してくる酸の攻撃。灼けた装甲が融解を始めるも、それを振り解くだけの手数が愛華機には既に無く── 直後、操縦席の愛華は、プクリと膨れ始めた蛸の『頭』(実際には胴であるが)が真っ赤に染まるのを見て目を見開き──
 直後、背後のクラウディア機が放ったレーザーによって、その蛸型は身体を上下に分かたれた。大きく膨らんだ『頭』(胴だが)は慣性により宙を飛び、愛華機とクラウディア機の中間にて、2機を巻き込み『自爆』する。
 わきゃあ、と悲鳴を上げる二人。機体の装甲は爆発の威力に耐えてくれたが、衝撃は中のパイロットごと激しく機を振動させた。
「‥‥離れていてこの威力。し、至近で爆発しないでよかったですねっ!」
 艦まで抜かれていたらどうなっていたことか。それを思ってクラウディアが息を吐く。
 愛華もそれに頷きながら。お腹を押さえてクラウディア機を振り返った。
「わふぅ〜。なんだかたこ焼き焼いて食べたくなったんだよ」
 イタリア人であるクラウディアは、それを聞いても顔を引きつらせたりはしなかった。

「無理が通れば、通りが引っ込む。くたばれ、バグアー!」
 のもじのスフィーダが放つ突撃砲の速射によって、針路上に立ち塞がろうとした中型キメラ1匹が粉々になって千切れとんだ。
 直後、漂う死骸の傍らを、メテオブーストを焚いたのもじ機が物凄い勢いで駆け抜ける。その後を、ブーストを焚いた羽矢子のシュテルンが黒き流星となって後続した。
「いっちゃん、あたしの機体の方が打たれ強いんだから、こっちが前に‥‥」
「いやいや、スフィーダの機能性を活かしたカバーが私の仕事。攻撃ラインは作るからダイレクトアタックはお願いね!」
 そう言って宙を走り、砲を撃ち捲くるのもじ。羽矢子は苦笑混じりに嘆息すると、衛星を睨んで攻撃準備に入った。
 PRM−P−Mモード。G放電、およびミサイルの目標はプロトン砲へ── その準備を完了次第、羽矢子はまるで急降下爆撃機のように、衛星へ向け『逆落とし』に機を突っ込ませる。
「抜けた!」
 衛星周りに残っていた敵を振り切り、巨大な衛星を見下ろしのもじが叫ぶ。その視線の先で、透夜が護衛してきたG−5弾頭弾が1発、正面から衛星アテナにぶち当たる。炸裂する巨大な火球── その爆発に巻き込まれて2基の副砲が砕け散る。
 透夜機はそのまま衛星の脇を抜けるように突破して‥‥アテナの対空砲火の何割かをそちらの砲へ引き受けた。それを見たのもじは「おや?」と呟いた。透夜機が火砲をある程度引き受けてくれたなら、自分も衛星への攻撃が幾らか可能になるのではないか?
 かくして、羽矢子とのもじの2機が敵衛星副砲に対する直接攻撃に参加することになった。
 G5弾頭弾が破壊した砲を避け、まだ無事な副砲へと目標を修正する羽矢子。のもじはそれとは別の方──送り狼となる裏側の副砲を照準した。
「またひと暴れするよ、シュテルン!」
「必中のおまじない、ポクスボクス(以下検閲)!」
 衛星の横軸に沿って機首を降りながら、衛星に電撃を振りまく羽矢子。その向こうでのもじ機が狙撃砲を撃ち下ろす。
 奔る稲妻と砲弾が衛星本体の表面に弾け──
 その攻撃に巻き込まれた副砲が5基、衛星表面から吹き飛んだ。

●after the end
 生き残った敵の副砲── 3基の大型プロトン砲が、迫る巡洋艦に向け怪光線を撃ち放った。
 迸るエネルギーが宙を走り、その内の幾本かが艦の装甲を焼き溶かして貫通する。
 砲撃は、前衛に立った『ハルパー』と『カドゥケウス』に集中した。SoM、CICのモニタに映る2艦の表面に爆発が湧き起こり、ロディは思わず肘掛に手を置き、立ち上がりかける。
「『ハルパー』、被弾! 第1、第5砲塔、大破!」
「『カドゥケウス』、前部装甲融解! 人的被害はないものの、前部兵員室は放棄」
「「されど、航行に支障なし!!」」
 両艦からの報告に、ロディは口の端に笑みを浮かべてグッと拳を握り締めた。
 3歩目。頂は既に踏み越えた。アテナは今、我が艦隊の射程内にある。
 『ハルパー』と『カドゥケウス』から夥しい光量が迸り、G光線ブラスター砲が全ての砲から一斉に放たれた。Gエネルギーが発する膨大なエネルギーは衛星の装甲を容易く引き裂き、その周囲に壊滅的な打撃を与えていく。
 連鎖する爆発。直撃点とその奥から湧き上がってくる爆発。艦首を僅かに上げて衛星への直撃コースから針路をずらす2艦。歓声に沸くCICのディスプレイに、大型封鎖衛星アテナが爆発に砕かれる様子が映される。
「わぅわぅっ! これが本当の一撃離脱なんだよ!」
 半壊したアテナを後部モニターに見返して、愛華がそう叫ぶ。「銀河の歴史がまた1p(以下検閲)」。のもじがぽつりとそう呟く。
 だが、アテナはまだ完全に破壊されてはいなかった。ハルパーの主砲塔2基が破壊された分、与えるダメージが少なかったのだ。ハルパーもカドゥケウスも既に衛星を通過している。この2艦は主砲塔が前部に集中している通常型で、再攻撃は不可能だ。
 だが、このSoMであれば── 他艦と主砲塔の配置が異なり、側方への全火力集中が可能である。
「とどめだ!」
 SoMの砲塔が側方へ旋回し、すれ違い様に主砲の一斉射をアテナへ向け叩き込む。
 ミカエルと、そして、Eフィールドから進入してきたヴァルトラウテが衛星裏面へと放った攻撃は、アテナに対する文字通りの止めとなった。充填を完了した敵の主砲は、SoMとヴァルトラウテを指向した瞬間、両艦の砲撃によってその基部から吹き飛ばされた。
 主動力炉に火が回った衛星は、一際大きく爆発し──
 南米の空に咲いた巨大な花火は、中央艦隊勝利を世界に報せる祝砲となった。