タイトル:【BD】南米輸送船団護衛マスター:柏木雄馬

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 4 人
リプレイ完成日時:
2010/09/09 00:38

●オープニング本文


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 人類が主導権を握っていた先ごろの戦いでは事前に準備を整えることができたが、今回は逆の立場だ。大規模な戦力移動の確保は決して容易な事ではない。
「私達には輸送手段を提供する用意があります」
 北米の企業連合を代表したミユ・ベルナールの申し出は、南北中央軍に諸手をあげて歓迎された。コロンビアへの復興投資が、既に失われることを座視し得ない額に上っているという理由があるにせよ。不足している護衛の為の戦力確保には、傭兵たちへ白羽の矢が立った。
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●【BD】南米輸送船団護衛

 シアトル、バンクーバー等、アメリカ大陸西海岸北部の港を発した大規模な輸送船団は、途中、サンフランシスコ沖で新たな船団と護衛艦隊との合流を果たし、一路、遥か南米の大地へ向け航行を開始した。
 緊急、かつ大規模な海上輸送という事もあって、船団には軍の輸送船だけでなく、民間から徴用された(或いはドローム等から提供された)大型船舶が多数含まれていた。そのそれぞれが内部に戦略物資を腹一杯に抱えており──外洋を密集して進む船団の姿を艦橋から見下ろした空母『エンタープライズIII』(CVS−101)の艦長は、太った淑女の行進を脳裏に描いてしまい、人知れず微笑した。
「なるほど。我々は淑女方をエスコートする紳士役というわけか」
 それとも騎士役と言った方が良いだろうか。輸送船の船列はそれを中心に輪形陣を組んだUPC軍艦隊が『十重二十重』に護衛している。
「戦闘艦に幾重にも鎧われた着膨れ船団か‥‥もっとも、『女』(=船舶)では騎士にはなれないかもしれんがね」
「は? 何か仰いましたか?」
 いつの間にか背後に寄っていた若い副長が、艦長の独り言を耳にして小首を傾げた。艦長は「何でもない」と笑って手を振ると、表情を引き締めて副長を振り返った。‥‥着膨れ太っちょの大船団ではあるかもしれないが、それらが腹に抱えた食糧・兵装・武器弾薬といった戦略物資は、南米で戦う友軍にとってなくてはならないものであった。
「報告かね?」
「はっ。艦隊は南米行輸送船団と合流、再編を終了しました。先遣哨戒部隊、および第1梯団が進発します」
 大きく膨れ上がった船団は、幾つかの梯団に分かれて南米に向かっていた。エンタープライズIII、および水中用KV母艦(改強襲揚陸艦)『ホーネット』(KVD−1)を基幹とする艦隊は、その『武名』にあやかり最も規模の大きな第3梯団に属していた。
「『武運艦』というのも考え物だ‥‥っと、こんな話は前にもしたな。‥‥バグアの水中用ワームはまだこちらを追尾しているのか?」
「はい。船団に付かず離れずの距離を保って接触を継続しています。こちらが攻撃しようとする度に離脱と再接近を繰り返して‥‥恐らく、複数機が存在してこちらを追尾しているものと思われます」
 つまり、こちらの位置は敵にバレバレだという事だ。もっとも、これ程大規模な船団を秘匿しようと思っても出来るものではないのではあるが。
「既に敵はこちらに水中部隊を呼び集めている事でしょう。それに、メキシコから大規模な空襲があるものと予測されます」
「まったく‥‥今回も厄介な事になりそうではないか、うん?」

 襲撃は意外な程早くやって来た。
 船団が合流を果たし、外洋へ出て2日目の夜。メキシコ方面から襲来したバグアの大規模な航空部隊が船団を空襲したのだ。
 警戒網の最外縁に複数飛ばした警戒機が受けたジャミングの時差から敵編隊のおおよその方向と速度を割り出した艦隊から、CAPに加えて増援の要撃機が迎撃の為に発艦する。バグアが最初に襲い掛かったのは、先頭を行く第1梯団だった。
「敵第1波、第1梯団に攻撃を開始。艦隊司令、および航空団司令より増援、及び艦隊直掩機の発艦命令が出ました」
「全艦、戦闘準備。対潜・対空監視を厳にせよ」
 警報が鳴り響く中、ミサイルを満載した2機のA−1Dを乗せ、舷側のエレベーターがフライトデッキへせり上がっていく。カタパルトから次々と打ち出されていくF−201C。闇の中に光るバーナー炎が、艦首で一度沈んでから急角度で上昇へと転じていく。
 発艦作業を続けるエンタープライズIIIに、第1梯団の戦闘の詳細が入って来た。
「敵は、多数の小型HWを護衛につけた爆撃機仕様の中型機複数で進攻。高高度より進入し、大型誘導爆弾を投下後、離脱しました。護衛の駆逐艦が2隻、沈めれています。‥‥一撃で」
「哨戒機より通信。敵戦爆連合の大編隊を目視にて確認。進行方向は‥‥我が第3梯団です!」
 敵編隊の規模は、第1梯団を空襲した敵の倍である。そう報告した後、哨戒機の通信は途絶した。無事でいてくれよ、と航空団司令が呟く。撃墜されたのではなく通信が妨害されただけ、という可能性も僅かながら残っている。
 報告を受け、艦隊司令より第3梯団の全船に向けて対空戦闘用意を告げる。上空を旋回していた直衛機が、前衛のCAP隊に合流すべく炎の尾を曳いて前進していった。
「‥‥これからが本番という訳だ」
 CDC(戦闘指揮所)への『道すがら』、その光景を艦橋の窓から見上げながら、艦長は呟いた。足を止めた艦長を副長が振り返り呼び掛ける。
 再び足を進ませながら、艦長は制帽を目深に被り直すと「頼むぞ」と小さく呟いた。水上艦艇が航空攻撃に弱いのは今も昔も──いや、昔よりも現在の方がその傾向はより強い。
 船団と貴重な物資が無事南米に辿り着けるか否か。それは偏に迎撃機隊の奮戦如何に掛かっていた。

●参加者一覧

鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
綾嶺・桜(ga3143
11歳・♀・PN
響 愛華(ga4681
20歳・♀・JG
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA

●リプレイ本文

「BigE、こちらフェンリル01。データリンクを確認。これより『針鼠』(ガンシップ)をH1、H2、『子持ち』(爆撃機)をB1〜B5と呼称します」
「この襲撃を囮に、低空・海中からの奇襲も想定されます。警戒を願います」
 篠崎 公司(ga2413)と月影・透夜(ga1806)の言葉に応えるように、ソナーを積んだ宇佐見 香澄、篠岡 澪、ベルティア、セラン・カシスの各機がそれぞれ、バグア水中部隊の接近を警戒すべく四方へと散っていく。味方の発艦を待って上空で旋回待機をしていた龍深城・我斬(ga8283)は上空から、暗視装置越しにその光景を見下ろした。
 空母の飛行甲板では、綾嶺・桜(ga3143)の雷電がエレベーターから移動を始める所だった。発進準備を続けつつ、桜が背後を振り返る。空母の発艦作業の邪魔にならぬよう、飛行甲板の隅でちょこんと佇むACS−001A『パピルサグ』──それは、桜の友人、響 愛華(ga4681)の新たな乗機だった。
「天然(略)犬娘。新型に乗ったからとて、浮かれて油断するでないぞ」
「わぅ! 『紅良狗』の初陣をきちっと飾ってみせるんだよ! ‥‥皆も、頑張って!」
 ハッチから身を乗り出し、懸命に手を振ってカタパルトから射出される桜を見送る愛華。彼女は甲板上に残り、防衛線を突破してくる敵に対して対空砲火を打ち上げる手筈になっていた。
「南米の作戦で必要とされる物資を、むざむざと海の藻屑とさせるわけには、いきませんからね。なんとしても、守り通さなくちゃいけませんね」
 ほんわかとした笑顔で愛華に手を振って、射出されていく乾 幸香(ga8460)のイビルアイズ。出撃していく仲間たち、哨戒に向かう友人たち。そして、正規軍機を見送りながら、愛華は手を振り続ける。
「全機の合流を確認。これより敵編隊の邀撃に向かいます」
 仲間の傭兵全機の集合を確認した鏑木 硯(ga0280)は自らのディアブロを先頭に立たせると、正規軍機の編隊に続いて東へと針路を向けた。それを見て、雷電をその斜め後方へとつける我斬。セレスタ・レネンティア(gb1731)のシュテルンGが後に続いて編隊を形作る。
「正規軍の連中、まだ前進するのか? 船団から離れすぎるとやばくないか?」
「恐らく、数で押し切られる事を忌避しているのでしょう。この場合、距離は時間──即ち攻撃機会と同義ですから」
 疑問を口にする我斬に、セレスタが軍の考えを推測してみせる。おもしろくねぇな、と我斬が呟いた。あれが囮だとしたら、まさに奴らの思う壺じゃないか。
「小型HW数個編隊よりなる敵前衛部隊を感知。‥‥本命は恐らくこの奥です。各機、指示に従い対応を開始して下さい」
 公司の声に重なる様に、正規軍のA−1D部隊が一斉に最大射程でミサイルを発射する。迎撃され、或いはそれを掻い潜った誘導弾が炸裂し、夜空を刹那に照らしあげる。
「突破します!」
 軍のF−201C、104に先んじる様に、硯が爆発に煌く夜空を突進する。それを援護すべく、我斬は前方に向けてK−02を撃ち放った。迎撃する敵編隊に『誘導弾の投網』が襲い掛かり、諸共に呑み込み爆発する。
 爆煙と残骸と破片が飛び舞う只中を、硯は30mm機関砲で近場のHWを撃ち捲りながら突進した。入れ替わるように前に出た我斬機が、進路上の敵へ向けてAAMを放ちながら機銃を浴びせて喰らいつく。火を噴き、小爆発を起こしながら‥‥力場を煌かせて突っ込んで来るHW。我斬は悪態をつきながら操縦桿を引き倒し、機をクルリとロールさせながら、すれ違い様にソードウィングで切り裂き捨てる。
 爆発を背に、我斬は機を制御しながら周囲に警戒の視線を飛ばした。‥‥周囲に敵はいなかった。閃光も煌きも。ただ、闇と静寂とが傭兵たちを包んでいた。
「‥‥突破した?」
 だが、安堵の吐息を漏らしている暇はなかった。機のセンサーが続けて迫る爆撃機の編隊を捉えたからだ。
「フェンリル01より各機。目標の敵爆撃機編隊を確認。V字編隊を組んだ5機の子持ち、その前後に2機の針ね‥‥っ!?」
 公司の報告は、直近を飛び過ぎていった幾筋もの光条に照らされて中断した。5機の子持ちが前方の空間にプロトン砲を斉射したのだ。続け様、先頭の針鼠から放たれる長射程のポジトロン砲。鋭い軌跡が宙を凪ぎ、傭兵たちが散開する。
「先頭の針鼠を叩く。何が起こるかわからん。速攻で中型を殲滅するぞ」
「まずは厄介な護衛から、じゃな。コヤツさえいなくなれば、子持ちはただ硬いだけの機体のはずじゃ!」
 ディアブロを大きく旋回させて敵編隊を見下ろしつつ、透夜が翼を並べて飛ぶ桜機に向け手信号で敵を指差す。桜は翼を振ってそれに応えると、機を逆落としに急降下させた。
「上方、敵機!」
 公司が冷静に警告の言葉を告げる。降下を始めた透夜と桜の背後を衝くように、さらに高高度に待機していた敵小型HW4機が急降下を開始したのだ。
「ふん。いつものパターンというわけじゃな」
 後部警戒センサーの警報音を他所に、桜と透夜は針鼠への突進を継続する。その背後へ向け、天空から矢のように降り下りて来る敵編隊。その横っ面に硯、我斬、セレスタが突っ込んだ。
 3機は降下する敵縦列に斜めから突っ込むと、隊列中央の2機に向けてセレスタがMM−20ミサイルを撃ち放った。横撃をまともに受けて弾き飛ばされる敵。そこへ30mm砲を撃ち捲りながら硯機が突っ込んでいく。まるでビリヤードのようにバラバラにブレイク(散開)する敵編隊。硯は捻り込みからのブーストで敵先頭に追い縋り、機関砲弾で撃ち据える。バラけた残りの敵は我斬が追い散らしにかかった。
「‥‥援護します。背後はお任せを」
 降下する透夜と桜にそう告げると、セレスタはなんとか態勢を立て直そうとする小型HW編隊に襲い掛かった。敵を蹴散らす我斬機の背後を取ろうとする敵の、さらに背後に回り込んで誘導弾を撃ち放つ。宙を跳ねる様に回避運動へと転じた敵に追随し、火線を鞭の様に振るう。その『鞭』が敵を捉えた瞬間、135mm砲をセレクトして引鉄を引くセレスタ。直撃を受けたHWは大きく一つ爆発すると、破孔から炎を噴きながら狼煙の様に海面へと墜ちていった。
 一方、降下を継続していた透夜と桜は、背後の戦闘を振り返る事無く、針鼠目掛けて突っ込んでいた。
 降下し、敵先頭のガンシップを照準に捉えながら透夜が集積砲を撃ち放つ。撃ち下ろされた集積砲弾は針鼠の機体表面の砲ごと装甲を貫通。機体の一角に小さくない爆発を引き起こし、敵機を大きく振動させる。細かく砲塔と砲身を動かして透夜と桜を指向するポジトロン砲。だが、精密に照準されたはずのその砲撃は、2機から離れたあさっての方向を切り裂いた。幸香がロックオンキャンセラーを起動し、敵の照準を妨害したのだ。
「私の『バロール』は、対空砲を正面から浴びて生き残れるほどタフではないので‥‥着実に削らせてもらいますね」
 正面から機を大きく旋回させて側面に回り込んだ幸香は、敵編隊に追随しながら、装備した狙撃砲で敵の射程外から針鼠を狙い撃った。緩く弧を描いて飛んだ砲弾が敵機を直撃し、砲台を一つ吹き飛ばす。後方の爆撃機から放たれる砲撃は、しかし、距離とキャンセラーを防壁とした幸香機を捉えきれずにその殆どが空を切る。
 88mm光線砲の光条を煌かせながら針鼠に突っ込んだ桜は、敵が弾幕を打ち上げる直前にその翼を翻した。旋回して距離を取りつつ、風防越しに敵を見やる。
 被弾して炎と煙を噴き流す敵機が、瞬間、機体下部に爆発を起こして機位を揺らした。下方へ抜けた透夜機が、下から集積砲を直撃させたのだ。それを見た桜は再び攻撃を開始した。光条が敵を切り裂き、吹き飛んだ砲台が宙へと舞い上がる。
 被弾し続ける針鼠の対空砲火に『濃淡』を見て取った透夜は、思い切ってその『穴』へ愛機を突っ込ませた。瞬間、残った砲を『再編成』して火力を集中する針鼠。兵装をショルダーキャノンにスイッチした透夜が速射で砲を破壊する。空になった肩砲をそのままに、駆け抜ける様にスラスターライフルで薙ぎ払う。破孔から飛び込んだ銃弾は電気系統の一部を破壊して‥‥そのまま動力系統まで連鎖した小爆発は、主動力をも巻き込んで吹き飛んだ。


 ダン、ダン、ダン、と。2機並んだ公司機と幸香機が装備した狙撃砲が、前方を飛ぶ爆撃機型に向け立て続けに放たれた。
 暗視装置越し、灼熱した砲弾が弧を描いて飛翔して、まるで小山の様に映る子持ちに着弾の光が走る。穿たれた装甲。破孔から吹き上げる炎に、棚引く幾筋もの黒煙。そこへ公司機、そして幸香機から夜の闇を圧して放たれた誘導弾は、止めとばかりに満身創痍の爆撃機の横腹に喰らいつき、一際大きく爆発した。
 小爆発を繰り返しながら高度を下げ、編隊から落伍してゆく敵‥‥やがて巨大な爆発を起こすと、巨大な光と熱の塊となって夜の闇に四散する。
「どうやら、もう少し、距離を詰めれそうですね」
 それまでアウトレンジ攻撃に徹していた幸香が、武装を重機関砲と螺旋弾頭弾に変更して攻撃距離を詰めに掛かった。新たな敵へ向かう幸香機の後詰めをしながら、公司は冷静に状況を分析した。
 逆サイドでは、もう1機の針鼠を仕留めた透夜と桜が子持ちを1機、炎の塊にして沈めていた。敵の突進力はかなりのものだが、このまま状況が推移すれば、敵編隊が船団に辿り着く前に自分たちはこれを排除できるはずだ‥‥
 と、センサーに新たな反応を示す電子音が鳴り響き、公司は改めてモニタに視線を落とした。それは降下攻撃で高度を落とした桜機と透夜機が偶々捉えた新たな敵影だった。データ照合‥‥大型HW。進入高度は超低空──爆撃機を迎撃する為にみな高高度まで上がっている為、低空域には要撃機が存在しない‥‥
「これは‥‥っ!?」
 公司の驚愕に重なる様に、一帯に強烈なジャミングが放たれた。瞬間、無線帯域をノイズが占め、センサーモニターが真っ白に変わる。
 公司は一つ悪態をつくと、中和装置を用いて妨害電波を打ち消しに掛かった。なんとか通信を確保して警告の叫びを上げる。
「低空より進入する大型機あり! 対応を願います!」
 真っ先に対応したのは、自機のセンサーで大型HWを捉えた桜と透夜だった。
「こんな隠し玉を持って来ていたとはの! しかも、よりにもよってこんなデカブツとは!」
「上の残りは引き受けた。桜は増援に当たってくれ」
 逡巡する間もなく、桜は機を低空域から侵入する大型機へ突進させた。エンジンが焼け付かんばかりにブーストを焚いて追い縋り‥‥やがて、どうにかその尻尾を捉えて照準に収める。
「残弾全部持っていくがよい! 釣りはいらぬ!」
 16式、8式、88mmと、あらん限りの火力を大型目掛けて撃ち捲る。超低空、海面スレスレを揺るがず直進する敵機に次々と襲い掛かる螺旋誘導弾。敵は装甲を食い破られながらも、被弾をものともせずただひたすらに突進する。
「くっ‥‥こいつは‥‥っ!」
「桜ちゃん、退避して!」
 そこへ、小型HWをうっちゃって駆けつけた硯、我斬、セレスタの3人が駆けつけた。硯と我斬が威力を上げて放つK−02。多数の小型誘導弾が直上から撃ち下ろされ、機体表面と周囲の海面を爆発と水柱で飽和する。その間に海面近くまで下がるセレスタ。PRMシステムを全て攻撃に割り振った135mm砲による一撃を真後ろから続け様に浴びせ掛ける。
 一際大きな爆発を発した大型HWは、グラリとその機位を揺らし‥‥火を噴きながら海面へと没する直前、その機体下部に吊下していた『フライングランサー』──蒼い三角錐形状の、突進・突撃型の高機動ワーム──を4機、船団へ向け発進させた。
「あれはまさか、いつぞやの三角錐か!」
 驚愕しながらも、我斬はスロットルを全開にして後ろから突っ込んだ。機動の制限される低空にも関わらず、出鱈目な鋭角機動でその背後へ回る三角錐。動きが止まったその瞬間を硯の放電装置が捉え、粉々に撃ち砕く。
「そうじゃ! 鋭角機動の直後がこいつの弱点じゃ!」
 そう知らしめつつ、敵の機動を制限する様に弾幕を撒く桜。破片を煌かせながらその隙間を縫う様に奔る敵に、セレスタがAAMを送り込む‥‥


「船団はやらせない‥‥間に合えっ!」
 残り3機。船団が打ち上げる照明弾を遠目に見遣りながら子持ちの下側へと回り込んだ透夜は、ありったけの練力と火力で以ってその爆弾倉を撃ち抜いた。
 ぶ厚い装甲を貫かれ、誘爆した敵が小さな太陽と化して消滅する。撃破を確認して周囲に視線をやる透夜。公司の援護を受け突進した幸香の30mmが子持ちを穴だらけにして火を噴かせ、その機体をバラバラと零しながら落ちていく。残る1機は船団上空に到達し──大型誘導爆弾を空母に向け投弾した。
「クッ‥‥愛華、フレア弾がそっちにいった! 迎撃頼む!」
 離脱にかかるその1機を剣翼で切り裂きながら、透夜が眼下の仲間に叫ぶ。それを受けた愛華は警報が鳴り響く中、機体を飛行甲板の真ん中まで走らせた。
「邪魔はさせない。今度は、今度こそは、一隻も撃沈させないんだよ!」
 マルコキアスとツングースカを両腕部に掲げ、直上より迫る爆弾へと撃ち捲る。護衛艦から放たれる対空砲火を弾いて光るフォースフィールド。まるで花火の様なその光景に愛華は必死に照準して‥‥上空100mで撃ち貫く。
 直後、上空に膨れ上がる火球。艦橋のガラスが全て吹き飛び、レーダーが雨細工の様に歪んで溶ける。飛行甲板の愛華機もまたその高熱に表面を炙られた。装甲が歪み、破断音がコクピットまで響いてくる。
 どうにか耐えた愛華機だったが、ほっとする間はなかった。ピケット艦を突き破って突進して来た最後の三角錐が、護衛艦を炎上させつつこちらに向かって来たからだ。照明弾の明かりの下、砲撃の弾着の水柱を縫う様に鋭角機動の敵機が迫る。
 それを捉えた愛華の砲は、だがしかし沈黙した。高熱におかしくなったのか? だが、考える間もなく愛華は機を海面へと投げ出していた。その途中、空母に突き刺さるはずだった穂先が愛華機を打ち貫く。両機はそのまま海面へと落下して‥‥そのまま海中に没していった。
「隔壁、閉鎖。浸水は‥‥止まらないんだよ〜」
 愛華は脱出装置を作動させた。浮上する脱出ブロックから、沈降する初陣の愛機を見やり‥‥愛華はそっと、謝罪と感謝の言葉を送った。


「敵編隊全滅。損害はフリゲート1、駆逐艦1、沈没。輸送艦に被害はありません」
「直衛機の発艦及び要撃機の着艦作業、完了しました。現在、周辺に敵影はありません」
 通信員のもたらす艦隊司令への報告をCDCで聞きながら、艦長は嘆息した。艦隊と艦の航行に影響はない‥‥が、焼けた艦橋とレーダーの修理にはドック入りが必要だろう。
 とはいえ、全ては任務を果たし、無事に帰港してからの話だ。
「ソナーに感! 敵水中部隊が本梯団に接近中!」
 今日という長い一日は、どうやらまだ終わなさそうだった。