●リプレイ本文
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楽しかったこの海岸が。恋人と過ごす麗らかな時が。
あえて言おう。
―――どうしてこうなった!!
ネコミミ、ネコ尻尾、ネコの手。そして水着のネコミミ少女、小笠原 恋(
gb4844)だ。
「胸の大きさの違いが戦力の決定的差でないということを教えてやりますっ!!」
(「コスプレか? いやその割には動きが妙にリアルだぞ」)
ひそひそひそ。周囲の男性は皆、恋に釘付けだ。
「え、え〜と‥‥お、お兄さん。私の遊ばないかにゃん。と、とってもいい事してあげるにゃん」
まさか‥‥こんな清純そうな娘がこんなことを言うとはっ。もじもじしてるその姿がなんだろうか、やけにそそられる。純粋な男の子なら一撃だ。
(じーーーーーーーーー)
突き刺さる視線。恋の企みは見事に成功し、カップル‥‥特に大きな胸の女性を引き連れている男性は恋から目を離すことができない。
「こ、これはとてつもなく恥ずかしいです。で、でもネコミミパワーで頑張ります」
なんだかとっても視線が気になるけれど、恋は顔を真っ赤にさせながら一人の男性を誘惑する。
「あの‥‥私と付き合えば、ぽふぽふしてあげるにゃん」
「「もちろんですとも! 一生ついていきます!」」
―――ドキっ。恋の呼びかけに応えたのは複数人。
欲望の足かせが外れたかのように複数人に囲まれる。
「複数人はその‥‥こま‥‥あっ。み、耳はその‥‥敏感なので触らないで欲しいにゃん」
(「じーーーーー‥‥‥‥‥俺はこんな所で何やってんだって気はしないでもないが! いやでも正直に言おう!」)
信貴乃 阿朱(
gc3015)は心の中で言い切った。
(「憎い難い悪い! 俺がクソ寂しく忙しく海の家でバイトしている時に目の前で、いちゃいちゃいちゃいちゃしやがって! クソ野郎どもがーーーーっっ!」)
「あ、尻尾は引っぱっちゃダメにゃん」
ああん! という嬌声が聞こえたような聞こえないような。初めは戸惑っていた恋だが、回数を重ねるごとに少しずつ要求が激しくなっていく。
(「これだけ見てても、まだやるのか。良いだろうそんなに見せ付けたいならガン見してやろうじゃねぇかこの野郎」)
「あの‥‥もっと優しくして欲しいにゃ‥‥にゃあー!?」
こんなことをされてる自分をじっと見つめられている。その事を意識してしまった時、恋は羞恥心を取り戻した!
「み、見ないでくださいにゃ。あの‥‥えっと‥‥ご、ごめんなさーーーい!」
(「―――よしっ!」)
恋はたまらず、脱兎の如く逃げ出した。右手に握り拳を作り小さくガッツポーズ。
それは男の挑戦の‥‥勝利の形だった。
混乱は続く―――。
海が突然盛り上がり、『何か』がノシノシと砂浜まで歩み寄る。
ただの楽しい海岸は、その存在が現れただけで異質なものに変化していた。
カップル達は『何か』を見上げる。その‥‥『何か』は‥‥なんというか‥‥。
「なんだ? あのヘンテコなロボットは?」
それは5〜10mぐらいの大きさの巨大ロボットで‥‥とても個性的だった。
「リア充ども! 粛清の時間だぜ!」
ロボットに変化しているのはガル・ゼーガイア(
gc1478)。ロボガルは足場が緩い砂浜をドタバタと駆け回る。
「なにかのアトラクションか?」
「自然の姿に戻るがいい!! ゲへへへへへ!!」
「え、ちょっとなにこいつ!?」
カクカクした口から液体を撒き散らす。それにしても―――喋ったり、液体吐いたり意外にコウセイノウな口である。
液体は水着だけを溶かしていた。なんてお決まりなっ。
黄色い悲鳴が次々とロボガルの通った後に巻き起こる。ついでに言えば、遠巻きに事態を見守っていた男共からの野太い歓声も一緒に、だ。
「ロボガルやるにゃ。ボクもがんばるにゃー」
悪魔っ子のコスプレを着こなした白虎(
ga9191)が虚空に向かって手をかざし円を描く。やがて空に魔方陣が描かれた。
カサカサカサカサ。
聞こえるのは何かが擦れ合うような不愉快な音。それは魔方陣から飛び出した。
「いやーーーーこないでーーーーーーー!!」
飛び出したのはKV級の巨大なフナムシ。それがこちらに向かってくるとあらば、普通の人間ならば逃げ出さずにはいられない。
「カップルなんて撲滅されちゃえばいいんだにゃ。我らしっと団の恐ろしさ思い知るがいいにゃー」
「その通りだ! お前らがどれだけ憎まれてるかこの俺が教えてやるぜ!! 今、しっ闘士の力が解放される!」
―――しっと団―――
カップル撲滅を掲げ、カオスな傭兵達によって結成されたテロ組織(自称)である。
そして、そのグループを纏めあげるのは、若干10歳で「いい年こいた大人達」を扇動するのが白虎なのである。
「ここは我々しっと団が占拠したのにゃー」
「最近リア充気味のしっと団員が偉そうに!」
「ん? なんだぁ?」
「『Neid Maske(ナイトマスケ)』参上!」
白い水着の上に漆黒のコート。そしてベレー帽を被っている一人の眼鏡をかけた女性。その名はフランツィスカ・L(
gc3985)。余談だが、例によって眼鏡を外すと美人なのはお約束である。
「嫉妬‥‥それは憧れの気持ち‥‥掴めなかった希望‥‥」
そう。嫉妬とは軽々しい気持ちでするものではない。
「お婆ちゃんが言っていました。所詮誰かの幸せを邪魔しても、虚しさが残るだけで、幸せにはなれない、と」
でも、とフランツィスカは思いとどまる。
恋人の居る人に恋をした。
最初は恋人が居るなんて知らなくて。
その人に夢中になった。
彼はとても誠実な人で、相手の彼女も一途で可愛い人。
誰が見ても、お似合いのカップルだった。
入り込む隙は何処にもないのだけど。
私は今でも、彼が好きなのだ。
彼の隣に留まりたい。けど彼の隣には彼女が居る。
ああ‥‥妬ましい。でも、人を妬めば、余計に自分が惨めになる。
やはり嫉妬とはかくもこうあるべきなのだ。
「――って、人の話聞いてるんですの!?」
いいえ。聞いてないです。
話を最初は聞いていた二人だが、フランツィスカが思い出にふけり始めるとそろりと距離を置き、好き勝手に暴れまわっていた。
―――これが放置ぷれい?
フランツィスカの腕がプルプル震えだす。私の話を聞かないやつは―――。
「ワレェ、半端な嫉妬心でノコノコ出てくんねや!! 人がしんみィりと傷心に浸ってるとこ、邪魔してけつかりおって、このダらずがぁ!」
プルプルと握り拳を震わせていたフランツィスカがついに吼えた。
「うわっ。なんか追ってきてるぞ」
「にげるにゃ‥‥。あれに捕まったら酷いことになる気がするのにゃ」
「待たんかい! 成敗してくれるわ!」
とりあえず捕まったら恐ろしいことになりそうだ。
二人は全力で逃げ出した。
混乱はまだ続く。
(「憎い! 無性にカップルが憎いぜぇ! 嫌がらせしてやらぁ!)
海面から突き出す背びれ。秦本 新(
gc3832)はホオジロザメと人間を掛け合わせた魚人となっていた。
機会を窺っていた新は海岸から流れ込んでくるカップルに嫌がらせをするべく動き出す。
(「まずは、ヒレを水面に出してボートの周りを泳ぎ回ってやるぜぇ‥‥。へっへへ、どうだぁ、怖かろうがぁ‥‥! 逃げろ逃げろぉ!」)
海に鮫。やばいぞ、デンジャラス!
カップルの皆さん逃げてー。逃げ‥‥あれ?
「‥‥無視かよ!?」
結果、素通り。
鮫の背びれとは露とも知らず、虫の脅威から逃れたことにカップルは抱き合って安堵していた。
「あなたもスルーされたのデスネ‥‥」
ビクゥ! 後ろには岩しかなかったはずだ。
「誰だ。どこにいる?」
「ここ‥‥ですネ」
「岩しかねえじゃねえか‥‥ってうお!?」
「私に驚いてくれるなんて、いい人ですネー‥‥」
一見、岩しか見えなかったが、よくよく見れば、全身が水に塗れている妖艶な人間の女性。地面まで垂れる長い髪だが、下半身はうっすらとぼやけている。
「磯女ですヨ。海妖怪の一つですネ」
峯月 クロエ(
gc4477)。磯女になった彼女の顔はなんだか、悲しげだった。
無理もない。クロエが待ち構えていた場所にもカップルはくるのだが、クロエには気づかず通り過ぎてしまうのだ。
「最初のうちはよかったんですけどネ」
「お前も苦労してんだな‥‥」
なんとなくクロエの心中を察してしまった新は苦笑いだ。
「おっと‥‥?」
カップルが逃げ惑う中、数は少ないが親子連れもいる。この混乱の中、ただでさえ運動神経が未発達な小さい子供がまともに砂浜を走れるわけもなく‥‥やがて子供が転んでしまった。
「嬢ちゃん、ここは危ねえぜぇ‥‥。あっちに行ってなぁ‥‥」
新は子供を抱き起こし、近寄ってきた親にあちらが安全だと誘導する。
おぉ。あの鮫なんだか優しいぞ。偶然にもその行為を一部始終見続けていたカップルから感嘆の声が上がる。
「カァーーー! てめぇらイチャイチャしてんじゃあねえ! 墨でも喰らえぇー!」
新は近づいてきたカップルに容赦なく墨を吐きかける! 親子連れには優しいがカップルには厳しいのだ!
「フフフ‥‥その豪気さステキですネ」
混乱はまだまだ続く。
一方その頃、また新たなる勢力が近づいてきていた。
この騒ぎを知って駆けつけてきた傭兵達だ。
「ぐへへ、オレサマカップルマルカジリ‥‥おや?」
初めの第一声から何かが間違ってるような気にさせてしまう声の主は紅月・焔(
gb1386)。彼はこの日差しの強い真夏日にガスマスクをつけていた。
この騒ぎを鎮圧するために派遣されてきた焔であったが、なぜだか事態がより悪化しそうなのは、気のせいだろう。
「なんて事だ‥‥! このままでは‥‥カップル(獲物)が危ない! 仕方ない‥‥煩! 悩! 解! 放!」
ピカー! とはしないし、何も変化は起こらなかったが。焔の怪しさは数段跳ね上がった。
「ちっ、もう傭兵共が来やがったかぁ‥‥。上等ぉ、返り討ちにしてやらぁ!」
いち早く傭兵に気づいた新は傭兵達を牽制するべく迎えうつ。
「へへ、オレの墨弾は痛いぜぇ」
クロエに下がっていろとジェスチャーで伝え、素早く墨弾を叩き込む。
(じーーーーーーーーーー)
「これは‥‥! 墨弾いいな!」
横からのベストポジションで、いつの間にか現れた阿朱は、ここぞとばかりに女性傭兵を見つめる。
「お前らも喰らいな!」
「おっと、墨弾が。ぐへへ‥‥危ない避けろ!」
ぽよん。言葉と同時に焔は女性傭兵を横に突き出し護った。
「見たか! これこそ『紅月流奥義、セクハ・ランページ』!」
「今、思いっきり狙ってましたネ‥‥」
あいつ、絶対、セクハラ、狙ってた。クロエはそんな気がしてならなかった。
(「煩悩、ナイスだ!」)
すかさず、倒れた女性傭兵のスカートの中を阿朱は回り込む。だが、
ぽーん。
突然現れた巨大な鉄塊、もといロボガルの足に弾き飛ばされた。
「うおっ‥‥やべえ傭兵じゃねえか! フランツィスカで手一杯だってのによ!」
「とりあえず攻撃しとくにゃー」
ロボガルは走っている勢いを乗せ、先制の有線型ロケットパンチを発射する。
どこーん。
砂煙の中からゆらゆらと。ゆっくりと体勢を立て直し、焔は叫ぶ。
「ふ‥‥真の変態は1人で十分だ‥‥究極(エロティメット)煩悩力者‥‥紅月・焔! いくぞ!」
これこそが、ジハード! 最後に立っていた者こそ真の変態! かも?
「今度はこっちの番だ!」
「なにかくるってぇのか?」
後ろ手にホルスターに入っている銃を取り出そうとするが、取り出せない。
勢い良く、攻撃を宣言してしまったので空しい沈黙の時間が駆け抜ける!
「あ? 俺、最初から素手のつもりだったし? めっちゃ忘れてなんかねぇし。全っ然素手のつもりだったし」
‥‥とても、とても、嘘臭い。
周りでは、なんだか意気消沈していた傭兵達が次から次に倒されていく。まったくもって傭兵達に勝てる要素が見当たらなかった。
「まったく。見ていられないですね」
「大丈夫ですか? お手伝いします」
今までネコミミ姿だったはずの恋がいつの間にか、普通の姿に戻っている。驚いたことにフランツィスカに至っては、半ズボン金髪碧眼美少年の傭兵まで引き連れている。
「みなさ〜ん、出番ですよ〜」
恋が後ろに振り返り、遠くに手で合図を出す。するとどうだろうか、傭兵が‥‥傭兵が次から次に沸いて来る!?
「このままではやられるにゃー。こちらも対抗するにゃ」
白虎はどこからともなく流れているパイプオルガンのテーマにテンポを刻みながら、クルっと弧を描き、怪しげな装置を召喚する。
「まずはイカやタコで触手をつけるにゃー」
イカ、タコに加えマグロ、ウニ、ウミウシなどなど、ポイポイっと、素材を投げ入れ暫くたてば『カオス生命体』の出来上がりだ。
いや、一味足りない。
「鮫人間も欲しいのにゃー」
「な、なんだぁ?」
白虎がひょいと魔方陣を描くと新が消え去り、怪しげな装置の上に放り込まれた。
ぐるんぐるんと装置が怪しげに動き出す。
装置の横には窓があり、中を覗くことができる。クロエはいつの間にか、近づき窓から中を眺めていた。
(「段々と一つになっていくのが面白いですネー!」)
クロエとカオス生命体の目が合った。
―――シャー!
条件反射的なものだろうか! クロエは突然、髪を逆立て睨めっこを始めた!
中にいるカオス生命体は突然のことに慌て、驚き、遂には、
ブーブーブー‥‥。緊急事態発生。緊急事―――。
「おや、壊れてしまいましたネ」
「嘘だにゃー!? ロボガル時間稼ぎ頼んだにゃ! ――っていないにゃ?」
ロボガル。既に逃走済み。
「もう、出し物は終わりですか?」
くすくすと笑いながらフランツィスカと恋が詰め寄る。
「こうなれば最終手段にゃー!」
白虎が取り出したのは『地球破壊爆弾』。嘘か真かはわからないが、見事な往生際の悪さだ。
「「桃色総帥覚悟ーっ!」」
どげしっ。恋とフランツィスカのダブルキックが炸裂。爆弾ごと空を飛ぶ総帥。
(「疲弊した所を襲ってやるぜ‥‥、最後に笑うのはこの俺だ‥‥」)
いつの間にか海へと逃げていたロボガルは、逆襲の機会を待っていた。周囲を警戒、フランツィスカに最大限の注意を払う。誰もいないな、と安心しかけたその時だった。
「にゅあーーー!?」
ゴチ。見事、白虎はガルの頭に直撃し動きを止める。そして、ガルは白虎と一緒に飛ばされてきた『地球破壊爆弾』を見たその時、全てを悟った。
―――ああ、終わったな。
「俺の代わりはいくらでもいるんだ‥‥。いつか第二‥‥って最後まで言わせろーっ!?」
どおぉぉぉぉぉん!!
こうして、夏の海、恋人達の麗らかな時は、平穏な時間を取り戻していったのであった。
これは、ひと夏の夢。ひと夏の思い出。
その後、彼らがどうなったのかは誰も、知らない。