タイトル:作業員を救え!マスター:笠木

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/20 04:05

●オープニング本文


 暗く、冷たい地下トンネル。
通路の端に点々と灯される照明はあれども、そこはやはり暗い。
だがそんな暗さは関係ないと動き回っている者達がいた。

「こう肉体仕事が続くとさすがにまいるな‥‥。そっちの作業は終わりそうか?」
 作業着の男は額の汗を拭いながら手に持っていた機器の動作を止めた。
話しかけられた男もまた作業着で重機を巧みに操りながら会話に応じる。
「いや、まったくだ。工期が狭まったとはいえ、無茶なスケジュール立ててくれるよな」
 二人の男はお互いの顔を見やるとため息をついた。

 そう‥‥ここは将来、都市と都市を結ぶ地下道路。
今はまだ人の往来こそはないが、ここが完成すれば多くの人が行きかう場所になるはずだ。
現在、開通工事中のその場所は、完成を心待ちにしている多くの人達の為に作業員と重機で喧騒に満ち溢れていた。

 作業をひとまず落ち着かせた二人の作業員は束の間の休息を取る。
「そういえば、この辺りにキメラが出たんだってな」
 おお怖い。大げさに両腕を横に広げ、首を振る。
「傭兵が出張ってきてるんだろ。大丈夫だって。しかも、こんな地下のトンネルなんかにキメラが出てくるはずもねーっての」
(‥‥今のところ入り口一つしかないし。入り口には警備の傭兵がいるしなぁ)
 内心、そう思いつつ出口である後ろを振り向く。ちょうど目線の先には重い足音を立てながら近づいてくる鼻息荒い中年の男がいた。親方だ。
「おい、お前ら!作業止めんな。後ろがつっかえてるんだ」
 あいよー。現れた親方は作業員に活を入れるが作業員も慣れたもの。一言返事をするなり自分の受け持つ作業へと戻っていった。
 そんな作業員達を見て親方はため息を一つ。
「分かってるとは思うが、側道のチェックも怠るなよ」
 さすがにこのペースだと疲労が溜まるか。ローテーション考え直すしかないな‥‥。
無茶なスケジュールを強いていることは十分に承知していた。
親方が思案に暮れる。だが、具体的な改善策が浮かんでくるはずもなく―――。
まあいい、まずはこの作業を一刻も早く終わらせよう。
そうと決まれば簡単だ。作業の見回りでもするか。
その足で現場全てを視察しようと足を踏み出そうとした時、それは‥‥起こった。

「で、でた‥‥‥キメラだあああああ!?」

 親方の身が竦む。おいおい‥‥嘘だろ?
それは誰もが予想していなかった地下トンネル最奥からの悲鳴だった。






 地下トンネルの最奥。
現場では多くの作業員が逃げ惑い、混乱していた。
混乱の根源たるキメラはゆっくりとだが確実に作業員へと近づいてくる。
「なんだよ‥‥あいつ。まるでゼリーじゃねえか」
 動くたびにドロドロと周りのものを取り込み消化しているように見える。
あんなのに捕まったら‥‥。ゴクリ。首元には冷や汗が浮かぶ。
とにかく逃げないと―――。周りを見渡すと近くにいる作業員も同じ思いらしく足が止まり顔が引きつっていた。
「出口まで逃げるぞ‥‥走れ、走るんだよ!」
 幸いキメラの移動速度は速くない。なんとか逃げ切れるかもしれない。作業員達は必死に走り始めた。


  べちゃ

   べちゃ


 何の音だ―――?。
嫌だ。振り向きたくない。振り向いたらいけない。だが、本能には逆らえず男は見てしまった。
ゼリー状のキメラから何かが。犬‥‥いや、狼だ。狼が分離していくのを。
悪寒が走る。作業員はなりふり構わず走ることに専念する。だが残念なことに作業員よりもゼリー状の狼は移動速度が速かった。

 追いつかれる。作業員は逃げながら必死の抵抗を続けていた。
持っている工具を、これ以上近寄らせるものかと必死で振り回す。
振り回された工具は偶然にもキメラに当たり‥‥弾け飛んだ。
呆然とする作業員。それも当然だ。

 キメラが―――。
本来、能力者でなければ倒すことが困難なキメラが弾け飛んだのだから。

 弾け飛んだキメラは体液を撒き散らし崩れていく。
訳が分からず戸惑う作業員。奥からは何かが駆けてくる音が聞こえる。
逃げないと‥‥。ただ、この場所から一刻も早く逃げたかった。

 あ‥あ‥‥動かない‥‥。
 なんで動かない‥‥動けよ‥動けよ!

 男は気づかない。先ほどのキメラの体液が男の足と地面を繋ぎとめていることに。
段々と奥から音が迫り来る。
音が反響するトンネル内。
男の耳にはその音しか聞こえず、確実に‥‥確実に恐怖が迫りくる。


  ―――誰か助け―――




●参加者一覧

草壁 賢之(ga7033
22歳・♂・GP
鴉(gb0616
22歳・♂・PN
佐賀重吾郎(gb7331
38歳・♂・FT
リネア・フロネージュ(gb9434
22歳・♀・HG
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG

●リプレイ本文


 トンネルの出入り口。
 慌てた風情で作業員達が出入り口を警備中だった傭兵達の元に向かって駆け寄ってきた。

 鈴木悠司(gc1251)が駆け寄ってきた作業員から事情を聞く。
「トンネル内にキメラ‥‥!」
 どうやら、トンネル内にキメラが出現し慌てて逃げてきたようだ。この作業員によるとトンネルの中にはまだ人が残っているらしい。
「きっと怖い思いしてるよね…早くやっつけちゃおうッ」
 ユウ・ターナー(gc2715)はトンネルの中に出現したキメラに想いを馳せ、取り残された作業員達を気遣った。
「どうせなら、球場のど真ん中にでも出てくれた方が、わかりやすいし倒しやすいのにね?」
 草壁 賢之(ga7033)はまだ見ぬキメラにぼやく。
 だが、ぼやいているだけでは始まらない。ふと一呼吸を入れ、左掌に右拳を打ちつけた。

 事態は一刻を争う。

「うっし、戦闘は久々だけど‥‥気合いれていきますかッ」
 傭兵達はお互いの顔を見渡す。
「出切る限り急がないとですね!」
 そしてリネア・フロネージュ(gb9434)の言葉に頷いた。

 ―――行動開始だ。



 駆ける。
 先行する三人の傭兵は、ひたすらにトンネルの奥に向かって走っていた。
 傭兵達の作戦は簡単だ。キメラが出現した現場へ先行する班と出入り口付近で作業員にキメラや内部構造に関する情報収集をする班に分ける。お互いの班は無線で状況を伝えあい情報を共有する算段だ。

 とにかく駆ける。先頭を走る草壁は全力疾走だ。
「鴉さんの情報通り‥‥ッ」
 鴉(gb0616)はトンネルの地図の取得に成功。その情報をいち早く先行班に伝達していた。
 トンネルの内部はまっすぐに伸びている主道路とその横に沿うように側道があり、途中途中に搭乗者のいない重機が置かれている程度だ。覚醒した傭兵にとって障害となりえる物はない。
 段々と喧騒が近づいてくる。逃げ遅れていた作業員達だ。
 近くにキメラの姿は未だ見えない。だが案の定、というべきか。作業員達は突然の状況の変化に動揺し混乱していた。奥に取り残されている作業員が気になるが、ここにいる作業員達をそのまま無視するわけにもいかない。佐賀重吾郎(gb7331)は混乱している作業員に駆け寄ると落ち着かせるように言った。
「拙者達が来た以上、心配する無かれ、必ずやキメラどもを斬り砕いてくれるでござるよ」
 出入り口に向かって逃げるでござる。重吾郎の言葉に作業員達はコクンと頷き、走り始める。賢之とリネアも重吾郎の避難誘導を手伝う。無事、全員が出入り口に走り出したのを確認し、三人はまた走り出した。


 ―――その頃、出入り口付近では。

 鴉は逃げてきた作業員達を見渡していた。手当てが必要な者を見つけると即座に近寄り手早く治療を済ましていく。治療中、トンネル内部で起きた事の情報を周囲の作業員に聞くことも忘れない。
「中から戻ってきた方、いらっしゃったら中の状況とか教えて頂けますか?」
 悠司は丁寧に作業員に聞いて回る。どの作業員も答えは皆、一様でキメラが出たって聞いたから慌てて逃げてきた。そのような答えが返ってくるだけだった。
 ‥‥困ったな。
 ユウに視線を送るも彼女も似たような状況にあるらしい。これ以上この場に留まるメリットは少ない。先行班と合流しよう。そう思った矢先、一人の作業員に声をかけられた。
 あの‥‥私、知ってます。
 おずおずと語りかけてくるその作業員によると、何か大きいものから、狼みたいなものがたくさん飛び出してきて、襲いかかってきたそうだ。
「側道にはキメラはいたの?」
 ユウは首を傾げながら質問する。作業員は静かに首を振りわからない、と答えた。
 悠司とユウお互い顔を見合わせ、応えてくれた作業員に感謝した。
「先行班に連絡を入れるねっ!何も分かんない状態じゃ危ないだろーし」
 鴉おにーちゃん連絡入れるよっ。少し遠くに離れていた鴉を呼び出しユウは無線機を取り出す。近づいてきた鴉はユウにゆっくりと頷いた。
「あちらと合流したほうが良さそうですね」
 三人はトンネルの内部へと足を踏み入れる。先行班はどのくらい先まで進んでいるのだろうか。
 一歩。トンネルに足を踏み入れる。
(中は涼し‥‥いや、暑さは変わらない、か。)
 トンネルの中は暗くとも、そこは生暖かい空気で満ち溢れている。空気が流れることのないトンネル内は気のせいかむしろ外よりも暑く感じた。
 鴉は蝉時雨を抜刀した。これでどんな事態にも対応することができる。俺達が揃うまでに終わっていたら、それで良いのですが‥‥。
「じゃ、先行班よりは遅れてだけど、急いで行こっか!」
 悠司の言葉をきっかけに三人は走り出した。
 まっすぐに続いているトンネルを側道の入り口をチェックしながら前へ、前へと進み行く。
 その足取りは先行班よりも早く、機敏だ。
(‥‥さっさと済ませて、涼みたいですね。店長の奢りで冷たい物でも‥‥)
 鴉は淡い期待を胸に抱いた。



「狼型のキメラ?」
 後発班からの無線連絡を受けたリネアは同行の二人にユウからの情報を伝えた。
 トンネルに入ってから未だにキメラの存在は確認できない。かなり奥まで進んでいるはずなのに‥‥。
 気のせいか、段々と周囲の空気が張り詰める。
 重吾郎は手早く自分の愛刀チェーンソードの動作をチェックする。賢之とリネアもそれぞれ自分の武器を構えた。
「――くるぞッ」
 薄暗いトンネルの先から複数の影が躍り出た。

 ―――オープンコンバット。

 賢之は小銃「ブラッディローズ」を影に向かって撃ち放つ。一発で放たれる二十四発もの弾丸は何者も近づくことを拒否するかのように壁を整形し、影へと迫る。影は勢いそのままに賢之に跳躍するが接近することは適わず、弾かれるかのように消滅した。素早く次弾の装填を済ませる。
「こいつら素早い‥‥ッ!」
 重吾郎はチェーンソードを左手に構え、呼吸を整えた。相手は素早い、ならば自分がすべきことは‥‥。
「いくぞ、絶頂撃砕流の真髄を味わうが良かろう」
 先手必勝を発動。研ぎ澄まされた神経が動き回る影を見事に捕らえる。
 ‥‥ここでござる! 一瞬に気合を込め、チェーンソードが淡い赤色に包まれた。――豪破斬撃。
 一閃。唸り狂う刃は止まることを知らず、影を真っ二つに切り裂いた。
 ビチャ。回転する刃に飛ばされるようにキメラの体液が直線的に撒き散らされる。
 リネアは周囲を索敵する。どうやら、敵は二体だけだったようだ。

 ―――助けてくれ!早く‥‥早く助けて!

 すぐ近くからだろうか。トンネルの先の薄暗い暗闇の中から助けを求める声が聞こえる。
 聞こえる声は恐れと動揺に満ち溢れ、今にも消えそうな程に小さく擦れていた。
 三人は即座に駆け出す。すると、確かに居た。
 恐怖で動けなくなっているのだろうか。作業員が及び腰でゆっくりと迫りくるキメラに対峙している。
 奥にいるのは‥‥スライムだろうか。暗くてはっきりとは分からなかったがキメラの一部は黒く‥‥赤黒く濁っていた。
 賢之が作業員の前に躍り出る。
 リネアは賢之の行動を援護するようにドローム製SMGで弾幕を張る。弾丸は直撃し、スライムは悶える様に身震いした。

  べちゃ

   べちゃ

 スライムから塊がいくつか吐き出される。
 地面に落ちた塊は次第に形を狼へと変えていき‥‥作業員に向かって疾駆する。
「作業員さんに危害を加えさせはしませんよ!」
 リネアが狼型の前方に弾をばら撒き行動を阻害する。足止めを期待した攻撃。だが、狼型の勢いは止まらない。
 賢之は体を張って作業員の前に立ち塞がり、シールドを構える。
 べちゃ。狼型は勢いそのままにシールドに突っ込み‥‥爆ぜた。体液がシールドが防いだ部分に穴を残し、干渉し扇状に飛び散った。大丈夫ですかッ。賢之は作業員を落ち着かせ避難させようとする。
 だが、作業員は動かない―――いや、動けない。
 作業員の足と地面が、固形の何か接着剤のようなものでくっついているようだ。

 狼型が撒き散らしている体液、あれはもしや‥‥?
「この汁は‥‥なんやら嫌らしさを感ずるわい。皆の者、努々用心ですぞ」
 重吾郎は皆に注意を喚起し、自身も前に躍り出た。先ほど敵を切り裂いてからチェーンソードの動作が心なしか鈍くなっている。この体液は‥‥危険だ。
 勢いそのままに突っ込んでくる二体の狼型を睨みつけ、捉える。
「援護します!」
 リネアが援護射撃を発動。その的確な射撃は狼型の動きを押さえつける。狼型の動きが鈍る瞬間を重吾郎は見逃さなかった。
 体液が飛ぶ方向に注意し避けながら狼型を斬り砕いていく。
 合計して三体。素早く動き回っていた狼型は全て倒した。
 それと同時に狼型が全て倒されるのを見計らったかのようにスライムが身震いを始める。

  ぺちゃ

   ぺちゃ

 今度は合計して五体。狼型を産み出したスライムはさも悠然と前進している。
 まるで狼型が倒されたことを気にしていないかのようだ。
 リネアが狼型が動き出す前に狼型に射撃。狼型はあっけなく爆ぜていくが‥‥。

  べちゃ

 倒したそばからスライムは塊を吐き出した。固まりは狼となり‥‥傭兵達の前に立ち塞がった。
 増殖ペースが早すぎる――。
 賢之は作業員に当たらないよう細心の注意を払いながら、強弾撃を使用し接着剤ごと地面を抉る。強い衝撃を受け、地面と足が離れた。
 三人は作業員を守るようにジリジリと後退する。ジリジリと狼型達も傭兵に合わせて前進してくる。
 小銃「S−01」をそれぞれ両手に持ち替え、賢之は気合を入れる。
「医療系の友人からもらった銃でね、人を救う為なら、ジャムっても撃ち続ける‥‥ッ!」
「厄介な能力ですが、近付かれなければ!」
 リネアの発射音を皮切りに銃弾の嵐がキメラへと撃ちこまれた。

 ―――弾丸が舞う。

 途切れることのない銃撃戦の音はまるで遠くの出入り口まで届くかのごとく鳴り響く。



 倒しても倒しても、狼型の数は減らない。
 狼型を増やしているスライムに攻撃したいところだが狼型をあしらうので精一杯だ。
 今はまだ攻勢を全て防いでいるが、素早く動き回る上に特殊な能力を持つ狼型に神経を大きく削り取られている。劣勢に回ってしまうのも時間の問題であった。
 このままではまずい。誰もが危機感を感じ始めた。そんな傭兵達の危惧とはおかまいなしにスライムは塊を落とし狼型の数を増やしてしまう。傭兵達の額に冷や汗が流れた。

 ―――迫り来る。

 疲れ始めてきた体に鞭打ち、賢之は‥‥重吾郎は‥‥リネアは武器を構える。
「助けが必要ですか?草壁さん」
「――鴉さんッ!?」
 背後から聞こえたその声の主は、一目で状況を把握すると近くに積んであった砂袋を蹴り上げる。撒かれた砂は勢いにのり狼型へと襲い掛かった。
 ビチャ。本来ならキメラには効果が薄い攻撃だが狼型には効果的だった。狼型は砂と一緒に自身の形を崩していく。
 攻撃の主‥‥鴉は賢之の近くに移動し、蝉時雨を構えた。
「敵の特長は?」
「あのスライムから無数の狼みたいなものが出てきてキリがないんです!」
「狼は厄介な汁を撒き散らすでござる。注意なされよ」
 リネアと重吾郎の話を聞いた鴉はゆっくりと首肯する。
 この間にもスライムは狼型の数を増やすことを止めたりはしなかった。
「それなら大丈夫でしょう。ほら‥‥?」
 狼型が傭兵達を休ませまいと襲い掛かる。だが、それは適わない。何故ならば二つの新しい風が戦場に吹き抜けたからだ。
 放たれる銃弾。交差する爪。
 吹きぬけた風は狼型を薙ぎ倒し、傭兵の前に舞い降りた。
「ユウも参加させて貰うねっ!」
「数は多いみたいだけど‥‥それだけじゃ、ね!」
 セフィロトの模様が美しいロングマガジンの銃を掲げたユウとゆるく曲線を描いた爪を装備した悠司はお互いに背中を預け、高らかに宣言した。

 ―――反撃開始だ。

 初めに動いたのは鴉だ。疾風脚を使用し軽やかなステップワークで前へでる。狼型が鴉の行動を邪魔するように飛び掛る。鴉はそれを見越していたかのように軽やかに回避。攻撃目標を見失い隙だらけになっている瞬間を鴉は見逃さない。すかさず蝉時雨を振り落とす。――斬。その早業は狼型になにも行動させず消滅させた。
 残った狼型は慌てたかのように傭兵達に襲い掛かる。
「俺だって!」
 悠司も鴉に続きまっすぐに前進。狼型との距離が次第に狭まっていく。狼型が顎を開く。接触するほど接近したその時、悠司が動いた。
 一瞬のうちに身体をぐるりと捻らせ回転させる。狼型の攻撃は未だに届かない。悠司の回転は狼型の攻撃を回避するかのように捻り止る。
 刹那。体の捻りを戻すかのように勢いをつけ遠心力を利用した一撃を叩き込んだ。――円閃。だが、安心するのはまだ早い。先ほどの狼型とは別に時間差で攻撃を仕掛けてきた狼型が悠司に飛び掛る。
「‥‥これで、如何!」
 一撃を振り放った不安定な状態だが悠司はそれを不利とは思わない。瞬間的に爪を反転させ、体の捻りをそのままに逆回転させた。――円閃。高速で繰り出される二回もの円閃は見事に二匹の狼型を捕らえ切り裂いた。
 鴉おにーちゃん、悠司おにーちゃん援護するよっ。
 二人の素早い攻勢に負けじとユウが特殊銃【ネツァク】を水平に構える。
「えーい!これでも食らえなのっ」
 制圧射撃。扇状に撃ち尽くす銃弾の嵐は確実にキメラの行動を阻害した。流れる動作でエネルギーガンに持ち替え、前で走る二人を援護射撃でフォローする。
 スライムは自分の手駒を倒され、また新しい狼型を増殖しようとしている。
「させるかッ」
「させません!」
 賢之とリネアが行動力の全てを使い、スライムに銃弾を叩き込む。
「スライムは、ちょっとまにあっくだよ。あと、わんこよりはにゃんこ派なんだ。出直してきな」
 二人の銃弾の嵐は激しくスライムは思ったように動けない。重吾郎はここぞとばかりに気合を入れる。重吾郎の体はまるで炎を纏っているかのようにオーラに包まれる。
「絶頂撃砕流秘奥義・木っ端微塵斬り」
 勢いそのままにスライムに肉薄。チェーンソードを振り下ろした。スライムのゼリー状のボディが回転する刃に削られ、飛び散っていく。
「後は任せてください」
 鴉が音もなくスライムに接近。今にも消滅しそうなスライムを見据え、蝉時雨を掲げる。
 そして―――むき出しのコアに突き刺した。

 ―――音もなく、ゆるりゆるりとキメラが溶けていく。

「これで終わりなんでしょうか?」
 リネアは覚醒を解き、スライムの成れの果てを見届ける。
 ‥‥スライムが居た場所。そこには一つのスパナが落ちていた。

 銃弾の残響は耳の中に鳴り響き、余韻を残す。
  傭兵達の活躍で多くの作業員を助けることができた。
    傭兵達はそれぞれの想いを胸に出入り口へと引き返していった。


 了