タイトル:スペランカー作戦マスター:叶月アキラ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/06 01:05

●オープニング本文


 ショッピングセンターを利用したUPCの訓練施設、「モール・ネスト」。だがそこは潜り込んだキメラアントが巣くう、危険な施設へと変貌を遂げていた。
 接敵した能力者の奮戦により、ひとまずの脅威は去った。しかしモール・ネストの地下にはかつてこの地域を賄っていた下水処理施設が存在しており、キメラアントはそこを根城にしているであろうことも容易に推測できた。
 先だっての報告により、確認されているのは「スクワッドアント(分隊蟻)」とでもいうべきキメラアントの亜種。リーダー格のキメラアントを擁し、統率された動きを持つ、侮れない存在である。
 UPCは施設を空爆により殲滅することを決定したが、新たなる脅威であるスクワッドアントの情報も欲しい。そこであなたたちへの依頼は、空爆までの間に地下の処理場へ赴き、可能な限りスクワッドアントのサンプルを持ち帰るというものだ。無論サンプルの生死は問わない。
 だがあなたたちが定刻までに地上へ戻り、待機している回収車両に乗り込まない場合でも、空爆は強制的に実行されてしまう。
 かくしてあなたたちは急ごしらえの洞窟探検家(=スペランカー)に扮し、依頼を遂行せねばならない。
 幸運を祈る。

 ‥なお、本作戦は当初「ケイブダイバーズ作戦」と呼称されていたが、稟議通過の際に現在の呼称となったことを、蛇足ではあるが記しておく。

●参加者一覧

愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
真神 夏葵(ga7063
15歳・♂・SN
パティ・グラハム(ga7167
14歳・♀・ST
ルフト・サンドマン(ga7712
38歳・♂・FT
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL

●リプレイ本文

[残時間 11:58:00]
 ゴウンと身を揺すると、リフトゆっくり動きはじめた。
「地下迷宮へご案内、というところかな‥」
 カルマ・シュタット(ga6302)が呟く。トラックも載せられそうなリフトだが、8人乗るとさすがに狭い。ぽつぽつと保安灯がともってはいるが、先を照らすには至らない。
 錆色のリフトは奈落のような空間を、じれったいほどゆっくりと降りていった。

[残時間 11:33:30]
「時間合わせます。3‥2‥1、マーク」
 井出 一真(ga6977)が指図して、皆がウオッチの針を揃える。既に残り時間は12時間を切っていた。タイムリミットが来れば無慈悲な空爆が全てを焼き尽くす。そこに誰がいようと、だ。万が一にも遅刻は許されなかった。
「下水処理場って割には臭くねえなあ」
 真神 夏葵(ga7063)がライトを灯し、光軸を闇に向けて一人ごちた。
「上の街もみんな避難しましたから、下水処理がないのかも」
 パティ・グラハム(ga7167)がその光で見取り図を眺め、方向を確認する。
「汚れんに越したことはないからのう。さて、蟻の帝国へ殴りこみじゃ」
 ルフト・サンドマン(ga7712)は歯を剥き出しにして笑うと、刀を軽々と振り回した。
「床一面蟻だらけ、ってのは御免だな」
「ほんとだニャ。あたり全部わさわさというのはぞっとするニャ」
 愛輝(ga3159)とアヤカ(ga4624)はお互いにルベウスの点検を終え頷いた。
「無線機のチェック、終わりましたよー。はい、はい、はいっと」
 聖・綾乃(ga7770)が微笑みながら、煙草箱ほどのトランシーバーを配ってまわる。
「ちゃっちいなあ。こんなので役立つのか?」
「無いよりはマシさ」
 カルマは自分でも作動を確認すると、ポケットへそれを納めた。
「それじゃ行きますか」
「おう、先頭はわしがやろう。不意打ちにあっても盾くらいにはなるしな」
 ルフトが下段に刀を構えて、リフトから下水処理場の中心へと向かうトンネルへ向け、一行を従えて歩き始めた。トンネルの左右に設けられた歩道は、大人一人まっすぐ立って歩くのが精一杯の広さだ。空気は澱み、どことなく饐えた臭いをはらんでいた。

[残時間 10:50:16]
 数百メートルも歩いたころだろうか、闇の中でも急に空間が開けたのが感じられた。ライトの光に、錆びた手すりや機械が浮かび上がる。キラキラと輝いて異彩を放っているのはステンレスの薬剤タンクだろう。
「ここからはチーム事だな。俺・パティさん・夏葵くん・一真くんか。よろしく」
 カルマが便宜上仕切ることとなり、Aチーム。
「まあ指揮官って柄でもないがの、愛輝くん、アヤカさん、聖さんか。頼むぞ」
 対してルフト側はBチームとなった。
「基本的に壁から離れずに探索。図面通りなら、一番奥の区画で落ち合えるはずです。そこから真っ直ぐにここへ戻るか、ジグザグで探索していくかはサンプルの回収次第かな」
「うむ、多く集められればいいが、欲張っても仕方あるまい。兵隊蟻と指揮官蟻はセットで押さえたいがの」
「一匹一匹は弱くても、チームで来ると手強いよ。みんなも用心してニャ」
「ですね。囮を使ってくるとか、なかなか狡猾です」
 戦闘経験のあるアヤカと一真が、眉をひそめて皆に警告した。
「‥やっぱり敵も進化してるんでしょうか」
 不安げな表情を聖が浮かべる。
「バグアも、キメラも、人類には情報が少なすぎる。今回のサンプル回収が、糸口になればいいがの」
「そういうこと。んじゃ、行こうぜ!こんな辛気臭い所、さっさと出たいしな」
 元気よく夏葵達が出発し、その背中がすぐ闇にまぎれて消えた。
「俺たちも出発しよう。ぐずぐずしてたら丸焼きだ」
 カルマが残ったメンバーを見回し、出発を促した。

[残時間 8:47:41]
 闇が、厚い壁になって立ちはだかっていた。ライトの光はその壁に小さな穴をうがつだけ。横を向いても、一緒に歩いているはずの仲間の顔すらよく見えないほどの闇だった。時折足を取る瓦礫は落盤したものだろう。中には鉄筋を剥き出しにしたままのコンクリ片もあり、施設の劣化が相当進んでいることを物語っていた。
「気をつけろよ。あいつら、こういう所で不意打ちしてくる」
 経験のある夏葵が声に緊張を滲ませる。着ている服の裾をパティがぎゅっと握っていたが、それをあやすように手を重ねてやったりもした。
「なんだか壁もぬるぬるしてます〜」
 パティが不安な声をあげる
「しかし下水がないのは幸いだな。処理の途中で止まったら、今頃ここはメタンやら硫化水素の渦巻く地獄だ、とても人の入れるところじゃない」
「それを取り込んで毒を持ったりしたら、恐い相手ですよね」
 カルマの見解に一真が頷いた。
 カンカンと音を立てて、一行は網模様の鉄板で組まれた足場や通路を巡り歩く。だが襲撃はおろか怪しい物音ひとつ聞こえない。
「‥静かすぎる。まるでこう‥誘い」
 こまれてるような、と夏葵が言葉を続けようとしたとき、
「きゃあ!」
 素っ頓狂な悲鳴を上げて、パティが転んだ。裾を引っ張られた夏葵も体制を崩す。
「何やってんだ!」
「ご、ごめんなさい夏様〜。床が滑って」
「しっ!」
 カルマが唇に指をあてて会話を遮った。
「何か気配がする‥」
 一同に緊張が走った。パティを囲むように背中を合わせ、闇へ感覚を走らせる。
 一分‥二分‥三分‥じりじりと時間が過ぎ、五分を回ろうかという時になり、ようやく一同が緊張を解いた。
「ふっ、俺としたことが見込み違いか?」
 苦笑したカルマが、おどけたようにライトを振り回し、四方八方を照らして見せた。そして白い光の筒が天井を照らした時。
 ぎっしりと居並んだキメラアントが、光を身体に反射させていた。
「‥!」
 一真が思わず息を呑む。カルマも気圧されたのか動かない。
「逃げろーっ!」
 夏葵が叫びざま、パティを抱き上げて駆け出した。残る二人も身をよじり、脱兎のごとく駆け出して合流する。
「くそっ、待ち伏せか!」
「数が多すぎる! パティ、連絡だ!」
「はっ、はい!」
 抱きかかえられたまま、あたふたとパティが無線機を取り出した。ボリュームをいっぱいにして、マイクへとよびかける。
「もしもし、もしもしっ! 応答してください!」

[残時間 08:18:03]
「聞こえますか! 応答してください!」
 腰の無線機から響く声を耳にとめながら、走る足を緩めずにルフトは苦笑した。
「どうやら、あちらも遭遇したようだの」
「ちょっと‥面倒だニャ」
 アヤカが息を弾ませながら、無線機を手に取り応答した。
「こちらアヤカ。どうしたの?」
「て、敵が、蟻が、いっぱい! いっぱいいるんです天井に!」
 落ち着けパティ、と少し遠い声は夏葵だろう。ノイズの中から奇妙な掛け合いが聞こえた。
 こちらの事態は夏葵達よりずっと深刻だった。配管が迷路のように入り組んだ場所でキメラアントと遭遇し、有利な位置を探しつつプラントの中を走り回らされているのだ。
 限られた光での視界に未知の空間、待ち伏せする敵。それは一行に消耗を強いていた。
「この‥ぅ!」
 愛輝のルベウスが唸り、綺麗に両断されたキメラアントが嫌な臭いの体液を撒き散らしながら床に落ちる。サンプルとして回収する余裕はなかった。
「これで15‥いや16匹か‥もうどうでもいいな」
 愛輝の息が荒い。目に見えて集中力が落ちてきていた。
「ルフトじゃ。嬢ちゃん今どこに?」
「え、ええと、ええっと‥」
 うろたえるパティの声に、落ち着いた声が割り込んだ。
「カルマです。おそらく中央へ向かって走ってます、タンクが多く見えるな」
「見取り図には中央に大きな処理プールがあった。そこなら視界も開けるし合流して迎撃じゃな」
「心得た」
「まだ追いつかれていねーけど、数がヤバいぜ! おっさん達も気をつけてな!」
 無線はそれきり切れた。邪魔なパイプを飛び越えざま、
「もらったあ!」
 今度はアヤカのルベウスが一閃、数匹を叩き斬る。体液が飛び散り、金属のパイプに当たるとわずかな白煙を上げた。
「合流してもこちらは8人、敵は多数。さあて、どう戦おうかのう?」
 文字通りの修羅場ではあるが、なぜかルフトは楽しそうだった。

[残時間 07:06:55]
「どけどけどけえ!」
 夏葵のアサルトライフルが吼え、床に着弾の火花を上げる。回り込んできたキメラアントを蹴散らして、4人はようやく処理プールの端にたどり着いた。水泳ならたっぷり8つはレーンが取れるその対岸には、手を振っているアヤカ達がいた。
「おーい!」
 プールには十字を組むように通路が渡っている。その中心には円形のポンプ塔がそびえ立っており、重要施設なのだろう、ぐるりを保安灯が取り巻いていた。そこへ通路を走り抜けた8人が合流する。
「みんな無事か!」
 カルマの声にめいめいが手を上げて応えるが、疲労は隠しようもない。服にはキメラアントの体液が点々と染みを作っていた。
「も、もう走れない〜」
 パティが青い顔をしてへたりこむ。とっさに肩を貸した綾乃も、その体躯をささえきれずによろめいた。
「ちょっと休んでろ。なんとか手を考える」
 その間にも、プールの周辺にはキメラアントが続々と集結していた。ほとんど等間隔で指揮官アントが並び、前と同じに立てた尾節を振っている。だが一匹として通路を渡ってくることはなかった。
「なぜ、やつらは襲ってこんのかのう?」
「うん、あたしもそう思うニャ。何かこの下にあるのかな?」
 ライトがプールの底へと向けられ、浮かび上がった光景は皆の度肝を抜いた。
「う‥!」
 愛輝と一真が揃って絶句する。プールには浅くだが液体が満たされており、白い繭が無数に浸されていた。栄養を供給しているのか、繭からは白いケーブルのようなものが延びている。それは太い束になり、光の届かない場所へとつながっていた。
「蟻塚みたいなものか‥だから攻撃してこない、いや来れない」
「だろうな。あの端っこには女王蟻みてーなやつがいるのかもしれないぜ」
「とはいえ、不利は変わりないのう。あと8時間ちょい粘れば奴らの勝ちじゃて」
 万事休すだった。出口への道を埋め尽くすキメラアント。そしてルフトの指摘するとおり、空爆は時間通りに実行されるだろう。地上への連絡がとれない以上、救援も望めない。重火器もないこの状態では、手詰まりというのが皆の正直な感情だった。
「あの繭を人質にして脱出できませんかね?」
「難しいんじゃないかな。奴らが来ないのは、ここを傷つけたくないからだろう。それを平気で傷つける相手と見れば、一斉に襲い掛かってくるかもしれない」
「あーあ、サンプルは取れない上時間が来れば蒸し焼きかよ」
 夏葵がなげやりな口調でポンプ塔の外板を蹴った。
「サンプルならどさくさに拾っておいたぞ。じゃが持って帰れんとなあ」
 ルフトが差し出した袋の中には、数匹分の死骸が詰まっていた。
「あの‥」
 柔らかい声が上がり、一斉に向いた視線の先にはパティがいた。
「ここ、あちこちに鉄板を敷いてますよね、この通路も鉄だし」
「何か気になるのか?」
 パティはやや逡巡したが、それでも視線を前向けて言葉を続けた。
「私の持ってるスパークマシンで、それに電気を流したら‥蟻さんびっくりして、動きがちょっとの間止まるかもしれません」
「なるほど‥だがパワーが足りるかな?」
 カルマが顎に手を当てて考えていたが、頷いた。
「待てよ、保安灯があるってことはここまで電気が来てる証拠だ。その電源ケーブルも使えば、足しになるかも」
「お、それいいな! そうと決まればやろうぜ、イチかバチかだ!」
 空気が一気に明るくなった。身軽な夏葵がポンプによじ登り、探り当てたケーブルをルフトが床すれすれまで引きずり出す。火花を散らさないようケーブルを切断するのも、全員の武器からすれば容易いことだ。保安灯が消えた中、ライトの光があやふやに周囲を照らす中で、乾坤一擲の準備は着々と進んでいった。

[残時間 05:48:11]
「よーし、カウントダウン行くぞ。目がくらむから火花は見るなよ」
「こっちも準備いいニャ」
 足元がシューズで絶縁に不安のあるアヤカとパティは、それぞれルフトとカルマに肩車をする形で準備を終えた。
「3‥2‥1‥ゼロ!」
 その声と同時にケーブルが床に落ち、スパークマシンが起動した。強烈なスパーク光が世界を青白く染めるが、全員がそれには目もくれず出口へ駆け出す。電撃を受け止めたポンプ塔は制御盤を爆発させ、クリスマスツリーのように輝いていたが誰も見てはいなかった。
「数に頼んで来る愚かさを、思い知るがいい!」
 覚醒した綾乃が斬り、踏みにじり、また斬りつける。いつもの柔和さなど微塵もない、まさに修羅の戦いぶりだった。
「おっと、負けちゃいられないな!」
 めいめいがそれぞれ得物を奮い、あるいは射すえて、電撃で動きの鈍ったキメラアントの群へと食い込んでゆく。天井から奇襲する個体の迎撃はアヤカが引き受けた。
「あたしの頭上を取るなんて、200年ほど早いニャ!」
 パティは通りざまの配管や金網に触れるたび、スパークマシンで電撃を送り込む。蚯蚓のような雷光が地を這い、キメラアントが跳ね回っていた。

[残時間 03:27:37]
 故障したらしいリフトを見限り、側面の点検用梯子を昇って、一行は息も絶え絶え地上にたどり着いた。回収用車両に乗り込み、ひたすらに現場を離れる。スピーカーからは忙しく無線のやりとりが聞こえてきた。
「こちらクローク・リーダー、ブロッサム・ワンへ。客人はお帰りだ」
「こちらブロッサム・ワン。了解した、定刻より早いが花束をお届けする」

[残時間 00:00:00]
 それは美しいともいえる破壊の光景だった。放たれた無数の爆弾やミサイルが、モール・ネストとその地下を炎と爆煙で埋葬してゆく。
「きっと平和なときは、笑い声の絶えないところだったでしょうね‥」
 避難した小高い丘の上で、車にもたれて綾乃がそっと涙をぬぐった。
「じゃがキメラアントの拡散は食い止めた。そう信じよう、嬢ちゃん」
 厳しい表情で腕を組んだまま、声は優しくルフトが諭す。
「そうだよな‥世界中をあんなにするわけにゃいかないんだ」
 吹き渡ってくる熱風を肌に感じながら、夏葵が拳を握った。
「でもそんな日が、本当に来るんでょうか?」
 一真にルフトが拳を差し出した。
「来るともさ。いや、勝ち取るんじゃよ、この手でな」
 アヤカとカルマ、そして愛輝も頷いた。
 夜に咲いた巨大な炎の花は、いつ果てるともなく輝き続けていた。