タイトル:【極北】反撃の矢を番えマスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/28 23:45

●オープニング本文


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 旧北極基地は、昨年冬の【BV】作戦の際に、参番艦の突撃によって破壊された。しかし、UPC潜水艦隊も、その際に戦力の多くを失い、北極海の掃討を行う事が出来ぬまま、1年。司令部を失いつつも、稼動し続けた生産設備のために、北極の海は再びバグアの勢力が増しつつある。幸か不幸か、自動施設であろう工場の位置は敵の密度から容易に推測が可能であり、極地の海、あるいは氷に閉ざされた島の設備への攻撃命令が下された。
 一方、時を同じくして、防御戦力の必要に迫られたチューレ・バグア軍も戦力の糾合の動きを見せている。事態は、競争の体を示し始めていた。
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●【極北】反撃の矢を番え

 南米での支援行動を終えて交代し、サンフランシスコにて補給と整備、休息とを終えて。空母『エンタープライズIII』(CVS−101)と水中用KV母艦(改強襲揚陸艦)『ホーネット』(KVD−1)は、新たな任務部隊としての編成を終え、一路、ベーリング海峡目指して母港を出向した。
 作戦区域は、北極海。昨年のバグア北極基地攻略の際、討ち漏らした生産設備の破壊がその任務となる。北西航路を東進しつつ、域内の目標をKVで攻撃していく事になるだろう。
「‥‥この時期に北極海で作戦行動だなんて。オタワの連中、どうかしているとしか思えません。一体、何を考えているのでしょう」
 肺の中まで凍りつきそうな冷たい空気に白い吐息を雲と吐き。艦橋のウイングから発艦作業中の飛行甲板を見下ろす艦長の横で、副長はそう不平を口にした。
 北西航路の東進──それが部隊に与えられた命令だった。北中央軍によるグリーンランド支援の一環なのかもしれないが、今は冬だ。万が一、航路が氷に閉ざされる様な事になったら、破氷艦で針路を開拓しながらの作戦行動を強いられる事になる。‥‥最悪の場合、氷の中で立ち往生、なんて目も当てられない事態にもなりかねない。そんな中に、艦隊を一つ突っ込むとは‥‥
 さらに言葉を続けようとした副長は、だが、こちらを見つめる艦長の視線に気づいて口を閉ざした。
「──失言でした。忘れていただけると幸いです」
 それでいい、と艦長は視線を戻した。
「‥‥そんな事にならぬよう、針路は慎重に定められている。だからこそ、距離を十分に置いた上で、KVによる攻撃をこうして繰り返しているのだ」
 そう断言する艦長にも、実の所、そう断定するだけの根拠はなかった。だが、自らの職務と権限の外の事は、仲間を信じて任せるしかないのだ。でなければ、軍隊──いや、組織というものは成り立たない。‥‥例え、現実がどうであれ。
 勿論、それを思考停止の理由にして良いわけではないが、作戦が始まったこの段に至って、現場を預かる士官が不平を言った所で益になる事は何も無いのだ。
「とはいえ──」
「とはいえ?」
「いや──」
 副長の問いかけに、艦長は言葉を濁した。
 今回の艦隊の移動にはまた何か別の『裏』がありそうな気はする。まだ我々には明らかにできないような別命を、艦隊司令はオタワから受けている──そんな気がするのだ。
「艦長!」
 艦橋の中から呼ばれて、艦長は軍帽を被り直しながら足早にウイングから中へと戻った。CDC(戦闘指揮所)から、警戒線外縁の内側の海中に小型BF(ビッグフィッシュ)を発見したとの報告が上がっていた。
「水中用母艦か? 距離が遠い。生産施設の防衛部隊じゃないな」
「では‥‥」
「恐らくは、北極基地攻略戦時の残党だろう‥‥ あとは、こっちに気づいているかどうか、だが‥‥」
「敵艦増速! まっすぐにこちらを目指しています!」
 艦長の呟きに、CDCの警告が重なった。艦隊司令から全艦隊に対潜戦闘準備が発せられる。
 だが、発艦作業の中止命令は発せられなかった。目標に対する攻撃の中断を嫌ったのか、或いは、艦隊に近づく前に排除できると考えたのか、攻撃隊全機の発艦までは時間が稼げると踏んだのか。
 ともかく、艦隊司令部はKVの発艦作業優先を決定した。こうなれば、一空母の艦長たる自分には──比喩的な表現ではあるが──できる事は殆ど無い。
「敵水中用ワーム、2、4‥‥敵艦より発進を確認!」
「水中待機部隊が迎撃に向かいます。更にホーネットより『迎撃機』発艦中‥‥」
 CDCがもたらす戦況を耳に入れながら‥‥艦長はゆっくりと艦長席まで歩いていった。窓越しに、発艦作業を続けるホーネットを見やり‥‥続々と海中へリリースされる傭兵たちの水中用KVを無言で見送る。
「ご丁寧にこんな所で網を張って待つなど‥‥気をつけろ。敵には指揮官がいるはずだ。恐らくは有人機も‥‥」
 一空母の艦長たる自分にやれる事はない。故に、水中の脅威に対しては、彼らを信じて待つしかないのだ。

●参加者一覧

綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
リアリア・ハーストン(ga4837
21歳・♀・ER
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
白蓮(gb8102
18歳・♀・PN
タイサ=ルイエー(gc5074
15歳・♀・FC

●リプレイ本文

 敵水中用ワーム部隊は、前方に展開した正規軍前衛部隊を突破した。
 その戦いの様子は水上艦艇とのデータリンクによって能力者たちにも把握できた。センサーモニターに映る大きな輝点──小型BF(ビッグフィッシュ)を中心に密集隊形を組んだ敵は、速度を緩めず、損害に構わず、半方位体勢を取った前衛部隊のただ一点に火力を集中して突破したのだ。
 すぐさま追撃に移った水中KV隊は、しかし、殿軍に残された敵水中用HWの火線によって阻まれた。時間稼ぎの捨て駒である事は明白だったが、恐らく、前衛部隊は間に合わない。
 つまり、艦隊を守れるのはもう自分たちしかいないのだ。
「敵影確認! 深度120。BF1、人型2、HW4! 最大速度でまっすぐこちらへ接近中!」
 隊列再後衛に位置するパピルサグの操縦席で、響 愛華(ga4681)はもたらされた索敵情報を見て皆に警告の叫びを上げた。
「くっ‥‥予想より敵の動きが早か‥‥全機、隊列転換、急いで下さい!」
 守原有希(ga8582)が驚きつつも、慌てず、冷静に指示を出す。タイサ=ルイエー(gc5074)は舌を打った。接敵が早い。それは即ち、当初の予定より随分手前──艦隊から十分に距離を取れずに迎撃を行わなければならない事を意味していた。
「‥‥こんな所でせっついてくるなんて、ムードの無い相手ね」
 リアリア・ハーストン(ga4837)は嘆息した。お姫様(エンタープライズIII)はお嬢様方と舞踏会の真っ最中なのだ。予定外の来客は攻撃隊発艦のスケジュールに障るし、損害でも出ようものなら攻撃自体に影響が出かねない‥‥
 能力者たちの水中用KV隊は、相互に支援できる距離を保ちつつ、3段に防衛線を構築した。火力の集中より敵に突破されない事を最優先にした隊形だ。
 第1線に、綾嶺・桜(ga3143)および龍深城・我斬(ga8283)のビーストソウル。第2線には白蓮(gb8102)のリヴァイアサンを中心に、有希、そして、リアリアのアルバトロスを左右に配置。最後の第3線には、愛華のパピルサグを陣形の底に、依神 隼瀬(gb2747)のリヴァイアサンとタイサのアルバトロスが支援攻撃の態勢を整えている。
 一方、敵水中ワーム隊は2機の人型を前面に押し出し、それを支援する形で4機のHWが続いていた。中央最後衛はBF。ただし、前衛との距離はかなり近い。
「母船ごと突っ込んでくるのか!?」
 驚きの声を上げる我斬。もし、あのBFが連中の母船であるとすれば、本来、ここまで前に出てくるのは大博打なはずなのだ。
「まさか、吶喊自爆とかじゃねえだろうな? 俺だったら、腹ん中に隠し玉仕込んで奇襲させるぞ」
「〜〜〜っ! ええい、どのみち1機たりとも通すつもりはないのじゃ! 行くぞ、我斬!」
 接敵前に速度を稼ぐべく前に出る桜と我斬。センサーモニターを見ていた愛華が、突如現れた『それ』に気づいて息を呑んだ。
「敵母船より新たな敵! このうにょった動きは‥‥EQ(アースクエイク)だよ!」
 ここに来て出現した無傷の新手。しかし、桜と我斬の二人はそれに応じる時間的余裕を持たなかった。距離400。彼我共に遠距離兵装の有効射程に入ったのだ。
「てーっ!」
 我斬機、そして、桜機に取り付けられた魚雷発射管から、大小無数の魚雷が次々と撃ち放たれる。応じてBFから放たれる魚雷群。それぞれの敵へ向かってまっすぐに、白い航跡を曳きながら水中を疾走する魚雷群がすれ違い‥‥それぞれの目標に喰らいつくべく最終誘導に従い針路を曲げる。
 とはいえ、元から命中が期待できる距離ではない。この時、既に回避運動に入っていた彼我の各機は、追い縋る敵弾を後置するように鋭く舵を切っていた。水中の各所で爆発の華が咲き、直後、水圧に押し潰される。
「よし、予定通りじゃ。まず厄介な奴らを引き受ける!」
 伝播した衝撃波が激しく機体を揺さぶる中、再び舵を前方に切り直しながら桜が言った。元々命中は期待していない。針路上に魚雷をばら撒き、回避運動を強いる事でこちらへ突進する速度を殺させたのだ。
 そして、モニタの向こうには、回避運動で味方から離れた人型2機。彼らをBFから切り離すべく、桜は機を吶喊させた。支援の魚雷を放ちながら、我斬がそれに後続する。
 敵も気づいた。プロトンランチャーを構えた人型が砲口を振り向け、そして、盾を装備したもう1機が行き足を止めようと前に出る。
「片腕‥‥? あのゴーレム、片腕がねえぞ。防御専門か?」
「何やら前に会った気もするが‥‥ あ奴はわしが抑える。おぬしはその間に砲持ちを‥‥」
「いや、集中攻撃して先に潰しちまおう。組み付きや体当たりに注意して射撃戦に持ち込めば、実質的に2対1だ。プロトン砲の射線に注意しとけば、いける」
 プロトン砲を回避しながら、そのまま弧を描く様に突っ込む桜機と我斬機。我斬機の援護の下、ダイバーフレームを装備した桜機が人型へと変形、盾持ちに対して近接攻撃を敢行する。
 武装が無いはずの盾持ちは、だが、後ろに下がらなかった。懐に飛び込んできた桜機のレーザークローを盾表面で受け、溶けるに任せ‥‥そのままクルリと後ろへ反り返る。
「なん‥‥っ!?」
 反応できたのは、同じ足爪使いとしての勘だった。制動をかけた桜機の装甲表面を、敵機足先のレーザークローがサマーソルト気味に焼き切っていく。
 我斬は桜を支援しようと側面に回り込み、ガウスガンを連射しながら大型魚雷を立て続けにリリースし‥‥さらにその側方から砲持ちがプロトン砲を撃ち放つ。装甲を炙られながら、我斬は機を捻るようにしてそれをかわす‥‥

「前衛2機、敵ゴーレムの引き離しに成功。残敵はEQを先頭に突進を継続中」
 第3列。隼瀬は自機が発する探信音波が捉えた状況を確認し、味方にそう報告した。
「正面の敵のほかには敵影なし、か」
 タイサは敵の伏兵が存在しない事を確認して呟いた。敵は前衛部隊と一戦やらかした後であり、伏兵さえなければどうという事は無い。
「敵機を自機センサーに確認‥‥ふふっ、狩りの始まりですねっ」
 第2列。迫る敵影に微笑を浮かべながら、白蓮は兵装をホールディングミサイルにスイッチした。同様に遠距離兵装を発射可能状態に立ち上げたリアリアと有希が一斉に引き金を引く。
「距離200! 弾幕張るわよ。ReadySetGo!」
「3番兵装、全門発射! 初手でなるべく力ば削ぐ!」
 3機が斉射した誘導弾頭群は、第1波と同様、敵の勢いを削ぐ為のものだった。再び水中に咲く爆発の華。敵は各個に針路を捻りながら、それでも前進を継続する。特にEQの動きは素早かった。意外な機動性でくねくねと迫るEQ。それをフォローするようにHWが展開する。
「隼瀬さん、タイサさん! 第2線に支援攻撃! EQとHWを連携させちゃダメだよ!」
 第3線の3機は、EQ後方のHW群に向けて遠距離兵装による支援攻撃を開始した。乱れ飛ぶ雷跡。運悪く直撃を受けたHWが水中を弾き飛び‥‥それに気づいたタイサが粒子砲を展開、砲口を敵機へ向け発砲する。暗い水中の闇を払い、射手たるタイサ機を白く染めて撃ち出される粒子砲。大破していたHWはその一撃に耐えられなかった。粒子に機体を貫通され、直後、爆発を吐き出して沈降していく。
 その支援攻撃によって、最前列に位置するEQは瞬間的に孤立した。第2列の3機はそれに攻撃を集中しながら必中距離まで前進する。
 接近した有希はEQに向けて残った魚雷を全て偏差攻撃に撃ち放つと、回避運動に入ったEQの下部へ向けてガウスガンを撃ち放った。一弾が柔らかい腹部を撃ち貫き、水中に体液を噴き出させる。EQは上へと逃れながらその身を収縮させ‥‥直後、バネの様に一気に頭から有希機へ突っ込んだ。
「クッ‥‥!?」
 操縦桿を引き倒してフットペダルを蹴っ飛ばす。潜水艇には真似できないロール機動でかろうじてそれをかわす有希機。だが、その一撃は潜水形態の『腕部』を引っ掛け‥‥直後、巻き込まれたその腕部が物凄い勢いで口中の『歯』に削り取られていく。
「一撃っ、必殺っ‥‥!」
 その間に素早く敵へと突進した白蓮機は、人型へと変形しながら両腕部にツインジャイロを急速展開した。左腕部を失いながらも、敵の注意が逸れた一瞬の隙を突いて逃れる有希機。敵が頭をもたげる前に白蓮がブーストで機をEQの内懐に飛び込ませる。
「‥‥ドリルブーストッ!」
 その速度を乗せたまま、腰溜めにしたドリルを一気に突き出す白蓮機。システム・インヴィディアを乗せた一撃は力場を突き破り、EQの『紙装甲』をあっけなく貫いた。
「我に貫けぬもの無し‥‥なんてねっ!」
 だが、どてっぱらに大穴二つ開けられて、なおEQは健在だった。体液と内臓を水中にぶち撒けながらも身を縮ませるEQ。とぐろに機の下半身を巻き込まれた白蓮は、もたげた鎌首の一撃を盾で防ぎ‥‥やはり盾ごと腕部を噛み砕かれた。
「お腹に穴開けられてるのに、まだ元気なの? ‥‥若いって、いいわよね」
 うねうね動き続けるEQを見て気だるそうにため息をつくリアリア。うん、このうにょうにょ感、やっぱり相手するのにシンドイワネ。
「リ、リアリアさん‥‥?」
「ちょうどいいわ、白蓮さん。それ、そのまま上へ持ってっちゃって」
「上‥‥? ‥‥っ!?」
 リアリアの意図に気づいた白蓮は、残った錬力でブーストを焚いて一気にEQを持ち上げた。深度を上げたリアリアが白蓮のいない辺りをガウスガンで連射する。堪らず白蓮機を手放すEQ。リアリアは微笑を浮かべた。深度計は70mを指していた。
「穿ち切り裂け、スクリュードライバー!」
 そこへ、機と兵装のスクリューを全開にして、片腕でスクリュードライバーを騎兵槍の様に保持した有希機が物凄い勢いで突っ込んでくる。リアリアは残っていた『エキドナ』を放ってその突撃を支援した。炸裂する爆発と衝撃波。逃げ場を失い、身体を捻ってもがくEQに、有希機の穂先が突き刺さる。ソーセージの如く貫かれるEQ。そこへ体勢を立て直した白蓮機のドリルが再び敵の身を穿つ。有希機が突き立てたドライバーを横へ薙ぎ‥‥EQの身体は半ば以上が断ち切られた。
「はい、おつかれさま。‥‥それじゃあ、さようなら、ね」
 人型へと変形したリアリア機が、太刀『氷雨』で無造作に瀕死のEQの『首』を刎ねる。
 力を失ったEQはそれこそ糸の切れた凧の様に、力なく、海底へと沈んでいった。


 EQが沈められた頃には、随伴するHWもその全てが失われていた。
 動く弾薬庫の如く魚雷を放ち続けた愛華機を始め、隼瀬機、タイサ機の砲雷撃により、EQとの連携も叶わず沈み行くHW。
 そして、ゴーレム2機は桜・我斬と共に戦場の遥か後方に取り残されている。

 魚雷の爆発が大きく海中に花開いた。
 衝撃波が海中を走り、花は水圧によって瞬く間に押し潰される。その陰から飛び出す様に、光刃を振り被って肉薄する桜機。だが、その時には盾持ちは既に一歩後ろに引いていた。そこへ放たれるプロトン砲。かわした桜機の装甲を怪光線が焙り焼く。
 すかさず反撃の砲雷撃を我斬機が送り返したが、砲持ちは応じずに再び横へと後退した。横へ、横へ‥‥敵は先程から距離を置きつつの砲戦に徹していた。盾持ちも砲持ちを守って共に下がり続けるだけだ。
「なんのつもりじゃ、こいつら。やる気があるのか!?」
「まるでこちらがこいつらに『拘束』されてるみてえじゃ‥‥!」

 直掩を全て失ったBFは、全速での移動を開始した。
 そこへ前方から、そして四方から、浴びせられた攻撃がBFの巨体へ突き刺さる。やがて爆発が船体のあちこちに連鎖し、速度を緩めたBFが沈降し始めた。
 だが、次の瞬間、爆発的に弾け飛んだ底部前方のハッチから2機のメガロワーム──突進力に優れる鮫型ワームが飛び出した。鰭部にソードウィングを光らせたそれは、外部に増設されたブースターに点火。一気に最高速‥‥いや、それ以上にまで加速した。
 BFから離れ、それを追跡しようとした第2列の3機は、直後、後方で湧き上がった大爆発に吹き飛ばされ、その態勢を大きく崩した。恐らく、艦隊の真下で自爆するつもりであったのだろう。BFには爆発物が詰め込まれていた。
「グルルルル! させないんだよ! 水上の艦艇には、傷一つ!」
 ミサイルを撃ち尽くした愛華機が、タイサ機が、それぞれに主兵装を発砲する。前に出ていた隼瀬機は、鮫2機の内の前に出ている1に攻撃を集中した。
 直線的ながら細かく角度を変えて火線をかわす鮫。隼瀬は敢えて敵の針路前方から動かず、インヴィディアを使用して火力を集中し‥‥
「隼瀬!」
 通り過ぎる鮫型を追って旋回しながら攻撃を浴びせていた隼瀬は、タイサの呼びかけにハッとした。もう1機がいつの間にかすぐ横にまで突進して来ていた。即座に人型へと変形し盾を構える。その盾ごと弾き飛ばされながらも、隼瀬は槍斧をその鰭基部に引っ掛けた。
 瞬間的な加速に脳が揺れ、意識が飛びかける。引っ掛けられた鮫の方も急減速にバランスを崩し──
「外付けブースターを狙え! 片側だけを!」
 レシーバーに飛び込んできた我斬の声に、隼瀬はM−25の砲口をそこへ向け、引き金を引き絞った。
 片側のブースターを吹き飛ばされた敵は、瞬間、ネズミ花火の様に跳ね回った。出力調整、外装パージ。だが、そこへ槍斧を振り被った隼瀬機の一撃が振り下ろされる──
「抜かせるわけにはいかないんだよ‥‥!」
 もう一方の鮫型には、愛華機の巨体が立ち塞がっていた。ブーストを焚き、のそりと動き出す巨体。鮫型はそんな愛華機を鰭で切り付けつつやり過ごそうとして。突如、愛華機から生えたブラストシザースによってその針路を阻まれた。衝突の衝撃にひしゃげ、吹き飛ぶシザース。ラリアットを喰らったレスラーみたいに一回転した鮫型の尾鰭をもう一方のシザースがひん掴み‥‥
「タイサさん!」
「貰ったぁっ!」
 すぐ傍まで肉薄して来たタイサ機が至近距離から粒子砲を発砲。愛華機の腕部ごと鮫型のブースターを撃ち貫く。沸き起こる小爆発。弾け跳んだ鮫が再び体勢を整える前に。
 再装填したタイサ機の再攻撃が、鮫型の本体を撃ち貫いた。


 BFが爆発した時に発した巨大な水柱は、艦隊からも視認できた。
「やってくれたようだ。傭兵諸君が」
 エンタープライズIIIの艦橋で、それを見た艦長が副官に笑みを見せる。

 5日後。
 艦隊が担当する全ての攻撃目標を沈黙せしめた任務部隊は、バフィン湾を抜けて大西洋へ入った。
 その時点で初めて、艦隊の目的地が艦隊司令から全将兵に通達されたのだった。
「我々が向かう先はゴットホープに非ず。カナダ、ハリファックス港である! そこで補給を受けた後‥‥我々は、【NS】作戦に参加する!」
 North America strikes back──即ち、東海岸解放作戦の事である。
 一瞬、沈黙が艦隊を支配し‥‥直後、爆発的に歓声が沸き上がり、将兵の軍帽が空に舞った。