タイトル:アラン・スミシー護送マスター:叶月アキラ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/26 17:08

●オープニング本文


「やあやあやあ、どうもどうもどうも。僕、アラン・スミシー」
 およそ軽薄という印象の、それが彼の第一声だった。
 服はだらしなく着崩れ、靴は端々が擦り切れている。斜めにつけられたUPCのIDカードが胸に無ければ、5秒とこの場所に立っていられない存在だろう。
「ん、君たちが担当なの? よろしくやってよね」
 いちいち神経を逆なでするイントネーションである。

 話は数日前に遡る。
 バグアと一進一退の攻防を繰り返しているエリアで、大気スペクトルの異常が観測された。元は露天掘りの鉄鉱石鉱山だったそこには、渓谷が数キロに渡って連なっている。既に高空からの光学観測は困難であり、地質上電波などでの調査もほぼ不可能。調査に出かけた地上部隊はヘルメットワームに遭遇、人員の半数を失う惨事となった。と、あなた達が渡された報告書にはある。
 UPCはこの事態を重視、強行偵察による現地情報の把握を決定。スペクトル異常の原因をも探るべく、急遽貨物用コンテナを改造して気密型のラボラトリを作成し、研究員を直接載せて現地へ赴かせことを決定した。
 あなた達の前にいる男、アラン・スミシーこそが、そのラボラトリを設計した男である、と紹介された。
「ま、気楽なものよ。ちょっと飛んで戻る、これだけよ、これだけ」
 何が気楽なものか。数機のナイトフォーゲルでラボを支えながら飛び、残る機体でそれを護衛する。スピードは上げられないし逃げ道はない。撃って下さいといわんばかりの体制だった。UPC内でも軍の出動に難色を示す声は多く、とうとうお鉢が依頼という形で回ってきたのだから、そのリスクはあにはからんや、だった。
 渓谷は広いところで幅30メートル、狭いところではナイトフォーゲル2機がコンテナを持つとギリギリの狭さとなる。深さは数百メートルに及び、底すれすれに飛べば身を隠す岩塊は多数存在するらしい。
 大きく湾曲していることもあり、渓谷の入口と出口はなんとかUPCの支配地域ではあるが、途中はバグアとの交戦圏に食い込んでいる。
 渓谷は一方向へ通過して構わないが、上へ抜けるとバグア側の長距離兵器に狙い撃たれる可能性がある。パトロール役のヘルメットワームも巡回しているので、渓谷を低く飛ぶしかないだろう。
 陸上のバグア戦力は確認されていない。
 音速を出すのは無理だし、ラボを考えると急加速や高機動回避も困難と思われる。無論ラボは防弾ではなく、大気サンプル回収口と出入口以外に窓などはないが、直撃を受ければ木っ端微塵だ。くれぐれもアラン博士を失うことのないように、と嫌味なほどに念を押すUPCの担当係員が、ますますあなた達を暗鬱な気分にさせた。
「で、さあ、いろいろ精密な機械を積んでるから、揺らさないで欲しいんだなあ。僕すぐ酔う方だし」
 アラン・スミシーは一人勝手にまくしたてている。状況説明を頭の中で反芻しながら、その場にいる誰もが不快なものを胃に抱えていた‥

●参加者一覧

吾妻 大和(ga0175
16歳・♂・FT
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
崎森 玲於奈(ga2010
20歳・♀・FT
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
不知火真琴(ga7201
24歳・♀・GP

●リプレイ本文

Cut.1 「Avant−title」
 陽を翼にきらめかせ、低く低く飛ぶ一団がいる。
 その数8機。4機でワイヤーをかけなんとも珍妙な形のコンテナを牽引、2機は先に出て偵察を務め、もう2機はコンテナに影を落として上空から睨みをきかせていた。
「進路クリアー、障害物ありません、って見ればわかりますよね」
 平坂 桃香(ga1831)がキャノピー越しにおどけて敬礼する。グリーン・ファットマンこと翠の肥満(ga2348)も軽く手を上げるが、その表情を伺うことはできなかった。
「上空もクリアー。目標まで15分ってところかな」
「同じく。警戒を続行します」
 続いて吾妻 大和(ga0175)と崎森 玲於奈(ga2010)の2機が軽く翼を振って挨拶する。
「いやあ、順調だねえ〜。なかなかいい乗り心地だよ」
「‥楽しそうだな博士‥」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)が呟く。彼は牽引の先頭を務めるため、排気をコンテナにぶつけないよう気を配っていた。
「こっちもOK、異常はないよ」
 レシーバーから響く、陽気な声は不知火真琴(ga7201)。
「こっちも異常はないですネ。雲もなくていい天気」
 続いて赤霧・連(ga0668)。
「こちらAbyss、順調だ」
 レフトが連ならこちらはライト側ポジションの比良坂 和泉(ga6549)。桃香と識別するためTACネームで応答していた。

Cut.2「Stand by,Action!」
「入口が見えてきましたね」
 桃香とファットマンの駆る、先行偵察のナイトフォーゲル(KV)がゆく。
「元は露天掘りの鉱山だ。鉱脈はまだ残ってるが脆い地質でな、何度も大きな事故をやってる。リスクに見合わないのと戦争で放棄されたってところだ」
「てことは派手な爆発とかやらかすと、全員生き埋めかも?」
 レシーバーから聞こえた真琴の疑問に、ホアキンが応える。
「ありうるな。さっさと抜けないと爆音が反響して危ないかもしれん」
「え〜、スペクトルを分析する時間は必要だよ。ゆっくり飛んでよね」
 博士の声はどこまでも能天気だ。
「ほむ、歩くって選択肢もありますかネ」
「難しいかもしれないな〜、今見えてるだけでも岩がごろごろしてます。コンテナを曳いてとなるとね」
 ファットマンが緩やかに機体を振って、地上の景色を眺めながら報告する。
「お荷物付きじゃ、こっちが圧倒的に不利だ。歩くのものろいしな」
 大和の言うことは正しい。
「ただでさえコンテナを飛行機で引っ張るなんて芸当をやってるんだ、無茶はできんさ。渓谷にぶつけない方が肝心だ」
 貨物用のコンテナに浮力を与えるためのヘリウム入りバルーンをくっつけ、本当に申し訳程度の整流カバーと滑空翼をつける。アランが持ってきた落書のような図面からの作業を、整備基地の連中はほとんど一晩でこなしたのだった。
「ヘリコプターじゃ君たちについてけないし、観測機材も運べない。無動力でないと観測もし辛いしね。で、コレを思いついたわけ。いいアイデアでしょ?」
「ぴんぽんぱんぽーん。当機はまもなく渓谷に突入しまーす」
 桃香の岩龍がくるっとロールをかけた後、ほとんど減速せずに渓谷へと身を躍らせた。無論ファットマンも、隙を見せずに追随する。腕と度胸が美しいマニューバだった。
「こちらレッド・リーダー、ぎりぎりまで高度を下げる。廃熱口はまだ見えない」
「あら、ファットマンさんTACネーム変えました? たしかFATTYって‥」
「いやそれはおいといて、入口すぐのところに折れたクレーンっぽいのがあるので注意してください。地上は‥まだ道路が残ってますね、砂を被ってますけど」
「こちらも突入するぞ。各機バランスに注意してくれ」
 ホアキンが操縦桿をぐっと握りなおす。
 地球に刻まれた皺のような渓谷へ、合計8機の機体が滑り込んでゆく。そびえる崖は日光を遮り、操縦者から視界を奪う。KVの能力がなければ、とてもこんな突入はできなかっただろう。
「えー、右手に見えますのが渓谷でございます。左手に見えますのも、やっぱり渓谷でございます」
「どんなのどんなの? あ〜、やっぱり窓付けときゃよかったなあ」
 連は大はしゃぎで、アランと観光ガイドごっこに興じている。
「凄い余裕だな‥」
 反対側で和泉が額に汗を滲ませて、機体と格闘しているのとは対照的だ。
「‥仕事しろ」
 玲於奈は冷めた視線を、キャノピー越しにコンテナへ突き刺していた。
 レーダーのスクリーンに時折白い影がよぎる。機体同士で交わす無線にもノイズが増えてきたのを感じ、大和が緊張した声を上げた。
「地層の影響かな、電波状況が悪くなった。各機警戒してくれ」
「こちらFATTY、敵影見えず」
「桃香です、こちらも異常なし」
「ついでにしんがりの真琴でーす、背後からの襲撃もないよ」
 渓谷の一番すぼまった部分を抜けると、急に視界が開けた。広場ともクレーターともとれるそこは、かなり広い。採掘の中心部だったらしく、大型トラックやKVでも走れそうな幅の道が、螺旋状に土壁に刻まれている。補強も施してあるため、これが崩壊を食い止めているのか、広場には意外なほど瓦礫は転がっていなかった。
「よーし、ここでしばらく観測するよ。スピードを落としてゆっくり回ってくれない?」
「へいへい。各機ギア・ダウン。失速に注意して左バンク」
 ホアキンが音頭を取り、4機のKVとコンテナが静かに弧を描く。残る4機は一段上を同じように飛び、四方八方へ知覚を伸ばして警戒を続けていた。
「‥っと、難しいですネ」
 連が軽口を叩きながら、それでも忙しく手足を駆使して機体を操る。超音速機には酷な低速機動だった。
「どうせ稜線は超えられないんだ、俺たちは一回降りて対空監視するよ」
 上空援護の大和機と玲於奈機が空いた路面へとタッチダウンし、機体を人型モードに素早く変形させて空を仰ぐ。
「うーん、レーダーがぴりっとしないなー」
 ファットマンがぼやく。鉄鉱石を含んだ地質がむき出しで周辺にある上、狭い空間で電波が輻輳を起こしているようだった。
「先に出口を見ておきましょうか?」
「その方がありがたいな、対空の射線を塞いでしまうかもしれないし。よろしく」
 玲於奈機が手を振って合図する。このあたりは人型兵器の面目躍如である。
「じゃ、見てきますねー」
 インメルマン・ターンに似た挙動を終えて、2機のKVが渓谷の一方に消えていった。

Cut.3「No Good!」
 来た道よりも渓谷はさらに狭く、険しくなる。桃香とファットマンは慎重に飛びながら、コンテナを牽引した機体が通れる幅を意識して、軌跡を記録していった。
「うわ、ここらへんギリギリだな‥しばらくまっすぐしか飛べないよ」
「本当、私も翼が当たりそうです。ここを狙われたら危ないですね」
 すでに陽は傾きはじめ、渓谷を光の帯が複雑に彩る。見晴台でもあれば歓声の上がりそうな景色だが、パイロットには苛々するものでしかなかった。
「パトロールのヘルメット・ワームが来なきゃ」
 いいけど、という言葉は続かなかった。曲がりくねった崖の隙間から、まさにそのものが現れたのだから。
「っあー!」
 思わず桃香が叫びを上げる。
「上からじゃなかったか!」
 叫びながらファットマンが機体に鞭をくれる。触れそうなほどの距離でヘルメット・ワームを掠めると、崖にスラスターの噴射を叩きつけて方向を変えた。
 一方桃香は機首を一気に上げて回避をはかる。だが機体が稜線を超えてしまった。
「!」
 第六感が警報を鳴らすと同時に、地平の彼方で光が走る。超遠距離から放たれたレーザー様のそれを、かすかに尾翼の塗装を焦がした程度でかわせたのは幸運だといえた。
「大丈夫!?」
「いけます! ちょっと尻尾が焦げただけ!」
 狭い渓谷でヘルメット・ワームは機体を持て余しているのか、それとも漫然とパトロールをしていたのか、撃ってくるそぶりは見せなかった。しかし二人にも一気にたたみかけるほどの火力は持ち合わせが無い。
「なんとか戻ろう! この狭さじゃミサイルも使えない!」
 だが飛び越えれば自然、機体は稜線を超えてしまう。補足精度の確かさから見て、次に撃たれれば焦げるではすまないだろう。
「上がだめなら‥」
「下があるっ!」
 ファットマン機がくるりと背面飛行に入った。キャノピーから見える地表の景色はあまりにも近い。曲芸そのものの壮絶な飛行だった。
 そこへ桃香機がかぶさり、アクロバットでいうバック・トゥ・バックの体制に入る。一体になった2機はヘルメット・ワームの下を通り抜け、広場へと機首を向けることに成功した。
「敵発見! ヘルメット・ワーム1機! 渓谷をそちらへ侵攻中、こちらも戻ります!」
 一方無線をキャッチした広場では、にわかに緊張が高まっていた。
「迎撃は私たちがする! コンテナを早く渓谷の外へ!」
 玲於奈機と大和機が、岩陰に陣取って体制を整える。
「こちらFATTY、敵はなおも侵攻中。僕達の後をついてくるけど、撃ってこない」
「敵の意図が読めないな‥にしてもアラン博士最優先だ、一旦離脱する!」
 ランディング・ギアを上げ、4機がバンクを打ち切って機首を元来た道に向ける。
「桃香です! 敵が加速しました! 急いで!」
 次の瞬間、翼端からうっすら雲をひいて、桃香機とファットマン機が渓谷から飛び出してきた。そのまま左右に大きくバンクを切って、広場の壁をなめるように旋回する。わずかに間をおいて現れたヘルメット・ワームが、陽を反射してぎらりと輝いた。
「撃ッ!」
 気合一声、玲於奈機のバルカン砲と大和機のガトリングが吼え、無数の弾丸が鋼鉄の嵐となってヘルメット・ワームに殺到する。だが着弾の火花こそ激しいものの、足を鈍らせる効果はないように見えた。
「ちっ、この距離で通らないか!」
「撃たないのは防御にエネルギーを集中してるから、か!?」
 歯軋りしながら、それでも2機は撃ちまくる。その奮闘を嘲笑うように、ヘルメット・ワームはコンテナが戻っていった方角へと機首を向け、ぐうっと加速していった。
「いかせるかっ!」
 ファットマン機がミサイルを放つ。それを見越しての加速だったのか、ヘルメット・ワームは惜しいところで着弾を免れた。
「あの加速じゃ追いついちゃう!」
 桃香の頬に、戦慄の汗が一筋流れた。
「私達も追いましょう!」

Cut.4「Crank up」
「‥っぷ、うえ‥も、もっとゆっくり飛んでよ、僕吐きそう‥」
「男の子でしょ、がまんがまん!」
 限界ぎりぎりまで加速して、コンテナを牽引した4機が峡谷を抜けてゆく。ピンと張ったワイヤーは何度もよじれ、いつ切れるか解らない様子だった。
「後方警戒レーダー反応! 敵接近!」
 真琴の声にも焦りが見られた。KVに後方を直接攻撃できる武器は無い。ミサイルを撃っても反転して戻ってくるタイムロスがある、慣性制御をもこなす敵がそれを正直に受けてくれるとは到底思えない。
「よし、合図したら和泉さんは壁をバルカンで撃ってくれ。でたらめでいい。破片を後へバラまくんだ。連さんはAAM。誘導を切って直にぶつけてくれ」
「了解!」
「ハイです!」
 ちょっかいをかけるようにヘルメット・ワームがビームを放つ。攻撃というよりは牽制を思わせる射撃の精度だった。
「いくぞ! 3‥2‥1、撃てっ!」
 左右のディスタンがタイミングを合わせて、渓谷の土壁へと攻撃を開始する。乾いた岩はもろもろと崩れ、AAMの爆発で吹き飛び、崩落が崩落を呼んだのか、谷間は見る間に赤茶けた煙が立ち込める世界へと姿を変えた。
「足が止まった‥引き返すか?」
 レーダーを見つめていた真琴が呟く。
「逃げるなら放っておこう。お友達を連れてくる前に退散するぞ」
 ようやく見えてきた渓谷の出口へ機首を向け、ホアキンはそっと安堵の溜息を漏らした。
 一方、追いかけてきた4人は肩透かしを食う形になった。ヘルメット・ワームは早々に高度を取り、渓谷から遠ざかるのが見て取れたからだ。
「守りに徹して損害回避か‥敵ながら、いい判断だ」
 苦笑しながら、ファットマンが肩をすくめた。
「コンテナとみなさんも健在ですね。今谷を抜けたみたい」
「私達も抜けましょう。パトロールを撃退したんだ、援軍が来るかも」
 皆に異議はなかった。4機の機体はお互いをかばうようにして、既に暗くなった渓谷を飛びぬけていった‥

Cut.5「Staff Roll」
 心配されていた追撃もなく、8機とコンテナは無事に整備基地にたどり着いた。重大な破損こそなかったものの、桃香の機体には尾翼塗装の炭化痕が痛々しい。まさに紙一重だった。
「やあやあやあ、どうもどうもどうも。皆さんお疲れ様ー」
「お疲れ様でした。成功だといいですネ」
 連が微笑む。アランは胸を張り、
「そりゃもう、ばっちり! 無事に運び終えたって」
「運び‥終えた?」
 一同の頭上に疑問符が浮かぶ。アランは気障ったらしく指を振って解説を始めた。
「説明せねばなるまい! あの渓谷の近くに倉庫があってね、そこから重要な品物を移送することになったんだ。何かは僕も知らないけどね。で、トラックが集まるのって目立つでしょ? だからパトロールを引きつけておくために、一芝居打ったんだ」
 これ僕のアイデアね、とアランは鼻高々である。
「て‥ことはだ。スペクトル異常とかも」
 ホアキンの声のトーンが一段下がる。
「あなたが分析を行う博士というのも」
 玲於奈の声が氷の冷たさを帯びる。
「もしかして、あのコンテナも」
 和泉の声に熱が混ざる。
「そう、ぜーんぶウソ! コンテナの中身はがらくたの機械だし、僕も博士じゃないよ」
 開いた両手を上げて肩をすくめる、その格好が忌々しいほど似合う男、アラン・スミシー。
「‥俺達を騙したのか」
 握り締められた大和の拳が、うっすら白くなっている。激発寸前という具合だった。
「やだなあ、敵を欺くにはまず味方からって、コーメーも言ってたじゃない」
「言ってません」
 ぴしゃっと和泉が言葉を遮った。
「騙し騙されは世の常だけど、自分が当事者になると‥ねえ」
 ファットマンの瞳が、サングラスの奥で危険な光を放った。
「うちらをもてなしてくれたアラン博士に、何かお礼をしたいわねえ」
 真琴が微笑むが、目は笑っていなかった。
「いわゆるひとつの、おしおきですネ?」
 じりっと8人の男女がアランを囲む。ようやっと場の雰囲気を読んだのか、冷や汗を流しながら後ずさりを始めた。
「ちょ、ちょっと、みんな無事だったしいいじゃない、ね、何かおごるからさ‥」
 
「大将ー、ハンガーの端でパンツ一丁になってバケツ持ってる人、誰ですか?」
「ん? ああ、新手の健康法だから触るなってよ。それより機体の洗浄始めるぞ、ったくインテークの奥までジャリジャリじゃねえか‥最悪エンジン降ろすか」
 哀れな道化を打ち捨てて、整備基地の夜は忙しく更けていった。

−END−