タイトル:【NS】バッファロー攻略マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2011/03/11 21:04

●オープニング本文


「【North America Strikes Back】――北米の反撃。つまり東海岸奪還作戦、か。悪くない」
 2011年2月。オタワには、UPC北中央軍とUPC大西洋軍の幹部と呼ばれる面々が集結していた。手にした資料を机上に下ろし、ヴェレッタ・オリム中将(gz0162)が一言、呟きを洩らす。
「ギガワームは、もはや我々人類の脅威足り得る存在ではありません。南米において可能であった事が、北米で不可能である筈はないと考えます」
 北米には、3機のギガワームが確認されている。彼らが立案した作戦は、ニューヨークとワシントンのギガワームを討ち、東海岸の都市を奪還するためのものだ。資料には、それを可能にするために踏むべき幾つかの段階が、詳細に書き記されていた。
「悪くない。だが、ユニヴァースナイト弐番艦とヴァルトラウテの常時参戦は難しいな」
「はい。それらを五大湖や東海岸へ常に投入できるほど、この世界は安定していませんからな。しかし、両艦ともに元々は北米の護りを固めるためのもの。出来る限りの便宜は図るべきでしょう」
 オリムの言葉に、UPC特殊作戦軍准将ハインリッヒ・ブラット(gz0100)が意見を述べる。オリムは深く頷き、暫く黙考した。
 シェイド討伐戦以降、他地域への援軍派遣はあれど大規模な戦闘の無い北米のUPC軍には、兵力と資金の蓄えがある。五大湖の膠着した戦況を打破し東進を決める材料として、十分な程に。
「よかろう。この作戦を承認し、ニューヨークとワシントンの攻略を目指す」
 居並ぶ将官、佐官たちへ、顔を上げたオリムの鋭い視線と低い声が飛んだ。
「まずは第一段階だ。五大湖以南の各都市を押さえ、前線をこのオタワから引き離せ」


●【NS】バッファロー攻略戦

 2011年2月──
 North America Strikes Back──即ち、UPC北中央軍による北米大陸東海岸への侵攻作戦、『アメリカの逆襲』作戦が発動された。
 それは即ち、長らく主要都市の多くをバグアに占領されてきた北米における、初めての本格的な反攻を意味していた。バグアに蹂躙され、失われた国土を回復する為の──そう『自由への反撃』だ。北中央軍の将兵たちはこの日の為に、何年も血みどろの防衛戦を戦い抜いてきた。バグアを追い出し、再び祖国を取り戻す為に── 昂ぶる士気は荒ぶる奔流となって、バグアを大西洋に追い落とす事だろう。
 2月15日──
 作戦開始時刻と同時に、まず、それまで守勢に回っていた五大湖周辺の全部隊が、正面の敵に対して全面攻勢を開始した。
 徹底した空爆と砲撃。電撃的に侵攻するKV部隊── それまで何ヶ月にも亘って対峙してきた最前線のバグア軍は、作戦開始から半日もしない内にあっけなく崩れて潰走し始めた。それを追い討ち、掃討しつつも侵攻を続ける各部隊。緒戦の勝利などは反攻の端緒に過ぎない。作戦第1段階における目標は、五大湖周辺の敵拠点──第一次五大湖戦時には放棄せざるを得なかったインディアナポリスおよびコロンバス。人類側拠点デトロイトとエリー湖を挟んで正対するクリーヴランド。そして、エリー湖東端に位置し、エリー湖とオンタリオ湖間の地峡の『出口』に位置する要衝、バッファロー──を攻略する事である。


「ジャクソン! 貴様の隊は降下地点上空を確保しろ。油断するな。まだ市街から上がって来る奴がいるぞ。ゲイリー! A−1D隊に支援を要請。降下地点周辺の敵をロケットと対地ミサイルで一掃させるんだ。奴らのケツは貴様が守れ。ブラウン、ハガー、リトルジョンは俺に続け! 支援攻撃終了後に降下するぞ!」
 2011年2月22日──
 北中央軍第3師団によるバッファロー攻略は、既に終盤を迎えようとしていた。
 インディアナポリスやコロンバスに比べて、敵戦力が少なかった事も奏功したのだろう。前衛防御拠点を制圧しながら接近していた部隊は早い段階で市街上空の制空権を確保。敵司令部のあると思しき旧市庁舎周辺の敵部隊へ攻撃を開始した。
 第3師団のKV隊を率いるハンク・カーター少佐は、風防越しに対地ミサイルの爆炎が無数に華咲くのを確認しつつ、乗機F−201Cをアプローチ。急減速しながら人型へと変形、そのまま降下地点へと舞い降りた。
 そのまま素早く装輪走行で機を遮蔽しつつ周辺警戒。次々と舞い降りてくる味方が展開するのを見届け、先頭のハガーに『手信号』で前進を指示した。『頷き』、部下を引き連れて道路を装輪機動するハガーの201C隊。ハガー大尉はハンクがバイパーに乗っていた時にペアを組んでいた男で、最も信頼できる部下の一人だった。AU−KVもかくや、という大男で、普段は無口で子供好きな優しい男だが、戦闘では常に先頭に立ち、冷静かつ苛烈な戦い方をする。
 ウォーハンマーと機刀を手に疾走するハガー機を追って、ハンクも部下と共に前進を開始した。ブラウンとリトルジョンは心得たもので、それぞれ狙撃砲とKV用分隊支援火器で以って支援砲撃を開始する。爆発する敵陣内。反撃の砲火を避けながら、隊長を先頭に突貫したハガー隊が敵前衛の陸戦用ワームを文字通り蹴散らしていく。ハンクと部下たちはその戦場を掠め過ぎながら敵本営と思しき集団へと突入した。慌てて砲を構える人型ワーム、その砲口を盾で弾き上げて、ハンク機が至近距離から敵腹部へ突撃銃を連射する。
「師団司令部、こちらフェニックス1。旧市庁舎周辺部の敵を撃破した。これより残敵を掃討する」
「フェニックス1、こちら司令部。了解した。フォートエリーももうじき陥落する。そうしたらLM−04Fにピースブリッジを渡らせ、そちらの仕事を手伝わせる。ただ‥‥」
「ただ‥‥なんだ?」
「すまんが、掃討戦後にもうひと仕事ありそうだ。ナイアガラフォールズ周辺の敵が思ったより頑強で、排除に手間取っている。どうやら敵はバッファロー市街よりそちらに戦力を集中させていたようだ」
「滝に‥‥? なぜ?」
 ハンクは小さく眉をひそめた。あの辺りは空港こそあれ、戦略的な価値はバッファローに劣る。いわば添え物的な扱いで、バッファローが陥ちればナイアガラフォールズもまた陥落は免れ得ない。だというのに、バッファロー市街よりそちらに戦力を集中させるとは。
「こちらのKV戦力を敵が読み誤っていたか‥‥それともバカか」
 或いは、と思考を続けようとしたハンクは、通信相手の声に思考を遮られた。
「さぁね。俺たち人類にバグアどもの考える事など分からんよ。だが、まぁ、なんにせよ、すぐに片は付くさ。そちらもすぐに駆けつけるだろうし、それに、あっちにも傭兵戦力を投入するみたいだしな」
「傭兵か‥‥」
 ハンクは指先をトントンと叩いた。
「‥‥分かった。掃討戦終了次第、敵後方に回り込む」
 これは祖国の解放戦だ。傭兵にばかり頼ってもいられんだろうよ。ハンクはそう言って肩を竦めた。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
夜月・時雨(gb9515
20歳・♀・HG
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

 2011年2月22日午後──
 バッファローの陥落を受け、ナイアガラフォールズ近郊に展開していたバグアの部隊は滝を中心に戦線を縮小し、周囲の川と水路を『堀』にして防衛線を構築。残された戦力を結集した。
 川沿いに陸戦用HWの砲列を並べ、後方に曲射砲や対空砲装備のタートルワームを配置するというオーソドックスな構えだ。ただ、なぜか水中用ゴーレムが地上用ワームに交じって地上にいるのが奇妙ではある。
 対するUPC北中央軍第3師団の攻撃部隊は、東を除く三方からこれを半包囲する構えを取った。主攻先陣は敵陣西側に布陣した第2空挺機甲大隊。バッファローを攻略した第1空挺機甲と並び、新鋭KVを擁する師団の精鋭部隊である。助攻は南の第2混成機甲大隊。こちらはCOPやMBTを中心に構成された部隊で、状況を見て渡河、突入する事となる。
 なお、北側に配置された第1KV機甲大隊は、北東部に配置された敵部隊を牽制する為、攻撃には参加しない。もし、北東部の敵が戦場に移動しようとした場合、それを阻止するのが役割となる。

 攻撃開始予定時刻マイナスX──
 ナイアガラフォールズ攻撃に参加する傭兵の能力者たちは、西側に展開した主力部隊の後方に集結を終えていた。
 横一線にズラリと並んだ、色とりどりの傭兵機── パイロットたちは手にした双眼鏡で敵陣を見やりながら、その奥、見えない瀑布にその思いを馳せていた。
「しかし、なぜ奴らはこんな所を守っておるのやら。やはり、あの滝に何か秘密があるのかのぉ‥‥」
 四足で立つグリフォンのコクピット。シートの上に仁王立ちした『ち巫っ女』、綾嶺・桜(ga3143)が、双眼鏡を構えたまま呟いた。
 その声が無線に乗って各員のレシーバーに届けられる。桜機の隣、飾り気の無いシュテルン・Gのコクピットに立つセレスタ・レネンティア(gb1731)は、「‥‥嫌な予感がしますね」と眉をひそめた。今回の戦い、カナダ出身のセレスタにとっては、祖国からバグアを遠ざける一連の戦いの、その最初の一撃となるはずなのだが。
「滝の裏に何か‥‥そう、秘密基地みたいなものでも作っているのでしょうか‥‥」
 更に隣り。巨大な砲を抱えて大地にそびえるマリアンデールの巨体の上に、覚醒前の小柄な身体をちょんと立たせた夕凪 春花(ga3152)が小首を傾げた。「確かになぁ‥‥」と、更に隣り、ゴツく、力強く調整した漆黒のシラヌイS2型『剛覇』の操縦席で、龍深城・我斬(ga8283)が呟いた。
「いかにも何かありそうな滝ではあるかなぁ‥‥ 連中、なにかとああいった象徴的な場所好きだし‥‥ 滝が割れて中から大軍が湧いて出たりして?」
「地上戦艦じゃ。滝壺の裏に地上戦艦あたりが格納されていたりするのじゃ!」
 ペインブラッド『スカラムーシュ・ラムダ』に乗った美具・ザム・ツバイ(gc0857)がそう言って、コクピットから身を乗り出した。下にいる軍の整備・補給担当者に向かって、装備にGプラズマ弾を追加するよう要請する。もし、そんなものが姿を現そうものなら、それで随伴戦力ごと焼き払ってやるつもりだった。
 雷電の操縦席で皆の言葉を聞いていた煉条トヲイ(ga0236)は嘆息した。もし、ナイアガラがラスベガス・フーバーダムと同様に要塞化していたら、これは相当やっかいな事になる‥‥
 トヲイは人型形態の機体から下りると、すぐ隣りで待機している砲兵仕様のLM−04F『リッジウェイ(F型)』隊に近づいた。第3師団直轄の砲兵旅団の一隊で、攻撃に際しては突撃部隊に後続して砲撃支援を提供する事になっている。
「済まないが‥‥攻撃開始直後にゴート島(ナイアガラの滝を構成する3つの滝の内、カナダ滝とアメリカ滝の間にある島)へ砲撃を行う事はできるか?」
 機上にいた砲兵士官にトヲイは声をかけた。ゴート島にいる敵を叩けば、そこへ北東部にいる敵が戦力を移動させて来るかもしれない。それにより北東部の敵が弱体化すれば、北側の部隊が動き易くなる。
「砲弾は届くが‥‥SESの有効射程外だな。碌な効果は望めんぞ? なんなら、空爆支援でも要請したらどうだ?」
「あ! それ、是非にお願いするんだよ〜!」
 それは、攻撃開始を前に、正規軍のRF−104バイパー(偵察型)と共に航空偵察をしている響 愛華(ga4681)の声だった。
「ここからだとはっきり見えないけど‥‥ゴート島に『亀』がたくさんいるのが見えるんだよ。多分、曲射砲と対空砲。あれがいると周囲を自由に飛べないから、早めに排除しておきたいんだよ」
 と、そこへ師団司令部から攻撃開始準備を告げる通信が入ってきた。慌しく動き出す傭兵と砲兵たち。降着姿勢をとった阿修羅『蒼翼号』を起き上がらせながら、井出 一真(ga6977)はのんびりとした口調で呟いた。
「でも、まぁ、獅子座子飼の連中よりは組し易いでしょう」
 その言葉に、無線を聞いていたパイロットたちのあちこちから笑いが起きる。だが、こちらが優勢とはいえ、厳しい戦いになる事は──言い出した一真を含めて──誰もが分かっていた。
「わぅっ! ここが歴史の転換点だよ! なにがなんでも、この縄張りは返してもらうんだよ!」
 愛華の言葉に、パイロットたちは頷いた。


「師団司令部、こちら制空隊、セレスタ。これより戦闘空域へ侵入、交戦開始します」
 2011年2月22日 攻撃開始時刻──
 制空隊は作戦開始と同時に敵陣上空へと侵入した。
 その役割は勿論、戦場上空の制空権を確保する事だった。敵航空戦力による対地攻撃を防ぎ、こちらのCAS(近接航空支援)機の行動の自由を確保する── 戦場外縁部にはのもじの友人、リアリア・ハーストンの骸龍と比企岩十郎の岩龍が警戒の為に周回しており、とりあえず、背後──他戦域からの増援は気にしないで済む。
 閃光と爆発と爆炎と。爆煙たなびく戦場上空を通過しながら、シュテルン・G『日輪装甲ゴッド・ノモディ』を駆る阿野次 のもじ(ga5480)は、眼下の光景に口笛を吹き鳴らした。
「さすが、アメリカさんはやることがハゲシイね‥‥っと、おいでなすった、みんな、お客さんよ!」
 コクピットに鳴り響く警告音。地上から上昇してくる小型HWを確認して、能力者たちは編隊ごとに散開して攻撃態勢を取り始めた。
「見よ、天空を埋め尽くすがごときミサイル無双を。貴様らにこれがよけられるかー、なのじゃよ」
 眼帯の奥の瞳に蒼炎のオーラを燃え盛らせながら、美具が諸元入力を終えたK−02ミサイルの引き金を引いた。美具機、そして、のもじ機の各所から一斉に放たれるマイクロミサイル。白煙の軌跡で空を埋め尽くさんばかりに飛翔したミサイル群は、回避運動に入った敵を追って跳ねる様に軌道を変え‥‥互いに軌跡を交差させながら追い縋り、喰らい付き、次々と敵機に着弾してはその外装を吹き飛ばした。
 あるものは立て続けに命中弾を喰らい、空に爆炎の華を咲かせ、また、あるものは炎につつまれ、独楽の様に激しく回りながら墜落し‥‥ のもじ機と美具機、たった2機が放ったミサイル群は、ただの一斉射で敵前衛のHW一個小隊を吹き散らしていた。
「空の護りは任されたの。ファリスも頑張るの。地上のみんなには手出しさせないの!」
 サイファー『ジークルーネ』を駆るファリス(gb9339)は機の操縦桿を傾け、残敵へ向け上空から急降下を開始した。自ら先頭に立ち、激しいGに耐えながら矢の様に襲い掛かる。
 それを見た正規軍機がフォローする様に後に続いた。
「あんなちっちゃい子が意気見せてんだ。遅れるなよ、ヤンキー共(この場合、元アメリカ東部部隊出身の北中央軍兵士を指す)!」
「Yeah!」
 機首を上に向け、迎撃のフェザー砲を撃ち放つHW。だが、その反応は遅すぎた。十分に加速をつけて降下してきたファリス機が、AAMをリリースしつつ狙撃砲を撃ち放つ。装甲を貫通され、HWが機位を傾げた所に直撃する誘導弾。爆風がHW下部へと突き抜け、その中身をぶち撒ける。その横をあっという間に駆け下りていくファリスのサイファー。横にいたワームの僚機がそれを追い撃ちながら旋回し‥‥直後、正規軍機のAAMに打ち砕かれて爆散する。
 一撃離脱を終えたファリスは機を上昇へと転じながら、やや照れつつも背後の正規軍機に翼を振ってみせた。応えて、通信回線を歓声が満たす。
 一方、その頃、セレスタと正規軍機の編隊もまた、反対側に展開していたHW編隊をあらかた片付けていた。格闘戦(ドッグファイト)に移行しようとして来たのもじと美具が、「なに、もう終わり?」と目を瞬かせる。
「元々、正規軍が制空権を確保していましたからね‥‥地上から上がって来る敵機も、もう数がないのでしょう」
 微苦笑を浮かべるセレスタ。そこへCAS機隊から通信が入った。
「これより戦闘空域へと侵入する。エスコートを頼む。最初の配達は傭兵さんちからのリクエストだ」
 そのままゴート島への爆撃コースに入るCAS隊のA−1D。拡散プロトン砲の対空砲火にも動じず、敵射程外から対地ミサイルをばら撒いて‥‥
 直後、滝下流側のナイアガラ川水中から、水空両用マンタ・ワームが一個編隊、物凄い勢いで飛び出して来た。
「っ! 迎撃機発見! 畜生、水の中から(ザザッ!)」
 槍の穂先の様に上昇してきたマンタが、退避行動に移っていたCAS隊、その最後衛の1機を撃ち落とす。セレスタは舌を打つと、動きの重い機体に鞭入れる様にブーストを焚き、旋回しつつ降下した。CAS編隊に纏わり付く1機に誘導弾を照準し‥‥慌てて離れたマンタを追って、20mmの火線でマンタの装甲を叩きつつ、接近して重ガトリング砲を叩き込む。砕かれた装甲の破片がババッ、と宙に舞い、穴だらけになってマンタが火を噴いた。
 CAS編隊の所まで戻ろうと上を見上げたセレスタは、直後、ホッとして息を吐いた。編隊に纏わり付くマンタの只中に、レーザーを撃ちまくりながら突入するのもじ機の姿が見えたからだ。
「いくぜ! ナイアガラの中心で『I can fry!』とCrying!」
 パパッ、と光が宙を走り‥‥小爆発を起こして機体の半ばから折れたマンタがバラバラになって墜ちていった。


 その少し前。再び、攻撃開始時刻 地上西側──

 上ってきた秒針が下りへと転じた瞬間、西側に配置されたLM−04Fの榴弾砲が一斉に火を噴いた。
 轟き、響き渡る砲声。前衛後方に横一列に並んだ主力部隊のKVたち──大きな盾と突撃砲とで武装したF−201Cのジェネレーターがミリタリーまで引き上げられる。回転数を上げるエンジン音。機体後方に揺らめく陽炎。彼等の頭越しに飛翔していった砲弾が、川向こうに布陣した敵陣に一斉に着弾、炸裂する。
 その攻撃部隊の第2列の中に、北中央軍の中でもまだ配備数の少ないリンクスを駆る夜月・時雨(gb9515)の姿があった。
「第1中隊、突撃準備!」
「第2中隊、各機。今一度各機器をチェックしろ。敵にやられるならともかく、自分のドジで死ぬ奴は許さんぞ」
 前方、第1列の機械の兵たちを見やりながら、交わされる通信に耳を傾ける。懐かしい、と時雨は感じた。兵器・兵種は変われども、戦場の兵士たちの魂は変わらない。
「戦いの勝利に神のご加護を──」「第1中隊、突撃ぃ!」
 時雨の祈りの言葉に、攻撃命令が重なった。ブーストを焚き、装輪走行で一気に走り出す第1列。川の淵まで突進した各機は、着弾が止んだ対岸目掛けて一気に跳躍していった。
 支援砲撃に耐えた生き残りが迎撃のフェザー砲を撃ち放つ。運悪く機体に直撃を受けた1機が火を噴きながら川へと落下。だが、残りはそのまま対岸へと着地し、盾の壁の隙間から突撃砲を撃ち捲った。
「ちょ、ちょっと、どいて下さ〜い!」
 一泊遅れて、春花のマリアンデールが振ってきた。どいて下さい、と言いながらもちゃんと人のいない場所に着地する春花機。脚部のアブソーバーが衝撃に悲鳴を上げ、巨体がアスファルトを割り削りながら地を滑る。
 操縦席の中で覚醒を終え、大人びた春花が操縦桿を引き上げる。機を滑らす様にして停止させた春花は、そのまま砲撃態勢までもっていった。
「正面の敵に対して高出力荷電粒子砲を掃射モードで使用します。各機、射線上には入らぬよう注意して下さい」
 言いながらも脚部を踏み直して姿勢を下げるマリアンデール。粒子加速器が最大出力で運転を開始し、強制開放型装甲が展開、放熱フィンと放熱索が飛び出し周囲を陽炎に歪ませる。
「高出力荷電粒子砲、発射ッ!!」
 光の柱が放たれた。
 威力を増した荷電粒子が直撃をした機を貫き、また、砲撃で弱っていたHWに塵の様な穴を開けて爆散させる。
「さーて、真面目にお仕事しときますかね。一部で傭兵不審論とか出始めちゃってるし」
「突入します。その隙に各個撃破を!」
 すかさず前進をかける我斬のシラヌイS2と一真の阿修羅。まず、敵中へ飛び込んだのは一真の阿修羅だった。四足で走る有翼の獣は迎撃の火線を飛び越えると、そのまま陸戦用HWの1機に踊りかかった。
「SESフルドライブ。ソードウィング、アクティブ!」
 瞬間、光を反射してキラリと輝く青い剣翼。最初の得物をその刃にかけた一真機は、着地の姿勢を跳躍の予備動作にして這う様に地を跳ねると、次の獲物──横ではなく、さらに奥のHWへ斬りかかった。最初の機が爆発した時には、既に次の相手の前にいた。右へ、左へ──一真機がその翼を翻す度に斬られた陸戦HWの半身が宙を舞い、二つに分かれて爆発する。その『嵐』の中心から距離を取りつつ、集中砲火を浴びせようとするHWたち。一真機は、脚部を斬られて擱坐した中型陸戦HW『八本脚』の機体を盾にして火砲の半数をやり過ごすと、爆発を背に跳躍して残りの火線を回避した。
 それを追って旋回したHWたちに、正規軍機の砲火が浴びせられる。我斬もその混乱に乗じて肉薄すると、進路上にいたHWを2機、機拳で叩き潰しながら前に出た。
「C型フェニも普通に戦線になじんでるみたいだねえ。あの時のヒヨッコどもとか、もう一端の軍人になってたりするんかね?」
 機種転換訓練に関わった新兵たちを思い出しながら、我斬は装輪で機を走らせた。反撃の火砲を避けつつ突進し‥‥ 瞬間、敵中で躍動する一真機と『背中合わせ』になる。
 直後、反対側へと走る2機。一真により千々に乱された敵前衛を突破し、我斬は味方に砲撃を続けているタートルワームに吶喊したのだ。
 その眼前、曲射砲型を庇って立ち塞がった対空砲型が、拡散プロトン砲を平射する。AECを使用しつつ走る我斬機。機拳を後退させた右腕部に左腕部で引き抜いた機鎌を渡し──テラーウィングを『棚引かせ』ながら続けざまに2機の亀を斬って捨てる。
 そのまま機鎌の柄を地に突いた我斬機は、さらに地殻変化計測器を取り出してそれを地面に突き立てた。‥‥地中にアースクエイクの反応は全くなかった。これだけの戦力が集まっているというのに、不気味な程に。
「第2中隊、前へ!」
 川向こうに『橋頭堡』を確保した第1列が前進していった後のスペースに、今度は第2列のKVたちが川を飛び越え侵入した。
 西側の戦場は緑の多い住宅街。比較的視界が良く、電撃的に進攻する第1列の前進を阻むには不向きな地形だ。第2列は第1列に後続してその後方を確保すると共に、前進の支援を行う事になっている。
 時雨のリンクスはブーストで川を跳び越えると、先行して第1列後方まで躍進した。駆け足で最短距離を走りながら、防護カバーに保護されたLPM−1狙撃砲を引っ張り出す。瓦礫の山を跳躍し、背後の斜面を滑り降り‥‥そのまま膝射姿勢を取ってLPM−1ライフルを照準する。リンクス・スナイプを起動し、機のレティクルに自らの瞳に映る照準を重ね合わせ‥‥近接戦用のクローを引き出して正規軍機に襲いかかろうとしていた陸戦HW3機へ向け、立て続けに発砲した。1機目のクローが砕け、2機目の『腕部』が『肩口』からへし折れる。3機目には弾倉内に残った全ての砲弾が叩き込まれた。直撃の度に装甲がひしゃげ、貫通した小さな穴から炎を噴き出し、爆発する。
「御容赦致しません。仲間は私が護ります」
 チャキッ、と銃を上げ、再装填を行う時雨機。正規軍機に砲火を集中されて、残敵は全て爆散した。


 同刻。滝から見て西南部、その西側──
 順調に前進を続ける西側中央の主力部隊。その南側でも、西南部に対する攻撃が開始されていた。
 呆れる程の量の砲弾が前方に投射され、眉をひそめる程の爆発が敵陣内で炸裂する。西南部は木々の多い地形だったが、その砲撃は川岸の地形をまるごと変えかねない勢いだった。
「ここまでの物量作戦も久しぶりに見るのぉ‥‥」
「‥‥ここまで来ると圧巻だな。敵も味方も凄い物量だ。大味なのか、豪快なのか‥‥流石はアメリカ、と言った所か?」
 呆れた様に嘆息する桜とトヲイ。そこへ、『第3中隊は川を越え、前進を開始せよ』との命令が伝えられる。
 トヲイは隊列の前に雷電を前進させると、背後の白いガンスリンガー『ガスヴァ』を振り返った。同じ『小隊』に属する王 憐華(ga4039)が搭乗している機体だった。
「行けるか? 憐華?」
「はい。流石にこれだけの数の敵を前にすると気が滅入りますが‥‥トヲイさんがいるのは心強いです。頑張って早く終わらせましょう」
 AAS−10kv狙撃砲を防護カバーごと掲げた憐華機がそう言って手を掲げて見せる。トヲイは微笑を浮かべると、回線をオープンにして『憐華に』呼びかけた。
「接敵時は最低でも2機1組で対応する事。組み合わせは臨機応変に。乱戦時は隊列を崩すな。単機で突出すると集中攻撃を浴びるぞ」
 トヲイは憐華に呼びかける形をとって、命令権の無い正規軍に聞かせたのだ。歴戦の憐華も分かったもので、為になります、などとうそぶいてみせる。
 上陸は、まず、桜のグリフォンによる単機偵察から始められた。
 ステップ・エアで川面を走りながら、敢えて敵の射程に入り込む。反撃の砲火はか細かった。水面を滑る様に回避した桜機が、クルリと回りながら88mm光線砲で1機ずつ狙撃していく。
 敵の反撃が貧弱である事を認めた第3中隊は、トヲイ機を先頭にブーストで跳躍。桜機の支援の下、対岸へと降り立った。この西南部は樹木が多く視界が悪い。敵の数は少ないとも油断は出来ない。
「敵機捕捉‥‥ガスヴァ、撃ち抜いて‥‥」
 森の中に残っていた敵の『狙撃兵』が数機、隊列へ向け散発的にフェザー砲を撃ち放ってきた。ライフルの防護カバーをパージした憐華機が即座に反応し、確認した射点へ向け狙撃砲で狙い撃った。コクピット内に舞う銀色の羽根。森の闇の奥で砲弾が弾ける火花が散り、爆発が沸き起こる。
「見つけたのか? 指示を頼む」
「爆発した機の左にもう1機。50m右にも2機います」
 盾を構えて突進するトヲイの雷電。それを見た憐華は狙撃砲を背中に流してレーザー砲を引き出した。トヲイ機に後続しながら、見つけた敵がいる場所へレーザーを叩き込む。
 トヲイはそれを確認すると、近い方の1機を憐華に任せて、遠い方の2機に突進した。放たれる砲火。トヲイはそれを盾と装甲に委ねると、スラスターライフルの一連射を森の奥へと叩き込んだ。砕け飛び散る枝葉の舞。直撃を喰らった1機が吹き飛び、急いで距離を取ろうとするもう1機には至近距離からリニア砲を叩き込み‥‥機の半ばを潰されたそれは炎を漏れ出させる様にしながら砕け散った。


 ゴート島の敵砲兵は、度重なる空爆支援によってその戦力を著しく減耗させた。
 曲射砲・対空砲共にその火力を大きく減じ‥‥南部の第2混成機甲大隊は、それを以って正面に対する攻勢を決断した。
「上空のパピルサグ。これより攻撃を開始する。仕事が終わったら支援に来てくれ」
「了解。ここが正念場だよ!」
 連絡を受けた愛華は頷きながら‥‥対空砲火の消えたナイアガラ川上空に進入し、川面にソナーブイを投下すべく南から北上した。
 カナダ滝に流れるようにまず一つ。アメリカ滝に流れるようにもう一つ。瀑布の轟音でパッシブソナーは役に立たなかった。発信されるアクティブソナー。後に滝に落ちて破損する事になるこのソナーブイは、このナイアガラ川に注ぐ支流の一つ──戦場南部南端を走る川の底に、敵水中用ワームの姿を多数、見つけ出していた。
「いけないっ! 水の中に敵がいるよ!」
 警告は、しかし、間に合わなかった。南東部の橋を渡っていた戦車隊が、川面に顔を出した水中用HWの攻撃を受けて橋ごと落下する。
 水中用HW隊はそのまま西へと進行を続けた。その行く手には南部の橋。これ落とされたら、南の正規軍はKV以外の渡河が極めて困難になる。
「桜さん! 一真さん! 南の川の中に敵だよ!」
 一応、水中戦装備を施していた2機に向け、愛華は支援を要請した。爆雷を装備していたセレスタが真っ先に駆けつける。が、敵のデータがなければ爆雷は使い物にならない‥‥!
「敵影確認、こいつがこの機体の見せ場じゃな!」
 間に合った。水上をブーストとホバーで疾走して来た桜機が波を蹴立てて南部の橋の下を通過する。桜は水中の敵のデータを口頭で空の二人に伝えた。愛華とセレスタはモニタ越しに頷き合って‥‥低空飛行で川面に爆雷を投下した。
「位置、深度了解。ダイナマイト漁だよ!」
 一つ、二つ、と巨大な水柱が川面に立ち昇る。桜はその影響で真っ白になったセンサーモニターを注視して‥‥その中から飛び出して来た幾つかの光点と交差した。生き残りがいたのだ。
「クッ‥‥のぉ!」
 桜は機の四肢を振るとブーストを焚き、ヘアピンの様な軌跡を描いて進路を180度転換した。そのまま先頭の敵機へ追い付くと『着水攻撃』を開始。水鳥の様な姿勢で水中へと潜り込むと、多連装魚雷を敵の進路上にぶち撒けた。
 次々と爆発する小型魚雷。湧き上がる水柱の中、桜機が水の中から飛び出す。
「もういっちょ、じゃ!」
 再び着水攻撃を仕掛ける桜。反撃は強烈だった。一隊の攻撃が全て単機の桜に集中したからだ。
「桜さん!」
 愛華のパピルサグが腹を水面に滑らせる様にして着水した。焦っていたのか、少し進入速度が速い。愛華は構わず潜水を開始し、桜を、橋を護る様に水中に『立ちはだかった』。
「行くよ、『紅良狗』。潜水艇モード起動、素潜り漁だよ‥‥!」
 潜行しつつ、魚雷を一斉に撃ち放つ愛華機。直撃を受けたHWが爆発し、水中に衝撃波を走らせる。残る敵機の数は5。2機で戦うには厳しい数だ。
「やれやれ。こいつでの水中戦は初めてなんだがなぁ」
 と、そこへ戦場を迂回して辿り着いた一真機が水中へ、それも敵の背後へと飛び込んだ。
「初めてだけど、だが!」
 一真は機の四肢を畳んで抵抗を減らすと、水中用キットの推進器にブーストを焚きつつ、小型魚雷をまとめてばら撒いた。再装填してさらに投射。2機が立て続けに爆沈する。
 敵は橋を目標に定めたのだろう。3機で纏まって愛華機を突破しようとした。だが、そこへ横合いから桜機がレーザークローで襲い掛かる。さらに1機が吹き飛び、爆圧に押された1機を愛華機が狙い打つ。
 最後のHWは一真機が魚雷の一斉射で撃沈した。3機は暫く水中で警戒を続けたものの‥‥滝上流にそれ以上の増援は現れなかった。


「ちまちま狙撃して、川ではタコ殴りにされて、いい加減ストレス溜まっておったのじゃ。わしのハンマーで吹き飛ばされたいものから掛かって来るがよいわ!」
 川から南部へ上陸した桜機を初めとする3機の水中対応機は、正規軍と共に中央への進行を開始した。潜行時、防水カバーを外してしまっていた武装は全て投棄した。残されたのは、桜のハンマー、愛華のシザース、一真の対空砲だけだ。

 2011年2月22日、夕刻──
 西、および西南から滝目指して進軍していた攻撃部隊は、その中央付近で合流を果たした。
 北では北東部のバグア軍に対する攻撃が開始されていた。バッファロー市内の残敵掃討と補給を済ませた第1空挺機甲大隊が、東側から北東部の敵を攻撃。それに北の第1KV機甲大隊が呼応し、挟撃を成立させたのだ。
 事ここに至って、ナイアガラフォールズの陥落はほぼ既定事項となったと言って良い。
 だが、バグア軍は戦線をさらに縮小し、滝の周囲で徹底抗戦する構えを見せていた。

 対地支援を行う為、進入路にアプローチしたセレスタ機と美具機後方に、2機のマンタが喰らいついてきた。
 編隊を崩さず進入を続けるセレスタと美具。怪光線を発して迫るマンタの背後に、だが、のもじ機とファリス機があっと言う間に回り込んだ。
 のもじ機のレーザーが煌き、光線に縫われた敵が火を噴いて落ちていく。ライフルの連打を浴びせながら螺旋弾頭弾を放すファリス機。逃げた所を追いつかれ、装甲をドリルに食い破られた敵が爆発して砕け散る。
 アプローチを維持したまま敵を照準に捉えたセレスタは、そのまま上空をフライパスしながら、重ガトリング砲を地上の敵目掛けて撃ち放った。浮かび上がる迎撃機3機。それを美具が増幅装置付きのフォトニック・クラスターを纏めて浴びせかける。
「予想通りじゃ。落ち着いてやれば敵ではないのじゃ」
 表に出して見せずとも、実は初のKV依頼という事で緊張していた美具が呟く。だが、直後、足の遅い対地攻撃中の2機を拡散プロトン砲が狙い撃った。2機はブーストを焚いて高度を上げて、その火線から逃れ出る。
「砲撃支援を要請。亀がいます。座標──」
 間髪入れず叩き込まれる支援の榴弾砲。爆発の閃光と爆煙の中、生き残りの曲射砲型が砲を旋回させる。
「移動! 移動! 対砲迫射撃が来るぞ!」
 すぐさま陣地転換を図る砲兵型と給弾車型のLM−04。敵の砲弾が舞い落ちる中、我斬機とトヲイ機がそれを突破。非物理兵装で亀に斬りかかる。
「む‥‥っ!?」
 と、その光刃の威力が急激に弱まった。直後に襲い掛かってくる激しい頭痛。CW(キューブワーム)の妨害波だ。敵は廃屋の中にCWを仕込んでいたらしい。この位置、タイミング。あまり数のない虎の子か。
 我斬はアクチュエーターを使用すると、銃を撃ち放ちながらCWに近づいていった。同じく、正規軍機もCWの排除にかかる。
 だが、そこへ敵の最後の一擲──強化型ゴーレムの精鋭部隊による反撃が行われた。
 CW掃討の一瞬の隙をついて前衛を突破する敵精鋭。恐らくそのまま後方の補給車や砲兵、或いは師団司令部でも叩くつもりであったのだろう。だが、前衛後方には支援射撃のKVが控えている。
「ゴーレムが来ます! くっ‥‥思い切りが良い。強敵ですよ!」
 真っ先に敵の接近に気づいた憐華は、直後、突進をかけてきたゴーレムの斬撃に狙撃砲を叩き割られた。直後に舞い散る銀翼の羽根。エネルギーの残滓を残して後ろに跳躍しながら、憐華機がデヴァステイターとレーザーを撃ち捲りつつ距離を取る。
 時雨は右腕部に狙撃砲を抱えたまま左腕にプラズマリボルバーを抜き放ちつつ、周囲に煙幕を焚きながら後退した。風に流れつつ立ち込める色とりどりの煙幕の帳。時雨は狙撃砲装備のF−104バイパーに下がる様に声を上げ‥‥
 直後、煙の中から湧き出すように現れるゴーレム。と、その横合いから春花のマリアンデールがその巨体ごと突っ込んだ。
「まさか、ホントに使う事になるなんて!」
 肘部に装備したエナジーウィングでもって敵の装甲を切り付ける春花機。反撃の斬撃が装甲を歪ませ、体勢を大きく崩される。と、そこへ集中される憐華と時雨の近距離からの支援攻撃。辟易した様に盾を構えたゴーレムが腰を落として突進体勢に‥‥
「させるかよっ!」
 煙幕の中から飛び出して来たのは、我斬機だった。クルリと側面へと回り込んだそれは、その勢いもそのままに大きな拳を振り抜き、ゴーレムの横っ腹を突き破る。グラリと揺らいだ所へ突きつけられる春花機の砲口。放たれた荷電粒子がゴーレムを撃ち貫く。
 さらに、煙の中から飛び出して来たのは、機槍ロンゴミニアト貫かれたゴーレムと、その槍を保持するトヲイ機だった。慌てて避ける我斬機の横を通り過ぎるトヲイ機と敵。そのままビルの一つにぶち当たって2機ごと倒れ込む。
「憐華!」
「はいっ!」
 レーザーダガーを引き抜いたゴーレムの手を撃ち弾くガンスリンガー。トヲイは槍に機重をかける様にしてその穂先を装甲内部へ押し込むと‥‥液体炸薬をその内部に炸裂させた。
「神よ‥‥今日もあなたのご加護に感謝します」
 大きく息を吐きながら、時雨が疲れた様に呟いた。


 ナイアガラフォールズのバグアの反撃もそこまでだった。
 CWの掃討を終えた後、滝周辺の敵は(その戦力差にふさわしく)あっけなく壊滅した。生き残った水中用ゴーレムは背後の川に飛び込んで二度と浮かんでくる事はなかった。後退も出来なくなった地上戦力は文字通り最後の1兵まで戦い、滅んでいった。
 能力者たちはさらに北東部へと転戦し、残存戦力を文字通り包囲殲滅した。
 特にドラマチックな事も起こらず、ナイアガラフォールズは北中央軍第3師団の手に陥ちた。

「‥‥ビ○ザム砲の匂いがする」
「え?」
 翌23日。シュテルンの垂直離着陸能力を使って滝つぼの間際を降下するのもじの言葉に、美具は思わず振り返った。
 なんでもない、と呟きつつ、機を移動させるのもじ。‥‥あっという間に水滴に濡れる風防に辟易しながら距離を取り、横穴その他が存在しない事を確認する。
「となると、あとは滝壺の中‥‥」
 水中用キットがあればどぼんといけただろうか。ともあれ、そちらは自機では調べられない。
 と、滝壺に潜っていた愛華機がざんぶと川面に浮上した。水流に程よくシェイクされてフラフラになった愛華がハッチを空けて顔を出す。
「あったんだよ‥‥滝壺の裏に、怪しげな洞窟が!」
 その言葉に、第3師団司令部の面々は戸惑った様に顔を見合わせた。