タイトル:下水のキメラ駆除マスター:神威七瀬

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/14 21:25

●オープニング本文


「またですか‥‥」

 額を流れ落ちる汗を拭いながら警察風の男は溜め息を吐く。傍に居る同僚も疲れきった顔を顰める。
 下水関連の施設での行方不明者、今週に入って2件目、今月に入って5件目となる事件だ。
 電話の向うから聞えてくる女性の声は混乱しきっておりそれをなだめる事にどちらかと言うと多くの労力を注ぐ様にする。今もって調査中ではあるが、行方不明者の足取りはまるで掴めていない。そして、このまま未解決事件として忘れられ行くのだろうと、少しその男は思っていた。

「はい、それで最後に立ち寄った場所は?‥‥区の‥‥辺りですね、はい‥‥はい‥‥」

 気の無い返事をしながらメモを取る。
 それと同時にもう一つの電話が鳴り出す。もう一人に電話を取るように促し、続きの言葉を聞く。支離滅裂で聞き取り難い、行方不明の人物とそれほど親しい仲であったのか‥‥

「はい‥‥‥‥大量の血痕と死体!?」

 その言葉が引き金となり、停滞していた空気が動き出す。

「場所は!?‥‥落ち着いてくださいっ」

 メモを取る手は素早く動き、黒い文字が白い紙を埋め尽くして行くのだった。

***

「下水に住み着いてると目されているキメラの掃討、それが今回の任務ですね。どうしてもっと早く此方に回さなかったのでしょうね、まったく。それではさくっと解決してきてください」

 下水と言う場所に様々なイメージを抱きつつ、能力者は下水へと向かうのだった‥‥

●参加者一覧

佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
ルイス・ウェイン(ga6973
18歳・♂・PN
使人風棄(ga9514
20歳・♂・GP
筋肉 竜骨(gb0353
24歳・♂・DF
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
神崎 葵(gb1457
17歳・♀・DF

●リプレイ本文

 下水に入った途端に何とも言えない異臭が襲って来た。入り口に近いが故に未だ自然の光が一行を祝福してくれてはいる。

「飯、食う気もうせるほどの匂いだぜ」
「さて‥‥ちゃっちゃと片付けるか‥‥。服に匂いが残るとあれだし、な‥‥」
「一週間もすれば消えるよ。全く問題無い。」

 筋肉 竜骨(gb0353)、ルイス・ウェイン(ga6973)、佐竹 優理(ga4607)とが次々に呟きながら目の前に広がっている暗黒の穴へと足を踏むこんで行く。

「では、ここからは別行動、という事で良いですね」

 辰巳 空(ga4698)が懐中電灯で二方向に分かれた道を照らしながら口を開く。

「ブリーフィングの通り、それで構わないでしょう」

 空の言葉に対して言葉を返すのは神崎 葵(gb1457)だ。
 四人ずつの二班に別れ下水の奥に進んで行く能力者達。

「慌てて動いて滑って下水に落ちない様に〜、つるつるっ、と滑るからねぇ」

 空達とは反対側の方向に向かっていった班の姿が見えなくなる直前に優理がそう言うちょっとした助言を残し、互いに互いの生存が確認出来る方法はトランシーバーだけになってしまった。

***

「こんな所で殺されてしまうなんて‥‥無念だったでしょうに」

 アセット・アナスタシア(gb0694)は握った拳に力を込めながらそう呟く。

「僕もそう思う、だから僕達が殺されちゃった人達の無念を晴らさないと‥‥」

 アセットの言葉を聞いたファイナ(gb1342)そう返し、懐中電灯を握る手に力を込める。
 その言葉をBGMに目を閉じてゆっくりと歩くのは使人風棄(ga9514)。明かりも持たず周囲に気を配っているようにも見えないが四人の中では一番外側を歩き、水辺からの攻撃があった場合には僅かな体裁きでアセットとファイナを庇える様な絶妙な位置取りをしている。

「しかし‥‥」

 手にしたトランシーバーに一瞬だけ視線を落として空が言葉を紡ぐ。

「一体どう言った形状のキメラでしょうか? 下水に住み着き牙と爪を持つ強力な物と成る‥‥」

 其処で言葉が一旦途切れるが続きを繋げる前に風棄は涼やかな声で言葉を紡ぐ。

「関係ないですよ、敵が何であったって壊すだけですから」

 その言葉を聞いてからファイナが口を開く。

「風棄さんの言う通り、敵がどんなのかって言うのはそれほど重要じゃ無いと思います。それが人に危害を与えた『敵』だって言うのが重要なんだと、思います」

 真剣な眼差しで空を見つめながらそんな言葉を口にする。
 それを聞いた空は一瞬だけ考えてみてから口を開く。

「そうですね、敵がどんな輩であろうと打ち倒さなければならないのが今の私達の立場ですね」

 そして小さく頷く。
 その様子を見てアセットはファイナに向かって頷き見せ、ファイナも頷きを返す。
 一向はそのまま懐中電灯の明かりと共に下水の奥に向かっていくのだった。

***

「下水道関係の仕事してる人ってやっぱり週休3日なのかねぇ?‥‥げっすいどうが休み‥‥あっはっは」

 手にした棒で水の中を叩きながら歩む優理は軽口を叩きながら進む。

「何だよそりゃぁ」

 その優理の軽口に突っ込みをいれながら竜骨は辺りを見渡す。

「いやぁ、緊張を解そうと思ってね」

 等と他愛の無い会話をしながらも一向は慎重に進んで行く。

「見当たらんな、まぁ、入ってそんなに時間も立っていないしな」

 手の中でトランシーバーを回しながらルイスは呟く。そしてそのまま振り返り丁度天井側を見ていた葵に声をかける。葵は天井から視線を外し一旦首を横に振り、優理が叩く水面の方を注視し口を開こうとした。
 だがその口から漏れた言葉は恐らく本来の意図とは外れた物だろう、彼女の言葉とほぼ同時に優理は手にしていた棒を放す。

「キメラ‥‥!!」

 葵の言葉とほぼ同時に汚水を掻き分けて巨大なワニの頭部が空に放された棒を噛み砕く。

「出やがったか!!」

 舌打ちをしながら叫ぶルイス。それと同時に覚醒を行なう一同。

「おうらぁっ!!」

 竜骨の槍が素早く煌きワニの頭部に傷を作る。それだけでは怯まないワニはその前肢にある鋭く巨大な爪を振るう。

「ワニにはそんなもん普通はついて無いでしょ」

 優理は手にした蛍火でその攻撃を受け流そうと試みるが、そのパワーに少しだけ体勢を崩し足に傷を負う。

「さっさと斬られて私たちをここから帰らせて」
「いっくよー!!」

 半分以上水辺から身を乗り出した形になったワニに葵の蛍火とルイスのゼロが襲い掛かる。それを避ける様な超反応を見せる事は流石に出来ずにワニはまともにその攻撃を受ける。低い呻き声を上げるが逃げる様な素振りは見せず、爪と牙での攻撃を再度試みる。だがそれよりも早く竜骨の二度目の攻撃が頭を穿ち、ワニの動きは止まる。

「これで一匹か?」

 竜骨が槍を抜きながらそう呟くと同時に、ワニの体が何かに引っ張られる様な勢いで水中に引き込まれそのまま汚水の中を高速で移動し始める。

「何だ!?」

 その光景に一瞬気を取られたが、だがあくまで冷静に、その後を追う事を選択する能力者達。

「キメラを見たけど、水の中をかっ飛ぶ様な勢いで移動中。合流お願いします!!」

 無論覚醒を解く間も無く、トランシーバーに連絡を入れ、四人は走り出すのだった。

***

 二つの班は移動途中で合流し、そのまま水中を引っ張られる様に移動するワニを追いかける一同。暫く走った所で幾つかの道が交差するポイントに辿り着いたのだが、其処でおぞましい物を目にする事と成る。

「恐竜の方が『マシ』だったかも知れませんね」

 空は誰に言うでも無くそう呟く。
 空間一杯に広がった白い肉塊から生えた無数のワニの体。グロテスクな物と言えばそうだろう、其処にある無数の目が能力者達に向けられる。

「また‥‥偉く気持ちの悪いキメラも居たもんだ‥‥」

 蛍火を構えながら優理は呟く。
 コンユンクシオを構えながら両の目が赤く変わり一歩前に出るアセット。

「一刀で切り捨てる‥‥」
「さぁ、綺麗に壊してあげますよ」

 アセットの言葉に合わせて、禍々しい笑みをを浮かべる風棄。

「さっさと終わらせるぜ」

 そう言って槍を構え直す竜骨。
 同時に繰り出されるのは無数のワニの牙、牙、牙

「‥‥対象補足、スパーク流出開始‥‥」

 攻撃にあわせスパークマシンを起動させ電撃をキメラに向けて放つ。
 一つのワニは黒焦げになるがそれだけだ、動きを止めるには至らない。

 赤い光を撒き散らし、真紅を髪を大きく靡かせある牙は避け、ある牙をその身に受けながらも冷静に攻撃を繰り出す葵。

「気持ち悪い、って!!」

 圧倒的に素早い動き、疾風脚、によって攻撃を避けつつ一気に本体と思われる肉塊に取り付きゼロを叩き込むルイス。
 だがそれとほぼ同時に肉塊の背中側から伸びてきたワニの牙に晒されるルイス。
 気が付いた時には既に遅い、百を越える牙の洗礼をその身に受け倒れる‥‥事にはならない。
 踏み込んで来た風棄の素早い攻撃にとアセットのソニックブームによりルイスに直撃コースであった幾つかのワニが吹き飛ばされたからだ。それでも幾つかの牙を身に受けルイスと踏み込んできた風棄は幾つかの傷を負う。
 だがその瞬間を攻撃のチャンスと踏んだ優理と空の全力の攻撃が繰り出されまた幾つかのワニが吹き散らされる。
 それでもまだ動きを止めないキメラに対し竜骨と葵がそれぞれ逆の方向の側面に回りこみ重い一撃を見舞う。流石にこれだけの攻撃を受けて応えたのか一瞬全てのワニが動きを止める。
 その瞬間を見過ごさず接敵しているルイスと風棄も全力での攻撃を叩きつける。肉が裂け異臭があたりに立ち込める。
 ワニが悶え、幾つかは辺りを無茶苦茶に爪と牙で薙ぎ払う。

「剣は一撃必殺‥‥二の振りは考えるな‥‥!」

 アセットのその呟きは静かにその場に響いた。
 一瞬だけ自らの後方にいるファイナに視線を向け大上段に構え突撃する。向かってくる敵に気が付いたワニはその鋭い牙をアセットに向ける、だがその牙はアセットに届く前にファイナの放った電撃により破壊される。

 短い気合の後に放たれた一撃は深々とキメラに突き刺さり、そのまま一気に切り裂きてしまう。
 ワニ達は短い悲鳴の様な物をあげ一気に力なく項垂れそのまま汚水に落ち大量の汚水を巻き上げ一同は汚水を頭から被る事になる。

「お風呂を沸かして置いて良かったよ‥‥」

 汚水まみれにながらも何とかキメラを撃退した一行は悪臭に耐えながらそれぞれ何とか下水を後にするのであった。