タイトル:鋼の女王と屑鉄騎士団マスター:叶月アキラ

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/15 03:19

●オープニング本文


 倉庫の中に、潤滑油の臭いが濃く溶けていた。
 薄暗い照明の下に規則正しく並んでいるのは、ナイトフォーゲル。R-01、S-01と機種にばらつきがあり、しかもその装甲はあちこちがへこみ、傷のない機体は一つとない。
 だがここはジャンクヤードではない。ありあわせの材料と突貫の作業で無理矢理に複座型に改修されたそれは、名をTシリーズとつけられた、教習用ナイトフォーゲルだ。
「‥遂に、ここまで来たな」
 それを見下ろすキャットウォークの手すりを握り締めて、UPCの制服を着た女が一人、万感の思いを込めて呟いた。
「はい、本当に‥ ここまで来たんですねえ‥」
 傍らには分厚いバインダーを抱えた、スーツ姿の小柄な男。ポマードをしっかり使って整えたその髪型は、ステレオタイプな日本のサラリーマンといった印象だった。
「だが、これはスタートだ。ゴールなどどこにあるのかな」
 悪戯っぽく女は笑い、ウェーブのかかった金髪を揺らして振り向いた。その左頬には、傷が深く太く刻まれている。
「それでも、ここまで来ましたよ‥ それだけでもう、僕は‥ ぼかあ‥」
 男の目から滝のように涙が零れ落ちる。その肩を女は優しく叩き、
「泣くな泣くな。まったくヒラヤマは泣き虫だな」
 薄紫のハンケチで、そっとその涙を拭ってやった。
「で、でも‥ 嬉しくって‥」
 ごしごしと涙をふき取り、ようやくヒラヤマと呼ばれた男が向き直る。
「僕じゃない、内田さん、大野さん、藤岡君‥ 頑張ってくれた、みんなの力ですよ」
 その顔は輝いていた。謙虚さと誇りに満ちていた。

 ナイトフォーゲルは四肢をそなえた可変兵器である。当然運用も、活用の方法も既存のセオリーではこなしきれない。空戦はまだなんとかなる、しかし凶暴なキメラを地上で迎え撃つにはあまりにノウハウが少ない。そこでこの女史、ペネロープ・ミラーは、バグア侵攻の初期迎撃戦で瀕死の重傷を負ったにも関わらず、その身体に人工骨格を、その心に鋼鉄の意志を埋め込んで、地獄から舞い戻るや訓練機関の設立に尽力したのだった。
 ヒラヤマ、漢字で書けば平山氏はその片腕として、渋る相手を説き伏せ、足りない機材や予算の確保に奔走し、部下達と励ましあい、時には衝突しながらも、プロデューサーとしてひたすらに調整連絡企画交渉、早い話が「全部やる」をこなしたのだった。
「またあいつか。いい大人がよくもまあ、あれだけ泣けるよな」
 会議室で、応接間で、プレゼンテーションの席で、平山は泣いた。泣きながらペネロープの意思を伝え、いつか来る勝利のために協力と提供を懇願した。同僚も同じく、この「屑鉄騎士団」と嘲笑された組織のために頑張った。
 その結晶が、いまここにある。ないない尽くしの施設と機材、俄仕立ての教官達。それでも心はくじけない、くじけてはいけない。それだけは皆が一致していた。

「奴らは私の半身を引きちぎった。だが心臓も脳も、命さえ奪うことはできなかった。いつかそれを、たっぷり後悔させてやる」
 手すりと同じく冷たい左手、その義手を見つめ、ペネロープ・ミラーは呟いた。
「頑張って、戦って、必ず帰って来る戦士を‥一人でも多く、ここから育てたい。命を捨てて戦うのではなく、生きる為に戦う人達をね」
 ここには整備スペースを兼ねたハンガーが1棟、宿泊施設と食堂を兼ねた軍用バラックが数棟。背後には小高い岩山がそびえ、ちょっとした森や渓谷がある。そこを越えれば小さいが平原もあり、障害物に重宝な岩もごろごろしている。そして複座型ナイトフォーゲルは、可変機構を潰すことでコストを抑え、ほぼ満足できる機数を整えた。
 理想は高く、決意は熱く、だが悲しいほどの貧乏所帯。比喩なしに鋼の女と、泣き虫のプロデューサー、そして愉快な仲間達が、暁の空へつぎはぎだらけの旗を掲げようとしていた。

●参加者一覧

弓亜・美月(ga0471
20歳・♀・FT
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
リーウィット・ミラー(gb0635
18歳・♀・SN
甲(gb0665
20歳・♂・ST
前田 空牙(gb0901
18歳・♂・HA
ルーシー・クリムゾン(gb1439
18歳・♀・SN

●リプレイ本文

 ゆっくりと昇る朝日が、全員の背中に白い光を放っていた。
 建物に比べれば随分と広いグラウンド、だがあちこちが未整備のまま残されたそれは、ちょっとましな荒野と呼べなくもない。
 その隅に全員を集め、ペネロープ・ミラーは面々を見渡して微笑んだ。
「よく来てくれた。我々は君達を歓迎する」
 ただし、と言葉を繋ぎ、
「だからといって甘やかすつもりはない。油断が怪我や死を招くのは覚悟するように」
 夜の闇にまぎれて飛んだ大型ヘリで現地入りし、機内で浅い眠りをとっただけの8人は、その言葉に眠気を背筋から追い出された、ような気がした。
 今回の訓練に間に合ったのはこの8人。
 弓亜・美月(ga0471)。申請したコールサインはSheep。
 比企岩十郎(ga4886)コールサインはRock。
 レイアーティ(ga7618)。コールサインはOWL。
 御崎緋音(ga8646)。
 リーウィット・ミラー(gb0635)。コールサインはCheer。
 甲(gb0665)。コールサインはKino、と書いてキノ。
 前田 空牙(gb0901)。
 ルーシー・クリムゾン(gb1439)。コールサインはЛасточка」(ラースタチュカ)、ロシア語で燕を意味する。
「コールサインの申請は受け付けたが、していない者もあるな。そうだな‥」
 とペネロープは軽く首をかしげ、
「御崎君はキネティックコードにはないが、Angel。前田君は名前からとってFangだ」
「お、いいっすね。なかなかかっこいいな」
「私も異存はありません」
 二人がほとんど同時に頷いた。
「よろしい、では教官とスタッフを紹介しよう」
 ペネロープが一歩下がり、整列していた男達が数人前に進み出た。
「教官チーフの大野だ」
 声をぴしりとくぎり、余韻も残さない。がっしりした身体で、眼光は揺ぎ無く皆を見据えている。サムライというよりは野武士の風格と荒々しさだった。
「内田だ、よろしくな」
 対照的にこちらは斜に構え、わずかに猫背。ひょろりと背が高く、だがその眼は射るように鋭い。一種サディスティックな印象をすら伺わせる男だった。
「補佐を務めます藤岡です。よろしくお願いします」
 一転して若い藤岡は、皆と年齢が近い。丁寧な仕草には、気性の穏やかさも感じられた。
「総務の平山です。訓練以外の事は私が担当です、なんでも聞いてください」
 その顔は溌剌としているが若干青い。8人と一緒にヘリで飛んできて、酔ったようだ。「他にも数人いるが、まだ全員が合流していない。今回はこのメンバーで行う」
「あの、それで提案なんですけど」
 美月がすっと挙手をする。
「うん?」
 ペネロープに歩み寄り、紙を挟んだクリップボードを渡す。素早くそれに視線を走らせた彼女は、悟った顔で頷いた。
「なるほど、カリキュラムの提案か」
「はい、私達で移動の間に考えてみました。参考になるでしょうか」
 ボードがまず大野に渡る。一瞥して頷き、次は内山。
「へえ、いいじゃねえの。楽させてくれてありがとよ。ホレ、平ちゃん」
 平ちゃんと呼ばれた平山も受け取り、今度は何度も読み返す。
「ふむ‥ふむ‥なあるほど、こりゃいい! 資材調達はなんとかしましょう!」
「さすがですね皆さん! まず座学を予定してましたからぴったりです!」
 覗き込んだ藤岡も眼を丸くして頷いていた。
「俺達は整備を手伝ってくる。後は頼むぞ」
 片手を挙げて、大野・内田・平山、そしてペネロープが部屋を出てゆく。
「ハイ!」
 快活に返事しながら藤岡が、巻き取り式のスクリーンを引っ張り上げ、プロジェクターの用意をする。
 無論ぼうっと見ているほど気の利かない面々ではない。岩十郎が積まれていた椅子を取り、レイアーティとミラーがそれを広げ、講師を半円で囲むように置いてゆく。たちまちに座学の準備が整った。
「まず、KVの基本操作から復習しましょう」
 レーザポインタを持った藤岡が、映し出された映像に指示を与えながら説明してゆく。その口調は滑らかで、彼が本来はエンジニアだと伺わせるものだった。
「なるほどー」
 まだKV登場の経験が浅い甲にとっては新鮮な知識らしく、熱心にメモを取っている。負けじと美月も持参したノートに、懸命にペンを走らせていた。
 窓から差し込む日差しが室内を暖め、睡魔を呼び始めた頃を見計らって、藤岡がプロジェクターのスイッチを切った。
「さて、今日はここまでです。午後からは実機で訓練です」
「お待ちどう!」
 絶妙のタイミングで、アルミ製のフードワゴンを押した平山が入ってくる。用意された昼食は大味な軍用レーションだったが、その温もりがくたびれた神経には有難かった。
「飽きた味だけど、やっぱり食事はいいわよねー」
 米軍規格に近いそのメニュー構成はリーウィットにことのほか合うようで、早いペースで胃に押し込んでゆく。
「我輩はやはり米が食いたいのう。このあたりは農産も豊かそうですしの」
「もちろんです、食材は用意できますよ!」
 ただ、と平山は苦笑して
「整備に手を取られて、営繕の人数が全然足りないんです。なので食事も含めたプランをみなさんが提案してくれたのは助かりました」
 ありがとうございます、と何度も言いながら、その声がだんだん涙声になる。
「ちょ、ちょっと‥平山さん、俺達なにかしました?」
 空牙が慌ててなだめようとするが、平山はぺこぺこしながら薄紫のハンケチで涙を拭いた。
「す、すいません、なんかこうグッときちゃって‥はは、泣き虫プロデューサーって呼ばれてましてね、お恥ずかしい」
 模様の剥げたポットからコーヒーをステンレスのマグに注ぎ、皆に手渡しながら、平山は顔を赤らめてそれぞれに会釈した。ワイシャツの上にエプロンを重ねたその姿は、どこまでも人のいいおじさん然としている。だがそれが妙に似合っていた。
「おーす、生徒諸君。楽しい楽しい実機教習の時間だぞお」
 それからしばらくして作業服に着替えた内田が、入口にもたれかかって皆を呼んだ。すっかり高くなった陽射しの下、ハンガーから引き出されて並ぶ機体へと案内される。
「これは‥まあ‥」
 ボロ、という言葉をルーシーは危うく飲み込んだ。
「どうだ、ボロいだろ? ご覧の通り、カネが無えからな」
 先手を打って内田が笑う。実際並んだ機体は装甲パネルの色が違うなど朝飯前、改造された複座シートの一部は機体の外へはみ出し、何か武器を持っているようだがそれも単なる筒に見える。立っていなければジャンクだと勘違いされてもおかしくなかった。
「今日は戦闘ではなく、申請を受けた事項の作業を行う。各自作業にかかれ」
 大野が低い声で言う。静かだがその声はよく響き、8人に無色のプレッシャーとなってのしかかってきた。
「機体に乗ったら以後はコールサインで呼ぶ。聞き返すなんて間抜けな事はするなよ、戦場で長電話するようなものだからな」
「はいっ!」
 8人がそれぞれに目星をつけた機体へと散ってゆく。駆けられた梯子を昇り、開け放したハッチからコクピットに身体を滑り込ませる。その顔はもう、戦士のそれだった。
「起動シークエンス開始」
「メインシステム一次接続、開始」
「ロガー、オン」
「FCS(火器管制装置)、オン」
「フュエルベーン、開け‥ポンプ出力良好」
「APU(補助動力装置)、回路接続‥主タービン起動」
 視線が忙しく計器の上を走り、手袋を付けた指がスイッチを入れてゆく。その一つ一つがナイトフォーゲルに生命を吹き込んでいった。
 若干のタイムラグはあったものの、計8機がタービンを唸らせてゆっくりと立ち上がる。正面に陣取って無線機のマイクを持ち、大野が細かく指摘を与えていた。ほとんど一瞥しただけで誰がどの機体に乗っているのか把握したそれは、驚くべき正確さだった。
「OWL、関節チェックはいいがモーションが大きい。横の機体にも気を配れ!」
 たしかに腕がAngelこと緋音のボディに干渉しかかっている。レイアーティは肩をすくめて調整し、そっとKVの腕を元に戻した。意図を察した緋音が、誰にも見えないようコクピットの中で頷く。その唇には淡い笑みが浮かんでいたが、
「Angel! 関節チェックだ、油温が上がりすぎる前にキャリブレーションを終えろ!」
「は、はいっ!」
 一転冷や汗を浮かべて、小さなキーからデータを送り込む羽目になった。
「チェック終わった機体から前進、見えてる広場まで歩けー。平ちゃんが資材持ってきたからな、感謝して使えよ。‥こらソコ、Kino! 段差またぐ時は脚位置確認しろ!」
 内田の鋭い指摘に、動機を加速させながら甲が計器を見返す。たしかに脚部が不安定な位置にあり、万一躓けば横転しかねなかった。
「ゆ、油断できないな‥」
「よしラースタチュカ、筋がいいな。腕をもう少し大きく振れ」
 機体の癖らしく、自分がイメージしているより関節が動いてくれないようだ。ルーシーはソツなくトリムを変え、望むままのモーションへと機体の動作をすりあわせた。
 おおよそ200メートルほどの距離を8機は歩き、丸太や工事用のシート、体育の授業で使うようなマットが積み重ねられている一角へと集合した。
「うわあ、お願いしてた機材ほとんど揃ってる! 平山さんすごい!」
「ええ、あの短時間で!? 手品みたい」
 美月がまず驚き、空牙がそれを追いかける。無線の向こうで照れたような声がした。
「いやあははは、全部やるのがプロデューサーですから」
 打ち合わせどおりにチームを組み、訓練機材の作成とコースの作成が同時に始まった。 KVの指で丸太にマットを巻いて、竹刀のようなものを作るのは相当に難しい。乗って間もない、しかもど中古の機体であればなおさらだ。一方、設営班も忙しくコースに杭を打ち、土嚢やパネルを積んで上下差を作り、岩十郎はわざわざ申請して持ち込んだメトロニウムシャベルで、
「よーいと、こーら」
 炭鉱夫よろしく塹壕や溝をこしらえていた。
 やがて地平に日が沈む。夕焼けが最後の光を夜へ渡そうという時間になって、ようやく作業が終わった。
「おーし、お疲れさん。明日は一日実機教習だからな、酔わないようによく寝とけよ」
「ありがとうございました!」
 深く礼をし、早くも機体に取り付いて整備を始めたスタッフにも礼を述べて、8人は会議室兼教室兼食堂へと戻った。だがこれではまだ終わらない。
「さあって、第二ラウンド開始っ!」
 しっかり手を洗い、持参したエプロンをまとった美月と緋音が、ちっぽけなキッチンの中で忽ち料理をこしらえてゆく。さすがにほとんどは冷凍だったが、今日日これだけのものが食べられるなど良いほうだ。
 やがて鍋の中で、食材がカレーという目的に沿って煮込まれてゆく。小皿にカレーを取り自分で味を確かめたあと、緋音はレイアーティにもその皿を持っていった。
「‥どうかな? 美味しい?」
 どぎまぎしながら反応を待つ緋音。だが数瞬に訪れたレイアーティの微笑を見るや、その身体にエネルギーが蘇った。
「よかった‥さあ、みなさんできましたよー!」
 色も形もバラバラな食器に盛られた初日の夕食に、皆は舌鼓を打った。ざっくばらんに言葉を交わしながら、楽しい時間が過ぎてゆく。
「あー、食った食ったあ」
「いやー、最高ですね」
 満面の笑みを浮かべて空牙と甲が腹をさする。後片付けは男性陣が行うことになったが「はいはい、行った行った」
 ルーシーに背中を押され、レイアーティだけが教室を追い出された。
「いや、私も」
 と言いかけるその唇に指を近づけられ、
「いいから行きなさいって。バディ放っておくなんて失格よ?」
 廊下の片隅で、緋音が耳まで真っ赤に染めてそのやりとりを聞いていた。
 ‥食堂から寝床になる軍用バラックまでは、まっすぐ歩けば150歩。だが二人はそれよりちょっとだけ多く歩き、上弦の月の下で幸せな時間を過ごすことができた‥

 翌朝は素晴らしく晴れた。昨日設営したコースの果てに、早くも朝から陽炎が揺らめいている。
「KVうおーずがでーたーぞ」
「KVうおーずがでーたーぞ!」
 真面目な顔でレイアーティが音頭を取り、それを残りの7人、いや6人が復唱してKVを駆り、マラソンを行う。残る一人空牙はというと、
「で‥でーたーぞ‥」
 寝坊した罰で生身のまま、その隊列のはるか後を息も絶えだえに走っていた。

「Rock! 間合いをきちんと見極めろ、乱戦で大振りになったら味方を巻き込む!」
 続いて始まったのはKV用特製竹刀での接近戦講習と障害物競走。大野が乗り込んだKVに斬りこんではいなされ、岩十郎がコクピットで荒い息を吐いていた。
 大野の動きには隙がない。何度も返り討ちにあい、岩十郎の機体には新しい傷が10とはきかない数で増えていた。
「Cheer! アクチュエータへの先読み加圧が足りねえからそこでヘタるんだよ!」
「はい! スイマセン!」
 無遠慮に内田に怒鳴られ、ルーシーが歯を食いしばって機体を立ち上げる。
 無論これだけではない、コースの隅では
「く‥よ、よっ‥と‥」
 美月が眉をひそめて「KVで卵掴み〜オムレツを作る」のに挑戦していたし、
「ここで指を抜いて‥こうかな」
「じゃあ私がこう帰して‥」
 レイアーティと緋音が障害物レースの後にワイヤーであやとりに挑戦、残る4機は抜きつ抜かれつしながら、ぐるぐるとコースを走り回っていた。
 軽い昼食をはさんで訓練はたっぷり10時間。食堂へ疲労困憊で現れた皆に振舞われたのは、
「皆さんのお口に合うでしょうか‥」
 ルーシーの愛情がいっぱいにつまったピロシキとボルシチだった。感謝しながらそれを押し頂き、男女に分かれて宿泊棟に戻る。森が清めた涼やかな風が、全員を夢の国に誘うのはたやすいことだった。

 3日目はチームに分かれての模擬戦。無害なペイントボール弾とはいえ、当てられるとそれなりに屈辱である。
「Hooo! やっぱりコレよね、ホラホラ当てちゃうぞー!」
 リーウイットがテンション全開でフィールドを駆け回り、一機また一機と弾を叩き込んでゆく。まさに真骨頂といえた。
 昼食はゴージャスに、リーウィット入魂のバーベキュー。魔法のプロデューサー平山が揃えてくれた食材を惜しげもなく炭火であぶり、肉汁のしたたるそれにかぶりつく。ひとしきり戦闘が終わるとお互い手伝って機体を洗い、ペイントを落として条件を変えてみる。時折大野や内田も混ぜて、模擬戦は一日繰り広げられた。

「は〜い、皆さん朝ですよ〜」
 4日目ともなると疲労が蓄積してくる。案外タフな女性陣に比べ、朝食をつまんだまま舟を漕いでいる甲は後から頭をはたかれる災難にあった。
 本日はKV同士の格闘訓練。明日は射撃も交えた総合訓練。計5日を1サイクルとし、そこで依頼を受けて退出するも良し、2周目に突入するもよし、とされた。
 屑鉄騎士団の教習キャンプは、その一期生から奮闘を続けてゆく‥。