タイトル:狗(いぬ)達のバラッドマスター:叶月アキラ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/05 02:34

●オープニング本文


 どこまでも続くインターステイト・ウェイを走る、灰色の大型バス。都市を結び人々を運んでいたそれは、戦乱とともに姿を変えた。今それを駆る者は善人ではなく、それを動かす意思は正義ではない。首輪のちぎれた哀れな野犬が、ただ猛り狂っているだけだ。

 バグア侵攻からほどなくして結成された反抗武装組織、スティール・ハウンド。乗り捨てられたバスを装甲車もどきに改装し、ありあわせの火器と寄せ集めの人材で戦う彼らは、ごく僅かの勝利と限りない敗走を繰り返していた。
 エミタの助力もない旧時代の火器、軍から流出したり民間のガンショップを襲撃して得た豆鉄砲で、一体何ができるというのか。多くの仲間を失い、燃える理想は朽ち果て、今や存続のために村落を襲撃しては食料や資材を強奪する、無法の徒。当然UPCとの交戦も発生し、虚しい小競り合いが何度行われた後、ついにスティール・ハウンドは、創設時のメンバーをいただく最後の一分隊しか確認できないほど、壊滅的な状態だった。
 だがUPCは、スティール・ハウンドの統率者に注目。烏合の衆であるにせよ、一定期間武装組織を率いた手腕をUPCに活用すべく、一つの依頼を立ち上げた。
 目的はスティール・ハウンドに接触し、リーダーと目される元軍人、ブライアン・セッターと会見すること。そしてUPCへの投降と武装解除を促すこと。
 ‥なお交渉が決裂した場合、UPCを誘導しスティール・ハウンド殲滅の足がかりとなること。殲滅とは構成する人員、使用する資器材、車両を含む「全て」を対象とする。

 資料にはこうある。
「ブライアン・セッター 33歳、元UPC少尉。軍資器材の横領により軍籍凍結中。指揮能力及び人心掌握に高い能力は見られたものの、戦略的に困難な強硬論をしばしば主張、上官と対立。交戦中に独断で命令を変更し、軍法会議により懲罰降格の履歴あり。配偶者なし。家族はバグア侵攻の際係累にいたるまでことごとく死亡しており、身元引受人なし。政治思想、また信仰に特に留意すべき事象なし」

 人とともに手土産がわりの食料が積まれたバスが一台、他に誰もいない荒野への道を進む。既に接触の手はずは整えられており、廃墟となったモーテルでスティール・ハウンドと落ち合う約束だった。
「ここが合流場所です」
 ハンドルを握るUPCの係官が皆に告げる。バスは道路をそれると廃道をしばらく走り、リゾートホテルのような建物を目指していった。半ば崩壊した門に残った看板には、「HELLO」とあるが、銃弾を受けたのか最後のOがぼろぼろになっており、「HELL」としか読めなくなっている。バスはその中庭に到着すると人と資材を降ろし、尻尾を巻くようにそそくさと引き返していった。
「地獄へようこそ、か」
 残された者の中で、誰かが呟く。ここが地獄なら番犬くらいいても不思議ではないだろう。ブライアン・セッター率いるスティール・ハウンドとの、邂逅の時が迫りつつあった。

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
葵 宙華(ga4067
20歳・♀・PN
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
V・V(ga4450
27歳・♀・SN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER

●リプレイ本文

「お、来よったでえ」
 遠くを見ていたクレイフェル(ga0435)が合図する。皆の視線がそちらへ向いた。
 砂煙をあげて、一台の大型バスが道をこちらへやって来る。
「じゃあ、僕達は消えますね」
 翠の肥満(ga2348)とユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が頷きあった。
「交渉決裂、粛清開始、なんて流れにはしないでよね。面倒だから」
「危なくなったらお掃除して終わらせちゃうからね〜」
 葵 宙華(ga4067)とV・V(ga4450)は皮肉めいた口調で笑う。
「努力‥します」
 朧 幸乃(ga3078)が微笑を返して、その毒舌をやんわり受け止めた。
「ま、ここなら隠れる場所に不自由はなさそうだ。俺あそこにするわ」
 宗太郎=シルエイト(ga4261)はさっと周りを見て、居心地のよさそうな一角へと足を進めていった。それに続いて葵、やや間をおいて翠の肥満ことファットマンが姿を消す。しばらくして、門をすり抜けバスが中庭に停車した。
「ブリキの棺桶だな」
 蓮沼千影(ga4090)がぼそりと呟く。名前やマークが塗りつぶされた灰色の大型バスには、窓にも車体にもごてごてと鉄板が貼りついていた。そこに穿たれた弾痕が痛々しい。
 エンジンが止まり、あたりを静寂が支配する。
 軋み音を立てて、蛇腹で繋がれたドアが開いた。と見るや、車体の後でもドアが開き、人影が降り立つ。展開を考えて改装を施しているように見えた。
 降り立った人影は半円を描いて5人を囲む。女性は一人もおらず、皆疲れの見える目をしていた。装備も服装も雑多で、記録映画の中のレジスタンスそのままだった。その中でも比較的まともな風体の男が、列から一歩進み出て視線を巡らせる。
「君達が志願者か。私はスティール・ハウンド副長、モーガン・ラインだ」
「そうです。私はユーリ・ヴェルトライゼン。集まった者はこれで全員です」
 言いながら手を開き、武器を持っていないことをアピールする。それを見たモーガンが手を上げると、集団の中でカチャカチャと音がした。銃に安全装置をかけたらしい。
「ぶしつけですまない。我々もいろいろ警戒しないといかんのでね」
 日焼けした顔に苦笑を浮かべて、モーガンは半身を引いた。
「やあ、はじめまして。僕が、隊長のブライアン・セッターだ」
 意外に陽気な声がして、その後から男が一人進み出た。写真で見たよりは幾分やつれた印象だが、それでも間違いなく本人だ。
「はじめまして。スティール・ハウンドに参加できて光栄です」
 二人が握手を交わす。
「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。ここにいる者は皆同士だ」
 同士、という言い方に幸乃はどこか浮ついたものを感じた。連戦連敗のはずなのに、漂ってくる気配はまるで勝利者のそれだ。嫌な予感が胸の奥でざわりと蠢いた。
「まあ見ての通り貧乏所帯だ。苦しい戦いというのは覚悟してくれ」
「わかってますって。俺クレイフェルいいます、よろしゅーに」
「蓮沼千影だ。よろしく」
「あたしはヴァレンティナ・ヴァレンタイン。V・Vでいいよ」
「‥朧幸乃です」
 それぞれが挨拶を交わした後、ブライアンが積まれた資材に目をつけた。
「それを持ってきてくれたのかい?」
「ええ、ほんの手土産に」
 ユーリが大きく梱包を破くと、下から現れた軍用レーションの表示に、集団の中からどよめきが上がった。
「それは助かるな。正直、食料が心細くなっていたんだ。ありがたく頂戴しよう」
「ま、仕入れたルートは聞かんといてな」
「聞かないさ。僕達も褒められたものじゃない」
 泥棒さんやもんねえ、の言葉を危ういところでクレイフェルが飲み込んだ。
 何人かがバスの中へ物資の搬入を行い、また何人かは周囲の警戒に出かける。ブライアンと一行は、朽ちかけたホテルのロビーで会食を始めた。
「改めて、君達が参加する理由を教えてもらえないかな」
 千影が会釈するように片手を挙げて応える。
「不利を承知で戦う姿に、なんとなく共感してね。軍は肌に合わないしな」
「俺もそんなとこですわ。実際、敵さんはどの程度いわし(倒し)てますのん?」
 ミートソース・パスタの絡んだフォークを振って、クレイフェルが問いかける。ブライアンが自嘲的な笑顔を浮かべて答えた。
「キメラ、とかいう化け物はもう10匹程度狩ったよ」
 最盛期、スティール・ハウンドの構成員は三桁にのぼっていたという。それがいまやこの人数だ。文字通り血肉を打ち捨ててキメラと刺し違えてきた、それはあまりにも効率の悪い勝利だった。
「あたしは軍を抜けたの。上官がバカでね、命を預けられなくって」
 たっぷり毒を含んだ口調で、V・Vが言葉を繋いだ。
「私は‥まあ、お察しください」
 ユーリが胸に吊るした指輪をそっとかざし、また慈しむように戻した。
「ここにいる同士は、みなバグアに故郷を焼かれ、家族を奪われた人間だ。僕は元軍人だが、兵士などという部品じゃなくて、戦士としてこの手で復讐したいんだ」
 ブライアンの目が光った。だがそれは、野良犬が持つ捨て鉢な蛮勇にすぎないことを、改めてユーリは悟った。
「私も‥そうです。戦って‥戦って、一匹でも多く敵を‥倒したい」
 幸乃がクラッカーを摘みながら呟く。女性であることを気取られないよう、声のトーンはは落としていた。
 我が意を得たりと思ったのか、ブライアンが饒舌になる。
「そうだ。僕達は最後の一人まで戦う、決して退きはしない。それが死んでいった仲間達への誓いだ」
 V・Vが溜息をひとつ。それには複雑な感情が込められていた。

「食事か‥いいなあ、僕も一個持ってけばよかった」
「そう言いながら、美味そうに飲んでんじゃないわよ」
 弾痕が生々しい生垣の影から、ファットマンと宙華が周囲を警戒していた。ファットマンは牛乳をちびちびやりながら、である。
「山賊みたいな奴らと思ってたけど、案外大人しいね」
「でもそういうのが一番恐いのよね。覚悟って厄介よ」
 一方宗太郎は崩れた壁の影で聞き耳を立てている。壁をひっかくと手頃な小石ができたので、指で器用に選り分けてポケットへそれをせっせと詰め込んでいた。
「‥死に場所求めてるっていうやつか?」

 やがて陽が沈み、世界を漆黒が覆う。フロアにはランタンが置かれ、あちこちで男達が毛布や寝袋にくるまって眠っていた。
 ユーリ達はまんじりともせず、周辺へ注意を払っていた。会話を続けながら情報を取り込んではいるが、未だ核心には踏み込めずにいた。
「来た早々すまないが、次の巡回でパトロールを交代してくれ。キメラは夜でも来る、油断はできない」
 ブライアンが読んでいた資材リストから目を上げ、皆を見回した。
「‥わかりました」
 幸乃が頷く。
「これから先どうするのですか‥UPCとの協調などは考えずに?」
 ユーリが思い切って、踏み込んだ質問をした。ブライアンの目が、一種異様な光を帯びて輝く。
「言ったろう? 軍なんか頼りにしない。最後の一人まで戦うよ。どんな犠牲を払っても」
 二言目には犠牲、である。憑かれたように滅びの美学を口にするブライアン。傍にいるモーガンが何か言いたそうな顔をしたが、すっと目をそらしたその時。
「敵襲! 敵襲ーっ!」
 戦慄が嵐となってフロアを駆け抜け、男達が飛び起きる。叫びながら駆け込んできた男の目は血走っていた。
「落ち着け! 規模はどれくらいだ?」
「わかりません! ヘルメットに何か固いものが当たったので、敵の攻撃だと思います!」
 てんで要領を得ない。ブライアンの指揮がなければ雑兵集団ではないか、とユーリは確信した。

「な、なんか変な具合になったような‥」
「まさかこんなに泡食うとは‥ねえ」
 廃材の山に隠れて、宗太郎とファットマンが顔を見合わせた。さっき拾った小石を鉄板に投げて、ちょっと警備を「ざわめかせる」程度にするかと思ったら、相手は悲鳴を上げて逃走したのだ。
「小規模だけど発砲炎が北の方で見えた。UPCがキメラと交戦してるんじゃないかな」
 偵察から戻ってきた宙華は、悪いニュースも持ってきた。
「ヤバいなあ、今の混乱で戦えるわけないよ」
「僕達も仲間のふりをして合流しよう。みんなの様子も知りたいし」
「賛成」
「あたしは隠れながらついていくわ」
 
「相手を見極めんうちに戻ってどうする!」
 モーガンが怒りの表情で腕を組む。だが、ブライアンの反応は違っていた。
「いや、キメラかもしれない。何かを当てられたというなら、誰が物を投げた?」
 場の空気が疑心暗鬼で塗り固められていった。ブライアンの狂気が、兵達に伝染していくような錯覚すら抱かせる。
「報告! 北に発砲炎と爆音を確認! 規模は不明ですが戦闘が起きている模様!」
 次に駆け込んできた男の報告が、その空気を固定化させてしまった。
「やはりそうか! 敵は近いな、応戦準備だ!」
 颯爽とブライアンが腕を振り、スティール・ハウンドの一同は戦闘の興奮に沸き立った。
「‥コンバット・ハイ、か。駄目だなこれは」
 千影が苦い顔をする。浮き足立った連中にまともな作戦が出来るはずはない。
「準備完了次第出発! あらゆる障害は実力をもってこれを排除する!」
 鬨の声がそこかしこでおき、ロビーは興奮状態に包まれた。その喧騒にまぎれてさりげなく歩み寄ったファットマンが、皆に大急ぎで状況を伝える。
「戦闘は本当だよ。でもその中に突っ込むなんて自殺行為だ」
「腹くくって、片付けるしかないんかなあ」
 クレイフェルが顔をしかめた。
「何してる! 早くバスに乗れ、出発するぞ!」
 銃をかかげたモーガンが叫ぶ。姿を見せない宙華を除いた7人は、バスの方へと歩を進めた。人数が増えたことに、モーガンは気づきもしない。

「発進!」
 増設されたヘッドライトが闇を穿ち、灰色のバスは身を震わせて戦場へと駆けてゆく。窓からは遠く跳弾らしい火花も見て取れた。
「トカゲ型のキメラを確認! 軍の車両と交戦している模様!」
 暗視双眼鏡を覗いていた男が、バスの助手席から振り返って報告する。
「停車、散開!」
 バスがブレーキを軋ませて止まり、開け放ったドアから男達が飛び出してゆく。
 外では2体のリザード・キメラが、UPCのエンブレムをつけた車両と格闘していた。軽便な偵察車両には分が悪い相手だ。機関砲で曳光弾を派手に撒き散らしてはいるが、これといったダメージを与えられていない。
「接近して仕留めるぞ! 電撃槍を用意しろ!」
「電撃槍!?」
 あまりにアナクロなその響きに、宗太郎が目を白黒させた。見ればバスの後部から、ケーブルの繋がった長い鉄パイプ様のものが引き出されている。青白いスパークがちちっとパイプの先端で散った。
「‥な‥」
 幸乃が絶句する。
 それを抱えた男達がバスを回りこみ、キメラへとそれを突き立てた。フォースフィールド越しに目もくらむ火花が飛び散り、キメラが苦悶の咆哮を上げる。古代の狩りじみた戦闘だった。
「‥っざけんなああっ!」
 クレイフェルが怒りを爆発させた。止めようとするファットマンの手をすり抜け、その目に憤怒をたぎらせて、まっしぐらにキメラへと駆けてゆく。
「こんな玩具で戦ってきた、その無謀な勇気に敬意を表してはやる。だが、今は引っ込んでろ」
  口調の変わったクレイフェルは電撃槍をひったくると、箸でも持つように軽々と振り回し、尻尾の攻撃を鮮やかにかわしながら何度もそれを突き立てる。覚醒したエミタ能力者のパワーは、常人など及びもつかない世界を見せ付けていた。
「‥行きます」
 幸乃も覚醒し、頬にうっすらと緑の燐光を浮かべて肉薄する。くるりと返した手に握られたナイフは、機関砲の弾すら弾くキメラの皮膚を切り裂いた。悲鳴のオクターブがあがり、鮮血が傷から迸る。
「撃つな!」
 ユーリと千影が男達の間を駆け回り、パニックにかられて向いた銃口を叩いては逸らす。ブライアンとモーガンは、と見ると、
「ハアイ、こんばんは。動かないでね、死にたくなければ」
「動いてもいいのよ、あたしとしては。ちょっと身体が重くなるだけ」
 集団にまぎれて潜り込んでいた宙華と、電光石火で駆け寄ったV・Vに、それぞれ武器を突きつけられていた。
「っしゃあ!」
 宗太郎が覚醒の印である金髪をなびかせ、もう一体のキメラに連激を叩き込む。
「はーい下がって下がってー」
 ファットマンはサポートに徹して、男達を戦場から下がらせる。どの道今の状況では、スティール・ハウンドなど無駄なのだ。

 やがて戦闘は終わった。二体のキメラはグロテスクな塊になって、その血を乾いた大地に垂れ流していた。UPCの偵察車両はタイヤを一つ失い、へたりこんでいる。
「‥君達は‥能力者‥」
「いかにも能力者だ」
 ゆっくり覚醒を解きながら、まだ口調が戻らないクレイフェルが笑う。戦った能力者には傷一つない。自分達を牽制していた二人が離れるのを見て、ブライアンとモーガンはへたへたと地面に崩れ落ちた。
「私達はUPCからの依頼で、貴方達へ投降を促しに来ました。承諾してくれますね?」
 感情を消した瞳で見下ろしながら、ユーリが淡々と言葉を繋ぐ。モーガンは観念してあぐらをかいていたが、ブライアンは嗚咽を上げながら拳を地面に叩きつけていた。
「畜生! 畜生、畜生! 戦士が‥こんな能力者に負けるなんて‥」
「寝言は寝て言うのね。あなた達が倒したキメラは10、その度に何人死んでるの? いえ、何人犬死にさせたの、ブライアン」
 宙華が嘲笑を浮かべる。
「あたし達は15分で2、損失ゼロ。この差はおわかりよね?」
「この世界は、僕達‥僕達人間が、守るはず‥だったのに‥」
「強盗や特攻をやってか? 俺もお前も同じ人間だ、つけあがるな」
「一生懸命やった努力はいいですよ。でもね、勇気も力も使い所があるんです。UPCはあなたを殺しはしないでしょう。でないと僕達を向かわせた意味がない。爆撃機一つで片がつくんですから」
 ファットマンがかがみこみ、ブライアンと目線を合わせて諭した。
「‥」
 動かないブライアンの肩を抱いて、モーガンが呟いた。
「隊長、投降しましょう。‥終わったんです、スティール・ハウンドは」
 安堵したような空気がその場に流れた。

 かくして猟犬は檻に戻った。スティール・ハウンドの面々はまとめて再訓練を受け、辺境守備の分隊として派遣された。ブライアンは適合検査を受けた結果、能力者の適性を見出されたが施術を拒否、軍曹にまで降格され、分隊長として就役した。
 三ヶ月も経ったころ、辺境をヘルメット・ワームが急襲。ブライアンの分隊は撤退命令を無視し、市民の盾となって防衛戦を決行。報告書の結びにはこうある。

 全員、帰還せず。

 朽ちかけたホテルの一角に、灯がともったのはそれから間もないことである。
 また人は時に、物悲しい咆哮を吹きすさぶ風の中に聞いたという‥