タイトル:【NS】増援空中梯団阻止マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 4 人
リプレイ完成日時:
2011/06/22 07:36

●オープニング本文


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 インディアナポリスの解放――その吉報を受け、北米UPC軍の士気は最高潮に高まっていた。
 既に、インディアナポリスの東に位置するデートン、シンシナティでも攻略作戦が動き始めている。一方、ユニヴァースナイト弐番艦を中心とした部隊が東海岸方面の警戒にあたり、敵増援の流入に目を光らせている今、五大湖南西部のバグア軍は防戦を重視し、勢力を広げることができない状態だ。
 複数の都市で同時に攻略作戦を展開し、バグア軍の都市間連携を弱め、各個に制圧して行く――軍上層部の立てた作戦は成功だったと言えよう。悲願であったコロンバスの解放も、近く現実となるかもしれない。

「ワシントンに動きがあったか」
 2011年6月1日、UK弐番艦のブラット准将より、オリム中将へ緊急の通信が入った。
『はい。UPC大西洋軍の精鋭部隊が、東海岸地域への強行偵察、および諜報員の派遣を行いました。バグアは周辺戦力をワシントンに集結しております』
「ギガワームが動く‥‥か?」
 ギガワームの前線投入、それこそが北米UPC軍の狙いだ。オリムは机上で両手を組み、僅かに笑んで見せる。
「――望むところだ。ピッツバーグ他、各都市の攻略を急ぐと同時に、五大湖以南全域にギガワーム迎撃の準備を整えさせよう」
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 大規模な敵の航空艦隊がワシントンより進発しつつある──
 偵察機からもたらされたその報告に、オタワの【NS】北米反攻作戦司令部はどよめいた。
 いよいよか──? 司令部の面々が慌しく動き始める。
 緊張と不安。そして、高揚。
 心中から溢れて膨張し、徐々に潮位を上げていく司令部内の熱量に、だが、奥のデスクに座るオリム中将は感応しなかった。ふてぶてしいほどに常と変わらぬ態度で、コーヒーカップを片手に卓上の書類に視線を落としている。
 それを見た幕僚たちは、自ずと襟を正した。集団のリーダーは常に冷静でなければならない──そうだ、まだ何も判明していない。始まってもいないのだ。
 忙しくもどこかビジネスライクな空気を取り戻したオフィスに、偵察機からの続報が入ってきた。
 敵戦力は、複数の空中母船BF(ビッグフィッシュ)を含む数個師団規模。ギガワームの姿は確認できない。ワシントンを発し、北部から西部にかけて扇型に展開。そこから放射状に各所へ進攻中らしい。
 敵船団を追尾していた偵察機からの連絡は、だが、それ以降ぱたりと止んだ。RF-104『バイパー(偵察型)』──それもハイコミュニケーターを積んだ最新型だ。ジャミングで通信が途絶したとは考え難い。恐らく撃墜されたのだろう。
 新たに敵情を得るべく発進させた偵察機は、だが、その全てが通信を途絶させた。一方で、各所に配していたCAP──戦闘空中哨戒隊は、そこかしこで接敵を報告し始めた。
「まさか、敵は全戦線で反攻を開始したのでは」
「いや、こちらの後方を衝くつもりに違いない。エリー市から湖上を抜け、デトロイトへ──ここが陥とされたらコロンバスとピッツバーグの攻略どころか、反攻作戦自体が瓦解する」
 危機感に満ちた幕僚たちの発言を、だが、オリムは「現実的ではないな」の一言で切り捨てた。椅子の上で組んでいた脚を解いて立ち上がる。この困惑とそこから生じる錯誤こそが、位置情報を秘匿した敵の意図する所だろう。
「敵は大軍を擁している。奇策に走る必要はない。シンプルに考えろ。今、敵が最も戦力を必要としている戦場はどこか?」
 ぴしゃり、とオリムは卓上の地図に指揮棒の先を叩きつけた。
「コロンバスと、ピッツバーグ‥‥我が軍が攻略中の二つの都市ですね」
「言わずもがな、だ。周辺部の戦闘は陽動。敵の主力は、ワシントンとこの二都市を結ぶ西北西のライン上を進攻しているはずだ。おそらくは、ギガワームの露払い‥‥そして、ギガワーム到着までコロンバスとピッツバーグを保持する為の増援だろう」
 オリムが言い終わるのとほぼ同時に、大西洋軍の艦載偵察機からの報告がもたらされた。
 曰く、敵、ギガワームはワシントン上空にあり。出撃準備を進めている様子もまったくない──
 ‥‥信じ難いことだが、その報に接したオリム中将は、口の端に微笑を浮かべたようだった。なめられたものだ、と独り言ち──幕僚たちへ顔を上げる。
「予備戦力を投入する。各隊からも戦力を抽出しろ。敵空中艦隊を待ち受け、撃滅し、以ってワシントンからギガワームを引っ張り出せ」

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
アクセル・ランパード(gc0052
18歳・♂・HD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

「敵集団感知! 大きい‥‥とても大きい反応! 方角と距離、転送するよっ。処理お願い!」
 待ち伏せ部隊本隊の前方で索敵任務に当たっていたシエルの骸龍は、特殊電子波長装置γによる敵影感知の報告をもたらした後、その通信を途絶させた。
 敵別働隊の警戒に当たっていた遊撃小隊──正規軍のF−201C『フェニックス(C型)』4機と阿野次 のもじ(ga5480)のシュテルン『日輪装甲ゴッド・ノモディ』が直ちに通信の途絶したポイントへと向かう。
 そこには4機の小型HWと、なぜか輸送機型の中型HWが1機いた。恐らく、シエルはこの連中と遭遇したのだろう。黒煙が見えない所をみると、どうやら無事に逃げおおせたらしい。
 見れば、敵輸送機はどうやら放出したCW(キューブワーム)の回収作業を行っているようだった。なるほど、とのもじは理解した。戦場のあちこちで偵察機が墜とされている理由がこれか。CWの強力なジャミング波で通信を瞬間的に遮断し、その間に小型HW4機が始末をつけるのだろう。
 ふむ、と一つ頷きながら、のもじは今回、己に課した交戦規則を思い返していた。──小型HWのみならば、多分、陽動。中型がいるなら巻き込む形でK−02。小型だけなら‥‥ダミーを見分けつつやっぱりK−02。
「なんにせよ突っ込むのは同じなんだけどね。みんな、速攻いくわよ!」
 エンジンパワーを最大にまで引き上げ、上空から一撃離脱を仕掛けるのもじ。CWを収容したばかりの敵が再び戦闘態勢を取る直前、のもじは機体各所に装備されたK−02のミサイルコンテナからマイクロミサイルを一斉に撃ち下ろしていた。雲が湧くように放たれた小型誘導弾の群れが、斜め上方から敵編隊へと降り注ぐ。敵はダミーを出す間もなかった。2斉射を放ち終えたのもじが機を水平に戻しながら振り返ると、空中に咲いた5つの爆煙の華から、砕けた敵機の破片がパラパラと落ちていくのが見えた。
「シエルよ‥‥敵は取ったぜ(墜ちてません)」
 なんか劇画調になったのもじが格好よさ気にそう呟く。
 ともあれ、大まかではあるが、敵本隊の位置を先に掴めたのは大きい。こちらはそれだけ有利な態勢を整えられるし、敵がこちらに対応する時間的・距離的余裕をなくせば、一方的な勝負もありえる。

 だが、同じ頃──
 敵の予想針路周辺に展開した待ち伏せ部隊本隊もまた、敵偵察機の接触を受けていた。
 前方の哨戒網を運よくすり抜けたのだろう。1機の小型HWが至近にまで到達し‥‥直後、物凄い勢いでこちらから離れていった。
「‥‥どうやら、こちらも発見されたようですね」
 本隊後方に位置するワイズマンのコクピットにあって、ファルル・キーリア(ga4815)は淡々と呟いた。
 彼我共に、索敵のイニシアチブはほぼ同時。態勢は五分と五分だ。まともにぶつかり合うならば、互いの戦闘力がものをいうだろう。
「けど、その1+1を10にも20にもするのが私たち、情報管制の役割よ。頑張りましょ」
 ワイズマンのセンサーに映る大量の光点──そのそれぞれに識別番号が割り振られている──を見やりながら、ファルルは、他戦域を担当する同じワイズマン乗りの憐に声をかけた。憐はコクリと無言で頷き‥‥ふと、声を出さないと伝わらないと気づいて、慌てて「はい」と返事をする。混沌としがちな戦場の各種情報を整理・分析し、正しい情報と指示を与えて味方をバックアップする── 軍との連携、彼我の位置情報、戦果や損害の明確化に、後詰の手当、基地の使用状況と補給のローテーション指示等々‥‥ 彼女たちの役割は小さくない。
 やがて、前方正面の空域に、敵本隊より発した前衛部隊が現れた。
 敵は『針鼠』──中型HW(ガンシップ型)4機と小型HW12機を一つの編隊として、それを複数投入してきた。その役割は明白だ。正面に位置するこちらを粉砕し、本隊の針路を確保する──
 ファルルは入手した情報を後方に位置する軍の空中管制機に転送すると、全部隊を統括する統制官の指示を待った。命令はすぐに来た。各隊、正面より迫る敵攻撃隊を粉砕し、敵本隊へ至る進撃路を確保せよ──
 ファルルは即座に、自らの担当する諸部隊に指示を発した。
 伝達された命令を受け、正規軍制空隊のF−201C隊とF−104隊が前進を開始する。そのすぐ後に、KM−S2『スピリットゴースト』隊、A−1D『ロングボウ』隊が続いた。制空隊には如月・由梨(ga1805)のディアブロ『シヴァ』が、KM−S2隊には綾嶺・桜(ga3143)の雷電と響 愛華(ga4681)のパピルサグ『紅良狗弐式』が、A−1D隊には美具・ザム・ツバイ(gc0857)のペインブラッド『スカラムーシュ・ラムダ』が、それぞれ随伴していた。
「来よる、来よるわ、雲霞の如きバグアの大軍が。これぞノブレスオブリージュの戦場に相応しい」
 大量のK−02ミサイルコンテナを搭載した愛機のコクピットで、美具は血を滾らせた。伝説の剣豪の名を冠した機体が振るうは、剣ではなく数多の小型誘導弾── 不釣合い? さにあらず。数多の戦いを生き延びた者に相応しい叡智の結晶──その得物を選びはしない。
「行くぞ、諸君。反撃の狼煙を上げるのじゃ! 人類の叡智をして、バグアに戦争を教育してやるのじゃ!」
 戦端は、美具機とA−1D隊の遠距離攻撃から開かれた。横列から一斉に放たれるミサイルの群れ──それは開戦を告げる鏑矢だった。立て続けに放たれた誘導弾が、一糸乱れず敵編隊へと飛翔していく。
 その攻撃に対し、敵はガンシップを前面に出して前面に弾幕を形成した。まるで光の壁にぶつかったかの様に砕け散るミサイルたち。だが、美具たちが放った『牙』はその火力の壁を抜け、敵編隊へと喰らいつく。
 中型後方の小型HWは一斉にダミーユニットを放出した。直後、正面から白煙を曳いて突っ込んできた誘導弾が次々とダミーとHWを吹き飛ばす。
 間髪入れず、ありったけのミサイルを第二射として叩き込む美具たち。それを防ぐべく、敵の隊列が火力を集中するべく前方へとシフトする。
 だが、それはこちらの思う壺だった。敵の注意が前方に集中する隙に、前進した制空隊が上空から突っ込んだのだ。
 ブーストを焚き、まるで鋭い剣の切っ先の様に切り込んでいく由梨のディアブロ。慌てたように砲口を上へと向けた敵の火線をひらりとかわしながら、機銃を連射して立ち塞がる小型HWを粉砕する。風防越し、視界に迫る中型ガンシップ── 由梨は弾幕兵装の砲口が上を向く間も与えず、巨大レーザー砲を立て続けに撃ち放った。放たれた2発の光条は『針鼠』を撃ち貫き‥‥敵中型HWは巨大な火球と化して爆散する。
「始まった‥‥!」
 敵隊列を突き崩し、巴戦へと移行した制空隊の様子を見ながら、後続するKM−S2隊に同行する愛華はゴクリと一つ息を呑んだ。
 緊張に、操縦桿をギュッと握る。北米の命運を握る戦い── 思えば、メトロポリタンXが陥落した時には、私たちはまだ『普通』の人間で‥‥こうして空を飛んでいるなんて想像もできなかった。けど、目の前で繰り広げられる戦いは紛れもない現実で‥‥
「おい、天然(略)犬娘」
 と、それを見透かしたかのように、桜が声をかけてきた。
「なんじゃ、また緊張しているのか? 大丈夫じゃ。お主の後ろには常にわしがついておる」
 桜のその言葉に、愛華はコツリと自らの拳を額に当てた。自分の方がお姉さんなのに、また桜に心配をかけてしまった。改めて気合を入れ直し、ギュッと拳を握ってみせる。
「よし‥‥では、まずは目の前の敵を叩くのじゃ。ここの空はわしらが守る。全機、気合を入れていくのじゃ!」
「みんな、東海岸の土を踏む前に墜ちたら嫌だよ? もし、墜ちたら、戦勝パーティーのごちそう、その人の分まで私が食べちゃうんだからね!」
 隊長機の号令の下、KM−S2隊は、再び隊列を整え始めた敵集団へ突入を開始した。砲戦機のイメージが強いスピリットゴーストだが、その実、近接戦闘をこなせるだけの性能は十分に有している。200mm砲の斉射から突撃へと移るKM−S2隊。愛華は正面の敵に向けて47mm砲を撃ち捲くった。HW表面の装甲が歪み、着弾の火花が激しく散る。KM−S2隊の空戦は降下による一撃離脱。愛華は兵装をGPSh重機関砲に切り替えると、すれ違い様、30mm砲弾を嵐の様に叩き込んだ。まるで散弾で撃たれたかのように穴だらけになったHWが、火を噴いて墜ちていく。
 騎兵の様に敵を蹴散らしていったKM−S2隊を、生き残りのHWが追い撃とうとその機首を翻す。そこへ後続の桜と2番隊が突っ込んだ。無防備な背を見せたところへ砲撃を浴びせられ、隊列が乱れた所を再び蹴散らされる。
「天然たちに気を取られすぎじゃ。背ががら空きじゃぞ!」
 88mm光線砲による砲撃からスラスターライフルによる掃射に切り替え、桜の雷電が突進する。『光の槍』に貫かれ、さらにミシンで縫われた様に着弾を浴びた敵機が火を噴き、機体を二つに割りながら、それぞれに爆発する。
 KM−S2隊の突進はまるで戦車の突撃のようだった。なすすべもなく蹂躙されたHWが周囲へと散らされ、分断・分散された敵を制空隊が各個に喰らっていく‥‥

「どうやら、緒戦はこちらが敵を圧倒しているようですね」
 予備戦力として後方に待機するPM−J8『アンジェリカ』隊の中にあって、ディアブロを駆る飯島 修司(ga7951)はセンサーに映る戦場の様子を見ながら頷いた。
 だが、これが前哨戦に過ぎない事も分かっていた。修司は手近の正規軍パイロットを呼び出すと、まだ出現していない、北米特有の敵についての情報を求めた。
「フライングランサー(FL)と呼ばれる蒼い三角錐型のワームは、『鋭角飛行』と呼ばれる出鱈目な機動性能が特徴の高機動系の特殊ワームだ。攻撃方法はフォースフィールドを利用した高威力の刺突系体当たり。反面、練力消費が激しく、長期戦には向いていない。戦訓として、相手に鋭角回避を行わせてから攻撃を集中する戦法が推奨されている、らしい。
 『針鼠』とも呼ばれる中型HW(ガンシップ仕様)は、機体の上下両面に文字通り針鼠の様に火砲を搭載した重装備型だ。長距離狙撃用のポジトロン砲と弾幕型フェザー砲を搭載し、主にBFや爆撃機の直衛機として運用される。護衛対象に随伴し、近づく敵を弾幕で払い除けるのがその役割。対処法は、弾幕兵装の射程外から攻撃するか、複数機による同時攻撃で弾幕を分散させるか、だ」
 修司は礼を言うと、隣を飛ぶイビルアイズ『烈火刃』のパイロット、守原有希(ga8582)に声をかけた。返事はなく‥‥修司は声を強くして再び呼びかける。
「え、あ、はい!」
 慌てたように返事をする有希。しっかりしろ、と正す修司に謝りながら、有希は両頬を叩いて気合を入れる。
 とは言え、彼の視線は再び心配そうに、蒼空の彼方に見える味方の編隊へと吸い寄せられていった。それはF−196スカイセイバーを中心とした予備部隊。同行するF−201D/A3の1機には、有希の最愛の人、クリア・サーレク(ga4864)が乗っている。
 そのクリアはじっと無言で操縦桿を握り締めていた。
 その顔には、いつもの笑顔は見られない。彼女の故郷は北米、メトロポリタンX── この戦いは、ようやく‥‥ようやく始まった、故郷へと至る戦いの梯段、その一段目なのだ。失敗は許されない。
「クリアちゃん‥‥あまり無理はしないでね。クリアちゃんになにかあったら、元も子もないんだから」
 同じく、201A3を駆るヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)が、翼を並べる親友に心配そうに声をかける。クリアは、大丈夫だよ、と明るい声で返事をしたが、その様子が普段と違う事はヴェロニクにはすぐに分かった。同じく、翼を並べる201A3、『Aeon(アイオーン)』のアクセル・ランパード(gc0052)とモニタ越しに視線を交わす。
 アクセルは無言で首を横に振った。クリアの気持ちはアクセルにも良く分かる。彼にとってもまた、この北米の地は第二の故郷となりつつある。
「‥‥ナイト1、ナイト1、こちらビショップ1。左翼の迎撃隊が押されているわ。どうやら腕の良い有人機がいるようで、後方の電子戦部隊まで突破されたみたい」
 憐からもたらされた情報をファルルが予備隊に伝える。修司と有希はPM−J8隊と共に急行、COP隊と合流しつつ、後詰として左翼の手当てをすべし‥‥
「出番か‥‥」
 PM−J8隊に随伴するアンジェリカ『エレクトラ』のコクピットで、瑞浪 時雨(ga5130)は呟いた。
 ファルルから聞いた情報を元に、自機の戦闘行動を推定する。彼女の黒色の愛機は攻撃性能を大幅に強化している反面、防御性能は高くない。相手に有人機がいるのであれば、攻撃を受けない立ち位置を考える必要がある。
「それでは、急ぎ向かうとしましょう」
 修司は機の翼を翻すと、隊の先頭に立って蒼空を走り始めた。その後を有希が電子戦機と追随する。
「こうして翼を並べるのも久しぶりですね。今日はよろしくお願いします!」
 戦場を前に集中力を取り戻した有希が、かつての──先々代の小隊長である修司に言った。修司は頷きつつ苦笑した。かつての小隊仲間、そして、現小隊隊長のファルルの手前、余り無様は晒したくないものだ‥‥
「有希さん、気をつけて!」
 戦場へ赴く有希を見送りながら、クリアは唇を噛み締める。
「‥‥待つ身は、つらいね」
 呟くクリアに、ヴェロニクは重く息を吐いた。
「ええ、全く‥‥本当に」


 激戦は続く。
 敵は段階的に攻撃隊を繰り出し、交代でこちらに消耗を強いる作戦に出た。軍はそれに対して後詰を投入し、同じく交代で敵に当たる。
 戦場の後方、前衛基地との中間地点付近には、軍と、ジーラと、鷲羽・栗花落の西王母が、前線から後退してくる味方の補給の為にローテーションを組んでいた。
 現在、滞空している機は栗花落の西王母だった。そこへミサイルを撃ち尽くして戻った遊撃隊ののもじ機が、栗花落機と接続すべく、ゆっくりと近づいていく。
「『さぁ、腹を空かせた腹ペコ仔猫ちゃんたち、ママのおっぱいはこっちだぜー』」
 そう棒読み気味な台詞を言ったのは、栗花落ではなくのもじだった。空中給油の際には言わなきゃいけないお約束なのよっ! と語るのもじに、初心な栗花落は顔を赤くする。
 燃料・弾薬の補給を終えたのもじは、再び、遊撃隊と共に飛んでいった。入れ替わるようにやって来た美具とA−1D隊は、西王母ではなく前衛基地へ向け飛んでいく。彼らは基地で纏めて補給した方が効率が良いのだ。
 全ての補給物資を吐き出した栗花落機もまた、彼らの後について戻り始めた。途中、入れ替わるように、SD猫耳娘のノーズアートが描かれたド派手な西王母とすれ違う。ジーラ機だ。栗花落と挨拶を交わして補給点へと戻ったジーラは、集まってくるKVに向け無線のマイクで呼びかけた。
「『さぁ、腹を空かせた仔猫ちゃんたち、ママのおっぱいはこっちだぜ──』」

「ビショップ1より全機。新たな敵集団を確認したわ。BFとガンシップを含む敵の中核部隊よ。掃討班は直ちに向かって!」
 のもじが送ってきた敵本隊の新たな位置情報に、ファルルは興奮を抑制しつつ、冷静に情報を各所へ伝えた。センサーに映る夥しい数の光点に、呆れた様に嘆息する。久しぶりのオペレーター業務。だが、この規模の戦いだと、前線に出た方がよっぽど楽かもしれない。
「‥‥クリアの故郷から‥‥バグアを一掃するお手伝い、です‥‥気合が、入ります‥‥」
 憐の言葉にファルルは頷き、改めて気合を入れ直す。

 一方、情報を伝え聞いた修司は、敵有人機を含む編隊と死闘の真っ最中であった。
 PM−J8隊から離れ、COP隊と共に敵とがっぷり四つに組む。敵は慣性制御を利用して、相互に支援しつつこちらに当たった。同時かつ偏差を用いて放たれるフェザー砲。修司は冷静に操縦桿とフットペダルを操つり、錯綜する怪光線をかわし切る。
「向かって、と言われても、これじゃあな‥‥」
 大きく機を旋回させながら修司は心中で嘆息した。操縦桿を細かく動かしながら‥‥わらわらと集まってくる敵へ向けて47mm砲弾の火線の鞭を機首と共に振りつつ、逸れた敵をレーザーで撃ち抜き、爆炎の横をすり抜ける。
 周囲は敵で溢れていた。これを放置したままここを離れたとしても、追撃を受ければ敵本隊攻撃どころではない。
「行ってください。ここは任されます」
 そう告げたのは由梨だった。
「しかし‥‥」
「ご助力は無用です。ここは‥‥私の戦場ですから!」
 赤い瞳に愉悦の光を揺らし、戦場を疾駆する由梨のディアブロ。周囲へばら撒かれたマイクロミサイルが宙に爆発を煌かせる。その様子を見た修司は遠慮なくその場を離れる事にした。COP隊をその場に残し、単騎での突破を図る。その後ろに、アクセルの201A3が滑り込む様に機位をつけた。
「援護します。後ろはお気になさらず」
「了解。では、有人機の首だけ貰って行きましょう」
 無造作にそう呟き、加速する修司機とアクセル機。そこへ有人機編隊から放たれる一斉射。だが、それは僅かに上へと逸れる。
「有希か」
 修司は後ろを振り返らなかった。ロックオンキャンセラーで有人機の攻撃を妨害した有希機と、同行する時雨のPM−J8隊が、加速をつけて降下しながら一斉に光線砲を撃ち放つ。降り注いだ光の槍は、砲撃態勢を取っていた敵編隊を槍衾に貫いた。連鎖する爆発──その傍らをPM−J8隊がそのまま突っ切って降下、離脱する。
 爆煙の中から飛び出す有人機へ、修司は計ったように95mm砲弾を『置いて』いた。その一撃で装甲を剥がされた弾かれた様に『外』へと飛び出し、アクセル機の正面に身を晒す。アクセルはすかさずDC−77の引き金を弾いた。放たれた機関砲弾は狙い過たず敵機へ吸い込まれ‥‥火を噴いた敵は独楽の様に回りながら墜ちていった。
「攻撃隊、集まれ」
 敵本隊攻撃の為に集結した味方の数は多いとは言えなかった。未だ敵攻撃隊は健在であり、それを抑える戦力も必要であったからだ。
 集まったのは、F−201CとF−104が3個小隊ずつ、愛華と桜を含むKM−S2隊、時雨と有希のPM−J8隊と電子戦機、そして、クリア、ヴェロニク、アクセルのF−196隊、そして修司だった。
 対するバグアは4隻のBFを基幹に、大型HW(ガンシップ仕様)2機ずつを母艦の護衛に張り付かせ、その周囲を中型と小型で囲んでいた。BFが空母とするならば、大型機はそれを守る巡洋艦、駆逐艦といったところか。
 位置的に攻撃隊の管制を担当することになったファルルは、即座に攻撃方法を伝達した。こちらの数は多くない。片舷側の大型HWを墜とし、その穴からBFへと到達する。
「敵大型ガンシップは相互に支援できる態勢を取っています。焦らず、地道に外側から削っていった方が良くないですか?」
 時雨の提案は是とされた。第一目標は敵左舷前側の大型2機。この2機を撃墜し、敵1番艦の左舷の守りを剥ぎ取ってから、その船体を盾にするように接近、撃沈する。
 上空で再編を終えた攻撃隊は、一路、敵本隊の上空へと向かった。
 やがて、前方の眼下に、堂々たる陣形を組んで進軍する敵空中船団が見えてくる。BFの上甲板には、船内から出てきたのだろう、『亀』──タートルワームがその砲列を並べていた。それを見下ろし、桜は「ほ」と息を吐いた。これはまた随分とバグアも種類豊富なことじゃ。じゃが、ここで負けるわけにもいかん‥‥!
「スキル全開! 前方の敵を一気に薙ぎ払うのじゃ!」
 高度を上げてくる敵小型・中型の迎撃機編隊へ向けて、KM−S2隊がファルコンスナイプと共に一斉に200mm砲による砲撃を開始した。緩やかに弧を描いて飛翔した砲弾が敵編隊へと飛び込み、そこかしこで爆発が沸き起こる。それに合わせて、桜は螺旋弾頭ミサイルを片っ端から撃ち捲くった。四方から飛び迫る誘導弾が中型の装甲を喰い破り、内部で爆発してその装甲をひしゃげさせる。
 一斉砲撃後、修司を先頭にした制空隊が敵迎撃隊に突っ込んだ。修司機の砲撃を錐として、敵隊列を突き崩していく制空隊。そのまま巴戦へと持ち込んで敵をその場に拘束する。
 その隙に、残りの攻撃隊は一斉に突撃を開始した。前に出るのは桜に愛華、時雨と有希だ。消耗の少ないクリアやヴェロニク、アクセルと軍のF−196隊は、BF攻撃の本命としてその後へ続く。
「うっわぁ‥‥こうして見るとまた改めてごっついんだよ‥‥ みんな! アレに迂闊に近づいたら、粉々にされるからね!」
 そう周囲に警告しつつ、愛華はD−02狙撃砲で、敵弾幕兵装の射程外から砲台を狙い撃ちにし始めた。と、そこへ大型砲が旋回し‥‥複数の光条を撃ち放つ。
 至近を通過したエネルギーの奔流に、愛華は思わず首を竦めた。運悪く、至近弾を受けたKM−S2の1機が装甲を炎に包まれ、隊列から落伍していく。
「まさか‥‥拡散プロトン砲?!」
 愛華は周囲に回避行動を取るよう叫ぶと、自らも機首を翻しながら、狙撃砲を撃ち捲くった。放たれる応射‥‥炙られた装甲が泡立つのを感じながら、愛華は愛機に呼びかけた。耐えてね紅良狗‥‥! 此処で勝てなきゃ、意味がないんだよ‥‥!
 一方、敵の砲撃が愛華たちに集中しているのを見た時雨は、思い切って機を前進させることにした。
「突入する。有希はキャンセラーの支援をお願い!」
「瑞浪さん!?」
「敵が長射程砲を持っているなら外にいても意味がない。荷電粒子砲で一気に決める!」
 加速する時雨機を追って、有希もまたそれに後続した。続きながら、D−08、GP−02Sと小型誘導弾を周囲にばら撒き、側方から迫る敵を牽制する。
 時雨は前方に立ち塞がる小型HW2機をGP−7放電型誘導弾で一掃すると、残る中型にもAAEMを叩き込んでその針路をこじ開けた。全力運転中のSESエンハンサーに練力を叩き込んで使用を継続。残った非物理型誘導弾を敵大型ガンシップの各砲へと放り込む。
「出し惜しみなんてしてられない‥‥ これが私の全力。やられる前に全部墜とす‥‥!」
 時雨は兵装を素早くDR−2に変更すると、射程に入った瞬間、荷電粒子砲を撃ち放った。放たれた野太いエネルギーの奔流が、拡散プロトン砲一基の基部に突き刺さる。瞬間、一際大きな爆発が湧き起こり、傾いだ砲が擱坐、沈黙する。
「今だよ!」
「今じゃ!」
 そこへ愛華と桜の誘導弾と共に、KM−S2隊が一斉に200mm砲を撃ち放ち、直撃を受けた対空砲座が一斉に爆発する。左舷側の砲を潰された大型HWは‥‥ぐるりと船体を回転し、機を反転する事で右舷側にあった砲を左舷に向ける。
 勿論、新たに右舷側に回った旧左舷の砲は壊れたままだ。即ち、BF側に砲はない。
「「クリアさん!」」
 有希、そしてファルルの言葉が通信回路を駆け巡り、クリアと、そして、ヴェロニク、アクセル、F−196隊は敵母船目掛けて駆け出した。船団後方のガンシップから放たれるポジトロン砲をかわしつつ、敵の内懐へと入り込む。
 だが、敵はまだ切り札を隠し持っていた。BF側方、下方のハッチが一斉に開き、複数のFLとCWをばら撒き始めたのだ。
 頭の中を走る激痛に、時雨は「クッ」と頭を抑えた。威力と機動性能を落とした時雨機をポジトロン砲が掠め飛ぶ。有希はCWに向けて長距離バルカンを撃ち捲くった。被弾し、砕け散るCW。だが、その数は余りに多い‥‥
 そうこうしている内に、FLが起動し始めた。舞い落ちながら、クン、と機首を上げ、飛翔し始める三角錐。あれがFL‥‥ 有希は小さく呟いた。確かに速い。速かけど、手は‥‥ある!
 ここへ来ての新たな直掩機と妨害機の登場── 色んな意味で頭痛の種となったそれらに、ヴェロニクは顔をしかめた。
(敵は物量を活かして真正面から飽和戦を仕掛けてきている‥‥ 消耗し切る前に敵母船を一点落としにしないと苦しいってのに、ここに来ての増援は‥‥!)
 唇を噛むヴェロニク。と、その目の前でクリア機が前に出た。
「この空、そして、この大地‥‥ ここはボクの大切な人たちが泣き、笑い、生きた場所‥‥」
「クリアちゃん!?」
「ここでこんなのを墜とせない程度で‥‥シェイドになんて、届くもんかぁーっ!」
 叫びと共に、空中変形をしたクリア機がFLへと斬りかかる。だが、CWの妨害波によりその動きは鈍く、練剣『白雪』の光刃も細い。鋭角機動で斬撃を回避したFLはクリア機に狙い定め‥‥ 直後、背後より突っ込んできた有希機の乱射によりその攻撃を妨害された。新たに現れた『小癪』な敵に、改めて攻撃を仕掛けるFL。その突進をギリギリで回避した有希機を、掠め飛んだ力場の衝撃が襲う。
 だが、直後、攻撃の為に直線的な動きになったFLを、空中変形したヴェロニク機が機槍で側面から打ち貫いた。速度と機体質量を乗せ、FLの蒼い装甲を貫いたヴェロニクは、抉る様に穂先をねじ込み‥‥液体炸薬を内部で爆発させた。砕け散った敵機の破片がキラキラと舞い落ちる中、ヴェロニクが機を再び戦闘機形態へと戻す。
「有希さん?! 何て無茶を‥‥!」
「最愛の人の故国を取り戻す為の戦いです。限界なんて幾らでも超えますよ!」
 有希の叫びに思わず頬を染めるクリア。返事は、とんでもない所から降ってきた。
「その言やよし! そんな二人にのもじサンタからプレゼント(180度季節外れ)よ!」
 それは上空に侵入したのもじたち、遊撃隊からの通信だった。敵別働隊の動きがない事を確認し、敵本隊の側方へと回り込んでいたのだ。
 のもじは敵船団本隊へと接近すると、CWの効果範囲外からK−02を全力で撃ち放った。宙を疾走したマイクロミサイルの群れが、同時に10機近くのCWを吹き飛ばす。
 慌てて砲火を放つ針鼠。だが、こののもじの攻撃もまた囮だった。直後、直上から急降下してきた美具とA−1D隊が、敵大型HWへ向け一斉にミサイルを撃ち降ろす。
「本邦初公開、アーマゲドン・スプラッシュなのじゃ!」
 ブラックハーツを使用してK−02を撃ち放ちながら叫ぶ美具。損耗のないA−1D隊の斉射はまさに流星の様だった。無防備になった大型に立て続けに誘導弾が着弾し‥‥それまでに損傷を受けていた大型は、メキメキと音を立てて二つに折れつつ、火を噴きながら落伍していく。
 即座に、有希はファルルを介して軍のイビルアイズ隊に協力を要請した。CWの妨害波が晴れた戦場で、愛華と桜がG放電装置と螺旋弾頭で以ってFLを追い散らし始める。やがて、敵迎撃機隊を撃滅せしめた修司と由梨と制空隊が加わると、BF近辺の戦力比は逆転し始めた。
 軍の電子戦機を呼び集めた有希は、僚機と共にBF上の亀にキャンセラーを使用し始めた。
「行ってください! 本命頼みます!」
 猛る烈火よ、不死鳥たちに追い風を。有希の意を受け、アクセルが正規軍機と共にクリアとヴェロニクの前に出る。
「俺が道を切り開きます! 196隊は援護を!」
 アクセルは、BF上に砲列を敷いた正面の亀3機に向けてGP−7放電型誘導弾を全弾撃ち放つと、そのまま一気に敵船上空へと侵入を開始した。先行展開した4機の196が敵の火砲を引き付けている間に、甲板下の死角から甲板上空へと踊り出る。放たれた亀のプロトン砲は、イビルアイズ隊の妨害により逸れていった。アクセルは機軸を保持したまま人型へ空中変形すると、機を半ロールさせて甲板上を『見下ろし』ながら、両肩のレーザーキャノンを眼下の亀目掛けて撃ち下ろした。再び半ロールで機を回しながら変形し、飛び過ぎて行くアクセル機。直上という予想外の場所から攻撃を受けた2機の亀が光線砲に貫かれて爆発する。
「補給が安定している。今日は思う存分やらせて頂きます!」
 再度反転して来たアクセルは、再び空中変形をすると、手にした機槍ドミネイターのブースターで対空砲を回避しつつ、800m級という巨大な船体の上へ相対速度を利用して降り立った。『混乱』する亀の対空砲陣。AIは即座に攻撃判定を下したのだが、船体に流れ弾が当たる可能性に、一瞬、ループ状態に陥ったのだ。
 その『隙』にアクセルは手にした機槍を甲板へと突き刺し、傷ついた装甲を抉じ開けながら光線砲を撃ち込んだ。亀を格納していたセルの一つが誘爆を起こし、ハッチを高々と舞い上げる。
「さぁ、今です!」
 亀の砲が自機を指向したのを見て、アクセルは甲板舷側から飛び降りた。甲板下は亀の死角。プロトン砲が空しく宙を切る。
 その隙に、クリアとヴェロニクは上甲板上を一直線に突き抜けた。正面にはBFの艦橋構造物。
「貫く!」
 ヴェロニク機は再び空中変形を行うと、機槍を腕ではなく小脇に抱える様にしながらその機体ごと突っ込んだ。敵母船外装を打ち貫く槍の鋭鋒。バカになった右腕部を離して左腕で槍を掴み直し‥‥液体炸薬を敵艦内部で炸裂させる。
 壁面を蹴り跳ばして距離を取り、素早く戦闘機形態へと戻って離脱するヴェロニク。入れ替わるように突入してきたクリア機は、BFの艦橋構造物へ向け、手にした練剣を振り上げた。
「この北米で何年も戦い続けている軍人さんたちの前で言うのも面映いけど‥‥ 返して貰うよ、ボクの故国を!」
 叫び、両手に構えた練剣を振り下ろす。瞬間的に発振されたレーザーが斜めに艦橋部外装を切り裂いて──
 爆発を背景に、クリア機は再び変形。戦闘機形態で離脱していった。


 結局、BFの艦橋構造物はダミーで、敵1番艦を沈めるには暫し時間がかかることになるのだが。
 その後、総攻撃を受けたBFは船体の各所から火を噴きながら、大地に激突して巨大な火球となって砕け散った。
 敵は1番艦が沈む間に、その針路を反転させていた。軍と傭兵たちは追撃をかけ、最後尾に位置していた敵2番艦と随伴の大型HWを撃墜したが、残存の敵には逃げられた。

 オタワ総司令部の幕僚たちは、敵船団撃退の報を聞くと歓喜の雄叫びを上げた。
 ただ一人、オリム中将だけが、何か性質の悪いペテンに引っかかった様な、そんな違和感を感じていた。