タイトル:3室 闇を照らす灯たれマスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/31 16:36

●オープニング本文


 ドローム社第3KV開発室に属するアルフレッド・ノーマンは、ここ数日、不機嫌の極みにあった。
 とはいえ、周りの人間にはその事が分からなかったかもしれない。元々、のんびりとした性格のアルは、この日も普段どおりのほんわかさんで‥‥ いつもと違う点と言えば、ちょっぴり眉根が寄っている事くらいだろうか。同僚たちは「お、何か今日はいつもより凛々しいな」とからかうばかりで、当の本人も困った様にはにかむ始末。気付いたのは同期の友人、リリアーヌ・スーリエだけだった。
「‥‥あまり落ち込んじゃダメだよ?」
 就業前の朝のデスク。それだけを告げて去るリリー。さり気ないその気の使いように、アルは救われたような気分でその背中を見送った。

 アルの不機嫌の原因は2つあった。
 一つは、入社以来、共に3室で汗を流してきた同期の友人、ハインリヒ・ベルナーが自ら異動を願い出て、よりにもよってライバルである第2KV開発室へと『移籍』してしまった事だった。
 その突然の行動に、思い当たる節がなかった訳ではない。彼ら二人で担当したKVの改良事案。新進技術を積極的に取り入れた革新的な──バージョンアップには革新的に過ぎた──改良プランが、社の上層部に採用されなかった事がある。恐らくはそれが原因だ。
 今にして思えば、それは自分たちの『若さ』が出た、と、そういう事なのだろう。だが、ハインリヒはそれ以上に、自分と3室の『政治力』の弱さを痛感したようだった。のんびり屋のアルにとって、そんなハインリヒの生き急ぐような気分はいまいちピンと来ないものだったが‥‥だが、いや、だからこそ、自分にただ一言の相談もなく他の開発室に行ってしまったハインリヒの行動は、友人として拭い切れない一抹の寂しさをアルの心に残していた。
 そして、アルの不機嫌の原因のもう一つは‥‥今しがた、目の前に現れた。
「ラファエル・クーセラだ。今日からこちらで厄介になる。まぁ、適当によろしく頼む」
 就業と同時に自己紹介をしたこの偉そうな優男は、ラファエル・クーセラ。アルの尊敬する3室長、ヘンリー・キンベルの大学時代の後輩で、炊飯器からKV用機材まで、様々な制御技術の開発に携わってきた──中には、かなり危ない橋を渡った事もある──フリーのSE(システムエンジニア)だった。3室ではヘンリーと共に201系の新型機、そのシステム周り全般の制御を担当する事になっている。
 ヘンリーが三顧の礼で迎えただけあって、優秀な人材なのだろう。『だからこそ』、なぜ? という気分がアルにはあった。わざわざ外部から人材を引っ張ってこなくても、自分たちが‥‥いや、自分が3室を支えてみせるのに、と、天然ゆえの嫌味抜きに、そんな事を考える。
「おい、SES−200エンジンのEEC、このコントロールプログラムを組んだのは誰だ?」
 ラファエルは挨拶もそこそこに、すぐに自らの作業に取り掛かっていた。事前に資料には目を通していたのだろう。『フェニックス』と『スルト』に関するぶ厚いファイルの中からエンジン制御に関する書類を取り出し、パンパンと手で叩く。
「‥‥F−201D/A3搭載時のやつですか? それならば僕ですけど‥‥」
 何か文句でも言われるのだろうか。内心、身構えながら手を上げる。ラファエルはふむ、と頷くと書類に目を落とし‥‥至極あっけなくこう言った。
「お前、名前は?」
「アルフレッド・ノーマン」
「よし、アル。お前、今日から俺の助手だ」

 こうして、アルは、ヘンリー、ラファエルらと共に、201系新型機のシステムデザインの主設計士として名を連ねる事になった。まだ入社して3年目の若手である事は、ヘンリーもラファエルも特に気にはしなかった。
 制御機材関係のブロックとして、アルのデスクの周辺がパーテーションで区切られた。隣りの机にやって来たラファレルを見て、そこはハインリヒの席なのに、と、詮無き考えが脳裏を過る。
「201系に関しては‥‥以前、能力者たちから意見を聞いていたんだよな? 資料はあるのか?」
「ええ。201のバージョンアップには採用されなかったので、新型機用の参考意見として纏めていたはずですが‥‥あれ? どこだったかな?」
 資料用ロッカーの前で慌てるアル。開発においては『天才』と呼ばれる彼も、この手の作業はリリーに敵わず、これまで任せきりだった。ラファエルは嘆息した。
「ああ、参考にするだけだから。漠然とでいいからどんな意見があった?」
「はい。意見の大勢は特殊能力使用時の莫大な練力消費量に関する懸念が殆どでした。空中変形に関しては賛同が大勢を。改良案として、燃費の改善の他、メリットの付与‥‥ダウンフォースを利用しての短距離離着陸能力、静音降下能力、移動力・機動性の向上、突進時の空力向上による打撃力の向上、などがありました。後は効果時間の延長と、それによる盾の空中使用、あたりでしょうか。エンジンと気流制御補助装置に関しては‥‥」
 資料をあたふたと探しながら、その資料の内容をそらで口述するアル。ラファエルは顔を上げ‥‥お前、凄いのかバカなのか、どっちだ? と呟いた。
「まぁ、いい‥‥ 短距離離着陸と威力の向上。これは気流制御とは別に専用の機材を‥‥例えば、アグレッシヴ・ファングなどを搭載すれば(特殊能力枠を使用すれば)実現は可能かも知れないな。気流制御装置の効果として組み込むのは難しいかもしれない。気流制御といっても、そんなに便利な物じゃないようだし‥‥とはいえ、エンジン出力が向上すれば、或いはスタビライザー系の技術がどうにかなれば‥‥まだ可能性もないわけでは‥‥」
 アルに聞いた内容を一字一句違える事無く、ラファエルがノートパソコンに入力していく。効果時間の延長は‥‥自分たちの頑張り次第だろうか。まだまだ流動的でどうなるかは分からない。大分時間も経っているし、改めて能力者の意見を聞くべきかもしれない‥‥
「一つ、聞いてもいいですか? ‥‥フリーで莫大な富を獲得した貴方が、なんで、ドロームに‥‥いえ、3室に来たんですか?」
 ようやく探し当てた資料を両手に山の様に積み上げながら(←選別が出来ていない)、アルはそう尋ねてみた。
「先輩が、共にシェイドを超える機体を作ろう、と言ったからだ」
 顔を上げず、キーボードを叩きながら淡々と答えるラファエル。アルは目を瞠った。シェイドを超える──ヘンリーの想いを知る3室の人間以外に、それを信じる人間がいようとは。
 シェイドはバグアの地球侵攻の象徴たる存在である。その戦力は圧倒的であり、技術的には天地ほどの差が横たわる。超えるどころか、互角に渡り合える機体も存在しない。
「‥‥クールに見えて、意外と熱い人だったんですねぇ」
 呟くアルに、ラファエルは渋い顔をして見せた。
「‥‥何?」
「いえ、僕の友人にそっくりだなぁ、って。そんな風に思っただけです」

●参加者一覧

守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
常世・阿頼耶(gb2835
17歳・♀・HD
アクセル・ランパード(gc0052
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

「とりっく、おあ、とり〜とぉ〜♪」
 ドロームLH支社内、中庭──
 白亜の壁と緑の木々に囲まれた芝生の中庭に、魔女の仮装をしたクリア・サーレク(ga4864)と水色のエプロンワンピースを着たヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)がやって来た。
「お菓子を食べなきゃ悪戯するぞッ♪」
「面白い。やってみろ」
 そのラファエルの言葉を受けて、阿野次 のもじ(ga5480)はてってけて〜、と走って行って、アルの背中に飛び乗った。慌てるアルの耳元に妖艶な‥‥もとい、悪戯な笑みを浮かべて、「リリーちゃん。白衣の下は、虎ビキニ」と五七五調でフッと呟く。困惑するアルの顔が赤いのは想像してしまったからか、背に当たる柔い感触(控え目)故か。
 ヴェロニクはこれまた悪戯な笑みでラファエルに近づくと、手にした筆でヒゲを落書きした。普通のヒゲだと意外と似合ってしまいそうだったので、中華なヒゲを書いてその先をくるんと丸めてやる。
「スマイル、スマイラー、スマイレージ! はじめましてのラファエルさんも、よろし‥‥っ!?」
 挨拶に来た須磨井 礼二(gb2034)は、クルリと振り返ったラファエルの顔を見て電光石火で顔を背けた。噴き出しかけた口元を押さえる礼二。アクセル・ランパード(gc0052)は必死に笑いを堪えながら、挨拶を継続した。
「貴方がたが3室の方ですか? い、一度、お会いしたかったんですよ‥‥?」
 ヘンリーのファンだというアクセルは、そう言って右手を差し出した。技術者の誇りと夢を体現するフェニックスが好きで、愛機として使用しているとの事。ラファエル(髭)は、ほぅ、と呟いて、今日はヘンリーがいない事、後で顔を出すかもしれない事を告げた。そわそわと周囲を見回していたヴェロニクがちょっとしょんぼりする。
 一方、守原有希(ga8582)はそんな彼等を余所に、テーブルの上に用意した食事を並べ続けていた。服装は何故か執事服。そのメニューは鮭と茸のホイル焼きに新米のご飯と豚トロ豚汁をつけた定食もの。デザートには南瓜プリンにきんつば、アップルパイ等と用意している。
 自らも料理をする常世・阿頼耶(gb2835)は、興味深げに並んだ料理を観察した。有希の調理技術は玄人はだしだ。うん、後でまたレシピとかコツとか教えて貰おう。
 すっかりと並べられた料理を見遣って、では、そろそろ『お茶会』を始めようか、とラファエルが言った。
「『マッドパーティ』の始まりというわけですね?」
 井出 一真(ga6977)は苦笑した。


「方向性としては、コストを削減するより、全体の強化と新規能力の付加を目指すべきだと思うんですよ」
 アクセルがそう切り出すと、能力者たちは賛同の声を上げた。魔女衣装から白衣へと着替えていたクリアは出遅れた。だが、同じく白衣へ着替えていたはずのヴェロニクは既にちゃっかり席へとついており‥‥友人の早業に、クリアは少女漫画風に戦慄する。
「最低、半年から一年を見越して、その頃にも陳腐化しない能力を最低限、追求すべきです」
 そのヴェロニクが(しれっと)自らの見解を主張する。一真は苦笑を浮かべながら同意した。
「本当‥‥KVは、日進月歩ですからねぇ‥‥」
 整備士としては苦笑するしかない。だが、それでもやはり、新型機と聞けば興奮は抑え切れない。
「フェニックスはドロームのKVの中でも王道の真ん中を行くKVです。やはり基礎的な部分を高いバランスで取っていきたい所ですね」
「ですね。方針は正統進化。高級路線でブランド固めをしましょう」 
 一真の言葉に、そう言って賛同する有希。一真は頷いた。
「フェニックスの最大の特色は、なんといっても空中変形でしょう。次の機体に受け継がせるのか分かりませんが、どうせならこれを売りにしたい所です」
「同意します。そこで、空中格闘の利点と問題点を洗い出してみました」
 アクセルはまず利点を上げた。
 空戦においては『これぞ』という決定力、『一撃』に乏しい印象があるが、空中格闘はその『一撃』足り得る。
 反面、相手の手の内に飛び込む必要性と、それによる被弾確率の上昇が問題だ。距離を詰めれないと攻撃が出来ず、練力を浪費するだけ。近接兵装もデッドウェイトになる。おまけに、空中格闘を活かせるだけの兵装は、入手も行動・練力負荷も高い。
「兵装かぁ‥‥」
 ヴェロニクが遠い目をして嘆息した。
「『ひぃ〜と、えんど』! 空中格闘とセットで、1発限り高知覚格闘固定装備とかあるといいなぁ‥‥」
「固定武装はあくまで次善策、ですけど‥‥エンジンとの直結で破格の威力を出せる知覚白兵兵装や、空中突撃用のランスとか、優先的に買えると嬉しいですねぇ」
 頷く礼二。ラファエルは頷いた。推奨アイテムに関しては完全に3室の管轄外だが、固定装備、及びそれを使用した特殊能力であれば3室でも扱える。だが、強力なものは実現し難いので、兵装スロット分の価値があるかどうか、だ。或いは『店売りより強い』というのが価値になるかもしれないが。
 しゅぴっ! とアルの背に圧し掛かったままのもじが元気良く手を上げた。その下でアルはテーブルに突っ伏している。技術者故か、体力はあまりないらしい。
「のもじは主張する! これまでの3室の取り組み‥‥虎、弓、の機体特性の流れと、SES−200エンジンの極めて高い最大出力‥‥その全てがこの機能に集約すると‥‥っ!
 すなわち!
 魂の一撃に全てをかける! ロケットパンチで『のみ』敵の防御力を無効化する破裏拳ロックオン機能にっっっ!!!」
 全員がのもじを見返した。手の下のアルが小さく呻く。
「あの‥‥のもじさん‥‥」
「待って! 言いたい事は分かるわっ! ‥‥超電磁ドリルも捨て難い。そうよね、アルフ君!」
「いえ‥‥もう‥‥どい‥‥て‥‥」
 こほん。と、アクセルが咳を払った。至極真面目な顔をしたラファエルが「阿修羅と同じようなものなら出来るかもしれないぞ?」とか答えてしまい、できるんかい、との総ツッコミが入る。いや、あまり強力なものはやっぱりダメだろうが。
「えー、と。ですね、話を元に戻しますと、空中格闘を行うには、少々の被弾に耐え得る装甲、一気に間合いを詰められるだけの速度、速度をそのまま火力へと転化できる何かが必要だと思うんです」
 アクセルの空中格闘改良の方向性を聞いて、阿頼耶が自説を披露した。
「SES−200エンジンは強力だけど、その分、機体そのものも剛性が必要になってきますよね‥‥? いっそ、開き直って、機体の剛性と頑健性を突き詰めてしまう、ってのはどうでしょ? メリットとしては、機体の剛性が上がる事で無茶な機動にも耐えられるようになる、生存性が向上する点。デメリットは、機体の重量増による速度、機動性の低下。エンジンの余剰推力を食い潰す可能性もありますね。他には空力抵抗の増大、被弾面積の増加‥‥これら欠点の解消は、戦車の世代変遷と同じ様に、装甲形状の変化・装甲材の新規開発などで重量増大の軽減を図るとか。或いは、単純にエンジンを増やして推力を稼ぐか、さらなる効率化を図るか‥‥」
 前衛型のスピリットゴーストか? と尋ねるラファエルに、あぅ、と言葉を詰まらせながら、あれとはまた違います、と阿頼耶が答える。
「個人的には『A』ナンバーのとてもタフネスな機体をですね、もう大魔神もかくやというような」
「阿頼耶さんの案も魅力的ですね。自分はどちらかというと攻撃と回避少し重視したタイプが好みですから‥‥俺の案は機動性重視となります」
 そう言って提示した一真の案はブーステッドチャージ(仮)。機体の突進速度を攻撃に転化するもので、高速度で敵機に肉薄しながら、近接攻撃の威力を向上させるものだった。
「売りの空中変形格闘攻撃をより強力にする能力です。加速度を利用する事で、上昇値に対して練力消費を控え目に出来れば‥‥」
 同様の案は有希も考えていた。
 有希はエンジンブロックの位置調整を図にして示しつつ、可動式サブスラスターをそこに書き加えていった。不死鳥系列の新型‥‥腕が鳴る。そうだ。リフティングボディも良いかもしれない。スタビと気流制御があるからデメリットも減らせる‥‥
「可動式のサブスラスターで運動性・機動力を強化します。失速時の安全装置にも出来れば‥‥ 効率化とは逆ですが、その推力ベクトルをメインエンジン共々、空中変形時に一点収束できたら‥‥」
 全推力収束加速突撃、エアリアルチャージ。空中変形は敵の至近──人型飛行が可能な10秒以内に到達できる距離でないと攻撃自体が困難だ。なら、安全圏で変形し、加速で威力を高めつつ高速攻撃を打ち込めばいい。
「一つだけ問題があるぞ?」
 ラファエルが言った。
「スラスターを増やしても、搭載するエンジンの数と性能が変わらなければ意味がない、という事だ」
 つまり、どうやったってエンジンの出力の向上は必須の条件となってくる。そして、201系はそのエンジンに(最初から)問題を抱えているのだ。
「力場で機体や白兵兵装を包んで空気抵抗を更に減じ、移動力や突進力、攻撃力の向上は望めませんか?」
 礼二がラファエルにそう尋ねる。可能ではある、と彼は答えた。ただ、やはり練力は(さらに)消費するだろうし、威力を上げるだけならSESに突っ込んだ方が効率は良い。その辺りの問題は中々に悩ましかった。
「『スルト』(SES−200の愛称)の第2リミッターは外せないの?」
 着替えを終えたクリアが帰って来た。その身体を白衣に包み、伊達眼鏡を指でクイッと上げつつ、手にした指示棒をくるくる回す。
「ですね。いい加減、一瞬でも良いので、2ndリミッターを安定解除させたいです」
「解除は必要ですよね‥‥短時間でも。1回限定とか‥‥ どうせ空中変形時に一緒に使うから問題ないです」
 ヴェロニクと礼二の言葉にクリアは頷いた。スルト搭載機の未来はここにある、とクリアは踏んでいた。
 解除できない理由を問われたラファエルは、明快に答えた。
「決まっている。開発元のグランチェスター開発室が、SES−200エンジンの改良に中々成功しないからだ」
「何とか出来ないの? 上級職のエミタで制御するとか、強度的な問題ならフィールドコーティング系の技術で、とか」
「上級職専用機はULTが認めないだろう。コーティングは‥‥ドロームでも類似技術は研究しているらしいが、現時点では機体周りの気流制御技術くらいだな。燃費の問題もある」
 その言葉にピクリ、とアルが反応したが、テーブルの上で潰れたまま動かない。
「とりあえず、方向性は二つだな。一つは機動性を重視した現状の発展型。もう一方はリフティングボディを採用し、速度と剛性を重視した突撃仕様機。共に空中変形機。高価格帯の高性能機を目指す、と。これに前回伺った意見を加えて纏めるとして‥‥あとはヘンリー室長預け、かな?」


 機体の開発以外に関する事も話し合われた。
「新機体購入と改造投資に対するハードルを下げる必要があるわね。今回の新型機から後継機へ買い換える際、+αのコストで機体成長分(機体LV+強化金属分)を引き継げるようにできない?」(のもじ)
「新型の搭乗権購入をスルト使用機体からの下取り購入に限り、エンジンを元の機体から積み替えて使用できません? 制御を行っているエミタAIが最適化してるでしょうし、それで燃費の改善を」(礼二)
 或いは初期機体変更時と同様のシステムで対応できるかもしれないが‥‥そこはULTの判断になる。ただ、ハードルは高い。特に『SES−200搭載機限定』はシステム的に難しいだろう。
「カプロイアのツインブーストも参考になりますし、本格的な技術交換もありかと。燃費の改善に必要なデータが足りないカプロイアとは、互いに補えると思いますよ?」(アクセル)
 1開発室の裁量を超えているので、上に話はしてみる。ただ、オーバーブーストとツインブーストは、似た様な挙動をするが根本的に技術が異なる。それに、『あの』カプロイアに燃費を気にするつもりが最初からあるのかわk(以下略)
「C.Or.Eに相当する技術をドロームも開発しないと。速度に関しては戦闘速度をもう少し」(ヴェロニク)
 行動4に移動5か‥‥努力はしてみるが‥‥
「だから、スタビ、2つ乗せちゃいましょう! 同時起動で効果2倍!」(ヴェロニク)
 クルーエルがまさにそれ。ただし、未だに発売の目処は立っていない‥‥
「外装換装による汎用性を!」(のもじ)
 うん。これまでにもエレメントとかマテリアルとかあったんだが‥‥
「大型コンデンサ!」(クリア)
 電力より練力が欲しいなぁ‥‥

「僕が今、一番懸念しているのは新型HWヒュドラです。シェイド戦時にヒュドラ撃墜を待つ余裕はないはず‥‥ 気流制御力場で水素の流出を防ぐ事は出来ませんか?」
 礼二の問いに、ラファエルは脳内の資料を捲り上げた。‥‥力場はあくまで機体周りの気流を最適化するもので、特定の元素をどうこうする機能はないはずだ。出来たとしても、力場を張った瞬間にSESへの水素の供給も止まってしまう。
 礼二は嘆息した。
「‥‥空中変形の練力消費的に何度も機会がない以上、一撃を重くせざるを得ないですね。攻撃回数は、機体使用者が多ければ稼げますし‥‥」
 その言葉を聞いて、アルはえっ、と顔を上げた。数で攻撃回数を稼ぐ、というのは、犠牲を前提にした話ではないのか。
「いや、シェイドと戦う、というのはそういう事なんですよ」
「当然だろうな。単騎でアレの性能を超えれない以上、数でどうにかするしかない」
 アルはラファエルの言葉に驚愕した。彼は、室長のシェイドを超える機体を作る、という言葉に共感したのではなかったのか。
「いや、あれは気概を示しただけだろう? 普通に考えてそれは無理だ」
 その言葉が終わるか終わらない内に、金属製のトレイを落とした音が石畳に響き渡った。振り返るアル。顔面を蒼白にしたヘンリーがふらとその身をよろめかせる。
「室長、聞いて‥‥!?」
 アルが引き止める間もあればこそ。ヘンリーは背を見せダッシュで走り去ってしまった。
「ああっ!? ヘンリーさぁああん?!」
「バルたん、ほら、追いかけないと!」
 ‥‥マジか? と呆けるラファエル。マッドパーティ。一真がボソリと呟いた。
 ヘンリーを追いかけようとしたヴェロニクは、ふと足を止めてアルを振り返った。
「あ、ご友人、セイバーで頑張っていましたよ。負けないで下さいね」
 笑顔でそう告げて走り去るヴェロニク。アルの顔が赤くなる。
「‥‥ボクもあの時‥‥メトロポリタンXでヘンリーさんと同じ物を見たんだよ」
 クリアがそっと呟いた。
「アレといつか決着をつける時は、人の姿で戦いたいな」
 瞬間的でなく、完全な人型飛行を。ラファエルは天を仰いだ。
「人に翼は生えていない‥‥魔法の杖でもなければ、それは無理だ‥‥」