タイトル:3室 片翼の道標マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/12 22:53

●オープニング本文


 2011年5月某日 北米ネバダ州、ドローム社KV実験場──
 滑走路脇の駐機場に、見慣れぬ2機のKVが格納庫から引き出された。
 ひとつはYF-204。F-201『フェニックス』の直系に当たる高機動系の高性能汎用機である。あくまでもKVでありながら、従来の戦闘機の系譜を感じさせる正統進化とも言うべきデザイン──純白に塗装されたその流麗な外観は、大空を超音速で駆け抜ける力強さと、蒼空を優雅に舞う気品とを共に感じさせる。
 もうひとつはYF-205。こちらは突進力と防御性能に特化した高速重装甲系の高性能汎用機で、速度と機体剛性の観点からリフティングボディを採用している。濃灰色のその姿はまさに『空飛ぶ鏃』。装甲を鎧ったその姿は重厚でありながら、そのラインはシャープであり、見る者にどこか鋭利な印象を抱かせる。
 これら2機種の実験機は、いずれもドローム第3KV開発室によって、SES-200改エンジンの搭載機として開発された機体だった。『高機動性能の追及』と『高速重装甲』──まったく異なるコンセプトで生み出された2つの試作機は、だが、大推力のエンジンを活用する、という一つの根っこから生まれた『兄弟機』であった。同じ根から伸ばされた枝葉は咲かせる花こそ違えども、『シェイドに打ち克つ』という同じ目的に向かって伸びている。

 この日は、これら2機種の試作機の初飛行の日であった。
 実験場にはこれら2機種の機材開発に携わった各研究室・開発室の面々が集まり、組み上がった機体を感慨深く見上げている。管理棟の窓辺には鈴なりになった技術者たちの姿。設置された計測機器が、試作機に搭載された各種機材の状態を数値で事細かに示している。
 第3KV開発室の若き技術者アルフレッド・ノーマンは、その技術者たちの中にあって、KVというものが物凄い大勢の人間が関わる、技術と才能と労力の結晶なのだな、と改めて実感していた。彼は今回、室長のヘンリー・キンベル、SEのラファエル・クーセラらと共に主設計者として名を連ねている。それだけに今回の初飛行は、手塩にかけて育てた我が子の晴れ舞台を見るようで、晴れがましい気分になる。
 一方、『直属の上司』たるラファエル・クーセラは、胃薬のビンを片手に朝から青い顔をしたままだった。
「シミュレーションで問題点は可能な限り潰したが‥‥実機での運用は始めてだ。もし、何か不具合が出たら、と考えると胃が逆流しそうになる」
 室長が三顧の礼で迎えた天才SEの意外な一面にアルフレッドは目を丸くした。図太そうに見えて意外と繊細なのだな、とか思っていると、それが顔に出たのだろう。「大物だよ、お前は」などと呆れた様に呟かれた。
「ずっとフリーで活動していたからな。自分の肩に背負える分だけの責任しか負わなかった。自分が作った物にゃ自信が持てるが、これ程の大規模プロジェクトとなると‥‥」
 完璧主義者だなぁ、と答えたのは室長のヘンリーだった。若くして開発室を持ちながら、長らく『場末の部署』として苦労を積み上げてきたこの40代の『天才』は、事ここに至っても堂々としたものだった。
「KV開発にトラブルはどうしたって出るものだと思っておけばいいよ。むしろ、試作機の段階で出てくれてラッキー、ぐらいの感覚でね」
「室長は不安だったりしないんですか?」
 アルフレッドがそう尋ねると、ヘンリーは微苦笑を浮かべた。
「試作機製造の段階で手応えはあった。多少の問題は乗り越えられると思うよ。‥‥でも、不安、というか、懸念は二つあるね」
 一つは、エンジン。2機のSES-200改エンジンと安定化装置からなるシステムはどうにか実用化の目処が立ったものの、未だ調整を続けている段階だ。その為、試作機には『SES-192』エンジン(出力より小型化と瞬発性を重視したSES-190系エンジンのバリエーションの一つ。その特性ゆえ小型機や姿勢制御用に向いている)を4基積んでいる。実用機では200改に換装する予定であるが、早めに実機に搭載してテストしておきたい、というのが本音である。
「ああ、だから、グランチェスター開発室の人たち、こっちに来ていないんですね」
 グランチェスター開発室は、SES-200改エンジンの開発担当で、現在、本社でエンジンシステムの調整に全力で当たっている。開発開始以降は互いに忙しく、数ヶ月は直接会っていない。
「寂しいかね? 男子諸君」
 ラファエルが、グランチェスター開発室に親しい知人のいるヘンリーとアルフレッドを囃したが、二人はきょとんとするばかり。ラファエルは肩を竦めながら、ヘンリーのもう一つの『懸念』について尋ねた。
「いや、大した事じゃないんだ。‥‥或いは、最も危惧した方がいい事なのかもしれないけど。いや、まあ、考えすぎなのかもしれないが、過去の経験上、どうしても、ね‥‥」
 要領を得ない。ラファエルとアルフレッドは顔を見合わせ、ヘンリーに先を促した。ヘンリーは自分でも口にするのを憚る、といった調子で、その重い口を開いた。
「‥‥いや、まぁ、なんだ。モリスが、まだこっちに到着していない、ってだけなんだけどね?」

 サンフランシスコの本社からネバダへ出発しようとしていたKV企画開発部のモリス・グレーは、社用ジェット機に乗り込もうとしたその直前、社からの使いに呼び戻された。
 呼び出したのは、社の上層部の中でもモリスが属する派閥の人間だった。彼らはモリスに対し、3室の200系新型機に関する方針の転換を伝えさせる為、彼を呼び戻したのだった。
「我が社の『情報部』が入手した情報によれば、銀河重工が開発した新型機『シコン』は、現在、生産ラインを確立する準備に入ったらしい。しかも、その性能は、我が社が開発中の新型機に匹敵するか、それ以上の性能を持っている‥‥らしい」
 嫌な予感がする、とモリスは思ったが、勿論、顔には出さなかった。同期のヘンリーの顔を思い浮かべつつ、どうやら雲行きが怪しいぞ、と、どこか他人事の様に心配する。
「これを受け、社の上層部は現在、3室が開発中の新型機の実用化を前倒しにする事で同意した。よって、現在、204、205の二機種で進められている開発は一本化し、一日も早い実用機の完成を目指すものとする」
 モリスは碌に反論もせず、上層部の意向を携えてネバダへ飛んだ。
 話を聞いた技術者たちは紛糾した。204と205、どちらかの開発が中止になれば、せっかく開発した自室の技術が『あぶれる』事になるからだ。
「で、204と205、どちらを残す?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥開発を早める、という事なら204だ。201で蓄積した運用データが流用できる」
 モリスの『社命』に、ヘンリーはそう答えた。205の機材開発に携わっていた技術者たちは荒々しく席を立った。ある者は上層部へ抗議に行き、またある者は204への転用を訴えてヘンリーに詰め寄る。
「‥‥分かった。テストパイロットの傭兵がいる。彼らに意見を聞いてみよう」

●参加者一覧

守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
ストレガ(gb4457
20歳・♀・DF
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
アクセル・ランパード(gc0052
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

 その頃、突如、試験飛行の延期を告げられた能力者たちは、食堂でそれぞれに時間を潰していた。
 守原有希(ga8582)は厨房を借り受けた。振舞うメニューは、夏野菜と豆の挽肉カレーとミネストローネ、水菓子に杏仁豆腐。クリア・サーレク(ga4864)がそれを手伝う。
 手伝いに入ったストレガ(gb4457)は、すぐ有希とクリアの関係にピンときて、片付けを任せて厨房を後にした。出てすぐのテーブルには、カレーをおかわりしたテト・シュタイナー(gb5138)と‥‥なぜか、唇を真っ赤に腫らして、まだ1杯目を食べ続けている須磨井 礼二(gb2034)の姿があった。
 そんなに辛かったかしら、と首を傾げるストレガの前で、テトが懐から赤いビンを取り出し、鼻歌交じりでカレーに振り掛け始める。それを見てビクリと震える礼二。顔を蒼くし、自らが持参した福神漬けやラッキョウを自らの皿に山盛りにし始める。
「どうしたんですか?」
「い、いえ‥‥」
 聞けば、テトが振りかけているのは、テト特性の激辛スパイスなのだという。興味を引かれ、少し分けてもらった礼二は、カレーを口に入れて数秒後、自らの行為に恐怖した。決して笑顔を絶やさぬ礼二が、瞬間、カッと目を見開いて硬直したとかしないとか。
 ストレガは息を呑みつつ、テトのカレーを振り返った。真っ赤、というか黒く染まったカレー‥‥? をテトが笑顔で口に運ぶ‥‥
 事態が動いたのはそんな折だった。
 トレーを片付ける為に席を立ったアクセル・ランパード(gc0052)は、廊下の騒がしさに足を止めた。音は段々と大きくなり‥‥やがて、各開発室の面々が食堂へと押しかけてくる。
「‥‥ドロームの内情は相変わらずだな、ったく」
 事情を聞いたテトは、ひとり(平然と)腰に手を当て、男勝りな口調で呆れたように呟いた。ジーザス、と口中に呟き、アクセルが胸元のロザリオに小さく祈りを捧げる。
「ドロームっていつもこんなですよねぇ」
 ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)は手にしたコップのストローをすすった。その中身は一部でマニアックな人気を誇るドロームコーラ。いい加減、もう慣れてきた。社風にも、コーラにも。

「またか‥‥」
 厨房の中で、有希は苛立たしげに嘆息していた。競争は結構。でも、苦難に協力せんでどがんとする? KV開発で競い合う『同じ釜の飯を食った仲間』やろうに‥‥
「‥‥本当の理由は、別にあるのかな?」
「え?」
 クリアの言葉に、有希は振り返った。
「シコンを今更警戒するのは変でしょ? ユダの完成とか、メトロX決戦とか‥‥他の極秘情報で前倒しさせたと見た方が納得できるんだけどなぁ」

「‥‥しかし、一社の総括機に一開発室で対抗しろって、正気? これじゃ体の良い‥‥」
 腕を組み、テーブルに腰を預けたラウラ・ブレイク(gb1395)は、呆れたようにそう言い掛けて‥‥ 何かに気づいたように口をつぐんだ。
「銀河の総力に対抗させるなら、こちらもそれなりの社内便宜は上層部に要請するべきですよね♪」
 ラウラの後を継ぐように、ダメージから回復した礼二が明るい調子で呼びかける。
 ラウラはテーブルから腰を上げた。
「託せられるは経験、想い。受け継がれるは、さて、成し得なかった希望か、それとも‥‥?」
 どうせ『火傷』をするのであれば‥‥『社命』を盾に他所を巻き込み、無茶をやるいい機会かもしれない。
「さて、そんじゃ、上の奴等をぎゃふんと言わせる作業に入るとしようぜ?」
 技術者たちにテトが呼びかける。ラウラはニヤリと笑ってみせた。


 テーブルを片付けて場を設けると、技術者たちは盛んに自室の開発機材機材を売り込み始めた。
 主だったものだけで、『回避型(204系技術者)』か『防御型(205系技術者)』か、『人型飛行可能時間を延ばす継続型空中変形』と『消費練力と変形速度を重視した単発型空中変形』、『オーバーブースト等の併用を容易にするブースト前提型空中変形』、『攻撃系の代わりに防御系を上げる機能変更型のオーバーブースト』、『【行動1】を消費して命中と威力を上げる新機材』があった。
 この内、早々に結論が出たのは、『【行動1】消費系の新型能力』だった。燃費が決して良いとは言えないSES−200に対して、練力を消費しないこの機材は魅力的に映ったようだ。
 とはいえ、課題も残っている。未だ確立した技術でなく、スペック通りの性能が出るか分からないのだ。
 能力者たちもそこには懸念を抱いていた。
「【行動消費】に見合う威力が必要ね。SESエンハンサの様な増幅型‥‥初期上昇率を10%とし、行動追加消費毎にさらに+5%。最大で3行動力まで、とか」
 ラウラがそう自説を述べると、ヘンリーは「%上昇かぁ‥‥」と唸った。
「10%〜15%。高級機だし、これ位の『瞬発力』は欲しか」
「ですね。でなければ、+100とかないと利は薄いです」
「いや、各々+150超は当然ですよ! 格闘・白兵兵装限定にして、更に高みを目指すべきです!」
 迷うヘンリーに有希が、ヴェロニクが、礼二が追い込みをかける。頷くテト。ストレガは皆の造詣の深さに驚き、感心しつつ、自らの糧とするべく脳裏にやり取りを記憶する。
 だが、ヘンリーはまだ踏ん切りが付けられなかった。やれます! と意気込む若い開発者を手で制し、能力者たちが挙げた条件を見直す。上げられた数値は‥‥継続型だろう。だが、開発の推移によっては単発型になる可能性もある。
「搭載には賛成なんですが‥‥ 手数も命中に関係しますからね。現状だとデータが少なすぎて、余りに未知数です」
 アクセルの言葉にヘンリーは頷いた。とりあえず、開発は継続させよう。ただし、搭載するかは出来上がったもの(性能)を見てから判断しなければならない──

 一方で、採用が否定された機材もある。まず真っ先に不可の判定を出されたのは、『ブースト前提型の空中変形』だった。
「空中変形があまり行われねーのは、ひとえに燃費が悪すぎるからだ。なのに‥‥」(テト)
「【固定消費の50】が痛すぎますね。これだと、現実的には併用の1択になりますので‥‥」(アクセル)
「確かに同時使用は多いですが、選択肢が減るのは×です」(礼二)
 能力者たちの見解はほぼ一致していた。だが、中年の開発者は動じた様子は見せなかった。エンジンの完成──即ち、オーバーブースト等の性能が決まらぬ内は、そういう結論に達するだろうと分かっていたからだ。
 彼の本命は、次の『機能変更型オーバーブースト』だった。確かに、エンジンが未完成の現段階では、他の特殊能力を圧迫する可能性も否定できない。だが、そこから広がる技術発展の可能性を彼は信じて疑わなかった。
 しかし‥‥
「まず、ブースト特性と相反している」(ラウラ)
「バランス取りとか難しそうですからね。204ベースなら追加しない方が無難でしょう」(アクセル)
 能力者たちはこの特殊能力が機体──特にエンジン周りに与える影響を懸念していた。期待より不安が上回ったのだろう。是が非でも搭載したい、と言うほど、優先度は高くないようだった。
 技術者は憤慨し、足音も高く食堂を出て行った。ヘンリーは頭を振った。205でなく204を選んだのは自分だ。負うべき全ての責は自分にある‥‥
「‥‥いっそ、オーバーブーストを廃止したらどうです? 全リミッター解除時の制御技術を確立できれば、ブースト系に頼る必要はなくなるんじゃあ‥‥」
 礼二の提案にヘンリーは天井を見上げた。『オーバーブースト』ではなく『オーバーリミット』を──その研究は今でもグランチェスター開発室で続けられているが、【システム的】な障壁を越えられるかは未知数だ。
「S−01HのVerUpに関わったツテで、ブレス・ノウやアグレッシヴ・ファングの発展型か統合型を載せられませんか?」
「ああ、須磨井君、それは魅力的な提案だよ。‥‥誘惑的と言っても良い」
 ヘンリーは天を仰いだ。一瞬、空中変形をするスピリットゴーストを想像してしまったが、慌ててそれを脳裏から追い出す。
「実際、201Cを設計した時に打診してみた事がある。だけど、その時にはもうどこかの開発室に押さえられた後だった。それに190系と違って、200系のシステムとは相性が悪いかもしれない‥‥」


 空中変形は持続型か単発型か── この議論はなかなか決着を見なかった。
「どちらも魅力がありますし、一長一短ですからね」
「浪漫は継続型、実用は単発型‥‥【行動消費の新型】と相性いいのは単発ですが‥‥一応、継続型で」
 悩むアクセルとヴェロニク。ヴェロニクはチラと友人のクリアを見た。「アレと決着をつけるときは人の姿で‥‥その想いは変わっていないんだよ」。そう言っていた事を思い出す。
 空中での自由度向上を望むなら、と有希は継続型を押した。ラウラは練力消費なしの回数制限型を押したが、技術的課題さえクリアできればそれもありかもしれない。
「単発型だ。格闘攻撃します、と言わんばかりに最初から変形するよりは、戦闘機形態で近づいて、いきなりぶった斬る方が不意もつけていい気がするんだ」
「やはり人型での飛行は浪漫! 精鋭機相手では変形の隙を突かれがちですから、継続型は敵前変形を避ける選択肢も可能なのが○です」
 テトと礼二が意見を戦わせていると、その背後でストレガがこっそり手を上げた。
「‥‥シェイドなど、高機動な敵を相手にする際に、高機動で敵を撹乱するような機体はできないものでしょうか?」
 ヘンリーは答えた。204の空中変形には【隣接したスクエアを含む任意の9スクエアに、任意の方向を向いて移動する】能力が付与される。
「でも、変形の隙も敵前変形もそうだけど‥‥機材をどう使うかは、結局、状況──敵手と乗り手に拠るからなぁ。自由度を保ちつつ、出来るだけ使い易いものを作りたいとは思っているよ」

 回避型か防御型か──
 意見は分かれたが、それぞれ特化機にする事には反対する意見が多かった。一応、優勢なのは『防御型』か。高いレベルでバランスが取れていれば、どちらでも良いという意見も見受けられた。
「盾を使用するなら、やっぱ防御能力は欲しい気がするぜ。ただ、あんま極端にはしねーで、回避し切れない攻撃は受けて凌ぐ、というようなコンセプトで」
「フェニックスの様に高バランスだと、選択肢が増えてありがたいですね。若干防御が高めで、オーバーブースト時に回避が上回る感じでしょうか」
 テトの言葉を受けて続けたアクセルが、食堂の隅に置いてあったホワイトボードを引っ張って来る。
「イメージ的には‥‥YF−204にYF−205の装甲形状の一部引継ぎか追加装甲化、といったところでしょうか。オーバーブースト展開時には多少なり装甲を展開し、エア・インテークへの空気流入、機体全体の空気整流性、ベクターノズルの収束性上昇を図る感じでしょうか?」
「あ、だったら、その装甲は積層構造にして、オーバーブーストと連動・展開させるのはどうだ? 普段は積層構造で剛性・防御能力重視。んで、オーバーブースト時には装甲を展開して、揚力重視・回避上昇の形に、ってな!」
 盛り上がるアクセルとテト。面白いアイデアだ、、とヘンリーは頷いた。『防御を下げて回避を上げるオーバーブースト』か。装甲を補助翼にして気流制御技術を併用出来れば、高い機動性を確保できるかもしれない。
 難点があるとすれば、被弾して装甲が損壊した際の手当てと‥‥機体構造の複雑化は避けられない、という点か。可能な限り単純化するとしても、時間がとにかく足りないのだ。
 一方、ラウラはただ一人、回避特化型を主張した。
「器用貧乏になるより、SES−200エンジンを活かし、機動性と白兵戦に特化すべきね」
 力強くそう唱えるラウラ。礼二はそれに頷きながらも、小首を傾げた。
「空中格闘が切り札な以上、回避一辺倒では限界がありますよ?」
「ええ、それは分かっているわ。でも、201でシェイドと戦った経験上、機動性を重視したい。重装甲でも被弾すれば墜ちるから」
 それを踏まえた上で、ラウラはヘンリーに向き直った。
「DLAから新型を引っ張ってこれない? あれなら回避型でも、機体への影響を最小限に防御を補えると思うけど」
 ヘンリーは首を捻った。発想はいい。あとは‥‥技術的課題と、時間の問題か。
「ロングボウに搭載する予定だった防御系特殊機材であれば、エミオンの発見をブレイクスルーとして開発に目処がついた、とは聞いている。ただ、それが204の搭載に間に合うかは分からない」
 最後に有希が、ヘンリーに言った。
「不死鳥系はドロームの高級汎用機。どんな形になるであれ、汎用性と特色の両立は必須です」


「奉天は宇宙機に着手済みですけど、ドロームはどうなんです? リフティングボディはNASAも往還機に考えてたもの。KVやヴァルキリー級の宇宙対応の実験機に205はどうですか?」
 終了後。能力者たちと3室、モリスだけになった食堂で、有希はモリスにそんな事を尋ねてみた。
 3室に宇宙用機体のノウハウはない、とモリスは答えた。宇宙開発の部署は別にある。案があるなら、『3室以外のルートで、直接、社の上層部とかULTに持ち込んだ方が早いかも』しれない。
 一方、クリアは、いつまでも進展のないヴェロニクとヘンリーにやきもきしていた。むー、と腕を組んで唸りつつ‥‥何かにピンと閃いて。チラと有希の方を見やってから‥‥わざと大きな声でこう尋ねる。
「メトロポリたんXが解放できたら、結婚しようかなー、って思ってるんだけど、『次の子』はウェディングドレスになれるかなあ?」
 爆弾発言である。ヘンリーとヴェロニクと、そして、それに劣らず驚愕した有希へ、クリアがパチリとウィンクする。
 ヴェロニクは後ろ手に隠していた水無月の祝福イベントのパンフレットをギュッと握り締めた。深呼吸数回分で覚悟を決めて‥‥ヘンリーに呼びかける。
「はい?」
「ああ、いえ、えと‥‥」
 覚悟は一瞬で飛んでった。咄嗟に、前から聞いてみたかった事を尋ねてみる。
「ルーシーさんのエンジンを活かす為の機体が、いつの間にか多くの人を巻き込んで夢の機体になっちゃいましたけど‥‥その本質は変わっていませんよね?」
「‥‥‥‥。そうですね。ええ、きっと‥‥」
 どこか遠くを眺めるように‥‥ヘンリーはそう答えた。大丈夫です、ルーシーたちは必ず間に合わせますよ。そう告げて去っていく。
「ヘンリーさんが未だ独身なのって、何か『特別な』理由でもあるんですか?」
「さて‥‥ね。正直、よくは分からんよ。傍からどう言おうと、結局は当事者たちの問題さ‥‥っと、君も当事者か」
 肩を竦めて去るモリス。ヴェロニクは複雑そうな表情で立ち尽くした。