●リプレイ本文
「こんな街中にワーム!? 軍は一体何を‥‥っ!?」
園庭に敵のワームが出たと聞いて。得物を手に急いで園舎から飛び出した鋼 蒼志(
ga0165)は、目の前に飛び込んできたその光景に思わず足を止めて絶句した。
「‥‥お椀、ですか」
「‥‥お椀、ですね」
ポツリと呟く蒼志の横で、どよ〜んとした目で見上げるセリアフィーナ(
gc3083)。話に聞いてはいたけれど、これが噂のネタキメ‥‥もとい、ネタワーム。いや、本当にいるんだなぁ。
「‥‥しかし、いくらなんでも1ヶ月はネタを寝かせすぎでしょう。‥‥せめてお汁粉なら半月で済むのに(ボソッと)」
「この時期は鬼か恵方巻きだろうにねー。ひょっとして、製作が間に合わなかったとかいうオチかな?」
セリアフィーナの言葉に答えるMAKOTO(
ga4693)の表情には苦笑が浮かんでいた。圧倒的な戦力を持つ(はずの)ワームとの突発的な遭遇。だと言うのになぜだろう。まったく絶望感が湧いてこない。
「ぬおっ!? 今回は出てこないかと思ってたら、何じゃ、これはっ!? バグアの中は旧正月かっ!?」
遅れて飛び出して来た綾嶺・桜(
ga3143)と響 愛華(
ga4681)もやっぱり目を丸くした。「お椀です」「お雑煮です」と律儀に答える蒼志とセリアフィーナ。ぶらぶらしている美咲に気づいた愛華がハッと息を呑んだ。
「さっ、桜さん、あれ! なんてこと‥‥美咲さんが美味しそうなお餅に包まれてっ! 食べ放題だよ! なんて羨まし‥‥」
「腹ぺこかっ!」
愛華が言い終わる前に炸裂する桜のハリセン。セリアフィーナがなんか真面目な顔して振り返る。
「いえ、お餅パックがお肌に潤いを与えてもちもちのお肌にしてくれるだけでなく、サウナ効果で引き締めてくれそうな気がするので、もしそうだったらあながち羨ましいと言うのも的外れではないなぁ、などと思うのです(キリッ)」
「ということは、皆、桜さんみたいな餅肌にっ!?」
「誰がモチモチじゃっ!」
顔を上げた愛華に再び入るツッコミ一閃。その背後を、チェーンソー付きの特製ショットガンを構えた龍深城・我斬(
ga8283)が駆け抜けていった。
「クッ‥‥せっかく、全身タイツ姿でもお美しい香奈先生をゆっくり鑑賞していたというのに‥‥まったくもって、無粋なお椀だな、てめーは!」
「うん。軽くセクハラだからね」
叫びながら、高脚お椀型ワームへ向け突撃してゆく我斬の後を、葵 コハル(
ga3897)が軽くツッコミを入れながら後続する。
「分かるまい! 全身タイツでもぺったんこな者たちにはっ!」
血涙の雄叫びを上げながら、散弾銃を敵へと発砲する我斬。違いない、と漏らした蒼志は、既に覚醒しているか。
「うん。後でぶっとばす(はぁと)」
我斬をフォローする様に横へと広がりながら、にこやかな笑みを浮かべるコハル。
呼応する様に、槍を手にしたMAKOTOがワーム目掛けて走り出す。薙刀を振るってそれに続きながら、桜が愛華とセリアフィーナに呼びかけた。
「わしらが抑える。その間に、ぬしらはさっさと美咲の救助に向かうのじゃ!」
頷き、準備に戻る二人。愛華が踵を返して振り返った。
「もう少し待っててね、美咲さん。今助けるから!」
●
この時、まだ園内に残っていた御影 柳樹(
ga3326)は、園の関係者たちに避難を呼びかけながら、イベントに使ったブルーシートを掻き集めていた。
餅対策だ。一部のシートを杖に巻きつけ、残りを持ち易く巻いて抱える。餅が刀身に付かぬよう、煙管刀の鞘に水を溜め‥‥ 廊下の端に水の入ったバケツを見つけて、それを頭から被りおく。
「ああっ!? それはイベントに使おうと思って結局使わず置いといた過冷却水!?」
「いったい何に!? っていうか、なんでそれが今ここに!?」
能力者でなければ即死だった(大嘘)。氷まみれになった柳樹がセリアフィーナに反問しながら、用意したシートを一枚渡す。セリアフィーナは受け取ったそれを雪ん子風に──フード付きのケープになるよう折り畳む‥‥
一方、その頃、お椀に突撃していた能力者たちは、美咲救出までの間、ワームを『誘引』する為の攻撃を開始していた。
「今日、必要とされたのは、お前みたいな季節はずれの雑煮じゃなくて、この鬼だ!」
敵正面。仁王立ちに立ちはだかった蒼志が、今日のイベントで使った鬼の面を頭上に高々と掲げてみせる。お椀は、至近で無防備に佇む──ように見える──蒼志を最初の目標に定めた。前進の為に踏み出した足を止め、手にした蓋を無造作に突き出す敵。淵の刃自体が高速回転するその得物は、攻撃の為に振り被る必要がないのだ。
「むっ!?」
拳闘の様に最短距離で繰り出されたその攻撃を、蒼志はドリルスピアで受け弾いた。回転部分同士が打ち合い、激しい火花を宙に散らす。弾き飛ばされたのは質量に劣る蒼志の方だった。手の中で跳ね回る槍の柄を押さえ込みつつ、地を滑る両足に力を込めて踏み堪える。
その間に桜とコハルが突っ込んでいた。敵の真下、脚部の横まで一気に肉薄する。
「ふん! いくらでかくても脚さえ潰してしまえば‥‥!」
「お椀ならおとなしく止まってなさい! お行儀悪い!」
盾を構えて走ったコハルが、光の残像を軌跡に曳きながら刀身を振り被る。桜は地を滑り止りながら、小脇に抱えた薙刀を横一文字に一閃させた。SESエネルギーを付与された刀身が力場を切り裂き、敵脚部装甲表面を撫で斬りにする。
「っ!?」
妙な手応えに眉をひそめつつ、追撃を放つ桜とコハル。薙刀を小脇に戻した桜は、距離を取るべく敵の脚部を蹴り跳ぼうとして‥‥
だが、次の瞬間。桜の靴底はべちゃり、と装甲表面に張り付いていた。
「これは‥‥餅!?」
そう。敵の装甲表面には、まるで小さい子が雑煮を食べた時の様に『お餅』がぺったりと薄く張り付いていた。先程、攻撃の手応えが変だったのもこのせいだ。
と、頭上のお椀下部から、醤油ダシの飛沫がまるで散弾の様に撃ち下ろされた。足爪を薙刀の刃で切り剥がし、そのまま後方へと跳び退さる桜。直後、液体が雨の様に地を叩いて煙を上げる。
醤油ダシは灼熱だった。温度ではなく、化学的に。
「酸か!」
鼻につく刺激臭に正体を悟った蒼志は、激しく煙を上げるレインコートを脱ぎ捨てた。敵は真下の『防御火力』としてこれを用意していたらしい。
「なら‥‥っ!」
一旦、敵の直下から離れたMAKOTOは槍を地面に突き刺すと、背のギター型超機械を前へと引き出した。回避運動のステップを踏みながらその絃をかき鳴らす。放たれた衝撃波が敵の脚部を直撃。餅肌ごとひしゃげさせる。
すかさず再突入をかけるコハルと桜。全身を真っ赤なオーラに染めたコハルが雄叫びと共に渾身の力を込めた一撃を叩きつけ、敵の脚部をたわませる。そこへ突き出される桜の薙刀。瞬間的に突き入れられた二連撃がモチモチアーマーを打ち破る。
負荷に耐え切れず、ミシリ、と折れ曲がり始める敵脚部。ぐらり、とお椀の本体が傾いだ。
「今だよ!」
愛華の合図と共に、突入のタイミングを図っていた柳樹とセリアフィーナ、3人が一斉に敵へと走り出した。機械爪『ラサータ』を手に疾走する愛華。その後にブルーシートを抱えた二人が続く。
「セリアさん!」
「はいっ!」
敵の近くまで来た柳樹とセリアフィーナは、手にしたシートを一斉に地面へ投げ広げた。そのままセリアフィーナが捕らえられた美咲の下へと走る。そこへ振るわれる新たな餅触手。「二本目か!」と驚愕しながら、柳樹が手にした杖でその一撃を受け凌ぐ。
「くっ‥‥のぉ‥‥っ!」
そのまま、わた飴か水飴かを巻き取る様に、餅を杖に絡ませる柳樹。そのまま引っ張り上げようとする敵に対抗して腰を落とし、踏ん張って‥‥
「今さぁ!」
ピンと伸びた餅の下を桜が潜る。追って来た蓋の高速刃がそこへ振るわれ‥‥切り千切られた餅が宙へと跳ねた。柳樹がコロンと後ろへ転がる。
「わぅぅ! いっくよぉ〜〜〜!」
その隙に内懐へと飛び込んだ愛華が、地を蹴り、宙の美咲へ向け跳躍した。そこへ蓋を突き入れる敵。気づいたコハルが回避運動を止め、地を滑りつつ踏ん張り、鞘から刀身を一閃。『ソニックブーム』で蓋を弾く。愛華はそのまま美咲を吊り下げている餅へ向け、すれ違いざま機械爪を一閃させた。瞬間的に放たれたレーザーが餅を焼き切り、美咲(を包む餅)を敵から切り離す。
「〜〜〜っ!」
真下にいたセリアフィーナが衣装のマントを大きく広げ、落ちてくる美咲を抱き受け止めた。べっとりとした餅ごとマントで包みながら、敵の下部から移動する。すぐに『キュア』が使える我斬が走り寄って来た。
「とはいえ、イメージ的にキュアで治る感じじゃねえんだが‥‥まあ、一応な」
餅越しに触れた美咲の身体が淡く輝く。そのキュアが効いたのか、或いは本体から切り離されたが故か。べたべたしていた餅は急速に固まりつつあった。
「お、これなら力づくで剥がせるんじゃねぇか?」
「ちょ、ちょっとタンマ!」
我斬の言葉に慌てる美咲。餅の下は全身タイツ。無理に剥がせば色んな意味で大変な事になりそうだった。
「む。香奈先生ならともかく、美咲センセに恥ずかしがる理由なんて‥‥」
どげしっ。
足技でツッコミを喰らった我斬が戦場へと戻っていく。セリアフィーナは園舎の中まで美咲を担いでいくと、懐の煙管刀を取り出し、固まった餅を剥がしていった。
「とほほ‥‥ありがとね、セリアちゃん」
自らもバリバリと餅を剥がしつつ、半分涙目で嘆く美咲。セリアフィーナは作業を続けながら、真面目な顔してこう聞いた。
「ところで、美咲様。お餅パックの効果はいかがなものでしたでしょうか?」
●
敵お椀ワームは、破壊された脚部の先端を自らパージした。
爆発音と共に弾け跳ぶ先端部。ずしん、と短くなった脚で接地した高脚お椀は、まだ無事な脚部の先端部も一本ずつ切り離し、高さのバランスを『切り揃え』る。
「ダルマ落としか!」
「なら、あるだけ弾き出してやるだけだよ!」
再び気合を入れ直し、突入していく桜とコハル、そして、美咲。複数の方向から流線を描きつつ一つの脚へと接近。高速の連続突きからの赤い斬撃で以って再び脚部を破壊する。
直下で近接戦を仕掛ける3人の服は、既にあちこちに酸で穴が開いていた。そこへ伸び来る触手餅。跳び退ける桜を追ってたそれが、急に方向を変えてコハルを呑み込む。
「巻かれたっ!? ので頑張って食べます!」
身を巻く餅にかじりつき、ぐにょ〜んと伸ばすコハル。戦場の反対側から駆けつけた愛華が餅触手を切り離し‥‥直後、自らに巻いたそれをケープを捨てて脱出する。
「‥‥困ったんだよ。もう脱ぐものがないんだよ‥‥!(どどーん)」
全身タイツ姿になった愛華が真面目な顔してそう呟く。いや、いざとなったら意を決するだけなのだが。せ、背に腹は変えられない、って言うよね、桜さん‥‥?
「ああっ、ありがとうございます」
「気にするな。螺旋の鋼槍は──螺旋の鋼盾でもあるぅぅぅっ!?」
千切れたブルーシートを抱えて戦場を横断していたセリアフィーナに襲い掛かってきた餅を、蒼志は代わりに受け凌いだ。高速回転する槍の穂先で餅を払い、突き出された蓋を払って腕部へ逆撃を与え‥‥と、敵は槍を狙って餅を正面から放ってきた。その余りの質量に、穂先が呑まれて餅が絡まる。
そのまま槍ごと振り回される蒼志。脚の一本に『急所突き』で杖を突き入れていた柳樹がハッと振り返り、背中から叩きつけられる『蒼志ハンマー』をどうにか受け止める。そのまま餅塗れになって地面を転がる二人。慌てて駆け寄ってきたセリアフィーナが『乙女桜』で餅を切り分け‥‥立ち上がった柳樹は、離れようとする餅の頭に向かってブルーシートごとダイビング。そのまま押さえ込みにかかる‥‥
やがて、二度、三度、と脚部を破壊されたお椀は、折れた割り箸を脚にした様な格好にまで成り下がっていた。
蓋を持つ腕部も既に蒼志によって破壊され‥‥というか、既に蓋を振り回せるだけの高さも無い。短い脚でチョコチョコ歩くその姿は、機動力という言葉から最も遠い。
「ふっ。手も足もなければただのデカイ雑煮よ。トドメを差して、二次会は餅パーティーじゃあー!」
すっかり短くなった餅触手をうねうねさせるお椀へ向け、稲妻の様に突撃する我斬。と、突然、椀の中からざぶん、と砲塔が飛び出してきて、その砲口を我斬へ向ける。
背後には園舎。我斬は砲口に集まる光を見て舌を打ちつつ、突撃を継続し‥‥
フェザー砲が放たれる直前、横合いから突っ込んできたMAKOTOの槍先がその砲口を打ち払った。
空へと放たれる拡散フェザー砲。素早く槍を引き戻したMAKOTOは、『猛撃』で以ってそれを砲塔基部へ突き入れ、捻り、身体ごと押し込み梃子にする。敵側へと辿り着いた我斬は、散弾銃をクルリと回し、『貫通弾』入りの弾倉へと交換。
「往生せいやーっ!」
叫び、至近距離から、敵本体へ続けざまに撃ち放つ。
残った腕部基部を吹き飛ばされて反撃の手段を失って‥‥お椀はそのまま、小爆発を繰り返して沈黙した。
●
「なるほど‥‥お椀の中は上げ底なのね‥‥脚部の収納スペースの間がダシ汁入れかぁ‥‥」
戦闘終了後。
コハルは大破したお椀を覗き込みながら頷いた。
戦い終えた能力者たちは、軍や警察が到着するまで、園庭で餅パーティーと洒落込んでいた。まぁ、なんだ。「なんとなく餅が食べたくなった」(by桜)のだ。
材料は園に余っていた正月の餅の残り。ちなみに『餅』はやはり餅ではなかった。一生懸命確保した柳樹がしょんぼりしながら餅を残骸に返しに行く。
「みんな、お雑煮だよ〜! 豆餅もあるよ〜」(愛華)
「お、きなこやすりゴマは‥‥」(我斬)
「用意しておきました。こんな事もあろうかと」(セリアフィーナ)
わいわいとパクつく能力者たち。桜が愛華の餅山から一つ拝借しながら呟いた。
「まったく、ユタといいここといい、ワームと生身で戦うことが多いことじゃな」
その呟きに、我斬と蒼志が顔を見合わせる。
「チビ共が居ない時に襲ってきたのは気になるな」
「やはり狙いは美咲さんか香奈さん、か」
そこへ、ストーカー説を唱える柳樹とMAKOTOが加わった。
「美咲さんに魅せられて、いつぞや咲いた恋の花‥‥或いは、いつも傍にいる恋敵に?」
「美咲さんは心当たりがないって言うけど、昔の知り合いや関係者に当たってみるのもいいかもね」
結論は出ない。頭を抱えたコハルの頭からぷしゅ〜と煙が漏れる。
蒼志は改めて美咲と香奈に向き直った。
「2人の経歴を改めて確認したいところですね。‥‥お互い、知らない部分があるならば、特にその部分を」
頷く能力者たち。美咲と香奈は、困惑した様に互いに顔を見合わせた。